相続税の実務問答 【第30回】 「財産の取得の状況を証する書類 (相続分がない旨の証明書を提出する場合)」 税理士 梶野 研二 [答] 原則として、この「相続分がない旨の証明書」の添付のみでは、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4第1項)を適用することはできません。 ただし、この「相続分不存在証明書」が、お姉様が法定相続分を超える特別受益を受けているという事実に基づいて作成されたものであって、その特別受益の明細書や特例の適用を受ける土地の登記事項証明書など「相続分不存在証明書」に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類の提出があった場合には、それらの書類のすべてをもって、同特例の適用に必要な書類の添付があったものとして取り扱われるものと思われます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続分がない旨の証明書 共同相続人の中に、被相続人から民法第903条第1項に定められた特別受益を受けたことにより、相続分を有しない相続人がいる場合、被相続人から不動産を取得する相続人は、当該相続分を有しない相続人が作成した「相続分がない旨の証明書」(注)を登記原因を証する書類の一部とすることで、相続登記を行うことができます(昭和8年11月21日民事甲1314号民事局長回答、昭和28年8月1日民事甲1348号民事局長回答)。 (注) 「相続分がない旨の証明書」は、「民法903条により相続分がない旨の証明書」、「特別受益証明書」、「相続分不存在証明書」、「相続分皆無証明書」などと言われる場合もあります。 2 相続税の申告における添付書類としての「財産の取得の状況を証する書類」 相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する税額の軽減措置や租税特別措置法第69条の4第1項に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例等を適用するためには、「遺言書の写し、財産の分割の協議に関する書類(・・・省略・・・)の写し(・・・省略・・・)その他の財産の取得の状況を証する書類」を申告書に添付しなければなりません(相規1の6③一、措規23の2⑧一ハ)。 この「財産の取得の状況を証する書類」としては、財務省令に例示されている遺言書の写しや財産の分割の協議に関する書類(遺産分割協議書)の写しのほか、その財産が調停又は審判により分割されているものである場合には、その調停の調書又は審判書の謄本、その財産が相続税法の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされるもの(生命保険金や退職手当金など)である場合には、その財産の支払通知書等その財産の取得を証する書類が該当します(相基通19の2-18)。 1で述べた通り、「相続分がない旨の証明書」は、登記実務において登記原因を証する書類の一部として取り扱われているところですが、これが相続税の申告において上記の特例措置を適用するために添付が求められている「財産の取得を証する書類」に該当するかどうかが疑問となります。 この点について、一般的には、「相続分がない旨の証明書」は、財務省令に定める「財産の取得を証する書類」には該当しないものと考えられています。しかしながら、「相続分がない旨の証明書」を作成した相続人が、被相続人から法定相続分を超える特別受益を受けている事実があり、その事実に基づいて「相続分がない旨の証明書」が作成されたものであって、その証明書に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類(特別受益財産の明細を記載した書類及び登記事項証明書など各財産が相続人に名義変更されたことが確認できる書類など)の添付があった場合には、これらのすべての書類をもって「財産の取得を証する書類」として取り扱われることとされています(国税庁 質疑応答事例「配偶者に対する相続税額の軽減の規定の適用を受ける場合の「相続分不存在証明書」の適否」)。 3 ご質問の場合 お姉様がお母様から多額の贈与を受けていたため、お母様の相続について具体的相続分がないことから、あなたはお姉様の作成した「相続分がない旨の証明書」を登記原因証書の一部として、お母様名義の土地及び建物の相続登記を行うことができました。 しかしながら、あなたが相続により取得した土地について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しようとする場合、この「相続分がない旨の証明書」の提出のみをもって、「財産の取得の状況を証する書類」の提出があったとは認められません。 ただし、「相続分がない旨の証明書」に加え、お姉様がお母様から受けられた特別受益財産の明細を記載した書類やお姉様がお母様から相続分を超える金額の贈与を受けたことが確認できる書類、同特例を適用する土地の登記事項証明書などを併せて提出した場合には、これらのすべての書類をもって同特例を適用するために必要な「財産の取得の状況を証する書類」の提出があったものとして取り扱われます。 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第9回】 「一連の事業活動をグループ全体で遂行する場合の税負担の最適化」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本法人である当社は、海外(A国)の製造子会社で商品を製造した上で、海外(B国)の販売子会社を通じて各国で販売しています。 グループ全体での税負担を最適化するために留意すべき点について教えてください。 [A] 製造から販売に至るまでの一連の事業活動をグループ全体で遂行する場合、各国の子会社にそれぞれどのような機能を担わせることがグループ全体として最適であるかを検討することが重要です。 それに加えて、外国子会社合算税制や移転価格税制などの国際課税制度の適用関係について検討することも重要となります。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 海外での製造や販売などの国際的な経済活動を展開する企業にとって、現地に子会社を設立した上で、製造から販売に至るまでの一連の事業活動をグループ全体で統括して遂行することが効率的である。その際、まずは事業上の観点から、いずれの国の子会社がグループ内でどのような機能を担うかを検討することになる。 そして、グループ内の機能配分については、これに加えて、税務上の観点からの検討が重要となる。