国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第33回】 「不動産の売主による買主の非居住者の確認義務」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私は、個人から不動産を購入することになりました。売主は、契約書の住所は日本の住所になっていましたが、契約を交わす際に雑談で、「この不動産を売却して外国に移住する予定だ」と言ってました。ただ、契約の時には日本の住所なので、居住者からの購入と考えて、源泉税のことは考えなくてもいいですか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非居住者が不動産を売却した場合の課税関係 非居住者の日本での課税範囲は、国内源泉所得に限定されている(所法5➁一)。国内不動産を売却した場合は、その所得は国内源泉所得に該当するから(所法161①五)、非居住者であっても譲渡所得を申告しなければならない(所法164①二)。 ただし、恒久的施設のない非居住者の場合、わざわざ来日して確定申告するのは難しいと考えられることから、売却時に買主が一定の額を源泉徴収して、確定申告で精算することになっている。 源泉徴収税率(所得税及び復興特別所得税)は対価の10.21%が原則であるが(所法213①二、復興財確法28)、例外として、譲渡対価が1億円以下で、買主が個人であり、かつ、その個人又はその親族の居住の用に供するためのものである場合、所得税等の源泉徴収は不要である(所法161①五、所令281の3)。非居住者か否かは、対価の支払時点で判断する(所法212①)。 このように不動産の売主が非居住者の場合、原則的には源泉徴収が必要となるため、買主にとっては、売主が非居住者か否かで大きな違いがある。もし、非居住者であるにもかかわらず、源泉徴収せず、将来、税務調査で、売主が非居住者と判明した場合は、買主は源泉徴収税額に不納付加算税等を加えて納付しなければならない。ただし、国内にいない売主からその税額分を取り戻すのは難しいため、不動産の譲渡においては、売主が非居住者か否かの確認が重要となる。 今回は、不動産売買契約の途中で記載住所が変わった売主への対価の支払いについて、源泉徴収をしなかった買主が、売主が非居住者であることは確認できなかったとして課税当局の対応は不当であると主張した裁決事案を紹介する(平成27年10月分源泉徴収に係る所得税等の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分、TAINSコード:F0-1-981)。 ▷どのような事案だったのか? この事案における取引を時系列で表すと、次のようになる。 上記で登場するいくつかの書類について、売主の住所はそれぞれ次のように記載されていた。 争点は、売買代金の支払いについて、買主が源泉徴収義務を負うか否かである。 ▷請求人の主張 請求人(買主)には源泉徴収義務はなく、理由は以下の通りと主張した。 なぜなら、本人確認は、売買の際に宅地建物取引業者が、売主は国内に住所があることを確認しており、売買契約書や手付金の領収書にも国内住所が記載されていたからであり、非居住者の事実を示す書類の提出は義務付けられていないので、非居住者の判定は難しい。 売買契約の日から覚書の日までの間に出国したことは予想されるが、非居住者かどうかは、課税庁や売主の協力がないとできない。支払いの際に居住者であると判定できなかった場合まで、非居住者への支払いとして源泉徴収義務を負わせるのは適当ではない。 ▷課税庁の主張 課税庁は、請求人には源泉徴収義務があり、理由は以下の通りと主張した。 不動産売買のような高価な取引において、売主が非居住者かどうかは重要な問題であるから、買主は調査確認をするはずだ。 買主は、覚書を見れば国外の住所が記載されていたのだから、売主に住民票の提出を求めれば容易に非居住者であったことは分かったはずである。それを怠ったということは、買主がなすべき非居住者か否かの判定を行っていなかったということだ。 ▷審判所の判断は 審判所は、請求人(買主)には源泉徴収義務があると判断した。理由は以下の通りである。 請求人は、売主が非居住者か否かを判定するのは難しいと主張するが、覚書や登記簿にはオーストラリアの住所が記載されている。覚書作成時や代金支払い時に、売主に住所の確認をすることができたにもかかわらず、行っていない。非居住者か否かの判定を行っていないのは請求人自身の責任であるから、請求人の主張は認められず、10月の残代金等の支払いについて源泉徴収義務があると判断した。 最近、非居住者が購入した日本の不動産の賃貸や、所有する日本の不動産の売却に税理士が絡むケースが増えている。継続的に非居住者の場合は、契約当初から源泉徴収義務の有無が分かるからミスをすることがないが、契約の中途で居住者が非居住者になったような場合は、非居住者判定が難しい場合も多い。 源泉税漏れは負担が非常に大きくなることが多いので、本件のようなミスが生じないように細心の注意を払うよう心掛けなければならない。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第14回】 「「法人運営が適正であること」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」が課されています。 この「不当減少」に該当するか否かの判断基準の1つとして、公益法人等の運営が適正であること、という要件を満たす必要があるとされています。ここで言うところの「法人運営の適正」とは、具体的にどのようなことを指すのですか。 - 回 答 - その公益法人等の運営組織が適正であるかどうかは、 ① 運営組織の適正性が定款等の規定内容により担保されていること ② 事業運営や役員選任が適正に行われていること ③ 法人の経理が適正に行われていること 以上の3点をもって判断されます。 ①の定款等の規定内容については、措置法40条通達18において詳細に解説されており、法人の態様に応じ各事項が定められていることが必要とされています。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ みなし譲渡課税が非課税となるための条件として、当該寄附を受けた法人の運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの(以下「役員等」という)のうち親族関係を有する者及びこれらと特殊の関係がある者(以下「親族等」という)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあることが必要とされています。 運営組織が適正か否かについては、財産の贈与又は遺贈を受けた公益法人等について、次に掲げる事実が認められるかどうかにより判断されます(措置法40条通達18)。 (1)に掲げる「一定の事項」とは、それぞれ次の事項を言います。 (※) 表形式のものは[こちら]からご覧ください。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第90回】 すてきナイスグループ株式会社 「第三者調査委員会調査報告書(2019年7月24日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【第三者委員会の概要】 【すてきナイスグループ株式会社の概要】 すてきナイスグループ株式会社(以下「すてきナイス」と略称する)は、1950年6月設立。設立時の社名は市売木材。数次の商号変更を経て、2000年10月よりナイス株式会社。2007年10月、持株会社体制に移行し、商号をすてきナイスグループ株式会社に変更して、現在に至る。建築資材の販売、住宅・マンションの販売、仲介、賃貸、建築工事業などを事業領域とする。連結子会社47社を含むグループ会社は92社。売上高242,926百万円、経常利益762百万円、資本金22,069百万円。従業員数2,654名(いずれも2019年3月期、連結ベース)。本店所在地は神奈川県横浜市。東京証券取引所第1部上場。会計監査人は監査法人原会計事務所(以下「原会計事務所」と略称する)。 中核となる事業会社であるナイス株式会社(以下「ナイス」と略称する)は、売上高203,239百万円、経常利益490百万円。 【調査報告書の概要】 1 第三者委員会による調査結果 (1) 業績予想の下方修正 平成27年3月期第2四半期決算で、すてきナイスは、公表していた連結業績予想を大幅に下回る実績となり、経常損失約17億円を計上するに至った。そこで、平成26年10月31日、平成27年3月期決算の業績予想を下方修正する。下方修正された業績予想と、実績については、次表のとおりである。 〇平成27年3月期の業績予想の推移と実績(単位:百万円) ところが、実態はさらに業績悪化が進んでいた。決算期末直前におけるすてきナイスの業績見込みの推移を、調査報告書から引用する。 まず、経営陣が認識していたとされる業績見込みは以下のとおりである。 〇平成27年3月5日時点での見込み(単位:百万円) 次いで、経理部員の作成した決算見込みは以下のように推移する。 〇平成27年3月13日時点での見込み(単位:百万円) 〇平成27年3月24日時点での見込み(単位:百万円) ここで、調整として予定されていた決算対策は次のとおりである。 (※) 第三者委員会の定義によれば、「すてきナイスと直接又は間接の資本関係がないものの実質的にナイスグループが支配している会社」であり、本件では、平田元会長個人が大株主であり、ナイスグループ社員が取締役に就任していることなどが問題視された。 (2) グループ外支配会社に対する売上計上の詳細 第三者委員会設置の経緯となったのは、上記の決算対策のうち、グループ外支配会社2社に対する土地やマンションなどの販売が、売上として計上することが会計基準に違反していないかどうかということであった。2社との取引のうち、第三者委員会が売上計上を認めなかった不動産取引を図示すると以下のとおりとなる。 第三者委員会は、すてきナイスの元代表取締役会長兼CEOの平田恒一郎氏(5月20日付で取締役を辞任。以下「平田元会長」と略称する)が実質的に支配するザナック設計コンサルタント株式会社(以下「ザナック」と略称する)に対する、ナイス及びナイスエスト株式会社が販売した宅地やマンションなどの不動産販売取引については、「すてきナイスの平成27年3月期の決算対策として、経済的実体のない売上・利益の計上目的」で行われたものであったこと、ナイスが実質的に支配していることから子会社と認定されること、また、譲渡不動産の対価がナイス及びナイスコミュニティーサービス株式会社ほかの関係会社からの融資によって決済されていることから、「財貨の移転」がなされているとは言いがたいことなどを理由に、本件不動産の販売とそれに伴う仲介手数料の売上計上は認められないと判断した。 (3) 監査役による会計監査人への相談 第三者委員会によって売上計上が不適切であったと判断されたザナックとの取引については、当時、すてきナイス及びナイスの常勤監査役であった神長博志氏が、会計上の疑義があると感じて、平成27年4月に、すてきナイスの会計監査人である原会計事務所の公認会計士に報告・相談しているが、同公認会計士は、同年5月ころ、「ザナックが関係会社に当たると仮定しても、取引に会計上の問題はない」旨の説明を行ったということである。 これに対し、第三者委員会は、連結の範囲の検討や嫌疑の対象となった不動産販売取引に関する監査手続き及び判断について、すてきナイスの主張を批判的に検討すべきものと考えられる場面が存在し、より慎重な対応が求められたものと思料するとコメントしている(報告書p.169)。 (4) 原因分析 第三者委員会は、「直接的な原因」として、「動機」「機会」「正当化事由」という、「不正のトライアングル仮説」に基づく分析を行っている。その中で、経営者側の動機については平成27年3月期決算が最終的に赤字になることはもちろん、すでに下方修正された業績予想値について再度の下方修正を行わざるを得ない事態となることは、なんとしても回避したいとの強い意向があったと認定している。とくに、平田元会長については、自らが主導してきた住宅事業の業績悪化を懸念していたとも指摘している。 また、「背景事情(間接的な原因)」として、次の7項目を挙げている。 今回逮捕が報じられた創業家出身で大株主でもある平田元会長の強い影響力を原因のトップに挙げ、その結果として、再発防止策のトップには「経営陣の刷新」が提言されている。こうした原因分析は、嫌疑の対象となった不動産取引について、平田元会長が了解していたという事実に基因している。 また、「ガバナンス、内部統制の不全」の中では、すてきナイス及びナイスに共通する内部監査部門について、「一人又は二人が担当しているに過ぎなかった」うえ、ナイスの監査室は「社長直轄の組織ではなく、経営推進本部の管轄下にあり、経理部を含む経営推進本部に対して適正に牽制機能を果たすことが難しい組織となっていた」と指摘して、不適切な不動産販売取引が行われたことの間接的な原因としている。 なお、すてきナイスグループ全体の従業員数2,654名に対し、持株会社の従業員数は20名であり、有価証券報告書によれば、「総務及び財務等の管理部門」の人員であるということである(2019年3月期有価証券報告書p.8)。 2 再発防止に向けた提言 上記の原因分析を受けた第三者委員会による再発防止策の提言は次のとおりである。 【調査報告書の特徴】 2019(令和元)年7月25日、すてきナイスは、同社の平田元会長、元代表取締役社長日暮清氏(5月20日付で取締役を辞任、以下「日暮元社長」と略称する)、元取締役大野弘氏(5月30日付で取締役を辞任、以下「大野元取締役」と略称する)の3名が、金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)で、横浜地方検察庁に逮捕されたというリリースを公表した。逮捕との因果関係は不明であるが、すてきナイスは、その前日、第三者委員会による調査報告書を受領して、公表していた。 調査報告書によって判明したのは、再度の業績下方修正公表を回避するための決算対策の数々であった。 1 すてきナイスにおける連結会社の範囲 調査報告書では、すてきナイスが、本来連結すべき子会社について、「住宅事業における地方進出のためのテストマーケティング目的」で設立したとして、質的に重要性が低いとの解釈から、連結の範囲に含めていなかったことが明らかにされている。 平成27年3月期以降、すてきナイスと原会計事務所は、決算期ごとに量的重要性の判定を行う中で、すてきナイスは、原会計事務所の提言に従って、子会社の解散、連結会社への吸収合併を進めるとともに、多くの非連結子会社を連結の範囲に取り入れている。 第三者委員会の試算によると、非連結子会社の合算値ベースの剰余金(持分相当)は、平成26年3月期以降一貫してマイナスとなっており、第三者委員会は、「量的重要性がないとまでは言えない水準である」ことから、すてきナイスが、連結の範囲に関する会計基準及び実務上の判断基準を遵守していたとは言えないと結論づけている。 なお、原会計事務所は、昭和37年の東証2部上場時からすてきナイスの会計監査を担当しているということであり、こうした長い受任期間が原因で、「馴れ合いや緊張感の欠如によって監査上の判断が甘くなる」ことが原因の1つとして指摘されるようであれば、現在、議論が進められている「会計監査人のローテーション制度」の導入に一石を投じるものとなるかもしれない。 2 すてきナイスとナイスにおける内部監査部門 すてきナイスの2019年3月期有価証券報告書には、内部監査について次のような記述が見られる(p.33)。 この記述は、本件嫌疑の発生した平成27年3月期まで遡ってもまったく同一であることが確認できる。その実態について、第三者委員会は、次のように説明している(調査報告書p.24)。 そして、中核事業会社であるナイスの内部監査体制について、以下のとおり説明している(調査報告書p.25)。 3 持株会社による事業会社の統制 上述のように、すてきナイスグループは、持株会社の内部監査部門が事業会社と兼務であり、先任者は不在という状況であった。事業会社に内部監査部門を置き、スリー・ライン・ディフェンスの機能を事業会社で完結させ、持株会社には内部監査機能を持たせないというのも1つの考えではあろうが、本来であれば、持株会社に内部監査機能を集約して、グループ全体の内部監査を横断的に行うことによって内部統制の強化を図るべきではないかと考える。 こうした組織論について、すてきナイスグループの第三者委員会は、調査報告書(p.166)において、持株会社化の目的を次のように述べている。 そのうえで、第三者委員会は、再発防止策の1つとして、「ガバナンス体制の根本的な改善・再構築」という項目の中で、「すてきナイス及びナイスの位置づけの再検討」を促している。 持株会社と事業会社が一体として機能、運営していたのでは、持株会社が事業会社の事業遂行について適切に監視監督を行うことはできないという、第三者委員会の提言であろうと思料する。 4 すてきナイスグループによる再発防止策 8月23日、すてきナイスは、「第三者委員会調査報告書の受領に伴う再発防止策のお知らせ」というリリースを出し、下記のとおり、広範な再発防止策の骨子を公表した。 