《速報解説》 「公益法人会計基準に関する実務指針」の改正(公開草案)が公表される ~外貨建有価証券の決算時の会計処理を整理、改正税効果会計基準への対応も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年1月18日、日本公認会計士協会は、「非営利法人委員会実務指針第38号「公益法人会計基準に関する実務指針」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号、平成30年2月16日)及び内閣府公益認定等委員会から公表された「平成29年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成30年6月15日)に基づいて、公益社団・財団法人における会計上の取扱いについて所要の見直しを行うものである。 意見募集期間は2019年2月18日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 一般正味財産を財源として保有する有価証券の評価損益の取扱い 一般正味財産を財源として保有する有価証券について評価損益を計上する場合の正味財産増減計算書の表示区分及び科目について、時価法を適用する場合の評価損は「経常増減の部」の評価損益等として、また、時価や実質価額の著しい下落に伴う減損処理による評価損は「経常外増減の部」の投資有価証券減損損失として処理する(Q39)。 2 外貨建有価証券 一般正味財産を財源として保有する外貨建有価証券の決算時の会計処理について、次のように整理している(Q41)。 参考資料として、「非営利法人委員会実務指針第38号「公益法人会計基準に関する実務指針」改正案Q41回答「決算時の主な処理」に関する概観図」が示されている。 3 税効果会計を適用する場合の財務諸表の表示方法 繰延税金資産については、その他固定資産の区分に表示し、繰延税金負債については、固定負債の区分に表示する。なお、繰延税金資産と繰延税金負債がある場合には、相殺して表示する(Q56)。 Ⅲ 適用時期等 2018年4月1日以後開始する事業年度から適用することが提案されている。 (了)
《速報解説》 関与税理士から還付不能消費税額についての損害賠償金を受け取った場合の課税関係について 東京局より文書回答事例が公表される ~非課税所得には該当せず不動産所得に係る総収入金額に含める~ 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成30年12月7日付(ホームページ公表は平成31年1月7日)で東京国税局から文書回答事例「関与税理士から損害賠償金を受け取った場合の課税関係について」が公表された。 この事例は、税理士のミスによる還付不能消費税額につき、納税者(個人)が関与税理士から取得した損害賠償金は、非課税所得には該当せず、受領することが確定した日の属する年分の損害を受けた所得に係る総収入金額に含めるべきである旨が照会され、東京国税局は貴見のとおりで差し支えないとする回答をしている。 本稿では、この文書回答事例の条文上の位置づけや注意すべき点について解説する。 2 原則的取扱い 損害賠償金の課税については、所得税法第9条及び所得税法施行令第30条に以下の規定があり、非課税とされている。 3 必要経費の補てん部分は非課税所得から除外 ただし、所得税法施行令第30条の柱書には以下のように記載されており、必要経費の補てん部分は非課税所得から除かれている。 4 今回の文書回答事例 今回、東京国税局から公表された文書回答事例における損害賠償金は、簡易課税制度選択不適用届出書の提出を失念したために、オフィスビル取得に係る消費税等相当額のうち一定額の還付が受けられなかった納税者が関与税理士から受け取ったものである。 そして、文書回答事例「3 事前照会者の求める見解となることの理由」の「(2)本件金額の性質」において、 とされている。 なお、今回の文書回答事例は納税者が個人の場合であったが、納税者が法人の場合であっても同様(受領することが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入する)である。 5 関与税理士側の処理 損害賠償金を支払った関与税理士側の処理としては、当然のことながら事業所得の必要経費(税理士法人の場合には損金)になる。なお、税理士職業賠償責任保険により、その一部が保険金で補てんされた場合には、支払った損害賠償金と受け取った保険金との差額が必要経費又は損金になる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(案)」が公表される ~社外取締役の活用と設置義務付け、役員報酬の情報開示の充実等~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は、平成31年1月16日に開催された第19回の会議において、「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(案)」(以下「要綱案」という)を全会一致で決定した。 