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日本の企業税制 【第60回】「消費税率の引上げに向けた対策」

日本の企業税制 【第60回】 「消費税率の引上げに向けた対策」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇安倍首相による表明 10月15日、安倍首相は臨時閣議で、来年(2019年)10月1日に消費税率を、法律で定められたとおり、現行の8%から10%へ引き上げることを表明した。 今回の引上げ幅は2%であるが、前回5%から8%へ3%引き上げた際には、引上げ後の実質GDPが2四半期連続でマイナス成長となり、その大きな要因として、GDPの6割を占める個人消費が4-6月期及び7-9月期に前年同期比で2%以上減少したことが指摘されていた。 今回の引上げにあたっては、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう、全力で対応する」ことが改めて強調された。そして、来年度、再来年度予算において、消費税対応で臨時・特別の措置を講じて消費税率引上げによる経済的影響を平準化することとした。   〇骨太の方針2018 政府では、すでに6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太方針)を閣議決定しており、今回の臨時閣議での安倍首相の発言は、これまでの方針を確認し加速するものと考えられる。 骨太方針では、消費税率の引上げに併せて需要変動の平準化について「万全を期す」こととされ、具体的には、①消費税率引上げ分の使い道の見直し、②軽減税率制度の実施、③駆け込み・反動減の平準化策、④耐久消費財(自動車、住宅など)対策が掲げられている。 特に、駆け込み・反動減の平準化策としては、「消費税は消費に広く公平に負担を求める性格のものであることを踏まえた上で、2019年10月1日の消費税率引上げに当たり、税率引上げの前後において、需要に応じて事業者のそれぞれの判断によって価格の設定が自由に行われることで、駆け込み需要・反動減が抑制されるよう、その方策について、具体的に検討する」こととされている。 また、中小企業・小規模事業者に対する消費税の転嫁拒否等が行われないよう、「転嫁拒否等に対する監視、取締りや、事業者等に対する指導、周知徹底等に努め、万全の転嫁対策を講じるとともに、商店街の活性化、中小企業・小規模事業者のIT・決済端末の導入やポイント制・キャッシュレス決済普及を促進する」こととされている。   〇首相発言のポイント 駆け込み・反動減の平準化策に関して、今回の安倍首相の発言では、まず、「消費税引上げ前後に柔軟に価格付けができるよう、ガイドラインを整備」することが明らかになった。 8%への引上げの際に制定された「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」では、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する表示に係る事業者の遵守事項を定め、あたかも消費者が消費税を負担していない又はその負担が軽減されているかのような誤認を消費者に与えないようにするとともに、納入業者に対する買いたたきや、競合する小売事業者の消費税の転嫁を阻害することにつながらないようにするため、事業者が消費税分を値引きする等の宣伝や広告を行うことを禁止しているが、これはあくまでも表示の規制であり、価格設定に係るものではない。一方、今回整備することとされたガイドラインでは、価格設定が対象とされる。 次に、「消費税引上げ後の一定期間に限り、中小小売業に対し、ポイント還元といった新たな手法による支援を行う」ことが明らかになった。「ポイント還元」の具体的イメージはわからないが、骨太方針で示された「中小企業・小規模事業者のIT・決済端末の導入やポイント制・キャッシュレス決済普及を促進する」ことを受けたものと考えられる。 さらに、大型耐久消費財については、来年10月1日以降の購入にメリットが出るように税制・予算措置を講じることとされた。特に、自動車の保有に係る税負担の軽減について、今年末までに結論を出すよう、党の審議を要請している。 これら3点は骨太方針においても一定の記載があったものであるが、これらに加えて、防災・減災、国土強靭化のための緊急対策を講じることが新たに明らかになった。 (了)

