《速報解説》 令和6年の施行前に 生前贈与制度の見直しに係る相続税関係の改正通達が公表される Profession Journal編集部 令和5年度税制改正では生前贈与分の相続財産への加算期間が相続開始前3年以内から7年以内とされ(経過措置により段階的に延長)、相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が認められる等の見直しが行われ、令和6年1月1日以後の贈与から適用される。 そしてこのほど、国税庁は12月8日(金)に下記の改正通達を公表、上記税制改正に係る通達上の取扱いを明らかにした。 改正通達は「相続税法基本通達」(法令解釈通達)及び「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」(法令解釈通達)の2つからなり、前者の改正相基通では、相続時精算課税に係る基礎控除の額は各年分において相続時精算課税適用者ごとに110万円であることを留意的に明らかにする(改正相基通21の11の2-1)とともに、相続時精算課税適用者が同一年中において2人以上の特定贈与者からの贈与により財産を取得した場合における特定贈与者ごとの贈与税の課税価格から控除される相続時精算課税に係る基礎控除の額の計算を算式で示す(改正相基通21の11の2-2)など、〔第21条の11の2《(相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除》〕関係が新設されたほか、各所に見直しが行われている。 また後者の改正措通では、特定贈与者からの贈与により取得した土地又は建物が、その贈与を受けた日から特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害によって相当の被害を受けた場合、土地又は建物の贈与の時における価額から一定額が控除される「相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例(措法70の3の3)」の創設に伴い、〔措置法第70条の3の3《相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例》関係〕として、下記の17項目が新設されている。 なお本誌では来年において、これら改正事項の解説記事(連載)を掲載する予定です。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2023年12月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.547を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.130- 「岸田減税が提起する地方税の諸問題」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 岸田総理が決断した、所得税・住民税1人あたり4万円の減税と住民税非課税世帯への計10万円給付(以下、岸田減税)は、財政積極派からも財政再建派からも評判が悪い。何のための減税なのか趣旨が国民に伝わらないまま行われる。 筆者がここで取り上げたいのは、岸田減税が住民税の諸課題を浮き彫りにしたことだ。 まずは住民税非課税世帯とは何かということである。住民税非課税基準の問題点は、本連載のNo.123で述べたが、あまりにも大雑把な基準(筆者は「アナログ基準」と呼んでいる)で、必ずしも生活困窮者を切り取っていない。 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯の63%が65歳以上の高齢者世帯で、その多くが年金受給者だ。年金受給者は公的年金等控除があるので所得が圧縮されることが影響している。年金生活者は、資産もそこそこ保有しており、すべて生活困窮者とするのは間違いだ。 また住民税は払っているので給付金はもらえないが所得税は非課税という世帯が300万世帯あるという。なぜ所得税と住民税とで課税最低限が異なるのだろうか。この点、令和5年6月に公表された「わが国税制の現状と課題」(政府税制調査会中期答申)には、住民税について以下の記述がある。 しかし徴税の手間などを考えると、課税最低限は国と合わせつつ、税率を、比例税率(地方税)、累進税率(所得税)と役割分担すれば十分ではないか、という疑問が生じる。 * * * 次に、国税と住民税のシステム整備の遅れである。国や地方自治体間で、住民税情報を社会保障給付に結び付けるシステムが整っていない。これを可能にするため、2025年度中をめどに、データの活用・連携を迅速化する新たな情報連携基盤として、公共サービスメッシュとガバメントクラウドの構築が進められているが、進捗状況は芳しくない。早急に進める必要がある。 * * * 最後に、住民税の現年課税化の問題も提起されるところとなった。住民税情報は、前年所得課税を基本としているため、住民税非課税世帯への給付は、最新の所得情報に基づいていない(1年遅れ)。 住民税の現年課税化は、長年検討が続けられてきた。1968(昭和43)年の政府税制調査会中期答申では、「現在、住民税は、前年の所得を基礎として課税するいわゆる前年所得課税のたてまえをとっている。所得発生の時点と税の徴収の時点との間の時間的間隔をできるだけ少なくすることにより、所得の発生に応じた税負担を求めることとするためには現年所得課税とすることが望ましいと考えられるので、この方法を採用する場合における源泉徴収義務者の徴収事務、給与所得者以外の者に係る申告手続等の諸問題について、引き続き検討することが適当である。」とされている。 それから半世紀以上が経過し、地方税が前年所得課税であることの不都合は、退職だけでなく、転職の増加、フリーランスやギグワーカー等所得の変動の大きい働き方の増大で拡大した。また増加を続ける外国人労働者が1月1日前に帰国すると課税できないという問題も出てきた。現年課税化の必要性はこれまで以上に高まっている。デジタル化技術を駆使すれば、地方税の現年課税化のハードルは高くないはずだ。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例58】 「パチンコ器及びスロットマシンの少額の減価償却資産該当性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、近畿地方の県庁所在地に本社を置き、本社の所在地県及び近隣の府県一円において、パチンコ及びスロットマシンの遊技店を経営する株式会社Y(資本金10億円で3月決算)に勤務し、現在経理部長を務めております。少子高齢化はわが国の社会経済全般に様々な影響を及ぼしておりますが、エンターテインメント業界もその例外ではなく、人口減は端的に市場規模の縮小をもたらしているところであり、ここ数年、パチンコホールの倒産・民事再生手続の開始といったニュースも度々耳にするところです。 そのような環境下にあっても、わが社は他社との厳しい競争を勝ち抜いて生き残っていかねばならず、そのためにあらゆる手段を採ってきたところです。最も力を入れてきた施策は、お客様を1人でも多く呼び込むために、常に最新の人気機種をすべてのお店に導入することです。その甲斐もあって、近隣の同業他社との比較で集客力は上回っており、売上げの落ち込みも最低限に抑えることができたものと自負しております。 さて、そのような中、わが社は先日来税務調査を受けております。