事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第17回】 「有価証券評価損の税務上の取扱いと事業承継」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕 相談内容 私Gは60歳の会社経営者です。食品加工業Y社を経営し、100%の株式を保有しています。Y社は取引強化のために取引先の上場会社株式を複数社保有していますが、新型コロナウイルスによる経済の混乱により、株価が大幅に下落しました。 また、当社には飲食業を行う子会社Z(Y社が90%株式を保有)がありますが、年明け以降の外国人観光客の減少、さらには外出自粛の影響を受け、大幅な赤字となり、債務超過となってしまいました。Y社の決算期は5月、Z社は3月決算であり、Y社の2020年5月期の決算において、以下の通り、特別損失として有価証券評価損を計上しようと考えています。 ところで、会計において有価証券評価損を計上した時、法人税において損金算入することはできるのでしょうか。法人税法では、評価損は損金として認められないと聞いたことがあります。また、子会社株式も法人税法上の損金とすることは可能でしょうか。 今後も大変厳しい経済状況が続くと想定していますので、法に則った範囲で税金を抑えられればと考えています。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ 法人税法は資産の評価損の計上を原則として認めていませんが、例外として資産に著しい損傷や政令で定める事実が生じた場合に、その損金経理した金額を損金算入することを認めています(法法33②)。 有価証券の評価損は法令68①二に定められていますが、「有価証券の価額が著しく低下したこと」と抽象的な表現となっているため、具体的な判定基準は法基通9-1-7、9-1-9等に定められています。 [1] 上場有価証券の評価損 上場有価証券の「著しい価額の低下」とは、以下2点に該当するものをいいます(法基通9-1-7)。 平成21年より以前は、上記②の「近い将来その価額の回復が見込まれないこと」をどのように判断するかについて実務上の判断指針がなく、有価証券の評価損を損金とすることに躊躇する実務家も多くいました。しかし、平成21年に国税庁が「上場有価証券の評価損に関するQ&A」を公表したことにより、その判断基準が明確になりました。 そのQ&Aには、「法人の側から過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上はその判断基準を尊重する」とあります([Q1]の[解説](3))。 したがって、今回の事例ではA社とC社が上記①に該当しますので、各社毎にその回復可能性を法人が判断して、損金算入するかどうかを判定します。 法人自らが判断することが困難な場合は、証券アナリストによる個別銘柄別・業種別分析等や株式発行法人に関する企業情報など、第三者による根拠の提示も合理的な判断とされています。 [2] 上場有価証券等以外の有価証券評価損 非上場有価証券の評価損を計上できる事実としては、その会社の1株当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の1株当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったことが挙げられています(法令68①二ロ、法基通9-1-9(2))。 そして、その判定については、上場有価証券の著しい価額の低下の判定を示した法基通9-1-7を準用することになっています(法基通9-1-11)。 今回の事例において、Z社は債務超過になっていることから、1株当たりの純資産額が取得価額の50%以上を下回っています。次に、当該非上場有価証券の回復可能性の判定ですが、「近い将来その価額の回復する見込みがないこと」を合理的に説明できるようにしておく必要があります。 現状は戦後以来、最悪といわれる経済的な混乱の中にあり、私見ではありますが、例えば、以下のような点を説明すれば、「近い将来その価額の回復する見込みがない」に該当すると考えます。 [3] 結論 ご質問のY社の法人税の申告において、評価損を損金にすることができる可能性があるのは、A社、C社、Z社となります。損金処理する場合は、将来の税務調査に備えて「近い将来その価額の回復する見込みがない」と判断した証拠を残しておきましょう。 コロナウイルスによる世界中の経済が混乱する中、経営者は会社、取引先、従業員を守るため、資金繰り等様々な対策を打っていることと推察します。その対策の1つとして、法人税においても損金算入できるものがあるかどうか積極的に検討すべきです。 そして、この混乱が落ち着いたときに、一度会社の株価の試算を顧問税理士に依頼してください。今後、類似業種比準価額の3種類の比較要素や不動産の価格調整により、以前よりは会社の株価が下がる可能性があるため、後継者への株式移転の好機となり得ます。 