#No. 290(掲載号)
#小畑 良晴
2018/10/18

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第3回】「租税法律主義の厳格さ」-「自律的」厳格さと「他律的」厳格さ-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第3回】 「租税法律主義の厳格さ」 -「自律的」厳格さと「他律的」厳格さ-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、租税法律主義について、これと並んで税法の基本原則とされる租税平等主義との関係を検討したが、今回は、同じく法律による行政を要請する法治主義との関係について検討することにしよう。 租税法律主義が法治主義の一場面、すなわち、租税の賦課・徴収の場面における法治主義の現れであることに、異論はなかろうが(【11】【12】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)、租税法律主義は、一般に、他の行政分野にはみられない独特の厳格な法治主義として、理解されている。租税法律主義の厳格さは、どのような考慮に基づくのであろうか。これが今回の検討課題である。   Ⅱ 租税法律主義の「自律的」厳格さ 旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁は、租税法律主義について、「憲法84条は、課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり、直接的には、租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが、同条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。」(下線筆者)と判示した。 この判決は、憲法84条が「国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則」(法治主義のうち法律の留保の原則)を租税について厳格化した形で明文化した理由を、特に明示的には示していない。もっとも、前記の判示が「租税について」の判示であることからすると、前記の判示は、憲法84条は納税の義務が憲法上の義務(30条)、しかも民主主義的租税観(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁では「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきもの」とする見地。第1回のⅢ2参照)の下で国民に対して課される義務であることを考慮して、法治主義を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである、という理解を示したものと解される。 そのような理解からすると、租税法律主義の厳格さは、租税法律主義の対象である憲法上の租税概念(前掲旭川市国民健康保険条例事件・最大判では「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてでなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付」。前掲大嶋訴訟・最大判も同旨)から導き出され、自律的に獲得されたものといえよう。租税法律主義のこの意味での厳格さ(「自律的」厳格さ)は、とりわけ①課税要件法定主義、②課税要件明確主義及び③合法性の原則において具体化されている。これらはいずれも租税法律主義の内容を構成する憲法原則である。 ①課税要件法定主義は、租税法律の規律事項に関する要請として、課税要件をはじめとして納税者の実体的・手続的権利義務に関わる事項はすべて法律で規定されなければならないとする憲法原則であり(【29】)、特に命令(行政立法)委任の場面で個別的・具体的委任を命ずる(【30】)という形で、厳格さを発揮する。個別的・具体的委任は、法律の委任に基づく行政立法における行政裁量(行政立法裁量)に対する厳格な拘束を意味する。 ②課税要件明確主義は、税法の法文の定め方(書き方)に関する要請として、法文の定めは一義的かつ明確なものでなければならないとする憲法原則であり(【32】)、税法の解釈、特に税法上の不確定法概念の解釈(【33】)の場面で税務行政の裁量(要件裁量)の否定(【34】)という形で、厳格さを発揮する。 ③合法性の原則は、税務行政の合法律性の原則とも呼ばれ、課税要件の充足によって租税法律上当然に成立した納税義務(税通15条1項参照)を租税法律に従って確定し、その確定した税額を租税法律に従って徴収しなければならないとする憲法原則であり(【37】)、納税義務の確定及び履行の場面で税務行政の裁量(効果裁量・行為裁量)の否定(【38】)という形で、厳格さを発揮する。 租税法律主義の厳格さについて更なる検討を要するのは、前記②課税要件明確主義に関して税法の解釈の場面で論じられる要件裁量の否定である。というのも、他の法分野におけると同様、税法の解釈においても、ある法規(特に不確定法概念をもって規定される法規)について複数の合理的な解釈の可能性が存在する場合があり得るが、その場合には税務行政に要件裁量を認めても、直ちに、租税法律主義の目的(第1回のⅡ参照)に反する恣意的・不当な課税につながることになるわけではないからである(【34】)。   Ⅲ 租税法律主義の「他律的」厳格さ では、要件裁量否定論は税法において成り立たないのであろうか。 確かに、租税法律主義(課税要件明確主義)の観点だけからは、前述のとおり、税法の解釈上複数の合理的な解釈の可能性が存在する余地を完全に排除することはできないであろう。しかし、その観点に加えて、租税債務関係説の観点をも加味すると、要件裁量否定論は成り立つように思われる(【12】)。 租税債務関係説は、国家と国民との租税法律関係(租税に関する権利義務の関係。【87】)を公法上の債権債務の関係として性格づけ、とりわけ納税義務を、その義務内容を定める法律要件(課税要件)の充足によって法律上当然に成立する一種の法定債務として、構成する考え方である。租税債務関係説は、ドイツにおいて、同説の登場前は支配的見解の地位を占めてきた租税権力関係説、すなわち、租税法律関係を権力関係(国家の優越的地位に基づく国民に対する一方的支配関係)として性格づけ、国家を代表する税務官庁の行政行為(財政下命)によって納税義務が賦課されるとする考え方に対するアンチテーゼとして、第一次世界大戦後ヘンゼル(Albert Hensel)らによって唱えられた考え方である(【13】【88】)。 わが国の現行税法は、租税債務関係説を基礎にして納税義務の成立を観念していると解される。というのも、国税通則法15条1項は、「国税を納付する義務(・・・・・・)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。」(下線筆者)と定めているが、これは、納税義務の成立について特段の要件を定めることなく、納税義務の成立をいわば「所与の前提」(法律上当然の前提)として、納税義務の確定について定めた規定であると解されるからである。 課税要件は、これに該当する具体的事実(課税要件事実)が発生し当該課税要件に包摂されることによって、充足されるとともに、その充足によって納税義務が法律上当然に成立することから、1個の具体的事実に対して課税要件と納税義務とが1対1の対応関係にあると考えられる(「1個の事実に対する課税要件と納税義務との1対1対応の考え方」。【12】)。納税義務の内容が金額(税額)で表示される以上、1個の具体的事実に対する1つの課税要件規定の適用により納税義務の内容として複数の異なる税額が生ずる余地はない(当然のことながら、金額には解釈の余地はなく〇円は〇円以上でも以下でもない)。このことは、私法上の契約において、両当事者の意思表示が合致し契約が成立した場合、その債務内容として複数の異なる金額が生ずる余地がないのと同じである。課税要件は約定債務における意思表示に相当するものである(【88】)。要するに、課税要件規定について複数の解釈可能性が存在する余地はあり得ないのである。 このように、租税法律主義は、租税債務関係説と結びつくことによって、課税要件規定について複数の解釈可能性の余地を認めず要件裁量を否定するという意味での厳格さを獲得することになる。租税法律主義のこのような厳格さは、租税債務関係説という別の(租税法律主義外在的な)考え方との結びつきによって獲得されるものであり、その意味で「他律的」厳格さということができよう。   Ⅳ まとめ 以上において、租税法律主義の厳格さには、憲法上の租税概念及び納税義務の考慮に基づく「自律的」厳格さと、債務関係説との結びつきによる「他律的」厳格さがあり、両者が重なり合うのは課税要件法の解釈の場面であることを明らかにした。その場面において租税法律主義の厳格さは要件裁量否定論に帰結する。 要件裁量否定論によれば、課税要件法の解釈は、不確定法概念を用いる課税要件規定の解釈も含め、法律問題として全面的に裁判所の審査に服するものとされるのである。このこと(全面的司法審査)こそが、要件裁量否定論の要諦である。 ※今回の検討に関する「補論」については第34回参照。 (了)

