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ファーストステップ管理会計 【第4回】「製造間接費の固定・変動分解」~引き出しの中を整理する~

ファーストステップ 管理会計 【第4回】 「製造間接費の固定・変動分解」 ~引き出しの中を整理する~ 〔原価管理編③〕 公認会計士 石王丸 香菜子   【第2回】で解説したように、現代の企業では、製造間接費の管理が重要性を増しています。 今回は製造間接費について、掘り下げて考えてみましょう。   ◆製造間接費は子どもの机の引き出しのようなもの 子どもの机の引き出しは、たいてい散らかっているものです。『ドラえもん』でも、のび太の机の引き出しには、0点の答案や文房具など、いろんなものが整理せずに入っていますね。 製造間接費もこれに似ています。製造間接費は、どの製品を製造するために発生したのかが明確でない費用すべてなので、さまざまな性質の費用がひとまとめにされた、“費用のるつぼ”です。 このようにゴチャゴチャな状態では製造間接費を管理しにくいので、整理する必要があります。この場合、一般に、変動費と固定費とに分解する方法が採られます。   ◆変動費と固定費 費用のうち、操業度に比例して変動する費用を、「変動費」といいます。 なお「操業度」とは、企業の生産能力のことで、直接作業時間や機械運転時間、あるいは生産数量など、費用発生と関連する物量的な基準を指します。ベーカリーで考えれば、パンを包むビニール袋の費用は、パンの製造量に応じて増減するので、変動費に当たります。 これに対し、操業度に関係なく常に一定額が発生する費用を、「固定費」といいます。ベーカリーのオーブンの減価償却費は、パンの製造量に関係なく発生するので、固定費です。   ◆準変動費と準固定費 変動費と固定費の中間的性格の費用も存在します。 操業度がゼロでも一定額が発生し、さらに、操業度の増加に応じて比例的に増加する費用は、「準変動費」です。ベーカリーの電気代やガス代は、パンを製造しなくても基本料金が発生し、パン製造に伴い電気やガスの使用量が増えるにつれて増加するので、準変動費です。 また、操業度が一定水準までは常に一定額が発生し、ある水準を超えると一気に増加した一定額が発生するような費用もあります。例えば、ベーカリーで材料などの保管スペースを借りているとして、一定の保管スペースにつき定額の保管料を支払うとします。通常は保管スペースが1つだったところを、パンの製造量が大幅に増えて、2つのスペースに変更した場合、保管料は一気に増加します。このような費用は「準固定費」と呼ばれます。   ◆製造間接費全体の発生形態 以上を踏まえると、製造間接費全体の発生形態としては、操業度をx、製造間接費の発生額をyとした場合、y=ax+bという一次関数を概ね想定することができます。傾きaは操業度に対する変動費の発生割合、y切片であるbは固定費に当たります。   ◆費目別精査法~地道に一つずつ整理する方法 製造間接費を変動費と固定費とに分解するには、複数の方法があります。 引き出しの中身を一つずつ地道に確認して整理するように、製造間接費の中身を、費目ごとに変動費と固定費とに分類する方法を、「費目別精査法(勘定科目精査法)」といいます。小規模な企業や製造間接費の内訳がシンプルな場合は、費目別精査法が適しています。小さい引き出しを、その持ち主本人が整理するようなイメージです。 ただし、費目別精査法には、変動費か固定費かの分類が主観的になりがちであるという短所があります。引き出しの持ち主本人が片づけても、いらないものを捨てられず、なかなか片づかないこともありますね。また、大きな引き出しを片づける場合、中身を一つ一つ確認していては膨大な時間がかかるように、製造間接費の内訳が複雑で多岐にわたる場合には、費目別精査法が適さないこともあります。   ◆最小自乗法~条件を設けて一気に整理する方法 これに対し、例えば、読んだかどうかは別として引き出しの中の雑誌はすべて捨てるなど、条件を設けて一気に整理する方法もあります。製造間接費の分解でも、過去の実績値から変動費・固定費を数学的に割り出す方法があります。 実用的方法として「最小自乗法」を押さえましょう。 「最小自乗法」とは、複数の数値から近似を求める際、数値の誤差の自乗和を最小にすることで、最も確からしい値を求める計算方法です。 ・・・ここまで読んで苦手意識を持たれた方に朗報です! 実際には、Excelを利用すれば簡単ですので、心配はいりません!   ◆最小自乗法の数値例 では具体的に、最小自乗法について説明していきましょう。 あるベーカリーの毎月の作業時間(操業度)をx、製造間接費をyとし、12ヶ月分のデータが以下のようであったとします。 これらの実績値をプロットすると、次のようになりました。この実績値の点を最もよく表す(近似する)直線(下図の点線)をy=ax+bとします。 ここで下図のように、各実績値(xi,yi)から、直線y=ax+bまでの距離が最も小さくなれば、この直線が各実績値を最もよく近似していると言えます。 各実績値からy軸に平行に引いた直線がy=ax+bと交わる点は、(xi,axi+b)なので、直線y=ax+bまでの距離は、axi+b-yiです。この値はマイナスにもなりうるので、その影響を消すため、これを自乗すると、(axi+b-yi)²となります。 すべての実績値についての自乗値の和を最小にするようなaとbを求めれば、それが実績値を最もよく表す直線です(このため、「最小自乗法」と呼ばれます)。 数学的には、この自乗値の和を、aとbでそれぞれ微分したものが0となるようなaとbを求めるのですが、ここでは数学の勉強が目的ではないので、結論だけ示します。 以下の連立方程式を満たすaとbを求めます。 4,980a+12b=19,220 2,096,600a+4,980b=8,006,500 これを解くと、a≒1.01、b≒1182.5となります。すなわち、操業度に対する変動費割合は1.01千円で、固定費は1182.5千円です。   ◆最小自乗法はExcelを使うと便利 製造間接費の分解は修行ではありませんので(笑)、Excelを利用しましょう。 まず、Excelに操業度と製造間接費の月次データを入力します(会計ソフトに、データをExcel形式で出力する機能があれば、これを使うとよいでしょう)。 次にExcelの「グラフ」というウィザードを利用します。データを指定して、グラフウィザードの中から、「散布図」を選ぶと、データをプロットした散布図が作成されます。このグラフの要素として、「近似曲線」を追加できますので、これを選択するだけです(線形近似を選びます)。数式を表示させれば、求めたいaとbの値がわかります。 なお、Excelでは「R-2乗値」という値も表示できます。詳細は割愛しますが、この値は0から1の間を取り、1に近いほどよく近似していることを表します。求めた値がどの程度もっともらしいかを知りたいときに、参考になる数値です。   ◆自社に合った方法で分解すればいい 最小自乗法は客観的で、子どもの引き出しを母親が片づけるようなものです。ただし、あくまでも過去の実績値を前提として線形近似するだけなので、費用が生じる構造や操業度が著しく変化するような場合には、限界があります。 費目別精査法・最小自乗法のどちらを利用するかは、企業の状況に応じて決めればよいのです。 製造間接費を分解したうえで、次回はこれを用いて、製造間接費の分析を行います。 (了)  

