税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第19回】 「民事信託の利用(その1)」 -親なき後問題への対応(遺言代用型信託)- クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問16] 私はまだ50歳ですが、数年前から日常生活や仕事の場での物忘れが激しいため検査してもらったところ、若年性認知症であると診断されました。 私には、別れた妻との間に、生まれつき知的障害を持った未成年の息子がおります。息子がこの先自分の生活費を自分で稼げるようになる可能性はほとんどなく、親である私が息子の面倒を一生みる覚悟をしておりました。 そのような中で医師から今回の告知を受け、私自身の今後のみならず、息子の将来の生活に対しても非常に不安を感じております。 ◆ ◆ ◆ 私には親から相続した預金が4,000万円ほどあり、これを今後の私や息子の生活費に充てていきたいと思っていますが、将来的に私が亡くなって相続が発生したときに、相続人である息子自身が数千万円という高額なお金を自分で持つことになるのは、それはそれで不安に感じます。 また、将来、息子が亡くなった際に私が残したお金が残っているようであれば、息子がいつもお世話になっている地元の障害者自立生活支援センターへ寄付されるようにしたいのです。 ◆ ◆ ◆ 先日新聞で読んだ内容で、私のようなケースでは「民事信託」を利用する方法があるという記事を目にしました。 この「信託」というものはどのような制度なのでしょうか。わかりやすく説明してください。 1 「信託」とは何か? 高齢者の財産管理の一手法として、「民事信託」ないし「家族信託」というキーワードを目にする機会も多くなった。特に平成18年12月の信託法の改正以降、その傾向は年々強まっているといえる。 それでは、そもそも「信託」とはなんであろうか。 その意味内容を端的に言えば、その名が表すように、「誰かのことを信じて、財産を託する」という制度である。 信託は、もともと英米法における長年の歴史の中で形成されてきた制度を導入したものであること、当事者も多く法律関係も複雑なものとなることから正確に理解することがなかなか難しい面がある。 そこで、まずは信託の基本構造や基本用語について説明することにしたい。 2 民事信託の基本構造 前述した信託の意味内容に沿って考えれば、信託においては、①信託を利用したいと考えている者(委託者)がおり、②この者が所有する財産(信託財産)を、③一定の目的(信託目的)を実現するために、信頼する他者(受託者)に信託財産を託して移転させ、④受託者の管理のもとで、特定の者(受益者)が経済的給付を受けるという構造を取る。 これを図解すると、次のような三面構造となるのが原則である。 【信託の基本構造】 信託の場合、受託者は、成年後見人等のように本人の「代理人」として財産を管理する立場にとどまらず、信託財産の移転も受け、信託目的実現のために財産の管理処分権限まで有する点が大きな特徴といえる。 一般的なケースであれば、委託者と受託者は他人となるが、このような場合を他者信託という。他方、現行信託法では、委託者と受託者が同一であることも許されている。これが自己信託ないし信託宣言と呼ばれるものである。 また、委託者と受益者が他人となることが通常であろうが、このような場合を他益信託という。他方、委託者と受益者が同一であるケースも許され、このような場合を自益信託という。 そして、受託者が適切な財産管理・処分を行っているかを監視するための信託監督人や、受益者の権利確保を支援するための受益者代理人が置かれる場合もある。 なお、信託と聞くと、信託銀行のことを想起する人も多いであろう。この信託銀行が販売するものに、「遺言信託」という名称にてサービス展開しているものがある。 これは、①信託銀行が遺言書の作成を支援し、②その後、作成された遺言書を保管し、③遺言者が亡くなった後は遺言執行者として遺言執行業務を行うという内容のサービスである。 この内容に照らしても明らかなように、これは前記で説明した意味での信託ではない。混同しないように注意する必要がある。 3 【設問16】(親なき後問題)における利用例 【設問16】のケースは、民事信託の中でも、いわゆる「親なき後問題」と呼ばれ、信託の使用が検討されるケースの典型例の1つと言われている。 【設問16】のケースを仮に遺言書で定めようとすれば、息子に直接財産を相続させた場合、知的障害を持つ息子が多額の財産を直接所有することになる。そうなれば、悪意ある第三者が近づき、財産を詐取される恐れも考えられるし、息子自身が無計画に散財してしまう可能性もある。 そこで、相談者としては、信託のスキームの採用を検討することになる。 