昔からわが業界は税務署との相性はよろしくないのですが、今回もまたこれまで以上に厳しいやり取りが続いております。今回特に問題となっているのは、わが社が企業存続のために行っている最重要施策である、最新人気パチンコ・パチスロ機種の矢継ぎ早の更新についてです。すなわち、耐用年数に関する省令では、パチンコ器の耐用年数は2年、パチスロ機は「スポーツ具」に該当するため3年とあるのにもかかわらず、わが社はその更新が概ね1年未満ということで、使用可能期間が1年未満の少額の減価償却資産に該当することから、損金経理により全額取得した年度の損金としているのですが、当該処理が「問題」であると指摘されております。法人税法も認めている当該経理処理を否認することは、税務署といえどもできないのではと考えますが、私どもの理解で問題ないか教えてください。 【A】 法人税法施行令第133条に規定される少額の減価償却資産のうち、使用可能期間が1年未満のものは、その事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理したときには、その取得価額が全額損金に算入されますが、ここでいう「使用可能期間」は、法人の属する業種において、一般的に消耗性のものとして認識されているか否かに基づいて判断すべきと解されています。 実際のパチンコ業界において、パチンコ器はその取得時において、通常の管理又は修理をする場合に、事業の用に供してから1年以内に経済的にみて使用することができなくなる消耗性のものであるとの取扱いはされていないことから、少額の減価償却資産には該当しないと解されます。また、パチスロ機は耐用年数省令上、パチンコ器とは異なる分類のものとされており、同様に少額の減価償却資産には該当しないと解されます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) パチンコ及びスロット業界の現状 わが国において「大人の娯楽」として長らく君臨してきたパチンコ・スロット業界であるが、最近では、少子高齢化に伴う人口減少、レジャーの多様化、若者のパチンコ離れなどといった要因から、市場規模の縮小がささやかれているところである。近年のパチンコ産業の市場規模は以下のグラフの通りである。 〈パチンコ産業の売上高の推移(貸玉料ベース)〉 (出典) 公益財団法人日本生産性本部『レジャー白書』に基づき筆者作成。 上記グラフを見ると、2012年の25兆7,000億円弱をピークに売上高は徐々に下がってきており、2020年はコロナ禍の影響で前年から一気に5兆4,000億円も減少するという厳しい状況となっている。 なお、パチンコ産業について、海外のカジノ産業と同種のギャンブル産業と捉えるならば、上記統計のように貸玉料ベースの「売上高」で産業の規模を測るというのは適切ではなく、むしろそこからプレーヤーが景品に交換した金額を差し引いた「粗利額」をベースに考えるべき説も有力である(※1)。この場合、2020年の粗利額は2兆3,500億円となる。 (※1) 「パチンコ業界WEB資料室」参照。 (2) 少額の減価償却資産の損金算入 固定資産の取得価額は、企業会計上一般に、費用収益対応の原則に従い、その取得年度において一括して費用計上するのではなく、使用又は時間の経過に従ってその価値が減少するのに応じて徐々に費用化すべきと考えられるが、当該費用化の手続きを減価償却という。 租税法における減価償却の考え方は、基本的に上記企業会計の考え方に準拠しているが、法人税法においては、減価償却の手続きにより減価償却費として損金に算入されるのは、法人が償却費として損金経理した金額となっている(法法2二十五、31①)。 ただし、取得価額が10万円未満(※2)であるか、又は使用可能期間が1年未満である「少額の減価償却資産」は、損金経理を要件として、事業の用に供した日の属する事業年度において損金に算入される(法令133①、なお後者は「短期減価償却資産(※3)」ともいう)。当該少額の減価償却資産が取得時における一時の損金となるのは、一般に、当該資産には期間損益の算定に係る適正化の必要性が乏しいこと、及び、資産管理上「資産」として計上する必要性がないことから、実務上減価償却資産として扱う意味がないためであると解されている(※4)。 (※2) 平成10年度の税制改正で「20万円未満」から引き下げられた。 (※3) 武田隆二『平成15年版 法人税法精説』(森山書店・2003年)367頁。 (※4) 武田前掲(※3)書366-367頁参照。 なお、使用可能期間が1年未満の「短期減価償却資産」とは、通達で、法人の属する業種(例えば、紡績業、鉄鋼業、建設業等)において、以下のものをいい、当該資産については、法定耐用年数ではなく実際の使用可能期間(1年未満)により損金性を判断するものとされている(法基通7-1-12)。 (3) パチンコ器及びスロットマシンに係る少額の減価償却資産該当性が争われた事例 それでは、本件と同様に、法人の保有するパチンコ器及びスロットマシンについて、その少額の減価償却資産該当性が争われた事例(東京地裁平成23年4月20日判決・税資261号-82(順号11672)、TAINSコード:Z261-11672)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、パチンコ等の遊技場(パチンコホール)の経営を主な事業内容とする株式会社である原告が、平成18年1月1日から同年12月31日までの事業年度に事業の用に供したパチンコ器及びスロットマシン(パチスロ機)について、法人税法施行令第133条の適用があることを前提にその取得価額の全額を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入して確定申告をしたところ、柏税務署長が、本件パチンコ器等には同条の適用はなく、これを固定資産に計上して減価償却をするべきであるとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため、その取消しを求めた事案である。 〈申告所得、更正処分及び異議決定処分の内容〉 ② 事案の争点 本件における争点は、本件パチンコ器等は法人税法施行令第133条所定の「使用可能期間が1年未満である」減価償却資産に該当するとして同条を適用し、その取得価額の全額を本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することができるか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたものの棄却され(東京高裁平成23年11月29日判決・税資261号-230(順号11820)、TAINSコード:Z261-11820)、上告されたが不受理となり確定している(最高裁平成25年6月7日決定・税資263号-107(順号12231)、TAINSコード:Z263-12231)。 ④ 本裁判例から学ぶこと 減価償却資産は、その使用又は時間の経過によって価値が減少し、当該価値の減少分を減価償却費として計上することとなるが、当該価値の減少は、時間の経過による物理的な減少のみならず、社会的・経済的環境の変化に伴う陳腐化等を原因として生じるものもある。本裁判例で原告・納税者側は、主として後者の立場から、パチンコ器及びスロットマシン(パチスロ機)はその使用可能期間が1年未満の減価償却資産であることを主張していたものと思われる。 しかしながら、裁判所が業界におけるパチンコ器の使用実態を確認してみると、その更新の頻度は高いものの、人気機種を中心に中古での流通も活発に行われており、1年未満で使用されなくなるというようなことは一般的ではないということが判明したところである。