実際の手続きに際しては、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第59回】 「オデコ大陸棚事件」 ~東京高判昭和59年3月14日(行政事件裁判例集35巻3号231頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第2回】 「減損って、どの減損ですか?」 公認会計士 阿部 光成 ◆はじめに 公認会計士業務を行っていると、「減損について教えていただけますでしょうか」と質問されることが多い。 その際、筆者は、「どの減損についてのご質問でしょうか」と聞き返すのであるが、質問相手がきょとんとされることがある。 なぜなら、「減損」の用語は次の会計基準等において使用されており、どの「減損」の質問かによって回答が変わってくるからである。 本連載「〈会計基準等を読むための〉コトバの探求」は、会計にまつわる「用語(ことば)」に重点を置き、会計基準等をよりよく理解するために解説するものである。 今回は「減損」の用語を取り上げた。 ◆固定資産の減損 「減損」と聞いて、多くの方がイメージするのは、おそらく、「固定資産の減損」であろう。 「固定資産の減損」とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理である(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(企業会計審議会)三、3)。 「固定資産の減損」は、減損の兆候、減損損失の認識の判定及び減損損失の測定という一連のプロセスであり、次の特徴をあげることができる(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」三、1)。 ◆有価証券の減損 「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)は、「有価証券の減損処理」として、「時価のある有価証券の減損処理」と「市場価格のない株式等の減損処理」を規定している。 「時価のある有価証券の減損処理」とは、有価証券の時価が著しく下落したときに、回復する見込みがあると認められる場合を除いて、当該時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失として処理する方法である(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)20項、金融商品実務指針91項)。 また、「市場価格のない株式等の減損処理」とは、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理する方法である(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)21項、金融商品実務指針92項)。 このように、有価証券の減損処理は、評価差額を当期の損失として処理する方法であり、かつて、「強制評価減」と称されていた方法である(金融商品実務指針283-2項)。 金融商品実務指針における「減損」は、強制評価と区別するために、評価差額が純損益に計上される売買目的有価証券以外の有価証券に係る時価又は実質価額の著しい下落に伴って、当該時価又は実質価額を翌期首の取得原価とするために、取得原価を強制的に切下処理し、当該切下額を当期の損失として認識すべき場合を指す用語として用いている(金融商品実務指針283-2項)。 ◆原価計算における減損 原価計算における「減損」とは、製品の加工中に、原材料が蒸発、粉散、ガス化、煙火などによって消失するか、あるいは製品化しない無価値の原材料部分の発生のことである(「原価計算基準」27、岡本清『原価計算(六訂版)』(国元書房、2000年4月)288ページ)。 原料の減損の処理は、仕損に準ずるとされている(「原価計算基準」27)。 ◆減損に関する質問のために 上記のように、会計基準等では、「減損」の用語(ことば)の意味が異なるので、ご質問する場合には、なのか、なのか、それともなのかについて、言葉を省略せずに、お伝えいただくのがよいと思う。 (了)
税効果会計を学ぶ 【第4回】 「連結財務諸表固有の一時差異」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 「一時差異」は、連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額をいい、個別財務諸表において生じる一時差異を「財務諸表上の一時差異」という(税効果適用指針4項(3)、(4))。 【第3回】では、この「財務諸表上の一時差異」について解説したが、今回は、「連結財務諸表固有の一時差異」について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 連結財務諸表固有の一時差異 「連結財務諸表固有の一時差異」とは、連結決算手続の結果として生じる一時差異のことをいい、課税所得計算には関係しないものである(税効果適用指針4項(5))。 「連結財務諸表固有の一時差異」は、「連結財務諸表固有の将来減算一時差異」又は「連結財務諸表固有の将来加算一時差異」に分類される。それぞれの定義は次のとおりである(税効果適用指針4項(5))。 