《速報解説》 修正国際基準及び改正会社法に係る 「会社法施行規則・会社計算規則」の一部改正が公布、同日施行 ~経過措置に留意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年1月8日、法務省は「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(平成28年法務省令第1号)を公表した。これにより、平成27年11月6日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 これは、平成27年6月30日に、 企業会計基準委員会から公表された「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」を受けた会社計算規則の改正及び、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行に伴う会社法施行規則の改正を追加的に行うものである。 なお、修正国際基準を受けた連結財務諸表規則等の改正は、平成27年9月4日付で、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第52号)として公布されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会社計算規則の改正 「修正国際基準で作成する連結計算書類に関する特則」(61条、120条の2)として、次の規定が設けられた。 「米国基準で作成する連結計算書類に関する特則」は、会社計算規則120条の3として規定された。 Ⅲ 会社法施行規則の改正 平成27年5月1日に施行された改正会社法を受け、以下の改正が行われた。 Ⅳ 適用時期等 公布の日(平成28年1月8日)から施行する。 次の経過措置が設けられている。 (了)
2016年1月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.151を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.36- 「本年の焦点は『1兆円の社会保障財源』の確保」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 2017年4月の消費税率10%引上げ時に、食料品や新聞への軽減税率の導入が決まり、1兆円の社会保障財源に穴が空くこととなった。 これについては、「平成28年度末までに安定的な恒久財源を確保する」という与党間の合意がなされているので、今年の税制議論の焦点は、『1兆円の財源を具体的にどのような形で決めるのか』という点になる。 すでに、民主党政権で導入が予定されていた総合合算制度の取りやめにより4,000億円を確保するということが言われているが、「社会保障のための恒久財源を社会保障の廃止により手当てする」ということは、どのような意味を持つのであろうか。論理矛盾のような感じがしないでもないが、それでもまだ6,000億円の恒久財源が必要となる。 ◆ ◆ ◆ 具体案の検討の前に確認すべき点がある。 消費税は全額社会保障財源となっているので、軽減税率で空いた穴を埋めるための財源は、社会保障とリンクさせる必要があるということである。 このための最も確実な方法は、「全額社会保障財源に充てられる消費税の標準税率を1兆円の減税分だけ引き上げること」である。その場合、消費税の標準税率は10.5%前後になる。 しかし、消費税増税を嫌う現政権の下では、このような選択肢は採りえないだろう。そこで、早くも自然増収論や埋蔵金での穴埋めといった議論が出ている。埋蔵金については、仮にそのようなへそくりが見つかったら、莫大な借金の穴埋めに使うのが本筋であり、それを軽減税率の財源にすることは筋違いだ。 では、自然増収論はどうだろうか。 たしかに安倍政権発足前の平成23年度(2011年度)から平成28年度(2016年度)までの5年間を見ると、税収は42.3兆円から57.6兆円(予算)と15兆円強増えており、一見大変な増収があるように見える。 しかし、リーマンショック前の07年度税収は51兆円であった。これが平時の税収とすると、16年度予算の税収である57.6兆円は、6兆円強の伸びということになる。 実はその間、消費税率は5%から8%へと引き上げられており、その増収額は6兆円程度である。そこでこれを除くと、税収は平時とトントン、つまりアベノミクスによりわが国経済が、リーマンショック前の平時に戻ったというだけの話である。決して、自然増収が恒常的に生じているという状況にはなく、これをもって恒久財源ということにはならないだろう。 ◆ ◆ ◆ わが国経済は、金融政策の手詰まりや外部経済環境の不安などから踊り場にある。要因の1つに、雇用者報酬の回復に比べて個人消費の伸びがみられないことが挙げられる。 筆者は、この背景には、「今は中流だがいつ下流に陥るかもしれない」という将来不安があるのではないかと考えている。社会保障財源に穴を空けることは、この不安をますます拡大させ、経済にマイナスの影響を与える。 最後に一言付け加えたい。 「1兆円の財源の具体論は選挙後に議論」ということのようだが、このような考え方は国民を愚弄していないだろうか。 選択肢だけでも選挙前に国民に示すべきではないか。