#No. 290(掲載号)
#谷口 勢津夫
2018/10/18

相続税の実務問答 【第28回】「死後認知があった場合の更正の請求」

相続税の実務問答 【第28回】 「死後認知があった場合の更正の請求」   税理士 梶野 研二   [答] 相続税の申告書を提出した後に、A氏の認知の裁判が確定したことにより法定相続人の数が増えたことで、相続税額が減少することとなった場合には、認知があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができます(参考図の①)。 また、認知により相続人となったA氏に対して価額弁償金を支払ったことにより相続税の課税価格が減少することとなった場合には、そのことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができます(参考図の②)。 なお、価額弁償金が確定した段階で、認知により相続人が増えたことに伴う更正の請求と、価額弁償金が確定したことに伴う更正の請求とを併せて行うこともできます(参考図の③)。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死後認知 民法は、子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができると定めており(民法787)、父が死亡した場合には、認知の訴えを提起することができるのは、その死亡の日から3年を経過する日までとされています(民法787ただし書き)。 また、認知の裁判があった場合には、その子の出生の時に遡って認知の効力が生じることとされています(民法784)ので、認知があった時に、その認知に係る親が死亡していた場合には、その死亡した親の相続人になります。しかしながら、認知された子は、第三者が既に取得した権利を害することはできないこととされています(民法784ただし書き)。そのため、認知の裁判が確定したときに、父の遺産が既に他の共同相続人によって分割されていた場合には、認知された子は、価額のみによる支払いの請求をすることとなります(民法910)。   2 申告書の提出期限内に死後認知があった場合の相続税の課税 被相続人の死亡後に認知の裁判を受けた子は、その被相続人の相続人となります。その結果、相続税の基礎控除額を計算する場合の相続人の数が増え又は減り(注)、また、相続税の総額を計算する場合の各相続人の相続分の割合が変わることとなり、さらに、死亡保険金や退職手当金等に係る非課税限度額が変わることとなります。相続税の申告書の提出期限内に、認知があった場合には、認知された子を相続人に含めて、上記の基礎控除額の計算等を行うこととなります。 (注) 例えば、配偶者及び2名以上の被相続人の兄弟姉妹(甥姪を含みます)が相続人である場合において、子が認知された場合には、相続人は配偶者と認知された子の2名のみとなりますから、認知があったことにより相続人の数は減ることとなります。 また、認知された子があるにもかかわらず、その認知された子を除いて行われた遺産分割協議は無効となりますので、遺産は分割されていない状態(未分割の状態)にあることになります。したがって、相続税の申告期限までに、あらためて認知された子を含めて遺産分割協議が行われない場合には、相続税法第55条の規定により、民法の規定に基づく相続分及び包括遺贈の割合に従って相続税の課税価格を計算し、申告を行うこととなります。   3 申告書の提出期限後に死後認知があった場合の相続税の課税 (1) 相続税の申告書の提出期限後に認知の裁判があった場合には、それにより相続税の基礎控除額、相続税の総額を計算する場合の相続分の割合及び死亡保険金や退職手当金等の非課税限度額が変わり、その結果、各相続人・受遺者の相続税額が減少することとなる場合が多いと思われます。認知があったことに伴い既に申告した相続税額が過大となったときには、認知があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、納税地の所轄税務署長に対して更正の請求をすることができます(相法32①二)。 (2) また、遺産分割後に認知された子は、他の相続人に対して、価額弁償を請求することができますが、当該請求に対して弁済すべき額が確定したときは、価額弁償をすることとなった相続人等は、そのことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、納税地の税務署長に対して更正の請求をすることができます(相法32①六、相令8②二)。 (3) 上記(1)の更正の請求と(2)の更正の請求は、異なった更正の請求の理由に基づくものであり、更正の請求をすることができる期限も異なります。したがって、認知された子が価額弁償を請求し、その金額が確定した段階で、更正の請求を行うとしたときに、既に(1)の理由に基づく更正の請求を行うことができる期限が徒過していることもあり得ます。   しかしながら、認知の裁判が確定した後、価額による弁償額の決定を経て一連の相続に関する手続きが終了することからすれば、当該弁償額が決定した段階で一括して更正の請求を行うことも納税者の常識的な判断として無視できないと思われます。   また、認知の裁判が確定したならば、通常、引き続いて認知された子から遺産の一定割合に相当する額が請求されることとなるため、2段階で更正の請求の手続きを取らなければならないことは、相続人に煩瑣な手続きを強いることとなります。   そこで、被相続人の死亡後に民法787条の規定による認知の裁判が確定し、その後に価額による弁償の額が確定した場合において、認知に関する裁判が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をせず、価額による弁償すべき金額が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に上記2つの事由を併せて更正の請求が行われたときには、いずれの事由についても更正の請求の期限内に更正の請求があったものとして取り扱われています(相基通32-3)。   4 ご質問の場合 A氏の認知の裁判が確定したことにより、お父様の相続人の数が2名から3名に増加しますので、これに伴い相続税の基礎控除額は4,200万円から4,800万円に増加し、また相続税の総額を計算する場合の相続人の相続分も変わることとなり、さらに死亡保険金や退職手当金等がある場合にはそれらに係る非課税限度額が増えることとなるため、A氏を相続人に加えないで相続税額を計算した場合(期限内申告)に比べてA氏を相続人に加えて相続税の総額を計算した場合の方が相続税額の総額は小さくなります。 こうして計算した相続税の総額を基にあなたとお母様の相続税額を計算した結果、それぞれの相続税額が減少することとなるときは、更正の請求を行うこととなります。 A氏が認知されたことを理由に更正の請求を行うことができるのは、あなた方がA氏の認知の裁判が確定したことを知った日が平成30年10月1日であるとすれば、その翌日から4ヶ月以内ということになります。 ただし、この期間内に更正の請求をせず、A氏が請求している価額による弁償金額が確定した段階で、あなた及びお母様が当該金額の確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、まとめて更正の請求を行うことも可能です。 (了)