#No. 190(掲載号)
#石王丸 香菜子
2016/10/20

〔経営上の発生事象で考える〕会計実務のポイント 【第10回】「製品のリコールがあった場合」

〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第10回】 「製品のリコールがあった場合」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     1 リコール損失引当金 《解説》 製造業や小売業においては、製商品の販売後に安全上の問題等が判明した場合、当該販売済みの製商品を回収することがあり、これをリコールという。このリコールには、法令に基づく回収と、企業の自主的な判断による回収が存在するが、いずれの場合であっても、企業は将来、リコールによって費用を負担することになる。 企業会計原則注解18では、将来の特定の費用又は損失のうち、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができるものについて、引当金の計上を求めている。 そのため、企業が将来負担することになるリコール費用について、企業会計原則注解18に定められた引当金の計上要件の充足を検討し、要件をすべて満たす場合には、リコールにより生じる費用に備えて引当金を計上することになる。 本件の事例をあてはめると、次のように検討される。 (※) 販売後すぐに発覚した具合で、一部の製品が当初の設計・仕様通りに機能しないような場合は、引当金の計上に関する論点ではなく、当初の収益認識の適切性に関する論点に該当すると考えられる。そのため、ここでは販売後ある程度の期間が経過した後に発覚する不具合を想定している。 供給した部品の不具合が発生し、リコールを行うことになった場合には、リコール費用について引当金の計上要件を満たすかどうか検討し、引当金の計上要件を満たす場合には、将来発生すると見積もられる費用額を「リコール損失引当金」等の科目をもって計上することになる。 なお、この場合の借方に計上している費用又は損失は、通常、臨時的に発生し、金額も僅少ではないため、特別損失として計上する。   2 棚卸資産の評価 《解説》 通常の販売目的(又は販売するための製造目的)で保有する棚卸資産は、取得原価を貸借対照表価額とするが、期末時の正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、収益性が低下しているものとして、棚卸資産評価損を計上して正味売却価額を貸借対照表価額とする。 ここで、正味売却価額とは、以下のように算定される(棚卸資産の評価に関する会計基準第5項)。 正味売却価額 = 売価 - 見積追加製造原価及び見積販売直接経費 本件の事例のように、供給した部品の不具合が発生し、リコールを行うことになった部品を在庫として保有している場合、当該部品は不具合の改修を行わなければ販売することができないため、追加製造原価の発生に伴い正味売却価額が減少し、収益性が低下する。 このような場合には、売価から見積追加製造原価(本事例では不具合改修費用)を控除して算定した正味売却価額と取得原価を比較して、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落しているときには、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理する必要がある。 【評価損の算定イメージ】 以上のように、供給した部品の不具合が発生し、リコールを行うことになった部品を在庫として保有している場合には、取得原価と正味売却価額を比較して、収益性の低下による簿価切り下げの必要がないかを検討しなければならない。   3 後発事象 《解説》 通常、財務諸表は当期に発生した取引・事象をもとに作成するが、今後の動向に関する判断に必要な情報を適時に開示すべきとの考えから、決算日後に発生した重要な事象については、当期の財務諸表に反映もしくは注記することが求められている。 「後発事象に関する監査上の取扱い」では、修正後発事象に該当する重要な後発事象については、財務諸表の修正を行うことが必要であると規定しており、開示後発事象に該当する重要な後発事象については、当期の財務諸表に注記を行うことが必要であると規定している。 そのため、発生した事象の実質的な原因が決算日現在において存在しているか否かで、どちらの後発事象に該当するか判断することとなる。 【修正後発事象となるケース】 リコールの場合、意思決定によってリコールが行われるかどうかが決まるが、修正後発事象の検討では、リコールの原因がいつ存在したかを基準として判断する。つまり、製品の安全上の問題が発生したことによる顧客からのクレームが決算日現在において既に発生しているか否かで判断する。 これは、仮にリコールを行うという意思決定が決算日後に行われたとしても、会社がリコールをするという義務は、供給先からクレームを受けた時点で既に発生しており、リコールの実質的な原因が決算日現在既に存在しているといえるためである。 リコール実施の実質的な原因が決算日現在既に存在している場合には、修正後発事象に該当することとなり、上述の「1 リコール損失引当金」と「2 棚卸資産の評価」の検討を行うこととなる。 なお、これらはリコールを行うという決定が行われた、または、決定が行われることが合理的に見込まれることを前提としている。そのため、リコールを行わない場合には、リコールの義務もなく後発事象の検討も必要ない。 一方、仮にリコール実施の決定が監査報告書日までに行われていない場合であっても、リコールの実質的な原因が決算日現在において既に存在し、リコールの決定が合理的に見込まれる場合には、修正後発事象として当期の財務諸表に反映する必要がないか検討しなければならない。 【開示後発事象となるケース】 一方、リコール実施の意思決定が監査報告書日まで(同日を含む)に行われ、その実質的な原因が決算日後に発生している場合には、開示後発事象に該当し、①リコール決定の旨、②影響額、③その他重要な事項がある場合にはその内容を注記するかどうかの検討を行うこととなる。   【検討事項のチェックリスト】 ~製品のリコールがあった場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 190(掲載号)
#竹本 泰明
2016/10/20

