《速報解説》 「金融商品会計に関する実務指針」及び 「金融商品会計に関するQ&A」が改正 ~ヘッジ会計に関する2つの論点の取扱いを明記~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月14日(ホームページ掲載日は4月16日)、日本公認会計士協会は、次の実務指針等の改正について公表した。 これにより、平成27年2月6日付で意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、企業会計基準委員会からの依頼によるものであり、ヘッジ会計の限定的見直しを行うものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 異なる商品間でのヘッジ 次の取扱いは、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)及び「金融商品会計に関する実務指針」上、明確である。 これを周知するために、「金融商品会計に関する実務指針」143項に一文を追加するとともに、結論の背景(314-2項)を記載する改正を行っている。 2 ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性 「ロールオーバーを伴う取引に関するヘッジ会計の適格性」について、「金融商品会計に関するQ&A」に規定を設けるものである。 Q59-2が新設され、例として、当初、6ヶ月後に輸入を予定しているある商品の仕入価格の変動リスクをヘッジするため、輸入の見込時期に合わせた商品スワップ契約を締結していたが、船積みの遅延から1ヶ月程度、到着が遅れることが明らかとなったため、元の商品スワップ契約を満期に決済し、改めて到着見込時期の価格変動をヘッジする新たな商品スワップ契約を締結した場合の会計処理について述べている。 このようなケースは「ロールオーバー」と呼ばれており、「金融商品会計に関する実務指針」180項に従って、当初のヘッジ手段である元の商品スワップ契約について、満期時点で商品の到着より先に決済がなされるため、ヘッジ会計の中止として会計処理することが述べられている。 Ⅲ 実施時期 本改正は現行の取扱いを明確化するためのものであるので、公表日(平成27年4月14日)から適用する(「金融商品会計に関する実務指針」195-13項)。 (了)
2015年4月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.115が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「村井 正 氏(関西大学名誉教授)」 【前編】 〔語り手〕村井 正(関西大学名誉教授) (写真/左) 〔聞き手〕川田 剛(税理士) (写真/右) (次ページへ進む) (前ページへ戻る) (後編(4/23公開)へ続く)
日本の企業税制 【第18回】 「BEPS行動8~10:移転価格ガイドラインの改定」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに BEPSの端緒となったのは、米国系多国籍企業が欧州で起こした移転価格問題であり、移転価格課税の抜本的見直しはBEPSプロジェクトの中心的な課題とされている。 具体的には、行動計画13が移転価格課税の実効性を高めるための文書化ルール(国別報告、マスターファイル、ローカルファイルの導入)であるのに対して、行動計画8~10が移転価格課税の考え方、課税方式を抜本的に改めようとするものである。 (※) 行動計画13については本連載【第16回】を参照。 【BEPSプロジェクトによるOECD移転価格ガイドラインの見直し】 本稿では、昨年12月19日にOECD租税委員会より公表された公開討議草案「BEPS行動8~10:移転価格ガイドライン第1章改定案(リスク・再構築・特別措置)」の概要と、本年3月19、20日にOECD本部で行われた公開コンサルテーションにおける経団連の主張を紹介しておきたい。 2 公開討議草案による移転価格ガイドライン第1章改定案 公開討議草案「リスク・再構築・特別措置」の第一部は、OECD移転価格ガイドライン第1章セクションD「独立企業原則の適用のための指針」の改定案である。 商業上及び資金上の事実関係に基づき、関連者間取引の経済的な特徴、各当事者のリスクを正確に特定し、価値の創造に見合った適切な移転価格を検討するための追加的な指針案が提示されている。 さらに、関連者取引が基本的な経済特性を欠いている場合には、取引を再構築又は否認すべきであるとして、そのための指針案が提示されている。 全体の流れを整理すれば、以下のようになる。 公開討議草案の第二部では、無形資産、リスク及び過剰な資本配分に関して、独立企業原則に係る特別の措置が検討されている。 