税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額の相違に着目して会計処理する手続であるが(税効果適用指針6項)、「連結財務諸表固有の一時差異」を理解するうえでは、連結財務諸表と個別財務諸表との関係に注意する必要がある。 Ⅲ 連結財務諸表固有の一時差異の例示 連結財務諸表固有の一時差異の例示は次のとおりである。なお、非支配株主持分は、連結財務諸表固有の一時差異に該当しない(税効果適用指針86項、87項)。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第2回】 「ハラスメント事件の発覚から終結に至るまでの鳥瞰図」 弁護士 柳田 忍 本稿においては、ハラスメント事件の発覚から初期対応、事実調査、事後対応及び紛争といった一連の経緯を鳥瞰する。各段階における具体的な留意点については次稿以降で述べるものとする。 1 ハラスメント事件の発覚 ハラスメント事件は、ハラスメントの被害者自身又はハラスメントの目撃者等の第三者による会社に対する申告等の働きかけにより発覚に至る。 被害者経由でハラスメントが発覚する場合、被害者から上司への申告や、法務部、人事部、相談窓口などへのコンタクトなどのルートがある。また、被害者が外部弁護士を選任して外部弁護士を通じて会社にコンタクトしたり、被害者が労働組合に加入して当該労働組合が会社に対して団体交渉を申し入れたりすることもあるし、被害者が労働局の紛争解決制度や、労働審判・仮処分・本案訴訟等の裁判所における手続を利用する場合もある。 もっとも、まずは上司や法務部、人事部、相談窓口にコンタクトがあることが通常であり、会社がいきなり外部弁護士、労働組合、労働局や裁判所等から連絡を受けるといったことは多くはない。 2 ハラスメント事件に対する初期対応 ハラスメント事件の可能性を把握した場合、会社は原則として事実調査を行うことになるが、事実調査の実施前や実施中の段階において、取り急ぎ被害の拡大を防ぐために申告者と行為者の職場を引き離すことや、被害者や行為者を休業させるなどの措置をとることがある。 3 ハラスメント事件の事実調査 事実調査においては、会社は、被害者及び行為者を含む関係者に対して事情聴取を行い、被害者と行為者の職場における関係や、ハラスメント行為が行われた日時、場所、ハラスメント行為の具体的な内容等を確認することになる。 また、被害者の主張を裏付けるものとして、被害者と行為者や関係者とのメールやラインでのやりとりやSNSの投稿、被害者の日記やメモの有無などを確認すべきである。特に最近は、被害者がハラスメントの様子を録音していることが多いため、それらの録音記録を確認することも重要なポイントである。 事情聴取においては、聴取対象者の氏名や聴取内容の秘匿性の確保が重要であり、これを怠ると聴取対象者からの提訴を含む新たな問題を招きかねない。 4 ハラスメント事件に関する事後的対応 調査の結果、行為者によるハラスメントの事実が確認できた場合には、行為者の懲戒処分等を実施することになる。また、被害者に対しては、調査結果やその根拠について、速やかにフィードバックを行うべきである。 さらに、ハラスメント事件の再発を防ぎ、また、仮にハラスメント事件が再発した際の会社の免責や責任の軽減を図るためには、再発防止策の策定や改訂も重要なポイントとなる。例えば、全社員や全管理職を対象にハラスメント防止をテーマとした研修等を行っている会社は多いが、特に行為者に対してピンポイントで研修を実施することも有益である。 5 ハラスメント事件に関する裁判外・裁判所における紛争解決手続 (1) 被害者からの請求 特に、調査結果や行為者に対する処分等が被害者の望む形ではない場合や、調査の方法や過程が被害者から見て不誠実に見える場合など、被害者が会社の対応に不満を持つ場合、被害者が会社や行為者に対して損害賠償を求めて以下の手段を講じることがある(上記のとおり、被害者が申告等を経ずにいきなり以下の手段をとることもあるが、そのような場合は多くはない)。 なお、会社の従業員たる行為者の違法なハラスメント行為が認められる場合、ほぼ自動的に会社に対する損害賠償請求も認められるので、被害者は会社と行為者の両方を相手方として手続をとることが多い。 都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせんには参加に強制力がなく、労働者・使用者間の合意が成立しなければ紛争が解決しない。また、労働審判は当事者からの異議の申し立てがなされれば効力を失うものであり、いずれも最終的な解決に至らない可能性を有する手段である。しかし、前者は無料で利用することができる点、後者は審理期間が短い点について利用者にメリットがあり、これらの手段を経たうえで本案訴訟が提起されることが少なくない。 また、これらの手続を経る前や、これらの手続の最中において、裁判上ないし裁判外で和解が試みられることも多い。 なお、労働審判手続は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)を対象とするため、会社の従業員たる行為者のハラスメント行為を理由とする損害賠償請求について、被害者から会社に対して労働審判の申し立てがなされることはあるが、行為者個人を相手方として労働審判が申し立てられることはない。 (2) 行為者からの請求 会社が行為者を懲戒解雇した場合には、行為者が会社に対して、地位確認(懲戒解雇は無効であるから行為者は雇用契約上の地位を有することの確認)や賃金支払い(懲戒解雇時以降の賃金支払い)を求めて以下の手段を講じる可能性がある。 これらの請求が認められると、行為者は職場に復帰し、会社は職場復帰以降の賃金のみならず解雇から職場復帰までの賃金を支払わなければならないことになる。また、会社が行為者に対して懲戒解雇以外の懲戒処分(譴責、戒告、減給、出勤停止等)を科した場合には、行為者が会社に対して、処分の無効確認や賃金支払いを求めて以下の手段を講じる可能性がある。 仮処分とは、本案訴訟の判決が下されるまでの間に、暫定的に一定の地位や権利を認める裁判所の措置である。地位や権利を確定させるためには本案判決を得る必要があるが、後述のとおり、本案訴訟の終結までに数年を要することも珍しくない。そこで、本案判決を得るまでの間の生活の確保のために、本案訴訟に先行して、または本案訴訟と並行して、賃金仮払いの仮処分が申し立てられることがある。 6 各段階において要する期間 まず、ハラスメント事件が発覚してから行為者の懲戒処分・申告者へのフィードバック等の事後対応までに要する期間としては、事案にもよるが、1ヶ月から2ヶ月程度を目安とすべきである。 裁判所における紛争処理手続に要する期間としては、労働審判については1ヶ月から2ヶ月程度、仮処分については3ヶ月程度を見込んでおくべきである。また、本案訴訟(通常訴訟)については、制度上、第一審、控訴審(第二審)、上告審(第三審)の3つの階層の裁判所において合計3回までの審理を受けられることになっているが、第一審における審理には1年から3年を要する場合もあり、控訴審や上告審の審理を経る場合には、確定判決を得るまでにさらに数年を要することもある。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第5回】 「新型コロナウイルスの影響と契約関係」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 鏡味 靖弘 〔質 問〕 ①取引先に納入すべき製品の仕入れが新型コロナウイルスの影響により大幅に遅れ、既に納入期限を過ぎている上に今なお納入時期の具体的見通しも立ちません。取引先から契約の解除や損害賠償請求を受けた場合、これに応じなければならないでしょうか。 ②新型コロナウイルスの影響により、当社の売上げも大きく減少し、このままでは次の買掛金の支払いができません。このような状況下でも責任を負うのでしょうか。 ③発熱の症状が出ている従業員がいます。職務の継続自体は可能と思われますが、当社の判断で休業を命じようと考えています。このような場合に当社は休業手当の支払義務を負うのでしょうか。また、従業員が自主的に休業した場合はどうでしょうか。 〔回 答〕 ※以下では、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法(令和2年4月1日施行)を「改正民法」といい、当該改正前の民法を「改正前民法」といいます。 ①取引先との契約締結が改正民法の施行前(令和2年3月31日まで)である場合には、今回の納入期限徒過が不可抗力によるもの、あるいはこれについて貴社に帰責事由がないといえるときは、取引先は契約を解除できず、また、取引先に対する損害賠償義務もありません。ただし、契約締結が令和2年4月1日以降(改正民法施行後)である場合には、仮に不可抗力ないし帰責性なしと認められる場合であっても、契約解除には応じざるを得ません。 ②金銭債務については不可抗力免責がなく、期限どおりに買掛金の支払いができない場合は当該支払義務について債務不履行となり、約定金額に加えて遅延損害金を支払う義務を負います。 ③会社の判断で従業員を休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労働基準法26条)として、休業手当の支払義務を負うこととなります。他方、従業員が自主的に休業する場合には、通常の病欠と同様に扱えば足り(就業規則等に別段の定めがあればそれに従う)、休業手当を支払う必要はありません。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 債務不履行責任とその免責 (1) はじめに 債務不履行とは、債務者の責めに帰すべき事由により、債務の本旨に従った弁済(給付の実現)がなされないことをいい、その効果としては、損害賠償請求権及び契約解除権の発生が挙げられる。 ところで、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うWHOのパンデミック宣言や日本政府による緊急事態宣言の発令により人や物の移動等が制限されている今日の状況下においても、上記はそのまま当てはまるのであろうか。損害賠償請求権及び契約解除権の発生それぞれについて検討する。 (2) 契約上の不可抗力免責条項に基づく損害賠償義務の免責 我が国で締結される契約においては、「不可抗力によって債務不履行が生じた場合には損害賠償責任を負わない」とする不可抗力免責条項が置かれていることが一般的である。 そのため、まずは契約内容を確認し、不可抗力免責条項が置かれているか否か、同条項があるとして今般の新型コロナウイルスの影響が当該条項にいう不可抗力に当たるか否かを検討することになるだろう。 なお、「不可抗力」とは、外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないもの(単に過失がないだけでなく、より一層外部的な事情)をいい、大地震・大水害等の災害や戦争・動乱などがその代表例とされる。 契約書において規定される不可抗力免責条項においても、これらが例示されていることが多いが、上記のような「不可抗力」の解釈に照らすと、今般の新型コロナウイルスの影響(及びそれを原因とする納入期限の徒過)は、不可抗力に該当するといえる場合が多いのではなかろうか。 ただし、「新型コロナウイルスの影響」によることを理由として一律に抽象的に不可抗力に当たると判断すべきではなく、あくまで個別具体的な契約関係の諸事情に応じて判断されるべきものであり、場合によっては結論が異なり得ることに注意が必要である。 (3) 帰責事由がないこと(無過失)による損害賠償義務の免責 他方、契約上の不可抗力免責条項がない場合には、当該不履行(本件でいえば納期限までに納入できないこと)について帰責事由があるといえるかどうかの検討が必要になる。 債務不履行にいう「債務者の責めに帰すべき事由」は、「債務者の故意・過失、又は信義則上これと同視される事由」をいい、これに該当するかどうかは、不可抗力の解釈と同様に、個々の取引関係についての諸事情を考慮することに加え、取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断するものとされている。 なお、改正民法415条1項ただし書は、「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」帰責事由の有無を判断する旨明記した。 結論としては、今般の新型コロナウイルスの影響により納入期限を徒過してしまうというケースの多くについて、「債務者の帰責性なし」と判断される可能性が高いと思われる。 もっとも、不可抗力について述べたのと同様、あくまで個々の契約をとりまく諸事情を個別具体的に考慮して判断されるべき事柄であるから、例えば既に大きく感染が拡大した状況下で契約が締結され、そもそも感染拡大による納期限徒過の可能性が予見できる状況にあった等の事情の下においては、債務者に帰責事由があると判断され得るであろう。 (4) 契約解除の可否について 改正前民法においては、債務不履行に基づく契約解除についても、債務者の帰責事由が要求されていたが(改正前民法541条等)、改正民法においては、債務者の帰責事由が解除の要件から除外された(改正民法541条等)。 したがって、改正民法施行後(令和2年4月1日以降)に締結された契約については、仮に不可抗力ないし帰責事由がないことによって損害賠償義務については免責されたとしても、債権者から解除がなされればこれを受け入れざるを得ない。 (5) 金銭債務についての免責の可否 金銭債務の不履行については、そもそも不可抗力が免責事由とならない(改正前民法419条3項。改正民法も同一条項)。 よって、金銭債務については、新型コロナウイルスの影響によって資金繰り等にいかなる影響が生じようとも、不可抗力による免責を主張できない。どうにかして資金調達をし、期限どおりに支払わない限り、債務不履行責任(約定金額+遅延損害金の支払義務)を負うこととなる。 (6) とるべき対応について 不履行となるべき債務の内容がどのようなものであれ、その背景にこのような危機的状況がある以上は、双方の損害をできる限り最小限とすべく両当事者が協議して解決を図るべきであろう(期限の延長等)。 2 新型コロナウイルスの影響に伴い従業員を休業させる場合の留意点 (1) 労働基準法26条に基づく休業手当の支払義務 労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」には、使用者は休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないと定めている。 他方、不可抗力による休業の場合には、そもそも「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず、会社が休業手当の支払義務を負うことはない。 ここにいう「不可抗力」とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること、の2つの要件を満たすものでなければならない。 (2) 具体的場合における支払義務の有無 職務の継続が可能である従業員について使用者の自主的な判断で休業させる場合は、基本的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、会社は休業手当の支払義務を負う。 他方、従業員が自主的に休業する場合には、通常の病欠と同様に扱えば足り(就業規則等に別段の定めがあればそれに従う)、休業手当を支払う必要はない。 なお、いずれの場合であっても、会社が従業員に配慮して、法的義務の範囲を超えて休業手当や賃金等を支払うことが可能であることは当然である。 (了)