なお、株主総会資料の電子提供制度に関する規律、株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書に関する規律について附帯決議がなされている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 要綱案に記載された主な項目は次のとおりである。 以下では主なものについて解説する。 1 株主総会資料の電子提供制度 株式会社は、取締役が株主総会を招集するときは、次に掲げる資料(「株主総会参考書類等」という)の内容である情報について、電子提供措置をとる旨を定款で定めることができるものとする。 この場合において、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りるものとする。 上記のほか、電子提供措置に関連する規定を設ける(株主総会の招集の通知等の特則、書面交付請求など)。 2 株主が提案できる議案の数の制限 取締役会設置会社の株主が会社法305条1項の規定による請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは、同項から3項までの規定は、10を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しない。 3 目的等による議案の提案の制限 会社法304条及び305条1項から3項までの規定は、次のいずれかに該当する場合には、適用しない。 4 取締役の報酬等 次に掲げる株式会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬等(会社法361条1項に規定する報酬等をいう)の内容として定款又は株主総会の決議による同項各号に掲げる事項についての定めがある場合には、当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項(報酬等の決定方針)を決定しなければならない。 ただし、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは、この限りでない。 5 金銭でない取締役の報酬等 会社法361条1項3号を改正し、次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとする。 上記のほか、取締役の報酬等である株式及び新株予約権に関する特則を設ける。 6 役員報酬に関する情報開示の充実 役員報酬等に関する次に掲げる事項について、公開会社における事業報告による情報開示に関する規定の充実を図る。 7 役員等に関する補償契約・保険契約 役員等(会社法423条1項に規定する役員等)に対して一定の費用等の全部又は一部を当該株式会社が補償することを約する契約(補償契約)や、保険契約について規定する。 8 社外取締役の活用等 株式会社(指名委員会等設置会社を除く)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができるものとする。 上記により委託された業務の執行は、会社法2条15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しないものとする。 ただし、社外取締役が業務執行取締役の指揮命令の下に当該委託された業務を執行したときは、この限りでない。 9 社外取締役を置くことの義務付け 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。 10 株式交付 株式会社は、株式交付をすることができるものとする。 この場合においては、株式交付計画を作成しなければならないものとする。 「株式交付」とは、株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいうものである。 法務省令で定めるものは、会社法2条3号に規定する会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合(会社法施行規則3条3項1号に掲げる場合に限る)における当該他の会社等とする。 株式交付計画では、株式交付子会社(株式交付親会社(株式交付をする株式会社をいう)が株式交付に際して譲り受ける株式を発行する株式会社をいう)の商号及び住所、株式交付親会社が株式交付に際して株式交付子会社の株式の譲渡人に対して当該株式の対価として交付する株式交付親会社の株式の数又はその数の算定方法並びに当該株式交付親会社の資本金及び準備金の額に関する事項などを定める。 上記のほか、株式交付の効力の発生、株式交付親会社の手続などについて規定する。 11 その他 社債の管理(社債管理補助者など)、責任追及等の訴えに係る訴訟における和解、会社の登記に関する見直しなどを行う。 (了)
