最新!《助成金》情報 【第7回】 「雇用関連助成金の活用(その7) 《労働者の職業生活と家庭生活を両立させる制度導入に関する助成金》」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 《両立支援等助成金》 この助成金の目的は、労働者の職業生活と家庭生活の両立制度導入や女性の活躍推進に取り組む事業主を助成することで、雇用継続や女性の活躍促進を図ることであり、次の4種類がある。 (1) 目的 この助成金は、事業者内保育施設を設置運営する事業主等に費用の一部を助成することで保育施設の設置を促進させ、職業と家庭の両立を図り雇用継続を実現させることを目的とする。 (2) 事業所内保育施設の要件 この助成金の支給対象となる「事業所内保育施設」の主な要件は次のものとなる。 (3) 支給額 (4) 手続の流れ (5) 活用のポイント この助成金は、子を養育する社員を継続して一定人数雇用する業種や職種の事業所では、仕事と育児の両立による雇用継続だけでなく、新規採用時の労働条件上も特に有効と思われる。また、複数の事業主が共同して保育施設を設置運営する共同事業主や事業主団体も対象となるため、同様の状況にある複数の事業主や事業主団体は検討してみる価値は高いと思われる。 (1) 目的 この助成金は、就業規則で子育て期の労働者の短時間勤務制度を規定し労働者に利用させた事業主を助成することで、育児短時間勤務制度を普及させることを目的とする。対象となる労働者とは、利用開始時に小学校3年生修了までの子を養育する労働者をいう。 (2) 対象措置 この助成金の対象となる子育て期短時間勤務制度の要件は次のものである。 (3) 支給額 (※)5年間、1事業主当たり延べ10人(中小企業は5人)を上限とする。 (4) 手続の流れ (5) 活用のポイント 子育て期の労働者の希望が多い短時間勤務制度を導入すれば、現在及び将来の子育て期の社員の雇用継続に有効となるだけでなく、将来働きながら子育てを希望する求職者にとり魅力的な労働条件となり人材採用にも効果があるため、雇用継続や人材採用のため短時間勤務制度の導入を検討する事業主にとっては特に有効と思われる。ただし、業務の適正な運営には業務処理の協力体制構築や代替人員確保がポイントなる。 [Ⅰ] 代替要員確保コース (1) 目的 この助成金は、育児休業者の代替人員を確保し育児休業取得者を現職復帰させた事業主を支援することで、育児休業の取得と現職復帰しやすい環境を整備し雇用継続を図ることを目的とする。 (2) 育児休業の要件 (3) 代替要員確保の要件 (4) 支給額 (5) 手続の流れ (6) 活用のポイント この助成金は、育児休業取得者の業務処理が困難なため代替人員を確保する必要がある職場では特に有効と思われる。また、代替人員を確保することで子育て期の社員にとっては育児休業の取得と原職復帰がしやすい環境となる。代替人員の確保の際は、職務内容や勤務場所などに加えて育児休業取得者の職場復帰の計画に合わせて契約期間を定める必要がある。 [Ⅱ] 期間雇用者継続就業支援コース (1) 目的 この助成金は、有期契約労働者(期間雇用者)について、通常労働者と同等の育児休業の取得と休業終了後は原職復帰を認め、かつ職業と家庭の両立支援の研修等を実施する事業主を支援することで、期間雇用者の継続就業を実現させることを目的とする。 (2) 育児休業の要件 (3) 両立支援研修の要件 (4) 支給額 (※)1事業主当たり延べ5人を上限とする (5) 手続の流れ (6) 活用のポイント 期間雇用者は、有期労働契約を更新して5年を経過すると無期契約の申込権が発生することを踏まえて、育児休業の取得希望のある優秀な期間雇用者を通常の労働者として継続して雇用したい場合は、特に有効と思われる。 (1) 目的 この助成金の目的は、男女均等な雇用機会と待遇確保の問題改善の数値目標を公表し、改善研修を実施し数値目標を達成した事業主を支援することで、継続勤務を希望する女性労働者が就業意欲を失わずにその能力を伸長・発揮できる環境を推進することである。 (2) 対象措置 この助成金は、次のすべてを実施した場合に支給される (3) 支給額 (4) 手続の流れ (5) 活用のポイント 女性管理職登用等など女性の活用が進んでいる企業は成長しているとのデータもあり、この助成金は女性の活用や登用を全社的に進めようとする企業にとっては特に有効と思われる。 また、数目標を公表することで対外的に公約することにもなり、就職希望者だけでなく社会的な企業イメージの向上も期待できる。半面目標が達成できない場合はダメージも大きくなる。 (了)
介護事業所の労務問題 【第4回】 (最終回) 「懲戒問題と突然の退職問題」 クロスフィールズ人財研究所 代表 社会保険労務士 三浦 修 1 セクハラ・パワハラ問題と懲戒 最近は、介護事業所からもセクハラ・パワハラの相談を受けるケースが増えている。 介護事業所におけるセクハラについては、日常の業務において入居者と身体の接触があるため実態が不透明になってしまう面もあるかもしれない。またパワハラについては、終日同じ施設内で業務を行っていることによりストレスが蓄積されるという点もあるのかもしれない。 このような介護事業所特有の原因に端を発するセクハラ・パワハラ等の可能性が潜在的に存在している、ということを理解しておく必要がある。 まずセクハラに関しては、通常の勤務に加え前回も触れたように、夜勤中のハラスメント(環境型・対価型)、また他の業種と同様に職場外でのセクハラも考えられる。 パワハラについても、介護業界特有の話ではないが多く存在している。介護業界は従業員間のコミュニケーションが重要な業界のひとつだが、ミスコミュニケーションによりストレスを感じ、パワハラ等に発展することも考えられる。 