フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第34回】 「ソフトウェア」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、研究開発費に該当しないソフトウェアの会計処理について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ソフトウェアの制作費は、その制作目的により、将来の収益との対応関係が異なること等から、ソフトウェア制作費に係る会計基準は、取得形態(自社制作、外部購入)別ではなく、制作目的別に設定されている(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書(以下、「意見書」という)三3(1))。 そのため、購入・委託に要した費用は、制作目的に応じて会計処理することとなるため、制作又は購入したソフトウェアが(1)受注制作のソフトウェア、(2)市場販売目的のソフトウェア、(3)自社利用のソフトウェア(意見書Ⅲ3(3))のいずれに該当するかを判断する。 (1) 受注制作のソフトウェアに該当する場合、【STEP2】を検討する。 (2) 市場販売目的のソフトウェアに該当する場合、【STEP3】を検討する。 (3) 自社利用のソフトウェアの場合、【STEP4】を検討する。 受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて会計処理する(研究開発費等に係る会計基準(以下、「基準」という)四1)。 したがって、受注制作のソフトウェア取引は、「工事完成基準」又は「工事進行基準」により売上及び売上原価を計上する。 この際、以下の点について留意が必要である。 【留意点】 ① 認識の単位 ② 引渡し ③ 買戻し条件付き ④ 分割検収 ⑤ 複合取引 ⑥ 総額表示 ① 認識の単位 受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて会計処理するため、「工事契約に関する会計基準(以下、「工事基準」という)」に従って会計処理する。 工事契約に係る認識の単位は、工事契約において当事者間で合意された実質的な取引の単位に基づく。工事契約に関する契約書は、当事者間で合意された実質的な取引の単位で作成されることが一般的である。ただし、契約書が当事者間で合意された実質的な取引の単位(※)を適切に反映していない場合には、これを反映するように複数の契約書上の取引を結合し、又は契約書上の取引の一部をもって工事契約に係る認識の単位とする必要がある(工事基準7)。 したがって、受注制作のソフトウェア取引は、当事者間において合意された実質的な取引の単位に基づき、売上及び原価を計上する。 ② 引渡し 工事完成基準においては、完成し、引渡した日が収益認識時点となるため、いつ、引渡したかは非常に重要である。また、工事進行基準においても収益認識及び原価計上の最終時点がいつかを決める必要があるため、引渡し日は非常に重要である。 受注制作のソフトウェア取引の場合、基本的にオーダーメイドによるものであり、その仕様(スペック)は確定していないため、通常、顧客(ユーザー)の側で契約内容に応じて、成果物がその一定の機能を有することについての確認が行われることにより成果物の提供が完了すると考えられる(実取2(2)②)。 したがって、契約上の取引相手との間で取り決めた成果物の内容(例えば、顧客との間の取引において、単に制作するだけでなく、契約において定められた機能を有する状態にすること)に応じて、一般的には検収等何らかの形でその成果物の提供の完了を確認することにより、収益を認識する(実取2(2)②) 。 ③ 買戻し条件付き 買戻し条件が付いている場合や、事後に大きな補修が生じることが明らかであることにより成果物の提供の完了について問題が生じている場合には、収益を認識することはできない(実取2(2)②)。 ④ 分割検収 契約が分割された場合においても、一般的には、最終的なプログラムが完成し、その機能が確認されることにより収益を認識する(実取2(3))。 しかし、最終的なプログラムの完成前であっても、例えば、顧客(ユーザー)との取引において、分割された契約の単位(フェーズ)の内容が一定の機能を有する成果物(顧客が使用し得る一定のプログラムや設計書等の関連文書も顧客にとってはそれ自体で使用する価値のあるものと考えられる)の提供であり、かつ、顧客(ユーザー)との間で、納品日、入金条件等について事前の取決めがあり、その上で当該成果物提供の完了が確認され、その見返りとしての対価が成立している場合には、収益認識の考え方に合致しているため、収益認識は可能である(実取2(3))。 したがって、例えば、分割検収において、成果物の提供の完了の確認がなく、単に作業の実施のみに基づく場合や入金条件のみに関連しているだけでは、収益を認識することはできない(実取2(3))。 また、各フェーズ完了後において、売上金額の事後的な修正が行われることがあるため、収益認識にあたっては、各フェーズ完了時の対価の成立、販売代金の回収可能性、返金の可能性等、資金回収のリスクを考慮する必要がある(実取2(3))。 ⑤ 複合取引 受注制作のソフトウェアにおける複合取引とは、例えば、システム開発請負契約に期間的なシステム利用や保守サービスに関する契約が含まれている場合(実取3)が挙げられる。 システム開発と期間的なシステム利用・保守サービスの販売時点が異なっているにもかかわらず、一方の財の販売時に、他方の財の収益を同時に認識してしまうと、収益認識時点に関して問題が生じる場合がある(実取3)。 複合取引の場合、収益認識時点が異なる複数の取引が1つの契約とされていても、管理上の適切な区分に基づき、販売する財又は提供するサービスの内容や各々の金額の内訳が顧客(ユーザー)との間で明らかにされている場合、契約上の対価を適切に分解して、機器(ハードウェア)やソフトウェアといった財については各々の成果物の提供が完了した時点で、また、サービスについては提供期間にわたる契約の履行に応じて収益を認識する(実取3)。 一方、顧客(ユーザー)との間で金額の内訳が明らかにされていない場合でも、管理上の適切な区分に基づき契約上の対価を分解して、各々の販売時点において収益認識することができる(実取注9)。 なお、財とサービスの複合取引であっても、一方の取引が他方の主たる取引に付随して提供される場合には、その主たる取引の収益認識時点に一体として会計処理することができる(実取3)。 ⑥ 総額表示 複数の企業を介する情報サービス産業におけるソフトウェア関連取引において、委託販売で手数料収入のみを得ることを目的とする取引の代理人のように、仕入及び販売に関して通常負担すべき様々なリスク(瑕疵担保、在庫リスク、信用リスクなど)を負っていない場合、収益の「総額」表示は適切でない(実取4)。このような場合、収益を「純額」で表示する。 例えば、以下のようなソフトウェア関連取引については、販売者は、一般的に、通常負担すべき様々なリスクを負っていることが明らかでないと考えられるため、収益の総額表示を行うためには、当該リスクを負っていることを示すことが必要となる(実取4)。 