女性会計士の奮闘記 【第10話】 「セミナー講師をやってみる?」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ◆ワンポントアドバイス◆ プレゼンや勉強会の講師をする場面では、 ① 頷いてくれる人の方を見ながら話して、気を落ち着かせる。 ② 重要な点を話すときには、その前に間を空ける。緊張して余裕のない時は、ひと呼吸(深呼吸)する。 ③ 強調したい単語は2回繰り返す。 ④ 内容は、腹八分目。多くのことを伝えようとしても、聴いている方が消化不良を起こしてしまうことがある。 (了)
《速報解説》 電子記録債権に関する会計処理及び表示について(でんさいネット) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 「電子記録債権法」(平成19年法律第102号)に基づいて電子記録債権を活用する際の会計処理及び表示については、企業会計基準委員会から「電子記録債権に係る会計処理及び表示についての実務上の取扱い」(実務対応報告第27号)が公表されている。 株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称、でんさいネット)のホームページでは、電子記録債権の会計処理などに関する実務上の問題について述べている部分がある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 電子記録債権 電子記録債権とは、その発生又は譲渡について、電子記録(磁気ディスク等をもって電子債権記録機関が作成する記録原簿への記録事項の記録)を要件とする金銭債権であり、その取引の安全を確保し事業者の資金調達の円滑化等を図る観点から、従来の指名債権や手形債権とは異なる新しい債権の類型として制度化されたものである。 Ⅲ 会計処理及び表示 電子記録債権の取扱いなどについては、株式会社全銀電子債権ネットワークのホームページで公開されている。 同ホームページでは10月15日付で、「よくある質問」の「その他」のQ18からQ20が更新されており、電子記録債権(でんさい)に関する会計上の取扱いについて次のQ&Aが追加されている。実際の回答については、同ホームページをご覧いただきたい。 実際の電子記録債権(でんさい)に関する会計処理及び表示については、公認会計士・税理士と十分に協議し、慎重に対応することになると考えられるので、注意が必要と思われる。 (了)
《速報解説》 「新規上場に伴う負担の軽減」に関する議論について -新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年10月15日、金融審議会の「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」(第6回)が開催された。 そこで示された「事務局説明資料」によると、新規上場に伴う負担の軽減のために、次の事項について議論が行われている。 特に、②の議論に関して、新規上場後一定期間に限り「内部統制報告書」に係る公認会計士の監査を免除することについては、従来の制度的な枠組みを大きく変えることになると考えられるので、慎重な議論が必要と思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新規上場の際の有価証券届出書に記載する財務諸表の年数 新規上場の際(「企業内容等の開示に関する内閣府令」8条2項1号)に使用する有価証券届出書(第2号の4様式)の記載内容には次のものがある。 これについて、新規上場以外の上場企業が募集・売出しに当たり「有価証券届出書」を提出する場合には、直近の「有価証券報告書」を活用することが認められており、当該直近の「有価証券報告書」では、過去2年間分の監査済み財務諸表の記載で足りることなどの状況にあることから、次の議論が行われている。 Ⅲ 「内部統制報告書」の提出に係る負担の軽減 上場企業は、事業年度ごとに「内部統制報告書」の提出が求められており、当該「内部統制報告書」は、公認会計士による監査を受けることが必要である。 当該義務は、上場企業すべてに課されるものであり、新規上場企業も、上場後事業年度ごとに、公認会計士による監査を受けた「内部統制報告書」の提出が必要となる。 これについて、新規上場のコストを低減させる観点から、「内部統制報告書」の提出に係る負担を一定期間軽減することができないかについて検討され、次の議論がなされている。 Ⅳ 日本公認会計士協会の意見 平成25年10月15日付で、日本公認会計士協会は「新規上場における内部統制報告書提出に係る負担の一定期間の軽減に対する意見」を提出している。 日本公認会計士協会としては、有効な内部統制は適切な財務諸表作成の前提であり、社会的な責任もますます高まる新規上場に当たっては、その段階こそ内部統制を整備し、有効に運用していく体制が求められるものと考えるとし、経営者による内部統制報告書の信頼性を担保する措置として内部統制監査は必要不可欠なものであり、時代の要請に逆行する方向での施策には、投資者保護の観点からも基本的には反対であると述べている。 そして次の事項について述べている。 (了)