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第1回】 「行政手続書類のマイナンバー対応スケジュール」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 行政手続書類に関するマイナンバーへの対応について、今後のスケジュールを教えてください。 〈A〉 平成28年1月以降で対応が求められるもののスケジュールは、以下の通りである。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第3回】 「最近の注目裁判例・裁決例② (大阪高裁平成25年1月18日判決)」 ~収益事業に該当すると判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、最近注目の裁判例を取り上げてみたい。 1 事案の概要 法人税法2条6号、別表第2(平成20年法律第23号による改正前のもの)に該当する公益法人等で、青色申告の承認を受けている財団法人X(原告・控訴人)は、自ら営む事業のうち、公益事業会計等に区分して経理していた各事業(以下「本件各事業」という)について、法人税法2条13号に規定する収益事業に含めずに法人税の申告を行っていた。 これに対して、課税庁は、本件各事業は収益事業に該当するものとして、これに係る収入を法人税の課税所得に加算する更正処分(以下「本件更正処分」という)を行ったところ、Xは、本件各事業は収益事業に該当しない又は更正通知書に記載された理由付記に不備があるなどとして、課税庁が所属する国Yを相手取り、処分の取消しを求めた。 原審大阪地裁平成24年2月2日判決(税資262号順号11870)は、Xの上記主張をいずれも排斥し、処分を維持したが、大阪高裁平成25年1月18日判決(判時2203号25頁。以下「本件高裁判決」という)は、本件各事業が収益事業に該当するか否かについては判断することなく、本件理由付記(本件高裁判決は、「本件各付記理由」と表現していることに注意)には不備があるとして、課税処分を取り消した。 2 更正通知書に記載された更正の理由の一例(本件理由付記) (注) 実際の理由付記には、上記加算部分に対応する費用等の項目の記載があったが掲載を省略しており、また、実際の理由付記の一部を筆者が加工している。 3 関係法令等 まず、関係法令等を確認しておきたい。 本件理由付記を一読してみると、本件更正処分の理由は、本件理由付記において摘示されている委託料、受託料及び補助金(以下「本件委託料等」という)について、法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当すると認められるにもかかわらず、Xがこれを収益事業の収入として計上していなかったことであることがわかる。 そこで、当時における収益事業に係る法人税法の規定を整理しておこう。 4 本件高裁判決の判断 本件高裁判決は、次のとおり、本件理由付記に不備があると判断し、課税処分を取り消した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 本件高裁判決は、 とした上で、次のとおり、本件理由付記は、法人税法130条の求める理由付記として不備があると判断した。 5 考察 (1) 本件高裁判決の注目点① 上記4(2)の判示を整理してみると、本件高裁判決は、【1】関係法令等の定め(上記4(2)(ア))、【2】本件訴訟におけるYの主張等(上記4(2)(イ))、【3】Xのこれまでの申告状況、過去及び今回の税務調査の状況(上記4(2)(ウ))を参照することで、【4】(上記3の法令及び実費弁償通達に関する判断を記載すべきであったにもかかわらず)本件理由付記には法令等の適用関係やその判断過程に関する記載がなく、【5】理由付記に不備があるという結論へと到達していることがわかる。 とりわけ、上記【3】、すなわち本件高裁判決は、Xのこれまでの申告状況、過去及び今回の税務調査の状況を参照することで、行政処分庁の恣意抑制と不服申立ての便宜のために理由付記を要するのは、主として、本件各事業が実費弁償により行われているといえるのか、実費弁償通達が適用されるのかという点であることを導き出しているが、このようなロジックが今後、定着するかどうか注目に値すると考える。 これまで、課税実務においては、納税者の過去の申告状況や税務調査の状況といった事情(課税処分の適法性を肯定するために調査において把握した事実等に関するものは除く)と理由付記に記載すべき内容とを、直接的に結び付けて、理由付記を行ってきたようには思われないからである。 そして、本件高裁判決が用いたこのようなロジックによれば、 というような主張も有効となる可能性があり、理由付記を見据えた税務調査の対応の必要性も視界に入り込んでくる。 (2) 本件高裁判決の注目点② 本件高裁判決は、上記4で示した判示の後において、あくまでYの主張を排斥する文脈ではあるが、次のような判断を示している。 いずれの判示も、帳簿書類の記載の程度の十分性を検討する際に重要なものであり、今後、このような理解が定着するかどうか、注目に値する。 * * * 次回は、法人の事業部名義の簿外口座に振り込まれた100万円を法人の売上計上漏れ(従業員に対する損害賠償請求権に係る雑収入計上漏れ)と認定した法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第7回】 「事業に必要な海外旅行であったとの納税者の主張が認められず 旅行費用は「給与等」に当たるとされた事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 土木建築工事の請負業を営む法人(甲社)は、自社及び外注先の従業員31名を2泊3日のマカオ旅行(本件旅行)に参加させて、その費用総額800万円を損金に算入した。これに対して課税庁は、本件旅行の甲社従業員分は、所得税法28条1項の「給与等」に当たるから甲社には源泉徴収義務があるとして、源泉所得税に係る納付告知及び不納付加算税の賦課決定処分を行った。 争点は、本件旅行の甲社従業員分の負担額が所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当するか否かである。 〔双方の主張(要旨)〕 〔裁判所が主に着目した事実関係〕 裁判所は、判断をするために次のような事実(要旨)を認定した。 〔裁判所の判断〕 東京地裁は、上記事実の(ウ)、(エ)、(オ)の事実から、従業員が本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたということを認めた。また、上記事実の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)の事実から、本件旅行は専ら従業員ほかのレクリエーションのための観光を目的とする慰安旅行であり、従業員は、雇用契約に基づき甲社の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価として、本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものと認めた。そして、このようなことから、甲社は、所得税法28条1項の「給与等」の支払をしたものと判断した。 さらに、東京地裁は、念のために、本件旅行が所得税基本通達36-30(本件通達)にいう「役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事に当たるかを判断し、本件旅行から享受する経済的な利益の額が少額であるとは認められないとして、非課税の扱いが認められないことを判断している。 〔判断の分水嶺〕 本件は、本件旅行が甲社の業務の一環として行われたものか否かに判断の分水嶺がある。 社員旅行に関しては、慰安旅行が社会通念上一般的に行われるようなものであって一定の条件を満たす場合には、少額不追求の趣旨から課税しないという扱いはあるが(本件通達参照)、この裁判における甲社の主張はそこではなく、本件旅行が業務に資するものであること、つまり業務上の海外渡航であったことを示唆する点にある。これに対して東京地裁は、事実関係を踏まえて本件旅行は慰安旅行であって、その経済的利益は、「給与等」に当たると結論づけた。 〔本判決が示唆するもの〕 甲社は、不服申立段階では、本件通達の該当性についても主張していたようであるが、裁判では主張していなかった。主張の経緯や経理処理内容(上記事実関係の(オ))をみると、もともと甲社は、本件通達を意識した少額不追求による非課税を念頭においており、事業上の経費としての損金算入(参照:海外渡航費の取扱いについて(法令解釈通達))は考えていなかったと思われる。福利厚生費としての損金算入(本件通達)から事業上の経費としての損金算入へと、あえて主張を変更したのは、本件通達に該当するのは難しいと判断したからであろうか。 主張の変更は自由であるが、東京地裁は、上記((ア)から(オ))の事実以外に、甲社の異議申立書の記載、異議調査における代表者の供述及び審査請求書の記載に着目し、その当時、甲社が「本件旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化することにあった」という主張をしていなかったこと、さらに、代表者が異議調査段階で「慰安と親睦のための旅行である」と供述したという事実に着目して甲社の主張を排斥する材料としている。争訟になれば、主張の変遷自体が判断の材料になり得る点は押さえておきたい。 なお、「判決速報」では、「本件通達の金額面についての一定の基準を示した事案として実務の参考となる」として紹介されている。本件では1人当たり24万1,300円という額が少額には当たらないことを裁判所は明言している。 その他、国税庁タックスアンサーNo.2603では、従業員負担額7万円及び10万円の事例については、少額不追求の趣旨を満たすと述べている。金額だけでなく、その他の要件も確認する必要はあるが、具体的金額が示されたという点では実務上の1つの指針となろう。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第42回】 「その他の裁判例⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、解説する事件は、商法上、合併無効の判決が下った際に、合併により生じた譲渡損益をなかったものとして更正の請求を行うことができるか否かが争われた事件である。 