しかし、どちらにしても懲戒や解雇の問題に発展する恐れのあることなので、事業所としては、早めに予防策を考え、問題が起こらないようにしなければならない。 セクハラ・パワハラの対策としては、以下のようなことを想定し、検討してみてはいかがだろうか。 ① コンプライアンス研修 管理職、一般職員に対して、それぞれコンプライアンス研修を行い、ハラスメントがなぜ起こるのかを検討し、起こらないようにするために何を理解し、意識すれば良いかなどを周知する。ガバナンスの観点からは、就業規則や職場のルールブック等の作成と周知により、服務と懲戒への理解をしてもらう。研修と同時に行うとより効果的である。 ② 従業員間のコミュニケーション促進 ミスコミュニケーションが起きないよう、定期的なコミュニケーションを従業員間相互で取れるように、経営者・管理者が積極的にコミュニケーション促進のための施策を行う。例えば、定期的な懇親会やレクリエーション、職員旅行などが考えられる。 介護保険法から考えられる問題点 あるデイサービスの生活相談員に対し、パワハラによる懲戒で、出勤停止処分を行おうとした時の話である。本来であれば処分を行うべきであったところ、出勤停止とした場合に代わりになる介護職員、すなわち生活相談員の資格要件である社会福祉士・介護福祉士等の資格保有者がいなかったため、人員基準の関係上、懲戒を課すことができなかった。 本来であれば労働法に従って、また本人の反省のため、事業所の秩序を守るために企業のガバナンス上の問題から懲戒を行うべき時にも、人員基準があるため対処できない場合がある、というのも介護事業所の特徴と言えるだろう。 2 突然の退職問題 介護事業所でよくある問題の1つとして、突然の退職問題が挙げられる。 職員が突然退職を申し出る業界特有の理由、問題としては、以下のようなものがある。 なお、その他介護業界に限らない一般的な退職理由としては、「職場の人間関係に問題があったため」、「理念や運営の在り方に不満があったため」、「他に良い仕事・職場があったため」、「収入が少なかったため」、といった理由が挙げられる。 出所:(公財)介護労働安定センター「介護労働の現状について(平成25年度介護労働実態調査)」 職員が突然退職した場合の問題としては、業務の引き継ぎや年休の問題などがあるが、特に介護事業所で問題となるのは、突然の退職による次の採用までの事業そのものに対する影響がとても大きいことである。 つまり第2回でも触れたように、他の業界のように募集・採用がスムーズに行えず、その間の人員不足が非常に大きな問題となりやすいのだ。 介護保険法から考えられる問題点 弊所の顧問先の介護事業所でも、職員の突然退職による問題は発生することがある。 退職したのが一般の職員であればまだしも、あろうことかデイサービス事業所の管理者が引継書のみを残して突然退職し、「こんな無責任なことは絶対許せない」と使用者も憤慨した、というケースもあった。ただ、そういったケース以上に問題となるのが、突然退職した職員が人員基準に影響し、かつ資格要件のある生活相談員であったケースである。社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員等の資格所有者、または通算4年以上常勤で通所介護事業所に従事した者でないと生活相談員として認められない。退職者以外に基準を満たす職員がいない時は、新たに採用するしかない。 もし採用がうまくいかず、生活相談員がいないままとなってしまった場合には、介護報酬が請求できない事態にも陥りかねないのである(各地域のローカルルールにより差はある)。 職員の突然の退職が問題となるのは介護事業所に限った話ではないが、このように介護報酬の請求ができない、というような他の業界以上に大きな問題になりかねないのが介護業界の特徴といえる。 介護事業所の労務管理上、こういった問題に対して事前に対策を行う上で、介護保険法と介護事業所の特性を正しく理解しておくことは、非常に重要なことなのである。 (連載了)
事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第3回】 「エアバッグの『リコール』事件」 弁護士 原 正雄 1 T社の沿革 T社は、1933年、織物製造の会社として創業した会社である。1960年、日本初の2点式シートベルトの製造販売を開始し、以来、チャイルドシートなど自動車安全部品の開発、製造、販売に取り組み、1990年には、エアバッグの製造販売を開始している。 T社は、1983年に米国に生産拠点を設けて以来、海外に多数の拠点を設け、積極的に世界展開している。T社は、現在、世界のエアバッグ市場で第2位、約2割のシェアを有しており、多くの自動車メーカーにエアバッグを供給している。 2 発生事故の内容 報道によれば、不具合が発生しているのは「インフレーター(膨張装置)」という名称の部品である。インフレ―ターは、内部にガス発生剤(火薬)を備え、ガスを発生させる。衝突を検知するセンサーからの情報で、ガス発生剤に着火し、瞬時にガスを発生してエアバッグを膨らませる。 本件では、ガス発生剤の着火時に異常燃焼が起こり、インフレ―ターの金属容器が破裂して金属片が飛び散る、という事故が報告されている。2014年12月16日までに、米国とマレーシアで5件の死亡事故があったと報道されており、T社はそのうち3件について謝罪している。また、日本国内でも、4件の異常破裂事故や、廃車作業中の異常破裂が報告されている。 3 本件の原因 T社は、リコール対象2,000万台のうち約6割について、欠陥の存在を認めている。T社の説明によれば「生産の立ち上がり期の不具合」とのことである。 