すなわち、自分の財産を信頼して託せる親族や知人があればこれを受託者とし、そのような者が身近にいなければ信託銀行に相談して受託者となってもらい、受託者に責任をもって信託財産を管理してもらうことにする。 そして、相談者が亡くなるまでは、相談者が委託者兼受益者となり(自益信託)、相談者が亡くなって以降は、知的障害を持つ相談者の息子を受益者とする(他益信託)よう信託契約にて定める。同時に、息子に毎月支払う定額の金額や通院・通所する病院や施設があれば、その費用も信託財産から支払われるように定めることになる。 このようにすることで、委託者である相談者が亡くなって以降も、相談者の息子は生活していく上での金銭の心配をせず、安心して暮らしていくことができる。 なお、相談者は、将来、息子が死亡したときに信託財産に余りがあるようであれば、地元の障害者自立生活支援センターに寄付したいという希望を有している。そこで、このような内容についても、予め信託契約において定めておく必要がある。 このように、委託者が数次にわたる将来的な財産処分を定めることができるのも、信託制度を利用するメリットの1つである。 民事信託制度は、工夫次第で様々な用途に対応できると言われている。次回は、他の用途に用いられる信託の事例を見てみよう。 (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第8回】 「定款・議事録管理の仕組みづくり」 -不完全な定款から万全な定款に- 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 本稿では、【第2回】でその必要性を説明した「会社主導で中長期的に管理し続けられる体制づくり」の一環として、定款を中心とした「議事録管理」をテーマに解説する。 定款や議事録等を管理するうえで何か工夫している点はあるだろうか。今後、管理体制を見直していきたい意向の読者であれば、本稿を通じて、定款・議事録管理の仕組みづくりに関する秘訣をぜひ知ってもらいたい。 まずは定款を中心にみていく。 不完全な定款と万全な定款 登記実務の現場で「不完全な定款」を目にすることがある。 例えば、定款の商号や目的等の記載が、登記記録の記載と一致していなかったり、定款の役員の任期や事業年度が現在運用しているものと異なったりすれば不完全な定款といえる。 不完全な定款には次の問題点がある。 【不完全な定款の問題点】 一方、不完全な点が一切ない定款、つまり「万全な定款」であれば、次の①~③のとおり、不完全な定款の問題点がクリアになる。 【万全な定款によりクリアになる点】 自社の定款はいかがだろうか。もし不完全な点があれば、そのような定款が生み出される原因として以下の点が挙げられる。 不完全な定款が生み出される原因 不完全な定款が生み出される原因、それはズバリ、“定款変更に関する株主総会の決議の都度、定款に株主総会の決議内容を反映していないから”ではないだろうか。 株主総会の決議内容を定款に“反映する”とは 定款変更の効力は株主総会の決議が成立した時点で生じる(会社法第466条)。株主総会議事録に定款変更の旨を記載し、その記載を定款に盛り込んではじめて定款の記載が更新される。つまり、“反映”とは、株主総会の決議内容を定款に“盛り込む”ことをいう。 株主総会の決議内容を定款に反映するまでの過程をまとめると下図のようになる。 登記手続の場面で勘違いしやすい点 登記実務の場面で、①株主総会議事録は作成されるが、②定款変更に関する株主総会の決議内容が定款に反映されていない事例がよくみられる。 なぜ定款変更に関する株主総会の決議内容が定款に反映されないのか、事業目的の変更登記手続の場面をもとにみてみよう。 株主総会の決議内容が定款に反映されない原因 事業目的を変更する場合、事業目的が定款の記載事項とされている関係で、定款変更(=事業目的の変更)の株主総会の決議を行う。 登記手続の場面では、定款変更の記載のある株主総会議事録を添付すれば足り、変更後の事業目的を記載した定款の添付は求められていない。 実際、定款変更に関する株主総会の決議成立をもってその効力が生じるのであるから、定款変更の記載のある株主総会議事録を作成すれば十分であると考えても不思議ではない。 しかし、この工程で終わると定款には株主総会の決議内容が反映されないことになる。 これまで株主総会議事録の作成の工程で定款変更が完了であると信じていた読者に訴えたいのは、株主総会議事録の作成の工程からもう一歩ふみこんで株主総会の決議内容を定款に反映する工程を加えてもらいたいという点である。 この工程は、会社主導で中長期的に株主総会議事録と定款を管理していくうえでカギとなるところでもある。 