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土地評価をめぐるグレーゾーン《10大論点》 【第10回】「通達に規定のない土地の減額手法の根拠」

土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第10回】 (最終回) 「通達に規定のない土地の減額手法の根拠」   税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉   1 今回のテーマ 財産評価基本通達には、不整形地や無道路地、がけ地、高圧線下地など様々な土地の評価減額要素について定められている。 しかし、当該通達に定めのあるもの以外にも評価減額要素が存在する。 本連載最終回となる今回は、その取扱いの根拠を確認しておきたい。   2 利用価値が著しく低下している宅地の評価減 利用価値が著しく低下している土地は、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額の10%を控除した価額によって評価して差し支えないとされている。 例えば、①道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比し著しく高低差のあるもの、②地盤に甚だしい凹凸のある宅地、③震動の甚だしい宅地及び④騒音、日照阻害、臭気、忌み等によりその取引金額に影響を受けると認められるものが該当する。 この根拠は、下記の国税庁タックスアンサーである。 利用価値が著しく低下していると認められる減額要因として、高低差のある土地(平成18年5月8日裁決〔裁事71・533〕、平成19年4月23日裁決〔TAINS・F0-3-146〕)、新幹線の高架線に隣接していて騒音が著しい土地(平成13年6月15日裁決〔TAINS・F0-3-212〕)や、元墓地や周囲が墓地に囲まれているような忌み地(平成18年5月8日裁決〔裁事71・533〕)、目の前に歩道橋があるような土地(平成17年8月23日裁決〔TAINS・F0-3-124〕)が挙げられる。 一方、周囲に下水処理場や家畜施設があるなど、その影響が広範囲の地域にわたり、その減額要因が路線価に既に織り込み済みである場合には、利用価値が著しく低下している10%評価減の対象とならない(大阪地裁平成4年9月22日判決〔税資192・490〕、平成2年10月19日裁決〔裁事40・217〕)。 同様に著しい騒音や高低差であっても、路線価に既に織り込み済みである場合には、利用価値が著しく低下している10%評価減の対象とならない。   3 庭内神しの敷地の非課税 庭内神しとは、一般に、屋敷内にある神の社や祠等といったご神体を祀り日常礼拝の用に供しているものをいい、ご神体とは不動尊、地蔵尊、道祖神、庚申塔、稲荷等で特定の者又は地域住民等の信仰の対象とされているものをいう。 その庭内神しの敷地や附属設備については、①「庭内神し」の設備とその敷地、附属設備との位置関係やその設備の敷地への定着性その他それらの現況等といった外形や、②その設備及びその附属設備等の建立の経緯・目的、③現在の礼拝の態様等も踏まえた上でのその設備及び附属設備等の機能の面から、その設備と社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲のものである場合には、その敷地及び附属設備は、その設備と一体の物として相続税の非課税財産として取り扱われている。 この根拠は、下記の国税庁情報による。 なお、従来より、墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるものの財産の価額は、相続税の課税価格に算入しないものとされてきたが、その敷地は非課税規定の適用対象とはならないとされていた。 東京地裁平成24年6月21日判決〔TAINS・Z888-1664〕において、庭内神しとその敷地が社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといえる程度に密接不可分の関係にある場合には非課税財産に該当すると判断されたのを受け、上記のような取扱いに改正された。   4 土壌汚染地の評価減 平成14年の不動産鑑定評価基準の改正において、不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合は、土壌汚染の状況を考慮すべきこととされた。 そこで、相続税等の評価においても土壌汚染がみられる土地については、汚染がないものとした場合の評価額から浄化・改善費用に相当する金額を控除して評価することとされている。 この根拠は、国税庁評価企画官情報「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(平成16年7月5日)である。 「浄化・改善費用」とは、土壌汚染対策として、土壌汚染の除去、遮水工封じ込め等の措置を実施するための費用をいう。汚染がないものとした場合の評価額が地価公示価格レベルの80%相当額(相続税評価額)となることから、控除すべき浄化・改善費用についても見積額の80%相当額を浄化・改善費用とするのが相当とされている。   5 埋蔵文化財のある土地の評価減 埋蔵文化財包蔵地において、宅地開発にかかる土木工事等を行う場合には、文化財保護法に基づく届出を工事施工者が行い、工事に着手する前に市区町村により発掘調査が行われる。 市区町村による調査の結果、遺跡が発見された場合、発掘調査が行われることとなり、文化財保護法93条規定の発掘調査に係る調査費用は、原則、土地の所有者負担となる。 このような埋蔵文化財包蔵地という固有の事情は、土壌汚染地の評価の考え方に類似することから、国税庁評価企画官情報「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(平成16年7月5日 )に準じて、評価額から発掘調査費用を控除する方法が認められている(平成20年9月25日裁決〔裁事76・307〕)。 ただし、埋蔵文化財包蔵地としての評価減は、実際に発掘調査費用が必要となる場合に控除できることから、その地域が周知の埋蔵文化財がある地域であっても、調査の結果、評価対象地に埋蔵文化財が存在しなければ、発掘調査費用の控除はできないこととなる。 平成20年9月25日裁決(裁事76・307)においては、埋蔵文化財包蔵地として発掘調査費用の控除を行うためには、以下の要件を満たす必要があるとされている。   6 産業廃棄物が存する土地の評価減 産業廃棄物が埋設されている土地は、地中に物が埋まっていることにより利用制限が生じることやこの利用制限をなくすには一定の除去措置が必要である点において、土壌汚染地と状況が類似していると考えられることから、土壌汚染地の評価方法に準じて評価することとされている。 この根拠は、国税庁の「資産税審理研修資料」〔TAINS・評価事例708059〕である。 ただし、評価対象地に一般廃棄物が埋め立てられているとしても、一般廃棄物が埋められていないのと同様の通常の価額を維持している場合においては、これを斟酌しないで評価するものとされている(平成19年5月23日裁決〔TAINS・F0-3-210〕、平成23年4月12裁決〔TAINS・F0-3-283〕)。   7 マンション用地の評価 分譲マンションの敷地において、そのマンションが多数の者により共有されている場合には、その敷地全体を評価した価額にその所有者の持分割合を乗じて評価することとされている(平成22年10月13日裁決〔TAINS・F0-3-252〕参照)。 ただし、そのマンション敷地のうちに公衆化されている道路、公園等の施設の用に供されている宅地が多数含まれていて、建物の専有面積に対する共有部分に応ずる敷地面積が広大となるため、通常の評価方法に従って評価することが著しく不適当であると認められる場合には、その公衆化している道路等の施設の用に供されている宅地部分の面積を除いて評価して差し支えないとされている。 この根拠は、国税庁の「資産税審理研修資料」〔TAINS・評価事例708037〕である。 マンション敷地(1万1345.91㎡)のうち、公衆化している建築基準法42条《道路の定義》1項5号に規定する道路998.41㎡及び公衆化している公園563.22㎡については評価対象地積から外すものとされた事例として平成22年10月13日裁決〔TAINS・F0-3-252〕がある。   ―連載終了に当たって― 本連載では土地評価の中から特に重要と思われる10の論点を引き出し、土地を評価するうえで、複数の評価方法が存在することを指摘し、実務において判断に迷うそのグレーゾーンを解決するための手がかりをまとめてきた。 このようなグレーゾーンは、判例・裁決の評価理論を応用することで答えが導き出せる場合がほとんどである。 例えば、市街地山林の評価における事例では、グレーゾーンがあることにより、その山林を1,000万円とも12万円とも評価することができた(第5回参照)。どちらが適正な評価額であろうか。裁決事例が示す通り、「その山林を仮に宅地として開発した場合に客観的な交換価値はいくらであろうか」という点からおのずと答えが見えてくる。 また、納税者が、私道の評価が3割なのは不合理であると単に主張しても、3割を合理的とする先例がある限りそれを覆すことは難しい(第7回参照)。したがって、当該私道が公道に準じる状況にあるため3割は不当であるとか、私道の奥行が著しく長いため評価減が必要であるといったように、何か違う理論構築をしていかなければならない。 相続税・贈与税における土地の評価は、時価を超えるのではなくまた時価未満でもなく、まさに適正な評価を行わなければならない。その適正な評価を行うために欠かせない情報が過去の判例・裁決事例である。 今回の連載を評価実務に役立てていただけたら幸いである。 (連載了)