多国籍企業のグローバル・サプライチェーンの複雑化、取引における無形資産の果たす役割の高まりなどを受けて、信頼できる比較対象取引を発見するのが困難になっており、比較対象取引に頼らずとも済む可能性のある利益分割法(PS法)の適用の可能性について、具体的な9事例を含めて、ガイダンスの改定が提案されている。 3 公開コンサルテーション 公開討議草案に対し、経団連では本年2月6日に、OECD租税委員会に対してコメントを提出したが、さらに3月19、20日の両日OECD本部で開催された公開コンサルテーションに参加し、BIAC(Business and Industry Advisory Committee to the OECD、経済産業諮問委員会)及び各国経済界参加者と共に以下のような主張を行った。 (1) 商業上・資金上の関係の特定 これらの主張に対して、OECD側よりは以下のような回答があった。 (2) 利益分割法 これらの主張に対して、OECD側よりは、最適手法アプローチは維持されており、今回は利益分割法に関し何も提案していないとの回答があったほか、各国政府参加者からも賛否両論の発言があった。 4 今後の展開 OECD租税委員会では、公開コンサルテーションでの意見を踏まえ、3月末にはOECD租税委員会において移転価格課税を審議する第6作業部会を開催し、政府間でさらに議論を重ねている。 リスク・再構築・特別措置、利益分割等については、近いうちに改訂版の公開討議草案が公表される見込みであり、「費用分担取り決め」、「無形資産」についても4月内には公開討議草案が公表される予定である。 その後、さらに公開コンサルテーションが開催され、6月のOECD租税委員会において勧告内容を決定の上、9月までにOECD移転価格ガイドラインの改定がなされる予定である。 現行の移転価格課税の仕組みを根底から改める方向で作業が進められており、経団連としてもBIACと連携しつつ対応を進めていくとともに、OECD移転価格ガイドラインの改定が国内法に与える影響についても関係当局と共に検討を行っている。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第8回】 「市街化調整区域内の雑種地」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 1 比準地目の判定はどのように行うのか [1] 国税庁質疑応答事例 比準地目の判定は、まず評価する雑種地と状況が類似する土地の地目の判定を行う。宅地に比準した評価を行うか、農地、山林、原野に比準した評価を行うかである。 次に、宅地に比準した評価を行う場合、評価対象地の周囲の状況に応じて、法的規制等(開発行為の可否、建築制限、位置等)に係るしんしゃく(減価)を行う。 この場合、市街化の影響度と雑種地の利用状況によって個別に判定することとなるが、下表のしんしゃく割合によっても差し支えないこととされている。 (注) 1 農地等の価額を基として評価する場合で、評価対象地が資材置場、駐車場等として利用されているときは、その土地の価額は、原則として、財産評価基本通達24-5(農業用施設用地の評価)に準じて農地等の価額に造成費相当額を加算した価額により評価する(ただし、その価額は宅地の価額を基として評価した価額を上回らないことに留意する)。 2 ③の地域は、線引き後に沿道サービス施設が建設される可能性のある土地(都市計画法第34条第9号、第43条第2項)や、線引き後に日常生活に必要な物品の小売業等の店舗として開発又は建築される可能性のある土地(都市計画法第34条第1号、第43条第2項)の存する地域をいう。 [2] 農地(山林、原野)に比準する方式 評価する雑種地の周囲が純農地、純山林、純原野である場合には、宅地化の期待益を含まない土地であるため、その雑種地を評価するに当たっては、以下の算式により、付近の純農地、純山林又は純原野の価額を基として評価するのが相当と考えられる(判定表①の地域)。 [3] 宅地に比準する方式 評価する雑種地が幹線道路沿いや市街化区域との境界付近に所在する場合には、その付近に宅地が存在していることも多く、用途制限等があるにしても宅地化の可能性があることから、その雑種地を評価するに当たっては、以下の算式により、付近の宅地の価額を基として評価するのが相当と考えられている(上記判定表③の地域)。 市街化区域との境に所在し、周囲に住宅が連たんしている地域で、道路や下水道が整備され、建物の建築も許可が下りれば可能というような状況は、市街化への影響が強いと解されている(平成12年12月21日裁決〔裁事60・522〕)。 2 宅地比準方式におけるしんしゃく割合の判定 市街化調整区域内の雑種地を付近の宅地の価額を基として評価する場合の「しんしゃく割合」については、次のとおりとするのが相当である。 [1] しんしゃく割合50%のケース 一般的な市街化調整区域内の雑種地が存する地域においては、原則として、建物の建築が禁止されている区域であることなどを考慮すると、上記の家屋の建築が全くできない場合の減価率50%を「しんしゃく割合」とするのが相当と考えられている。 [2] しんしゃく割合30%のケース ただし、幹線道路沿いや市街化区域との境界付近のように、市街化の影響度が強く、有効利用度が高い雑種地の占める割合が高い地域(市街化調整区域内ではあるが、法的規制が比較的緩やかであり、店舗等の建築であれば可能なケースも多い地域)においては、家屋の構造、用途等に制限を受ける場合の減価率30%を「しんしゃく割合」とするのが相当と考えられている。 ここでいう「店舗」とは、沿道サービス施設(都市計画法第34条第9号)や、日常生活に必要な物品の小売業等の店舗(都市計画法第34条第1号)のことをいう。 [3] しんしゃく割合0%のケース 上記判定表②の地域のうち、例えば、周囲に郊外型店舗等が建ち並び、雑種地であっても宅地価格と同等の取引が行われている実態があると認められる場合には、しんしゃく割合0%とするのが相当と考えられている。 3 争訟事例 宅地比準方式におけるしんしゃく割合が争われた事例として、平成18年6月27日裁決〔TAINS・F0-3-370〕がある。 そこでは、評価対象地の存する地域においては、①市街化調整区域内の土地であっても、都市計画法34条各号の規定及び都市計画法関連運用基準に該当すれば開発を許可することとなっていること、②個人の住宅の場合は農家の分家住宅や一定規模以上の開発行為など、また、店舗を建築する場合は業種や敷地面積等が決められているなど規制はあるが建物が全く建築できないことはないことから、本件土地については建物の用途等に制限は加えられるものの、建物の建築が全くできないとは言えないことから、しんしゃく割合については30%が相当であるとされている。 一方、平成12年12月21日裁決〔裁事60・522〕及び平成16年3月31日裁決〔裁事67・491〕においては、(いずれも上記国税庁質疑応答事例が公表される以前の事例ではあるが)市街化調整区域の雑種地において、宅地比準方式に基づき、しんしゃく割合50%の評価減が行われている。 納税者は、本件雑種地は山林に比準すべきであると主張し、課税庁は、宅地に比準して評価し、建物建築の制限(しんしゃく割合50%)を控除して評価すべきと主張した。 裁決は、市街化調整区域内であっても一切の建物の建築が禁止されているとまではいえないことから宅地比準方式を採れないとする理由はなく、また、課税庁が50%相当額を控除したのは、その状況が宅地に類似しているとはいえ、実際には都市計画法に基づく利用制限があることを考慮したためであり相当であると判断している。 (了)
贈与実務の頻出論点 【第7回】 「連年贈与の危険性」 税理士法人チェスター 解 説 [1] 連年贈与と一般的な贈与の違い 連年贈与とは、『一定期間、一定額を贈与する』という約束に基づき行われる贈与のことです。 「毎年贈与契約書をつくるのは面倒だし、忘れてしまうかもしれないから、年100万円ずつ10年に渡って贈与します、という契約書をつくってしまった」 「高齢で、いつ判断能力が衰えてしまうかわからないので、10年分贈与する約束をしてしまいたい」 こういったケースは、各年110万円の基礎控除内であるから贈与税の申告は必要ない、という考えがあてはまらなくなります。つまり、「連年贈与」とされるため、贈与した年に毎年100万円を10年間にわたって受け取る権利に対して、贈与税が課税されます。 一方、「平成27年〇月〇日に110万円以下の財産を贈与する」「平成28年〇月〇日に110万円以下の財産を贈与する」といった各年別々の贈与契約が行われる場合は、連年贈与ではありません。 なお、受贈者が保険契約を締結して、その保険料の原資を毎年贈与により受け取る場合、連年贈与のようにみえてしまいます。このような場合であっても、各年個別に贈与契約を行っている贈与であれば、財産を毎年同じ目的で使用していたとしても、連年贈与とはなりません。連年贈与は贈与の契約形態であり、贈与した資金をどのように使用したかは、問題になりません。 [2] 連年贈与とされた場合 連年贈与とされた場合、贈与税は次のとおりとなります。 毎年100万円を10年間にわたって贈与をする、と約束していて、連年贈与とされてしまった場合には、165万円の贈与税が課税されてしまいます(予定利率を0.75%、親から20歳以上の子へ贈与があったものとしています)。 課税価格: 1,000,000円×9.6(10年間の複利年金現価率)=9,600,000円 贈与税額: (9,600,000円-1,100,000円)×30%-900,000円=1,650,000円 [3] 連年贈与とされないために 連年贈与とされないためには、贈与のつど契約書を作成して、各年の贈与の実態を残しておくことが一番です。