株主総会議事録と定款の管理は“点と線のイメージ” 株主総会議事録と定款を管理するうえで、“点と線の”イメージを持つとよいだろう。 つまり、株主総会議事録は、ある株主総会の決議の内容をまとめたもの(=点)である一方で、定款は、定款変更に関する株主総会の決議の内容をその都度反映したもの(=線)である。 定款と株主総会議事録の関係性を表すと次のイメージとなる。 【定款と株主総会議事録の関係イメージ】 定款変更に関する株主総会の決議の都度漏れなくその決議内容を定款に反映することで、万全な定款となる。一方で、株主総会の決議内容を定款に反映することを一度でも失念すると、不完全な定款となってしまう。 そこで次回は、不完全な定款を生み出さないための実践方法について詳しく解説する。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第1話】 「所得税法56条と租税回避」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 昼休みの税務署内。昼食を終えた中尾統括官は、憂鬱そうな表情で新聞を読んでいる。 7月の人事異動が終わり、これから1年間、新しいスタッフと共に働くことになるのだが、中尾統括官は毎年この時期になると、新学期を迎える1年生のように、ナーバスな気持ちになる。 中尾統括官は今年で57歳。定年まであと3年あるが、所得課税第三部門には昨年の人事異動で配属されたので、今年は2年目である。 「・・・中尾統括官。」 中尾統括官が顔を上げると、浅田調査官が机の前に立っている。 「あの・・・実はちょっと・・・質問が・・・」 浅田調査官は遠慮がちに中尾統括官の顔を覗く。浅田調査官は2ヶ月前に、税務大学校の「専科研修」から帰ってきたばかりである。 「質問・・・?」 中尾統括官は怪訝そうに浅田調査官を見る。 「ええ・・・税理士からの質問なのですが。・・・かまいませんか?」 そう言うと、浅田調査官はメモ用紙をポケットから取り出して、説明を始める。 「子供の土地の上に母親が賃貸マンションを建設したのですが、その場合の地代の支払いについての質問なのです。」 中尾統括官は、黙って聞いている。 「私は、とりあえず、子供に支払った地代は、母親の不動産所得では必要経費にならない・・・と答えたのですが・・・」 浅田調査官は、自信のなさそうな声で言う。 「母親と子供が・・・生計を一にしている、ということであれば、母親の必要経費にならないことになる。それは、所得税法56条の問題だな・・・」 中尾統括官は、机の上に置かれた税務六法を開く。 中尾統括官は条文を読んで頷いた後、説明する。 「・・・しかし、子供の必要経費・・・例えば、子供の所有している土地の固定資産税は、母親の必要経費になる((※1)の下線)・・・」 「この所得税法56条については、有名な判例が2つありましたね・・・夫・妻弁護士事件(最高裁平16.11.2判決)と妻税理士・夫弁護士事件(最高裁平17.7.5判決)・・・」 浅田調査官は専科研修で学んだときの資料ファイルを開いた。 「妻税理士・夫弁護士事件は、弁護士の夫が、生計を一にしている税理士の妻と顧問税理士契約を締結して、報酬を支払ったのだけど・・・所得税法56条を適用して、夫の必要経費として認めなかった。もっとも、東京地裁(平成15.7.16判決)は、納税者の主張を認めたけれど・・・」 浅田調査官の説明に、中尾調査官は頷く。 「そうだな・・・そういう事件があったことは覚えている・・・」 中尾統括官は、浅田調査官から差し出されたファイルを見る。 「この所得税法56条は、もともと家族間で所得を分割して、租税の負担を軽減するという租税回避を防止する目的で設けられた規定なんだ。ただし・・・この規定そのものが現代の社会に合致するのか・・・そういう批判はあることも知っている。」 中尾統括官は、言葉を選びつつコメントする。 「ところで、先ほどの税理士からの質問なのですが、母親は子供に地代を支払っても母親の必要経費にならない・・・そして、子供は、所得税法56条によれば・・・当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす((※2)の下線)・・・とされていることから、子供は申告する必要がないことになります・・・」 浅田調査官の声のトーンが高くなる。 「・・・君は・・・何を言いたいんだい?」 中尾統括官は戸惑いながら尋ねる。 「つまり、子供は母親から地代を貰っても、申告をしなくてもよいということは・・・子供は、その受け取った地代に係る所得について課税されない・・・ということになるのでは・・・そう思うのですが・・・これって、逆に、租税回避になるのでは?」 浅田調査官は税務六法を見ながら言う。 「それは・・・」 中尾統括官は考えをめぐらせている。 