#No. 119(掲載号)
#風岡 範哉
2015/05/14

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第26回】「裁決例⑥」

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第26回】 「裁決例⑥」   公認会計士 佐藤 信祐   今回、紹介する事件は、合併に際して被合併法人の株主に交付されたいわゆる合併交付金が、被合併法人の利益の配当であるかの判定に当たり、合併契約書等にその旨の記載がない場合には、合併交付金が支払われた経緯、支払いを受けた株主の認識等を総合的に検討して判断するのが相当であるとした事件である。 組織再編税制が導入された後、最初に税制適格要件について争われた事件であることから、知っておくべき裁決例であると考えられる。   11 平成15年12月5日裁決 (1) 事件の概要 平成13年6月1日、審査請求人(以下、「請求人」という)は、H株式会社を被合併法人とする吸収合併を行ったが、その際に、本件被合併法人の株主に対して、配当の代わり金として、合併交付金を支払った。しかしながら、合併契約書においては、「合併期日前日の最終の本件被合併法人の株主名簿に記載された株主に対して、その所有する本件被合併法人の株式1株につき2,500円の合併交付金(以下「本件合併交付金」という)を合併期日後3ヶ月以内に支払う。」と記載されているものの、その具体的内容が配当の代わり金である旨の記載がなかった。 審査請求人は、平成13年税制改正前の法人税法に基づき、配当等の所得税徴収高計算書(納付書)に、支払確定日及び支払日を平成13年6月1日、支払うべき金額を13,750,000円(うち非課税適用分625,000円)と記載して、本件合併に係る利益の配当の額とみなす金額11,000,000円(以下「別件みなし配当の金額」という)に対する源泉所得税の額及び本件最終期配当金に対する源泉所得税の額の合計額2,625,000円を、平成13年7月10日に納付した。 しかしながら、平成13年税制改正により、適格合併を行った場合にはみなし配当が発生しないことから、請求人は、平成14年3月20日に、原処分庁に対し、源泉所得税の誤納額還付請求書を提出した。さらに、配当の代わり金として交付した金銭に対する源泉所得税の額210,000円は、平成13年11月6日に納付した。 これに対し、原処分庁は、本件合併を適格合併に該当しない合併と認定し、平成14年1月28日付で、請求人に対し、みなし配当の金額を138,641,448円と算出し、本件みなし配当の金額に対する源泉徴収に係る所得税の一部について、源泉徴収を行わず、納付もしていないとして、平成13年6月分の納付すべき源泉所得税の額を24,157,897円とする納税告知処分及び不納付加算税の額を2,415,000円とする賦課決定処分を行った。 そのため、請求人は、本件合併を適格合併に該当する合併と認定し、納税告知処分等を取り消すべきであると主張した。 (2) 原処分庁の主張 配当見合いが、税法上の配当である旨の規定は何ら存在せず、歴史的に旧個別通達や税法学において、合併交付金が配当に代わる金銭である場合は、その旨を合併契約書、合併案内状等で確実に明記していた場合に、これを税法上の配当であると認めていた経緯があり、合併の実務においても、それは慣習となっている。したがって、商法の実務として存在する配当見合いの金銭が税務上の配当というためには、その旨及び金額を合併契約書、合併案内状等で明らかにし、それを確実に実施していない限り、法人税法第2条第12号の8のかっこ書に規定する利益の配当にはならない。 本件合併交付金を経済的実質の観点から、既往の配当実績と比較して合理的かつ税務上妥当なものであるか否かについて検討したところ、本件被合併法人の設立第2期の当期利益のうち配当金の支払いに向けられる比率(以下「配当性向」という)は0.8%であるにもかかわらず、最終期における本件最終期配当金の配当性向は35.7%であり、本件合併交付金を含めたところの配当性向は50.0%である。こうしたことから、本件合併交付金は、既往の配当実績と比較しても合理性を有せず、税務上も妥当な配当であるとはいえない。 (3) 請求人の主張 本件合併交付金について、合併実務の知識不足から最終期の利益の配当に相当する旨を、本件合併契約書において明示していないが、明示がある場合に限り、利益の配当として認めるとする税法上の要件はないことから、その実質で判断すべきである。 最終期は、本件合併により2ヶ月間であるが、ゴールデンウィークを含む事業期間であり、前年実績からみても相当な利益の計上が可能と予測され、これに対する株主の配当期待に応える必要から、設立第2期の配当である1株当たり2,500円、総額1,100,000円と同額を、本件合併交付金として本件合併契約書第9条に明文化したものである。 配当性向が高騰することを制限したり、配当性向によって利益の配当を制限する法文は税法及び商法に存在しないところ、商法は利益の配当について、当期利益又は当期損失を含む貸借対照表上の純資産額より所定の金額を控除をした残額を限度とする旨を定めており、わが国の企業の配当の法務と実務はこの商法の規定によっているのである。したがって、最終期の利益の配当相当額が商法の規定する配当可能限度額の範囲内で決せられている限り、配当性向の高低を問われるものではなく、本件合併交付金と本件最終期配当金を合算した配当性向をもって、経済的実質の観点から本件合併交付金を利益の配当相当額ではないと判断することは誤りである。 (4) 国税不服審判所の判断 合併交付金のうちに、被合併法人の利益の配当相当額がある場合には、合併契約書、合併承認に係る株主総会議事録、同出席案内等においてその旨を明示又は記載されるのが通常であるが、合併契約書等において明示等がない場合には、合併交付金が支払われる経緯、合併交付金を受けた株主の認識等を総合的に検討し、実質的に、合併交付金のうちに利益の配当相当額があるかどうかを判断するのが相当である。 1株当たり2,500円の本件合併交付金を、当該比率の差を調整するための交付金と考えるには、余りに少額で妥当性がなく、本件合併の比率を調整するための交付金であったとは認められない。 本件合併交付金は、その支払時に利益の配当として所得税を源泉徴収しており、また、株主に対し本件合併交付金が配当金である旨を通知していることが認められ、これらの行為は、本件合併交付金が、最終期の利益の配当相当額であることの裏付けと見ることができる。 また、原処分庁は、配当性向をもって検証すると既往の配当実績と比較して本件合併交付金は合理性を有していないので、税務上も妥当な配当であるとはいえない旨主張する。しかしながら、当該検証は一般的には妥当性を有するが、本件の場合、既往の配当実績といっても、設立第2期の配当1回のみで、設立第2期は売上高から見て実質初年度で、通常年度と異なる上、本件最終期配当金も、特別な事情が認められることから、設立第2期と最終期の配当性向をもって検証する原処分庁の主張は採用できない。 (5) 評釈 このように、本裁決においては、合併交付金が利益の配当であるか否かについては、合併契約書に記載されている文言ではなく、合併交付金の支払いの経緯、支払いを受けた株主の認識等を総合的に検討し、実質的に利益の配当相当額であるかどうかを判断するものとしたうえで、請求人の主張を認めた。 合併契約書の形式的な文言ではなく、実質的な内容を踏まえて判断したという意味で、重要な裁決例であると考えられる。しかしながら、この裁決例を見た上で、「合併契約書において合併交付金が配当金の代わりに支払うものであることを記載する必要がない」と考えた読者は少ないであろう。むしろ、「合併契約書において合併交付金が配当金の代わりに支払うものであることを記載する必要があり、かつ、実質的にも配当の代わりに支払われるものであることを明確にしておく必要がある」と考えた読者の方が多いのではなかろうか。 とりわけ、税務調査の現場においては、書面による事実関係で否認できる場合には、安易に否認をしてしまう事案も想定されるところであり、税務調査で無用の争いになるのを避けるためには、本来であれば、合併契約書に明記しておくべきであろう。 ところで、平成18年から会社法が施行され、本件のような合併交付金の支払いについては、合併等対価の柔軟化の一環として取り扱われることになったが、基本的な法人税法上の取扱いについては変わっていない。そのため、合併契約書に記載していたとしても、例年に比べて多額であることから、配当見合いの金銭とは認められないという争いが生じる可能性も考える必要がある。これに対し、配当については、同一事業年度内において何度でも行うことができるようになったことから、被合併法人において、合併の前日までに配当を行えば、合併の対価として交付された金銭ではないことから、何ら争いが生じないことになる。 私見ではあるが、例年に比べて多額のものであったとしても、配当見合いの金銭と認められると考えられるものの、このような対策を検討するというのもひとつの選択肢であると考えられる。 (了)