すなわち、グループ内においてどのように機能を分配するかによって課税関係が異なり、グループ全体の税負担が異なることになることから、どのようにしてグループ全体での税負担を最適化するかを検討することが重要である。 2 最適モデルの検討 グループ内における機能配分のあり方には様々なモデルがありうるが、多国籍企業に推奨される効率的なモデルの1つとして、プリンシパルモデル(principal model)と呼ばれるものがある。これはグループ内で中核となる法人に重要な機能を集中させるモデルである。 このモデルでは、製造から販売に至るまでの一連の事業活動において重要と考えられる機能を中核法人が担い、重要ではないと考えられる機能を製造子会社や販売子会社が担うことで、多くの所得を中核法人に帰属させることになる。 例えば、製造に関する機能のうち、特許・ノウハウの提供、原材料の供給、品質管理、生産調整といった重要な機能を中核法人が担い、製造子会社は中核法人から受注した製造加工の業務のみを行うことになる。また、販売に関する機能のうち、商標・ブランドの提供、営業戦略、広告宣伝、販売網の構築、在庫調整などの重要な機能を中核法人が担い、販売子会社は販売支援、顧客サービスなどの業務のみを行うことになる。 そして、このモデルでは、いずれの国に所在する法人を中核法人にするかということが重要となる。すなわち、中核法人には重要な機能が集中して多くの所得が帰属することになるため、これに有利な税制が適用される国を中核法人の所在地国として選定することが重要である。 3 国際課税制度の検討 税負担について検討するに当たっては、最適モデルの検討に加えて、国際課税制度の適用関係についてもあわせて検討することが重要である。特に、日本の親会社が海外の中核法人にグループ内の機能を集中させ、かつ、その所在地国で適用される税率が低い場合、外国子会社合算税制の適用対象となりうることに留意が必要である。 この点、中核法人の稼得する所得に適用される実効税率が20%未満の場合、同税制の適用除外のための基準を満たす必要がある。なかでも中核法人が各国の製造子会社や販売子会社の株式を保有する場合には、主たる事業が「持株事業」であるとみられないように確保することが重要となる。何が主たる事業であるかは、事業に従事する人員構成、資産構成、所得構成などが総合的に考慮される。また、主たる事業が持株事業に該当しうる場合であっても、中核法人が統括会社に当たる場合には適用除外が認められうるので、その要件を確保することが重要である。 また、外国子会社合算税制のほか、移転価格税制についても留意が必要である。移転価格税制では、各国に所在する子会社がそれぞれ担っている機能に応じて適正な所得を帰属させることが求められる。そこで、グループ内における機能配分のあり方について検討するに当たっては、中核法人に重要な機能を集中させるとともに、各国の子会社が実際に担う機能を分析した上で、それに応じた適正な所得を帰属させることが必要となる。 (了)
〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第2回】 「桃太郎と契約したイヌの貸借対照表はこうなる」 公認会計士 石王丸 周夫 1 桃太郎とイヌの「権利」と「義務」を把握する イヌ・サル・キジたちは、桃太郎の鬼退治についていくことを約束しました。この約束が「契約」であるということは、【第1回】で見たとおりです。 では、その契約は、収益認識の対象となるものでしょうか。 これが次に考えるべきことです。 さっそく、桃太郎とイヌ・サル・キジたちの契約内容を見ていきましょう。 契約内容を見極めるにあたって大事なのは、「権利」と「義務」を識別することです。 桃太郎の権利と義務を書き出してみます。 〈桃太郎の権利と義務〉 イヌ・サル・キジの権利と義務も書き出してみます。イヌ・サル・キジは、それぞれが桃太郎と同様の契約を締結しているとみなしますので、以下ではイヌを代表として例示していくことにします。 〈イヌの権利と義務〉 これらの権利と義務が表裏一体になっていることも確認しておきましょう。 もうひとつです。 すると、この契約は次のように整理することができます。 収益認識会計基準によれば、こうした条件を満たす契約は、収益認識の対象となります。 2 イヌの貸借対照表をイメージしてみる 桃太郎とイヌの契約が収益認識の対象であることが分かったので、次は、これをどうやって会計的にとらえるかを考えていきます。 さきほど、桃太郎とイヌの契約を「権利」と「義務」に分解して理解しましたが、「権利」と「義務」という言葉は、実は、貸借対照表と結びついています。 権利は「資産」に、義務は「負債」につながっているのです。 まず「権利」ですが、一般に、権利というのは、「勝ち取る」とか「獲得する」などと表現されます。これは「資産」のイメージと重なります。「資産」もまた、「取得する」と表現されるからです。 実際、企業が何らかの権利を取得した場合、何でもいいのですが、例えば特許権を取得したとしましょう。その場合、特許権は資産に計上されます。 こうした例から考えても、「権利」は「資産」ということになります。 次に「義務」です。一般に「義務」というのは、「負う」と表現されます。「親は子を養う義務を負っている」などといった文脈で使われます。「負う」という字は負債の「負」です。 負債の代表格である借入金、すなわち借金は、「背負う」と表現されます。また、会社は納税の義務を負っていますが、納税予定の額は、未払法人税等として負債に計上されます。 こうした例から考えても、「義務」は「負債」ということになります。 以上を踏まえて、イヌの貸借対照表を考えてみましょう。権利が資産、義務が負債です。 そうすると、「きびだんご受取権」が資産サイド(借方)に、「鬼退治同行義務」が負債サイド(貸方)に現れます。両者は均衡しており、資産と負債が両建てされているイメージです。 ただし、契約締結時においては、契約は未履行であり、権利と義務が実際に仕訳計上されるわけではありません。イメージとしては貸借両建てですが、会計的には相殺されて貸借ゼロとなります。 これが契約時における会計的な状態です。 この状態から段階を経て、次回以降、収益の認識へと進んでいきます。 ▷今回のまとめ 収益認識の対象となる契約は、その契約による「権利」と「義務」を見極めて、会計的に把握していきます。 (了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第10回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 18 買戻契約 (1) 買戻契約 買戻契約とは、企業が商品・製品を買い戻す義務(先渡取引)、企業が商品・製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合、又は、企業が顧客の要求により商品・製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合をいう。 買い戻す商品・製品には、以下の場合がある(適用指針153)。 会計処理は「先渡取引及びコール・オプション」の場合と「プットオプション」の場合で別に検討する必要がある。 ① 先渡取引及びコールオプションの場合 企業が商品・製品を買い戻す義務(先渡取引)又は商品・製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合、顧客は当該商品又は製品に対する支配を獲得していない(適用指針69)。そのため、買戻契約の場合、通常の取引と同じように収益を認識することはできない。 まず、当初の販売価格と買戻価格を比較する。なお、買戻価格を販売価格と比較する際には、金利相当分の影響を考慮する(適用指針69)。比較した結果、以下のように会計処理する(適用指針69、70)。 なお、オプションが未行使のまま消滅する場合、コール・オプションに関連して認識した負債の消滅を認識し、収益を認識する(適用指針71)。 ② プット・オプションの場合 企業が顧客の要求により商品・製品を買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合、以下のとおり、会計処理する。 (ⅰ) 買戻価格と当初の販売価格の比較 買戻価格が当初の販売価格より低いかどうかにより、会計処理が異なるため、まず、買戻価格が当初の販売価格より低いかどうか比較する(適用指針72、73)。 買戻価格を販売価格と比較する際には、金利相当分の影響を考慮する(適用指針72、73)。 (ⅱ) 買戻価格が当初の販売価格以上の場合 買戻価格が予想される時価よりも高いかを判定する。買戻価格が予想される時価よりも高い場合、金融取引として会計処理する(上記①「商品・製品の買戻価格が当初の販売価格以上の場合」と同様)。一方、買戻価格が予想される時価以下の場合、下記(ⅲ)を検討する(適用指針73)。 (ⅲ) 買戻価格が当初の販売価格より低い場合 顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合、リース基準に従ってリース取引として会計処理する。したがって、買戻部分は契約負債(=買戻価格)として認識し、販売価格と買戻価格の差額を前受リース料等で認識する。そして、前受リース料等は、期間に応じて収益を認識する。 一方、重要な経済的インセンティブを有していない場合、返品権付きの販売(13.(連載第8回)参照)として会計処理する(適用指針72)。 重要な経済的インセンティブを有しているかどうかの判定にあたっては、買戻価格と買戻日時点での商品・製品の予想される時価との関係やプット・オプションが消滅するまでの期間等を考慮する。例えば、買戻価格が商品・製品の時価を大幅に上回ると見込まれる場合には、顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していることを示す可能性がある(適用指針72)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 なお、オプションが未行使のまま消滅する場合には、プット・オプションに関連して認識した負債の消滅を認識し、収益を認識する(適用指針74)。 (2) 買戻契約(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 19 有償支給取引 (1) 有償支給取引 有償支給取引とは、企業が対価と交換に原材料等(支給品)を支給先に譲渡し、支給先における加工後、支給先から支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む)を購入する取引をいう(適用指針104)。 ① 支給品を買い戻す義務の有無の判断 有償支給取引に係る会計処理にあたっては、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かによって、会計処理が異なる。そのため、まず、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する(適用指針104)。 ② 企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合 有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は支給品の消滅を認識するが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない(指針104)。 ③ 企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合 有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しない。しかし、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。なお、この場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない(適用指針104)。 (2) 有償支給取引(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 20 委託販売契約 (1) 委託販売契約 委託販売契約とは、自社が商品・製品を最終顧客に販売するために、販売業者等の他の当事者に商品・製品を引き渡し、代わりに販売してもらう契約である。 契約が委託販売契約であることを示す指標には、例えば、以下の(ⅰ)から(ⅲ)がある(適用指針76)。 ① 収益の認識時点 自社から他の当事者に商品・製品を引き渡した時に、他の当事者が商品・製品に対する支配を獲得していない場合、「委託販売契約として」他の当事者が商品・製品を保有している可能性があるため、他の当事者への商品・製品の引渡時に収益を認識しない(適用指針75)。つまり、最終顧客に販売した時点で収益を認識する。 (2) 委託販売契約(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 21 請求済未出荷契約 (1) 請求済未出荷契約 請求済未出荷契約とは、企業が商品・製品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品・製品の物理的占有を保持する契約である(適用指針77)。 ① 収益の認識時点 商品・製品を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたっては、顧客が当該商品・製品の支配をいつ獲得したかを考慮する(適用指針78)。具体的には、請求済未出荷契約では、一時点で充足される履行義務の規定(【STEP5】参照、基準39、40)を適用したうえで、以下の(ⅰ)から(ⅳ)の要件(請求済未出荷契約の支配要件)のすべてを満たす場合、顧客が商品・製品の支配を獲得しているといえるため(適用指針79)、その時点で収益を認識する。 ② 残存履行義務 請求済未出荷の商品又は製品の販売による収益を認識する場合には、残存履行義務(例えば、顧客の商品又は製品に対する保管サービスに係る義務)を有しているかどうかを、【STEP2】(基準32~34)に従って判断する(適用指針160)。残存履行義務がある場合、履行義務に取引価格を配分する必要がある。 (2) 請求済未出荷契約(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 22 工事損失引当金 (1) 工事損失引当金 工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(工事損失)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する(適用指針90)。受注制作のソフトウェアについても、同様である(適用指針91)。 (2) 工事損失引当金の表示(適用指針106) (3) 従来との相違点 上記(1)及び(2)は、従来と変わりはない。 (了)
企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第9回】 「ココロのアンカーにご用心②」 公認会計士 石王丸 香菜子 *資料*(前回と同じ) 第1事業部では、オフィス向けのキャビネットを製造・販売している。最大で6,000個を製造することが可能だが、今後1年間の製造・販売予定は5,000個である。キャビネットの売価と原価は以下の通りである。 第2事業部では、整理収納トレーを製造・販売している。最大で6,000個を製造することが可能だが、今後1年間の製造・販売予定は5,000個である。トレーの売価と原価は以下の通りである。 先日、第1事業部の得意先であるS社より、キャビネット1個にトレー1個を組み込んだ多機能キャビネットを、1,000個納入してもらえないかと予定外のオファーがあった。S社からの引き合い価格は、1個当たり7,500円である。キャビネットにトレーを組み込むためには、第1事業部で1個当たり200円の変動費が追加で発生する。 事業部間の取引は、事業部間で売買したものとして扱う。S社からのオファーを受ける場合、第1事業部は第2事業部からトレー1,000個を購入することになる。 *仮定*(上記資料からの変更点) 仮に、第2事業部の今後1年間の製造・販売予定が、フル稼働を前提とした6,000個なら、内部振替価格をいくらに設定すべきだろうか。 * * * 1 布の縁取りにはなぜ「バイアス」テープを使うのか 男性にはなじみが薄いかもしれませんが、ランチョンマットなどの布製小物を作る際に縁取りに使うテープを、「バイアステープ」と言います。生地は、縦方向に伸びにくく、横方向に伸びやすい性質があります。バイアステープは、この性質を利用して、生地を“バイアス”(=斜め)に裁断して作られているため、伸縮自在で、小物の形に合わせて縁取ることができるのです。 心理学では、「」という言葉が使われることがあります。評価や判断が、無意識のうちに不合理にゆがんだり偏ったりする現象全般を指します。評価や判断が知らず知らずのうちに、斜めになってしまうということですね。 これまで紹介したアンカリング効果(前回参照)やフレーミング効果(【第5回】参照)などは、いずれも認知バイアスの例です。私たちのココロは、バイアステープ同様、先入観や常識などに合わせて(?)判断や評価を不合理にゆがめてしまう傾向にあります。 カズノ君も、前回決定した3,100円がアンカーとなって、判断にバイアスが生じそうですが、異なる仮定のもとでの合理的な内部振替価格はいくらでしょうか。 2 フル稼働時には、機会原価をお忘れなく! 第2事業部のトレーが人気で、最大製造能力6,000個を上回る需要があり、フル稼働で6,000個の製造・販売を予定するケースを考えます。この場合、1,000個を第1事業部に内部販売すると、この分について直接外部に販売するチャンスを断念することになります。 したがって、S社からのオファーを引き受けるか否かの意思決定にあたっては、第2事業部が外部販売することで得られるはずだった利益(機会原価(【第3回】参照))についても、原価に含めて考える必要があります。前回同様、まずは事業部の垣根を取り払って、PN社全体として、S社からのオファーを引き受けるべきか否かを考えます。 【PN社全体の差額利益】 (※) 第2事業部がトレーを直接外部販売する場合、売価@4,200円-変動費@2,500円=@1,700円の利益を得られる。 PN社全体で考えると、△@500円×1,000個=△500,000円の損失が生じるので、オファーを受けるべきではありません。 次に、第2事業部から第1事業部への適切な内部振替価格を考えます。第1事業部長が、「オファーを断る」という意思決定をするように誘導できる内部振替価格を設定する必要があります。 仮に、内部振替価格を外部販売価格と同じ@4,200円とする場合、第1事業部長はどのような意思決定を行うでしょうか。 【第1事業部だけの差額利益】 外部販売価格と同じ@4,200円で第2事業部からトレーを購入する場合、第1事業部では△@500円×1,000個=△500,000円の損失が生じます(全社ベースで生じる差額損失と同額です)。この場合、第1事業部長はオファーを断るはずであり、全社ベースでの正しい意思決定と同じ意思決定に誘導することができます。 一方、第2事業部としては、第1事業部に対しても外部と同じ@4,200円で販売できるなら、現状と同じ利益を得ることができるのですから、第2事業部の業績には影響がなく、どちらでも構わないということになります。 以上より、第2事業部がフル稼働しているケースでは、外部販売価格@4,200円を内部振替価格とするのが合理的です。このように、内部振替価格に外部(=市場)への販売価格を利用することを「」と呼びます。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 評価や判断が、無意識のうちに不合理にゆがんだり偏ったりする現象全般のこと。 ▷ 内部振替価格に市場への販売価格を用いること。供給事業部側がフル稼働の場合には合理的。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編- 弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 高橋 康平 ←(前回) | (次回)→ 《第7章》 -ストラクチャー及び契約条件- 【第8回】 「M&Aのストラクチャー及び特徴的な契約条件の留意点」 1 法務デューデリジェンスの目的 法務デューデリジェンスは、首尾よくM&Aをクロージングするために対象会社に関する法的問題点全般を洗い出すために行われるものであり、その究極的な目的は、買主側にとってM&Aのクロージングが可能かどうか、可能であるとしてどのようなM&Aにすべきか、という点を判断することであるといっても過言ではない。 そのため、M&Aのクロージング準備を効率的ならしめるという観点からは、弁護士が粛々と法務デューデリジェンスを進めるだけでなく、買主側がどのM&Aストラクチャーを選択すべきか、契約条件をどのようにすべきか意識しつつ、法務デューデリジェンスを担当する弁護士との間で買主側の意向について情報共有を図りつつ行うことが望ましいといえよう。 本稿では、買主側と弁護士が適切な情報共有を図るための前提となるM&Aの主たるストラクチャーや特徴的な契約条件を紹介するとともに、筆者の経験等からその留意点を簡潔に説明することとしたい。 2 M&Aのストラクチャー 主たるM&Aのストラクチャーは下表のとおりである。買主側の担当者としては、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割、株式交換及び株式移転がどのようなストラクチャーなのか、そのイメージや特徴を掴んだうえで、どのストラクチャーを選択する可能性があるか念頭に置きながら法務デューデリジェンスを行うことが望ましい。 上記に列挙したストラクチャー以外にも、対象会社の新株発行や自己株式処分の割当を引き受けるというシンプルな方法もあり、また、上記に列挙したストラクチャーを組み合わせた複雑なスキームを作ることもあり得るが、その選択を行うに当たっては、買主側の利益を最大限に引き出すために慎重に検討する必要がある。最も典型的な検討点は、事業譲渡を選択する場合のメリット・デメリットである。 事業譲渡の場合、買主側が承継対象資産・負債等を選別できるというメリットがある一方で、承継のための個別の移転手続や対抗要件具備手続が必要となるというデメリットがある。M&Aの経験者からすれば当然の検討点だと思われがちだが、対象会社から買収会社への契約の移転・承継を行うためには契約の相手方の了承が必須となり、許認可の移転・承継を行うためには([法務編]【第7回】で触れたように)官公庁に対する事前の調査が必要となる点に留意が必要である。他方で、承継対象資産・負債等が選別できるというメリットは、会社分割を選択した場合に濫用的などと誹りを受けないという観点からも大きなものであり、悩ましい点である。 また、事業譲渡を選択した場合には、従業員を無事に承継できるかという点も非常に悩ましいといえよう。M&Aに反対の立場をとっている従業員らは、殊更、買主側への移籍に難色を示すことがあり(従業員との関係は雇用契約であるため、承継のためには従業員から個別に同意を得る必要がある)、当該従業員らが主体となって、割増賃金(残業代)を支払うよう求めたり、退職金の一時支払を求めるなどしてM&Aのクロージングを揺さぶるという事態に発展することも考えられよう。 しかも、往々にして、M&Aに反対する従業員らは、承継する事業に関してキーパーソンであることも多く、当該従業員らの協力を得られなければ、事業の価値が毀損するリスクもはらんでいることがある。このような場合、事業譲渡のストラクチャーを選択すること自体を避けるべきという判断もあり得ることから、買主担当者としては、実際に法務デューデリジェンスの現場でキーパーソンにインタビューする弁護士にもストラクチャーに関する意向を伝えておき、キーパーソンの雰囲気について(可能な範囲で)フィードバックを受けておくことも考えられるだろう。 3 契約条件 買主側の担当者としては、ストラクチャーに加えて、M&Aに特徴的な契約条件を理解したうえで、法務デューデリジェンスの段階からどのような契約条件を組み込むのか意識しておくことも肝要である。一般論としては、法務デューデリジェンスを担当した弁護士がクロージングへ向けての契約締結交渉を担当することも多いと思われるが、契約条件を弁護士任せにしていては、よりよいM&Aのクロージングは迎えられないだろう。 以下では、意識しておいた方がよいと筆者の考える契約条件をいくつか紹介する。 (1) 表明保証条項 表明保証とは、契約の一方当事者が他方当事者に対し、契約に関する事実関係及び法律関係について、それが真実かつ正確であることを表明し、保証することを指す。M&A契約では、ほぼ確実といってよいほど定めのある条項である。 法務デューデリジェンスに限らず、買主側にとって、対象会社を調査する時間には限りがあることから、調査を尽くせなかった部分に関する事項や潜在的な影響を測りかねるリスクが検出される場合に、そのリスク低減を表明保証条項で補うことが期待できる。M&A契約の当事者が表明保証した内容に違反した場合は、相手方当事者に補償の義務が発生し、場合によっては契約そのものを解除することもできる。 なお、表明保証条項に違反した場合に備えて、近年は日本でも表明保証保険が導入・活用されるようになってきたので、取引規模の大きいM&Aでは表明保証保険への加入も検討すべきだろう。 (2) MAC(Material Adverse Change)条項 MAC条項は、対象会社の事業等に重大な悪影響(=Material Adverse Change)を及ぼす事由が発生した場合に、買主に取引のクロージングを拒否する権利が付与され、M&Aから撤退することができる旨を定めた条項である。 法務デューデリジェンスの結果次第では、潜在的な影響を測りかねるリスクが検出されることがあるものの、限りある時間でそのリスクを十分に調査・分析することは難しい。とはいえ、顕在化していないリスクがあるからといって(法務デューデリジェンスにおいては多かれ少なかれ、一定のリスクは検出されるものである)、M&Aのクロージングそのものを諦めるという判断をすることもまた難しいことから、買主側としては、万が一に備えて、リスクを低減するためにMAC条項を導入し、その定義もできる限り広くしておきたいところである(一方、当然のことながら、売主側としては、MAC条項の導入は拒否したいはずである)。 (3) 価格調整・アーンアウト条項 M&A契約のうち最も重要な項目は「価格」である。企業の価値は、その日々の活動によって刻一刻と変化することから、M&A契約において価格を決めてしまうことが難しい場合もある。価格調整条項とは、そのような場合に、クロージングまでの対象会社の価値変動に基づいて価格を調整する条項であり、とりわけ、クロージング後の業績等一定の基準に基づいて価格調整を行う条項をアーンアウト条項と呼ぶ。 アーンアウト条項が定められる場合には、売主側がクロージング後も対象会社の経営に関与するという定めがおかれ、売主側と買主側の役員の割合はほぼ半数になることが多い。そして、売主側と買主側の経営方針に対立が生じた場合には、経営判断ができないといういわゆる「デッドロック」状態が作出され、紛争を防止するために導入した条項が新たな紛争を生むということもある。 そのため、アーンアウト条項を導入する場合は、日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、「デッドロック状態」になった場合に売主側に紳士的な譲歩・再検討を行うインセンティブを与える事実上の効果を与えるエスクロー条項(中立的な第三者に一定期間価格の一部を預託するなどして、事実上、買主が支払を留保すること)を活用することも検討に値するのではないだろうか。 (4) 小括 そのほかにも、売主側と買主側の関係等によっては、表明保証には至らないレベルの誓約事項を定めたり、売主側に競業避止義務を課することも考えられる。 いずれにしても、法務デューデリジェンスの結果が出たあとは、M&Aの契約締結交渉が待っていることから、買主側のリスクや価格に関する考え方をあらかじめ法務デューデリジェンスを担当する弁護士に対して共有しておくことが望ましい。 4 さいごに 専門家、特に弁護士に任せてしまうだけの法務デューデリジェンスは十分に機能せず、買主側の担当者が積極的かつ機動的に関与することが望ましいことはいうまでもない。そのような関与をするためには、買主担当者がM&Aのストラクチャーを理解し、クロージングまでの青写真を描いて弁護士と共有することが大切であり、それがM&Aの成功の秘訣であるともいえよう。 そのような積極的な関与があれば、法務デューデリジェンスを担当する弁護士としても、買主側に対して実効性のある現実的な助言をすることができ、ひいては関係当事者が理想とするクロージングを実現することができるのではないかと筆者は考える。 本連載の読者が法務デューデリジェンスの本質を十分に理解し、たくさんのM&Aを成功に導いてほしいと願う次第である。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第8回】 「共済制度の利用と効果」 税理士法人トゥモローズ 前回まで2回にわたり生命保険を使った対策について解説を行ったが、今回は生命保険に類似する制度として、共済制度について確認していきたい。共済制度も生命保険同様、中小企業経営者の老後資金計画に密接な制度であり、生命保険との違い等にも着目しながら解説する。 1 共済とは 共済とは「相互に助け合い、力を合わせてことをなすこと」を意味するが、保障事業としての共済は、こくみん共済、都民共済、JA共済など特定の団体内の構成員のための保障制度となっている。一見、中小企業経営者の老後資金とは関係ない制度とも思えるが、中小企業経営者の退職金として活用できる共済も存在する。 2 生命保険との違い 共済も生命保険もいざというときの保障という点では類似しているが、下記に掲げるような違いも多々あり、顧客である中小企業経営者のニーズを適切に把握し、経営者の状況に合致した商品を提案できるように心掛けたい。 3 中小企業経営者の老後資金向け共済 中小企業経営者の老後資金のための共済といえば、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営する、小規模企業共済であろう。今回は当該共済のポイントと概略を解説したい。 (1) 小規模企業共済とは 小規模企業共済とは、国の機関である中小機構が運営する小規模企業の経営者や役員のための制度であり、経営者や役員の退職後の老後の生活資金を積み立てるための中小企業経営者向けの退職金制度である。現在の加入者は約140万人であり、資産運用残高は約9兆4,000億円となっている。 【小規模企業共済制度の加入状況】 【小規模企業共済制度の共済金受給状況】 (出典:中小機構ホームページ) (2) 加入資格 小規模企業共済は、次のいずれかに該当する場合に加入が可能となる。 上記を確認すると分かるように、小規模企業共済との名の通り、従業員数に制限があり、小規模企業に限られている点に注意が必要である。なお、上記の業種判定につき、2以上の事業を行っている場合には、主たる事業の業種で判断することとなる。また、常時使用する従業員数には、家族従業員や共同経営者は含まれない。 (3) 掛金拠出 ① 拠出額 掛金月額は、1,000円から7万円までの範囲内(500円単位)で自由に選択が可能である。したがって、年間最大84万円の掛金を拠出することができる。 また、掛金の前納や増額・減額も可能である。ただし、減額してしまった場合には、当該減額した部分の金額につき、減額時以降運用されず最終受取額が減少してしまうリスクもあるため、当初掛金の設定にあたっては、慎重に判断したい。 ② 税制上の取扱い 掛金全額を経営者の所得税上、小規模企業共済等掛金控除として所得控除が可能となる。 節税効果は下記の通りである。 ※ 「課税される所得金額」とは、その年分の総所得金額から、基礎控除、扶養控除、社会保険料控除等を控除した後の額で、課税の対象となる額をいいます。 ※ 税額は平成29年4月1日現在の税率に基づき、所得税は復興特別所得税を含めて計算しています。住民税均等割については、5,000 円としています。 (出典:中小機構ホームページ) (4) 共済金の受取り ① 共済金 法人の経営者が共済金を受け取ることができる事由は、法人が解散した場合、65歳以上で役員を退任した場合、共済契約者が死亡した場合、任意解約した場合などである。 ② 税制上の取扱い 受取り方法等により、例えば一括で受け取った場合には退職所得となり、分割で受け取った場合には公的年金等の雑所得となる。また、共済契約者が死亡した場合には、死亡退職金として相続税法上のみなし相続財産(500万円×法定相続人数の非課税枠あり)となる。 (了)