「所得税法56条は、母親が子供に支払う地代そのものについて、何ら否定をしていません。ただ、所得税法上、その地代の支払いを母親の必要経費と認めないということを規定しているのです。他人に土地を借りるときには、当然、地代を支払うのだから、子供だからといって(妥当な)地代を支払う行為を禁じることはできない・・・所得税法は、支払を禁じているのではなく、その支払地代を母親の不動産所得を計算する際に、必要経費にしないということだけの規定なのです。」 浅田調査官は早口で一気に説明をする。 中尾統括官は驚いた様子で浅田調査官の説明を聞いている。 「・・・そして、その反射的な処理として、子供は、受け取った地代について何ら申告をする必要がない・・・」 浅田調査官の頬は少し火照っている。 「なるほど・・・逆に、所得税法56条は、納税者に対して、租税回避を助長している・・・ということか・・・」 中尾統括官は、苦笑いする。 「私はそう思うのですが。」 浅田調査官は自信たっぷりに言う。 「完璧な税法を規定することは・・・なかなか難しいな・・・」 中尾統括官は所得税法56条の条文を見ながらつぶやいた。 (つづく)
《編集部レポート》 日税連、京都大学にて寄附講座を開講 ~神津会長が登壇、学生に税理士の魅力を伝える~ Profession Journal 編集部 日本税理士会連合会は租税教育の一環として、大学における租税法に関する教育・研究活動を助成するため、平成7年度より各大学において寄附講座を開講している。 このほど平成29年度から3年度にわたり京都大学において寄附講座が開講され、第1回(2017年10月3日)の講師として神津信一日本税理士会連合会会長が登壇、「税理士の使命と役割-来たれ!税理士業界へ!-」をテーマに講義を行った。 神津会長は自身が初めて企業の決算・申告実務を任されたときに税理士業務のやりがいや魅力を知ったエピソードを披露、続いて税理士制度の沿革について紹介するとともに、税務に関する唯一の専門家であることを説明した。 (神津信一日本税理士会連合会会長) また、中小企業に寄り添うだけでなく最近では企業の組織再編のサポートや資産税の業務など様々な活躍の場があり、あらゆるところにニーズがある税理士の魅力を紹介。講演の最後には学生からの質問にも熱心に耳を傾け、実践的なアドバイスを行っていた。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査実務チェックリスト研究会、 「改訂版 監査役監査チェックリスト①~③」を取りまとめた報告書を公表 ~改正会社法への対応や監査環境の変化を取り入れ、より有用なツールへ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2017(平成29)年9月28日(ホームページ掲載日)、日本監査役協会中部支部監査実務チェックリスト研究会は「監査実務チェックリスト研究会 報告書2017【改訂版 監査役監査チェックリスト①~③】」(以下「報告書」という)を公表した。 これは、前回公表(2014年9月25日)の「監査役監査チェックリスト①~③」に、改正会社法(2015年5月施行)への対応や監査環境の変化を踏まえた見直し等を行ったものである。 会社法上の機関設計をもとに、非公開会社かつ中小規模会社から中堅規模会社、大規模会社までの3類型を想定し、特に中小規模の会社の監査役を念頭に置きつつ、新任監査役が、何をどんな視点で監査するのか、就任後すぐに使えるチェックリストとすること、期末の監査報告書作成に向けて期中監査のツールとなるチェックリストとすることを基本的な考え方として取りまとめている。 監査役監査において重要な事項が取り扱われており、また、チェック内容や参考法令の条文番号が記載されるなど具体的なチェックリストの形式であり、実務において有用なものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 構成 次の3つのものが作成されている。 以下では、「改訂版 監査役監査チェックリスト③」にしたがって解説を行う。 なお、「改訂版 監査役監査チェックリスト③」は非公開大規模会社を前提としているので、公開会社・有価証券報告書作成会社・上場会社等でご利用いただく場合は、金融商品取引法上の規制や証券取引所ルールに関するチェック内容等を加えて利用していただきたいとのことである。 2 チェックリストの主な内容 チェックリストの主な内容は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成29年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成29年9月28日、「平成29年1月から3月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、全7件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された裁決が6件、棄却された裁決が1件となっている。