組織再編税制の導入により、合併における譲渡損益の計算が大きく変わり、非適格合併として処理される事例はほとんど無くなったが、他の組織再編行為において類似の事例が生じる可能性もあり、実務上も参考になる判決であると考えられる。 27 合併無効判決の遡及効 (1) 平成14年5月31日大阪地裁判決(TAINSコード:Z252-9127) ① 事件の概要 本事件は、有限会社B(以下「訴外会社」という)を被合併法人とし、原告A株式会社(以下「原告会社」という)を合併法人とする吸収合併を行ったことにより、本件合併により訴外会社に清算所得が生じたとして確定申告を行い、また、訴外会社の社員である原告甲及び原告乙が、本件合併によりみなし配当所得が生じたとして確定申告を行ったが、その後、本件合併にかかる合併無効判決が確定したことにより、上記各確定申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとして、被告に対し、国税通則法23条2項1号に基づき更正の請求をしたところ、被告が原告らに対し、それぞれ更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、原告らが被告に対し、本件各処分の取消しを求めた事件である。 ② 原告の主張 商法415条3項が準用する商法110条は、「合併ヲ無効トスル判決ハ合併後存続スル会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル会社、其ノ社員及第三者ノ間ニ生ジタル権利義務ニ影響ヲ及ボサズ」と規定している。被告が主張するように、商法110条が合併無効判決の遡及効を一般的に否定した規定であるのであれば、新株発行無効判決の効力について定めた商法280条の17の規定のように、明確にその遡及効を否定するはずであるから、同条は、合併無効判決の遡及効を一般的に否定した規定であると解することは文言上困難である。 所得に対する課税がなされるか否かは、経済的成果が現実に生じているか否かにより判断されるべきところ、本件においては、合併無効判決の確定したことにより、原告会社の含み益は実現されていないし、原告甲及び原告乙のみなし配当所得も実現されていないのであるから、原告らには現実の経済的成果が生じていない。そして、このことは合併無効判決が無効とされる場合であっても、将来的に効力を失う場合であっても、変わりがない。したがって、「その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当するから、原告らの更正の請求を理由がないとした本件通知処分は違法である。 ③ 被告の主張 商法415条3項が準用する商法110条は、「合併ヲ無効トスル判決ハ合併後存続スル会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル会社、其ノ社員及第三者ノ間ニ生ジタル権利義務ニ影響ヲ及ボサズ」と規定している。会社の合併は、団体法上の行為であり、特に法人格の消滅又は存続に関するため、合併における瑕疵を民法及び民事訴訟法における一般原則に委ね、既往に遡って解決することは、会社法における法的安定性及び法的確実性の要請に合致しないことから、合併を無効とする判決が確定してもその判決の効果は、存続会社、その株主及び第三者の間に生じた権利義務に影響を及ぼさなず(原文ママ)、将来に向かって生じるものとし、存続会社又は新設会社は、従前に復活するのでではなく(原文ママ)、いわば新しく「分割」されることになるのである。 そして、税法上商法110条の適用を排除する明文の規定がない以上、税法上も商法上の取扱に従って処理すべきであり、合併無効の判決が確定しても合併に基づく課税関係に遡って影響を与えることはないから、合併無効判決が確定したことは国税通則法23条2項による更正の請求の根拠とはならない。 清算所得は全ての出資金の評価益によるものであるが、これは合併という事象により当該出資金が有していた含み益が表面上に現れたものである。本件課税はこの含み益に対してなされたものであるが、合併無効の判決により存続会社又は新設会社が分割される場合、会社がその社員に対してなした利益配当、社員のなした持分又は株式の譲渡、合併手続中になされた端数株の処分などが効力を有する結果、資本準備金の額はそのまま復活するとは限らないのである。したがって、分割後の法人は必ずしも合併前の資産負債に戻るものではないこととなり、当然に原告会社の行った評価益の計上が取り消されるとはいえないのである。 ④ 裁判所の判断 商法110条は、文言上適用の対象となる権利義務が合併後の取引行為によって発生した権利義務に限定していないから、同条は合併が行われたことにより発生した権利義務関係一般について適用があると解するのが条文の文言に即した素直な解釈というべきである。また、原告らの主張するとおり、合併自体は民法の一般原則に従いはじめから無効であるとしたうえで、合併が有効であることを前提として行われた取引行為については有効なものとして扱うという見解は、商法110条を表見法理に基づく規定と解することになるところ、商法110条が相手方の善意悪意を区別することなく、一般的に効力に影響がないとしていることからすると、同条を表見法理をもって基礎付けるのは困難というほかなく、商法110条は、合併無効判決の効力につき、一律に遡及効を否定したものと解さざるを得ない。 