契約書をつくらず預金移動のみで生前贈与を行う場合には、毎年日付や贈与額を変えおいたほうが、後で問題にならないでしょう。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第24回】 「所得税及び復興特別所得税の更正の請求」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、飲食店を経営する個人事業主です。平成27年3月10日に確定申告書を税務署へ提出しましたが、住宅ローン控除100,000円の適用を失念しました。 そこで、「平成26年分所得税及び復興特別所得税の更正の請求書」を税務署へ提出したいのですが、作成手順がよくわかりません。 所得税及び復興特別所得税の更正の請求についてご教示ください。 復興特別所得税は、所得税と併せて更正の請求をする。更正の請求書の作成手順は、以下の通りである(図表1参照)。 図表1 更正の請求書の一部 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第24回】 「裁決例④」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、請求人が事業を承継した欠損会社から有償取得した営業権を原処分庁が寄附金として認定したのに対し、営業又は開発費的な繰延資産に当たるとして、原処分を取り消した事件である。 このような争いについては、実務でも生じ得る事例であり、昭和46年8月13日裁決とかなり古い事件ではあるものの、実務において参考になり得る事件であると考えられる。 9 昭和46年8月13日裁決 (1) 事件の概要 審査請求人(以下、「請求人」という)は、資本金500,000円の同族会社であり、昭和43年3月の設立時に、A交易株式会社(以下、「旧会社」という)の事業を承継し、雑貨類の貿易を事業の目的としている青色申告法人であるが、当期において営業権償却費5,000,000円を計上し、さらに551,996円を繰越欠損金として所得の金額の計算上損金の額に算入し、その所得金額を0円として申告したところ、原処分庁から、同償却費に相当する金額を旧会社に対する寄附金と認定されたため、この処分の取消しを求めた事件である。 本事件においては、営業権として計上した5,000,000円について、その実態が存在したか否かという点が争点となっており、国税不服審判所の判断としては、営業権または開発費的な繰延資産にあたると認め、原処分を相当でないと判断した。 (2) 原処分庁の主張 旧会社は、欠損会社であって超過収益力を有せず、またB商品について旧会社にその独占販売権ないし実用新案権を有した事実がない。 したがって、旧会社から財産引継ぎに際し、負債超過額5,758,412円を請求人が仮払金勘定に経理し、うち5,000,000円を営業権に振替え、これを償却しても、その振替金額は営業権にあたらないから、請求人は仮払金を償却したことになり失当である。 (3) 請求人の主張 請求人は旧会社からB商品の販売による経済的利益を営業権として有償取得し、これを当期において償却したのであるから、原処分庁の認定は失当である。 (4) 国税不服審判所の判断 B商品は、原処分庁主張のように独占販売権および実用新案権はないが、同商品に対する需要は恒久的に持続するものではなく、一時期に集中的に増進し、のち急激に減退ついで消滅していく類のものであり、同商品は所謂「際物」と称するものにあたり、いち早く販路を開拓して販売したものが、良く収益をあげ得、時期を失しては全く収益を期待できないものと認められる。 したがって、請求人が前記のようにB商品の販売により収益をあげ得たのは旧会社が相当な資金を投下して開拓した販路を請求人が引き継いだためと認められ、請求人が営業権として計上した5,000,000円は、旧会社がB商品の販路開拓のため相当な資金を投下したことによって生じた同商品の販売による収益力の購入対価または開発費の引継対価であり、これは営業権または開発費的な繰延資産にあたると認めるのが相当であり、請求人が当期においてこれを償却したことは相当と認められる。 (5) 評釈 本事件においては、かなり古い事件ではあるものの、実際に支払った5,000,000円の実態が問題となった事件である。 現在の解釈としては、第3者に支払ったものであれば、対価性があるものと推定され、反証がない限り、寄附金として取り扱われることはほとんどない。 これに対し、グループ内取引であれば、時価の相当性が議論となるため、本件のような事件においては、時価が立証できない限り、寄附金として取り扱われる可能性は高いものと考えられる。とりわけ本事件においては、旧会社において繰越欠損金が13,687,135円に達していた事実があることから、そのようなものに対し、5,000,000円を支払うということは通常で考えにくいのかもしれない。