《速報解説》 監査業務における署名・押印に関する実務の現状と 多くの監査法人による対応予定・取組みを会計士協会が示す 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年5月8日、日本公認会計士協会は、新型コロナウイルスへの対応に関する特設ページにて、「第5回新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会での日本公認会計士協会説明資料」として「監査業務における署名・押印に関する実務対応について」を公表した。 また、2020年5月7日には、会長声明「緊急事態宣言の延長に対する声明」が日本公認会計士協会から発出されている。 会長声明では、定時株主総会の開催を7月以降に延期するために基準日変更を決議した上場企業は9社(39社が検討中)、継続会を決定した上場企業は0社(85社が検討中)であり、定時株主総会の7月以降への延期又は継続会の開催を決定した企業は少数にとどまっていると記載されている。 そのような中、会計監査人の監査報告書に関して、署名・押印に関する実務の現状と、今後、監査法人で予定している対応のほか、経営者確認書に関する対応についても述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査報告書への署名・押印に関する実務の現状 会計監査人の監査報告書に関して、署名の入手や袋綴じのプロセスはほとんどの監査法人で事務職員が主要な役割を担っていることから、業務執行社員と事務職員の多くが事務所に出勤せざるを得なくなり、結果として、出勤者7割削減の要請を満たせず、感染リスクを高めてしまうことが危惧されるとしている。 なお、法令上、袋綴じを監査人で行うとする定めはなく、実務上、企業がこれを行うケースもあるとのことである。 Ⅲ 監査報告書への署名・押印について監査法人で予定している対応 業務執行社員及び事務職員の出勤を抑制できる代替的な方法を採用することについて、被監査会社に了解していただきたいと考えているとのことである。 多くの監査法人では、例えば、以下のような対応を予定しているとのことである。 Ⅳ 経営者確認書に関する対応 以下のような取組みが進められている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する 監査上の留意事項(その5)」を公表 ~経営者確認書に新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響等の文例を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年5月8日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)」を公表した。 監査上の留意事項(その5)では、会社法の監査意見の形成に関して、監査意見及び経営者確認書に関する留意点について述べている。 なお、5月15日付けで「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第37号)が公布、同日から施行されたことから、同日付で、監査上の留意事項(その5)が更新されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 経営者確認書に関する留意事項 新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響とそれらの影響を財務報告においてどのように取り扱ったかについて、経営者に対し書面による陳述を要請することが考えられる。 経営者確認書に下記の下線部を追加する文例が示されている。 1 計算書類等に関する経営者確認書の追加文例 2 提供する情報に関する経営者確認書の追加文例 Ⅲ 監査意見に関する留意事項 1 除外事項付意見(監査範囲の制約)に関する留意点 今回の新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策の影響等により、監査人の監査意見について、限定付適正意見又は意見不表明となることがある。 監査範囲の制約による限定付適正意見及び監査範囲の制約による意見不表明の場合の監査報告書の文例が記載されている。 2 除外事項付意見の会社法上の取扱い 次の留意事項が記載されている。 3 会計監査報告の通知期限 会社計算規則130条において、会計監査報告の通知期限が規定されている。 通知期限に関して、次の留意事項が記載されている。 (了)
2020年5月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.368を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。