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題 【第8回】「士業が財産管理人/後見人に就任する場合の留意点」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第8回】 「士業が財産管理人/後見人に就任する場合の留意点」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   今回は、本連載〔解説編〕の締めくくりとして、税理士をはじめとした士業が裁判所により成年後見人に選任された場合や、私人間の契約により財産管理人となった場合等の留意点につき説明する。   【留意点1】 後見人としての実務知識を、事前に十分修得しておくこと 士業であれば、各種後見制度に関するひととおりの知識は押さえているところであろう。 しかし、自身が実際に後見人等に就任し、他人の財産を責任をもって管理する立場となれば、①財産管理として、具体的に何をする必要があるのか、②後見人等として、どのような事項につき、どのような書式をもって整理していく必要があるのか、③裁判所等の監督機関への報告はどのようにしていくのか等といった実務知識を満遍なく押さえている必要がある。 万一、後見人等に就任した者が単なる教科書的知識だけしか持ち合わせていなかったならば、就任のその日から途方に暮れてしまうであろう。 そこで、税理士等が財産管理を行おうとする場合には、例えば、東京家庭裁判所が作成・公開している「後見サイト」において公開されている各種情報、とりわけ、「成年後見人保佐人補助人Q&A」や「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック」などは、財産管理に必要な実務知識がわかりやすく網羅的に解説されており、非常に参考になる。このような資料を読み込んでおくことは、最低限の準備として必要であろう。 なお、上記は東京家庭裁判所の例であるが、各地の裁判所が同様の資料を公開・配布している例もあり、中にはそれぞれの裁判所ごとのローカルルール的な事項が含まれている場合もある。 よって、自身が携わる案件を担当している裁判所が配布する資料は、あわせて確認しておく必要がある。 また、裁判所の後見実務も、年々、改善・工夫が重ねられており、書式等も適宜変更がある。そこで、実務知識のアップデートにも留意すべきである。 具体的には、前記東京家庭裁判所の「後見サイト」上で年2回ほど公開される「後見センターレポート」の内容を確認したり、市販の各種専門書籍等をフォローアップしていくことが必要であろう。 なお、以上は主に成年後見人等の法定後見を対象としたものであるが、財産管理の具体的方法等については、任意後見人や私的な財産管理人の場合も要点は共通である。 したがって、このような立場にある者でも、前記の裁判所資料等を参照しておくことは極めて重要である。   【留意点2】 財産管理の透明性確保に、常に留意すること 近年、後見人等が、被後見人の財産を私的に費消し、業務上横領罪に問われる事件が後を絶たない。 最高裁判所が発表したところによれば、後見人による横領問題が広く問題視され、既に裁判所による監督も厳格化されていた平成27年の1年間だけを見ても、専門職後見人(弁護士や司法書士等の士業による成年後見人)による横領事案は計37件(被害総額約1億1,000万円)も発生しているとのことである。 この点、後見人自身が故意で横領した事案は論外であるが、日々の財産管理が杜撰であったことによって使途不明金が生じたり、財産が散逸したということで結果的に横領を疑われるような事態となることは絶対に避けなければならない。 そこで、まずは前記のような家庭裁判所が公開しているハンドブック等が推奨・指導する方式での財産管理を行うことは必須である。 たとえば、財産管理に用いる口座の名義については、①本人の名義とするか、②「△△△△[本人の氏名]成年後見人 〇〇〇〇」との肩書付き名義とすることが求められ、後見人名義の口座に被後見人の財産を混入させてはならない。収支が不明確となり、トラブルのもととなるからである。 その他、財産管理の透明性を確保するためには、以下のような工夫が考えられる。   【留意点3】 判断に迷う事項は、家庭裁判所/後見監督人等と協議すること 後見人による管理行為の中には、事前に家庭裁判所の許可を得る必要があるものも存在する(被後見人の居住用不動産の売却等)。 この場合、法が要求する事前の許可を得ずに独断で契約を進めても、後日に契約が無効とされるリスクがあるので注意が必要である。 上記以外にも、後見人等が財産管理を行っていく中で、判断に迷う事項が発生する場合もある。 この場合、独断で決めることはせず、①具体的な問題点の把握と現状の説明、②現在の被後見人の状況、③当該問題点に対して後見人等として考える処理方針、④③の方針を取った場合に被後見人に与えるメリット・デメリット等につき十分整理した上、家庭裁判所あるいは後見監督人等と協議をし、決定していくべきであろう。 なお、税理士が私的な財産管理人に就任している場合は、財産所有者の判断能力に問題がない場合には本人と、また、判断能力に問題がある場合には親族等と協議して決めていくのが現実的であろう。   【留意点4】 親族との情報交換、管理状況の説明等に配慮すること 税理士等の士業が後見人等に就任する場合は、それまで面識の無い家庭の中に突然介入していき、しかも被後見人の全財産を管理するという大きな権限を与えられる立場となる。 後見人を受け入れる家族の側としては、不安を持つことも当然である(前述したような横領問題が広く報道されている昨今であれば尚更である)。「裁判所が選んだ後見人とは言っても、どこまで信用していい人なのだろうか・・・」というわけである。 実際に、裁判例の中には、財産管理事務について家裁から選任された専門職後見人が、身上監護のみを分掌する被後見人の親族(長年にわたり後見人を努めてきた実母であった)との協力体制をうまく築くことができず、通帳や銀行印の引き継ぎを受けられずに金融機関から預金の払戻を拒絶されたため、金融機関を被告とした民事訴訟へと発展したケースも存在する。 税理士等の士業が頭を悩ませ、事実上突き当たる壁が、このような親族への対応・コミュニケーションといった問題かもしれない。 信頼関係というのは、一朝一夕に築くことはできない。 そのため、後見人等としては、①まずは大前提として、ここまで述べたような適切で、透明化された財産管理を行うことを徹底する、②本人や家族の不安・要望等について積極的に意見交換する機会を持ち、コミュニケーションを深めていくといった地道な努力が必要となる。 このような地道な努力があって初めて、円滑かつ明瞭で、本人や家族の満足度も高い財産管理が実現できるのである。   【解説編を終えるにあたって】 今回までの〔解説編〕にて、認知症が判断能力に与える影響やこれに対する対応方法について一通りの解説を試みた。 ここまでで「認知症」や「判断能力」にまつわる事項について体系的な知識を確認したが、実際の実務においてこれらがもたらす問題点は多岐にわたる。 そこで、連載後半は、〔Q&A〕編とし、〔解説編〕で得た知識を前提に、様々な具体的ケースにおける問題点を検討していくことにしたい。 (〔解説編〕了)