《速報解説》 ASBJ、条件付取得対価に係る見直しなどを織り込んだ 「企業結合に関する会計基準」等を改正 ~平成31年4月1日以後開始事業年度実施の組織再編から適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成31年1月16日、企業会計基準委員会は、「企業結合に関する会計基準」(改正企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(改正企業会計基準適用指針第10号。以下「結合分離適用指針」という)を公表した。 これにより、平成30年8月21日から意見募集していた公開草案が確定することになる。公開草案に対する「主なコメントの概要とその対応」も公表されており、公開草案からの修正が行われている。 改正された企業結合会計基準等は次の事項を取り扱っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 条件付取得対価に関する改正 1 定義 条件付取得対価の定義を次のように改正し、対価の一部が返還される場合の取扱いを規定する。アンダーラインが改正部分である(企業結合会計基準注解(注2)(注3))。 2 会計処理 条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識する(企業結合会計基準27項(1)、結合分離適用指針47項(1))。 追加的に認識する又は減額するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理する(企業結合会計基準注解(注4)、結合分離適用指針47項(1))。 Ⅲ 結合分離適用指針に関する改正 1 事業分離等会計基準の記載内容との整合性 結合当事企業の株主に係る会計処理に関する結合分離適用指針の記載について、事業分離等会計基準の記載内容との整合性を図るため改正する(結合分離適用指針279項から289項)。 2 分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱い 分割型会社分割が非適格組織再編となり、分割期日が分離元企業の期首である場合の分離元企業における税効果会計の取扱いについて、平成22年度税制改正において分割型会社分割のみなし事業年度が廃止されていることから、結合分離適用指針の関連する定めを削除する(結合分離適用指針109項及び403項の削除)。 Ⅳ 適用時期等 (了)
《速報解説》 会計士協会、3月決算上場会社の会社法監査報告書日付の分布状況(2016-2018)を公表 ~期末監査の監査環境は依然厳しい状況、改元に伴う10連休への早期対応を促す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年1月16日、日本公認会計士協会は、「「2016年から2018年における3月決算上場会社の会社法監査報告書日付の分布状況について」の公表及び2019 年3月期決算に向けた対応に当たって」を公表した。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 調査・分析の結果及び2019年3月期決算に向けた対応 「2016年から2018年における3月決算上場会社の会社法監査報告書日付の分布状況について」として、調査・分析の結果が示されている。 公表情報を基に分析した上記の資料を見る限りで、2016年から2018年にかけて会社法監査報告書日付等は、従来と比較して大きな変化は生じておらず、依然として期末監査の監査環境は厳しい状況にあると推察されている。 2019年3月決算では、4月27 日から5月6日までが10連休となることから、改めて期末監査スケジュールの見直しを行う等の実務上の対応が必要になる監査業務が多いことが想定される。 このため、各監査業務における状況に応じて、早い段階で被監査会社と密接に協議するなど、2019年3月期の期末監査に向けた対応について記載されている。 (了)
2019年1月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.302を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第72回】 「社会通念から読み解く租税法(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅲ 社会通念という基準 これまで、興銀事件及び第二次納税義務の事例を素材に、判決において採用される「社会通念」たるものを考えてみた。 興銀事件では、社会通念というものが何を指しているか判然としなかったが、他方で、第二次納税義務の事例では、社会通念をいわば科学的な積上げ計算を行うための根拠として用いていたことが分かる。 このように「社会通念」という概念自体は必ずしも明確なものとはいえないし、その概念の使い方も多義的であろうが、その一方で、社会通念たる道具は、法の適用を社会的に承認させるためのツールであるとみることもできる。 中里実教授は、前述の興銀事件において鑑定意見書を提出した研究者の1人であるが、次のように述懐している。 中里教授は、法人税基本通達(昭和44年5月1日直審(法)25〔例規〕)の前文が、次のように述べている点を考慮して、それを貸倒れの認定に適用し、かかる判断基準として述べたというのである。 