T社は、1990年代から、米国やメキシコに製造拠点を設立していた。当時は、自動車メーカーが海外進出を進めていた時代であった。そうした中、2000年頃、米国やメキシコの工場で、問題となったエアバッグが製造された、とのことである。 具体的には、T社米国工場でガス発生剤を製造した際、成形の圧力が不十分であった。そのうえ、メキシコ工場では、ガス発生剤が湿度の高い場所に放置された。そのため、ガス発生剤が湿気を吸って膨らみ、表面積が想定よりも大きくなったことで、異常燃焼が発生した。 現在、事故発生が報告されているのは、高温多湿の地域に限られている。なぜ高温多湿の地域だと事故が発生しやすいのか、低温地域や乾燥地域では事故が発生しないと言い切れるのか、などについては、未だ明らかにされていない。 4 大規模リコールに至る経緯 (1) 最初のリコール 2008年、本件に関連する最初のリコールが実施された。対象は約4,000台であった。その後の2009年5月、米国オクラホマ州で、エアバッグを原因とする死亡事故が発生した。報道によれば、最初の死亡事故である。 さらに2013年4月、複数の自動車メーカーがリコールを宣言した。対象台数380万台という初の大規模リコールである。その後も、マレーシアや米国フロリダ州で死亡事故が発生し、五月雨式にリコールが追加され、2014年12月には、全世界で累計2,000万台に達するリコールに至ってしまう。 その間、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)は、自動車ユーザーに対して「直ちにリコールに応じるように」とする異例の要請を公表するとともに、自動車メーカーに対してリコールを全米に広げるよう指示したことを公表した。しかし、T社は、「代替部品の供給力が限られているため、危険性高い地域を優先する」として、リコールを南部に限定すると回答した。 (2) 米国での追及 2014年11月20日、米上院商業科学運輸委員会が、公聴会を開催した。委員会は「2004年に欠陥に気付いていたのに公表を怠ったのではないか」、「2008年に最初のリコールをしているが、欠陥に気付いてからリコールまでに時間がかかったのはなぜか」と追及した。 T社は、最初に不具合を把握したのは2005年5月である、と反論した。また、その時点で、エアバッグ破裂を自動車メーカーに伝えたものの、現物を入手できなかったため試験を行うには至らなかった、その後に別の事故が発生したため2007年に試験を開始し、2008年に最初のリコールをするに至った、と説明した。 こうした推移を受けて、日本でも、翌21日、国交相がT社に対して調査報告をするよう直接に指示をした。また、同月24日、国交省は、自動車メーカーに早期修理を指示した。その時点で、リコール届出車の42%が未修理という状況であった。 2014年11月26日、NHTSAは、T社に対して全米規模のリコールを要請する書簡を送付し、12月2日までに対応しなければ制裁金(1台7,000ドル)を科すと通告した。これに対して、T社は、「多湿地域以外で回収されたエアバッグでは破裂は見られない」、「代替部品の供給力が限られているため、危険性高い地域を優先する」として、全米規模のリコールは不要であるとの見解を示した。また、自動車メーカーのリコール実施について「全面的に協力する」と回答しつつ「リコールは自動車メーカーがすべき」との原則論に基づき、リコール実施を明言しなかった。 2014年12月3日、米上院商業科学運輸委員会は、再度の公聴会を開催した。T社は、あらためて多湿地域を優先してリコールする旨を明らかにした。そこで、NHTSAは、強制リコール手続を開始する旨を表明した。米メディアは、「想定外の事態」と報道した。 (3) 自動車メーカーによる自主リコール 他方、自動車メーカーH社は、T社の対応とは異なる経緯をたどった。12月3日開催の同じ公聴会で、同社は、自主リコールを全米に拡大する旨を明らかにした。その結果、同社のリコール対象は280万台から600万台に拡大した。この点について、同社幹部は「信頼を失うのが怖い」と説明している。 全米でリコールが拡大している状況を受けて、翌4日、日本でも、国交省が原因未解明の段階でリコールを指示する方針を表明した。国交相は「原因の特定を待つと、時間があまりにもかかりすぎて不安が広がる」と説明した。これを受けて、自動車メーカーも、国交省に自主リコールを通知した。 2014年12月現在、リコールは、全世界で、累計2,000万台に達している。しかし、未修理率が50%近いとの報道もある。国交省の担当幹部によれば、「通常、回収率は3ヶ月で70%が目標」とのことであるから、リコール完了に向けた道のりは、まだまだ途上である。 5 リコール法制の特徴 (1) 米国 米国では、不具合の原因が特定されていなくても、自動車メーカーは、国家交通自動車安全法などに基づいて、原因究明を目的として自動車を自主回収する「調査リコール」を行うべきとされている。NHTSAが自動車メーカーに調査リコールを命じることもある。米国では、不具合の原因が分からなくてもリコールを行うことは一般的である。 米国でリコール制度が厳格化したのは、1996年6月に発生した自動車横転事故と、その後に続いた同種事故に遡る。 それらの事故では、横転の原因が自動車本体にあるのか、タイヤにあるのか、が争点となった。公聴会で自動車メーカーは「タイヤに原因がある」と主張した。他方、日系タイヤメーカーは、自動車メーカーが取引先であったこともあり、原因不明の段階では自動車メーカーに責任があるとの態度を取らずに、日本人CEOが公聴会で被害者に対する「お悔やみの言葉」を述べたことが、米メディアによって「非を認めた」と報道された、という事件である。