#No. 119(掲載号)
#佐藤 信祐
2015/05/14

こんなときどうする?復興特別所得税の実務Q&A 【第26回】「確定申告書を紛失したとき」

こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第26回】 「確定申告書を紛失したとき」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   私は、飲食店を経営する個人事業主です。平成27年3月10日に平成26年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書B(以下、確定申告書)を税務署へ提出しました。ところが、確定申告書の控が見当たりません。どうやら紛失してしまったようです。 確定申告書を紛失したときの対応についてご教示ください。 納税者及びその代理人は、一定の書類を所轄税務署の窓口に提出して閲覧申請することにより、確定申告書を閲覧することができる。なお、閲覧申請は郵送による受付は行っていないため、必ず税務署に出向かなければならない。 閲覧には、税務署の担当者が立ち会う。また、確定申告書のコピーをとったり、確定申告書をカメラやスキャナで読み取ることは原則として認められていないため、紙へ書き写すことになる。例外として、災害により申告書・帳簿が消失し、関与税理士にも保存がない場合や、閲覧申請者が高齢者や障害者で申告書を書き写すことが困難な場合には、コピーが認められることがある。   1 納税者が閲覧申請する場合に必要な書類   2 代理人が閲覧申請する場合に必要な書類 (了)

#No. 119(掲載号)
#上前 剛
2015/05/14

税務判例を読むための税法の学び方【60】 〔第7章〕判例の探し方(その7)

税務判例を読むための税法の学び方【60】 〔第7章〕判例の探し方 (その7)   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   今回は、戦前の旧憲法下の法制度の下における判例集について紹介する。 (23) 『大審院刑事判決録』『明治前期大審院刑事判決録』 大審院の裁判例であっても、民法など旧憲法下で成立した法令に関するもので、未だに判例としての拘束力をもつものもある。 ただし大審院の判例集は、明治8年から明治17年までは全判決を掲載していたが、明治18年以降は「将来模範となるものを厳選して」掲載しているため、最高裁の公式判例集同様、大審院で言渡しされた判決のすべてを探すことはできない。 『大審院刑事判決録』は、司法省の編纂により、明治8年から明治20年分の大審院による刑事事件の判例について収録され、刊行されていた。ただし明治17年12月から明治18年12月の間は刊行されていない。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「大審院刑事判決録」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在18大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院刑事判決録 またCiNiiによれば、文生書院による復刻版(『明治前期大審院刑事判決録』)が、現在40大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院刑事判決録(文生書院) また国立国会図書館ではデジタル資料化され、自宅からも閲覧できるようになっている。 大審院刑事判決録(国会図書館) 法務省図書館には、ほとんどすべて所蔵されているようである。 法務省図書館の「書名、著者名、出版者名等を入力して検索」欄に「大審院刑事判決録」と入力して検索。   (24) 『大審院民事判決録』『大審院民事商亊判決録』 『大審院民事判決録』は、司法省の編纂により、明治8年から明治17年分の大審院による民事事件の判例について収録され、刊行されていた。明治18年から明治20年の分は『大審院民事商事判決録』という名称で刊行されていた。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「大審院民事判決録」と入力して検索。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「大審院民事商亊判決録」と入力して検索。 CiNiiによれば、雑誌版として現在15大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院民事判決録(雑誌) またCiNiiによれば、図書版として現在4大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院民事判決録(図書) またCiNiiによれば、図書版の第1巻分が現在東京大学と岡山大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院民事判決録(図書・第1巻) またCiNiiによれば、報告社より刊行されたものが、現在京都大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院民事判決録(報告社) またCiNiiによれば、三和書房による復刻版(『明治前期大審院民事判決録(明治前期大審院判決録刊行会編)』)が、現在72大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院民事判決録(三和書房) また国立国会図書館ではデジタル資料化され、自宅からも閲覧できるようになっている(下記リンク参照)。 大審院民事判決録(国会図書館) 大審院民事商亊判決録(国会図書館) なお国立国会図書館では、『明治前期大審院民事判決録』については、デジタル資料化されているが、館内限定となっている。 法務省図書館には、ほとんどすべて所蔵されているようである。 法務省図書館の「書名、著者名、出版者名等を入力して検索」欄に「大審院民事判決録」として検索。 ただし次回紹介する明治後期より出される同名のものも出てくる。「明治前期大審院民事判決録」で検索すると復刻版にはなるが、この混乱は避けられる。   (25) 『大審院判決録』 明治24年から明治28年6月までは、『大審院判決録』として、大審院各部の判決から民事・刑事に区別せず裁判年月日順に収録されている。各巻に件名目録・事項索引(いろは順)・判決年月日索引がある。 なお明治21年から23年については、大審院の判決録は刊行されていない。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「大審院判決録」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在、図書版の司法省発行として3大学、大審院発行として5大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院判決録(図書・司法省) 大審院判決録(図書・大審院) またCiNiiによれば、東京法学院発行のものとして奈良県立図書情報館に所蔵がある(下記リンク参照)。 大審院判決録(図書・東京法学院) またCiNiiによれば、文生書院による復刻版が、図書版として、現在20大学、雑誌版として36大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 大審院判決録(図書・文生書院) 大審院判決録(雑誌・文生書院) 法務省図書館には、ほとんどすべて所蔵されているようである。 法務省図書館の「書名、著者名、出版者名等を入力して検索」欄に「大審院判決録」と入力して検索。 (続く)