添附された組織図によると、従前、すてきナイスに所属していた社員20名のうち12名が兼務であったところ、再発防止策の1つである「組織改革によるガバナンス強化」の中で掲げられた「内部監査機能の強化」「経理部門・法務部門・人事部門の機能強化」などを実施するため、監査役室の設置や、内部統制室の人員増強(1名⇒5名)、グループ経営推進本部の中に財務部、経理部(各1名から各10名に人員も増強)などを独立の組織として配置することなどとともに、すてきナイスの社員を60名まで増やすことが明示されている。 こうした組織の強化、人員の増強は、「すてきナイスが持株会社として、ナイスその他の事業会社の事業遂行の監督等を適切に行い得るように」すべきであるという第三者委員会の提言に沿ったものとして評価できる。 5 証券取引等監視委員会よる告発と起訴 8月13日、証券取引等監視委員会は、「すてきナイスグループ株式会社に係る虚偽有価証券報告書提出事件の告発について」というリリースを出した。「告発の対象となった犯則事実」の一部を引用する(下線は筆者による)。 文中、犯則嫌疑法人とは「すてきナイス」、犯則嫌疑者Aが平田元会長、Bが日暮元社長、Cが大野元取締役をそれぞれ意味している。 翌14日には、すてきナイスは、法人としてのすてきナイス、平田元会長及び日暮元社長の2名が、金融商品取引法違反(虚偽有価証券報告書提出罪)の嫌疑で横浜地方検察庁に起訴されたことを公表した。その後の9月13日付日本経済新聞電子版によれば、大野元取締役は不起訴処分になったが、その理由を検察は明らかにしていないということである。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第26回】 「①親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理と ②親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合の会計処理 1 個別財務諸表上の会計処理 親会社が子会社に事業譲渡により事業を移転する場合(事業譲渡の対価が現金等の財産のみの場合)、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針223項、224項)。 ◎親会社(事業譲渡会社) 事業譲渡会社である親会社は、事業分離等会計基準14項により、子会社から受け取った現金等の財産(結合分離適用指針95項)を移転前に付された適正な帳簿価額により計上し、当該価額と移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)との差額は、原則として、移転損益として認識する。 上記の取扱いは、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も同様である。 当該企業結合(事業分離)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎子会社(事業譲受会社) 【資産及び負債の会計処理】 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、親会社における移転した事業に係る資産及び負債の移転直前の適正な帳簿価額により計上する。 移転事業に係る株主資本相当額と交付した現金等の財産の適正な帳簿価額との差額は、のれん(又は負ののれん)として処理する。 のれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項並びに78項及び資本連結実務指針40項に準じて会計処理する(結合分離適用指針448項)。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合も、同様に処理する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 株式を交付していないため、株主資本の額は増加しない。 移転事業に係る評価・換算差額等(結合分離適用指針87項(1)②)は、対価が現金等の財産のみの場合においても、引き継ぐ。 【企業結合(事業譲受)に要した支出額の会計処理】 企業結合(事業譲受)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 2 連結財務諸表上の会計処理 親会社の個別財務諸表上認識された移転損益は、親会社の連結財務諸表上、連結会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する(結合分離適用指針225項)。 Ⅲ 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理 1 個別財務諸表上の会計処理 親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針226項、227項、444項、445項)。 ◎親会社(吸収分割会社) 親会社が会社分割により追加取得する子会社株式の取得原価は、企業結合会計基準43項及び事業分離等会計基準19項(1)により、移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)に基づいて算定し、当該会社分割により移転損益は生じない。 子会社株式の取得原価の算定にあたっては、移転事業に係る株主資本相当額から移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除する(結合分離適用指針108項(2))。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合には、まず、事業分離前から保有している子会社株式の帳簿価額を充て、これを超えることとなったマイナスの金額を「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。 