「民間設備投資活性化等のための 税制改正大綱」を読む 【第2回】 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 (前回はこちら) 7 産業競争力強化法と税制措置 日本再興戦略の確実な実行を図るために、産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するため、開会中の臨時国会において、「産業競争力強化法」の制定が予定されている。 (1) 産業競争力強化法の概要 産業競争力強化法は、日本再興戦略の実行を図る「緊急構造改革期間(平成30年度までの5年間)」において、以下の様々な施策を実現するための特例措置を整備するものである。 なお、産業競争力強化法の施行は、公布後3ヶ月以内とされているが、各種計画に必要な指針等を、パブリック・コメントを踏まえて策定する必要があることから、来年(2014年)1月になると思われる。 (2) 「事業再編促進税制」の創設 「日本再興戦略(6月14日閣議決定)」では、「収益力の飛躍的な向上に向けた戦略的・抜本的な事業再編を推進する企業に対して、税制措置や金融支援などの必要な支援措置を講じる。」として、事業再編を強力に後押しするために大胆な税制措置を講じることとされていた。 その具体化として、「事業再編促進税制」が創設される。 本特例では、産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定事業再編計画」の主務大臣認定を受けた複数の事業者が、その事業の一部を分離・統合して新会社(特定会社)を設立する場合、特定会社に対する出資額の70%を「特定事業再編投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。 準備金は10年間据え置き、あるいは統合会社が3期連続で営業黒字に至った場合には、5年間で均等に取り崩し、それに至らず統合会社が解散した場合には、その期において一括して取り崩すことになる。 【事業再編促進税制】 (経済産業省ホームページより) (3) 「ベンチャー投資促進税制」の創設 「日本再興戦略」では、「開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率10%台(現状約5%)を目指すために、ベンチャーへの資金供給を大幅に拡大する。このため、現行のエンジェル税制を使い勝手の良いものに改善し、民間企業等の資金を活用したベンチャー企業への投資を促すために、必要な措置を講ずる。」とされていた。 この具体化として、「ベンチャー投資促進税制」が創設される。 本特例では、産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定新事業開拓投資事業計画」の主務大臣認定を受けた投資事業有限責任組合(ベンチャーファンド)に出資する事業者(有限責任組合員に限る。また、適格機関投資家である場合には出資予定額が2億円以上である者に限る)が、同計画により組合財産となる「新事業開拓事業者(ベンチャー企業)」の株式を取得した場合には、その株式の毎期末の帳簿価額の80%以下を「新事業開拓事業者投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。 準備金は翌期初に全額を益金算入した上で、期末に当期における新規投資額を加え売却分等を差し引いた額を損金算入する(洗い替え方式)。 【ベンチャー投資促進税制】 (経済産業省ホームページより) (4) 登録免許税の軽減 産業活力法の各種計画の主務大臣認定を受けた場合には、登録免許税が以下のように軽減される。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 8 復興特別法人税の廃止と法人実効税率引下げへの道筋 今回の経済対策において、とりわけ重要であるのは、安倍総理が経済活性化の要として法人実効税率の引下げに強い意欲を示し、与党税制調査会や財務省の抵抗を押し切る形で、復興特別法人税の廃止とともに、法人実効税率引下げに向けた早期検討を打ち出したことである。 (1) 復興特別法人税の廃止 平成23年度税制改正により法人税率が30%から25.5%へ引き下げられたことにより、本来、法人実効税率も40%台から35%台(東京都:40.69%→35.64%)となるはずであったが、東日本大震災からの復興に要する財源策として法人税額(国税のみ)の10%を復興特別法人税として平成24年度~26年度の3年間にわたり上乗せし2兆4,000億円を捻出することされたため、法人実効税率は38%台(東京都:38.01%)に止まっている。 この2兆4,000億円とは、23年度税制改正において課税ベースの拡大等の増税等を差し引き、ネットで7,800億円の法人税減税となるはずであったところから、それに見合う分として8,000億円×3年分として算出されたものである。 しかし、企業収益の改善により、法人税収は当時の見通しを大幅に上回り、平成24、25年の2年度分だけで2兆円に近い額となるのは確実と期待されている。 すなわち、復興法人特別税を廃止しても、自然増収だけで復興財源分を十分に確保できる状況にある。 一方、与党内では、復興特別法人税の廃止が、投資・雇用の拡大や賃金上昇につながることが必要とする意見が強く、大綱では、「復興特別法人税の廃止を確実に賃金上昇につなげられる方策と見通しを確認すること等を踏まえたうえで、12月中に結論を得る」とされている。 