《速報解説》 教育資金・結婚子育て資金の一括贈与非課税措置の延長及び見直し ~平成31年度税制改正大綱~ 税理士 菅野 真美 平成31年度税制改正大綱(与党大綱)では、平成31年3月31日で適用期限を迎える教育資金の一括贈与非課税措置及び結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置について、それぞれ適用期限の延長及び要件の見直しが示された。 Ⅰ 教育資金一括贈与非課税措置の延長・見直し [従来の制度概要] 教育資金一括贈与非課税措置は平成25年度改正で導入された制度で、平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、親や祖父母が30歳未満の子や孫に金融機関を通じて1,500万円まで贈与(信託)し、その資金が教育費として使われた場合には、贈与時点での贈与税が非課税とされる制度である。 通常、扶養義務者間においてその都度教育費を贈与した場合は非課税だが、将来の教育費に充てるための資金をまとめて贈与した場合は課税される。しかしこの制度では、お金をまとめて贈与した時点でも、将来の使途が決まっているため、贈与税が非課税とされる。 ただし、期間の制限があり、受贈者が30歳に達した日、受贈者が死亡した日、残高が0になる日のいずれか早い日に終了する。受贈者が30歳になって契約が終了した時点で資金の残高(管理残額)がある場合は、たとえその時点で贈与者が死亡していたとしても、受贈者に贈与税が課される。 なお、制度自体は信託銀行を介したものだけでなく、銀行や証券を介したものも創設されたが、圧倒的に信託銀行を利用したものが普及している。 [改正内容] 平成31年度税制改正では、この制度を平成33年(2021年)3月31日まで2年延長した上で、下記のように大幅な見直しが行われる予定である。 (1) 受贈者の所得制限 この制度の受贈者は、金融資産の多い親や祖父母をもつ子や孫が多く、より高い教育を受け所得が高額となるものも多かった。高額所得者に優遇税制を適用するのは格差の拡大となると考えて、信託等する日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円超の場合は、適用を受けることができないとした。 この改正は、平成31年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権から適用される。 (2) 教育資金の範囲 従来教育資金として預けたお金の使い方について学校等に対する支払は1,500万円まで非課税で可能であったが、学校等以外の者への支払(学習塾やスポーツ・ピアノ等の習い事)は500万円までの制限があった。しかし、いずれであったとしても30歳までの支払である場合は認められた。 改正案では、23歳以上の支払については、これまでどおりの学校等への支払に加え、学校等以外の者への支払については、学校等に関連する費用を除くと教育訓練給付金の支給対象となる支払いに限定される。例えば、大学を卒業して就職したが、医者になるために25歳で退職して株式会社の予備校に通った場合の授業料等は認められないと考える。 この改正は、平成31年7月1日以後に支払われる教育資金から適用される。 (3) 契約終了日までに贈与者が死亡した場合 この制度では、期間終了までの間に贈与者が死亡した場合においても、相続時点の管理残額は相続税の課税対象とはならなかった。この点を利用して、余命いくばくもない資産家が大勢いる子供や孫に教育資金の一括贈与を行うことによって「1,500万円×直系卑属の数」に相当する相続財産を減らすという節税が可能となり問題視された。 そこで、改正案では、死亡前3年以内に信託等された部分のうち死亡日の管理残額に対応する部分については、相続財産に含まれることとなる。ただし、贈与者の死亡時に次の3つのいずれかの要件に該当する場合は含まれない。 この改正は平成31年4月1日以後の贈与者の相続から適用されるが、経過措置として平成31年4月1日前に信託された部分の管理残高については相続財産に含まれない。 (4) 信託終了事由 現行制度では上記のように、教育資金の制度の終了事由の1つとして、「受贈者が30歳に達した日」というものがある。改正案では、30歳時点で上記(3)の②③のいずれかに該当する場合は、契約が終了せず、1年を通して(3)の②③に該当する期間がない年の12月31日か受贈者が40歳に達する日のいずれか早い日に契約が終了するとされる。 学校は大学や大学院だけでなく、専門学校や各種学校も含まれることから、継続して学び続けると40歳までこの制度を利用できる。 この改正は平成31年7月1日以後に受贈者が30歳に達する場合に適用される。 Ⅱ 結婚・子育て資金一括贈与非課税措置の延長・見直し [従来の制度概要] 結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置は、Ⅰの教育資金一括贈与非課税措置が平成25年の創設時に相当な件数の信託契約が締結されたことを受けて平成27年度改正で導入された制度であり、平成27年4月1日から平成31年3月31日まえの間に、親や祖父母が20歳以上50歳未満の子や孫に金融機関を通じて1,000万円まで贈与し、その資金が結婚資金(300万円限度)や子育て資金として受贈者が50歳になるまでに使われた場合には、贈与税が非課税とされる制度である。 この制度と教育資金の制度との大きな違いとしては、契約途中で贈与者が死亡した場合は、死亡した時点での管理残高が、贈与者の相続財産に含まれることが挙げられる。贈与者の相続財産に含まれた場合は、その後、受贈者が50歳になって契約終了時に管理残額があったとしても贈与税は課されない。 [改正内容] Ⅰと同様、制度が平成33年(2021年)3月31日まで2年延長される。 また、この制度の受贈者は、金融資産の多い親や祖父母をもつ子や孫が多く、子や孫の所得も高額となるものも多かった。高額所得者に優遇税制を適用するのは格差の拡大となることから、信託等する日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円超の場合は、適用を受けることができないとした。 この改正は、平成31年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権から適用される。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 事業承継ファンドから出資を受けた場合のみなし大企業の要件緩和 (中小企業向け設備投資減税の適用の特例) ~平成31年度税制改正大綱~ 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 平成31年度税制改正では、中小企業に対する規制強化の一環として、みなし大企業の範囲が拡大される予定である。