公開日: 2017/03/30 (掲載号:No.212)
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ストック・オプション会計を学ぶ 【第12回】「財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理」

筆者: 阿部 光成

ストック・オプション会計学ぶ

【第12回】
(最終回)

「財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

連載最終回となる今回は、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号。以下「ストック・オプション適用指針」という)にしたがって、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引について解説する。

なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ ストック・オプション会計基準の適用範囲

ストック・オプション会計基準は、次の取引に適用すると規定している(ストック・オプション会計基準3項)。

 企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引

 企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社株式オプションを付与する取引であって、以外のもの

 企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社の株式を交付する取引

ただし、又はに該当する取引であっても、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)等、他の会計基準の範囲に含まれる取引については、ストック・オプション会計基準は適用されない(ストック・オプション会計基準3項なお書き)。

 

Ⅲ 財貨又はサービスの取得の対価として「自社株式オプション」を付与する取引

ストック・オプション会計基準13項までに規定する会計処理(ストック・オプションに関する会計処理)は、取引の相手方や取得する財貨又はサービスの内容にかかわらず、原則として、取得の対価として「自社株式オプション」を用いる取引一般に適用される(ストック・オプション会計基準14項)。

これは、ストック・オプション会計基準では、一般的に取引の対価として自社株式オプションを用いる取引を適用範囲とし、この場合にも、ストック・オプションに関する会計処理と整合的な会計処理が求められるためである(ストック・オプション会計基準64項)。

ただし、次の事項に注意が必要である。

 取得した財貨又はサービスが、他の会計基準に基づき資産とされる場合には、当該他の会計基準に基づき会計処理を行う。

 取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社株式オプションの公正な評価額もしくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定する。

 自社株式オプションの付与日における公正な評価単価の算定につき、市場価格が観察できる場合には、当該市場価格による。

取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社株式オプションの公正な評価額もしくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定する(上記。ストック・オプション会計基準14項(2))。

これは、取得した財貨又はサービスの公正な評価額で算定する場合にも、等価での交換の前提となっている契約成立の時点の価値で算定するのが合理的であると考えられているためである(ストック・オプション会計基準50項、64項)。

 

Ⅳ 財貨又はサービスの取得の対価として「自社の株式」を交付する取引

企業が財貨又はサービスの取得の対価として、自社の株式を用いる取引については、次のように会計処理する(ストック・オプション会計基準15項)。

 取得した財貨又はサービスを資産又は費用として計上し、対応額を払込資本として計上する。

 取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社の株式の契約日における公正な評価額もしくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定する。

取得した財貨又はサービスの取得価額は、対価として用いられた自社の株式の契約日における公正な評価額もしくは取得した財貨又はサービスの公正な評価額のうち、いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額で算定する(上記。ストック・オプション会計基準15項(2))。

通常、公開企業については、自社の株式の市場価格による信頼性のある測定が可能であり、これに基づいて算定すべきものと考えられており、算定の基準日は、いずれの評価額で算定を行う場合であっても、契約日とすることが合理的であると考えられている(ストック・オプション会計基準50項、66項)。

 

Ⅴ いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定

いずれかより高い信頼性をもって測定可能な評価額の判定は、次のように判断する(ストック・オプション適用指針23項、67項~70項)。

公開企業

 公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として「自社の株式」を用いる取引に関しては、通常、自社の株式の市場価格による信頼性のある測定が可能であり、これに基づいて算定する。

 公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として「自社株式オプション」を対価として用いる取引に関しては、通常、自社の株式の市場価格を基礎として、自社株式オプションの公正な評価額について信頼性をもって測定することが可能であり、自社株式オプションの公正な評価額に基づいて算定を行う。

 ただし、特に取得する財貨等が市場価格とより直接的に結びついているような場合には、財貨等の市場価格で測定することで、より信頼性の高い測定が可能となる場合があり得る。

未公開企業

 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として「自社株式オプション」を用いた場合、これと対価関係にある財貨又はサービスの市場価格を参照できる場合には、その市場価格で算定を行う。

 財貨又はサービスの市場価格を直接参照できない場合にも、その市場価格を合理的に見積ることにより、自社株式オプションより信頼性の高い測定が可能となる場合が多く、そのような場合には、その合理的に見積られた市場価格で算定を行う。

 未公開企業において、財貨又はサービスの取得の対価として「自社の株式」を用いた場合であって、第三者割当増資や株式の売買がなされており、これらの情報をもとに、一定程度の信頼性をもって自社の株式の公正な評価額を見積ることができる場合には、これに基づいて算定する。

 

Ⅵ 終わりに

「ストック・オプション会計を学ぶ」は、今回(第12回)で終了となる。

「コーポレートガバナンス・コード」において、経営陣の報酬について現金報酬と自社株報酬との適切な割合の設定などが述べられていることもあり、引き続き、ストック・オプションを利用した報酬制度も選択肢の一つと考えられる。

今回の連載が、少しでも実務に役立てば幸いである。

(連載了)

ストック・オプション会計学ぶ

【第12回】
(最終回)

「財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引の会計処理」

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

連載最終回となる今回は、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号。以下「ストック・オプション適用指針」という)にしたがって、財貨又はサービスの取得の対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引について解説する。

連載目次

【参考記事】
「金融商品会計を学ぶ」(全29回)

【参考記事】
「減損会計を学ぶ」(全24回)

【参考記事】
「税効果会計を学ぶ」(全24回)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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