#No. 119(掲載号)
#長島 弘
2015/05/14

〈検証〉IFRS適用レポート~IFRS導入企業65社の回答から何が読み解けるか?~ 【第1回】「IFRS適用レポートにおける4つの重要ポイント」

〈検証〉IFRS適用レポート ~IFRS導入企業65社の回答から何が読み解けるか?~ 【第1回】 「IFRS適用レポートにおける4つの重要ポイント」   デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 CFOサービスユニット シニアマネージャー 公認会計士 窪田 俊夫 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 CFOサービスユニット コンサルタント 小澤 哲也   2015年4月15日、金融庁より「IFRS適用レポート」が公表された。 本レポートは2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に基づき、IFRS任意適用企業65社(適用予定企業を含む。以下同じ)に対し、実態調査・ヒアリングを実施し、IFRSへの移行に際しての課題への対応やメリットなどをとりまとめたものである。 IFRS適用レポートにおいては、IFRS導入を検討している企業に関連して、大きく以下の4点がポイントとして挙げられている。 【IFRS適用レポートにおいて挙げられているポイント】 IFRS導入を検討している企業は、本レポートから何を読み解いて、自社にどう活かせるのだろうか。これから5回にわたり、本レポート結果のポイントを解説したうえで、IFRS導入プロジェクトを推進・完遂するための重要な論点を解説する。なお、当該記事は執筆者の私見であり、執筆者が所属する組織の公式見解ではない。   ▷IFRS適用レポートにおける4つの重要ポイント 本連載第1回目では、IFRS適用レポートにおいて挙げられている4つのポイントをそれぞれ解説する。 IFRS任意適用企業はIFRSの任意適用を決定した理由または移行前に想定した主なメリット、移行後の実際のメリットについて、以下の通り回答しており、移行前に想定していたメリットを実際に享受していると考えられる。 【IFRS移行の主なメリット】 出所:金融庁 「IFRS適用レポート」27頁、66頁より作成 「経営管理への寄与(経営管理の高度化)」を挙げている企業が多い一方で、「比較可能性の向上」や「投資家への説明の容易さ」を挙げた企業も多い。このことから、IFRS任意適用企業は事業投資領域と資金調達領域にそれぞれIFRS導入の目的を見出し、任意適用を決定したのではないかと推測できる。 出所:『新版 成功する!IFRS導入プロジェクト』(清文社)P26   ① 事業投資サイドに起因する目的 IFRSをグループ内の統一会計基準として適用することにより、国内外のグループ各社・各事業に対して統一されたルールや情報に基づく一貫したマネジメントを可能とし、グローバル企業としての経営基盤強化を図るツールとして、IFRSが活用できると考えられる。 よって、この目的は、海外拠点を含むグループ会社の会計基準をIFRSで統一し、国内外で一貫した経営管理を目指す企業に当てはまる。 すなわち、下表の通り、海外進出度合と連結子会社数はある程度比例関係にあると考えられるため、連結子会社数が多いほど、海外を含めたグループ経営管理の重要性が高く、国内外で一貫した評価尺度を用いる必要性を感じていると推測される。 【IFRS任意適用企業の連結子会社数】 出所: (割合及び推定社数)(株)東京証券取引所上場部 「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書 2015」12頁より作成 (IFRS任意適用(予定含む))IFRS導入企業(予定含む)の直近年度有価証券報告書を元に作成   ② 資金調達サイドに起因する目的 IFRSに基づく財務情報を開示することで財務情報の国際的な比較可能性を高め、投資家の利便性を向上させることで市場における適切な評価を獲得することに繋げていくことができる。つまり、外部のステークホルダーとのコミュニケーションツールとしてグローバルな共通の尺度であるIFRSを活用することに重点を置いたものといえる。 よって、この領域の目的は、海外事業を広く展開している、または外国人投資家の株主割合が高い企業に当てはまる。さらに、国際的な資本市場における資金調達手段の多様化に伴い、資金調達コストを低減することを目的として国際的な海外市場で資金調達を図る可能性がある企業にも当てはまる。 下の図表に示すように、比較的外国人株主が多い企業がIFRSの任意適用を選好している傾向が読み取れる。 【IFRS任意適用会社(予定を含む)と外国人株式所有比率】 出所:東京証券取引所コーポレート・ガバナンス情報サービスを利用し作成   移行コストについて、IFRS任意適用企業は、以下の通り回答している。全体的な傾向として、多角的に事業展開をしており、海外子会社等を多く保有する企業では総コストが多額となっていることが読み取れる。 【IFRSへの移行に直接要した総コスト別の企業数(売上規模別)】 出所:金融庁 「IFRS適用レポート」9頁より抜粋 IFRS導入によって生じる主なコスト増加要因として、例えば以下のようなものが考えられる。 【IFRS導入によって生じる主なコスト増加要因】 上記の項目のうち情報システムの改修コストは多くの企業が気にされるところである。これらの対応要否や対応方法は、各社がIFRS導入の目的・メリットとして何に重点を置くかによって影響される(詳細は本連載の【第3回】で紹介)。 また、会計処理や情報システムの検討に加えて大きな論点となるのが、決算日統一・決算早期化である。 IFRS適用後の連結経理業務の運用に向けた取組みとして、IFRS導入時に決算日統一・決算早期化を着手する意味合いは大きいといえる(詳細は本連載の【第4回】で紹介)。   IFRS移行時の課題として最も多数の企業が挙げたのが「特定の会計基準への対応」、特に判断・見積りの要素が強い項目の会計処理であった。 企業の側も自社のビジネスモデルをどう会計処理するか、原則主義のIFRSの下で、練度が欠けるとともに、IFRSを理解できる人材の確保という問題があるとする企業も相当数みられた。 【IFRS移行時の課題】 出所:金融庁 「IFRS適用レポート」54頁より作成 これらは主に、IFRS導入を目指すうえで必要不可欠となるIFRS会計方針書を策定する際の課題である(詳細は本連載の【第2回】で紹介)。 IFRS会計方針書は、各グループ会社の経理部員が採るべき会計処理を正しく判断できるものでなくてはならないため、IFRS基準書の抜き書きではなく、会社のビジネスに即した、理解しやすい言葉で、かつ十分な詳細度で記述されていることが必要である。 そのため、本レポートにおいて『会計人材の裾野の拡大が期待される』と表現されているが、より正確には、ビジネスモデルの把握能力や関係者とのコミュニケーション能力といった、従来会計人材に求められていないスキルをもつ人材が求められているといえる。   IFRS導入におけるすべての局面で、他社事例は参考になり、他社と連携することは効果的で円滑な移行プロセスにつながるという指摘があった。 したがって、今後IFRS適用を検討する場合、監査人に依存するのではなく、企業自らが外部情報(基準改定の動向や、同業他社、IFRS早期適用企業、EU企業等の事例など)を収集しつつ、プロジェクトを推進する体制を構築すべきと考えられる。 *   *   * 以上4つのポイントから、IFRS導入を検討している企業は、自社におけるIFRS導入の目的を明確にし、IFRS会計方針書の策定や情報システムの検討、決算日統一・決算早期化への対応などを、効率的に取り組んでいかなければならないことが分かる。 その際、社内だけでは、会計や情報システム等のすべてに精通した人材やプロジェクト選任で機動的に動ける人員の確保は難しい場合が多いものである。また、外部の最新情報を調査しきれない、部門間あるいは会社間の利害関係をなかなか打破できずに調整が進まないといった問題も起こり得る。 そうした場合、IFRS導入に精通した第三者を参画させることは非常に有効であり、すべてを社内人員でまかなうよりも、効率的に導入作業を進めることができる。 (了)