すなわち、法人税基本通達前文は次のように示している。 通達の運用は弾力的になされるべきところ、上記のとおり社会通念に反するような処理を厳に慎むよう命令が下されているのである。 ここでは、通達の適用においては、一旦社会通念たるフィルターを通して問題がないかどうかを考える必要性を説いているとみることもできる。 通達は法律ではないから、納税者に対して直接の拘束力を有するものではない。あくまでも法人税基本通達は、国税庁内部における租税法解釈の統一を図るために示達されているものであるが、この通達の適用が社会通念に反しているとすれば問題であるということが示されているものといえよう。 租税法律主義は、私たち国民が、国会という立法機関での議論を通じて制定された法律に対して「自己同意」をするところに着目し、そこに初めて納税義務を認めるという仕組みである。つまり、法律は自己同意のもとで私たち国民を拘束する。 他方、通達の起案者は私たち国民の代表者ではない。したがって、通達に示されたルールは私たち国民や裁判所を拘束するものでは決してない。そこが、法律と通達の異なるところである。 それでは、「社会通念」はどうであろうか。 社会通念は、私たち社会構成員が作り上げたいわば世の中における常識であるといえよう。そうであるとすれば、私たちは、社会通念に対して、ある種の自己同意をしているとみることができるのではなかろうか。社会通念の形成過程に私たち国民が関与しているとみることもあながち無理な理解の仕方とはいえまい。 このように考えると、単純に比較することはできないが、通達に対しては全くの第三者的な立場である私たち国民も、社会通念の形成に対しては何らかの寄与をしているとみることもできなくはないのである。 自己同意という視角から通達と社会通念を比較した場合、通達に比して、より社会通念につき、私たちの自己同意性を認めることができるのである。 そうであるとすれば、租税法律主義の思想の下、通達よりは、よほど社会通念の方が規範性の点で優位であるともいえ、少なくとも、通達が社会通念より上位に立って私たちの社会を縛っているとみることは妥当でなく、むしろ、社会通念の方に優位性を認めるべきであるといえよう。 そして、その私たち社会構成員が作り上げた社会通念たるものに従って裁判所が判断を下すこと、すなわち、社会通念が、法律に縛られる裁判官の判断枠組みに取り込まれること自体はなんら不思議なことではないのである。 本稿において示した事例のほかにも多くの租税事例において、裁判所が社会通念に従った判断を展開してきた。司法制度の中においても、私たちは、裁判官が社会通念に反する判断をしないことを求めるであろう。したがって、裁判官にも社会通念を念頭に置いた判断が求められるのである。 中里実教授は、「租税法の要件においては、法解釈に関しても、事実認定に関しても、かなり広範囲に『社会通念』という概念が用いられてきた」と指摘された上で、次のように述べられる。 結びに代えて 以上のとおり、自己同意性の観点から見れば、社会通念には通達よりも上位の規範性を認めることができるように思われる。そして、ひいては、社会通念に対して、私たち国民や裁判所を拘束する力を見出すこともできるのである。 更にいえば、法律というものが、そもそも社会通念を「法律」という形に一般化したものと整理することもできる。なぜなら、法律が社会構成員の総意によって形成されるのであれば、その法律自体に社会通念が反映されないはずがないからである。 この点は、櫻井敬子教授が、「裁判官は法律の形で一般化された社会通念というか、制度化された社会通念というものを解釈・適用しまして、これを認知する認知しないという最終的な決断をしている」とするとおりである(平成15年4月15日付け司法制度改革推進本部知的財産検討会第7回議事録)。 中里実教授が前述において指摘されるとおり、社会通念とは何も不確定概念ではない。社会通念自体が明確なものではないからといって、それが租税法律主義に反するものはない。また、課税要件の充足を論じるときに無視されてしかるべきものであるはずもない。 再説すると、社会通念は法律ではないものの、私たち社会構成員によって形成された観念であって、社会科学上の規範形成や事実認定に当然に入り込んでくるものであるということを改めて理解する必要があるのである。 租税法の解釈適用においても「社会通念」がしばしば顔を出すのは、それがいわば、常識的な判断を導くための重要な道具であるからにほかならない。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第1回】 「新しい事業承継税制と今まで進めてきた事業承継対策との関係」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕 相談内容 私は非上場会社Yの創業者オーナーである代表取締役のAです。現在に至るまで自分の息子Bを後継者と決めて、顧問税理士の助言を受けながら事業承継対策を進めてきました。 スキーム概要としては、私が1株のみの普通株式、Bが無議決権株式99株という株主構成の持株会社Zを設立し、その持株会社に私が持っているY社株式の80%を譲渡するというものです。 