#No. 290(掲載号)
#梶野 研二
2018/10/18

〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q12】「本税制の事前検討事項及び準備事項」

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q12】 (最終回) 「本税制の事前検討事項及び準備事項」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q12] 本税制の適用可否を判定するに当たり事前に検討すべき事項、又は申告時期までに準備すべき事項があれば教えてください。   [A11] 本税制の適用可否を判定するための情報のうち、前事業年度に係るものについては、決算を待つことなく入手することができます。これらの情報を早期に入手し、適用要件を満たすために必要な条件を検討することによって、本税制を確実に適用できるように行動をとることも可能です。 【解説】 本税制の適用実務上、適用要件の判定や控除税額の計算にあたり様々な金額を集計する必要があるが、税額計算の段階でこれらを一気に行おうとすると事務の渋滞が生じ、円滑な決算手続に支障をきたすおそれがある。また、事前に情報を収集することによって、本税制の適用可否について事前検討を行うことも可能となることから、情報収集の時期はできるだけ早いことが望ましい。 (1) 収集が必要となるデータ 本税制の適用を行う上で収集が必要となるデータには、税額控除の計算に必要なものと適用要件の充足性を判定するために必要なものがあり、さらに収集するデータごとに集計対象範囲が異なる。また、データによっては前年度のものをそのまま用いることができるものもあり、それらについては改めて収集する必要はない。 以上の観点から、収集が必要なデータを整理すると下表のようになる。 〔本税制の適用に当たり収集が必要となるデータの種類〕 (2) データ集計の順序 効率的なデータ集計の観点からは、給与等支給額及び教育訓練費の額について集計範囲を確定させるために「国内雇用者」の範囲を確定させることから始めることがよさそうである。これにより、国内雇用者に対する給与等支給額(雇用者給与等支給額)及び教育訓練費の額を集計することが可能となる。次に、国内雇用者から継続雇用者となる者を抽出し(その方法は後述)、継続雇用者に対する適用年度及び前事業年度の給与等支給額を集計する。 給与等支給額及び教育訓練費の額に関する実質的な集計作業は以上である。その他のデータは、前期の申告書のデータをそのまま用いることができるためである。ただし、比較教育訓練費又は中小企業比較教育訓練費の額は、新税制(賃上げ・投資促進税制)で新たに集計が必要とされているから、前期以前のデータについて早期に集計しておくことが望まれる。 このほかに別途、国内設備投資額及び当期償却費総額について集計が必要となるが、特に国内設備投資額については、対象となる国内資産の取得のつど、担当部署から情報の連携を受けて集計しておくことが望まれる。 集計すべきデータと情報源泉(ソースデータ)の関係性についてまとめると下図のようになる。情報収集漏れが生じていないかどうかの検討において参考にされたい。 〔集計すべきデータと情報源泉の関係〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 国内雇用者と継続雇用者 国内雇用者とは、法人の使用人(役員、役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のうち、その法人の有する国内の事業所に勤務する者であって、労働基準法第108条に定める賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の5③二、措令27の12の5④)。 また、継続雇用者とは、適用年度及びその前事業年度の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者のうち、雇用保険の一般被保険者に該当し継続雇用制度適用対象者を除いた者をいう(措法42の12の5③六、措令27の12の5⑭)。 これらの定義からも明らかなとおり、継続雇用者の範囲は、国内雇用者の範囲を絞り込むことによって得られるという関係にある。 これを踏まえ、人事情報として以下の情報について入手することが必要と考えられる。 そのうえで、国内雇用者のうちこれらに該当する者を除外することによって、継続雇用者の範囲を得ることができる(下図参照)。 〔国内雇用者と継続雇用者の関係〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4) 継続雇用者の範囲は年度開始時点である程度絞り込める 適用年度において継続雇用者に該当するためには、適用年度及びその前事業年度の期間の各月において給与等の支給を受けている必要があるが、このことは、適用年度開始時点において、継続雇用者に該当する者をある程度特定できることを意味する。 すなわち、前事業年度の期間の各月にわたり給与等の支給を受けていた者が(継続雇用者に該当する可能性のある者の)最大母集団となり、ここから、当事業年度において退職した者、雇用保険一般被保険者資格を喪失した者、継続雇用制度適用対象者及び国内雇用者に該当しなくなった者(役員就任や海外勤務)を除外することによって、最終的な継続雇用者の範囲が確定することとなる。 本税制の適用可否を事前検討する上では、まずは前事業年度のすべての期間在籍していた者を対象として、暫定的な継続雇用者比較給与等支給額を集計することとしておけば十分であろう。上述の通り、実際の継続雇用者の範囲はこれより絞り込まれることによって継続雇用者比較給与等支給額についても同様の絞り込みが生じる(暫定金額≧確定金額)。 本税制の適用可否の事前検討に当たり、暫定的な継続雇用者比較給与等支給額を基礎として、そこから3%以上(中小企業者等は1.5%以上)増加していることが確かめられれば、最終的な継続雇用者比較給与等支給額によっても当然この要件を満たすこととなる。 この関係を利用して、適用要件を満たすために必要な継続雇用者給与等支給額の総額を把握しておくことは有用であると考えられる。 (5) 国内設備投資額と当期償却費総額 設備投資に係る要件の判定に関し、「国内設備投資額」は固定資産台帳から集計することが確実であるが、仮に固定資産台帳の更新が適時に行われていない場合であっても、残高試算表や総勘定元帳などから国内資産の増加取引を把握し、その取得価額を集計することによって得ることができる。 また、「当期償却費総額」が確定する前であっても、前事業年度末の固定資産台帳に基づいて翌期償却見込額を集計することは比較的容易と考えられる。 そこで、前年度末のデータに基づく翌期償却見込額を「当期償却費総額」とした場合に、適用要件を満たすために必要な国内設備投資額を逆算し、これに適用年度に予定されている設備投資計画と照らし合わせることによって、設備投資に係る要件を満たすかどうかの事前検討を行うことができると考えられる。   (連載了)