【企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理】 当該企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎子会社(吸収分割承継会社) 【資産及び負債の会計処理】 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 移転事業に係る評価・換算差額等(結合分離適用指針87項(1)②)を引き継ぐとともに、移転事業に係る株主資本相当額は、払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。 増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(結合分離適用指針409項)。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。 【企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理】 企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 2 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 子会社(吸収分割承継会社)が親会社(吸収分割会社)から会社分割により事業を受け入れる場合には、子会社が親会社を吸収合併する場合の子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理(結合分離適用指針211項)に準じて処理する(結合分離適用指針228項)。 3 連結財務諸表上の会計処理 次のように会計処理する(結合分離適用指針229項)。 (1) 内部取引の消去 事業の移転取引及び子会社の増資に関する取引は、企業結合会計基準44項により、内部取引として消去する。 (2) 親会社の持分変動による差額の計上 親会社は、事業分離等会計基準19項(2)により、会社分割により追加取得した子会社に係る親会社の持分の増加額(追加取得持分)と移転した事業に係る親会社の持分の減少額との差額を、資本剰余金に計上する。 (了)
今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第9回】 「定型約款(その2)」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 前回の解説で、自社の使っている約款が「定型約款」に当たることがわかりました。 定型約款は、事後的に条項を変更する必要性が生じることがありますが、そのような場合の定型約款の取扱いについて教えてください。 【A】 改正法では定型約款の変更についての規定が設けられた。 そのため、変更の必要性が生じた場合には、当該規定に基づいて定型約款を変更することができる。 1 約款の変更の論点 約款は、法律の改正や取引上の問題が生じた場合、それに対応するために事後的に変更が必要となる場合がある。 契約の原則からすると、契約内容を一方的に変更することはできず、契約内容を変更するのであれば、契約の相手方の個別の同意を得る必要がある。約款も契約の内容を画するものであるから、約款の内容を変更するのであれば、契約の相手方の同意を得ることが必要である。 もっとも、多数の顧客に対して、約款を用いた契約をしたうえで、継続的なサービスの提供をしていたり、会員登録をした多数の会員との間で会員規約に基づいて継続的な取引をしている場合、大量に存在する取引先や会員との間で、個別に変更の合意書を締結して約款の変更を行うことは事実上困難である。 そこで、約款を用いた継続的な取引等を行う多くの企業では、下記のような条項を約款に盛り込んでいる。 【記載例:約款の変更をする場合がある旨の条項】 世間一般で用いられる約款には、このような条項が盛り込まれているケースが多いようである。そのため、このような条項のみをもって、約款を用意した事業者側が一方的に約款の内容を変更することが、法的にも許容されていると理解している読者も多いと考えられる。 しかし、許容されるか否かについて実際には議論が分かれるところであったし、あらゆる約款の内容の変更が、上記条項のみで可能となることはない。約款の変更は契約内容の変更にほかならず、契約は合意のみによって成立するのに、相手方が内容を知らず、了解もしていないのに、一方的に契約内容を変更できるというのでは、「契約は合意によって成立する」という原則に反するからである。 改正法では、こうした問題に対応するため定型約款の変更についての規定を設けている。 2 定型約款の変更方法 (1) 定型約款の変更が認められる場合 改正法では、定型約款の変更の内容が以下のいずれかに当たる場合に、定型約款準備者(事業者)により一方的に定型約款を変更することを認めることとした(改正法548条の4第1項)。 又は ①は、定型約款準備者の相手方にとって利益しかない変更であれば、一方的に契約内容が変更されても相手方に不利益はないために認められるものであり、これは理解しやすい。 ②は、(ⅰ)定型約款の変更が契約をした目的に反しないことを前提としたうえで、(ⅱ)変更の必要性等諸々の事情を考慮し、「合理的」といえる場合に、一方的な変更が可能となる。 ②は、具体的にどのような場合にこれが肯定されるのかは、改正法の条文のみからでは明らかとはいえないし、何らかの具体的な基準があるわけではない。少なくとも、定型約款準備者である事業者の立場からみれば、自己の都合の良いように一方的に変更することは認められないということは、まず理解する必要がある。 