ところで、平成30年度税制改正において事業承継税制が改正され、今後10年間は非課税で株式を後継者に贈与・相続することができると聞きました。現在進めている事業承継対策をこのまま進めた方が良いのか、改正された事業承継税制を適用した方が良いのか悩んでいます。 【今まで進めてきた事業承継対策の概要】 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 特例措置の適用要件の判定 まず、特例措置の概要については、以下の記事をご確認ください。 次に、事業会社Yの株式を20%しか所有していないA氏が、そもそも特例措置の対象になるのかどうかについて、Y社株式の贈与を前提として以下の通り判定します(措法70の7の5①、措令40の8の5①一)。 〇A氏が特例措置の贈与者となるための要件(以下のすべてを満たす必要があります。) このように、A氏【個人】がY社の筆頭株主(後継者を除く)でないため、特例措置によりY社株式を後継者であるB氏へ贈与することはできません。 早期に事業承継対策を進め、持株会社を使った対策を行った非上場会社については、A氏のような状況になっているケースが多いように思われます。 [2] 検討 (1) A氏が特例措置の贈与者となるための要件 A氏が特例措置の贈与者となるためには、A氏がY社の議決権の50%超を保有する必要があり、以下の2つの方法が考えられます。ただし、①②ともに、実行時においてA氏に資金負担が発生します。 (2) 特例措置の取消リスク 特例措置(正確には「非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度の特例」)は、その納税額が猶予されているだけで、免除されているのではありません。過大にリスクを強調するわけではありませんが、一定の事由が生じた場合は、猶予されていた税額に利子税をあわせて納付しなければなりません。 贈与の場合、猶予された税額を納付しなければならない主な事由は以下の通りです(措法70の7の5③)。詳細については、以下の記事をご参照ください。 上の表における「特例経営贈与承継期間」とは、最初に特例措置の適用を受ける贈与に係る贈与税の申告期限の翌日から次のいずれか早い日までの期間をいいます(措法70の7の5②七)。 (3) 結論 上記(1)(2)から考えると、今回の相談内容の場合、A氏は特例措置の適用を目指すのではなく、今まで進めてきた事業承継対策を進めることの方が、資金負担・リスクの面で有利だと考えます。 現状では、A氏の所有するY社株式の残り20%をどうするか決めれば、Y社株式に係る承継は完了しますので、その対策に注力すべきでしょう。 なお、具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
平成30年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「平成30年に災害で被害を受けた場合の確定申告」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成30年も、各地で甚大な災害が発生した。災害により被害を受けられた方々に、心よりお見舞いを申し上げる。 確定申告実務の留意点【第2回】は、被災した個人が適用することのできる制度(主に雑損控除)について解説を行う。 なお、個人が被災した場合の税務上の全般的な取扱いについては、下記拙稿をご参照いただきたい。 【1】 はじめに 災害により住宅や家財等に被害を受けた納税者には、所得税法に定めのある雑損控除と災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(以下、災害減免法という)に定めのある所得税の軽減免除という2つの救済制度が設けられている(所法72①、災免法2)。 被災した納税者は、確定申告においていずれか有利な制度を適用することができる。 【2】 雑損控除と災害減免法による所得税の軽減免除(概要) 雑損控除と災害減免法による所得税の軽減免除の概要をまとめると、以下のとおりである(所法71、72、所令204、205、206、災免法2、災免令1、2)。 (※1) 棚卸資産、事業用の固定資産、山林、生活に通常必要でない資産(別荘、1個又は1組の価額(時価)が30万円を超える貴金属、書画、骨とう及び美術工芸品、レジャー用の車両等)は対象外。 (※2) 保険金、損害賠償金等により補てんされる部分の金額は除く。 (※3) 総所得金額等とは、合計所得金額に純損失・雑損失の繰越控除、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除及び特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除を適用して計算した金額(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用がある場合には、適用後の金額)をいう。 (※4) 「り災証明書」を添付又は提示することが望ましいとされている。 