#No. 190(掲載号)
#栗田 祐太郎
2016/10/20

会社役員賠償責任保険(D&O保険)導入時における実務上の留意点-D&O保険を機能させるために- 【第1回】「D&O保険の特徴と会社法及び税務上の取扱い」

会社役員賠償責任保険(D&O保険)導入時における 実務上の留意点 -D&O保険を機能させるために- 【第1回】 「D&O保険の特徴と会社法及び税務上の取扱い」   弁護士・公認会計士 中野 竹司   1 注目を集めるD&O保険 我が国において、コーポレートガバナンス・コードの策定等によるコーポレートガバナンス改革が進められているが、その中核的な施策の1つに「社外取締役の活用」がある。そして、社外取締役の活用が進むためには、社外取締役になる人材の確保が必要であり、社外役員就任の環境整備も進められつつある。 そうした中、2015年7月24日に経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」から「法的論点に関する解釈指針」(以下「経産省解釈指針」という)が公表され、『会社役員賠償責任保険』(以下、「D&O保険」という)の株主代表訴訟担保特約部分も含めた保険料について、一定の手続きを踏めば、その全額が会社法上の役員報酬に該当しないことが確認された。また本年2月には、一定の手続を踏むことで、税務上も役員報酬として所得税課税の対象とならない旨が、経済産業省からの照会に対する回答という形で、国税庁からも示されている。 この結果、「D&O保険を契約すると、その保険料の一部を役員に個人負担してもらわなくてならない」という問題を解消できるようになった。 これらの動向を受け、各企業においては、補償額のより高いD&O保険への加入検討や、複数のD&O保険への加入を検討するなど、D&O保険に対する関心の高まりも見られ、また保険会社による保険商品の開発も進んできている。 このようにD&O保険をめぐる環境整備は進められているものの、保険料の問題はその入り口に過ぎず、D&O保険により、実際に役員個人の負担がどのくらいカバーされるかが、最も重要な問題である。 そこで、以下、保険料をめぐる税務上、会社法上の問題だけでなく、D&O保険についての各種論点について検討する。   2 D&O保険の会社法上・税務上の取扱い (1) 従来の取扱い 会社役員賠償責任保険は、会社法(商法)上の問題に配慮し、従前、普通保険約款等において、株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を設けた上で、別途、当該部分を保険対象に含める旨の特約(以下「株主代表訴訟担保特約」という)を付帯する形態で販売されてきた。 また、株主代表訴訟担保特約の保険料についても、会社法(商法)上の問題に配慮し、これを会社が負担した場合には、会社から役員に対して経済的利益の供与があったものとして、会計上役員報酬の一部として取り扱い、また税務上も給与課税の対象とされていた(国税庁「会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(平成6年1月19日付協火新93-46号照会に対する回答)」)。 この特約に対する役員の個人負担分の、全体の保険料に対する負担割合は10%程度となっていたとのことである(※1)。 (※1) 山越誠司、太田圭介、増島陽香「会社全額負担へ変更可に D&O保険見直し時の検討事項」ビジネス法務2016.61、101頁 (2) 経産省解釈指針を受けた取扱いの変更 今般、経産省解釈指針により、株主代表訴訟で役員が敗訴して損害賠償責任を負担する場合の危険を担保する部分(以下「株主代表訴訟敗訴時担保部分」という)に係る保険料を会社が会社法上適法に負担することができる場合には、株主代表訴訟敗訴時担保部分を特約として区分する必要がなくなることから、普通保険約款等において株主代表訴訟敗訴時担保部分を免責する旨の条項を設けない新たな会社役員賠償責任保険が設計されるようになった。 この場合の税務上の取扱いは、新たな会社役員賠償責任保険の保険料を会社が、次の手続きを行うことにより会社法上適法に負担した場合には、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要はないとされている(前述の国税庁の回答参照)。 もっとも、上記①②の要件を満たさない従来型の会社役員賠償責任保険の保険料を会社が負担した場合には、従前の取扱いのとおり、役員に対する経済的利益の供与があったと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要がある。なお、会社法上の論点の詳細については【第3回】で述べる。   3 D&O保険の特徴 (1) D&O保険とは D&O保険とは、保険契約者である会社と保険者である保険会社との契約により、被保険者とされている役員(※2)の行為に起因して、保険期間中に被保険者に対して損害賠償請求がなされたことにより、被保険者が被る損害を填補する保険をいう(「経産省解釈指針別紙2」p1)。 (※2) 本稿において、役員には元役員を含む。なお、D&O保険には従業員たる執行役員や幹部社員を含む保険契約もあるが、本稿ではそれらの問題は対象にしない。 D&O保険は、基本的には保険契約者と保険者の契約により内容を定めることができる。このため、D&O保険の具体的な内容は各社が締結しているD&O保険契約ごとに異なり、実務上も様々な特約等により補償が拡大されている(「経産省解釈指針別紙2」p1)。 このように、その契約内容は保険契約ごとの個別性が強いが、日本において販売されているD&O保険は、一般的には次のような特徴を有していることが多い。 (2) D&O保険の一般的な補償の範囲 経産省解釈指針別紙2では、D&O保険の一般的な補償の範囲として以下の表を掲示しており、参考になる(p2)。 〈一般的な補償の範囲の概要〉 (3) 実際のD&O保険活用場面における悩み D&O保険が機能する最も典型的な場面としては、株主代表訴訟がある(※3)。 (※3) このほか海外の法的問題に巻き込まれた時もD&O保険は頼りになると考えられるが、この場合については山越誠司「D&O保険の国際化における支店と課題」商事法務No,2094、2016.3.5参照。 株主代表訴訟が提起された場合、役員は損害賠償義務を否定して争うことが十分考えられる。 いったん株主代表訴訟が提起され、役員が損害賠償責任を否定して争おうとする場合、一般的には、裁判の決着がつくまで非常に長い時間がかかると考えられる。また、訴訟にかかる弁護士費用は、事件報酬型の場合でもタイムチャージによる場合でも相当の額に達し、役員個人が負担するには高額な防御費用を要するのが通常であろう。 したがって、まず、この防御費用がD&O保険からタイムリーに支払われるかが、問題となる。 また、補償限度額が被保険者全員で共通であることから、ある役員のために防御費用や損害賠償金を保険金として支出すると、他の役員に支払うべき保険金が足りなくなってしまうことがある。すなわち、ある役員のための防御費用の支払いが、他の役員の保険金支払いに影響することから、単に免責事項が少なければ各役員にとって安心という保険ではないという特徴がある。 さらに、契約内容によっては、退職するとD&O保険の保護が受けられなくなったり、ある役員の告知義務違反等が他の役員の保険金の支払いに影響することもありうる。 加えて上述したように、D&O保険の保険期間は原則1年間であるため、保険契約期間中に役員に対する損害賠償請求があった場合には、保険の更改が難しくなってしまうという問題もある。 このように、D&O保険には、会社が契約者になっている他の保険とは異なる特徴があることから、保険内容についての十分な検討・理解が必要であり、「こんなはずではなかった」ということのないようにする必要がある。 *  *  * 次回はD&O保険の保険金支払に関してチェックすべきポイントを確認したい。 (了)