税法・税目としては、所得税法、法人税法及び国税徴収法が各2件、相続税法が1件であった。 【表:公表裁決事例平成29年1月~3月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された7件の裁決事例のうち、普段あまり取り上げることのない国税徴収法に関連した2つの裁決事例⑥及び⑦を紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 譲渡された債権に対する差押え(譲渡担保)・・・⑥ (1) 争点 争点は、「請求人が本件譲渡契約に基づき譲り受けた本件債権は、国税徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産に該当するか否か」である。 (2) 審判所の判断 審判所は、大審院昭和8年4月26日判決・民集12巻767頁を参照するかたちで、譲渡担保設定契約には2つの類型があると説明する。 そのうえで、本件譲渡契約については、金銭消費貸借契約などをはじめとする被担保債権は存在しないから、本件譲渡契約は、上記(イ)の譲渡担保設定契約には該当しないこと、また、買戻特約又は再売買の予約が債権譲渡契約に付されていないことから、上記(ロ)の譲渡担保設定契約にも該当しないとして、原処分庁の主張を退けた。 結論として、審判所は、譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分については全部取消しを認めたが、債権の差押処分については、原処分庁が、すでに債権の全額を取り立てたことを理由に、差押処分は、その目的を完了して既にその効力が消滅していることから、差押処分の取消しを求める審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものであるとして却下した。 また、換価代金等の配当処分に関する審査請求は、換価代金等の交付期日まででなければ、することができないところ、請求人は配当処分について平成28年3月28日に審査請求をしており、配当処分に係る換価代金等の交付期日が経過している同年2月17日付、同月23日付及び同年3月16日付でされた配当処分の取消しを求める審査請求は、法定の審査請求期間経過後になされた不適法なものであるとして却下したうえで、交付期日の経過していない同年3月23日付及び同月24日付でされた換価代金等の配当処分については、全部取消しを認めた。 (注) 引用した国税徴収法の条文については、一部括弧書きを割愛している。以下も同じ。 2 無償又は著しい定額譲受人の第二次納税義務・・・ ⑦ (1) 争点 争点は、以下の3点である。 (2) 審判所の判断 ① 時効による徴収権の消滅について(争点1及び2) 原処分庁は、滞納者の納付すべき国税について、法定納期限から5年を経過しない日に督促状を発し、その納付を督促したこと、平成11年5月18日付で、滞納国税を徴収するため、滞納者が賃借していた店舗に係る差入保証金の返還請求権を差し押さえ、同月19日に本件店舗の貸主である第三債務者に債権差押通知書を送達したことなどから、滞納国税の徴収権は、時効中断を繰り返しており、告知処分時において時効消滅していないと認められる、と判断した。 同時に、第二次納税義務は、主たる納税義務が発生し存続する限り、必要に応じいつでも課せられる可能性を有するものであるから、第二次納税義務者に係る徴収権が主たる納税義務に係る徴収権と別個独立して時効により消滅することはない、と判断して、時効に関する請求人の主張をいずれも採用しなかった。 ② 徴収法第39条に規定する債務免除について(争点3) 審判所は、徴収法第39条に規定する第二次納税義務の制度について、次のように説明する。 そのうえで、請求人と滞納者との間の和解について、滞納者が和解金の支払を受けることを停止条件として、請求人が負う過払金返還債務を免除する旨の合意を含む契約であり、このような契約による免除も徴収法第39条の債務の免除に含まれることからすれば、本件和解による債務免除は、債務免除としての実質を有するものと評価できるものであり、徴収法第39条に規定する「債務の免除」に該当する、と判断した。 そして、原処分庁の処分については、請求人が債務免除により受けた利益の額を一部減額する(一部取消し)という結論に達した。