機器(ハードウェア)やパッケージ・ソフトウェアなどの完成度の高いものにソフトウェア開発を行って販売するケースにおいて、ソフトウェア開発の占める割合が小さいなど、付加価値がほとんど加えられていない場合の当該機器(ハードウェア)やパッケージ・ソフトウェアに関する取引 受注制作ソフトウェアにおいて、第三者であるパートナー(協力会社)にそのプロジェクト管理のすべてを委託している場合の当該ソフトウェア開発に関する取引 機器(ハードウェア)にソフトウェアを組み込んだ製品やパッケージ・ソフトウェアの売手が、製品の仕様(スペック)や対価の決定に関与していない場合の当該機器(ハードウェア)やパッケージ・ソフトウェアに関する取引 この後は、【STEP5】を検討する。 市場販売目的のソフトウェアでは、最初に製品化された製品マスター完成までと完成後の時点別に会計処理を検討する。また、減価償却の検討も必要である。 【留意点】 機器組込みソフトウェアについて、ソフトウェア自体を販売するものではないが、市場販売目的のソフトウェアと同様の価値又は経済効果を有すると考えられる場合には、市場販売目的のソフトウェアの会計処理に準じた会計処理を行う(「研究開発費及びソフトウェアに関する会計処理Q&A」(以下、「Q&A」という)Q18)。 (1) 最初に製品化された製品マスター完成までの会計処理 市場販売目的のソフトウェアの制作に係る研究開発の終了時点は、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち「最初に製品化された製品マスター」の完成時点である(会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(以下、「指針」という)8)。 以上をまとめると、以下のようになる(指針32)。 【研究開発の終了時点】 ① 製品マスターについて販売の意思が明らかにされていること ② 最初に製品化された製品マスターが完成すること ① 製品マスターについて販売の意思が明らかにされていること 販売の意思が明らかにされる時点とは、製品マスターの完成の前後にかかわらず、当該製品を市場で販売することを意思決定した時点が考えられる。例えば、製品番号を付す、又はカタログに載せるなどの方法で、市場で販売する意思が明確に確認できるようになった時点などがある(指針32)。 ② 最初に製品化された製品マスターが完成すること 最初に製品化された製品マスターの完成時点は、具体的には以下によって判断する(指針8)。 最初に製品化された製品マスターが完成する時点までの制作活動は研究開発と考えられるため、ここまでに発生した費用は「研究開発費」として発生時に費用処理する(指針8)。 研究開発費は、当期製造費用として処理されたものを除き、一般管理費に表示する(意見書四1)。以下も同様である。 (2) 最初に製品化された製品マスター完成後の会計処理 最初に製品化された製品マスター完成後では、資産計上する項目と、費用処理する項目がある。また、原価計算が必要となる。 ① 資産計上又は費用処理 費用項目により、会計処理(資産計上か、費用計上か)が異なる。 (ⅰ) 製品マスター又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動(著しい改良を除く)のための費用 製品マスター(下記②参照)又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動(著しい改良を除く)のための費用は、原則として無形固定資産として資産に計上する(指針9、35)。 具体的な会計処理の流れは、以下のとおりである(指針35)。 製品マスターの制作原価を製造原価に含める。 製造原価から製品マスターの仕掛品及び完成品を無形固定資産(※)へ振り替える。 製品マスター(無形固定資産)の減価償却費は売上原価に計上する(下記(3)参照)。 製品としてのソフトウェアで販売されなかったもの及び複写等制作途上のものについては、棚卸資産の仕掛品として計上する(下記(ⅳ)参照)(製品マスター(無形固定資産)の償却費は配分されるべき原価が確定しないため仕掛品の原価には含めない)。 (※) 製品マスターの制作原価は、仕掛品についてはソフトウェア仮勘定(無形固定資産)などの勘定科目を用いる。一方、完成品についてはソフトウェア(無形固定資産)などの勘定科目を用いる(指針10)。 なお、財務諸表上の表示に当たっては製品マスターの制作仕掛品と完成品を区分することなく一括してソフトウェアその他当該資産を示す名称を付した科目で表示する。しかし、仕掛品に重要性がある場合にはこれを区分して表示することが望ましい(指針10)。 (ⅱ) 製品マスター又は購入したソフトウェアの機能の著しい改良を行うための費用 著しい改良(※)と認められる場合は、著しい改良が終了するまでは上記(1)の研究開発の終了時点に達していないこととなるため、「研究開発費」として発生時に費用処理する(指針9)。 (※) 著しい改良とは、研究及び開発の要素を含む大幅な改良を指しており、完成に向けて相当程度以上の技術的な困難が伴うものである(指針33)。 具体的な例として、機能の改良・強化を行うために主要なプログラムの過半部分を再制作する場合、ソフトウェアが動作する環境(オペレーションシステム、言語、フォームなど)を変更・追加するために大幅な修正が必要になる場合などがある(指針33)。 (ⅲ) ソフトウェアの機能維持に要した費用 バグ取り等、ソフトウェアの機能維持に要した費用は、機能の改良・強化を行う制作活動には該当しないため、発生時に費用処理する(意見書三3(3)②)。 (ⅳ) 製品としてのソフトウェアの制作原価 製品としてのソフトウェアの制作原価(ソフトウェアの保存媒体のコスト、製品マスターの複写に必要なコンピュータ利用等の経費等)については、製造原価(棚卸資産)として計上する(Q&A Q11)。 〈まとめ〉 ② 原価計算 製品マスターについては、適正な原価計算によってその取得原価を算定する(指針10)。 したがって、材料費、労務費、外注費・減価償却費等の経費を集計する必要がある。 《設例》 当期の会計処理は、以下のとおりである。 (1) 無形固定資産の計上 (2) 減価償却費の計上 (3) 仕掛品の計上 (3) 減価償却 ① 減価償却の基本 市場販売目的のソフトウェアに関しては、ソフトウェアの性格に応じて最も合理的と考えられる減価償却の方法を採用する必要がある。合理的な償却方法としては、「見込販売数量に基づく方法」のほか、「見込販売収益に基づく償却方法」も認められる(指針18)。 毎期の減価償却額は、残存有効期間(販売可能期間)に基づく均等配分額を下回ってはならない(指針18)。 したがって、毎期の減価償却額は、見込販売数量(又は見込販売収益(以下、「見込販売数量等」という))に基づく償却額と残存有効期間に基づく均等配分額とを比較し、いずれか大きい額を計上する。 この場合、当初における残存有効期間の見積りは、原則として3年以内の年数までである。3年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことが必要である(指針18)。 ② 見込販売数量(又は見込販売収益)の見直し 無形固定資産として計上したソフトウェアの取得原価を見込販売数量等に基づき減価償却を実施する場合、見込販売数量等は毎期変動する可能性があるため、毎期、翌期以降の見込販売数量等の見直しを行う必要があるか(変更する必要があるか)検討する必要がある(指針19)。 例えば、新たに入手可能となった情報に基づいて当第2四半期会計期間末において見込販売数量等を変更した場合には、以下の計算式により当第2四半期累計期間及び当第3四半期以降の減価償却額を算定する(指針19)。 (計算式) なお、販売期間の経過に伴い、減価償却を実施した後の未償却残高が翌期以降の見込販売「収益」の額を上回った場合、当該超過額は一時の費用又は損失として処理する(指針20)。 この後は、【STEP5】を検討する。 市場販売目的のソフトウェアの売上計上(収益認識)において、以下の点について留意が必要である。 【留意点】 ① 複合取引 ② 総額表示 ① 複合取引 市場販売目的のソフトウェアにおける複合取引とは、例えば、ソフトウェア販売に保守サービスやユーザー・トレーニング・サービスが含まれている場合やソフトウェア・ライセンス販売(使用許諾)にアップグレードの実施が含まれている場合(実取3)が挙げられる。 各取引の販売時点が異なっているにもかかわらず、一方の財の販売時に、他方の財の収益を同時に認識してしまうと、収益認識時点に関して問題が生じる場合がある(実取3)。 複合取引の場合、収益認識時点が異なる複数の取引が1つの契約とされていても、管理上の適切な区分に基づき、販売する財又は提供するサービスの内容や各々の金額の内訳が顧客(ユーザー)との間で明らかにされている場合、契約上の対価を適切に分解して、機器(ハードウェア)やソフトウェアといった財については各々の成果物の提供が完了した時点で、また、サービスについては提供期間にわたる契約の履行に応じて収益を認識する(実取3)。 一方、顧客(ユーザー)との間で金額の内訳が明らかにされていない場合でも、管理上の適切な区分に基づき契約上の対価を分解して、各々の販売時点において収益認識することができる(実取注9)。 なお、財とサービスの複合取引であっても、一方の取引が他方の主たる取引に付随して提供される場合には、その主たる取引の収益認識時点に一体として会計処理することができる(実取3)。 ② 総額表示 複数の企業を介する情報サービス産業におけるソフトウェア関連取引において、委託販売で手数料収入のみを得ることを目的とする取引の代理人のように、仕入及び販売に関して通常負担すべき様々なリスク(瑕疵担保、在庫リスク、信用リスクなど)を負っていない場合、収益の「総額」表示は適切でない(実取4)。このような場合、収益を「純額」で表示する。 取引の例示については、【STEP2】⑥を参照されたい。 自社利用のソフトウェアでは、資産計上をするかどうかを判断するため、将来の収益獲得又は費用削減が確実であるかを検討する。また、ソフトウェアの導入費用及び減価償却を検討する。 (1) 将来の収益獲得又は費用削減が確実であるか ソフトウェアの利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であることが認められるという要件が満たされているか否かを判断する。その結果、将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合はソフトウェアを無形固定資産に計上し、確実であると認められない場合又は確実であるかどうか不明な場合には、費用処理する(指針11)。 確実であると認められない場合又は確実であるかどうか不明な場合には、以下の検討は不要である。 資産計上される場合の例としては、以下が挙げられる(指針11)。 通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等を利用することにより、会社(ソフトウェアを利用した情報処理サービスの提供者)が、契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得ることとなる場合 自社で利用するためにソフトウェアを制作し、当初意図した使途に継続して利用することにより、当該ソフトウェアを利用する前と比較して会社(ソフトウェアの利用者)の業務を効率的又は効果的に遂行することができると明確に認められる場合 ソフトウェアを利用することにより、利用する前と比べ間接人員の削減による人件費の削減効果が確実に見込まれる場合、複数業務を統合するシステムを採用することにより入力業務等の効率化が図れる場合、従来なかったデータベース・ネットワークを構築することにより今後の業務を効率的又は効果的に行える場合等で、ソフトウェア制作の意思決定の段階から制作の意図・効果が明確になっている場合 市場で販売しているソフトウェアを購入し、かつ、予定した使途に継続して利用することによって、会社(ソフトウェアの利用者)の業務を効率的又は効果的に遂行することができると認められる場合 (2) ソフトウェアの導入費用 ① 購入ソフトウェアの設定等に係る費用 外部から購入したソフトウェアについて、そのソフトウェアの導入に当たって必要とされる設定作業及び自社の仕様に合わせるために行う付随的な修正作業等の費用は、購入ソフトウェアを取得費用として当該ソフトウェアの取得価額に含める。ただし、これらの費用について重要性が乏しい場合には、費用処理することができる(指針14)。 ② ソフトウェアを大幅に変更して自社仕様にするための費用 自社で過去に制作したソフトウェア又は市場で販売されているパッケージソフトウェアの仕様を大幅に変更して、自社のニーズに合わせた新しいソフトウェアを制作するための費用は、それによる将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合を除き、研究開発目的のための費用と考えられるため、購入ソフトウェアの価額も含めて費用処理する(指針14)。 将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合には、購入ソフトウェアの価額を含めて当該費用を無形固定資産として計上する(指針14)。 ③ その他の導入費用 ソフトウェアを利用するための環境を整備し有効利用を図るための費用は、原則としてソフトウェアそのものの価値を高める性格の費用ではない。したがって、その費用は原則として発生時の費用として会計処理する(指針40)。 例えば、以下のような費用は、発生した事業年度の費用として会計処理する。 (ⅰ) データをコンバートするための費用 新しいシステムでデータを利用するために旧システムのデータをコンバートするための費用については、発生した事業年度の費用とする(指針16(1))。 (ⅱ) トレーニングのための費用 ソフトウェアの操作をトレーニングするための費用は、発生した事業年度の費用とする(指針16(2))。 なお、ソフトウェアを購入する際に、上記のような導入費用も含めた価額で契約等が締結されている場合には、導入費用は合理的な見積りによって購入の対価とそれ以外の費用とに区分して会計処理を行う(指針40)。 〈まとめ〉 (3) 減価償却 ① 減価償却方法 自社利用のソフトウェアにおいても、その利用の実態に応じて最も合理的と考えられる減価償却の方法を採用すべきである。ただし、一般的には、定額法による償却が合理的である(指針21)。 ② 耐用年数 耐用年数は、ソフトウェアの利用可能期間によるが、原則として5年以内の年数とする。5年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことが必要である(指針21)。 利用可能期間については、毎期見直しを行う必要がある(指針21)。 例えば、利用可能期間の見直しの結果、新たに入手可能となった情報に基づいて当事業年度末において耐用年数を変更した場合には、以下の計算式により当事業年度及び翌事業年度の減価償却額を算定する(指針21)。 