#No. 119(掲載号)
#窪田 俊夫、小澤 哲也
2015/05/14

〔会計不正調査報告書を読む〕【第31回】ジャパンベストレスキューシステム株式会社・「内部調査委員会調査報告書(平成27年4月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第31回】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社・ 「内部調査委員会調査報告書(平成27年4月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【ジャパンベストレスキューシステム株式会社の概要(再掲)】 ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下「JBR」という)は、1997(平成9)年創業。創業時の社名は、日本二輪車ロードサービス株式会社。その後、平成11年8月に現社名に変更。 JBRホームページには、以下のような事業目的が記載されている。 連結売上高10,405百万円、連結経常利益141百万円(数字はいずれも平成25年9月期)。従業員数196名。本店所在地、愛知県名古屋市。東証1部、名証1部上場。   【2014(平成26)年5月以降の適時開示】   【内部調査委員会の概要】   内部調査委員会による報告書のポイント 1 内部調査委員会の設置に至った経緯 調査報告書によれば、証券取引等監視委員会開示検査課による開示検査の対応の過程において、JBRの連結子会社である株式会社バイノス(以下「バイノス」と略称する)における不適正な売上計上(以下「本件不正行為」という)に関して、B氏(平成26年12月の株主総会で退任した元取締役管理部長鈴木良夫氏。以下、本稿では、「鈴木元取締役」と略称する)が関与していたことを疑わせる事実が確認され、また、JBRの監査体制及び監査対応にも問題があったことを窺わせる事実が確認されたため、本件不正行為について再度徹底的な調査を行い、事実関係を明らかにするとともに、原因たる事実に即した改善措置を立案することを目的として、JBRの社外役員3名(全員、本件不正行為が発覚した後に役員に選任された者である)から構成される内部調査委員会を設置したというものである。   2  内部調査委員会による調査の結果判明した事実 (1) D氏メモ 第1次第三者委員会によって、バイノス元代表取締役とともに「売上計画未達の発覚を回避するため、不適切な売上計上を行った」と認定された、バイノス元取締役でJBR管理部経理グループの元シニアマネージャーでバイノス元取締役のD氏は、第2次第三者委員会調査後の鈴木元取締役の「自己保身のみを図る態度」に不信感と憤りを覚え、後日、真実を話す必要が生じた際のことを考え、第1次調査報告書及び第2次調査報告書に朱書きでメモを加筆していき、「D氏メモ」を作成し、保管していた。 (2) 鈴木元取締役の供述と委員会の事実認定 鈴木元取締役は、内部調査委員会に対して、以下のように供述している。 しかし、内部調査委員会は、関係者の供述及びメール等のその他の証憑書類等から、主に以下の点を理由として、バイノスにおける本件不正行為は、鈴木元取締役の指示に基づき、D氏らが行ったものと認められる、と結論づけた。 (3) 鈴木元取締役が第三者委員会に真実を供述しなかった理由 鈴木元取締役は、第1次第三者委員会に対しては「すべてバイノス元代表取締役がやったことである」と供述し、第2次第三者委員会に対しても自身関与または認識を否認しているが、内部調査委員会はこれを「鈴木元取締役の自己保身に基づく虚偽の供述であった」と認定している。 そのうえで、鈴木元取締役は、第1次第三者委員会設置後、D氏に対して、以下のように指示して虚偽の供述をさせたとしている。 他にも、鈴木取締役は、竹内取締役にも同様の指示を行い、また、K氏(常勤監査役加藤洋一郎氏。以下、本稿では「加藤常勤監査役」という)に対しても、「監査役や内部監査室が(本件不正行為に関して)認識していたということになれば、会社ぐるみということになり、JBRは上場廃止になる」と伝えていたということである。 (4) 鈴木元取締役の不正行為による責任について 内部調査委員会は、鈴木元取締役が、D氏及びバイノス元代表取締役に実行させた本件不正行為により、JBRのバイノスに対する融資判断が歪められた結果、JBRは約17億円もの多額の融資を行い、回収不能見込み額として約11億円の損害を被ることとなったと指摘し、また、自己保身のために第三者委員会に対して真実を伝えないよう指示したことが、適正な調査を阻害し、3度の第三者委員会及び内部調査委員会を設置するに至らしめたものであり、その責任は極めて重いと判断している。 (5) メールデータ消去について 第1次第三者委員会設置後、JBR社内では、D氏が発信したメールの中に「先食い」という本件不正行為を連想させる文言が入っていることが判明し、I氏(JBR管理部人事総務グループ室長・元内部監査室長)及び加藤常勤監査役は、自らメールを消去するとともに、関係者に対してメールデータの消去を指示、実行させた。 こうした行為の動機として、「監査役及び内部監査室が本件不正行為を知っていたとなると会社ぐるみとなり、JBRが上場廃止になるおそれがある」と鈴木元取締役から示唆されたことが挙げられているが、こうしたメールデータの消去が、第三者委員会の適正な調査を阻害したものであり、とくに、常勤監査役までが加担していたことについては、自らの関与が疑われることを避けるという自己保身の意味合いがあり、さらに、「上場会社の監査役としての職責を放棄したものと言わざるを得ない」と厳しく指摘している。 なお、消去を指示された関係者の中で、唯一、JBR子会社のジャパン少額短期保険株式会社取締役O氏だけは、これを拒否したということであり、O氏がメールデータを消去しなかったことにより、事実が明らかになったと言えよう。 (6) 過去の第三者委員かの調査において鈴木元取締役の関与が判明しなかった原因 上記のとおり、過去の第三者委員会では、鈴木元取締役の緘口令によるD氏らの虚偽の回答とメールデータの消去という証拠隠滅行為によって、鈴木元取締役の関与を認定できなかったものである。しかし、第三者委員会の調査に対し、JBR代表取締役社長が指導力を発揮し、たとえば、「すべてのデータを消去することなく第三者委員会に提出すること」、「調査に対して虚偽の答弁をした役員・社員は厳罰に処すこと」、「調査に正直に応じることがJBR信頼回復のために必要である」などのメッセージを役員・社員に発することができていれば、また違った結果が出ていたのかもしれない。 JBRは当時の会計監査人であった有限責任監査法人トーマツの第1次調査報告書に対する疑義を受けて、第2次第三者委員会により、「電子メール調査の範囲を広げた上で、追加の調査を実施(平成26年6月14日付リリース)」したものであるが、メールデータが削除されていたのでは、電子メール中心の調査手法自体、有効性を欠いたものとなってしまっていたということであろう。なお、内部調査員会の調査で判明した、メールデータの消去に応じなかったO氏については、第2次調査においても、電子メール調査の範囲には入っていなかった。   3  問題点及び再発防止策に係る提言 内部調査委員会は、JBRにおける問題点及び再発防止策として、次の2点を挙げている。 そのうえで、内部調査委員会による問題点及び再発防止策は、JBRが東京証券取引所及び名古屋証券取引所に提出した改善報告書、改善状況報告書の内容と実質的に同旨であるとしている。   4  内部調査委員会による調査報告書の特徴 平成26年12月10日付のJBR「第18回定時株主総会招集後通知」第3号議案「取締役6名選任の件」には、当時、取締役管理部長の要職にあった鈴木良夫氏の指名の記載はないことから、この時点までには、鈴木元取締役が何らかの形で関与していることが判明していたのではないかと推測できるのであるが、実際のところは不明である。 JBRの昨年来の一連のリリースに目を通して感じていることであるが、不正行為の首謀者が関係者によって隠匿され、結果的に、多額の回収不能債権が発生し、3度にわたる第三者委員会の設置によって相当程度の信用が毀損されたにもかかわらず、JBR代表取締役社長榊原暢宏氏の発言が伝わってこないように思える。 確かに、強力な社外取締役・社外監査役の招聘に成功し、内部調査委員会の調査によって、子会社バイノスにおける不正な売上計上についてはようやく全容が解明したかもしれない。しかし、最初の第三者委員会設置に際して、第三者委員会に対しては真実を伝えることを率先して示し、不正行為を罰するのではなく、不正行為を隠蔽することを許さないことを強く従業員に訴えれば、ここまで泥沼化することはなかったのではないか。 内部調査委員会調査報告書は、「役職員のコンプライアンス意識の欠如」に対する再発防止策として、「不正を許さない企業風土の醸成にはtone at the top(経営者の姿勢)が何よりも重要である」としたうえで、榊原社長が「積極的に情報を発信し、コミュニケーションを図られることを望む」と締め括っているが、まったく同感である。 そして、最後に、こう結んでいるところが、いかにも社外役員からなる内部調査委員会による報告書らしいと言えるだろう。 (了)

#No. 119(掲載号)
#米澤 勝
2015/05/14

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第81回】減損会計⑤「遊休資産の取扱い」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第81回】 減損会計⑤ 「遊休資産の取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 上村 治     〈事例による解説〉 【仕訳】(単位:百万円) ① 遊休資産の減損損失 (※1) 固定資産残高300百万円>回収可能価額180百万円 ∴減損必要 減損損失120百万円=固定資産残高300百万円-回収可能価額180百万円 ② 遊休資産が複数ある場合の減損損失 (※2) 遊休資産Aと遊休資産Bはそれぞれ独立して減損の判定を行う。 [遊休資産Aについて] 固定資産残高300百万円>回収可能価額180百万円 ∴減損必要 [遊休資産Bについて] 固定資産残高200百万円<回収可能価額350百万円 ∴減損不要 遊休資産Aだけを減損処理の対象とする。 減損損失120百万円=固定資産残高300百万円-回収可能価額180百万円   〈会計処理の解説〉 1 遊休資産の取扱いについて 遊休資産とは、過去の利用実態や将来の用途の定めにかかわらず、現在、企業活動にほとんど使用されていない状態にある資産をいいます(指針72)。遊休資産のグルーピングは、将来の使用見込に応じて取扱いが異なります。 将来の使用が見込まれない遊休資産のうち、重要なものは他の資産グループとは独立した資産グループとして取り扱います(指針8)。 現在、企業活動にほとんど使用されていない状態にあっても、将来に使用を見込んでいる遊休資産については、その使用見込に沿ってグルーピングを行います。そのため、将来の使用が見込まれない遊休資産とは異なり、遊休資産を独立した資産グループとして取り扱うことはしません。 前提条件①の場合、将来の使用見込が決まっていないことから、遊休資産Aを独立した資産グループとして取り扱い、減損処理を行うことが適当です。 2 遊休資産が複数ある場合の取扱い 遊休資産が複数ある場合、「遊休資産群」として複数の遊休資産を1つのグルーピングとすることができるとすると、含み益と含み損を相殺することができることになり、適切に減損損失の金額が計算されません。そのため、遊休資産は個別にグルーピングを行い、減損処理を行う必要があります(指針72)。 具体的には、前提条件②において、遊休資産AとBを1つの資産グループとして取り扱うと、資産グループの回収可能価額の合計金額が530百万円となり、同グループの固定資産残高の合計である500百万円を上回ります。そのため減損処理は不要と判定されることになり、遊休資産Aの損失計上が回避されてしまいます。 そのため、遊休資産AとBはそれぞれ個別にグルーピングを行い減損処理の判定を行うことになります。 *   *   * 次回は、減損会計における共用資産の取扱いについて解説します。 (了)