#No. 290(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/10/18

企業の[電子申告]実務Q&A 【第7回】「義務化対象法人が書面で申告した場合の取扱い」

企業の[電子申告]実務Q&A 【第7回】 「義務化対象法人が書面で申告した場合の取扱い」   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● 電子申告の義務化は、申告方法をe‐Taxに限定するものですから、書面による申告書の提出は認められません。このため、電子申告の義務化対象法人が、法定申告期限までにe‐Taxにより申告書を提出せず書面により提出した場合には、その申告書は無効なものとして取り扱われることとなり、無申告加算税の対象となりますのでご注意ください。 なお、法定申告期限までに書面により申告書を提出した後、法定申告期限が過ぎた後でe‐Taxにより申告書を提出し直した場合も同様です。 (了)

#No. 290(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/10/18

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第7回】「低税率国の子会社に係る課税リスクの検討」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第7回】 「低税率国の子会社に係る課税リスクの検討」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社は、海外に子会社を有しています。現地の税率が日本よりも低い場合、子会社の所得が親会社の所属に合算されて課税される制度があると聞きましたが、その概要と留意点について教えてください。 [A] 内国法人が支配する外国子会社については、その所在地国における実効税率が低いなどの一定の要件を満たす場合、当該子会社の所得の全部又は一部が親会社の所得に合算され、日本で課税されることになります。 海外に子会社を有する場合、その適用要件を踏まえて、合算課税の適用の有無について検討することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 親会社である日本の内国法人が海外に子会社を有する場合、親会社と子会社はそれぞれ別の法人格を有しており、それぞれの居住地国で課税されるのが原則である。親会社の居住地国である日本が、子会社に対し居住地国として課税することはない。 そこで、子会社において適用される税率が日本よりも低い場合、企業としては、親会社ではなく子会社に、より多くの所得を帰属させようとする誘因が働くことになる。この点、企業が経済的な実態を適切に反映させない態様で、恣意的に多くの所得を税率の低い子会社に帰属させるとすれば、日本としては課税ベースが失われることになる。 このようなことから、一定の場合に子会社の所得を親会社の所得に合算して課税する制度(外国子会社合算税制、いわゆる「タックスヘイブン対策税制」)が設けられている。 この制度は、内国法人が直接又は間接に50%超の支配関係(実質的な支配関係を含む)を有する外国子会社について、適用対象となり得る。50%超の支配関係が認められる限り、直接の子会社のみならず、その子会社(孫会社)が含まれることになる。また、50%:50%の合弁会社であっても、双方の出資者が内国法人であれば適用対象となり得る。 実際に本制度が適用されるかどうかは、それぞれの子会社につき、下記のとおり、複数の異なるテストによって判定する。 ① 現地における税負担(税率テスト) ② 現地における経済活動の実態(経済活動テスト) ③ 取得する所得の性質(所得テスト) なおこの制度は近年の税制改正により、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から、制度の見直しが行われている。   2 税率テスト 子会社の所在地国における実効税率が30%以上の「高税率国」の場合、本制度の適用対象外となる。ここでの実効税率は実際の税負担割合をいうのであり、法定税率とは異なり得ることに注意が必要である。 実効税率が30%未満の場合、本制度の適用対象となり得る。ただし、子会社の所在地国における実効税率が20%以上の「中税率国」の場合、次のいずれにも該当しないことで、適用対象外となることが認められている。   3 経済活動テスト 子会社の所在地国における20%未満の「低税率国」の場合、子会社の事業活動が相応の経済的な実体を伴うものであることが必要であり、具体的には、以下の4基準をすべて満たさなければ、子会社のすべての所得は親会社の所得に合算されることになる(ただし例外として、一定の配当所得は合算の対象外となる)。   4 所得テスト 子会社の所在地国における実効税率が20%未満の「低税率国」の場合、経済活動テストをクリアしたとしても、配当、利子、ロイヤルティ、株式譲渡益(キャピタルゲイン)といった受動的な所得については、なお部分的な合算の対象とされる。 ただし、部分合算を免れるための例外要件が定められており、その要件に該当するかどうかを検討することが重要である。 例えば、以下の所得については、それぞれ次の要件を満たすことで部分合算の対象外となる。   (了)