これに対し、IT企業にありがちであるが、事業開始当初においては相当の赤字を覚悟しなければならず、軌道に乗ってからそれを回収するということは少なからず存在するところであり、本事件のような事実関係があれば、時価の相当性を認めるということも考えられる。しかしながら、本事件のような大雑把な金額の算定というのは容認されないであろう。 本事件に対する裁決書においては、請求人と旧会社との間に利害関係が存在していたのかは明らかにされていない。そのような事実関係が存在するのであれば、裁決書に記載されるはずであるから、おそらくはそのような利害関係は存在していなかったのであろうと推定される。 そうであるならば、本来であれば、第3者取引であるとして、時価が相当であると推定されることから、国税不服審判所の判断については、いくらかの対価を支払うことについては相当であるという判断程度しか示されておらず、金額の相当性までは触れられていないが、原処分庁が反証を示せない段階においては、その判断は相当であるとも考えられる。しかしながら、実務上、経営者の勘に近い形で取引価額を決定している事案も少なからず散見され、多くの場合において、一定の合理性が認められるものの、後日、税務調査において説明に苦慮するような事案も想定され、さらに、本事件とは異なり、結果的にその勘が間違っていたということもあり得ることから、損金性が否定されないように、事業を承継する段階で、十分な説明資料を整備しておく必要はあると考えられる。 なお、会計監査の対象となっている企業であれば、のれんの即時減損という議論にもなってくるが、もし、即時減損の対象となるような事実関係があれば、税務調査においても、何らかの反証が必要になってくるものと考えられる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【58】 〔第7章〕判例の探し方 (その5) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 今回は、ある特定の分野(事件)の裁判例だけをまとめた裁判集について紹介する。 (16) 『家庭裁判月報』 家事事件・少年事件に関する裁判(審判)のほか、評釈(論説・研究)等も掲載されている。最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所の裁判のうち、最高裁判所事務総局家庭局が、参考となると思われるものを選択して掲載している。 これも編集元である最高裁判所事務総局による発行のものの他、法曹会の発行によるものがある。昭和24年から26年までは、正式には巻数は付されていず(また1号のみ名称も『家庭裁判所月報』である)、昭和27年より正式に第4巻と巻数が付された。現在も継続して発行されている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「家庭裁判月報」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在238大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 家庭裁判月報 (17) 『労働関係事件判決集』『労働関係民事行政裁判資料』『労働関係民事裁判例集』 労働関係事件に係る、公的裁判例集の最も代表的なものである。 この中で最も古いのは、昭和23年分を収録している最高裁判所事務局刑事部第一課により編纂された『労働関係事件判決集』である。ただしこれは裁判所図書館にも所蔵されていない。 しかしCiNiiによれば、現在13大学の図書館に所蔵されている(三芳書房発行)(下記リンク参照)。 勞働關係事件判決集 国会図書館でもこれはデジタル化資料となっている。 労働関係事件判決集(国立国会図書館) 昭和24年分から25年分までは、最高裁判所事務総局により編纂された『労働関係民事裁判例集』という名称で出されている(ただし、第1号のみ「労働関係裁判資料民事 行政編」という名称で出されている)。最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所から送付された労働関係の民事・行政事件の重要裁判例(判決・決定)を項目別に掲載している。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「労働関係裁判資料民事行政編」と入力して検索。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「労働関係民事行政裁判資料」と入力して検索。 なお、裁判所図書館の蔵書検索結果を見ると、9号以降も『労働関係裁判資料民事行政編』という名称のものがある。