#No. 190(掲載号)
#中野 竹司
2016/10/20

《速報解説》 広島局、市が交付した空家等除去に係る補助金の課税上の取扱いについて文書回答事例を公表~所有者の親族が空家等を除去し交付を受けた場合、所得税法44条は適用されず総収入金額に算入~

 《速報解説》 広島局、市が交付した空家等除去に係る補助金の 課税上の取扱いについて文書回答事例を公表 ~所有者の親族が空家等を除去し交付を受けた場合、 所得税法44条は適用されず総収入金額に算入~   税理士 仲宗根 宗聡   広島国税局は、平成28年9月12日付(ホームページ公表は10月3日)で、「市の空家等除去支援事業補助金交付要綱に基づき交付される補助金の課税上の取扱いについて」の事前照会に対し、貴見のとおりで差し支えないとした回答文書を公表した。 以下では、その内容について解説する。   【 前 提 】 〈所得税法第44条:移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入〉 居住者が、国又は地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転、移築、除去等の一定の行為(以下「資産の移転等」という)の費用に充てるために補助金の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付目的に従って資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。 ただし、その費用に充てた金額のうち各種所得の金額の計算上、必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額については、この限りではない。 〈A市の空家等除去支援制度〉 A市は、放置することが不適切な状態の空家等の除去を促進し、地域の住環境の向上を図る目的で、空家等の除去を行う者に対して、その除去費用の一部を補助するための空家等除去支援制度を設けている。 この制度の補助金の交付対象者は、補助対象となる空家等の所有者又は空家等の所有者の承諾を得て除去を行う空家等の所有者の親族で、一定の要件を満たしたものとなる。 そのため、空家等の所有者の親族が、補助金の交付を受けることができる。   【事前照会者の見解(要約)】 A市は、老朽化した家屋等の除去を行う者に対し、その除去に要した費用の一部を補助するため、補助金を交付する制度を設けている。この制度による補助金は、所得税法第44条《移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入》の規定により、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない旨の取扱いが適用されるが、所得税法第44条では「その者の資産」と規定していることから、補助金の対象となる空家等の所有者と補助金の交付を受ける者が異なるときは、所有者要件を満たさないため、その補助金の交付を受ける者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入すると解して差し支えはないか。   【見解の理由(要約)】 (1) 空家等の所有者が空家等の除去を行い、補助金の交付を受けた場合 補助金の対象となる資産の所有者が除去を行い、補助金の交付を受けたときは、所得税法第44条の所有者要件を満たすため、その補助金のうち除去費用等に充てた金額は、資産の所有者の各種所得の金額の計算上、総収入金額不算入となる。 (2) 空家等の所有者の親族が空家等の除去を行い、補助金の交付を受けた場合 補助金の対象となる資産の所有者の親族が、資産の所有者の承諾を得て除去を行い、補助金の交付を受けたときは、所得税法第44条の所有者要件を満たさないため、その補助金は、その親族の各種所得の金額の計算上、総収入金額算入となる。 (了)

#No. 189(掲載号)
#仲宗根 宗聡
2016/10/19

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成28年1月~3月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成28年9月29日、「平成28年1月から3月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全17件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が10件、棄却された事例が7件となっている。税法・税目としては、国税通則法3件、所得税法5件、法人税法4件、相続税法3件、登録免許税法及び国税徴収法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年1月~3月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された17件の裁決事例のうち、重加算税に関する不服審判所の考え方が示された上記②の裁決を含む3件の裁決事例を紹介したい。 なお、毎回のことであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 重加算税(隠ぺい、仮装の意図)・・・② (1) 争点 争点は、請求人らが、課税要件事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき法定申告期限までに申告書を提出しなかったと認められるか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人らは、相続財産を隠ぺいし、本件相続に係る相続税を無申告で済ませようとする態度、行動をできる限り貫こうとしたとまではいい難いと判断して、原処分のうち、無申告加算税相当額を超える部分の金額について違法であり、当該部分を取り消すべきである、と判断した。   2 不動産所得(必要経費――造成工事費用等)・・・④ (1) 争点 土地の貸付に当たって行われた工事に係る各費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か。 なお、審判では、請求人の所有する他の不動産に関する分離長期譲渡所得の金額の計算についても争われたが、本稿では割愛する。 (2) 原処分庁の主張 建物の解体費用について、原処分庁は、使用貸借の対象となった不動産は、不動産所得を生ずべき業務の用に供された資産とはいえないから、当該不動産に係る費用は不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しないと主張した。 一方、土地の造成工事等の費用については、土地の取得費に算入すべきものであるから、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないと主張した。 (3) 審判所の判断 審判所は、審査請求人が支出した工事代金について、その工事内容ごとに精査したうえで、それぞれ次のように判断を示した。 ① 土地の上に存した建物の解体工事費用 審判所は、まず、一般的な必要経費算入の要件として、次のように述べる。 そのうえで、本件については、取り壊した建物は、平成21年12月以降、不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない非業務用資産に該当し、その取壊しは、業務の用に供されていない資産を任意に処分する行為にすぎないことになるから、当該取壊し後の敷地の利用目的にかかわらず、本件解体工事に係る費用は、非業務用資産の処分に要する費用すなわち家事費であって、これを不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない、と結論づけた。 ② 外構工事・造成工事 審判所は、これらの工事のうち、外構造成工事は土地の形質を変更し改良する工事と認められるので、当該工事に要した費用は、土地の改良費(資本的支出)に該当し、土地の取得費に算入されるべきものであると判断を示した。 一方、土留め工事については、隣接地との境界のコンクリートブロックの一部の撤去及び積直しをしたものにすぎず、土地を改良し、その価額を増加させるための工事であるとは認められないことから、通常の管理又は修理に係る修繕費等に係る費用として、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである、と結論づけた。 ③ 乗入・側溝改修工事 次いで、審判所は、乗入側溝改修工事について、請求人は、本件乗入側溝改修工事を行うことにより本件借地権設定契約に基づき賃料を取得するという便益を受けることが認められ、その効果は、本件乗入側溝改修工事に係る費用の支出の日以後1年以上に及ぶものであることから、請求人が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用に該当し、繰延資産に該当すると判断して、その償却費を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであると判断した。 ④ 境界等整備に係る費用・土壌汚染調査費用 最後に、審判所は、境界等整備に係る費用及び土壌汚染調査に係る費用については、土地を改良するものではないし、その価額を増加させるものでもないが、本件借地権設定契約を履行するために必要なものと認められ、そうすると、土地の貸付けに係る業務と直接関係し、当該業務の遂行上必要なものと認められるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである、と結論づけた。   3 役員給与(みなし役員)・・・⑨ (1) 争点 代表取締役Eは、その就任前においても、法人税法上の役員に該当するか否か。 なお、請求人からは、調査手続に、原処分の取消事由となる違法又は不当がある旨、また、理由附記に不備があるという主張もされていたが、いずれも、不服審判所により「理由がない」という判断が示されているため、本稿では割愛する。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、以下の事実をもとに、Eは、請求人の創業時から請求人の事業運営上の重要事項に参画していたものと認められるので、代表取締役に再度就任する前の平成23年3月期及び平成24年3月期において、法人税法施行令第7条第2号に規定する「会社の経営に従事しているもの」に該当する、と主張した。 (3) 審判所の判断 こうした原処分庁の主張に対し、審判所は、以下のような理由をあげて、Eが平成23年3月期及び平成24年3月期において、請求人の「経営に従事しているもの」に該当すると認めるに足りないといわざるを得ないと結論づけ、原処分庁の主張を斥けた。 (了)