#No. 290(掲載号)
#木村 浩之
2018/10/18

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第59回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第59回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第9章》 平成22年度税制改正) 3 清算所得課税の廃止 平成22年度税制改正により、清算所得課税が廃止され、通常の所得課税の対象になった。この点につき、『平成22年版改正税法のすべて』276頁では、事業を継続しているにもかかわらず、課税方式が転換し、経済実態に合わない課税関係になっている場合もあることから、解散の前後で課税方式が異ならないようにするためであると解説されている。 しかし、残余財産の確定の日に債務免除益が生じることから、税額が発生してしまうため、これを回避するために、従前の法的整理、私的整理で用いられていた期限切れ欠損金の損金算入の制度を、解散においても用いることとされた。   4 残余財産確定の場合の欠損金の引継ぎ 平成22年度税制改正では、100%子会社が解散し、残余財産が確定した場合には、当該100%子会社の繰越欠損金を親会社に引き継ぐこととされた。 この点につき、『平成22年版改正税法のすべて』284頁では、適格現物分配の制度が設けられたのが、他の組織再編成と足並みを揃えるためであり、残余財産が確定した場合には、特定の資産との結びつきが希薄であることを考えると、その移転資産の有無にかかわらず、合併の繰越欠損金の引継ぎと足並みを揃えるべきであったことを理由として導入された制度であると解説されている。   5 組織再編税制の見直し (1) 繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失の損金不算入 平成22年度税制改正前は、複数の支配関係がある場合に、いずれの支配関係発生日により5年継続支配要件の判定を行うのかが問題となっていた。この点につき、平成22年度税制改正では、いずれか1つの支配関係が発生してから5年を経過していれば、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失の損金不算入が課されないことが明らかにされた(『平成22年版改正税法のすべて』289頁参照)。 そして、新設法人との組織再編を行った場合には、設立の日から継続して支配関係がある場合にも、これらの制限が設けられないことになった。ただし、欠損金の受け皿法人を介することにより、支配関係前の繰越欠損金等の持込みを防ぐために、一定の制限は課されている(同書291頁参照)。 そのほか、事業を移転しない適格分割等を行った場合における移転時価資産が移転簿価資産を下回っている場合等の特例が設けられた。 (2) 分割型分割のみなし事業年度の廃止 『平成22年度版改正税法のすべて』297-298頁では、平成18年度税制改正により、資本金等の額を計算してから、利益積立金額を計算することになったため、分割型分割を行った場合において、利益積立金額の引継額を計算する必要はなく、資本金等の額を計算した残余として処理すればよくなったため、制度の簡素化のために、みなし事業年度を廃止したと解説されている。 『改正税法のすべて』では、このように説明されているが、実際のところ、みなし事業年度の設定に伴う実務の負担が重いことについての経済界の要請を受けたためであると考えられる。 (3) 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金、短期売買商品等の時価評価損益 平成13年当時では、期中の適格分社型分割を行った場合には、一括評価金銭債権に係る貸倒引当金、短期売買商品等の時価評価損益を期首に戻し入れた後の金額で引き継ぐこととされていたが、会計実務による処理を踏まえて、期中におけるこれらの損金算入、益金算入を認めることとされた(『平成22年度版改正税法のすべて』312頁)。また、適格分割型分割におけるみなし事業年度の廃止に伴い、適格分割型分割についても同様の制度となった。 (4) 無対価組織再編成 平成22年度税制改正では、無対価組織再編成を非適格組織再編成であると位置付けたものの、対価の交付を省略したと認められる場合には、適格組織再編成として処理することとされた(『平成22年度版改正税法のすべて』321頁)。 (5) その他 合併類似分割型分割の制度が廃止されたほか、完全支配関係、支配関係の定義が整備された。詳細な内容は、条文から明確であるため、本稿では解説を行わない。   6 みなし配当の生ずる取引に課する課税の適正化 平成22年度税制改正前は、みなし配当と株式譲渡損を両建てすることにより、法人税の負担を軽減することが可能であった。100%グループ内取引については、自己株式の取得等により生じた譲渡損益を損金の額又は益金の額に算入させないことで対応可能であるが、それ以外のものとして、①自己株式として取得されることを予定して取得した株式に係るみなし配当、②抱き合わせ株式の譲渡損益が挙げられる。 このうち、①については、みなし配当に相当する金額について、受取配当等の益金不算入の対象外としている。この点につき、『平成22年版改正税法のすべて』338頁では、 であると解説されている。 この場合の「予定」の意味するところについては、同書338頁にて、 と解説されている。 平成22年度税制改正前は、組織再編成の計画が公表されると、みなし配当と株式譲渡損失の相殺を目的として、市場から対象会社の株式を買い集め、反対株主の株式買取請求を行うという節税行為が行われていたが、本改正により、そのような行為は不可能となった。 そして、②については、合併法人が保有していた被合併法人株式については、現金交付型合併を行った場合であっても、株式譲渡損益を認識しないことになった。この点につき、『平成22年版改正税法のすべて』339頁では、 と解説されている。 平成22年度税制改正前は、合併法人が被合併法人の株式を買い集めた後に、現金交付型合併を行うことにより、みなし配当と株式譲渡損失を相殺するという節税行為が行われていたが、本改正により、そのような行為は不可能となった。 *   *   * 次回では、第10章として、平成23年度から平成28年度までの税制改正について解説を行う予定である。 (了)