この後は、【STEP5】を検討する。 ソフトウェアでは、以下の注記が必要となる。 (1) 収益認識に関する注記 受注制作のソフトウェアの場合、以下の収益認識に関する注記を行う(工事基準22、会社計算規則101④)。 工事契約に係る認識基準 決算日における工事進捗度を見積るために用いた方法 (2) 研究開発費の注記 研究開発の規模について企業間の比較可能性を担保するため、一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費の総額を財務諸表に注記する(意見書四1)。 なお、計算書類では、当該注記は必ずしも求められていない。 (3) ソフトウェアの減価償却の注記 市場販売目的及び自社利用のソフトウェアの減価償却においては、減価償却の方法及び耐用年数を注記する(指針22、会社計算規則101②)。具体的には、以下の注記を行う。 ① 市場販売目的のソフトウェアの減価償却方法に関する注記 市場販売目的のソフトウェアに関して採用した減価償却の方法 見込有効期間(年数) ② 自社利用のソフトウェアの減価償却方法に関する注記 自社利用のソフトウェアに関して採用した減価償却の方法 見込利用可能期間(年数) * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
ストック・オプション会計を学ぶ 【第12回】 (最終回) 「財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連載最終回となる今回は、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号。以下「ストック・オプション適用指針」という)にしたがって、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ ストック・オプション会計基準の適用範囲 ストック・オプション会計基準は、次の取引に適用すると規定している(ストック・オプション会計基準3項)。 ただし、②又は③に該当する取引であっても、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)等、他の会計基準の範囲に含まれる取引については、ストック・オプション会計基準は適用されない(ストック・オプション会計基準3項なお書き)。 Ⅲ 財貨又はサービスの取得の対価として「自社株式オプション」を付与する取引 ストック・オプション会計基準13項までに規定する会計処理(ストック・オプションに関する会計処理)は、取引の相手方や取得する財貨又はサービスの内容にかかわらず、原則として、取得の対価として「自社株式オプション」を用いる取引一般に適用される(ストック・オプション会計基準14項)。 これは、ストック・オプション会計基準では、一般的に取引の対価として自社株式オプションを用いる取引を適用範囲とし、この場合にも、ストック・オプションに関する会計処理と整合的な会計処理が求められるためである(ストック・オプション会計基準64項)。 ただし、次の事項に注意が必要である。 取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社株式オプションの公正な評価額もしくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定する(上記②。ストック・オプション会計基準14項(2))。 これは、取得した財貨又はサービスの公正な評価額で算定する場合にも、等価での交換の前提となっている契約成立の時点の価値で算定するのが合理的であると考えられているためである(ストック・オプション会計基準50項、64項)。 Ⅳ 財貨又はサービスの取得の対価として「自社の株式」を交付する取引 企業が財貨又はサービスの取得の対価として、自社の株式を用いる取引については、次のように会計処理する(ストック・オプション会計基準15項)。 取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社の株式の契約日における公正な評価額もしくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定する(上記②。ストック・オプション会計基準15項(2))。 通常、公開企業については、自社の株式の市場価格による信頼性のある測定が可能であり、これに基づいて算定すべきものと考えられており、算定の基準日は、いずれの評価額で算定を行う場合であっても、契約日とすることが合理的であると考えられている(ストック・オプション会計基準50項、66項)。 Ⅴ いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定 いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定は、次のように判断する(ストック・オプション適用指針23項、67項~70項)。 Ⅵ 終わりに 「ストック・オプション会計を学ぶ」は、今回(第12回)で終了となる。 「コーポレートガバナンス・コード」において、経営陣の報酬について現金報酬と自社株報酬との適切な割合の設定などが述べられていることもあり、引き続き、ストック・オプションを利用した報酬制度も選択肢の一つと考えられる。 今回の連載が、少しでも実務に役立てば幸いである。 (連載了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第31回:2017年3月改訂】 企業結合会計③ 「株式移転の会計」 仰星監査法人 公認会計士 許 仁九 〈事例による解説〉 〈X2年3月期の連結修正仕訳〉 〇開始仕訳 〇当期純利益の振替 〈会計処理及びその解説〉 株式移転により親会社と子会社が共同で完全親会社を設立する場合、この取引は「共通支配下の取引」に該当することになります(企業結合に関する会計基準16項、「指針」204項(1))。 1 HD社の個別財務諸表上の会計処理 (*1) 株式移転完全子会社株式(旧親会社P社の株式)の取得原価は、P社の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額2,000(=資本金1,700+利益剰余金300)に基づいて算定します(「指針」239項(1)①ア)。 (*2) 株式移転完全子会社株式(旧子会社S社の株式)の取得原価のうち、旧親会社持分(80%)については、S社の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額1,200(=資本金1,000+利益剰余金200)に持分比率80%を乗じて算定します(「指針」239項(1)②ア)。 (*3) 株式移転完全子会社株式(旧子会社S社の株式)の取得原価のうち、非支配株主持分(20%)については、非支配株主A社に交付したHD社株式の時価300に基づいて算定します(「指針」239項(1)②イ)。 2 P社の個別財務諸表上の会計処理 株式移転に際して、P社がS社株式と引き換えに受け入れたHD社株式の取得原価は、S社株式の株式移転直前の適正な帳簿価額により計上します(「指針」239-4項)。 3 HD社の連結財務諸表上の会計処理 (1) P社に係る投資と資本の相殺消去 P社株式の取得原価とP社の株主資本を相殺します(「指針」240項(1)①)。 (2) S社に係る投資と資本の相殺消去 S社株式の取得原価とS社の株主資本を相殺し、消去差額は資本剰余金に計上します(「指針」240項(1)②)。 (3) P社所有HD社株式の自己株式への振替 P社がS社株式と交換により受け入れたHD社株式は、連結財務諸表上、自己株式に振り替えます(「指針」240項(2))。 (4) 資本項目の振替 HD社の株主資本の額は、株式移転直前のP社の連結財務諸表上の株主資本項目に非支配株主との取引により増加した払込資本の額を加算します(「指針」240項(3))。 株式移転前のP社の連結貸借対照表上の株主資本2,160(=資本金1,700+利益剰余金460)に、非支配株主との取引により増加した払込資本240(A社に発行したHD社株式の時価300+A社からS社株式を取得する際に生じた資本剰余金△60)を加算した額が、HD社の株主資本2,400(=資本金1,700+資本剰余金1,040+利益剰余金460-自己株式800)となります。 なお、利益剰余金の額は株式移転により変動しないため、株式移転前後の利益剰余金の額が同額となるよう、HD社個別貸借対照表上の資本剰余金を連結仕訳により利益剰余金に振り替えます。 (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第1回】 「商業登記記録は「会社の履歴書」」 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに いきなりだが、まず自社又は顧問先の企業が以下のチェックリストに当てはまるか、確認していただきたい。 ◆ ◆ ◆ チェックリスト ◆ ◆ ◆ □ 役員の任期到来の時期を把握している。 □ 登記記録と定款の記載に不一致がない。 □ 会社代表者の住所変更に伴う登記を変更のたびに行っている。 □ 全株主の氏名、住所、持株数、株式取得年月日を株主名簿に反映している。 □ 株主、役員の全員と連絡をとれる状態であり、株主、役員の意思表示は問題なく行われる。 □ 株主総会や取締役会に参加資格のある者に漏れなく決議の機会を与えている。 □ 株主の構成に変動がある場合に、会社所定の書式によって経過を証明できる。 □ 議事録や定款等の備置書類を時系列に沿って保管し、必要に応じて取り出せる。 □ 株主総会で定款変更の決議のたびに、定款を更新している。 チェックの結果はいかがであっただろうか。 上記項目のうち一つでも漏れがあるという会社は、これから始まる本連載の解説を読み進め、活用していただきたい。 本連載『これからの会社に必要な『登記管理』の基礎実務』では、主に会社の実務担当者や、法人案件に携わる税理士等を対象に、登記に至るまでの過程を軸とする社内整備の方策について、司法書士の立場から、分かりやすく、かつ、実践的に解説していく。 商業登記記録は「会社の履歴書」 本連載を読み進めていくうえで、まず、 商業登記記録 = 会社の履歴書 とイメージしていただきたい。 会社情報を精査するには、商業登記記録が記載される、法務局発行の「履歴事項全部証明書」を活用する。 この「履歴事項全部証明書」だが、省略して表記すると「履歴書」になる。つまり、商業登記記録は文字通り、「会社の履歴書」のようなものといえる。 個人の履歴書には、氏名、住所、生年月日をはじめとして、学歴や資格、職歴等の項目がある。一方、商業登記記録には、個人の履歴書に対応する、会社の商号、本店、会社の成立年月日をはじめとして、資本金、役員構成、機関設計等の項目がある。 共通点は? 例えば個人の履歴書の場合、入社を希望する会社の書面審査において、一定の審査水準を超えると、その書面審査を通過できる。逆に一定の水準を満たさないと、面接等の次のステップに進めない。誤字・脱字や、矛盾点がみられたり、転職回数が重なったりすると、審査の水準が満たされない可能性が高くなる。 上記のことは、会社の場合にも当てはまる。取引を検討するにあたり、対象会社の商業登記記録を確認することになるが、審査の水準を満たせば、取引開始のステップに近づく。逆に最低限の水準を満たしていないと、取引が見送りになるおそれがある。登記記録と会社資料の記載に不一致があったり、本店移転や商号変更が頻繁に行われたりするといった点は、会社の信用力低下に結びつく。 相違点は? 個人の履歴書と会社の商業登記記録には、上記のような共通点がある一方、次のとおり相違点がある。 会社の履歴書の特徴をまとめると、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 以上、商業登記記録の特徴をまとめると次のとおりである。 一定の時期に、複数の者の意思決定によって更新され、誰でも閲覧することができる記録 本連載の今後の進め方 本連載では、下図のとおり、商業登記記録の特徴を踏まえて、登記に至るまでの過程として、『任期管理』・『株主管理』・『議事録管理』の3点に着目する。 そして、この3点の総称を『登記管理』と定義する。 会社の登記管理が万全であれば、その会社の意思決定が迅速かつ忠実に登記記録に反映され、会社の信用力向上を期待できる。 他方で、登記管理が不十分であると、会社の意思決定が滞ったり、覆ったりする等のリスクを伴い、会社の信用力低下が懸念される。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 * * * 次回は、登記管理を怠った場合、どのようなリスクが生じるのかという点について紹介したい。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第6回】 「管理者による『預金の使い込み』(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問06] 90歳になる私の父は、2年前に中程度の認知症と診断されたのと同時に内臓疾患が見つかったため、手術を行い、その後も長期間の入院を余儀なくされていました。 父は先月亡くなりましたが、遺言書を残していなかったため、相続人となる私と私の姉との2人で遺産の分割を協議することになりました。 しかし、ほぼ唯一の遺産であったはずの父の銀行預金が、死亡時にはわずか数十万円程度しか残っていなかったのです。 ◆ ◆ ◆ 父の入院中、身のまわりのことは、私の姉がすべて面倒を見ていました。 姉はもともと実家で父と2人暮らしをしていたので、父が入院したとき、自然の流れで父から通帳と印鑑を預かり、必要な入出金を代行することになりました。姉は、病院での付き添い、日用品の買い出し、入院費用等の各種支払い等、まさに父の生活全般をサポートしていました。 認知症となっていた父はひとりでは生活ができず、その中で姉が献身的な働きをしてくれたことには感謝しているのですが、父は入院する以前のまだ元気な頃から、常々、「自分が遺産として残せるのは、約1,500万円の銀行預金しかない。他にめぼしい財産は持っていないので、孫たちのためにもできるだけ無駄遣いはせず、お前たち娘に残してやるつもりだ。」と話していたのです。 約1,500万円あったはずの銀行預金も、わずかこの2年間で無くなってしまったということになります。 ◆ ◆ ◆ 私は不審に思い、姉に尋ねてみましたが、姉は との一点張りで、埒が明きません。 姉による財産管理が適切であったかが極めて疑わしい状況のなか、私は一体どうすればよいのでしょうか。 1 急増する「預金の使い込み」問題 筆者が弁護士として日々さまざまな相談を受けるなかで、近年急増しているトピックスが、いわゆる「預金の使い込み」である。 