しかし内容としては、8号までには「裁判例」があるのが、9号以降には「裁判例」はなく、「労働関係民事事件担当裁判官会同概要」等があるのみである。 すなわち、判例集としては、昭和25年の第8号までであり、昭和25年以降は『労働関係民事裁判例集』 に引き継がれている。 CiNiiによれば、全号そろっているところはないが、現在17大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 労働関係民事行政裁判資料 昭和25年分からは、上記したように同じく最高裁判所事務総局により編纂された『労働関係民事裁判例集』に引き継がれている。ただし、巻号数は引き継がれず、昭和25年が第1巻1号となっている。同じく最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所から送付された労働関係の民事・行政事件の重要裁判例(判決・決定)を項目別に掲載している。平成9年分の48巻5・6号が最後であり、現在は裁判所ウェブサイト内の「裁判例情報」にある「労働事件裁判例集」がその役割を担っている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「労働関係民事裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、全号そろっているところはないが、現在37大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 労働関係民事裁判例集 (18) 『労働関係民事事件裁判集』 その他、労働関係の公的裁判例集として、 最高裁判所事務総局行政局により編纂され、法曹会より出版されていた『労働関係民事事件裁判集』がある。 昭和24年~25年分の1号~7号しかなく、その役割は『労働関係民事裁判例集』に吸収され、引き継がれている。ただしこれは裁判所図書館にも所蔵されていない。 しかしCiNiiによれば、現在25大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 勞働關係民事事件裁判集 国会図書館でもこれはデジタル化資料となっている。 労働関係民事事件裁判集(国立国会図書館) 労働法関係判例は、租税法上にも重要な関係をもつものがある。例えば、所得区分を巡る給与所得か否かを争う事案があるが、その際にも労働法上の給与所得か否かの判断基準も参考にされている。 (19) 『無体財産権関係民事・行政裁判例集』『知的財産権関係民事・行政裁判例集』 無体財産権、知的財産権としては、人間の知的創作活動による創作物に対する権利である特許権、著作権等、営業に関する識別標識に対する権利である商標権等がある。 『無体財産権関係民事・行政裁判例集』は、最高裁判所事務総局が、知的財産権関係の高等裁判所と地方裁判所における民事・行政の裁判(判決・決定)の中から、参考になると思われるものを選択して掲載したものである。昭和44年の第1巻より平成2年の22巻まで年4回刊行されていた(1年分を1巻とし、各年分は1号~4号となる)。 なお国会図書館においては、資料名を『無体財産関係民事・行政裁判例集』としている。 無体財産関係民事・行政裁判例集(国立国会図書館) 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「無体財産権関係民事・行政裁判例集」と入力して検索。 CiNiiによれば、現在47大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 無体財産権関係民事・行政裁判例集 また法曹会より出版された市販本版(雑誌)が現在35大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 無体財産権関係民事・行政裁判例集(法曹界:雑誌) また同じく法曹会より出版された市販本版(図書)が現在15大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 無体財産権関係民事・行政裁判例集(法曹界:図書) なお、CiNiiの表示の中で、 は「図書」を、 は「雑誌」を表す。 そしてこれは、平成3年より『知的財産権関係民事・行政裁判例集』と改題される。巻号数も引き継がれ、『知的財産権関係民事・行政裁判例集』は23巻1号より始まり、平成10年の30巻4号まで出されていた。 現在は裁判所ウェブサイト内の「裁判例情報」にある「知的財産裁判例集」がその役割を担っている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「知的財産権関係民事・行政裁判例集」と入力して検索。 ただし裁判所図書館には23巻~26巻の所蔵はない(もっとも各事件判決の全文が上記ウェブサイト内の「知的財産裁判例集」にて公開されている)。 