どちらの制度を適用するかは納税者の任意であるが、災害減免法による所得税の軽減免除は、損害金額の要件(損害金額が時価の2分の1以上)と所得の要件(合計所得金額1,000万円以下)を満たしていれば形式的に軽減免除額が算定される。要件を満たしている場合には、雑損控除よりも計算が容易である。 一方、雑損控除には繰越控除(雑損失の繰越控除)の制度があることから、損失の金額がその年の所得金額を超えるほど多額である場合には、雑損控除を適用した方が有利になると考えられる。 【3】 雑損控除の損失の金額の計算方法 災害により被害を受けた住宅、家財及び自家用車の損失額の計算は、原則的には、個々の資産ごとに被害に遭ったときの直前の時価又は簿価に基づいて計算することとされている(所基通72-2)。 しかし、住宅の主要構造部に損壊がある場合で、かつ、損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合には、「被災した住宅、家財等の損失額の計算書」を用いて損失の金額を計算することができる(損失額の合理的な計算方法)。 この計算書では、損失額を「住宅の損失額」、「家財の損失額」、「車両の損失額」の3つに区分して計算する。計算書を利用した損失額の計算方法を、以下に事例で示す。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【4】 雑損失の繰越控除 【3】の事例について、平成30年分の雑損控除の金額等を計算する(所法71、72、87、所令204)。 (※) 複数の所得控除がある場合には、まず雑損控除を行うこととされている(所法87①)。本事例では、総所得金額<雑損控除の額であるため、総所得金額分の額が控除される。 なお、雑損失の金額を翌年以後に繰り越す場合には、第一表及び第二表に加え、損失申告用の第四表を作成する。また、雑損失を繰越控除するには、雑損失の金額が生じた年分の確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出していることが要件となる(所法71②)。 * * * 【第3回】(最終回)は、確定申告に係る実務的な処理についてQ&A方式で解説する予定である。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q42】 「国外に金融資産を有する場合の国外財産調書の提出義務」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 国外財産調書制度 居住者(非永住者(※)を除く)で、その年の12月31日において、その「価額」の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合には、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下、「国外財産調書」)を、その年の翌年の3月15日までに、所轄税務署長に提出しなければなりません。 (※) 非永住者とは、居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人をいいます。 国外財産とは、「国外にある財産」をいい、「国外にあるか」どうかの判定は、財産の種類ごとに、その年の12月31日の現況で行います。 ① 「国外」にある財産とは 財産が「国外」にあるかどうかは、基本的には財産の所在の判定について定める相続税法第10 条の規定によることとされています。ただし、有価証券等が、金融商品取引業者等の営業所等に開設された口座に係る振替口座簿に記載等がされているものである場合等におけるその有価証券等の所在については、その口座が開設された金融商品取引業者等の営業所等の所在によることとされています。 主な財産の判定基準と具体例をまとめると、以下の通りです。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 国外財産の「価額」 国外財産調書の「価額」とは、その年の12 月31 日における「時価」又は時価に準ずるものとして「見積価額」によることとされています。 「時価」とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうとされていますが、国税庁がホームページで公表している「国外財産調書の提出制度(FAQ)」によれば、不動産等については専門家による鑑定評価額、上場株式等については金融商品取引所等の公表する12月31日時点の最終価格(12 月31 日における最終価格がない場合には、同日前の最終価格のうち同日に最も近い日の価格等)とされています。また、財産評価基本通達で定める方法により評価した価額としても差し支えないとされています。 国外財産の「見積価額」とは、その年の12月31日における財産の現況に応じ、その財産の取得価額や売買実例価額などを基に合理的な方法により算定した価額をいうとされていますが、国外送金法通達5-8において、例えば次のような方法が認められています。 国外財産の価額が外国通貨で表示される場合には、その年の12 月31 日における外国為替の売買相場(最終の対顧客直物電信買相場(TTB)又はこれに準ずる相場)により邦貨に換算します。 