そして、この典型的な相談事例を元にしたのが今回の【設問06】である。 高齢に伴う判断能力の低下や身体障害等から、自分ひとりでは財産の管理や各種の支払いが困難な状況となったものの、成年後見人を付けるといった大袈裟な話になることは好まない、というようなケースはいくらでもある。 このようなケースで、子供や親族と同居していたり、または近所に住んでいる場合には、その者を信用して預金通帳や印鑑を預け、財産管理を任せることも非常に多い。 そのような中で使途不明金が発生し、財産管理に携わっていなかった親族から“不正な使い込み”を疑われてトラブルになるというのが「預金の使い込み」の事案である。 今回は、【設問06】の相談者=請求側の立場に立って、この種のトラブルへの対応方法を解説したい。 2 被害状況の把握(1)-「入出金明細」の取り寄せ まず何よりも、本件での被害状況、すなわち、 本人の存命中に、預金が、いつ、いくら払い戻されたのか? を正確に確認することが最優先となる。 本件では、相談者の父が既に亡くなっているため、法定相続人である相談者は、父名義の預金口座の「入出金明細」につき、自分ひとりで(=姉の協力・承諾を得ることなく)金融機関に請求し、開示してもらうことができる。これは判例も認めるところであるし、金融機関における実際の運用もそうなっている。 本件では、姉が財産管理を開始したのが2年前とあるので、その時期(入院開始前後)以降、現在までの入出金明細を入手できれば足りるだろう。 なお、【設問06】とは異なり、父がまだ存命中に「預金の使い込み」が疑われる事態が発生した場合は、どのようにすればよいだろうか。 この場合には、父本人に事情を話し、事実関係の正確な把握の必要性を理解してもらった上で協力を要請し、本人から委任状を入手して、代理人としての立場で金融機関に入出金明細の開示を求めればよい。 他方、本人がなかなか協力してくれない(自分が依頼した親族に財産管理を任せているというのであるから、心情的に協力を拒絶する場合も少なくない)といった場合には、入出金明細の確認もできず、通帳の確認も困難ということになり、その段階では事実関係の確認が困難といえる。 したがって、財産を管理している親族に対して直接に、通帳の写しや入出金明細の入手・開示を求めていくべきであろう。 3 被害状況の把握(2)-「出金一覧表」への整理 入手金明細を取り寄せた後は、特に出金(払戻し・引き落とし)の内容を精査していき、①出金日時と②出金額、そして、必要に応じて③出金場所(どこの支店・ATMか)を、時系列で一覧表に整理していく。 こうして一覧表に整理していくことで、出金の総額はいくらであったのか(数年間で千万単位の出金がなされていることも珍しくない)、出金が頻繁になされた時期はいつか等の情報が立体的に浮かび上がってくる。 一覧表作成の際のポイントとしては、①入手金明細や通帳等の記載から送金先・引き落とし先がわかるもの(例えば、水道光熱費、携帯料金、病院への支払い等)は除外する。 これは、高齢者本人の生活のために必要な支出であることが表記上明らかであり、請求内容から外すことで議論が整理されるからである。 同様に、②使途が不明な出金であっても、一度の出金で例えば5万円以下といった少額の出金も除外する。 これは、あまりに少額の出金を計上するとなると、後の損害額の計算が煩瑣になるためであるのと、金額に照らして、高齢者本人の日常生活にまつわる支出であると推測されるからである。 ただし、この場合でも、1日のうちで何度も出金がなされている場合や、短期間で多数回の出金がなされている場合には、例外的に一覧表に計上する。 4 管理者への返金請求 以上のようにして出金一覧表を作成すると、【設問06】においても、ここ2年間での姉による出金のうち、使途が不明であるものが特定できる。 そのうえで、まずは示談交渉として、以下のような段取りで交渉を進めていくのが良いであろう。 以上のように示談交渉を進め、姉との間で一定金額の返金をしてもらうことで合意できた場合には、合意書を作成し、この件については紛争を清算する。 他方で、示談交渉が物別れに終わった場合には、①中立的な第三者の仲介による話合いでの解決を目指し民事調停を申し立てるか、あるいは、②裁判所による判断を下してもらうべく、姉を被告とした民事訴訟を提起することを検討することになる。 調停申立てや訴訟提起の際には、前記のようにして分析して作成した出金一覧表を調停申立書ないし訴状別紙として添付すると、裁判所の方でも整理がしやすく、便宜である。 * * * それでは、請求を受けた姉の側としては、どのような対応をしていくべきか。 次回は、裁判となって以降の攻防に関連して、今回とは逆の姉の立場(財産管理者側)での争い方につき説明したい。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成29年3月23日、「平成28年7月から9月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全12件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が6件、棄却又は却下された事例が6件となっている。税法・税目としては、所得税法5件、国税通則法及び相続税法が各2件、法人税法、登録免許税及び消費税法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年7月~9月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された12件の裁決事例のうち、重加算税の賦課決定処分と更正期間に関する不服審判所の考え方が示された上記②の裁決事例をはじめ、いずれも棄却事例であるが、所得税と消費税に関する事例をそれぞれ1件、紹介したい。いつものお断りであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 重加算税(隠蔽、仮装の認定)・・・② 本件は、国税不服審判所が、重加算税の要件である「仮装、隠蔽」は認めなかったものの、更正期間を7年とする「偽りその他不正の行為」を認定した事例である。 (1) 争点 (2) 審判所の判断 ① 重加算税の賦課決定処分(国税通則法68条) 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、審判所は、以下の理由から、請求人が本件事業に係る帳簿を作成していなかったことをもって、過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動とまでは評価することができないと結論づけた。 ② 更正期間を7年とすることの是非(国税通則法70条) 一方、国税通則法70条に規定する「偽りその他不正の行為」について、審判所は以下のように定義する。 そのうえで、請求人については、以下のとおり、「偽りその他不正の行為」に該当すると判断した。 2 雑所得(収入すべき時期)・・・⑤ 本件は、外貨建借入金の為替差益の計上時期をめぐって、国税不服審判所が、審査請求人の主張を認めなかった事例である。 (1) 争点 借換えの時点において、既存の外貨建借入金の借入時の円換算額と新規の外貨建借入金により取得した外貨による返済額の円換算額との差額である為替差益を所得として認識すべきか否か。 (2) 審判所の判断 審判所はまず収入金額の計上時期について、最高裁昭和49年3月8日判決を引用して、次のように述べた。 