#No. 189(掲載号)
#米澤 勝
2016/10/17

《速報解説》 会計士協会、「公益法人会計基準に関する実務指針」の改正(公開草案)を公表~過年度遡及会計基準や資産除去債務等の取扱いを新設~

《速報解説》 会計士協会、「公益法人会計基準に関する実務指針」の 改正(公開草案)を公表 ~過年度遡及会計基準や資産除去債務等の取扱いを新設~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年10月13日、日本公認会計士協会は「非営利法人委員会実務指針第38号「公益法人会計基準に関する実務指針」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。同日、日本公認会計士協会から「会長声明「非営利法人への公認会計士監査の導入に当たって」」も公表されている。 公開草案は、内閣府公益認定等委員会から公表された「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」(平成27年3月26日)及び「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成28年3月23日)に対応するものであり、Q&A形式により記載されている。 意見募集期間は平成28年11月13日までである。 なお、監査上の取扱いについては、平成28年9月27日に、「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の財務諸表に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第34号)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の主な内容 1 過年度遡及会計基準関係 「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。「過年度遡及会計基準」という)の適用について、Q5及びQ6に記載されている。 公益法人では、原則として過年度遡及会計基準に準拠することになるが、未適用の会計基準等に関する注記は、会社計算規則98条「注記表の区分」で特に記載が求められていないことから、当該注記を行うかどうかは各法人の任意と考えられている(Q5)。 また、Q6において、設例を用いて、会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積りの変更、減価償却方法の変更、過去の誤謬の訂正が説明されている。 2 金融商品会計関係(開示) 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。「金融商品会計基準」という)40-2項における時価の開示について、Q29及びQ30に記載されている。 Q29では、「平成27年度 公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成28年3月23日、内閣府公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会)の記載を用いて、開示すべき金融商品の範囲を金融商品会計基準で規定するすべての金融商品を対象とするのではなく、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びにデリバティブ取引(先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引)等の法人の資産運用を図る手段として用いられる金融商品に限定していることが述べられている。 また、当該金融資産の運用次第では、公益目的事業の安定的な持続可能性に影響を与えるなど、法人運営に相当のリスクをもたらすおそれがあると法人が判断した場合に注記することとすべきであるとされているが、それ以外の場合であっても法人が自主的に注記を行うことは妨げられないことについて述べられている。 Q30では、「金融商品の状況に関する事項」の財務諸表における開示例が示されている。 3 資産除去債務関係 Q49では、公益法人における資産除去債務の会計処理上の留意点が述べられている。 資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額及び時の経過による資産除去債務の調整額は、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて事業費又は管理費に計上することになる。 資産除去債務の発生時に当該債務を合理的に見積もることができない場合についても述べられているが、例えばとして、建物を期限の定めなく公益目的事業に使用してほしいということで寄付を受けているが、当該保有に関する制約が寄付者等からいつ解除されるか明確ではない、すなわち資産除去債務の履行時期が寄付者等から明示されていないことだけをもって、ただちにその金額を見積もれない理由となるものではないことに留意するとし、このような場合には、当該資産に適用している耐用年数等から撤去時期を合理的に見積もることができないか慎重に検討する必要があるとしている。 4 賃貸等不動産関係(開示) Q50からQ53までにおいて、公益法人における賃貸等不動産について述べられている。 基本的に「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第20号)等に従って記載されているが、公益法人に関する留意点についても述べられている。   Ⅲ 適用時期等 平成28年4月1日から開始する事業年度から適用する予定であるが、同日前に開始する事業年度から適用することを妨げないと提案されている。 (了)

#No. 189(掲載号)
#阿部 光成
2016/10/17

プロフェッションジャーナル No.189が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年10月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.189を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/10/13