#No. 119(掲載号)
#上村 治
2015/05/14

中小企業事業主のための年金構築のポイント 【第4回】「老齢基礎年金の額」

中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第4回】 「老齢基礎年金の額」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   1 老齢基礎年金の満額と減額 老齢基礎年金の額は、20歳から60歳までの間がすべて保険料を支払った期間(納付済期間という)があれば、満額の780,100円(平成27年度)が支給される。 つまり、加入期間のうち保険料の未納期間等があれば、年金額が減額されることになる。 (1) 保険料納付済期間 保険料納付済期間とは、国民年金の種別ごとに下記の期間をいう。 第1号被保険者・・・保険料を支払った期間 第2号被保険者・・・昭和36年以後20歳から60歳までの期間 第3号被保険者・・・届出をして第3号被保険者となっている期間 厚生年金保険に加入している第2号被保険者の場合は、未納期間が生じないため、20歳から60歳までの被保険者期間すべてが保険料納付済期間になる。 (2) 保険料免除期間 保険料免除期間の種類(全額免除期間、4分の3免除期間、半額免除期間、4分の1免除期間)により、国庫負担相当分(給付費の2分の1)が年金額に反映される。 ただし、学生及び若年者納付特例(30歳未満のフリ-タ-等を対象にしたもの)による保険料免除期間は、年金額に反映されない。   2 老齢基礎年金の年金額の計算(保険料免除期間を有する場合) 保険料免除期間を有する人は、その時期により、以下のとおり計算式が異なる。 〈平成21年3月31日までに保険料免除期間期間を有する場合の計算式〉 〈平成21年4月1日以後に保険料免除期間期間を有する場合の計算式〉   3 振替加算額 加給年金(※)の対象となっている配偶者が65歳になると、老齢基礎年金に一定額が加算される。これを「振替加算」という。 (※) 「加給年金」とは、老齢厚生年金(被保険者期間20年以上)又は障害厚生年金(障害等級1級又は2級)を受給している人に65歳未満の配偶者がいる場合に加算されるもの(平成27年度:224,500円)。 老齢基礎年金が受給できる人(大正15年4月2日~昭和41年4月1日生まれの人に限る)で、65歳に達した日において、下記の①又は②に該当する配偶者によって生計を維持していたときは、老齢基礎年金の額にその人の生年月日に応じて224,500円から15,000円が定額で加算される。 〈例〉 上記の例では、夫に生計維持関係がある65歳未満の妻がいる場合には、原則として65歳から加給年金が支給される。 この加給年金は、妻が65歳になるまでしか支給されないため、それに代わって妻には65歳以降、老齢基礎年金に振替加算額がプラスされて支給される(平成27年度に65歳になる人の場合は年額80,800円)。 ただし、妻が下記に該当する場合は振替加算が支給されない。   《おさらいQ&A》   (了)

#No. 119(掲載号)
#佐竹 康男
2015/05/14

確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望 【第2回】「今回改正が意味すること①」

確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望 【第2回】 「今回改正が意味すること①」   特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研) 理事長 秦 穣治   1 退職給付企業年金(DB)・確定拠出企業年金(DC)共通の問題 【第1回】では、今回の改正の底流に流れる背景について説明したが、一言で言えば、「公的年金が細る中、やらざるを得ない改正」だということである。日本人の定年退職後の生活(老後生活)を相応の水準とするためには、 という政策を採る他にないわけであり、このうち下の2点が今回改正のポイントとなる。 今まで企業年金は、適年、厚生年金基金、DB、DCとそれぞれ独立した法律の建付けで運営されてきた。【第1回】でも述べたが、やりたい企業が好きに制度を選択して導入すればよい、いわば、労使合意のもと「やりたいようにやってください」というものだったわけである。 このような労使合意に基づく“自由な設計”という考え方は、退職一時金制度を源泉とする日本の企業年金制度の世界において発足以来綿々と生き続けてきた。結果として、企業年金を持つ余裕があり、社員の老後まで面倒を見たい大企業が推進の中心となっていったのだが、大企業の社員は、全労働者からみればほんの一部に過ぎない。このままでは非常に拙いことになるのは目に見えている。 同様に、会社を辞めれば退職一時金という“お金”がもらえるというのは、支払う側の事業主も、受け取る側の社員も当然のこととしてきた(歴史的に日本の企業年金制度はそれ以前に一般化していた退職一時金制度をルーツにしている)。しかし、退職した際に、仮にそれが定年退職であっても、一時金で受領したお金が老後資金として有効に機能する保証はない。まして中途退職の場合、せっかく貯まっていた老後資金を使ってしまうリスクはかなり大きいと思われる。 “自由な設計”と“退職一時金受領”は、言葉を替えれば、日本の企業年金制度の根幹をなす根本思想だったのだが、厚生労働省は今までの根本思想を捨てて新しいステージに飛び込んでいったものと想像される。これが厚生労働省をして“大改革”と言わしめる所以ではないかと考えられる。 すなわち、今回の企業年金制度改正は、以下の基本的特長を有するものとなる。 ただし、この部分は既存制度の既得権を脅かすものであり、今後の議論を踏まえた上で詳細が決まることとなるが、少なくとも企業年金部会に提出された厚生労働省の資料からは、このような方向観がはっきりと見て取れる。   2 DCの資産運用に関し追加予定の諸規制 既に改正法案に盛り込み済みであるが、企業年金に関する既存概念を大きく覆す根本的な改正項目を含んでいるので、あえて、ここで取り上げる。諸規制の概略は以下の通りである。 この規制強化が意味するところは、 である。 そして、この3番目の指摘が極めて重要である。なぜならば、少なくとも今までのDCにおいては、運用された結果の妥当性に関する議論は皆無であり、むしろ、運用していくプロセスに関するものだけだったからである。 例えば、 というように、事業主や運営管理機関の責務が“情報提供・投資教育”を適切に実施しているかどうかに限定され、その結果として最終的な残高がどうであったかは不問に伏されている(結果については“自己責任原則”)。 しかし、今回法案化された内容は、正に結果が、すなわち、充分な資金が貯まる必要がある、という点が強調されている。これまでは事業主・運営管理機関は情報提供・投資教育のプロセス責任を果たして来ればよかったのだが、「これからはそうはいきませんよ」ということになったわけである。その理由としては、 ということであろう、と考える。特に、加入者の金融知識に関しては、日本だけが特殊なのではなくて、DCの最先進国である米国すら同様の問題が発生し、“行動経済学”として実を結んだことは多くの方がご存知ではないかと思われる。 いよいよ日本においても、投資教育は重要であり、継続して注力していく必要はあるが、今後は投資教育のみに依存することはできず、 時代に入った、との宣言と思われる。 この方向観に併せた前記法律案の狙いは以下の通りである。   3 DC投資教育に関する新しい整理 このように整理されてくると、DCの投資教育についても今までと同様には扱えなくなってくる可能性がある。 これまで、投資教育の目的は ことであったが、これからは、 ことになるかと考えられる。 何が違うか、と言えば、投資教育の目的が、実は投資知識そのものを学ぶことでなく、その奥にあって今まであまり問題にされて来なかった究極のゴールとしての“老後資金の安定的な増加”となるからである。 もちろん、その一つの方法として投資知識を学び自ら自律的に投資できるようになることを否定するものではない。ただ、いくら投資教育を学んだからといって、全員が投資のプロになれるわけはない以上、外の手段も用意されねばならないが、今般、その一つとして“デフォルト商品”が提案された。 今後、それ以外の方法として、個人相談・アドヴァイザリー業務などが検討されることになると思われる。 いずれにせよ、自分で勉強して自ら投資のプロになるのも良し、事業主が選定したデフォルト商品を選択した上でモニタリング及び管理していくのも良し、それも無理だと考える人はプロに相談し、その助力を得ながら老後資金管理を行っていくことになる。投資教育の軸も、投資知識そのものの習熟から、公的年金・企業年金の制度理解を含む投資を管理できる能力の習熟へシフトしていくことになると考えられる。 このシフトは、実は非常に大きな変化であることはお気付きになられたと思われるが、日本の現在存在する仕組み・システムの改変にも確実に繋がると考えられる。 (了)