そのうえで、外貨建取引を行った場合の円換算について規定する所得税法第57条の3第1項の規定についても、「所得の実現があったことを前提として、当該所得の金額の計算方法について規定したものであり、未実現の利得について同項の規定による換算を行うことにはならないと解される」として、あくまでも実現した為替差損益を課税の対象とすることを示し、具体的に、為替差損益の認識基準を次のように述べた。 そして、請求人の借換えについては、「同一支店から、同一の通貨、同一の金額で行われたものであり、借入れ及び返済の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められない」ことから、「計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる」と結論づけて、請求人の主張を退けた。 3 非課税取引(住宅の貸付け)・・・⑫ 本件は、再転貸借契約に係る建物の貸付けが消費税法に規定する非課税取引に該当するかどうか、国税不服審判所が判断を示した事例である。 (1) 争点 請求人の行った賃貸借取引(転貸借取引)は、非課税取引である「住宅の貸付け」に該当するか否か。 (2) 消費税法基本通達6-13-7 住宅用建物を転貸する場合の取扱いを定めた消費税法基本通達6-13-7(以下「本件通達」と略称する)の規定は、次のとおりである(下線は引用者による)。 (3) 審査請求人の主張 審査請求人の主張の概要は以下のとおりである。 (4) 審判所の判断 審判所は、住宅の貸付けが消費税法上非課税取引とされている趣旨を「住宅の貸付けを行う事業者が賃借人に対し、消費税相当額を転嫁しないことにより、住宅賃借人を政策的に保護することにある」と述べたうえで、本件通達の取扱いを相当であると認めた。 そして、請求人と賃借人との契約条件を検討したうえで、本件賃貸借契約は、賃借人が本物件を住宅(人の居住の用に供する家屋等)として転貸することが契約書その他において明らかであるから、本件賃貸借取引は、消費税法別表第一第13号に規定する「住宅の貸付け」に該当し、その全額が非課税取引となると結論づけた。 また、審判所は、請求人の主張について、以下のように斥ける見解を示している。 (了)
《速報解説》 東証、「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」を公表 ~「自社株買いの合理性」等、6つの検討ポイントで 「想定される質問の例」と投資家の考え方を説明~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年3月17日、株式会社東京証券取引所は、「資本政策に関する株主・投資家との対話のために ~リキャップCBを題材として~」(以下「本報告書」という)を公表した。 これは、上場会社と株主・投資家の相互理解を深め、持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための建設的な対話を促進することを目的とするものであり、リキャップCBと呼ばれるエクイティ・ファイナンスを例にして、中長期的な視点で投資する投資家の目から見た疑問点等を明らかにすることで、投資家の資本政策に関する考え方を解説するものとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 リキャップCB リキャップCBとは、転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行で資金を調達すると同時に自社株買いを行うことで、負債を増やしつつ資本を減らし、資本再構成(リキャピタライゼーション)を行う資本政策である(2頁)。 リキャップCBを発行すると、資本が減少してROE(自己資本利益率)の分母が小さくなるので、計算上、ROEの値が大きくなる効果がある。 2 対話のポイント 国内外の機関投資家等からは、上場会社が資本生産性の改善に取り組むことは評価できるものの、リキャップCBは必ずしも企業価値の向上に寄与せず、既存株主の立場からは歓迎できないという批判的な意見もあるとのことである。 このように、上場会社と投資家との間の資本政策を巡る意見の相違に関して、建設的な対話を促進するために、リキャップCBを題材として、本報告書では、重要な6つのポイントとして、以下の事項を挙げて説明している。 (了)
2017年3月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.211を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第33回】 「パーティー費用と祝金・会費」 税理士 山本 守之 1 パーティー費用とお祝金 裁決例、判決例では祝金控除は否定されていますが、一部の識者の間では祝金を控除すべきであるという主張もあります。 例えば、日税研論集第11号(武田昌輔氏稿)では、「創立何十周年等の祝賀パーティーの費用が交際費等に該当することはいうまでもないが、これに伴い収受した祝金を控除するかどうかである。私見としてはこれを支出交際費等から控除することが妥当であると考えるのである。」として次のような理由を挙げています。 ただ、現実の税務執行では、祝金の支出とパーティーの開催は並列的に行われた2つの交際行為であり、祝金は記念行事の費用の一部に当てられることが予定されていたものではないので、祝金を控除すべきではないと考えられており、裁決例、判決例でもこの考え方は支持されています。 2 技報堂事件 技報堂事件における判決は次のようなものです。 この判決で祝金控除を否定している論拠は次のようなものです。 ① (パーティーという)行事は主催者と祝金を持参した招待客と共同で行われたものではない。 ② パーティーを機会として祝金の支出とパーティーの開催という2つの交際行為があったのだから両者の間に二重課税は存在しない。 ③ 祝金の収受が主催者にとって収益であることを否定する根拠はない。 筆者としては、判決は現行法の解釈としては当然のことを述べていると考えます。 3 嶋根鋼商事件 2と同様に、パーティー費用から祝金を控除できるか否かについて争われた別の事件があります。この事件で裁判所では次のように判示しています。 この事件で裁判所が祝金控除を否定する論拠としたのは次のようなものです。 ① 祝金はパーティー費用の一部に充てられることが予定されていたものではない。 ② 招待客から収受する祝金の有無及びその多寡にかかわらず、パーティー主催者はパーティー費用の全額支出を免れなかったはずである。 ③ 二重課税が生ずるとしても、それは立法政策の問題であり、法解釈上は格別の意義を持つものではない。 二重課税論に対して、国税不服審判所と東京地裁では、パーティーの開催と祝金の支出という2つの交際があったとする考え方であり、浦和地裁は立法方策の問題であるとしているところに興味があります。 この事件は、控訴審(平成3年4月24日東京高裁)でも上告審(平成3年10月11日(※)最高裁第二小法廷)でも祝金控除が否定されています。控訴審では課税の目的、税金と会費の差異等が争われていますが、控訴人と判示とを対比してみると次のようになります。 《課税の目的》 【控訴人主張】 記念行事に要した支出交際費の額から招待者からの祝金を控除した金額をもって交際費等の額としたとしても、招待者側の祝金の支出に課税すれば、措置法62条(現行61条の4)の目的(資本蓄積)を達成できる。 