この具体的な「方策と見通し」については、総理大臣の下に置かれた「経済の好循環実現に向けた政労使会議」において、経団連から提案することになる。 企業活力の再生を通じて国民生活の改善を実現させ、 という経済サイクルを始動させ、長年にわたるデフレ経済からの脱却を図ることができるのか、経済界としても具体的成果を示すことが求められている。 (2) 法人実効税率引下げに向けた検討 わが国の法人実効税率は、復興法人特別税廃止後も国際的にみれば依然として高い水準にある。また、日本同様に高いとされている米国では、オバマ大統領より28%(製造業は25%)に下げるとの方針が既に示されており、そうなれば日本の法人実効税率は主要国の中で突出して高いことになる。 【法人実効税率の国際比較】 注:英国は2014年4月から21%、2015年4月から20%へと引き下げる予定。 (財務省ホームページより) 大綱では「わが国が直面する産業構造や事業環境の変化の中で、法人実効税率引下げが雇用や国内投資に確実につながっていくのか、その政策効果を検証する必要がある。表面税率を引き下げる場合には、財政の健全化を勘案し、ヨーロッパ諸国でも行われたように政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大や、他税目での増収策による財源確保を図る必要がある。 こうした点を踏まえつつ、法人実効税率の在り方について、今後、速やかに検討を開始することとする。」とされているが、法人税の課税ベース拡大のみならず「他税目での増収策」と明記されたことは極めて重要である。 まずは、政府税制調査会において検討が開始されることとなったが、経団連と、早期実現を目指して具体的な提言を重ねていきたい。 (連載了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第2問】 「「3,000万円特別控除」と「買換えの特例」の選択」 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、15年前に取得し、それ以来居住の用に供してきた家屋とその敷地を譲渡しました。譲渡価額は6,000万円ですが、取得費1,000万円、譲渡費用300万円を差し引くと残りは4,700万円となります。 譲渡代金と手持資金で7,000万円の居住用財産を取得しようと考えていますが、この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の適用を受ける場合と「買換えの特例(措法36の2)」の適用を受ける場合とでは、どちらが有利となるでしょうか? A 将来、買換資産を譲渡するようなことにならなければ、「買換えの特例」の適用を受ける方が良いといえるが、将来譲渡することになると必ずしも「買換えの特例」の適用を受けることが良いとはいえない。 〈解説〉 「3,000万円特別控除」と「買換えの特例」のいずれの要件にもあてはまる場合に、どちらの特例の適用を受けるかは、納税者の選択したところによる。 ところで、いずれの特例の適用を受けるのが良いかは当面の所得・住民税はもちろんのこと、次の1及び2も検討して判断することとなる。 したがって、長期譲渡所得の金額が3,000万円を超え、かつ、買換資産の取得価額が譲渡資産の譲渡価額以上である本事例の場合には、その譲渡所得に係る所得税及び住民税はもとより(本事例の場合、「買換えの特例」の適用を受ける場合には譲渡所得金額は生じないが、「3,000万円特別控除」の適用を受ける場合には、課税所得金額は1,700万円となる)、上記1の合計所得金額との関係からも「買換えの特例」を選択した方が当面の税負担額を考慮すると有利になる。 しかし、「買換えの特例」の適用を受けた者がその買換資産を取得後短期間(譲渡の年の1月1日現在で所有期間が5年以下)内に譲渡し、3,000万円の特別控除額を超える譲渡益が算出されることとなれば、上記2の買換資産の取得価額との関係から、「買換えの特例」の適用により課税の繰延べを受けていた譲渡所得が短期譲渡所得として重課されることとなるので、一般的には、当初の申告において「3,000万円特別控除」を選択しておいた方が良かったということになる。 筆者における元国税資産税職員としての経験をお伝えすると、被相続人が生前に「買換えの特例」を選択して課税の繰延べを受けていた財産を取得した相続人が、旧資産の取得価額を引き継いでいたことを知らずに修正申告書の提出を余儀なくされ、追徴課税を受ける事例を数多く見てきた。 将来を見据えた場合は、「3,000万円特別控除」を選択しておいた方が良い場合が多いのではないかと考える。 (了)