なお、上記の【記載例:約款の変更をする場合がある旨の条項】は、②の要件の一要素にすぎないため、当該条項があることのみをもって変更が許されるわけではない。また、条文上、「定型約款の変更をすることがある旨の定めの(中略)内容」も合理性判断の考慮要素になることから、単に上記の【記載例】のように、「一方的に変更できる」といった定め方は適切ではなく、どのような場合に、どのような手続をとって変更することができるのかを具体的に定めておくことが重要である。 (2) インターネット等による周知 事業者としては、変更する定型約款の内容が、上記(1)の①又は②のいずれかに該当すると判断した場合には、効力発生時期を定めて、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネット等を通じて周知しなければならない(改正法548条の4第2項)。 周知の方法としては、インターネットにおいて情報提供するほか、取引の態様によりメールや手紙といった方法も考えられる。また、上記(1)の②に該当する場合で、効力発生日までに周知をしない場合には、変更の効力は生じない(改正法548条の4第3項)。 情報化社会において定型約款は、今後ますます利用されていくことが考えられる。事業者としては改正法の内容を理解し、自社の定型約款の取扱いを検証していく必要がある。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫 ◆むすびに代えて◆ ~「財務・税務と法務との対話と協働」再び~ 【前編】 「弁護士はなぜ『計算書類の適正』を表明保証させるのか?」 長きにわたった本連載も、今回からいよいよ最終コーナーに入る。 本連載ではこれまで、「財務・税務デューデリジェンス編」と「法務デューデリジェンス編」とを姉妹編として、両者の協働の重要性、そして両者を繋ぐものとしての依頼者=当事者との協働の重要性をたびたび強調してきた。 そこで本連載の最終テーマとして、こうした協働が、「買収契約書」という1つの「締めくくり」の場面でどう機能するのか、いささか風変わりな趣向ではあるが、「会社担当者と専門家たちとの架空の対話」という形で紹介したいと思う。 * * * (※) 「表明保証条項」については、法務編【第8回】を参照。 (つづく)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例39】 アスクル株式会社 「ヤフー株式会社からの社長退陣要求と、 アスクルからの提携解消協議申入れのお知らせ」 (2019.7.17) 事業創造大学院大学准教授/公認会計士 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、アスクル株式会社(以下、「アスクル」という)が2019年7月17日に開示した「ヤフー株式会社からの社長退陣要求と、アスクルからの提携解消協議申入れのお知らせ」である。 アスクルの議決権を45%有するヤフー株式会社(以下、「ヤフー」という)が、8月のアスクルの定時株主総会において、アスクルの岩田彰一郎代表取締役社長(以下、「岩田氏」という)の取締役再任に反対の議決権を行使するというので、アスクルは、ヤフーに対して、ヤフーとの業務・資本提携契約の解消を申し入れることにした、という内容である。 本件に関するマスコミの報道は、どちらかというと、「強引なヤフーに対して、可哀想なアスクル」といった感じで、ヤフーが悪者であるかのような論調が多かったように思われる。しかし、そうした捉え方は正しいのだろうか。 2 何か問題があるのか? アスクルは、今回の開示において、ヤフーが岩田氏の取締役再任に反対の議決権を行使することについて、「ガバナンスプロセスを逸脱する行為」であるとして、次のように記載している。 このアスクルの主張は、「取締役を誰にするかは、指名・報酬委員会が決めるから、株主であっても、それに口出しをするな」というものであり、ガバナンスを理解していない主張であると言わざるを得ない。 取締役を選任するのは株主総会である。ヤフーは、2019年7月18日に開示した「アスクル株式会社の本日(2019年7月18日)開催の記者会見について」において、「アスクルの数年に渡る業績低迷の早期回復に向けて、株主権の行使を考えています」と記載しているように、正当に株主権を行使しているだけであり、「ガバナンスプロセスを逸脱する行為」などではないはずである。 3 独立役員が「独立」していないとしたら? その後、ヤフーは、2019年7月24日に「アスクル株式会社の第56回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案)に対する、当社の議決権行使のお知らせ」を開示した。その本文は次のとおりである。岩田氏だけでなく、独立社外取締役3名の取締役再任にも反対の議決権を行使したのである。 これに対して、アスクルは、2019年7月28日に「アスクル株式会社独立役員会による『ヤフーによるアスクルの企業統治を蹂躙した議決権行使を深く憂慮する声明』提出について」を開示したのだが、それに添付された「ヤフーによるアスクルの企業統治を蹂躙した議決権行使を深く憂慮する声明」には、次のような記載がある。 確かに独立社外取締役には、支配株主の利益が優先され、少数株主の利益が犠牲にされるような経営が行われないように監督するという役割が期待されていると思われる。しかし、もしも独立社外取締役が、そうした役割を果たしていない場合、どうしたらいいのだろうか。例えば、業績が低迷し、その責任があるにもかかわらず、退任しようとしない経営者を支持し、少数株主を含めた全ての株主の利益を損なうような判断をしている、形式的には独立しているが、実質的には独立していない社外取締役がいた場合、株主はどうすべきなのだろうか。 