#No. 290(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/10/18

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第1回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第1回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   -はじめに- 平成30年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」が公表された。 会計基準の公表又は改正は、多くの場合、経理部門が主導でその公表又は改正に対応すればよかったが、今回の場合は、そういうわけにはいかない。 今回の場合は、損益計算書のトップラインである売上に影響があることから、会計処理のみならず、業績管理、人事評価、内部統制、システムといった面にも影響が大きい。そのため、経理部門のみならず、営業部門、総務・人事部門、システム部門等も「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」について理解しておかなければならない。 そこで、本連載では「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」を詳細に解説していきたい。また、会計基準のみならず、税制改正についても解説する。 なお、本連載で使用する略称は、以下のとおりである。   1 「収益認識に関する会計基準」等の公表までの流れ 日本では、従来、収益認識に関する規定としては、企業会計原則の損益計算書原則(「売上高は、実現主義の原則(※)に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」というもの)及び工事基準、ソフトウェア実務報告に規定があるだけで、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで存在しなかった。 (※) 実現主義の原則とは、「財貨又は役務を提供し、現金又は現金等価物(売掛金等)を受領した時に売上を計上する」というものである。 一方、IASB及びFASBでは、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、IASBから平成26年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益(注)」が公表された。IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から適用されている 。 (注) 平成28年4月12日にIFRS第15号の明確化が公表されている。 この状況を踏まえ、ASBJでは、平成27年3月に開催された第308回企業会計基準委員会において、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後、平成28年2月4日に、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集(意見募集文書)」を公表した。 その後、意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、検討を重ね、平成29年7月20日に「収益認識に関する会計基準(案)」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」を公表した。 そして、平成29年10月20日までのコメント募集を終え、所用の修正等を経て平成30年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」が公表された。 なお、企業会計原則の損益計算書原則は、廃止されていないが、 「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」が優先して適用される(基準1)。   2 開発に当たっての基本的な方針 (1) 基本的な方針 収益認識基準等の開発にあたっての基本的な方針として、財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、収益認識基準等を定めている。 これまで日本で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で重要性などを踏まえた「代替的な取扱い」を追加している。 (2) 連結財務諸表における開発の方針 IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れている。 なお、収益認識基準等の適用上の課題に対応するために、代替的な取扱いを追加的に定めている。代替的な取扱いを追加的に定める場合、国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとすることを基本としている。 (3) 個別財務諸表における開発の方針 以下を理由に、基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定めている。   3 連結財務諸表を作成している場合の「収益認識に関する会計基準」等の適用対象 連結財務諸表を作成している会社の場合、会計方針は、原則、連結グループで統一する必要がある。そのため、連結グループ全体で収益認識基準等を適用する必要がある(ただし、非連結子会社で持分法を適用していない会社及び関連会社で持分法を適用していない会社は除く)。   4 「収益認識に関する会計基準」等の概要 (1) 収益認識基準等の適用範囲 収益認識基準等は、以下のものを除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(基準3、106)。 その他にも、以下の点について留意する必要がある。 (2) 収益認識基準等の構成 収益認識基準等は、IFRS第15号を基礎とした項目とそれ以外の項目で構成されている。以下の表の青の部分がIFRS第15号を基礎とした項目である。 (3) 収益認識のための5つのステップ 今までは、実現主義の原則により、各社が決めた、ある時点(又は期間)において収益を認識(売上を計上)していた。そのため、同じ業種であっても各社により、収益の認識時期が異なっている場合もあった。 今後は、収益認識基準等の適用により、全ての会社が以下の5つのステップに従って収益を認識することになる。この5つステップを踏んで収益の認識を検討するということに慣れなければならない。 (※) 履行義務とは、顧客との契約において、以下の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう(基準7)。詳細は「6【STEP2】履行義務の識別」を参照されたい。 (1) 別個の財又はサービス(又は別個の財又はサービスの束) (2) 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス) 5つのステップの基本的な設例は、以下のとおりである。 上記の設例を図示すると、以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4) 適用時期 収益認識基準等の適用時期は以下のとおりである(基準81~83)。 (5) 会計方針の取扱い 会計方針の取扱いは以下のとおりである(基準84)。 ① 適用に関する留意事項 強制適用の時期は、平成33年4月1日からであるが、[原則的な取扱い]の場合、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するため、平成33年4月1日より前の取引について、収益認識基準等に基づいて検討しなければならない。また、[容認処理]を採用しても、適用初年度の累積的影響額を、期首の利益剰余金に加減するためには、平成33年4月1日より前の取引について、収益認識基準等に基づいて検討しなければならない。 そのため、[原則的な取扱い]でも[容認処理]でも、収益認識基準等の検討は、平成33年4月1日以後の取引から始めれば足りるというわけではない。 ② 当期の決算状況の説明 [容認処理]の場合、P/Lの比較情報(前期の数値)が旧基準に基づく数値となるが、当期の数値は新基準に基づく数値となる。そこで、決算短信、有価証券報告書、事業報告などで当期の決算状況を説明するために前期比較を用いる場合、比較情報(前期の数値)についても新基準に基づく数値で算定することが必要になる。 ③ 会計方針の注記 会計基準等の改正に伴い会計方針を変更した場合、会計方針の注記が必要となる。具体的には、(ⅰ)会計基準等の名称、(ⅱ)会計基準の変更の内容、(ⅲ)影響額の注記が必要である(遡及基準10)。 (了)

#No. 290(掲載号)
#西田 友洋
2018/10/18

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《税効果会計》編 【第2回】「税効果会計の適用(2)」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《税効果会計》編 【第2回】 「税効果会計の適用(2)」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 前回は、税効果会計を適用する初年度の会計処理を取り上げました。 今回は税効果会計適用の次年度以後の会計処理をご紹介します。また、税制改正により税率が変更される場合の取扱いも説明します。 【設例2】 (1) 当社(3月31日決算、資本金30,000,000円)の×2年3月期(当期)における課税所得は、次のとおりです。 (2) 当期末貸借対照表の未払法人税等残高に未払事業税2,000,000円が含まれています。 (3) ×1年3月末の繰延税金資産と繰延税金負債は前回の【設例1】の金額とします。 (4) 簡便的に、×2年3月期の実効税率は35%ですが、その後×2年3月に国会で可決された税制改正法の新税率により、×3年3月期及びそれ以降の実効税率が34%になったとします。 (5) ×2年3月期の法人税等は、簡便的に7,700,000円とします。 1 仕訳 ×2年3月期の期末における仕訳は、次のとおりです。 (ⅰ) 前期末の繰延税金資産(固定)と繰延税金負債(固定)の相殺表示の戻入 (ⅱ) 未払事業税 (ⅲ) 賞与引当金繰入額 (ⅳ) 退職給付引当金繰入額 (ⅴ) 建物圧縮積立金の取崩 (ⅵ) 繰延税金資産(固定)と繰延税金負債(固定)の相殺表示 この極端な設例では、税効果会計を適用しない場合、×2年3月期の会計上の税引前当期純利益28,088,000円が前回の【設例1】の×1年3月期(9,488,000円)より増加しているにもかかわらず、法人税7,700,000円が×1年3月期(19,250,000円)よりも減少しています。 税効果会計を適用した場合、法人税等調整額2,661,040円(損)が追加計上され、「{法人税7,700,000円+法人税等調整額2,661,040円(損)}÷税引前当期純利益28,088,000円」は、36.9%と実効税率に近似します。 繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率が改正された場合、原則としてその修正差額を税率が変更された年度において、法人税等調整額を相手勘定として計上します。この設例では、×3年3月期及びそれ以降の実効税率の変更が、×2年3月に国会で可決された税制改正法の新税率によるので、×2年3月期において税率改正を反映します。 具体的には、×2年3月末の一時差異に新実効税率34%を乗じて当期末の繰延税金資産及び繰延税金負債を計上し、前期末の繰延税金資産及び繰延税金負債との差額の増減額を法人税等調整額として処理します。 当期における繰延税金資産及び繰延税金負債、並びに法人税等調整額は、次のとおりに集計されます。なお、交際費損金不算入額は永久差異のため、繰延税金資産として計上しません。   2 決算書 決算書の金額は、次のとおりです。 ×2年3月期 〈貸借対照表〉 〈損益計算書〉   3 損益計算書の当期純利益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 損益計算書の当期純利益から法人税申告書の課税所得を算出する際の法人税申告書別表四において、法人税等調整額2,661,040円を加算・留保します。 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 未払事業税の前期末残5,000,000円の減算留保、当期末残2,000,000円の加算留保は、記載省略しています。 ⑥の計=2,661,040円:法人税等調整額 ⑦の計=2,388,160円:繰延税金資産(固定) (了)