この事件が契機となり、2000年11月、米国で「トレッド法」と呼ばれる法律が成立し、リコール制度が大幅に変更されたのである。 その後、2003年7月には、自動車メーカーに対し、死傷事故が発生した場合に、NHTSAに「早期警戒報告」をするよう義務付ける改正もなされている。 (2) 日本 日本では、自動車メーカーは、自動車の不具合について原因が設計または製作の過程にあると認められた場合、事前に国土交通大臣に届け出て、リコールその他の改善措置をしなければならない(道路運送車両法63条の3)。また、国交省は、自動車の不具合について原因が設計または製作の過程にあると認めるときには、自動車メーカーに対して、リコールその他の改善措置を勧告できる(道路運送車両法63条の2)。 ということは、自動車の不具合の原因が設計または製作の過程にあるかどうか不明の段階では、道路運送車両法の定めるリコールの対象ではない。このことが、米国でのリコールの拡大に比して、日本でのリコール拡大が遅れた理由である。 しかし、今般のエアバッグ問題では、国交省は、自動車メーカーが原因究明を目的として自動車を自主回収する「調査リコール」を採用することを公表した。これは、法令外の法的拘束力がない行政指導であって「異例の措置」である。 6 本件の検証 本件は、対応に時間を要し、米世論から大きな批判を浴びた。 当初、T社は、「リコールは自動車メーカーがすべき」との原則論に立っていた。他方、自動車メーカーは、T社に任せるしかない、とのスタンスであった。 また、T社のエアバッグは、多数の自動車メーカーが採用し、全世界のシェア2割を有していた。大量調達でコスト削減という観点から、複数の自動車メーカーが同一のエアバッグを採用していた。結果として、関連当事者があまりに多く、他社の動向を見ながら対応したため、対応が遅れたという経緯もある。 さらに、T社にとって、あまりに事態が拡大しすぎた。T社としては、リコールのための代替部品の供給が確保できない中でリコールの範囲を拡大するのは、容易な決断ではない。原因不明の段階で法的責任を認めてよいのか、という問題もある。 リコールの範囲を確定できなかった理由として、T社が、いつ製造したインフレーターに問題があったのかを特定できなかったことも重大な要因である。 本件は、ガス発生剤の成形の圧力が不十分であった。その原因は、米国工場の生産ラインで不良品を選別する機能を起動し忘れていたことが理由である。ところが、T社米国工場では、当該機能のオンオフの記録は、当時、手書きであった。そのため、記録の正確性に疑義が生じてしまった。現に、記録上は不良品選別機能がオンになっていた期間中に製造されたガス発生剤についても事故の報告があった。そのため、T社は、当該機能のオンオフを持ってリコールの範囲を限定する、ということができなかったようである。 T社は、重い決断を迫られた。具体的な原因や発生機序が不明確なことが、さらに決断を難しくさせた。たしかに、企業にとって、リコールは重い決断である。しかし、企業は、非常事態の発生が予測される場合、関係者に「警告」を発して被害を最小化する義務を負っている。 本件はT社だけの特殊事案ではない。各社担当者は、自社が同じ状況に置かれた場合にどのように判断するか、日常から考えておく必要がある。 (了)
現代金融用語の基礎知識 【第13回】 「多議決権種類株式」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 多議決権種類株式とは まず種類株式とは、普通株式の反対の意味の言葉である。すなわち、普通株式とは、会社法の規定どおりの権利が備わった株式であるのに対して、種類株式とは、会社法の規定とは異なる権利が備わった株式であり、会社は定款に定めることにより種類株式を発行することができる。例えば、配当が優先的に支払われる株式や、議決権がない株式などであり、会社法は9種類の種類株式を定めている(会社法108条1項)。 そして、多議決権種類株式とは、文字どおり多くの議決権が備わった株式である。普通株式には原則1個の議決権が備わっているが(会社法308条1項)、多議決権種類株式には複数の議決権が備わっているのである。 多議決権種類株式は、会社が上場する際、創業経営者による会社支配を維持するために、彼らに発行されることが多い。有名な事例をあげると、米国のグーグルやフェイスブックの創業経営者には多議決権種類株式が発行されているし、中国のアリババの創業経営者にも発行されている。アリババは当初香港市場に上場する計画だったが、香港証券取引所が多議決権種類株式の発行を認めなかったため、米国市場に上場することにした。 日本の証券取引所も、上場会社による多議決権種類株式の発行を一応認めている。今年の3月に東京証券取引所のマザーズ市場に上場したサイバーダインは、多議決権種類株式を同社の創業経営者に発行しており(注)、その経営者による同社の株式の所有割合は約4割なのに、議決権の所有割合は約9割となっている。 ただ、無制限に多議決権種類株式の発行を認めているわけではなく、それにより創業経営者による会社支配を維持することが、株主共同の利益の観点から必要であると認められること等が必要であるとされている(東京証券取引所「上場審査等に関するガイドライン」Ⅱ6.(4))。 2 すべての株主が賢明とは限らない? 上述のサイバーダインは、その創業経営者に多議決権種類株式を発行する理由について次のように述べている(同社第10期有価証券報告書「第一部企業情報 第4提出会社の状況 1株式等の状況 (1)株式の総数等 ②発行済株式」)。なお、山海嘉之氏は同社の代表である。 