他方、平成30年度税制改正では、中小企業の事業承継を円滑に進めるべく、いわゆる自社株納税猶予の制度が大きく見直された。今回のみなし大企業に関する改正でも、事業承継に関する部分については、例外的に規制を緩める改正が予定されており、注意が必要である。 (1) みなし大企業とは 租税特別措置法では、大企業に比べると、中小企業について設備投資減税をはじめとする優遇措置が講じられていることが多い。ここで中小企業と大企業を分ける基準は、資本金であり、通常、資本金1億円以下の法人が中小企業者とされる。ただし、大企業の傘下にある場合には、資本金1億円以下の法人といえども中小企業者には該当しないとされる。これが「みなし大企業」である。 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(中小企業投資促進税制)を例に説明すると、中小企業者とは、次のいずれかに該当する者をいう(措法42の6①、42の4③、措令27の4⑫)。 みなし大企業とは、資本金の額が1億円以下の法人のうち、上記(ア)又は(イ)に該当する法人をいい、資本金の額が1億円以下であっても、中小企業者から除外される法人である。 特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(商業・サービス業・農林水産業活性化税制)、中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(中小企業経営強化税制)などにおける中小企業者も同様である。 (2) 改正の概要 平成31年度税制改正では、中小企業等経営強化法の事業再編投資計画の認定に係る投資事業有限責任組合の組合財産である株式を発行した中小企業者について、上記みなし大企業の判定における大規模法人の有する株式又は出資から、その投資事業有限責任組合に係る組合員の出資をした独立行政法人中小企業基盤整備機構の有する株式が除外される。 改正内容が適用される租税特別措置法の規定は下記の通りである。 独立行政法人中小企業基盤整備機構では、中小企業者に対する投資事業を行う民間機関などとともに投資ファンド(投資事業有限責任組合)を組成し、中小企業者への資金調達の円滑化と踏み込んだ経営支援(ハンズオン支援)を通じて、ベンチャー企業や既存中小企業の新事業展開の促進又は中小企業者の再生を支援している。 (※) 中小企業基盤整備機構ホームページより 今回の改正は、財政基盤が脆弱な中小企業を支援するという本来の趣旨を踏まえ、必要な事業承継を推進するとともに、事業承継を実施する中小企業の設備投資を促す観点から行われるものである。 〈現行〉 現行制度の場合、支援対象会社は、資本金1億円以下でも、複数の大規模法人から70%の出資を受けており、中小企業者には該当しないため、中小企業向け優遇税制を適用することができない。 〈改正案〉 改正案のもとでは、支援対象会社は、資本金1億円以下で、同一の大規模法人から30%の出資しか受けていないこととされるため、中小企業者に該当し、中小企業向け優遇税制を適用することができる。 (了)
《速報解説》 無形資産の取引に係る移転価格税制の見直し ~平成31年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士 島田 弘大 1 はじめに 平成30年12月14日に「平成31年度税制改正大綱」(与党大綱)が公表された。 日本企業の健全な海外展開を支えるとともに、BEPSプロジェクトを背景に国際的な租税回避や脱税に対してより効果的に対応することが求められることから、近年では毎年のように国際課税に関する重要な改正が行われている。 平成31年税制改正大綱においては、国際課税について主に「過大支払利子税制」及び「移転価格税制」に関する改正が行われている。本記事ではそのうち、移転価格税制(無形資産取引)の見直しに係る主な改正ポイントを解説したい。 2 移転価格税制の対象となる無形資産の明確化 現行法では、移転価格税制の対象となる無形資産については、その定義が租税特別措置法基本通達66の4(3)-3の(注1)にて記載されているのみであった(下記【参考】参照)。 改正案では、移転価格税制の対象となる無形資産は、 と広範かつ明確な定義が採用されている。 無形資産の定義が明確化されることになるため、企業としては無形資産の存在を再度検討する必要があると考えられる。 3 DCF法の導入 独立企業間価格の算定方法としてディスカウント・キャッシュ・フロー法(以下、「DCF法」)が新たに追加される。DCF法とは、将来その無形資産から得られるであろうキャッシュフローを予測し、その金額について一定の割引率を用いて現在価値を計算する方法である。 DCF法はOECD移転価格ガイドラインにおいて比較対象取引が特定できない無形資産取引等に対する算定方法として有用性が認められている方法である。今後の無形資産取引等に係る独立企業間価格の算定方法として多く利用されることが想定される。 なお、DCF法による具体的な計算方法については、今後の情報に注目する必要がある。 4 評価困難な無形資産に係る取引に係る価格調整措置(所得相応性基準)の導入 ① 特定無形資産 評価困難な無形資産に係る取引(以下、「特定無形資産取引」)について独立企業間価格の算定の基礎となる予測と結果が相違した場合には、一定の要件のもと、税務当局は最適な価格算定方法により算定した金額を独立企業間価格とみなして更正等(価格調整)をすることができることとされる。ただし、税務当局が算定した価格と当初の取引価格との相違が20%以下である場合には、価格調整措置は行われない。 ② 適用免除要件 また、国税当局の職員が一定の書類(特定無形資産取引に係る独立企業間価格の算定の基礎となる予測の詳細を記載した書類や取引時において予測と結果が相違する原因となった事由の発生の可能性を適切に勘案して算定したことを証する書類など)の提出等を求めた日から一定期間内に法人からその書類の提出があった場合も価格調整措置は行われないこととされている。 なお、上記の所得相応性基準の導入により、過去に遡って事後的に指摘を受けるケースが増加すると考えられる。そのため、独立企業間価格の算定の基礎となる予測と結果の差異の要因となり得る事由を検討し、予測と結果とで大きな差異が生じないように独立企業間価格をより慎重に検討する必要があるだろう。 5 更正期間等の延長 移転価格税制に係る更正期間及び更正の請求期間等が現行の6年から7年に延長される。 6 適用時期 上記の改正は、平成32年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税から適用される。 (了)