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会、 「改正会社法及びコーポレートガバナンス・コードへの対応状況と監査役・監査役スタッフの役割における今後の課題」 を取りまとめた報告書を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年9月28日(ホームページ掲載日)、日本監査役協会関西支部監査役スタッフ研究会は「改正会社法及びコーポレートガバナンス・コードへの対応状況と監査役・監査役スタッフの役割における今後の課題」(以下「報告書」という)を公表した。 これは、改正会社法(平成27年5月1日施行)及びコーポレートガバナンス・コードにおける監査役等の関連項目に焦点を当て、公表資料等の事例を分析し、今後予想される実務的な課題やその対応策等について各社の事例を中心に研究を行ったものである。報告書にはアンケート結果も記載されているので、実務の動向などを知ることができる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 報告書の主な内容は次のとおりである。 以下では主な内容について解説する。 1 取締役会の事前説明関係 取締役会の事前説明に関する主管部門は、一部では取締役会事務局である総務部等の執行部門になるであろうが、監査役スタッフは、社外監査役が取締役会の場で積極的に質問をし、又は意見を述べられるように、取締役会の議案内容はもとより、付議するに至った背景となる自社や業界のトピックス等の情報を収集し、提供していく姿勢が必要であろうと述べられている(15ページ)。 2 監査役監査関係 監査役監査関係については次のように述べられている。 3 会計監査人関係 会計監査人関係については次のように述べられている。 4 企業集団の内部統制関係 企業集団に関する内部統制を改めて検証する際の課題として、海外子会社に対する内部統制が述べられている(42ページ)。 監査役としては、各子会社における主要な経営リスクについて自社において正確に把握されているか、それに対してどのようなリスク管理体制が整備されているかという視点で監査することが求められると述べられている(43ページ)。 5 取締役会の実効性評価 取締役会の実効性評価を行う部門については、ほとんどが社内部門で対応しており、実効性評価に客観性を持たせるため第三者の視点を取り入れることも有益であるが、外部機関を活用している会社は少なかった。 取締役会の実効性評価に関して、特に社外取締役や監査役には経営監督について大きな役割を果たすことが期待され、評価の主体者であることが望ましいと考えると述べられている(46ページ)。 6 監査等委員会設置会社関係 平成29年7月31日時点で、監査等委員会設置会社への移行(移行表明を含む)をしている上場企業は837社(日本監査役協会関西支部事務局による集計)とのことである。 アンケートでは、監査等委員会設置会社へ移行した企業12社から回答を得たが、母数が少ないことにより回答傾向において偏りがある可能性があるため、移行した企業に追加のヒアリングを行ったとのことである。 監査等委員会設置会社への移行に関するメリットとデメリットについて述べられている。 (了)
《速報解説》 消費税率、2019年(平成31年)10月の10%引上げまで2年 ~軽減税率対策補助金の申請受付期間は来年1月末まで、全国で税務署による説明会も Profession Journal 編集部 安倍首相は昨日9月28日に衆議院を解散、来月22日には衆議院選挙が実施される。今回の解散理由が消費税率引上げ分の使途見直しの是非を問うとしていることから、これまで二度にわたる延期を行ってきた消費税率の10%引上げ及び複数税率(8%の軽減税率)の導入が現実味を帯びてきた。 特に複数税率の対応については取引ごとの適用税率の判定からシステム改修等、個人事業者や中小企業を含む事業活動全体に大きな影響を与えるため、これまで対策に二の足を踏んできた企業や、クライアント企業への指導を積極的に行ってこなかった税理士も、導入までの2年間を意識した具体的な対策スケジュールを立てる必要があるだろう。 ここで活用を検討したいのが、中小企業や小規模事業者等が、複数税率に対応したレジの導入や受発注システムの改修等を行った場合に交付される「軽減税率対策補助金」だ。軽減税率対策補助金は、複数税率対応のレジの導入・改修時に使えるA型と、受発注システムの改修・入替を行う場合に使えるB型の2つに大きく分けられ、それぞれ対象となる改修等要件のほか、補助率や補助額の上限などが定められている。これらの詳細については次の軽減税率対策補助金のホームページが詳しいので、ぜひ確認されたい。 