そうなると、パチンコ器につき法定耐用年数が2年の減価償却資産とされることは、使用実態に照らしても相当といえ、使用可能期間が1年未満の消耗性の資産に該当するという納税者の主張が退けられたのは妥当であると考えられる。 また、スロットマシンは、耐用年数の適用等に関する取扱通達2-7-14によれば、耐用年数省令別表第一「器具及び備品」の中の「スポーツ具」に該当することから、その耐用年数は3年となる。スロットマシンの使用実態もパチンコ器と同様と考えられることから、少額の減価償却資産には該当しないといえよう。 (4) 本件へのあてはめ 法人税法施行令第133条に規定される少額の減価償却資産のうち、使用可能期間が1年未満のものは、その事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理したときには、その取得価額が全額損金に算入されるが、ここでいう「使用可能期間」については、法人の属する業種において、一般的に消耗性のものとして認識されているか否かに基づいて判断すべきと解されている。パチンコ業界では、パチンコ器はその取得時において、通常の管理又は修理をするものとした場合に、事業の用に供してから1年以内に経済的にみて使用することができなくなる消耗性のものであるとの取扱いはされていないことから、少額の減価償却資産には該当しないと解される。また、パチスロ機は耐用年数省令上、パチンコ器とは異なる分類(スポーツ具、耐用年数3年)となっており、同様に少額の減価償却資産には該当しないものと解される。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q85】 「上場外国株式を譲渡して外貨建てMMFを取得する場合の為替差損益」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 上場外国株式を譲渡した場合の課税関係 外国株式を譲渡し、譲渡対価の額が外貨で表示されている場合であっても、外貨で表示されている対価の額及び取得の対価の額を約定日の為替レートで換算した日本円の金額により譲渡損益を計算することとされています。 この換算に使用する為替レートは、外国株式の譲渡の対価の額については、金融商品取引業者との間の外国証券取引口座約款において定められている約定日におけるその支払をする者の主要取引金融機関(その支払をする者がその外貨に係る対顧客直物電信売買相場を公表している場合には、当該支払をする者)の当該外貨に係る対顧客直物電信買相場(TTB)によることとされています。また、取得の対価の額については、対顧客直物電信売相場(TTS)によることとされています。 したがって、外国株式の譲渡収入及び取得費は円ベースで計算されることになるため、為替差損益が含まれる場合であっても、それを区分することなく、譲渡損益を認識するものと考えられます。 2 金融資産の取得と為替差損益の認識 外国通貨で表示された預貯金を受け入れる金融機関を相手方とする当該預貯金に関する契約に基づき預入が行われる当該預貯金の元本に係る金銭により引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で行われる預貯金の預入からは、為替差損益を認識しないこととされています。つまり、実質的に外貨を保有し続けている状態であれば、為替レートの変動により為替に係る含み益が生じたとしても、それを課税所得として認識して確定申告する必要はないものと考えられます。 しかしながら、同じ外国通貨であっても、別の金融資産を取得する場合には、実質的に外貨を保有し続けている状態とはいい難いため、別の金融資産を取得した時点で為替差損益が実現したものとして取り扱うことになると考えられます。 3 本件へのあてはめ おたずねの場合、A株式に係る譲渡損益の額の計算は下記のとおりと考えられます(購入手数料や売却手数料はないものとします)。 A株式は上場株式等に該当するため、上記の譲渡所得の金額は上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となると考えられます。 また、A株式の譲渡代金をドル建てで受領し、その後、ドル建てのMMFを取得したとのことですので、当該MMFの取得時に為替差益を認識する必要があるものと考えられます。この為替差益に係る所得は、雑所得として総合課税の対象となります。 なお、当該MMFは公募の公社債投資信託として上場株式等に該当するため、譲渡時には上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象になりますが、保有期間中の為替差損益は課税所得を構成せず、上記のA株式の譲渡損益と同様に、譲渡時に認識することになるものと考えられます。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第36回】 「管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることとはどのように考えればよいのでしょうか。 〔A〕 管理支配基準の判定において、外国関係会社が、その事業の管理、支配及び運営を本店所在地において自ら行っているといえるか否かについては、事業の実態を踏まえ、その事業上の意思決定やこれに基づく経営管理活動が本店所在地国において経常的にされているか否かを、株主総会や取締役会の開催状況、各役員の職務執行の状況、会計記録の作成・保管の状況その他経営資源の管理の状況等により総合的に勘案するという判断枠組みが示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 管理支配基準における自ら事業の管理、支配等を行っていることの意義 (1) 基本的な考え方 管理支配基準は、外国関係会社が本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていることが要件とされている。「自ら行う」とは、外国関係会社が、事業の管理・支配・運営を自ら行うことを意味するものであることから、その行為の結果と責任等が外国関係会社自らに帰属することである(措基通66の6-7)。 ここでいう「結果と責任等が帰属すること」とは、独立企業として事業を行っていれば通常生じることとなる結果及び負担すべき責任が帰属することをいうのであって、外国関係会社の利益が配当を通じて株主である親会社に帰属することまでを意味するものではない(※1)。 (※1) 国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)平成30年1月(平成30年8月・令和元年6月改訂)」11頁。 (2) 役員が兼務役員である場合 外国関係会社の役員が、その親会社又は地域統括会社の役員又は使用人を兼務している場合もあるが、その役員が本店所在地国において外国関係会社の役員の立場で外国関係会社の事業計画の策定等を行い、かつ、その事業計画等に従い職務を遂行している限りにおいては管理支配基準を満たすものと考えられる(※2)。この場合において、役員が責任を負い、裁量をもって事業を遂行しているのであれば、外国関係会社はその活動に対する報酬を負担するのが通常であると考えられる。そのため、外国関係会社からの報酬の支払が認められない場合には、役員が責任を負い、裁量をもって事業を執行していることの証明には乏しく、ひいては外国関係会社自らが事業の管理、支配及び運営を行っていないと判断される重要な要素となり得る。