株主の中には、その会社の技術を悪用したいと考える者がいるかもしれないし、また、長期的な視野に立った経営などには関心がなく、もっぱら短期的な利益追求のみに関心を示す者もいるだろう(これは非常に多い)。 会社の経営がそうした株主の影響を受けたのでは、かえって株主共同の利益にマイナスになるだろう。そうした株主の議決権は制限し、逆に、会社のことをよく理解し、会社の長期的な成長を望む株主(創業経営者は通常これに該当)には、他の株主よりも多くの議決権を与えた方が、株主共同の利益になるはずである。そのように考えれば、創業経営者への多議決権種類株式の発行は正当化されることになる。 3 コーポレートガバナンス改革の流れに逆行? 多くの創業経営者は、上場後も会社支配を維持したいと思うはずである。そこで、この多議決権種類株式の発行を認める条件を緩めるべきだという意見が出てくる。そうした意見を正当化するのは、上述のとおり、創業経営者による会社支配の維持が株主共同の利益になるというものである。 しかし、コーポレートガバナンスの原則に立ち戻って考えてみてほしい。上場後は、それまでのプライベート・カンパニーではなくパブリック・カンパニーとなる。業績が悪く、株主の要望に応えられない場合などにおいては、経営者は責任をとる必要がある。そうした原則を変えていいのだろうか。 現在、わが国では、日本版スチュワードシップ・コードや日本版コーポレートガバナンス・コードなど、日本の上場会社のコーポレートガバナンスの質を向上させるための取組がなされている。上場会社に多議決権種類株式の発行を安易に認めることは、そうしたコーポレートガバナンス改革の流れに逆行するのではないだろうか。 創業経営者による会社支配を一定期間維持すべき場合は、確かに会社の事業内容などによってあるかもしれない。しかし、それはあくまで例外であり、それに該当するのは限られるはずである。創業経営者への多議決権種類株式の発行の可否は、やはり慎重に判断されなければならないだろう。 (了)
〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第3話】 「売上急増、所得低調」 税理士 堀内 章典 準備調査 7月の異動から早くも1月が経過し、お盆休みもあっという間に終わってしまった。 いよいよ今日から、調査部門が税務調査の最盛期に入る。 お盆休み中一斉に休暇をとる調査部門の調査官は、里帰りや家族サービスなど各々の時間を過ごし、十分に英気を養ったあと、人事評価の裁定期間となる12月まで、調査に没頭するのである。 多楠調査官はというと、異動後、税務大学校そして城東地区の税務署が持ち回りで行う調査1年目研修で1月ほどを費やしていた。 あの部門での顔合わせ、その後の赤羽のスナック「かわばた」での新田の奇異な立ち振る舞いは、多楠にとって強烈なインパクトとして残ったのは事実であるが、今となるとはるか以前に起きた出来事のように思えた。 その後、新田とは仕事上の最小限しか会話をしていない。 これから“あの”新田と一緒に仕事をするかと思うと、気が重くなる多楠であった。 ▼ ▲ ▼ お盆休み明け、久々に8時に出勤した多楠は淡路と共に、税務署の若手職員がしているように部門全員の机を拭いていた。 窓際に背を向けての配置されている田村統括官のデスク、その前に少しスペースを置いて統括官と同じ向きで配置されている三浦上席のデスク、Tの字形に三浦上席側から見ると、デスクの左側に新田調査官と多楠調査官、右側に小泉調査官と淡路調査官が縦に配置されている。新田と小泉、多楠と淡路がそれぞれ正面向かい合った配置になっている。 机拭きも終わりかけたころ、ポツポツと部門のメンバーが出勤してきた。 「やぁやぁ、多楠君元気?田舎に帰ったのはいいけど電車が混んで7時間立ちっぱなし、休暇にならなかったよ。」といつもの明るい調子の三浦上席。 最後から2番目に来たのは田村統括官 「みんな出勤しているかな。お盆休み中事故はなかったよね。何かあったら今からでもいいからチャンと報告してね。じゃないと私の責任になってせっかくの退職金が減額になるんだから。」 いつものように出勤時刻8時45分ギリギリに来たのは新田であった。 周りに聞こえるか聞えないかというような小さな声であいさつをした新田は、さっと自席についた。 ほぼ同時に始業のベルが鳴り、調査官たちのそれぞれの仕事が始まった。 ▼ ▲ ▼ 多楠は明日から調査に入る有限会社金杉商店の準備調査を始めた。準備調査とは、調査に着手する前に調査官が行う作業で、調査法人の3年から5年間のPL及びBS主要科目の推移を所定の様式にひろい出し、さらに不審な資料情報の確認、過去の調査事績などから調査のポイントを洗い出して、想定される不正計算や課税もれなどを事前に把握する重要な作業である。 前回の調査が5年前とすれば、それ以後5年間の取引の適否をわずか数日間の調査で判断する、極めて限られた時間で行うシビアな作業が税務調査なのだ。調査で会社に臨場する期間は会社の規模にもよるが、税務署の一般部門が投下する日数は2~3日が標準である。 まして、一般部門(注)の調査官の年間調査件数は30数件、限られた時間で件数をこなし、不正計算や課税もれを把握しなければならないのが税務調査である。 調査官のメンツ、他の調査官との競争など、とにかく12月まで、調査官はひたすら走り続けるのである。 そこで重要になってくるのが準備調査というわけである。 準備調査をしっかりと行い、調査する項目のポイントを絞り、会社に臨場、代表者などから概況を聴取し、限られた時間で何を調べるかをさらに絞り込み、効果的な調査をする。忙しくて満足に準備調査もしないで調査に行く調査官もいるが、それは会社のことをよく知らずに丸腰で調査に行くようなものであり、手を抜くのは簡単だが、調査結果もおのずとしれたものになりかねない。 多楠は新田から、最初から最後まで初めての準備調査を任されていた。 