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第46回】「宝くじに係る課税と所得の実現(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第46回】 「宝くじに係る課税と所得の実現(その1)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅰ 課税の時期の原則 1 権利確定主義 所得税法36条は、 と規定し、同条2項において、 と規定している。同条は、一般的に権利確定主義を表したものといわれている。 植松守雄氏は、「権利確定主義における『確定』概念とは、財産価値の変動がそのような状態にあることを判断するための内容をもつものと考えるべきで、その具体的な内容としては、『市場による測定可能性』や『現実性』ということが挙げられ、経済取引における諸要素がこれらの観点から評価されなければならない。」と主張される(植松「収入金額(収益)の計上時期に関する問題-『権利確定主義をめぐって』-」租税8号『租税実体法の判例と解釈』101頁)。 租税法上の所得の本質から出発して、その損益発生の時期を考えるのであれば、植松氏の主張されるように、「個人・法人の損益は、その財産(資産・負債)価値の変動(消費・生成等)を通じて現われ、そこに損益発生(認識)」の徴表的基本があるが、税法上の所得というためには、単に経済上の所得というだけでは足りず、さらにその利得が消費および測定可能なもので、結局において新たな『購買力』を組成するに足る程度のものでなければならず、そのような状態にある利得であってこそ、租税債務の源泉として相応なものと認められ、『課税適状』にあるもの」(植松・前掲稿100頁)であると解するのが相当であると考えられる。 旧所得税基本通達において、権利確定主義という表現がみられたが、所得税基本通達の改正によりかかる表現がなくなったにもかかわらず、依然として所得税法における収入計上基準は権利確定主義であるとする解釈が判例を中心に展開されているところである。 権利確定主義については、①その用語の意味する内容が不明確であること、②条文上の根拠が希薄であり、税法上の基準としては不適当であることから、会計用語としての実現(Realization)の概念を特定させて法律用語として取り入れることが適当であるとする主張もある。 所得税法36条にいう「収入すべき金額」の「収入すべき」とは「収入とみるべき」という意味であろうと解されるが、実定法解釈において、「実現」概念を論ずる所以はここにあると考えられる。 2 実現概念 (1) 問題意識 ヘイグは所得を「二時点間における経済力の増加の貨幣価値」と定義している(Haig, R, M. (1938), “The Concept of Income”, in R. M. Haig (ed.), The Federal Income Tax, Columbia University Press. 神野直彦「所得概念論」木下和夫=金子宏『21世紀を支える税制の論理 第2巻 所得税の理論と課題』21頁(税務経理協会1996))。 この理論を発展させたサイモンズは、「所得とは(1)消費の権利行使の市場価値と、(2)期首と期末間の保有財産権価値の変化の代数和」と定義している(Simons, H. C. (1928), Personal Income Taxation, University of Chicago Press.)。 これらの定義を前提として所得概念を捉えると、およそ市場において貨幣価値の増加として認識されるものはすべからく所得として捉えることになるのかもしれない。ここで注意しておきたいのは、これら代表的な包括的所得概念論者の主張は、経済的価値を貨幣価値若しくは市場における価値として捉えている点である。 さらに、かかる包括的所得概念論の考え方では、未実現の所得に課税することは想定されていないとされている(Bittker, B. I. (1967). “A ‘Comprehensive Tax Base’ as a Goal of Income Tax Reform”, Harvard Law Review, Vol. 80 No.5. 金子宏「ボーリス・ビトカーの『包括的課税ベース』批判論の検討」『雄川一郎先生謹呈論集 行政法の諸問題』(有斐閣1990)。佐藤進『現代税制論』(日本評論社1970)122頁)。 金子宏教授は、「人の担税力を増加させる利得であっても、未実現の利得(unrealized gain)-所得資産の価値の増加益-・・・はどこの国でも、原則として課税の対象から除外されている。わが国でも、所得税法は、所得を収入という形態でとらえているから、それらは原則として課税の対象から除かれていると解さざるをえない。」とされている(金子『租税法〔第21版〕』(弘文堂2016))。 (続く)