#No. 119(掲載号)
#秦 穣治
2015/05/14

常識としてのビジネス法律 【第23回】「会社法《平成26年改正対応》(その4)」

常識としてのビジネス法律 【第23回】 「会社法《平成26年改正対応》(その4)」   弁護士 矢野 千秋   7 質問と説明義務 取締役、会計参与、監査役および執行役は、株主総会において議題や議案について説明する必要があるが、加えて、株主の求めた事項について説明をする義務を負う(314条)。株主の質問権の正当な行使を妨げたときは、総会決議の手続きに瑕疵があることになり、決議取消しの事由になる。 株主には決議事項のみならず報告事項についても質問権があり、取締役等にはそれらについて原則として説明義務がある。しかし、どの取締役等が説明するかは原則自由であり、説明補助者や顧問弁護士に説明させてもよい。ただし、まず議長が指名するのは取締役等であり、その指名された取締役等が説明補助者を使うことが許されるということを知っておく必要がある。あくまで会社法は取締役等の説明義務と規定しているからである。 なお、多数の質問事項の通知があったときは、項目ごとに分類整理して一括回答しても有効である。 ただし、以下のような事項については株主に質問権はなく、議長は質問を却下することができる。 ①の場合は範囲と程度を超えて答えてもかまわないが、②の場合は答えてはならない点に注意を要する。もっとも②の判断は①に比して容易である。 そのうちの一つが説明のために調査を要する場合である。これは即答できないため当然の拒絶事由であるが、ただし、総会開催より相当期間(質問内容と調査能力による)以前に質問事項の通知があった場合はこの理由では拒めない(調査をしておけという通知であるから)。しかし、他の拒否事由に該当していれば、その事由で拒否することはできる。 その他の正当の事由ある場合とは、説明により自己または会社が刑事訴追を受けるおそれがある、調査に多額の費用が必要、役職員・会社関係者の名誉・信用・プライバシーなどに関する質問などがそれである。   8 動議 動議とは、株主総会において株主から提案され、総会で討論裁決に付される提案をいう。従来も解釈上認められてきたが、修正動議の提出が明文化された(304条。株主の議案提案権である)。 なお、修正動議には限界がある。取締役は、株主総会を招集する場合には、非取締役会設置会社(298条1項、299条4項反対解釈)以外の会社では総会の招集通知には会議の目的事項を記載することが必要である。株主はこれを見て賛否、出席欠席などを決めるのであるから、招集通知から全く予見されないような修正動議の提出は、株主の予想と期待に反するから許されない。 動議には実質的動議(議題議案修正動議)と手続的動議(議事運営に関する動議)がある。そして動議が提出されたとき、その採否を議長が総会に諮らねばならないもの(必要的動議)と、議長の裁量に委ねられているもの(裁量的動議)とがある。 必要的動議には実質的動議と、手続的動議のうち法令定款により総会において決定すべき事項とされたもの(総会の延期・続行、検査役選任、会計監査人の出席要求)と議長の信任・不信任または交代の動議がある。それ以外の手続的動議は議長の裁量に委ねられる(実務的にはすべての動議を総会に諮り、欲しくない動議は否決を取ればよい)。 原則としてその動議の採否を他の議題・議案より先に議場に諮らねばならない。ただし、総会に諮って順序を決めることは可能である。通常、実質的動議が出された場合は、順序を決めて会社原案を先議にし、会社原案の可決を取って自動的に修正案を否決とする運営が多い。   9 総会決議の瑕疵 株主総会の決議に手続上または内容上の瑕疵があれば、本来はその効力が否定されるべきである。しかし決議の効力は、会社・株主・取締役等の多数の者の利害に関わることであり、これを一般原則どおりの処理に委ねると多数の者の間で混乱が生じ、また決議を信頼したものの利益が害されることにもなる。そこで商法は、会社関係の画一的処理と、法的安定性を考慮し、会社法上の訴えの制度を設けた。 決議の瑕疵の軽重に応じて、総会決議取消の訴え(831条)、総会決議無効確認の訴え(830条2項)、総会決議不存在確認の訴え(同条1項)の3種の制度がある。 ① 総会決議取消の訴え これは決議の取消しを求める形成訴訟である。その取消原因は、 イ 招集手続または決議方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なとき(831条1項1号) 具体的には招集通知漏れ、招集通知の記載の不備、招集通知期間の不足、取締役会の決議を経ない代表取締役の招集、取締役や監査役の説明義務違反、定足数の不足、非株主の決議参加、多数決の要件不足、出席困難な時刻・場所に招集した、などである。 ロ 決議内容が定款に違反するとき(2号) 具体的には定款所定の員数を超える取締役の選任、などである。 ハ 特別利害関係人が議決権を行使したため著しく不当な決議がなされたとき(3号) 具体的には事業の譲受人が株主として決議に加わったため著しく不当な条件の事業譲渡が可決されたとき、などである。 これらの瑕疵は一般に軽微なものであるから、決議を当然に無効とせず、一応有効としたうえで、取消判決の確定を待ってはじめて効力を奪うことにしている。したがって、提訴期間内に提訴がなければ、瑕疵は治癒され決議はそのまま有効に確定する。 決議取消の訴えは、株主(決議で地位を奪われた株主も含む。地位を奪われた取締役等も同じ)、取締役、清算人、監査役設置会社(概して言えば、監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定する定款の定めが置かれていない会社のことである)では監査役、指名委員会等設置会社では執行役が提訴できる。 決議取消の訴えは、決議の日より3ヶ月以内に提起することが必要である(831条1項)。多数の関係者に影響するものなので、決議の効力に関する争いを早期に決着させるためである。会社の法律関係を画一的に取り扱う必要から、判決の効力は第三者に及ぶ(838条)(対世効)。 以上のように決議取消判決は会社関係に重大な影響を及ぼす。したがって、決議が取り消されることは決して望ましいことではないし、また濫訴を防止する必要もある。 そこで取消事由が招集手続または決議の方法が法令・定款に違反するという手続的な瑕疵に過ぎないときは、裁判所は、「瑕疵が重大でなく」かつ「決議結果に影響を及ぼさない」場合には、取消しの請求を棄却することができる(2項)。これを裁判所の裁量棄却という。 ② 総会決議無効確認の訴え(830条2項) 決議の内容が法令に違反する場合は、決議の内容的瑕疵であり瑕疵が重大であるので、一般原則どおり当然に無効である。この場合に決議無効確認の訴えが認められる。これは確認訴訟である。 提訴権者、提訴期間については、決議取消の訴えと異なり、誰でも、いつでも、確認の利益がある限り無効確認の訴えを提起できる(違法なものが時間が経ったからといって適法になるわけがない)。勝訴判決の効力は、決議取消判決と同様、会社の法律関係を画一的に取り扱う必要から、判決の効力が第三者に及ぶ(838条)(対世効)。 ③ 総会決議不存在確認の訴え(830条1項) 決議の手続的瑕疵が著しく、決議が法律上存在すると認められないとき、総会決議不存在確認の訴えが認められる。これも確認訴訟である。 具体的には、議事録は作成されているが集会が全くなかった場合、招集通知を受けた株主の方が少なかったような場合、平取締役が取締役会の決議を経ずに招集したような場合などである。 提訴権者、提訴期間は、決議取消の訴えと異なり、誰でも、いつでも、確認の利益がある限り不存在確認の訴えを提起できる。不存在のものが時間が経ったからといって存在するようになるわけがないから当たり前である。 判決の効力は、決議取消判決と同様、会社の法律関係を画一的に取り扱う必要から、判決の効力は第三者に及ぶ(838条)(対世効)。   10 総会議事録 (1) 作成時期、作成通数など 作成時期について、会社法に規定はない。しかし登記期間が本店所在地で2週間以内(915条1項)なので、この期間内に作成すべきである。 作成通数についても会社法に規定はない。原本は1通と解せるが、登記の時に原本還付をせずに、保存用原本1通、登記用原本1通を作成する会社が多い。 (2) 記載事項 株主総会議事録には株主総会が開催された日時および場所、議事の経過の要領およびその結果、出席した取締役等の氏名、議長の氏名、作成した取締役の氏名などを記載しなければならない(規72条3項)。議事の経過の要領とは、開会宣言から閉会宣言までの会議の経過の要約である。 (3) 署名・押印について 会社法では議長と出席取締役の署名義務は廃止され、議事録作成取締役の記名で足りる(規72条)。 (4) 備え置き 株主総会の日から議事録を本店に10年、その写しを支店に5年備え置く(318条2項3項)。支店とは、従たる営業所であって、本店以外の場所において独自の営業活動をし、対外的にも取引ができる要員・組織を備えているものをいう。   