お盆休み前から少しずつ研修の合間をぬって作業はしていたが、着手の前日に新田に準備調査書を提出するのではちょっと遅すぎる。 三浦上席と淡路調査官のチームは、“万年上席”を自称する三浦が端正な顔立ちの淡路とのペアということで俄然張り切っていた。三浦と淡路は席が離れていたが、三浦は自席に淡路を呼び、準備調査書の記入の仕方から調査の進め方などを親切丁寧に教えていた。ただし、何度も呼びつけられるので、淡路も多楠に向かって思わず細い眉をひそめて苦笑いをしたこともあった。 一方の新田と多楠チームはどうかというと、新田の事案でありながら準備調査はすべて多楠にお任せ、アドバイスなど一切なかった。 初めての準備調査と研修過多で遅々として作業が進まず、準備調査が遅れに遅れた多楠であるが、新田相手に言い訳をしても始まらないと自分に言い聞かせ、午前11時、最後のチェックを終え、恐る恐る新田に準備調査書を提出した。 新田は、準備調査書の上りがギリギリになったことについては一切触れず、調査書をパラパラめくりながら、多楠へ顔を向けることなく言った。 「この会社の問題点、一言でいうとなんだ。」 (やはりそうきたか。) 多楠は先日までの調査1年目研修で習ったとおりに答えた。 「売上がここ5年間で急増していますが、申告所得金額が毎年2,000万円くらいで低調です。」 すると新田はすかさず言った。 「売上急増、所得低調? ・・・まったく調査のポイントが絞られていないな。お前は単に、ここ5年間の調査会社の実態を言っているに過ぎない。」 「えっ・・・」 多楠は言葉に窮した。 研修でも『売上急増、所得低調の会社は要注意』と講師であるベテラン調査官が言っていた。しかも、金杉商店の前回調査時の準備調査書にも同じ文言が書いてあったのである。 (自分の説明が足りないことは何となくわかったが、何が足りないのか・・・しかも一言でいうとなると・・・。) 大学で会計学や租税法もそれなりに勉強してきた多楠にとって、まったく理解しがたい新田の一言であった。 (僕は新田さんに嫌われているんだ。きっとそうに違いない。) 新田はそれ以上、多楠を問い詰めることはなかった。準備調査を手元に置くと、多楠が作成したPL及びBS主要科目の推移に見入っていた。 (次ページへ) (前ページへ) 調査着手 翌朝、ギラギラした太陽が照りつける厳しい残暑の中、午前10時に金杉商店の前に立つ多楠と新田。 多楠が先に会社の事務所受付で近くにいた社員と見られる女性に用件を言うと、しばらくして受付のドアが開き2人の男が現れた。 作業着を着た社長の森本と半袖シャツ姿の税理士の尾崎であった。 2人は会社の応接室に案内された。 尾崎税理士 「暑い中ご苦労様です。今回はお2人で調査ですか。よろしくお願いいたします。」 ここは本来先輩の新田が応える場面であり、税理士の尾崎も見た目年長の新田に向かって声をかけているのだが、新田は応えようとしない。 しかたなく多楠 「私が新人調査官なものですから、新田調査官に付いて指導を受けているのです。」 尾崎 「そうですか。税務署もベテランが退職し、若手の調査官が増えて調査技法を伝授するのが大変らしいですね。」 そんな導入の会話から事業の概況まで、多楠は前日に新田から指示されたとおり、いかにも新人調査官というぎこちなさの中、たどたどしい概況聴取を進めていった。 前回の調査では父和夫が社長で鉄男は専務取締役であった。その調査にも鉄男は父和夫と共に立ち会ったが、現在和夫は第一線を退き調査に立ち会っていない。税理士は同じく尾崎である。社長の森本鉄男は色黒の職人といった顔つきをしていて、受け答えもハッキリしており、いかにも江戸っ子という雰囲気であった。 ▼ ▲ ▼ 森本は自らの事業について、矢継ぎ早に語り出した。 「うちのような実質個人商店は、人がやらないことをやらないと儲かりません。」 「大手の工場の作業工程で発生したアルミやステンレスの切れっぱしを安い値段で買い取って、ひとつひとつ丁寧にバリを切り取るなど地味な作業をし、加工して再度既定の部材として販売する。誰もこんな仕事をしたいとは思いません。だから利益になるんです。」 「毎年利益は出しているんですが、鋼材の買い入れを安くするために現金で仕入をしています。一方の鋼材の売上は原材料の業者間取引では手形が原則、ほとんどが90日サイトの手形になっており、毎月資金繰りで頭を悩ませています。」 「オヤジの父親の代からこの商売をしていますが、なぜかこの事業は加工する作業員が10名を超えると目が行き届かなくなるせいか採算が悪くなる。だから今もベテランの職人が8名で作業をしているんです。」 11時を過ぎようとする頃、多楠の要領を得ない事業概況の聴き取りが一段落したので、作業場を見せてもらうことにした。事務所の隣にある作業場は昼間でも薄暗く、冷房もあまり効いておらず、まさに灼熱の世界であった。部材を切断する機械の甲高い音、旋盤のうなる音が響く中、金属が焼け付くときの独特の臭いが漂う過酷な作業場で、確かに8名の作業員が黙々と作業をしていた。 その作業場でどのような作業が行われ、どのような流れで作業が進められているのか、額に汗しながら森本は、騒音の中途切れ途切れで聞き取りにくい声ではあったが丁寧に説明をした。 70歳にはなると思われる尾崎税理士が真っ先に悲鳴を上げ、クーラーの効いた事務所に引き上げようと提案、一行は20分ほどの作業場の確認を終え事務所に戻った。 ヤレヤレという表情の尾崎税理士、手拭いで顔を拭う森本社長、汗でシャツがびっしょりの多楠の横で、唯一汗もかかないのが新田であった。 ここで初めて新田が口を開いた。 それは多楠も想定外の一言であった。 「社長にお伺いします。売上がここ5年間で急増していますが、所得金額が毎年2,000万円くらいで低調です。