ヤフーの開示を見る限り、同社は、株主として普通の判断を行っているだけである。ヤフーにとっては、アスクルの独立社外取締役が「独立」しているようには見えなかったのだ。それに対して、アスクル独立役員会の主張は、これまた「独立社外取締役は神聖な存在であり、株主であろうと、誰も辞めさせることはできない」と言っているようなものである。 4 親子上場の問題か? 本件については、親子上場の弊害が露呈したものだとする見解がある。例えば、2019年8月5日付の日本経済新聞朝刊の社説は、「看過できなくなってきた親子上場の弊害」と題して、本件を論じている。しかし、果たしてそうなのだろうか。 親子上場の弊害とは、親会社が自社の利益を優先し、子会社の利益を犠牲にするため、子会社の少数株主の利益が損なわれてしまうことである。本件の場合、ヤフーは、アスクルの利益を犠牲にして、アスクルの少数株主の利益を損なっているだろうか。開示を見る限り、そう捉えるのは困難であるかと思われる。 なお、ヤフーは、新しい代表取締役社長はアスクル側で選んでもらい、自社から派遣するつもりはないとしているし(2019年7月18日開示)、新しい独立社外取締役の選任についても、アクスルにおける指名プロセスの独立性を前提としながら、最大限協力するとしている(2019年7月29日開示「アスクルの第56回定時株主総会における取締役選任議案(第2号議案)の議決権行使について」)。また、本稿では触れなかったLOHACO事業の譲渡についても、今後も申し入れる方針はないとしている(2019年7月18日開示)。 5 そもそも株式会社とは ヤフーは、2019年7月31日に開示した「アスクルにおける第56回定時株主総会および『ヤフー株式会社に対する当社株式の売渡請求の件』を目的とする取締役会について」において、「株主総会が、株式会社における最高の意思決定機関である」として、次のように記載している。 株式会社における最終的な意思決定権者は株主であり、株主が複数いる場合は多数派の意見が採用されるというのが、株式会社の基本原則である。親子上場でなくても、本件と同様の事態は生じうるし(例えば、複数の株主が結託して、彼らの意見が多数派となれば、その意見が通る)、独立社外取締役が適任か否かは、最終的には株主総会で判断せざるを得ない。 そうした基本原則を受け入れられないのならば、少なくとも上場会社の経営に関わるべきではない。アスクルの主張は、株主に対して「金は出しても口を出すな」と言っているのと等しい。 (了)
《速報解説》 「特定事業継続力強化設備等の特別償却 (中小企業防災・減災投資促進税制)」に関する通達が新設 ~事業者の判定・取得価額の判定等、適用要件の詳細が明らかに~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和元年(2019年)9月11日、各国税局長及び沖縄国税事務所長に対して、国税庁長官名で「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について(法令解釈通達)」が通達された。 この中で、令和元年度税制改正において創設された「特定事業継続力強化設備等の特別償却制度(中小企業防災・減災投資促進税制)」に関する通達が新設されている。ここでは、その内容について解説する。 1 税制の概要 ① 概要 中小企業強靭化法に基づく「事業継続力強化計画」又は「連携事業継続力強化計画」の認定を受けた青色申告書を提出する中小企業者等が、当該計画に基づいて、指定期間内に一定の設備(特定事業継続力強化設備等)への投資を行う場合に、20%の特別償却を認める制度である。 ② 適用要件 当該税制を適用するためには、具体的には次の要件を満たすことが必要となる。 各要件の詳細については、拙稿「「特定事業継続力強化設備等の特別償却(中小企業防災・減災投資促進税制)」の解説 【第1回】「特別償却の適用要件」」を参照のこと。 《対象事業者》 《対象設備》 2 新設された通達 「特定事業継続力強化設備等の特別償却制度(中小企業防災・減災投資促進税制)」を適用するには、上記の要件を満たす必要があるが、今回新設された通達により次の点が明らかにされている。 ◎中小企業者の判定 事業者が中小企業者に該当するか否かは、特定事業継続力強化設備等の取得等をした日及び事業供用した日の現況による。 ◎適用除外事業者の判定 前3事業年度の平均所得額が15億円超の法人は、適用除外となる(平成31年4月1日以後に開始する事業年度より)。 当該判定は正当な金額により行う必要があるので、修正申告等により金額変更があった場合には、改めて判定を行う必要がある。 ◎取得価額の判定単位 次のものは機械及び装置本体と合算の上、取得価額要件の判定を行うことができる。 ⇒ 機械及び装置本体と同時に設置する附属機器で、本体と一体になって使用するもの。 ◎圧縮記帳をした場合の取得価額 圧縮記帳を行った特定事業継続力強化設備等については、圧縮記帳後の金額に基づいて取得価額要件の判定を行う。 (了)