ただし、この補助金についてはすでに昨年(平成28年)3月29日から制度が始まっており、システムの導入・改修の完了期間、及び、補助金の申請受付期間は平成30年1月31日までとなっている。レジメーカーやシステムベンダー等の受注側も対応に追われ期間までに導入・改修が間に合わないケースも想定されることから、未着手の場合は急ぎメーカー等に確認したい。 【参考図】 (※) 軽減税率対策補助金ホームページより 同補助金事務局はホームページで上記の期限について注意を呼びかける一方、駆け込みの申請増によるためか、提出書類の不足や必要事項の記入漏れにより審査から補助金交付までに時間を要する場合が生じているとして、補助金の申請の際には「公募要領」や「申請の手引き」を確認するよう促している。 ちなみに同ホームページ上では「申請書の記入でよくある間違い」というコーナーが設けられ、A型・B型ごとに申請書の記入ミスや記入漏れ、補助金申請額の計算ミスなどの事例が多数紹介されているので、申請前にチェックしておくとよいだろう。 (※) 補助金の代理申請が可能な協力店を検索するページも設けられている。 「代理申請協力店検索」 なお、軽減税率制度についてはすでに9月から全国で税務署による説明会が開催されており、国税庁ホームページでは都道府県ごとの開催日程(随時更新)を確認することができる。 また、本誌1月掲載の金井恵美子税理士による下記の記事も参照されたい。 (了)
2017年9月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.237を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第39回】 「有姿除却の課税は国のエネルギー政策に反する」 税理士 山本 守之 1 有姿除却の内容 使用を廃止しているが、解撤、廃棄、破砕を行っていない資産についても、既に固定資産としての命数や使用価値が尽きていることが明確なものについて、現状有姿のまま除却処理を認めようとするものが「有姿除却」です。 すなわち、次のような資産については、その帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を、有姿のまま除却損として損金の額に算入することができることとしているのです(法基通7-7-2)。 ①については、使用を廃止していることと、今後通常の方法によって事業の用に供する可能性がないという2つの条件を備えれば、現状有姿のままで除却処理をすることを認めたものです。 企業が使用を廃止した資産について解撤、破砕、廃棄等しないのは、これらに多額の費用を要する場合や、将来再使用の可能性がごくわずかであっても残っている場合です。 有姿のまま放置し、又は、わずかな再使用の可能性のために保有している資産を、廃棄等をしないからという理由だけで除却処理を認めないのは現実的でないため、これを認めることとしているのです。 ②については、特定の金型の例示です。金型の耐用年数は2年であるため、一般的には生産を中止した後の帳簿価額はわずかです。さらに、将来再び使用する可能性はごく少ないが、その時点で再び金型を作り直すロスを配慮して使用済みの金型がデットストックされている現状に着目した取扱いです。 2 有姿除却をめぐって争われた事例(中部電力事件) (1) 事例の考え方 1で述べたように、使用を廃止しているが、解撤、廃棄、破砕を行っていない資産についても、既に固定資産としての命数や使用価値が尽きていることが明確なものについて、現状有姿のまま除去処理を認めようとするものが「有姿除却」です。 電力需要に比べて供給力が過大となったため、低効率の発電設備の使用を廃止し、「有姿除却」として除却損を計上した電力会社(中部電力)に対して課税庁が除却損を否認し、更正したことについて争われた事例ですが、物理的に廃棄されていない状態で除却損を認めるという考え方は、通達の有無にかかわらず企業経営面から経済的観察をするという法解釈のあり方を学ぶことができます。 (2) 事例の内容 中部電力株式会社は、平成不況の影響により最大電力の伸び率が純化していたため、平成3年から5年にかけて、急速に最大電力需要に比べて供給力が過大となりつつありました。その後も、長引く不況による需要低迷に加えて、平成8年度以降、発電効率が極めて高いL火力発電所の最新鋭の大規模発電設備が順次運転を開始したため、最大電力需要に比べて供給力が過大となり、設備余剰の状態が一層顕著となっていました。 このような状況を受け、中部電力は、①適切な需給バランスを確保すること、②保守保安費用を低減させること、③発電所運転要員を有効活用することを目的に、平成10年度以降、低効率の既存発電設備について、年間を通じて運用を停止する長期計画停止を行ってきました。 