なぜですか?」 多楠は自分の耳を疑った。 『売上急増、所得低調』 (昨日僕が言った答えと同じだ。 それは答えになっていない、単に会社の5年間の実態を言っているだけに過ぎないと一蹴したじゃないか。 なぜ同じフレーズを社長に質問するんだ!) しかし、社長の森本は、多楠とはまったく異なる感覚で新田に対面していた。 森本は、先ほどから脈絡のない、たどたどしい質問をしてくる多楠に少々イライラしながらも、傍らでさりげない態度ながら鋭い眼光の新田がただならぬ存在であることを見抜いていた。 森本は金杉商店に入る前、父親のコネで10年ほど中堅どころの鋼材卸会社に勤務、主に営業を担当していた。その後、金杉商店に入社し10年ほどで専務に就任、以来上場会社の工場が多い仕入先の役員の接待から、一癖二癖ある業界仲間や鼻息の荒い若い衆を相手に丁々発止のやり取りをしてきた森本には、直感的に人を見る目が備わっていた。 “コイツは要注意だ。” その新田から初めて聞いた声が「売上急増、所得低調の理由」。 前回の調査にも立ち会っており、調査とはどういうものか経験済みの森本も、いきなり発せられた素朴な質問に答えを窮してしまった。 「え~と、あの、その・・・。」 江戸っ子らしさがなくなり口ごもる森本を、新田はじっと見つめていた。 (続く)
《速報解説》 「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」がパブコメに ~平成27年6月1日からの適用を想定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年12月12日付(掲載日12月17日)で、 コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議から、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)《コーポレートガバナンス・コード原案》~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」が公表され、意見募集が行われている。 意見募集期間は、平成27年1月23日までである。 本稿では、「コード(原案)」のうち、特徴的と思われる部分について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ コード(原案)の主な特徴 コード(原案)では、次のように、コーポレートガバナンス・コードについて述べている。 コード(原案)については、次のような特徴が述べられている(コード(原案)、2~5ページ)。 Ⅲ コード(原案)の主な内容 基本原則として次のことが述べられている。 基本原則には、「考え方」、「補充原則」、「背景説明」が記載されているので、それらを含めてお読みいただきたい。 例えば、より詳細に、次のことが述べられている。 Ⅳ 今後の予定 今後、東京証券取引所において、「『日本再興戦略』改訂2014」を踏まえ、関連する上場規則等の改正を行うとともに、コード(原案)をその内容とする「コーポレートガバナンス・コード」を制定することが期待されている。 コード(原案)は、東京証券取引所において必要な制度整備を行った上で、平成27年6月1日から適用することが想定されている。 (了)
本誌連載 「居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答]」が 『100問100答』として書籍になりました! - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 パブコメを受け、「マイナンバーの取扱いに関するガイドライン」が公表 ~「事業者編」・「金融業務編」に分け取扱いを具体的に解説。『Q&A』も公表~ 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 はじめに 特定個人情報の取扱い全般について監視・監督する役割を担う特定個人情報保護委員会は、平成26年12月11日付で、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「ガイドライン」という) を公表した。ここでは、このガイドラインの概要について解説する。 1 本ガイドラインの位置づけ 本ガイドラインは、番号法第4条の規定(国が特定個人情報の取扱いの適正を確保するために必要な措置を講ずる責務を負っている旨の規定)を受け、個人番号を取り扱う事業者(金融機関を含むすべての民間企業等)が特定個人情報の適正な取扱いを確保するための具体的な指針を定めたものである。 番号法では、特定個人情報の利用範囲を限定的に定めていることから(番号法第9条及び別表第1参照)、その運用を確実にすべく入手、利用、管理等についての具体的な方法等を定めるものである。 なお、特定個人情報とは、個人番号を含むその内容に含む個人情報をいう(番号法第2条第8項)。 2 本ガイドラインの読み方と活用方法 本ガイドラインは「4章+2つの資料」という編成となっている。第1章は導入部、第2章は番号法にも規定のある主要な用語の定義規定であることから、第3章、第4章が本ガイドラインの具体的な内容を定めたものである。 特に第4章は事業者の参考となる実務上の指針、典型的な具体例等が設けられ、留意すべき点にはアンダーラインを付すなどの配慮もなされていることから、まずは第4章から確認していき、適宜第2章の定義規定等に振り返るのがよいと思われる。 また、資料として(別添)資料があるが、後述する保護措置の具体的な例示が箇条書きで整理されているため、イメージを掴むのによい。