前述のとおり合併無効判決に遡及効は認められないのであるから、合併により一旦生じた清算所得及びみなし配当所得は遡って生じなかったことにはならなず(原文ママ)、原告らに経済的成果が生じなかったということはできない (2) 平成14年12月26日東京高裁判決(TAINSコード:Z252-9254) 東京高裁における裁判所の判断はほとんど東京地裁判決を踏襲している。また、控訴人は上告受理の申立てを行ったが、受理されなかった(平成17年6月2日最高裁決定・TAINSコード:Z255-10046)。 (3) 評釈 このように、合併無効の訴えの遡及効が認められず、その結果として、被合併法人及び被合併法人の株主における課税所得に対する更正の請求も認められなかった。 本事件は、旧商法時代の事件であるが、現行会社法839条では、「会社の組織に関する訴え(第834条第1号から第12号まで、第18号及び第19号に掲げる訴えに限る。)に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為(当該行為によって会社が設立された場合にあっては当該設立を含み、当該行為に際して株式又は新株予約権が交付された場合にあっては当該株式又は新株予約権を含む。)は、将来に向かってその効力を失う。」と規定されており、現行会社法においても同様に取り扱われることになろう。 すなわち、原告の主張にあるように、合併無効の訴えが認められたら、そのときに分割を行ったものとして、再度、課税所得の計算を行うことになる。 このような解釈は、組織再編税制が導入された現行法人税法においても同様に取り扱われるものと思われる。 しかしながら、本事件では、合併法人からすると、被合併法人において発生した法人税等はそのままに、合併の効力のみが否定されていることから、やや釈然としない気持ちはわからないでもない。この点につき、「合併そのものを遡ってなかったとして復活させることは、その後の課税上の処理に、執行上多大な影響を与えてしまう場合がありえる。この観点から、遡及効を一切認めないという扱いに一定の合理性を見いだすことは可能だと思われる。」(※1)として、本判決に理解を示す解説もあることから、実務上は、この判決通りに執行されていくと想定される。 (※1) 渡辺徹也「合併無効と課税」水野忠恒ら編『租税法判例百選』34頁(有斐閣、第5版、平成23年) このような整理は、そもそも合併無効の訴えが提起されることが稀であることから、本事件を除き、ほとんど紹介されている事例は存在しない。そのため、かなり貴重な事件であり、実務上も参考にすべきものであると考えられる。 28 その他の裁判例・裁決例 今まで、組織再編・資本等取引についての重要な裁判例・裁決例をいくつか紹介してきたが、おおむね重要なものについては紹介することができたと考えている。なお、興味のある読者は、以下の事件の裁判例についても一読されることをお勧めする。 なお、タインズには、平成24年12月4日東京地裁判決(TAINSコード:Z262-12104)が収録されているが、旧商法時代の事件であり、原処分庁の主張も会社法施行後の事件であれば、異なった主張にならざるを得ないため、現在では参考にはならないと考えられる。 * * * 次回以降は、ヤフー・IDCF事件の控訴審判決について解説する予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【73】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その1:武富士事件①) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 1 武富士事件判決の概要 この事件は、贈与税を回避するために、生活の本拠を日本から香港に移したうえで、武富士の元会長が、その後継者に対して、自己が所有していた外国法人(武富士の持株会社)の株式を生前贈与した結果、日本における約1,300億円の贈与税を免れたとして、課税処分(贈与税の決定処分と無申告加算税の賦課決定処分)がなされ、その違法性が問われた事案である。 判決ではまず、法令解釈によって定立された「一般的法命題」が掲げられ、次に事実認定がなされて、その認定事実を「一般的法命題」にあてはめて、結論として判決が下される。これを法的三段論法というが、そのうちの「一般的法命題」こそが判例である旨記した。 2 判決の構造 (1) 一般的法命題 ではまず、この武富士事件における「一般的法命題」は何であろうか。 判決の中で、「主文」に続き「理由」が記され、その中で「1」に事案の概要、「2」に確定した事実関係の概要、「3」に原審、そして「4」に最高裁判所の判断が示されている。 そしてその「1」において「法1条の2(現行は「1条の3」。筆者挿入。)によれば、贈与により取得した財産が国外にあるものである場合には、受贈者が当該贈与を受けた時において国内に住所を有することが、当該贈与についての贈与税の課税要件とされている(同条1号)ところ、」と適用条文を確認し、続けて「住所とは、反対の解釈をすべき特段の事由はない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(略1:※次回詳説する)。」