なお、5,000万円の基準は国外財産の価額に基づいて行われるため、例えば国外財産を借入金で取得した場合において、その国外財産の「時価」又は「見積価額」の価額の算定に当たり、借入金を差し引くことはできません。 ③ 提出先 所得税の確定申告をする必要がある者については、その納税地の所轄税務署長に提出します。一方、所得税等の確定申告をする必要がない者も、国外財産調書の提出は必要であり、その場合は住所地の所轄税務署長に提出します。 国外財産調書の提出に当たっては、国外財産調書に記載した財産の価額をその種類ごとに合計した金額を記載した「国外財産調書合計表」を添付する必要があります。 2 罰則等の規定 国外財産調書の提出制度においては、適正な提出を促進するため、過少申告加算税等の加重措置/軽減措置及び罰則規定が設けられています。 ① 過少申告加算税等の加重措置/軽減措置 国外財産調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合(重要な事項の記載が不十分と認められる場合を含む)に、その国外財産に関する所得税等の申告漏れが生じて修正申告等を行ったときは、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税又は無申告加算税(以下、過少申告加算税等)について、5%加重されます(加重措置)。 一方、国外財産調書を提出期限内に提出した場合には、国外財産調書に記載がある国外財産に関する所得税等又は相続税の申告漏れが生じたときであっても、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%軽減されます(軽減措置)。 一般的な過少申告加算税、無申告加算税の税率は以下の通りです(国税庁HP掲載の表を元に筆者一部加工)。 〔 〕書きは、加重される部分(過少申告加算税:期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分、無申告加算税:50万円を超える部分)に対する加算税割合を表す。 なお、年の中途においてその修正申告等の基因となる国外財産を有しないこととなった場合(例えば、その年中に国外財産である株式のすべてを譲渡しており、かつ、当該譲渡に伴い生じた所得について申告漏れがあったこと等)の過少申告加算税の加重措置の適用については、その年分の前年12 月31 日において所有する財産について提出すべき国外財産調書により判断されます。 提出期限後に国外財産調書を提出した場合であっても、その国外財産に関する所得税等又は相続税について、調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その国外財産調書は提出期限内に提出されたものとみなして、過少申告加算税等の特例を適用することとされています。 したがって、3月15日の提出期限後に国外財産調書を提出した場合であっても、国外財産調書を提出した後に自主的に修正申告書等(国外財産に係る申告漏れを是正するもの)を提出する場合は、国外財産調書不提出にかかる加重措置は適用されないことになります。逆に、国外財産に係る申告漏れを是正する自主的修正申告後に国外財産調書を期限後に提出した場合は加重措置の適用が認められるとされた裁決事例(平成29年9月1日裁決)があります。したがって、過年度分の国外財産調書及び修正申告書等の提出の順序には注意が必要です。 ② 正当な理由のない国外財産調書の不提出等に対する罰則 国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合又は国外財産調書を正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることがあります。 3 財産債務調書制度との関係 平成27年度税制改正により、財産債務調書制度が制定され、所得税の確定申告書を提出する義務がある者が、所得の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において3億円以上の財産又は1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合に、その明細書を税務当局へ提出することとされています。 国外財産調書の提出が必要な者についても、上記の要件を満たす場合は、あわせて財産債務調書の提出も必要になります(財産債務調書の提出を行う場合であっても、国外財産調書の提出は免除されませんので注意が必要です)。 国外財産調書及び財産債務調書の様式はそれぞれ以下の通りです。 4 本件へのあてはめ 本件については、国内外の証券会社口座において株式(日本株、外国株両方)を保有しているとのことですが、国外財産調書の対象となる国外財産は、国外の証券会社口座において管理されている株式(日本株、外国株問わず)となり、国内の証券会社口座において保有されている株式は対象外となります。その他の国外財産とあわせて、5,000万円超の価額の財産を有する場合は、国外財産調書の提出を要します。 (了)