また、巻末資料には個人番号の取得から廃棄までの一連のプロセスについて、本ガイドラインの該当する箇所が記載されていることから全体像が把握しやすい。 そこで、第4章と2つの資料を横置きして読み進めていくのが効率的だと思われる。 なお、事業者のうち金融機関が行う金融業務については、第4章について、事業者のうち金融機関が行う金融業務は別冊の「金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」が適用される。 3 本ガイドラインの主な内容並びに具体例 本ガイドラインが規定する主な内容を理解するうえでのキーワードは「保護措置」である。 保護措置とは、要するに、個人情報を厳格かつ完全に管理するための方法である。 これまで個人情報保護法においても保護措置は規定されていたものの、個人情報保護法の対象は個人情報の取扱い件数が相当数以上の事業者のみであったことから、全事業者が対象となる番号法においても同様に、また「個人番号」という極めて機密性の高い個人情報をその内容に含むことから、より高い水準の保護措置を定める必要がある。 そこで、本ガイドラインで事業者が採るべき保護措置の具体的な方法等を定めている。 保護措置の内容としては、大別すると、 の3つである。 簡単にいえば、 である。 これらを遵守するための事業者の指針となるものが本ガイドラインである。 例えば、第4章には、①について、事業者は社員の管理のために、として、個人番号を社員番号として利用してはならないことなどが定められている。利用制限を理解するうえでそもそも個人番号の利用が認められる目的の範囲について事例を交えて比較的わかりやすく解説されている。 また、②について、事業者が採るべき必要な監督の内容として、特定個人情報に関する事務の一部を外部に委託する場合に契約内容として盛り込むべき内容が具体的に解説されている。また、③についても同様に、個人番号の提供・収集・保管等が認められるケース、認められないケースがわかりやすく解説されている。 なお、特定個人情報の廃棄の具体的な方法については(別添)資料「特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」にも記載されている。 なお、内閣府からは本ガイドラインに関するQ&Aも公表されている。併せて確認されたい。 4 まとめ 本ガイドライン中には「しなければならない」あるいは「してはならない」という記載が多くみられる。そこで、これらの記載のある事項について遵守されていない場合には法令違反と判断されるケースもありうる。 ご周知のとおり、番号法は、その違反について一般法である個人情報保護法等よりも重い罰則(刑事罰を含む)を設けていることから、遺漏なき対応が求められる。 また、特定個人情報に関する事務の一部を受けようとする事業者、あるいは税理士や弁護士等の専門家においては、自社の体制が本ガイドラインで規定される水準以上のものとなっていることが業務の実施(あるいは業務の受注)の前提となることから、当該事務に従事する従業員や職員等の教育研修も含め、社内体制の整備と充実に努められたい。 (了)
2014年12月18日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.99 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
日本の企業税制 【第14回】 「平成27年度税制改正を展望する」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 総選挙で中断されていた平成27年度税制改正は、12月16日の自民党税調インナー開催により再開された。 12月25日からは連日、自民党税調正副顧問幹事会・小委員会が開催され、同時並行で公明党の税調、与党税制改正協議会も断続的に開催され、12月30日に与党税制改正大綱とりまとめが予定されている。 また、事務的な作業は、財務省・総務省で選挙中も継続されており、与党税調に上るのは、マル政(=政治的な決着)が必要とされる事項のみとなろう。 そこで、本稿では、既に結論が出ている事項の概要、ならびにマル政事項の予想を含め、平成27年度税制改正の全体を展望してみたい。 2 法人税制 既報の通り法人税の財源論(課税ベースの拡大等)は主要な租税特別措置を含め、以下のような内容で、既に財務省・総務省と経団連の間でほぼ決着している。 ① 法人事業税 ② 欠損金の繰越控除 ③ 受取配当の益金不算入 ④ 研究開発税制 ⑤ 特定事業用資産の買換え特例(9号買換え) 以上の課税ベース拡大等を実効税率に換算すれば、仕上り時(平年度)分で2.1%~2.2%、平成27年度(初年度)分では1.5%程度でしかない。そうなれば、全体としては税収中立でも、企業・業界によってはかえって増税となる企業が続出する。 法人税収は企業業績の拡大以上のペースで順調に伸びており、平成26年度は当初見積り10兆円(国税のみ)を1兆円以上上回ることが見込まれている。 経団連としては、平成27年度に少なくとも2.5%の実効税率引下げを求めているところである。 3 個人所得課税 女性の働き方に中立的な税制として見直しが求められている配偶者控除、配偶者特別控除については、議論不十分として先送りされる見込みである。平成28年度税制改正以降の課題として、控除制度全体の見直しと併せて検討されることになろう。 ① NISAの拡充 ② 出国税(個人)の創設 4 土地・住宅税制 ① 固定資産税 ② 住宅税制 5 その他 以上、現時点までに事務的にはほぼ結論が得られている事項を説明してきたが、現在までに方向性が示されておらず、与党税調の中でマル政扱いとなる事項を列挙すれば以下のような点である。 (了)