#No. 290(掲載号)
#前原 啓二
2018/10/18

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第7回】「「自分の見たものがすべて」の習性」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第7回】 「「自分の見たものがすべて」の習性」   公認会計士 石王丸 香菜子   *資料* 第2事業部では、Z社から注文を受けて、特注カラーのオフィス用品1,000個を製造したところである。Z社への販売価格は6,000,000円の予定であったが、出荷直前にZ社が倒産し、特注品を販売することは不可能になった。 特注品1,000個の製造に要した原価は以下の通りである。 (※) 固定費は、減価償却費などを作業時間に基づいて配賦したものである。 この件を聞いた第1事業部長は、第1事業部の古くからの得意先であるA社に対して、Z社の代わりに特注品をまとめて買い取ってもらえないか打診している。A社からは、この特注品に加工を追加するならば、価格次第で買い取ってもよいとの回答があった。追加加工には、変動費@1,200円×1,000個=1,200,000円がかかる。   *追加資料* 特注品は、そのままスクラップとして金属回収業者に1,000,000円で買い取ってもらうこともできる。 *  *  *   1 手元の情報だけに飛びつくと・・・ あなたが友人から、こんな相談を受けたとしましょう。 「彼と結婚したら幸せになれるかしら? 彼は、優しくて、お給料がよくて・・・。」 この相談を聞いたら、すぐさま「幸せになれそう!」と答えたくなりますね。友人からの情報は、「優しくて、お給料がよい」という限られたものなのですが、こうした情報が飛び込んできた時点で、ココロは反射的に、幸せな結婚生活を連想してしまうものです。 実は、「優しくて、お給料がよくて、でもお酒ばかり飲んでいて、ギャンブルが大好きなの。」という決定的な情報が隠れている(!)かもしれないのですが、ココロは、ある情報が与えられた時点で、直感的にすぐ反応してしまい、手元情報以外の情報を探し出した上での総合的な判断をしない傾向にあります。 このように、自分が入手した情報がすべてだと思い込んで、他の情報を入手しないようなココロの習性は、「what you see is all there is()」と呼ばれることがあります。   2 チャンスも原価です 第2事業部長とカズノ君も、特注品の原価データという手元情報だけに基づいて、A社への交渉価格を決めようとしています。しかし、特注品は、スクラップとして、金属回収業者に買い取ってもらうこともできるようです。これらの情報を総合的に考慮して、A社への交渉価格を考えてみましょう。 まず、カズノ君の言う通り、特注品の原価のうち固定費2,000,000円は、必ず発生してしまう一定額の費用を便宜上割り振ったものに過ぎないので、交渉価格を算出する際には、考慮するべきではない「埋没原価」です(固定費と埋没原価については、【第2回】でも取り上げています)。 さらに、実は、変動費3,000,000円も「埋没原価」にあたります。今回のケースでは、特注品を「これから作る」のではなく、「すでに作ってしまった」のですから、かかった費用について、今さらうんぬん言っても、もう取り返すことはできないからです。 したがって、特注品をA社に販売する際の交渉価格を決定する際には、これから生じるであろう追加加工費1,200,000円だけを考慮すればよいのです。 仮に、特注品をスクラップとして金属回収業者に1,000,000円で買い取ってもらう案がないとしたら、A社に対して1,200,000円以上の価格で交渉すればよいということになります。 しかし、特注品は、スクラップとして金属回収業者で買い取ってもらうこともできるという情報を入手しています。つまり、A社に買い取ってもらうということは、裏返せば、金属回収業者に買い取ってもらうチャンスを断念するということにほかなりません。そのため、この断念した金額1,000,000円も、A社への交渉価格を検討する際に考慮する必要があるのです。 このように、選ばなかった別の案を選択した場合に得られるであろう利益を、「機会原価」と呼びます(機会原価については【第3回】でも取り上げています)。 以上より、A社に対しては、追加加工費1,200,000円+機会原価1,000,000円=2,200,000円以上で価格交渉すべきです。A社への販売価格が2,200,000円に満たないならば、追加加工せずスクラップとして1,000,000円で買い取ってもらう方が得になります。 「埋没原価」や「機会原価」など、意思決定の際に把握する原価は、いわゆる原価計算とは別の次元で、必要に応じて断片的に計算・調査するものなので、まとめて「」と呼ばれます。こうした特殊原価の概念は、「〇〇という費用は常に埋没原価に該当する」というような固定的なものではなくて、意思決定の内容に応じて、その内容が変化することに注意が必要です。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 自分が入手した情報がすべてだと思いこみ、他の情報を入手しないまま、直感的に判断する傾向のこと。 ▷ 制度としての原価計算とは別に、意思決定の際に必要に応じて把握する原価の総称。意思決定の内容に応じて、集計する範囲や金額は異なる。 (了)

#No. 290(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/10/18
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