#No. 189(掲載号)
#酒井 克彦
2016/10/13

「更正の予知」の実務と平成28年度税制改正【第4回】

「更正の予知」の実務と 平成28年度税制改正 【第4回】   税理士 谷口 勝司   8 調査・行政指導と更正の予知 (1) 調査と行政指導の区分 更正の予知に関して、主に実地の調査を前提にこれまで説明してきたが、実地の調査以外の税務執行が実際にどのように行われ、これに伴って更正の予知がどのように取り扱われているか、理解しておくことも実務上重要である。 例えば、提出された申告書の計算内容、記載内容等に誤りがあるのではないかと考えられる場合、国税当局から納税者への働きかけは、「申告書に計算誤りがあると思われるので、見直してほしい(確認してほしい)」といったように、見直し要請・確認要請という「行政指導」として実際には幅広く行われている。 その結果、この行政指導に基づいて提出された修正申告書は、納税者が調査のあったことを了知したとはいえず(したがって更正の予知がない)、納税者の自発的なものとして扱われ、加算税賦課が行われないことになる。 申告書の比較的軽微な誤り等について、納税者に対して調査、行政指導のいずれで対応するかは、国税当局の行政スタンスによるともいえるが、現状は、まずは行政指導による対応が行われて修正申告書(減額の場合は更正の請求)の提出が勧奨され、多くのものが納税者の自発的なものとして処理されている。そして行政指導で対応できない場合には、次の段階として調査に移行して対応されている。 このように、行政指導による税務執行が広く行われているのは、国税当局としては、申告納税制度の維持・発展のため、納税者によって納税義務が自発的に履行されるようにすることが重要と考えている、というのが一番大きな理由であろう。申告に誤りがあれば、納税者自身にできる限り是正してもらう、という考えである。 また、国税当局としては、限られた定員や機構の下で、多くの事務日数を要する税務調査は、高額・悪質、富裕層、国際、無申告、消費税といった重点分野にできる限り充てていきたい、ということもあると思われる。このため、効率的な事務運営等も勘案し、行政指導で対応できる事務はできる限り行政指導で対応しようとしている。 また、このような税務執行は、平成23年度税制改正で調査手続が法定化されたことを契機に、さらに進められていると思われる。 平成23年度税制改正において、事前通知、調査結果説明、修正申告勧奨、申告是認通知書の発送(交付)、不利益処分の理由付記、再調査等の調査手続が法定化され、平成25年1月から施行されている。この改正は、改正前から運用により行われていた調査手続を大きく変更するものではなかったが、法定化された調査手続の的確な履行やその履行検証に相当な事務コストを要していることも事実である(例えば、法人税の調査件数は改正前後で年間129千件から91千件に約30%減少し、いわゆる実調率は約3%に低下)。国税当局も、調査手続に係る法令遵守(コンプライアンス維持)に相当なコストを払っているともいえよう。 国税通則法上の調査は、前述「4 更正の予知における2つの要件と「調査」の意義」(【第2回】参照)のとおり、実地の調査だけではなく、署内調査などを含む幅広い概念である。そして、法定化された調査手続においては、実地の調査以外の調査についても、調査結果説明、修正申告勧奨等の手続を義務付けており、その適正な履行が求められている。 調査手続法定化後、国税庁は、行政指導について、「『調査』に該当しない行為」として、その意義を明確化している(調査解釈通達1-2)。 すなわち、「次に掲げる行為のように、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しない」とし、その行為の例示の1つに、「当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為」を掲げている。またこの他にも、多くの行為が調査に該当しない行為(行政指導)として例示されている。 従前、国税当局では調査・行政指導の区分はあったものの、特に実地の調査以外の事務については、調査か行政指導かの区分を明確に意識して行うことは必ずしも多くなかったと思われるが、行政指導の意義等を定めた通達によって、事務の適正性・透明性等が確保されたということになる。 また、調査運営通達の第2章1では、「納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。」と定め、調査・行政指導の区分を納税者に明示して事務を行うことを明確にしている。 この行政指導は、その態様として、通達に示されている対面、電話、書面等のほか、来署依頼や事業所等への臨場などによるものもある。一方、調査も、対面、電話、書面、来署依頼、臨場等の態様があるが、いずれにせよ、態様のいかんを問わず、調査か行政指導かの区分は口頭、文書等によって国税当局から明示される(納税者は了知できる)、ということが重要である。 このような通達発遣は、法定化された調査手続の的確な履行や、事務の適正性・透明性や納税者の予測可能性を確保しようとするものである。 〇通達における事務区分とその意義 さらに、調査解釈通達では、調査に該当しない行為(行政指導)のみに起因して提出された修正申告書は、更正を予知してなされたものには当たらない(過少申告加算税を賦課しない)旨を定めている(調査解釈通達1-2)。これは調査が行われていない(納税者が調査のあったことを了知したとはいえない)から、いわば当然ともいえよう。 一方、調査であることが明示されて開始(着手)されれば、これまで述べてきたとおり、納税者が調査のあったことを了知した(原則更正を予知した)ものに当たり、実務上は、過少申告加算税が賦課されることになる。 このように、実務上は、調査か行政指導かの事務区分が納税者に明示されて事務が行われ、また結果的に加算税の取扱いも明確化されていると思われる。 (2) 行政指導による事務 いくつかの事務を例に、行政指導などが実務上どのように行われているか紹介しよう。 (イ) 申告書の計算誤り等(事後処理等) 申告書の計算誤り等があると思われるケースについて、所得税における事後処理事務を例にとろう。 所得税確定申告書の審査検算等の結果、所得金額・税額の計算誤り、各種所得控除の適用誤り、証明書の添付漏れ等、その計算に誤り等があると思われる場合には、納税者(関与税理士を含み、既に実地の調査の対象選定されている者を除く)に対して、電話や文書等で、行政指導であることを明示した上で、計算見直し等の依頼が行われる(見直し依頼に際して具体的な項目・金額が示されることがある)。 また、納税者が計算誤り等を確認できれば修正申告書の提出(又は更正の請求の提出)を依頼し、提出された修正申告書は納税者の自発的なもの(加算税免除)として扱われる。 ただし、納税者の自発的な見直しや修正申告書提出等が行われない場合、更正処理を要する場合等は、「調査」であることを電話や文書等で明示(実務上は調査宣言とも称される)し、調査(通常は実地の調査以外の調査)に移行して処理が行われる。また、事業所得者等で帳簿提示を求める必要がある場合(質問検査権行使が必要な場合)等についても、調査であることを明示して処理が行われる。 なお、法人税における申告書・別表の計算誤り等についても、その事務処理はほぼ同様である。 (ロ) 法人税の無申告 法定申告期限までに申告書が提出されない場合、期限後申告書の提出又は決定により納付すべき税額に対して原則15%の無申告加算税が賦課されるが、期限後申告書の提出が「決定の予知」をしたものでない場合には、無申告加算税は原則5%に軽減される(通則法66①⑥)。そしてこの「決定の予知」は、「更正の予知」と実務上の取扱いは同じである。 法人税の場合、清算結了等で法人が消滅しない限り、申告書の提出が義務付けられている。しかし、国税庁が公表した平成25年事務年度事務事績によると、法人数3,007千件に対して申告件数は2,771千件であり、実際には、債務超過、倒産、代表者の死亡や所在不明等による休業・事業廃止等、無申告も相当数ある。また、このような無申告は、所得計算等を行っても欠損金額又はゼロとなり、納付すべき税額が生じないものがほとんどである。税務執行上は的確で効率的な処理が求められる事務の一つであろう。 法人税の無申告が認められる場合、(イ)と同様、通常、行政指導によりその対応が行われる。電話、文書、臨場等により、行政指導であることを明示した上、申告書提出の有無、事業活動の状況等の実態の確認を行うとともに、期限後申告書の提出依頼を行う。実務上は、無申告実態確認などと称されるが、この行政指導によって提出された期限後申告書は、納税者が調査のあったことを了知したとはいえない(決定の予知がない)ことになり、無申告加算税が原則5%に軽減されることになる。 ただし、自発的な期限後申告書提出等が行われない場合や、決定を要する場合、質問検査権を行使しなければ所得計算ができない場合等については、「調査」であることを明示し、調査に移行して処理が行われる。また、資料情報や過去の調査状況等からみて法人の事業活動が行われており納付税額も生ずると認められる場合(稼働しているにもかかわらず無申告が常態となっているような場合)には、行政指導を経ることなく、調査であることを明示して処理が行われる。 (ハ) 源泉所得税の未納整理 法定納期限までに源泉所得税が完納されなかった場合、納税の告知に係る税額又は期限後納付された税額に対して10%の不納付加算税が徴収される。そして期限後納付が「納税の告知の予知」をしたものでない場合、すなわち自発的な納付であった場合には、不納付加算税は5%に軽減される(通則法67①②)。この「納税の告知の予知」も、「更正の予知」と同じ扱いである。 給与等の源泉所得税が納期限までに納付されない理由としては、資金繰り悪化、怠慢、失念などのほか、休業や事業廃止等による給与支払なし等、様々なものがある。 源泉所得税の未納整理は、現状、国税局の中に組織される「源泉所得税事務集中処理センター室」(以下「源泉センター」という)において、国税局管内の全税務署の事務の一括集中処理が行われている。 納期限までの納付が確認できない場合、源泉センターでは、納付照会往復はがきの発送(納付の有無、未納税額、納付見込み時期等を照会)、電話による照会(はがき回答内容の確認、はがき未回答者への未納税額の確認等)等を行う。また、自主納付の場合は加算税5%、納税の告知の場合は加算税10%である旨を説明するとともに、自主納付のしょうようを行う。以上は、行政指導であることを明示して行われ、これにより納付された場合の不納付加算税は5%に軽減される。 しかし、自主納付が見込めない場合(納税の告知を行う場合)、はがきや電話等による照会に回答がない場合、未納税額等把握のため帳簿提示を求める必要がある場合(質問検査権行使が必要な場合)等については、調査であることを明示し、各税務署における調査手続に移行して処理が行われる。 *  *  * 以上見てきたように、実務上は行政指導によって、納税者による自発的な納税義務履行が幅広く促されている。   (了)

#No. 189(掲載号)
#谷口 勝司
2016/10/13
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