【判 示】 交際費等の損金不算入制度の趣旨・目的は単に資本蓄積の促進に止まらず交際費等の支出自体の抑制にある。 《祝金と会費の差異》 【控訴人主張】 本件記念行事における招待者からの祝金は、慣行上持参することが、義務づけられており、その実質は会費、協賛金と異ならず、両者が費用を分担する関係にあるから、支出交際費の額から控除すべきである。 【判 示】 同祝金は費用分担の同意に基づく会費、協賛金とはその性質を異にし、主催者はその金額の多寡にかかわらず、記念行事の全額の支払いを免れないから、その祝金相当部分のみについて交際費性に欠けるということはできない。 控訴人の主張を検討してみると、交際費課税の目的を制度創設時(昭和29年)の資本蓄積策という古い考え方を基礎にしており、交際費の支出を抑制するという現代的感覚が不足しているように思われます。 また、祝金と会費との差異についても、祝金の持参は慣行となっているものの、会費のようにパーティー費用に充てられることが予定されているものとは異なるという視点が欠落しているようです。 4 会費制の場合 会費制でパーティーを行った場合は、祝金とは事情を異にし、幹事会社が支出した交際費等から受け入れた会費は控除できます。これは、パーティー費用を参加者が負担したということです。その負担額が交際費等となるのです。 これらについては、次のような裁決例があります。 つまり、会費制の場合は、その支出自体が義務的なものであり、費用負担の性格を持っているのですから、幹事となる法人は、参加者から集めた会費と幹事法人が負担した会費を明確に区分でき、パーティー費用を会費等として負担し合ったという実態がありますので、それぞれの実負担額を交際費等とする意味で、幹事法人はホテル等に支払ったパーティー費用から参加者から受け入れた会費を控除して交際費等の計算をしてよいのです。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第3回】 「海外赴任と国外転出時課税」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本国籍)甲は、同族会社乙社の専務取締役をして日本で長年仕事をしています。平成29年5月10日よりA国の100%子会社に社長として3年間(平成32年5月10日帰国予定)赴任します。役員報酬は乙社から支払われることから、所得税等が源泉分離課税されるということは承知しています(【第2回】参照)。 父(社長)は財産をたくさん持っているようですが、私個人の財産は、ローンで買った自宅(赴任後も家族が居住)と自社株と金融機関から頼まれて保有している投資信託です。 税務上、気をつけておくべくことがありますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国外転出時課税とは 平成27年度の税制改正で国外転出課税制度が導入された。これは、居住者が海外に移住して非居住者になった後に有価証券を売却した時に、所得税が国内法で課されないことや租税条約により課されなくなること、さらに現地の法令でも所得税が課されないことを利用して、非課税で有価証券を売却することによる租税回避が散見され問題となったことによる。他の先進国では既に、租税回避防止のための出国税のような制度があり、遅ればせながら日本でも導入に至った。 国外転出時課税制度とは、原則として、国外転出する日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している人が国外転出時に保有する有価証券や匿名組合出資、信用取引やデリバティブ取引の残高が合計額で1億円以上の場合は、国外転出時にこれらの財産の譲渡があったものとみなして所得税課税がなされるものである(所法60の2①~⑤)。この制度を設けることにより、国外転出による所得税課税逃れが困難となった。 甲の場合、国外転出時の財産の価額(もし、納税管理人を定めずに出国する場合は、国外転出時から3ヶ月前)が1億円以上である場合(所法60の2①⑤)は、国外転出時課税の対象となる。甲の場合、対象財産となるのは、同族会社の株式、投資信託となる。 なお、非上場株式の時価は財産評価基本通達に基づいて原則的には評価するが、会社が保有する土地や上場有価証券は時価評価となり、かつ、評価益に対する法人税額控除は認められない(所基通60の2-7、59-6)。 ▷納税資金がなく困っている場合は 国外転出時課税制度は、有価証券等が換金されない時点で課税されるため、納税資金が不足することも考えられる。また、有価証券を保有して国外転出した人が帰国してその後売却した場合は、日本での課税が可能であることから、あえて国外転出時に課税する必要は生じない。そこで次のような納税猶予制度が設けられている。 ▷納税猶予のための手続 納税猶予のための手続としては、まず、納税管理人の届出書を国外転出前に提出することが必要となる。納税猶予期間は、原則は5年で、10年に延長することができる(なお、納税猶予額の納期限は満了日から4ヶ月以内)(所法137の2①②)。 確定申告期限までに、国外転出時に保有している財産について納税猶予を受ける旨の記載のある書類を添付して申告するとともに、担保の提供を行わなければならない(所法137の2①)。この担保については、非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度とは異なり、国税通則法に基づく手続となる(所基通137の2-7)。 もし甲が5年の納税猶予を選択した場合は、平成29年5月10日までに納税管理人の届出書を提出し、平成30年3月15日までに申告と担保提供を行わなければならない。納税猶予の満了日は平成34年5月10日であり、納期限は平成34年9月10日となる。 ▷申告期限後の手続 国外転出時の年分の所得税の申告書を提出後、納税猶予期間内の年の12月31日に国外転出時課税対象財産を保有している場合は、翌年の3月15日までに継続届出書を提出しなければならない(所法137の2⑥)。もし、提出を怠った場合は、納税猶予期間の繰り上げが行われることになるから注意が必要である(所法137の2⑧)。 甲の場合は平成30年12月31日分の継続届出書を平成31年3月15日まで、平成31年12月31日分の継続届出書を平成32年3月15日までに提出しなければならない。 ▷帰国した場合の手続 国外転出時課税は、海外で有価証券等を売却して日本での租税を回避することを防止するための規定であるため、日本に帰国した場合は、この制度を適用させる必要がない。 そこで、納税猶予期間(5年又は10年間)の満了日までに帰国した場合、又は、納税猶予の適用を受けず、5年以内に帰国した場合で、国外転出時課税対象となる財産を引き続き有しているときは、原則的には、国外転出時課税を取り消すことができる(所法60の2⑥⑦)。そのためには、帰国した日から4ヶ月を経過する日までに、更正の請求を行わなければならない(所法153の2①)。 甲がA国から平成32年5月10日に帰国した場合は、平成32年9月10日までに更正の請求を行うと、国外転出時課税は取り消すことができる。もし、更正の請求を失念して、期限までに取り消さない場合には、国外転出時課税分の納税が確定することになる。 国外転出時課税は何をいつまでにしなければならないかを把握していないと、納税負担だけ生ずる怖い制度であるので、潜在的な国外転出時課税の対象者が顧問先等にいる場合は、細心の注意を払って処理する必要がある。 (了)