第5 取締役・代表取締役・取締役会に関する重点ポイント 1 総説 会社法は、株式会社には、1人又は2人以上の取締役を置かなければならない(326条1項)とし、株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる(同条2項)として、取締役会を株式会社の必須の機関としていない。 ただし、公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は、取締役会を置かなければならない(327条1項)。   2 取締役 (1) 取締役の資格、員数 ① 株主限定 会社法は、公開会社については定款の定めをもってしても取締役の資格を株主に限ることはできないとしつつ(結果的に取締役に選任されたものが株主であっても問題はない。株主の中から取締役を選べと定款で定めてはいけないということである)、非公開会社については、定款をもって取締役の資格を株主に限定することを認めた(331条2項)。なお、この規定は、監査役についても準用される(335条1項)。 理由は、公開会社においては、より広く人材を世に問えとの要請が強いからであると説明されている。 ② 欠格事由(331条1項) ⅰ 法人(1号) ⅱ 成年被後見人若しくは被保佐人等(2号) 法人や、外国の法令上成年被後見人または被保佐人と同様に取り扱われている者が、取締役になることができないことを明文化した。未成年者は取締役になれる。 旧法にあった破産者については、取締役が会社の債務を個人保証し会社の経営破綻と同時に個人としても破産することが少なくない。そこで破産した者すべてについて取締役になることができないとすることは、債務者に経済的再生の機会をできるだけ早期に与えるという観点からは酷である。 そこで、会社法は、旧法が取締役の欠格事由としていた「破産手続開始の決定を受け復権していない者」を取締役の欠格事由から外した。 ⅲ 会社犯罪者(3号) 会社法等所定の罪により刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から2年を経過していない者は、いわゆる会社犯罪者であり、欠格である。これは極めて厳しい欠格事由といえる。要は、会社犯罪者は罰金刑だろうと執行を猶予されようと、欠格者にあたることになる。 また、金融商品取引法は公開会社に関する法秩序と同視されるものであり、また各種倒産法制は株式会社の清算手続と同視されるものである。そこで、これらの法律に定める罪を一般の犯罪よりも厳しく扱うこととし、金融商品取引法や各種倒産法制に定める罪を犯した者を欠格事由に加えることとした。 ⅳ 通常犯罪者(4号) 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)。これは実刑になり収監された者を意味するから当たり前の欠格事由である。 なお、取締役の欠格事由に関する上記規定は、監査役にも準用される(335条1項)。 【会社法関係の主な罰則一覧】 ③ 兼任制限 取締役(支配人、その他の使用人等を含む)は、自社の監査役や親会社の監査役を兼ねることができない(335条2項)。 自己監査となったり(監査対象である取締役と監査をする監査役とを兼ねてしまっては監査の実効性が期待できない。すなわち監査役の受任者性に反するからである。【図1】)、監査される側の影響を受ける監査となったりして(親会社監査役が、通常弱い立場の子会社取締役を兼ねてしまうと、監査対象である親会社の取締役に従属する地位に置かれることになり、監査役の独立性に反するからである。【図2】)、公正な監査が期待できないからである。 上記の場合が禁じられるだけであるから、親会社の取締役が子会社の監査役を兼務することはできる。また、もちろん親会社の取締役が子会社の取締役を兼務することもできる。 【図1】 【図2】 ④ 員数 取締役会設置会社においては、取締役は、3人以上でなければならない(331条1項)。 非取締役会設置会社においては、1人または2人以上の取締役を置かなければならない(326条1項)。定款で最低数を高め、または最高限を定めてもよい。法律、定款の最低数を下回った場合は、直ちに株主総会を招集して後任の取締役を選任する。これを補完するため、ある取締役の任期満了や辞任などによって欠員が生じた場合は、退任した取締役は後任の取締役が選任されるまで、取締役としての権利義務を負う(346条1項)。また裁判所に請求して一時取締役を選任してもらうこともできる(2項)。 また、取締役が辞任するなどして、法や定款で定められた人数を欠くこととなる場合に備えて、補欠取締役を株主総会決議であらかじめ選任しておくことができるとした。補欠取締役の選任決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがない限り、当該決議後最初に開催する定時株主総会の開始の時までである(規則96条3項)(必要なら再度その総会で補欠を選任すれば足りるからである)。また、このような補欠となるべき者の予選は、監査役または会計参与についても認められる(329条1項2項)。補欠役員の選任に定款の定めは不要である。 (2) 任期 株主構成の変化に伴い一定期間ごとに株主の意思を問い直す必要があることから、取締役の任期は選任後2年(監査等委員会設置会社の監査等委員以外の取締役及び指名委員会等設置会社の取締役の場合は1年)以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする(332条1項3項)。ただし、定款または株主総会決議により任期を短縮することもできる(332条1項但書)。 株主構成の変化が頻繁に生ずることが予定されていない非公開会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く)については、定款で、その任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時まで伸長することができる(332条2項)。これは、株主構成が変化しないのであれば頻繁に総会の意思を問い直す必要がないからである。 なお、取締役の任期に関する上記規定は、会計参与についても準用される(334条1項)。監査役は後述。 (3) 選任、解任 役員(取締役、会計参与および監査役)および会計監査人は、株主総会の普通決議によって選任する(329条1項、309条1項)。取締役の選任が株主総会の目的である場合において招集の通知を書面等で行うときは、招集者はその議案の概要を記載しなければならない(298条1項5号、299条4項、規63条7号イ)。なお、株主総会参考書類に議案の概要を記載した場合は、招集通知に記載する必要はない(301条1項、302条1項、規74条)。 役員および会計監査人は、いつでも株主総会の決議によって解任することができる(339条1項)。その解任決議は普通決議で足りる(309条1項)が、監査役、監査等委員である取締役または累積投票(342条)で選任された取締役を解任する場合は特別決議によることを要する(309条2項7号)。監査役の独立性から解任決議の決議要件を高めているものである。 役員の選任または解任を行う場合の株主総会決議の定足数は、定款で定めても、議決権を行使することができる株主の議決権総数の3分の1以上でなければならない(341条)。 なお、取締役の選任決議に加えて被選任者の承諾が必要である。選任決議は単に株主総会の意思であって、それだけで被選任者との間に「委任契約」が成立するわけではないからである。 通常、この承諾は就任承諾書によるが、株主総会の議事録に被選任者が株主総会の席上(したがって被選任者が株主総会に出席していることが必要である)で承諾した旨が明記されていれば、就任登記申請の添付書類は議事録のみで足りる。 取締役と会社との関係は委任の規定に従うから取締役はいつでも辞任することができる(民651条)が、会社のために不利な時期に辞任したときは、取締役は民法651条2項により損害賠償責任を負わされる。ただし、やむを得ない事情があったときは賠償責任を負わされない。不利な時期とは、一般的には会社が他に取締役を求めることができない時期に辞任を告知することをいう。 逆に会社は、いつでも株主総会の決議をもって取締役を解任できる。ただし、正当の事由がなく解任したときは、会社は損害賠償を要する(339条1項2項)。 正当の事由とは、具体的には、取締役に職務執行上の法令定款違反行為があった場合、心身の故障のため職務執行に支障がある場合、職務への著しい不適任等である。 損害賠償の範囲は、当該取締役が解任されなければ残任期間中と任期満了時に得られたであろう利益(所得)の喪失による損害。具体的には、役員報酬、支払いを受けた可能性の高いときは賞与や退職慰労金も認められる。  (続く)

#No. 119(掲載号)
#矢野 千秋
2015/05/14
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