これに対して課税庁は、除却した発電設備を構成する個々の資産の全てが固定資産としての命数や使用価値を失ったことが客観的に明らかでなく、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないとは認められないため、除却損の金額から実際に解体済みと認められる部分の金額及び通常のメンテナンスを行っていたと認められる平成14年3月までの減価償却費の金額を控除した後の金額は損金の額に算入されないとしました。 (3) 判決の考え方 基本通達に「有姿除却」が定められたのは、昭和55年直法2-8です。現在からみればかなり古い時期のものですので、その内容もかなり古いです。現在では、経済的観察及び経営的判断から有姿除却を考える必要があります(現行は法基通7-7-2)。 中部電力では、電力供給が過大となったので、低効率の発電設備を廃止して有姿除却したというものです。 このような「有姿除却」について通達化されていようといまいと、経済的観察と経営上の判断から損金性が容認されるべきなのです。 課税庁は、「各発電設備を構成する個々の資産の全てが固定資産としての使用価値を失ったことが客観的に明らかではなく、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないとは認められない」と主張しています。 つまり、再稼働の可能性があるとしたのです。 しかし、廃止された発電設備の再稼働について判決では、「通常の定期点検に要する費用だけでも1ユニット当たり約10億円を要すること、廃止後に保守又は保全の措置が執られていないために腐食が進行していることを考慮すると、再稼働には通常の点検を大幅に超える費用と時間が必要になると想定される。しかも、このような費用と時間をかけて再稼働したとしても、低効率で経済性が劣る経年火力発電設備が再稼働されるにすぎないから、中部電力がこのような選択をするはずがないことは、社会通念上明らか」としました。 上記のとおり、廃止の理由は、「急速に最大電力需要に比べて供給力が過大となりつつあった」というものでした。その後も、需要低迷に加えて、発電効率が極めて高い最新鋭の大規模発電設備が順次運転を開始したため、設備余剰の状態が一層顕著となっていました。また、発電設備は運用開始後26年ないし38年が経過し、法定耐用年数である15年を大幅に超えて運用されていました。 さらに、原子力や液体天然ガス等に比べ、高価格の石油を用いる低効率の火力発電設備は、年間を通じて運用を停止する長期計画停止を行っており、発電メリットが保守費用を下回る状況が続く見込みであったため、取締役会の承認を経て発電設備が廃止されたのです。 つまり、「火力発電設備の廃止の時点で、各発電設備を構成する個々の資産は、そのほとんどが、社会通念上、その本来の用法に従って事業の用に供される可能性がないと客観的に認められるような状態には至っていなかったとする国の主張は、採用することができない」というのです。 結局、この訴訟では、火力発電設備がその廃止により「既存の施設場所」で「固有の用途」が失われているので有姿除却は認められるべきものであるとしたのです(東京地判平成19年1月31日、TAINSコード:Z257-10623、全部取消し(確定))。 3 国の方針と国税当局 経済産業省は2017年8月18日に、中部電力が大型石炭火力発電所(愛知県武豊町)の新設を計画している事業について、二酸化炭素(CO2)の排出削減への取組みを求める勧告を出し、中部電力が所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働制限など2030年以降に向けて更なるCO2排出削減を実現する見直しを計画的に実施することを求めました。中部電力は同日「勧告を真摯に受け止め、内容を踏まえて環境影響評価書を作成する」と発表しています。 石炭火力は安価ですが、CO2排出量が天然ガスよりも多いのです。温暖化防止を目指す「パリ協定」を踏まえた環境基本計画では、国内の排出量を2050年までに80%削減することを掲げておりますが、目標の達成が厳しくなる恐れがあり、経済産業省は、「温暖化ガスの削減が難しくなる」と懸念を表明している環境省に足並みを揃えるかたちとなりました。 山本前環境相は、2017年8月1日に中部電力の大型石炭火力発電所の新設をめぐって「国がめざす温暖化ガス削減が難しくなる」と指摘し、世耕経済産業相に老朽化した他の火力発電所の見直しを求める意見書を提出しています。 経済産業省と環境省が力を合わせて旧型火力発電所の休廃止を考えていたのに、国税当局が有姿除却に課税するなどは問題です。 幸いに訴訟によって課税が取り消されましたが、国の方針に国税当局が足を引っ張らないよう望みたいと思います。 (了)