と判示し、住所の判断には「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべき(太字及び下線は筆者挿入。以下同じ)」と法命題を示している。 原審である高裁においては、居住意思という主観的要素が住所の判断に含まれる旨判示しており、この点が最高裁判決と高裁判決の相違である(詳細は次回以降で確認する)。 (2) 事実認定 続けて、「2」で事実認定として「その約3分の2の日数を2年単位(合計4年)で賃借した本件香港居宅に滞在して過ごし、その間に現地において本件会社又は本件各現地法人の業務として関係者との面談等の業務に従事しており、これが贈与税回避の目的で仮装された実体のないものとはうかがわれないのに対して、国内においては、本件期間中の約4分の1の日数を本件杉並居宅に滞在して過ごし、その間に本件会社の業務に従事していたにとどまるというのであるから、本件贈与を受けた時において、本件香港居宅は生活の本拠たる実体を有していたものというべきであり、本件杉並居宅が生活の本拠たる実体を有していたということはできない。」と生活の本拠が、日本の居宅のある東京都杉並区ではなく、香港であると認定している。 続けて、「上告人が贈与税回避を可能にする状況を整えるために香港に出国するものであることを認識し、本件期間を通じて国内での滞在日数が多くなりすぎないよう滞在日数を調整していた」ことについて、「一定の場所が住所に当たるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かによって決すべきものであり、主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではないから、上記の目的の下に各滞在日数を調整していたことをもって、現に香港での滞在日数が本件期間中の約3分の2(国内での滞在日数の約2.5倍)に及んでいる上告人について前記事実関係等の下で本件香港居宅に生活の本拠たる実体があることを否定する理由とすることはできない」と主観的目的を判断要素とすべきではない旨判示し、続けて、「このことは、法が民法上の概念である「住所」を用いて課税要件を定めているため、本件の争点が上記「住所」概念の解釈適用の問題となることから導かれる帰結であるといわざるを得ず、他方、贈与税回避を可能にする状況を整えるためにあえて国外に長期の滞在をするという行為が課税実務上想定されていなかった事態であり、このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないというのであれば、法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法によって対処すべきもの」と、そのような行為に対する対処は立法で図るべきと、そしてこの中で、借用概念という用語は用いていないが、「法が民法上の概念である「住所」を用いて課税要件を定めているため、本件の争点が上記「住所」概念の解釈適用の問題となることから導かれる帰結」と借用概念について、統一説(借用概念について、元の法令と同様に解すべきという見解)に依るべき点も明らかにしている。 このようにこの事案では、「住所」がどこにあるかという事実認定が、実際には「住所」がどこであるかの法的判断をどのように行うべきかという、法解釈が中心になっている。 すなわち1つ目は、住所の判定において、「贈与税回避の目的」を考慮に入れるべきか、という点である。この点については、「贈与税回避の目的」があったことは認定していながら、これを住所の判定には無関係とし、このような対処は「立法によって対処すべき」と判示する。 そして2つ目が、「住所」概念について借用概念統一説によるべきか否かという点であるが、上記のように統一説に依るべき点が示されている。 そしてこれらのことから、事実認定における結論として、「国内(同法の施行地)における住所を有していたということはできない」と判示する。 (3) 結論 そしてこの認定事実を一般的法命題に当てはめて、「本件贈与につき、法1条の2第1号及び2条の2第1項に基づく贈与税の納税義務を負うものではなく、本件各処分は違法」と結論付けている。 * * * 次回も引き続き武富士事件について検討を行うこととする。 (続く)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第105回】 引当金の会計処理① 「債務保証損失引当金」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 〈仕訳〉(単位:百万円) 〈会計処理の解説〉 1 保証債務の履行による法律関係 会計処理の解説の前に、保証債務を履行した場合の法律関係を整理すると以下のようになります。 B社がC銀行に対して借入金300百万円を返済できなかった場合、B社はC銀行の保有する貸付債権の債務不履行となります。 この場合、C銀行は保証人であるA社に対してB社に対する貸付債権の請求をすることができます。A社がこれに応じ、B社に代わって返済した場合、A社はB社に対して、求償債権を取得することになります。 2 債務保証損失引当金の計上 保証債務が履行された場合の法律関係は上記のようになりますが、会計上は以下の要件のすべてを満たす場合には保証債務の履行を待たずに債務保証損失引当金の計上を行う必要があります。 ①の要件に「主たる債務者の財政状態の悪化等により、債務不履行となる可能性があること」とありますが、より具体的には、主たる債務者が、法的、形式的な経営破綻の状態にある場合のほか、法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど、実質的に経営破綻に陥っている場合、及び経営破綻の状況にはないが経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が高いと認められる場合が、債務保証損失引当金の計上対象となります(監査委員会報告第61号4.(1))。 事例では、B社は経営難の状態にあり、返済の目途がたっていないことから債務不履行となる可能性が高いといえます。また、B社にはめぼしい財産がなく、A社の取得するB社に対する求償債権全額について回収できない可能性が高いことから、債務保証損失引当金を計上する必要があります。 * * * 次回は、引当金の会計処理のうち、ポイント引当金について解説します。 (了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第20回】 (最終回) 「まとめ(2)」 -法人の役員の年金- 特定社会保険労務士 佐竹 康男 前回は「個人事業主の年金」について、まとめの解説を行ったが、本連載最終回となる今回は、「法人の役員」の年金に関するまとめとして、年金の受給、特に在職老齢年金の留意点について解説する。 1 法人の役員と厚生年金保険の加入義務 法人の役員は、その法人から報酬を得ているのであれば、原則として厚生年金保険の被保険者になる。非常勤役員で他の法人との役員を兼ねているとき等は被保険者にならないケース(※1)もあるが、代表取締役は、たとえ他の法人等の役員を兼ねている場合であっても、法人から報酬を得ている間は被保険者になる。 (※1) その法人での勤務日数及び勤務時間がそれぞれ一般の従業員の概ね4分の3未満の人の場合 2 老齢厚生年金の受給資格等(【第7回】参照) (1) 支給開始年齢 老齢厚生年金は65歳から支給される。老齢厚生年金は、報酬比例部分の年金額が老齢基礎年金に上乗せする形で支給されるが、一定の受給要件を満たしていれば、60歳から64歳までは「特別支給の老齢厚生年金」として、生年月日に応じて支給される。特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は、段階的に引上げが行われている(詳細は【第7回】に掲載した〈特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢引上げスケジュ-ル〉を参照されたい)。 (2) 年金額 特別支給の老齢厚生年金は、加入期間の長短により決定される定額部分と、過去の報酬の高低により決定される報酬比例部分を合計した額が、生年月日に応じて支給される。65歳から支給される老齢厚生年金は、報酬比例部分のみの年金となる。 また、生計維持関係にある65歳未満の配偶者や18歳未満の子がいるなどの一定の要件を満たした場合には、加給年金が加算される(【第10回】参照)。 3 在職老齢年金 在職老齢年金とは、老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金を含む)を受給している人が在職し、厚生年金保険に加入した場合、老齢厚生年金の額(基本月額という)と報酬(総報酬月額相当額(※2))により、受け取る年金額の全部又は一部が停止されるものをいう。 (※2) 総報酬月額相当額=該当月の標準報酬月額+(該当月以前1年間の標準賞与額÷12) ただし、在職老齢年金は総報酬月額相当額と基本月額で調整されるので、事業所得や不動産所得等、他の所得とは調整されない。また、在職している場合でも年金制度に加入していないときは、年金が調整されることはない。 (1) 60歳台前半(【第8回】参照) 特別支給の老齢厚生年金の額(基本月額)と総報酬月額相当額の合計額が28万円を超えた場合は、年金の全部又は一部が停止される。 例えば、年金月額10万円、報酬20万円(賞与なし)あれば、下表の通り、年金は1万円カットされて9万円の支給になる。 〈在職老齢年金早見表〉(一部) (2) 60歳台後半(【第9回】参照) 65歳からは老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されるが、在職中であっても老齢基礎年金は全額支給される。しかし老齢厚生年金は在職中、総報酬月額相当額と基本月額を合計した額が47万円を超えた場合に、その超えた額の2分の1に相当する額が停止される。 [老齢厚生年金] ⇒ 在職支給停止の対象になる [老齢基礎年金] ⇒ 在職中でも全額受給できる 〈計算式〉 A=総報酬月額相当額+基本月額 (3) 70歳以降(【第18回】参照) 厚生年金保険は、70歳になると被保険者資格がなくなるが、70歳以降も70歳以上被用者(※3)に該当している限り、65歳台後半の在職老齢年金と同様の仕組みにより、年金が全部又は一部停止される。 (※3) 適用事業所に使用されている、勤務日数及び勤務時間がそれぞれ一般の従業員のおおむね4分の3以上での人で、過去に厚生年金保険の被保険者期間がある人 (連載了)