経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第109回】 圧縮記帳① 「圧縮記帳の基本及び国庫補助金」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 直接減額方式 ① 国庫補助金の交付時(X1年8月) ② 機械装置の取得時(X1年10月) ③-1 決算時(X2年3月末) (圧縮損の計上) (※1) 圧縮限度額=目的資産の取得に充てた国庫補助金の額=8,000,000 (減価償却費の計上) (※2) (取得価額10,000,000-圧縮限度額8,000,000)×0.333×6ヶ月/12ヶ月=333,000 2 剰余金処分方式 (①及び②は、直接減額方式を適用した場合と同じ。) ③-2 決算時(X2年3月末) (圧縮積立金の積立) (※3) 税効果の額=圧縮限度額8,000,000×実効税率35%=2,800,000 (※4) 圧縮積立金=圧縮限度額8,000,000-税効果の額2,800,000 (※3)=5,200,000 (減価償却費の計上) (※5) 取得価額10,000,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月=1,665,000 (圧縮積立金の取崩) (※6) 圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)=圧縮限度額8,000,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月=1,332,000 (※7) 税効果の額(取崩)=圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)1,332,000(※6)×実効税率35%=466,200 (※8) 圧縮積立金(取崩)=圧縮積立金の取崩額(税効果考慮前)1,332,000(※6)-税効果の額(取崩)466,200 (※7)=865,800 〈会計処理の解説〉 固定資産に係る国庫補助金、保険差益、交換差益等は、原則として益金となり課税所得を構成します。しかし、これを原則どおりに課税すると、様々な弊害が生じます。 例えば、法人が特定の資産の取得に際して国庫補助金を受けた場合に、その補助金の受贈益に対して課税すると、補助金を用いて取得しようとしていた資産の取得ができなくなり、補助金の目的を成し得なくなってしまいます。 このような事態を防ぐために、税法上では、圧縮記帳という制度が設けられています。 圧縮記帳の適用を受けると、発生した収益に対して直ちに課税されずに、課税を繰り延べることができます。国庫補助金受贈益が発生した事業年度に、固定資産の圧縮記帳を行い損金算入すると、一時的に課税所得が減少します。しかし、その後は圧縮記帳後の取得価額をもとに固定資産の減価償却が行われるため、各事業年度に損金算入される減価償却費が減少し、課税所得が増加することになります。 圧縮記帳には、法人税法上の圧縮記帳と租税特別措置法上の圧縮記帳があります。実務上利用することが多いものは以下のとおりです。 本事例で取り扱っている国庫補助金については、国または地方公共団体の補助金等の交付を受け、その補助金の交付の目的に適合した固定資産の取得または改良をした場合に、取得または改良にあてた金額に対して、圧縮記帳の適用が認められます。 国庫補助金の圧縮記帳の方法としては、 があります。 (なお、直接減額方式により取得価額を直接圧縮することは、取得原価主義に基づく費用の適切な期間配分の観点から適切ではないため、会計上は剰余金処分方式が望ましいと考えられます。) 本事例において、当社はX1年8月に国庫補助金の交付を受けて、同年10月にその補助金の目的に適合する資産(機械装置)を取得しています。そこで、国庫補助金の交付を受けたX1年8月に国庫補助金受贈益8,000,000円を、目的資産を取得した同年10月に機械装置10,000,000円をそれぞれ計上します(①及び②の仕訳)。 また、本事例では、補助金の返還不要が確定したX1年度において目的資産である機械装置を取得しています。そのため、圧縮限度額は目的資産の取得または改良に充てた国庫補助金の額、すなわち8,000,000円となります。 1 直接減額方式 決算時において、取得した機械装置の取得価額10,000,000円を圧縮限度額8,000,000円まで直接減額します(③-1(圧縮損の計上)の仕訳)。 そのため、当該機械装置の減価償却費は圧縮後の取得価額2,000,000円(=10,000,000円-8,000,000円)に基づき計算されます(③-1(減価償却費の計上)の仕訳)。 2 剰余金処分方式 決算時において、剰余金を処分して圧縮限度額8,000,000円を圧縮積立金として積み立てます。 圧縮積立金は税効果会計の適用を受けるため圧縮額に実効税率を乗じた金額2,800,000円(=8,000,000円×35%)の繰延税金負債が計上されます。その結果、圧縮積立金の金額は5,200,000円(=8,000,000円-2,800,000円)となります(③-2(圧縮積立金の積立)の仕訳)。 剰余金処分方式の場合、機械装置の減価償却費は取得価額10,000,000円に基づき計算されます(③-2(減価償却費の計上)の仕訳)。 なお、圧縮積立金は目的資産の償却や除売却に基づき取り崩す必要があります。そのため、機械装置の償却額に対応する圧縮積立金1,332,000円(=8,000,000×0.333×6ヶ月/12ヶ月)(税効果考慮前)を取り崩します。圧縮積立金には税効果会計が適用されるので、圧縮積立金865,800円(=1,332,000円-(1,332,000円×35%))及び対応する繰延税金負債466,200円(=1,332,000円×35%)を取り崩します(③-2(圧縮積立金の取崩)の仕訳)。 * * * 次回は、圧縮記帳の会計処理のうち、保険差益について解説します。