CiNiiによれば、雑誌として現在34大学、図書として5大学の図書館に所蔵されている。(下記リンク参照)。 知的財産権関係民事・行政裁判例集(雑誌) 知的財産権関係民事・行政裁判例集(図書) また法曹会より出版された市販本版(雑誌)が現在51大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 知的財産権関係民事・行政裁判例集(法曹会:雑誌) また同じく法曹会より出版された市販本版(図書)が現在15大学の図書館に所蔵されている。 知的財産権関係民事・行政裁判例集(法曹会:図書) (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第29回】 株式会社アイセイ薬局 「第三者委員会調査報告書(平成27年1月30日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 株式会社アイセイ薬局の概要 株式会社アイセイ薬局(以下「アイセイ薬局」と略称する)は、1984(昭和59)年9月創業。調剤薬局をチェーン展開する。2011(平成23)年12月JASDAQ株式上場。連結売上高48,788百万円、連結経常利益752百万円(数字はいずれも平成26年3月期)。従業員数1,727名。本店所在地、東京都千代田区。東京証券取引所JASDAQ上場。 調査報告書のポイント 1 調査に至った経緯――証券取引等監視委員会による開示検査 調査報告書冒頭に掲げられた「当委員会設置の経緯」によれば、アイセイ薬局は、証券取引等監視委員会開示検査課による金融商品取引法第26条に基づく開示検査を受け、過去の一部の工事請負契約、土地賃貸借契約及び不動産売買契約等に基づく取引(以下「本件疑義取引」という)につき、会計処理の適正性に関し疑義を呈された。 これを受けて、アイセイ薬局は、本件疑義取引に係る事実解明及び会計処理の適正性に係る事実解明を目的として、平成26年11月28日に取締役会を開催し、アイセイ薬局と利害関係を有しない中立・公正な外部の専門家から構成される第三者委員会を設置することを決議した。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 本件疑義取引の概要 第三者委員会が調査した本件疑義取引は大きく4つに区分されるが、取引概要を簡単に図示すると、以下のとおりである。 簡単にいえば、アイセイ薬局の資金が還流するだけの架空取引が繰り返し行われていた。 (2) 本件疑義取引が開始された経緯 アイセイ薬局代表取締役社長岡村幸彦氏(以下「岡村社長」という)の資産管理会社である株式会社おかむら(当時の社名は株式会社L&T)は、平成18年3月29日に、城北信用金庫から手形貸付により300百万円の融資を受けた。この融資は、アイセイ薬局の前身であった株式会社エルストファーマの貸借対照表に計上されていた土地約190百万円が実際には同社が所有していないものであったことから、近い将来の上場を計画していた岡本社長は、これを個人で買い取ることとして、その資金として借り入れたものであった。 その後、当該借入金は弁済期を延長して借換えを行ってきたが、平成21年3月、アイセイ薬局が外部会社へ建築代金及び賃貸借保証金を315百万円支払い、これを株式会社おかむらに還流させて、城北信用金庫へ一括弁済したものである。 その1年後、当該支払の基となった契約は合意解約され、工事代金及び賃貸保証金は平成22年5月末までに返還するものとされていたが、実際には、アイセイ薬局が別の店舗に係る保証金として支払った360百万円を原資として、資金が還流されて、未収入金が回収されたこととして処理がされている。 (3) 過年度決算に与えた影響額 本件疑義取引に関して、アイセイ薬局から支出された資金は、最終的には、岡村社長が個人的に金融機関等の第三者から資金を調達して、アイセイ薬局に返済しているため、貸借対照表の表記については修正する必要があるものの、損益的な影響はないことが判明している。 この点に関して、第三者委員会は次のようにコメントしている。とくに、後段部分の指摘は、次項でも触れるが、かなり厳しいものであると言えよう。 3 調査報告書の特徴 (1) 岡村社長の辞任 創業社長でワンマン経営者である岡村社長抜きには、アイセイ薬局のここまでの発展はなかったのは間違いないところであるが、取締役会及び監査役らが岡村社長の行動を制御できない以上、アイセイ薬局が上場会社としての適正性を有するためには、岡村社長が経営から退くという選択肢しかない――報告書にそこまでの記述はないが、先に引用したように、岡村社長による返済原資を「役員報酬の名目でアイセイ薬局が負担している」とまで書かれている以上、岡村社長は代表取締役を辞任し(2月12日付)、さらに取締役をも辞任するに至った(2月20日付)のは、当然の帰結であったと言えよう。 (2) 平成24年9月における税務調査 アイセイ薬局は、平成24年9月に麹町税務署による調査を受け、今回発覚した本件疑義取引4件のうち3件(1件はまだ取引開始前であった)について、各案件名義で支出した資金を、アイセイ薬局から取引先に対する貸付金と認定され、その他指摘事項も含めて修正申告を行っている。 その後、同年12月14日の取締役会において、顧問弁護士及び監査役からの意見に基づき、管理本部が社内調査を実施、同月26日の取締役会において報告を行った。調査により、各案件名目で支出した資金が、各取引先から岡村社長に流れていた事実が判明したにもかかわらず、取締役会、監査役らは、社内調査の結果を受け入れただけで、それ以上の原因解明や責任追及を行わなかった。 (3) 問題点と再発防止策 第三者委員会が指摘した問題点は以下の3点である。 3つに分けてはいるものの、問題の根幹は、岡村社長の経営姿勢にあり、岡村社長に対して意見具申ができない取締役会、監査役の姿勢が強く問われている。そして、再発防止策として繰り返されているのが、岡村社長の個人的な事業とアイセイ薬局との隔絶であり、岡村社長グループとアイセイ薬局との取引の解消である。 4 経営改善委員会による再発防止策策定 2月7日、アイセイ薬局は、第三者委員会による調査報告書受領後の2月6日における取締役会で、経営改善委員会を設置する決議を行ったことを公表した。その後、経営改善委員会は、再発防止策について、2月16日に中間報告を、3月6日に最終報告を公表している。 本項目では、経営改善委員会による再発防止策を検討したい。 (1) 経営改善委員会の目的 2月7日付リリースには、目的として以下のような記載がある。 (2) 経営改善委員会のメンバー 経営改善員会の構成は、以下のとおりである。なお、浅井氏及び澤井氏は、2月12日において追加選任された委員であり、その必要性について同日公表されたリリースでは、「経営改善委員会の構成に公平性を期す観点から判断」したと説明したうえで、委員の過半数を社外役員及び外部の有識者とした、ということである。 (3) 経営改善員会による不適切な会計処理の原因 第三者委員会報告書により指摘された問題点の原因として、経営改善委員会は次の5点を挙げている。第三者委員会報告書で言及がなかった「内部監査機能」についても、「平時の薬局運営に対する監査に主眼を置くもの」であったとしている点など、経営改善委員会による更なる調査・検討の跡がうかがえるところである。 (4) 再発防止策(最終報告)の内容 経営改善委員会は、再発防止策の提言として、以下の6項目を挙げている。 真っ先に取り上げられているのは「代表取締役に対するガバナンス(内部統制)の強化策」である。 (5) 再発防止策の検証 上場してもなお「岡村商店」的な体質を脱することができず、その結果、岡村社長の主導する不適切な会計処理が発覚していながら、それを追及する取締役・監査役が不存在であったことが、本件疑義取引の原因であったとすれば、岡村社長が代表取締役及び取締役を辞任し、岡村グループとの関係を隔絶すれば、ほぼ原因は撲滅できたことになろう。しかし、それだけでは、これまで岡村社長が果たしてきた「事業拡大」を誰がどのように担うのかという問題が生じてしまう。 そこで、経営改善委員会は、取締役会・監査役会の構成員の見直し(Ⅰ)、経営判断プロセスにおけるルール遵守(Ⅱ)などといった施策によって、具体化を図ったものと評価できるのではないか。 経営改善委員会の再発防止策がどこまで実効性を上げることができるかは、次回の定時株主総会における取締役・監査役の選任状況、経営を退いたとはいえ大株主であることには変わりはない岡村社長の影響力がどう排除されているかなどの検証が不可欠であろう。 5 その後公表されたリリース (1) 公認会計士等の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ 経営改善委員会による最終報告が公表される直前である平成27年3月3日には、公認会計士等の異動がリリースされた。アイセイ薬局は、それまで会計監査を担当してきた新日本有限責任監査法人との契約を合意解除し、新たに清新監査法人を一時会計監査人に選任した。 リリースに合意解除の理由についての言及はなく、退任する公認会計士等の意見についても「特段の意見はない」とのことである。 (2) 特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求についてのお知らせ 次いで、3月31日には、東京証券取引所から、アイセイ薬局が4月1日から原則として1年間、特設注意市場銘柄に指定されること、上場契約違約金10百万円の支払いを求められたことをリリースした。 特設注意銘柄指定の理由については、概ね、第三者委員会調査報告書記載のとおりであるため割愛するが、上場契約違約金の徴求理由について、引用したい。 (了)