とりわけ、地域統括会社の役員又は従業員が、外国関係会社の役員を兼務している場合等、同じグループ会社に勤務している場合は、どちらの会社の立場で業務が執行されたのかの判別は困難であるため、合理的な理由(例えば、労務管理の事務負担の観点等から、別途外国関係会社が報酬を負担していると認められるような事実)なく、外国関係会社から報酬が支払われず地域統括会社から報酬が支払われている時は、その役員は、地域統括会社の役員又は使用人の立場で業務を執行していると判断されることもあり得る。 (※2) 国税庁「平成29年12月21日付課法2-22ほか課共同「租税特別措置法関係通達(法人税法編)等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」11頁は、「外国関係会社の役員は、必ずしも常勤である必要はなく、いわゆる非常勤であったとしても(中略)当該外国関係会社の職務を執行している場合には、管理支配基準を満たすものと考えられる。」と述べている。 なお、外国関係会社の役員が、名義だけの役員や、不特定多数の会社のための業として行う役員のみである場合には、一般的にはその役員が外国関係会社の事業計画の策定等を行っておらず、職務を執行していないと考えられるため、外国関係会社は自ら事業の管理、支配及び運営を行っていないものと考えられる(※3)。 (※3) 前掲(※1)11~12頁。 以下では、事業上の意思決定等が行われる場所がどこかが問題とされた最近の裁判例を検討する。 2 最近の裁判例 《(第一審)東京地裁令和4年3月2日判決 (平成30年(行ウ)第87号)》(※4) (※4) TAINSコード:Z888-2443、控訴棄却〈確定〉 (1) 事案の概要 本件は、内国法人X(原告)が、香港に所在するB社(Xが30%出資する外国法人)には外国子会社合算税制が適用されないことを前提に確定申告をしたところ、所轄税務署長から、B社はXの特定外国子会社等に該当し、かつ、香港において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたとはいえず、外国子会社合算税制を適用すべきであるとして、更正処分等を受けたことから、Xは、同各処分は違法であると主張し、各処分の取消しを求めた事案である。 B社の発行済株式の60%を保有するU社は、焼結部品の製造等を営む内国法人であり、Xと共同でB社を設立し、B社は、中国広東省東莞市所在の工場(T工場)に加工を委託した粉末冶金製品の販売を行っていた。T工場の董事長兼総経理は当初U社の取締役であるS氏でその後U社の取締役であるA氏に交代した。S氏及びA氏は、それぞれ同時期にB社の董事長兼総経理を兼務していた。またB社及びT工場の董事は、Xの常務であるK氏であり、K氏はT工場が製造する焼結部品をB社から仕入れて第三者のメーカーに販売するK商社(Xが60%出資)の董事も兼務していた。 (2) 裁判所の判示 東京地裁は、以下のように判示し、適用除外規定は適用されず、Xには外国子会社合算税制が適用されると結論付けた。 ① 管理支配基準の判断基準 ② 事実認定及び検討 ③ Xの主張の排斥 Xによる、「(K氏が)、S氏との間で情報共有を図りながら、継続的に市場調査を行い、B社の取り扱う焼結部品の香港における新規ユーザーを開拓していたことは、B社の董事としての重要な職務の執行であったといえるから、(中略)B社は管理支配基準を満たす」という主張に対し、東京地裁は以下のように排斥した。 (3) 解説 本件では、管理支配基準充足の有無を判定するに当たり、事業上の意思決定やこれに基づく経営管理活動が行われた場所がどこであるかについて、具体的に、株主総会や取締役会(香港法人においては董事会)の開催状況、各役員の職務執行の状況、会計記録の作成・保管の状況その他経営資源の管理の状況等を総合的に勘案して判断するという枠組みが示されたところに意義があると思われる。複数の国又は地域に海外進出し、それぞれの国又は地域において機能別に分社化するようなグループ・ストラクチャーを採用する我が国法人が多い中で、グループ内にどのように人員を配置し、どのような役割を負わせるかについて、大いに参考となる事例であるといえる。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第36回】 「相続後に発行法人に相続税評価額で 株式を売却した場合の課税関係の留意点」 税理士 柴田 健次 Q A株式会社の取締役である甲は令和5年11月1日に相続が発生しています。甲はA社の株式4,000株(議決権総数の40%に相当する株式)を所有していましたが、遺言によりA社の株式は、甲の配偶者である乙及び長男である丙に2,000株ずつ相続させ、その他の財産は全て乙に相続させる旨の遺言書を遺していました。A社株式の相続税評価額は、236,000,000円(59,000円 × 4,000株)であり、その他財産は14,000,000円となります。 甲の相続人は乙及び丙の2人となり、乙の納付すべき相続税は配偶者の税額軽減の適用により0円、丙の納付すべき相続税は23,222,400円となります。 乙及び丙は、A社の代表取締役である丁にA社株式の買取について相談し、A社株式4,000株を相続税評価額236,000,000円でA社に売却することで合意しました。乙及び丙は、A社の株式を令和5年11月30日に発行法人であるA社に相続税評価額236,000,000円で売却を行っています。 相続後におけるA社株主の親族構成と株式保有状況は、下記の通りとなります。 発行済株式総数は10,000株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。 A社は甲の父が創業者であり、創業当初から現在に至るまで資本金は10,000,000円であり、甲は、甲の父からA社株式4,000株を相続し、乙及び丙は甲から2,000株ずつ相続していますので、乙及び丙の取得費はそれぞれ2,000,000円となります。 A社の役員は、甲の死亡後は丁のみとなります。 上記の場合において、A社の株式を発行法人に売却した場合の乙及び丙の課税関係、自己株式を取得したA社の課税関係、A社株主である丁の課税関係はそれぞれどのようになりますか。 所得税の時価の算定にあたっては、財産評価基本通達を準用するものとします。 A社の株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額は次の通りとなります。A社の会社の規模区分は中会社の中に該当し、A社は特定の評価会社には該当しませんので、A社株式の相続税評価額は、1株当たり59,000円(12,000円 × 75% + 200,000円 × 25%)となります。 A 乙、丙、A社、丁の課税関係は、それぞれ下記の通りとなります。 (1) 乙の課税関係 下記を所得金額として所得税及び住民税が課税されます。 (2) 丙の課税関係 下記を所得金額として所得税及び住民税が課税されます。 (3) A社の課税関係 自己株式の取得はA社にとって資本等取引に該当するため、課税関係は発生しません。 (4) 丁の課税関係 自己株式取得後の丁のA社株式の相続税評価額と自社株式取得前の丁のA社株式の相続税評価額の差額が乙及び丙から贈与された金額となり、贈与税が課税されます。 ◆ ◆ ◆ ① 発行法人に株式を売却した場合の課税関係 (1) 売主の課税関係 非上場株式を発行法人に売却した場合には、みなし配当課税(所法25①)、みなし配当課税の特例(措法9の7)、みなし譲渡課税(所法59①)、相続税の取得費加算の特例(措法39)の適用の有無を判断する必要があります。 ❶ みなし配当課税 法人の株主等がその法人の自己株式の取得等の事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額がその法人の資本金等の額のうちその交付の基因となったその法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、剰余金の配当等とみなされます(所法25①)。 ❷ みなし配当課税の特例 相続又は遺贈による財産の取得をした個人で納付すべき相続税額があるものが、その相続に係る相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、上記❶のみなし配当課税の規定は適用されないこととされています(措法9の7)。このみなし配当課税の特例の適用がある場合には、譲渡所得のみで課税関係を考えることになります。みなし配当課税の特例を受ける者は、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を譲渡する日までに発行会社に提出する必要があります。発行会社は譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長にその届出書を提出する必要があります(措令5の2)。 ❸ みなし譲渡課税 個人から法人に非上場株式を著しく低い価額で譲渡した場合(時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合)には、みなし譲渡の適用がありますので、時価が資産の譲渡対価として取り扱われることになり、時価と取得価額等の差額に対して譲渡所得の課税がされることになります(所法59①、所令169)。 なお、時価の1/2以上の対価で譲渡した場合には、通常の売買と同様に譲渡対価と取得価額等の差額が譲渡損益として課税されます。ただし、法人に対する譲渡が所得税法157条の同族会社の行為又は計算の否認等の規定に該当する場合には、時価で譲渡したものとみなされます(所基通59-3)。 上記の時価は、所得税法の時価となりますので、所得税基本通達59-6に基づき算定することになります。 ❹ 譲渡所得の収入金額 法人が個人株主から自己の株式又は出資の取得を行う場合には、その個人株主が交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(みなし配当額を除く)は譲渡所得等に係る収入金額とみなされます。この場合において所得税法59条1項2号の低額譲渡に該当するか否かの判断は、その自己株式等の時価に対して、個人株主に交付された金銭等の額が、著しく低い価額の対価であるかどうかにより判定を行います。そして、自己株式等の時価は、所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定するものとされています。 したがって、低額譲渡に該当する場合には、自己株式等の時価に相当する金額から、みなし配当額に相当する金額を控除した金額が譲渡所得の収入金額とみなされます(措法37の10③五、措通37の10・37の11共-22) ❺ 相続税の取得費加算の特例 相続又は遺贈による財産の取得をした個人で相続税額があるものが、その相続に係る相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡をした場合には、譲渡所得の金額の計算における取得費は、その取得費に相当する金額にその者の相続税額のうちその譲渡をした資産に対応する部分に相当する金額を加算した金額となります(措法39)。 (2) 発行法人の課税関係 自己株式を無償や低額で取得した場合に、取得時の時価と実際の取得価額との差額について受贈益を認識すべきという考え方も一部にありますが、平成18年度税制改正後の法人税法は、自己株式を有価証券としては認識をせず、自己株式の取得を資本等取引としているため、原則として発行法人に益金は生じないことになります(法法22②③④⑤)。 なお、A社には配当所得の源泉徴収義務がありますので、源泉所得税等として23,687,200円(116,000,000円 × 20.42%)を徴収して、その徴収日の属する月の翌月10日までに国に納付する必要があります。A社の税務仕訳は下記の通りとなります。 〔A社の税務仕訳〕 (3) 発行法人の株主の課税関係 みなし贈与課税(相法9)の適用の有無を判断する必要があります。 ❶ みなし贈与課税 著しく低い価額で発行法人に資産を譲渡したことにより、発行法人の株主は、株式の価値が増加しますので、その価値増加部分について譲渡をした者からその株主に対して贈与税が課税されることになります(相法9、相基通9-2)。この場合における著しく低い価額については、明確な基準がありませんので注意する必要があります(本連載【第35回】で解説)。 明確な基準はありませんが、みなし譲渡課税の場合の著しく低い価額は、時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合をいいますので、少なくとも時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合には、みなし贈与課税の問題も発生すると考えられます。 本問の場合の1株当たりの自己株式等の時価は126,000円、1株当たりの対価は59,000円であり時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合に該当しますので、みなし贈与課税の問題が発生することになります。 ❷ 丁のみなし贈与課税の計算 丁は直接乙及び丙から利益を受けたわけではなく、A社が自己株式を取得したことで所有していた株式の価値が増加したに過ぎません。したがって、贈与を受けた金額は、A社が取得した自己株式等の時価相当額である504,000,000円と交付金銭等の額236,000,000円の差額ではなく、自己株式取得後の丁のA社株式の相続税評価額と自己株式取得前の丁のA社株式の相続税評価額の差額となります。あくまでも贈与税課税の計算となりますので、A社株式の相続税評価額を基に計算することになります。 自己株式を取得後のA社株式の相続税評価額の計算は、上記(2)のA社の税務仕訳を確認し、下記の点について留意する必要があります。 ② 自己株式等の時価の算定 自己株式等の時価は、下記の所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定することになります。 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」) (下線部は筆者による) 本問の場合には、財産評価基本通達を準用するものとしていますので、上記通達の(1)から(4)の定めに基づき時価算定することになります。(1)の定めにより、株主判定は譲渡前の議決権数に基づきその判定を行うことになります。 同族株主がいる場合の株主判定の手順は、下記の通りとなります。 【個人から法人に売却した場合において同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。本問の場合には、譲渡前で株主判定を行うことになりますので、乙、丙及び丁が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。