2019年9月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.336を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第71回】 「各府省庁の「令和2年度税制改正要望」を概観する」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 8月末に、各府省庁から令和最初となる令和2年度税制改正要望が出揃った。 今回の要望項目数は、単純合計で、国税196項目、地方税191項目、重複排除ベースで、国税141項目、地方税141項目であった。なお、廃止・縮減項目数は単純合計・重複排除ベースともに、国税2項目、地方税3項目であった。 〇土地・住宅関係 今回の改正では、土地・住宅関係の期限切れ措置が多数あることから、国土交通省の要望が目立つ。 まず、国税関係では、所得税・法人税のみならず個人住民税・法人住民税も含めて土地等の譲渡益に対する追加課税制度(重課)の停止措置の延長はもとより、所得税・個人住民税における特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例措置・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除制度・特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度の延長、登録免許税における住宅用家屋の所有権の保存登記等に係る特例措置の延長などが要望されている。 また地方税関係では、新築住宅に係る固定資産税の減額措置の延長は国土交通省が、認定長期優良住宅の不動産取得税・固定資産税の減額措置の延長は国土交通省・環境省が要望している。既存住宅の耐震・バリアフリー・省エネ・長期優良住宅化リフォームに係る固定資産税の特例措置の延長は、国土交通省の他に経済産業省・環境省も要望している。 〇金融関係 金融庁の要望では、家計の安定的な資産形成の促進と経済成長に必要な成長資金の供給拡大の両立を図る観点から、NISA制度(一般・ジュニア・つみたて)の恒久化、中でもつみたてNISAについては、開始時期にかかわらず20年間の積立期間が確保されるよう制度年限(2037年)の延長を要望している。さらに、企業が従業員に対して一定の要件を満たす規約に基づき支給する、つみたてNISA 奨励金については、毎月1,000 円を限度として非課税とすること(3年の時限措置)も要望している。 また、上場株式の相続税評価に関して、課税時期(死亡日)の前年の年平均株価、課税時期の属する月以前2年間の平均株価も対象とすることを要望している。 〇法人関係 (1) 連結納税制度の見直し 経済産業省の要望の筆頭には連結納税制度の見直しが掲げられた。 具体的には、「企業間連携を促し、機動的な事業再編の円滑化・効率的なグループ経営を後押しするため、連結グループへの加入時の時価評価課税や繰越欠損金の切捨ての対象を縮小するなどの見直しを行う。その際、研究開発税制や外国税額控除等、連結グループ一体となって活用されるべき税制措置の取扱いや親会社繰越欠損金の取扱いを堅持する。」とされている。 政府税調の連結納税制度に関する専門家会合の報告書では、連結納税開始時・連結グループへの加入時の時価評価課税の対象については現行制度よりも限定する方向が示されている一方、連結納税開始前の親会社の欠損金については、現行の特定連結子法人と同様に当該親会社の所得の範囲でのみ繰越控除できるようにするという考え方も提示されているところである。また、研究開発税制や外国税額控除等の連結調整計算については、個別計算に戻す考え方も記載されている。年末に向け、これらの論点の帰趨が注目される。 (2) 中小企業関連税制 中小企業税制関係では、まず、期限切れ租税特別措置については、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長は経済産業省・厚生労働省・総務省から、交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長は経済産業省・厚生労働省から、また、中小企業・小規模事業者の再編・統合等に係る登録免許税の軽減措置の延長は経済産業省・厚生労働省・農林水産省から出されている。 平成30年度税制改正で中小法人の事業承継税制の10年間の特例(非上場株式についての相続税・贈与税の納税猶予の特例)が設けられ、平成31年度税制改正では個人事業者の事業承継税制が創設されたが、今回の各省庁の要望では、第三者に対する事業承継が課題として挙げられている。 後継者不在の中小企業の経営者が、株式譲渡や事業譲渡等のM&Aを行う際の譲渡益に係る税負担の軽減を求める要望が、経済産業省をはじめ国土交通省、農林水産省、厚生労働省から出されている。また、非上場株式についての相続税・贈与税の納税猶予の特例に関しても、民法改正(遺留分)を踏まえた確定事由の適正化等の要望が経済産業省から出されている。厚生労働省からは、医師少数区域等における医療法人の承継税制の創設が要望されている。 既存企業とベンチャー企業とのオープンイノベーションを促進し国際競争力を強化する観点から、一定の要件を満たしたベンチャー投資を行う既存企業に対する措置を経済産業省が連結納税制度の見直しと並ぶ重点要望項目として掲げている。また、エンジェル税制の要件緩和は、経済産業省・総務省の要望である。 (3) 企業関連の租税特別措置 最も多くの省庁が要望しているのは、企業年金等・退職等年金給付の積立金に対する特別法人税の撤廃又は課税停止措置の延長である。金融庁、経済産業省、農林水産省、厚生労働省、財務省、総務省、文部科学省がそろって要望している。 その他、法人税関係の租税特別措置では、主なところでは、長期保有土地等に係る特定事業用資産の買換特例の延長が国土交通省・経済産業省から、海外投資等損失準備金の延長が経済産業省から、省エネ再エネ高度化投資促進税制の拡充・延長が経済産業省・国土交通省・農林水産省・環境省から要望されている。 総務省は、5G投資促進税制の創設を新規要望している。要望によれば、平年度ベースの減収見込額が、法人税・所得税で220億円弱、法人住民税・事業税・固定資産税で90億円強とされている。 また、地方創生の関係では、内閣官房・内閣府が、期限切れとなる企業版ふるさと納税について、控除限度額を2倍にする等、制度を拡充した上で延長するよう要望している。地方拠点強化税制についても雇用増加要件の緩和等の拡充も含め延長要望が内閣府から出されている。 (了)