本問の場合には、乙の同族関係者に丙及び丁も含まれることになります。 ▷中心的な同族株主 課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます(評価通達188(2))。 本問の場合には、譲渡前で中心的な同族株主の判定を行うことになりますが、乙、丙及び丁の判定は次の通りとなります。 乙:20% + 20% = 40% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する 丙:20% + 20% = 40% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する 丁:60% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する ■本問の場合における株主判定 筆頭株主グループの議決権割合は100%となり、50%超の区分に該当することになります。 乙及び丙は、譲渡直前の議決権割合は、それぞれ単独で5%以上所有していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当することになります。 ■本問の場合における自己株式等の時価算定 乙及び丙は譲渡直前において中心的な同族株主に該当することになりますので、所得税基本通達59-6(2)の適用により小会社に該当するものとして計算することになります。したがって、類似業種比準価額の使用割合であるLの割合は50%となり、類似業種比準価額 × 50% + 純資産価額 × 50%で計算することになります。 この場合の類似業種比準価額を求める際の斟酌割合は小会社としての斟酌割合(0.5)ではなく、A社の会社規模区分(中会社)としての斟酌割合(0.6)となりますので、採用する類似業種比準価額は12,000円となります(令和2年9月30日国税庁資産課税課情報第22号)。 また、純資産価額は、所得税基本通達59-6(3)及び(4)の定めにより、土地及び上場有価証券は相続税評価ではなく時価により算定し、法人税額等相当額の控除もしない価額(240,000円)となります。 したがって、1株当たりの価額は126,000円(12,000円 × 50% + 240,000円 × 50%)となります。 ☆実務上のポイント☆ 相続後に相続人等が発行法人へ非上場株式を売却することは、相続税の納税資金の確保等のために利用されますが、相続税評価額で売却するとみなし譲渡課税やみなし贈与課税のリスクがありますので注意する必要があります。 また、みなし配当課税の特例は、相続税の納税がない相続人等には適用されず、みなし配当課税になると多額の税額負担になりますので、取得者を配偶者にする場合には、注意が必要となります。 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第12回】 「相続税法第32条第1項柱書の更正の請求期限における「事由が生じたことを知った日」とはいつか」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 大阪国税不服審判所平成29年1月6日裁決(TAINSコード:F0-3-544) (1) 事実関係の概要 (2) 請求人らの主張の概要 (3) 「事由が生じたことを知った日」の審判所の判断の概要 (4) 請求人の主張の排斥 相続税法施行令第4条の2第1項の規定は、配偶者に対する相続税額の軽減特例に係る相続税法第19条の2第2項に規定する「分割できることとなった日」について定めたものであり、小規模宅地等の特例に係る租税特別措置法第69条の4第4項に規定する「分割できることとなった日」について定める政令である租税特別措置法施行令第40条の2第13項(現在は第23項)の規定により準用されるものであるが、相続税法第32条第1項において規定する「当該事由が生じたことを知った日」について定めるものではないから、請求人らの主張は論拠を欠く。 2 特例の適用要件との混同 本件は一見して請求人らの主張が正しいようにも窺えるが、請求人らの主張は「通常は法定申告期限までに分割されていない場合には適用がない小規模宅地等の特例(配偶者に対する相続税額の軽減特例)が法定申告期限後にも例外的に適用できる期間の起算日に係る要件」に係るものであって、同特例を適用したことによる更正の請求期限に係るものではない。 本件は、請求人ら(又は関与税理士)が、本件各更正請求をする前段階から「分割できることとなった日」と「当該事由が生じたことを知った日」を同義と信じて疑わなかったのか、あるいは、平成28年2月29日までの提出を失念したことからあえて(負け戦を覚悟で)両者を同義と解して平成28年3月4日に提出したのかは不明である。 しかし、両者は同一日であるケースが通常であり、ともに「・・・日の翌日から4月以内」という規定ぶりからしても、相続税法と租税特別措置法をまたぐ準用規定が関係する中で、両者を同義と誤信することもあり得なくはないし、本件のような調停(審判)外の任意の遺産分割協議の妥結という類型まで法令が想定していなかったのかもしれない。 いずれにせよ、本件に限らず、期限の起算日が「知った日」など必ずしも客観的に明らかにならないような場合には、早期に税務に関する手続を処理しておくに越したことはないことを教訓とする裁決である。 (了)
租税争訟レポート 【第70回】 「還付金等請求事件~偽造された委任状に基づく還付金支払の効力 (東京地方裁判所令和3年8月24日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 【事案の概要】 原告は、大和税務署長に対して相続税の更正の請求を行い、これに対する更正がされたことにより過誤納金及び還付加算金合計1,058万5,275円に係る還付請求権を取得したところ、本件還付請求権の行使について、相続人の1人である被告Y1は、原告の同意を得ずに、原告名義の被告Y1宛ての本件還付金の受領に係る委任状を作成し、被告Y2税理士法人(以下、「被告税理士法人」という)を通じて大和税務署長に提出した結果、被告国は、本来原告に対して支払うべき本件還付金を被告Y1に支払った。 本件は、原告が、本件支払は還付金受領に係る代理権を有しない者に対してされたため効力がなく、還付請求権は消滅していないと主張して、被告国に対し、国税通則法56条1項に基づき、還付金1,058万5,275円及びこれに対する平成28年10月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告Y1及び被告税理士法人に対して、共同不法行為に基づき、還付金の額に弁護士費用105万円を加えた損害金1,163万5,275円及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 【事実関係の経緯】 判決から、事実関係を時系列に沿ってまとめておきたい。 【東京地方裁判所による判決の概要】 1 争点 2 東京地方裁判所の判断 東京地方裁判所は、判断の冒頭で、次のように明確に判示した後に、それぞれの理由を述べている。 (1) 被告Y1の不法行為責任(本件還付金の受領に係る事務管理の成否)について〔争点1〕 裁判所は、被告Y1が原告の承諾を得ずに、原告名義の委任状を偽造し、大和税務署長から還付金を受領したことは、当事者間に争いがないとしたうえで、原告は自ら更正の請求を行い、自己名義の銀行口座を受取口座として指定して、還付金を自ら受領しようとしており、還付金の受領という事務を被告Y1が行うことについては、原告にとって何らの必要性はなく、被告Y1の行為が原告の意思及び利益に反することは明らかというべきであるという判断を示した。 また、被告Y1による修正申告と原告の追納分の立替払いによって、原告は還付金を受領することができたとする主張に対しては、裁判所は、被告Y1が、修正申告に当たり原告名義の被告税理士法人宛ての税務代理権限証書を作成したことや原告追納分の立替払をしたことが、原告が還付を受けるために必要な事務であり、これらの事務に関して事務管理が成立する余地があるとしても、還付金の受領についてまで被告Y1が原告に代わって行う必要性はなかったのであるから、被告Y1の主張は還付金の受領に関する事務管理の成立を認める理由とはならないとして、被告Y1は、原告の還付金を受領した行為について不法行為責任を免れないと結論づけた。 (2) 被告税理士法人の不法行為責任について〔争点2〕 裁判所は、修正申告に先立ち、被告Y1が原告らに送付した提案書には、相続人ら全 員の追納税額と還付金額との差額から諸費用を控除した残額を均等に分配するという等分案が記載されており、原告からは、これに賛同する旨の書面は送られてこなかったものの、等分案に反対するような反応も見られなかったことから、被告税理士法人において、被告Y1から原告の口頭承諾があったと聞いて、これを信じたとしても、不合理であるとはいえないこと、提案書における等分案につき原告らが承諾したことを前提とすると、修正申告により原告らが追納すべき相続税を被告Y1が立替払し、受けるべき還付金を被告Y1が一括して受領することには相応の合理性があるといえるから、被告税理士法人が、原告から委任状への押印を得ることを被告Y1に依頼し、被告Y1から返送された委任状における原告名の押印が原告の意思に基づくものであると信じてそのままこれを大和税務署に提出したことは、ごく自然な流れであったということができるという判断を示したうえで、被告税理士法人は原告主張の不法行為責任を負わないから、原告の被告税理士法人に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないと結論づけた。 (3) 本件還付請求権の存否(本件支払に係る被告国の善意無過失)について〔争点3〕 裁判所は、結論として、本件支払をした被告国(大和税務署長)において、被告Y1が本件還付金の受領権限を有していなかったことにつき悪意であったことを認めるに足りる証拠はないという判断を示した。そのうえで、被告国(大和税務署長)における過失の有無については、①原告が自ら作成した更正請求書には、還付金の受取口座を原告名義の銀行口座とする旨の記載がある一方で、共同相続人である被告Y1が提出した書類の記載のすべてを援用する旨の記載があったこと、②その後に被告税理士法人により提出された修正申告書には、原告が被告税理士法人に税務代理を委任する旨の本件権限証書が添付されるとともに、Cに係る還付金額について被告Y1が受領する旨の記載があったこと、③これらの事実関係を踏まえ、大和税務署長(同税務署の担当者)は、被告税理士法人に対し、還付金の受領に係る委任の意思を明らかにするための委任状の提出を求めたこと、④これを受けて、被告税理士法人から委任状が提出されたことという認定事実を列挙したうえで、委任状における原告名の押印が原告の意思に反してされた可能性を疑うべき事情は、上記(2)で述べたように、被告税理士法人との関係でも認められないところ、大和税務署長との関係でこのような事情があったとは尚更認め難いとして、大和税務署長において支払をしたことには過失も認めることができず、被告国は支払について善意無過失であったと判示した。 さらに裁判所は、被告国は、被告Y1が還付金の受領権限を有していなかったことについて善意であり、かつそのことに過失はないと認められるから、その支払は、債権の準占有者に対する弁済について定める民法478条により弁済としての効力を有し、これにより還付請求権は消滅したものであるから、原告の被告国に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないと結論づけた。 (4) 原告の損害について〔争点4〕 裁判所は、被告Y1の本件不法行為により、原告は、還付請求権を失うこととなったから、還付金額1,058万5,275円を損害として認めるとともに、原告が被告Y1に対する損害賠償請求権を行使するために相当因果関係のある弁護士費用は、損害金の1割に相当する105万円であると認め、被告Y1の不法行為による原告の損害額は、合計1,163万5,275円となるという判断を示した。 また、裁判所は、被告Y1による、原告追納分の立替払について損益相殺をすべきであるという主張については、この立替払による原告の利得は、被告Y1による還付金の受領という不法行為と同じ原因によって生じたものではないから、損益相殺をすることはできないと斥けた。 (5) 本件供託の効力について〔争点5〕 裁判所は、被告Y1による供託について、原告の被告Y1に対する損害賠償請求の範囲は、遅延損害金を考慮しなくても1,163万5,275円に及ぶところ、被告Y1が弁済を申し出て実際に供託した金額は、還付金額と原告追納分の立替払金額との差額及びその利息の合計額である670万6,383円にすぎないから、供託による免責の効力は生じないとの結論を述べ、被告Y1の主張を斥けた。 【解説】 母親が亡くなったのが、平成20年9月。そこから、父親の死亡を挟んで、東京高等裁判所により遺産分割が確定するまでに7年5ヶ月を要し、さらに、相続税の更正の請求により生じた還付金の受領をめぐって争いが生じた結果、提起された訴訟の判決まで5年6ヶ月あまり。実の兄弟である原告と被告Y1は、合計13年間、争いを続けてきたことになる。原告自ら、更正請求書に「争続」と記載することとなった争いの原因は、遺産分割協議の不調であるが、残念ながら、東京高等裁判所が、どのような遺産分割を確定させたか、判決文では触れられていない。 1 共同相続人Y1の提出の書類の記載のすべてを援用 判決によれば、原告が、平成28年6月18日、大和税務署長に対して行った、第1次相続に係る原告の父親の相続税についての更正の請求では、更正を求める課税価格や税額は具体的に記載されておらず、根拠となる資料の添付もなく、「添付した書類」欄に「共同相続人Y1の提出の書類の記載のすべてを援用する」との記載があり、さらに、更正請求書の「更正の請求をするに至った事情の詳細、その他参考となるべき事項」の欄には、「争続のため、資料がなく、資料の調査、添付、計算、記載ができない」と記載されていたということである。 大和税務署は、こうした原告本人による更正の請求を受けて、更正処分を行っている。つまり、共同相続人において、更正の請求が可能である原因さえわかっていれば、他の共同相続人が提出した更正請求書を援用することによって、具体的な更正の請求内容が不明であっても、更正の請求を行うことは可能であるということは理解しておきたい。 2 被告に国(大和税務署)を加える訴訟戦略 判決を読んでいて考えさせられたのは、原告側が、被告に国を加えた訴訟戦略が功を奏したのではないかという点である。原告が提出した更正請求書は、被告Y1らが提出した更正請求書及び修正申告書の内容を援用するとしているうえ、原告名義の委任状がそろっている以上、大和税務署が還付金を被告Y1に支払った行為に過失がないことは明らかである。にもかかわらず、あえて、国を被告に加えることによって、すべての不法行為責任を被告Y1に負わせることに成功したのではないかと、思料した次第である。 3 被告Y1による提案の不合理さ 〔争点1〕に対する被告Y1の主張の中で、被告Y1が原告ら相続人に対して送った提案書の内容について、次のように説明している。 判決では、原告が受領すべき還付金は1,058万5,275円であることが明示されていることから、被告Y1による「頭割り」の提案を、原告が受け入れる気になれないだろうことは推察できる。この点、被告税理士法人が、被告Y1の提案をどのように認識していたのかは、判決では触れられていないが、およそ原告にとって合理的とはいえない提案を原告が受け入れたとする被告Y1の説明を鵜呑みにした判断には疑問が残る。 (了)
〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第11回】 「貸手のリース取引の会計処理」 公認会計士・税理士 喜多 弘美 これまで、セール・アンド・リースバック取引や転リース取引も含めて、リース取引の借手の会計処理を扱ってきました。今回は、リース取引の貸手の会計処理について、見ていきます。 1 貸手から見たリース取引 (1) 貸手はだれ? リース取引の貸手は、【第3回】「リース取引の流れ」で使用した図の中の「リース会社」です。つまり、今回の主役はリース会社になります。 (2) リース会社から見たリース取引 リース会社は、ユーザーに代わり、サプライヤーからリース物件を購入し、リース物件をユーザーに引き渡します。今まで見てきたように、リース会社とユーザーのリース契約は、売買取引としての性格を持っています。 また、お金の流れを見ると、リース会社はサプライヤーへリース物件の代金を支払い、本来、代金を支払うはずだったユーザーからリース料を受け取ります。ユーザーから受け取るリース料は、リース物件の代金をユーザーから回収していることになり、金融取引としての性格を持っています。 このように、リース会社から見たリース取引は、売買取引と金融取引の性格を持っていることになります。 2 貸手の会計処理 (1) 所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理 所有権移転ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理は、取引実態に応じて、次の3つの方法のどれかを選択することになっています。 それでは、①~③の方法について、設例を用いて、仕訳と一緒に確認します。 【設例】 ① リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法 1つ目は、リース取引開始日にリース料総額を売上高として計上する方法です。主に、製造業、卸売業等を営む企業が製品又は商品を販売する手法としてリース取引を利用する場合を想定しています。これは、リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)のうち、売買取引の性格を重視した方法です。 (ア) リース取引開始日 リース取引開始日に、リース料総額で売上高を計上し、同額でリース債権を計上します。 また、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により売上原価を計上します。 (イ) リース料受取時(1年目) リース料を受け取る時に、リース債権を減らします。 (ウ) 決算時(1年目) リース取引開始日に計算された売上高と売上原価との差額を利息相当額として扱います。つまり、今回の【設例】では、900万円(=売上高5,000万円-売上原価4,100万円)が利息相当額になります。 リース期間中の各期末において、リース取引開始日に計算された利息相当額の総額のうち、各期末日後に対応する利益は繰り延べます。 【設例】では、リース取引開始日に計算された利息相当額900万円のうち、2年目以降の利益613万円(=利息相当額900万円-1年目の利息287万円)を繰り延べることになります。 ② リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法 2つ目は、リース期間中の各期に受け取るリース料(以下、「受取リース料」といいます)を売上高として計上する方法で、割賦販売の処理を想定しています。これは、リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)どちらも重視した方法です。 (ア) リース取引開始日 リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により、リース債権を計上します。 上記仕訳は、リース物件を購入し、その購入した資産をそのままユーザーへ譲渡した仕訳の2つに分解することができます。 (イ) リース料受取時(1年目) 各期の受取リース料を各期において売上高として計上し、当該金額からリース期間中の各期に配分された利息相当額を差し引いた額をリース物件の売上原価として処理します。 【設例】では、713万円(=1年目の受取リース料1,000万円-1年目の利息相当額287万円)を売上原価として計上します。 ③ 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法 3つ目は、売上高を計上せず、利益の配分のみを行う方法です。リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)のうち、金融取引の性格を重視した方法になります。 (ア) リース取引開始日 リース取引開始日に、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により、リース債権を計上します。 (イ) リース料受取時(1年目) 各期の受取リース料を利息相当額とリース債権の元本回収とに区分し、受取リース料を各期の損益として、利息相当額をリース債権の元本回収額として処理します。 【設例】では、1年目の利息相当額が287万円のため、713万円(=受取リース料1,000万円-1年目の利息相当額287万円)が元本回収になります。 * * * 所有権移転ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理について、3つの方法を見てきました。どの方法を採用しても毎年の貸借対照表の結果は同じ、また、損益計算書も勘定科目(売上高、売上原価、受取利息)に違いはありますが当期純利益に与える影響額は同じになります。 ただし、選択した方法は継続的に適用する必要があります。また、①又は②の方法を採用する場合は、割賦販売取引において採用している方法との整合性を考慮し、いずれかの方法を選択します。 (2) 所有権移転外ファイナンス・リース取引の会計処理 所有権移転外・ファイナンス・リース取引の会計処理も、(1)の所有権移転ファイナンス・リース取引とほぼ同じですが、以下3点が異なります。 (3) オペレーティング・リース取引の会計処理 オペレーティング・リース取引は、借手と同じく、「賃貸借処理」に係る方法に準じて会計処理をします。貸手がリース物件を所有することになるので、貸手はリース物件を購入価額で固定資産として計上し、受取リース料を売上高として計上します。また、固定資産は減価償却し、減価償却費は売上原価に計上することになります。 (了)