法人・個人の所得課税における 実質負担率の比較検証 【第3回】 (最終回) 「累進課税制度の抜け道とは」 (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人 はじめに 第1回及び第2回では、“所得”に対する課税について、個人形態で獲得した場合と法人形態で獲得した場合、課税制度にどのような違いが存在し、それぞれ実質負担率はどの程度で、また、有利不利が入れ替わる金額はどのあたりか、といった比較を行った。 同じ課税所得であっても、「個人」という形態又は「法人」という形態、どちらで獲得するかによってその実質負担率が異なることは前回述べたとおりである。 それでは、例えば個人で1,000万円という課税所得を獲得した場合において、それがどのような種類の所得であっても実質負担率は同じになるのであろうか。 答えは否である。 それでは、課税所得が増大するにしたがって、実質負担率は最高税率に限りなく近づいていくのであろうか。 これも答えは否である。 所得税の制度は“総合累進課税”が原則であるが、すべての所得についてこれが適用されるわけではないためである。 所得税には、「超過累進税率」と「比例税率」という2つのシステムが「混在」している。 そこで最終回である第3回では所得税にスポットを当て、所得税の最大の特徴である累進課税制度、その矛盾点について考察をしたい。 1 所得税の制度 所得税とは、個人の所得に対して課される税であり、大まかな税額計算は、 という流れである。 ここで、10種の各所得分類ごとに課税方法を整理してみよう。 このように、所得税の税額計算には原則として、①総合課税により、②超過累進税率を適用、といった特徴があるが、いくつか例外がある。 まず、退職所得・譲渡所得の一部・山林所得は、その特殊性から総合課税ではなく、申告分離課税による課税がなされる。 また、利子所得は15%(比例税率)の源泉分離課税による。 さらに、配当所得・譲渡所得(土地建物等・特定の株式出資)は所得の種類によりそれぞれ7%~30%(比例税率)の申告分離課税による(*2)。 (*2) 配当所得については申告分離課税は強制ではなく選択制である。 ここで着目すべきは、所得税は原則超過累進税率が適用される税であるが、すべてが累進的な税率ではなく、“一部比例税率が混在する”という事実である。 2 所得税と担税力 租税の大きな役割は、 であり、税の負担をどのように割り当てるのかについて、「応益負担」「応能負担」という2つの考え方があることは第1回にて述べたとおりである。 所得税は、このうち「応能負担」の考え方を色濃く反映する税である。したがって、その税負担は担税力に応じたものであり、累進的な税率を課すことが求められる。 ところで、担税力とはいったい何を示すのであろうか。 個人の担税力を示すものとしては、所得・消費・資産といったものが考えうるが、所得税においては「所得」を担税力の指標としている。 次にその所得についてであるが、「所得」と一括りに言ってもその源泉は多種多様であり、所得税法上は大きく10種類に分類されている。 担税力は、それを「量的」に測るのか、「質的」に測るのか、2つの計測方法がある。 すなわち、 といった問題である。 もう少し具体的に考えれば、勤労による所得、金融による所得、資産による所得、その所得の源泉は異なってもその担税力は同等であるのかどうか、という問題である。 このような担税力の違いや政策的な配慮から、所得税においては「総合課税」と「分離課税」、「超過累進税率」と「比例税率」が混在するのである。 3 超過累進税率の矛盾 冒頭部分で、課税所得が同じであっても実質負担率は異なることに触れた。 ここで、個人が1,000万円という課税所得を獲得した場合を考えてみよう。なお、前提として、所得の源泉が異なるのみでその他の所得控除はすべて等しいものとする。また、課税所得とは税率を適用する直前の金額で、すべての控除を適用後の金額とする。 上記は極端な例ではあるが、どのように獲得した所得であるのか、という所得の発生形態の違いにより、同じ所得税でありながらもその実質負担率は全く異なるのである。 次に、下の図を見ていただきたい。 「平成22年度税制改正の大綱」の参考資料である。 所得階級別に申告所得税負担率の推移を示している。 〈申告納税者の所得税負担率(平成19年分)〉 (備考) 国税庁「平成19年分申告所得税標本調査(税務統計から見た申告所得税の実態)」より作成。 (注) 所得金額があっても申告納税額のない者(例えば還付申告書を提出した者)は含まれていない。 また、申告不要を選択した場合の配当所得や源泉徴収で課税関係が終了した源泉徴収特定口座における株式等譲渡所得や利子所得等も含まれていない。 (財務省ホームページより) 上図をみると、合計所得金額の増加とともに税負担率も右肩上がりに上昇する。所得税は原則超過累進税率を適用するため、当然の結果ともいえよう。 しかし、合計所得1億円の階級における負担率26.5%を頂点に、その負担率は急激に下降し、税負担の累進性は喪失している。 超過累進税率はここで完全に矛盾するのである。 この要因について、大綱では を挙げている。 (*3) 金融所得とは、利子所得、配当所得、有価証券譲渡益など金融資産の運用から生じるものとするのが一般的な定義である。 現行での金融所得に対する所得税の税率は比例税率を適用しており、利子所得15%、配当所得20%(上場株式等に係るものは7%)、株式等譲渡所得15%(上場株式等に係るものは7%)である。 そもそも金融資産は高所得者層ほど多く保有していることが予想されるため、これを前提に総合課税の税率と比較をすると軽課であり、さらに、比例税率を適用するため、例えば上場株式等譲渡益であれば税率は7%で頭打ちである。 金融所得に関する税制度が高所得者層の負担率を下げる要因となり、累進性を矛盾させていることは、容易に想像できる。 冒頭にて、所得税の役割のひとつに「所得再分配機能」があることを挙げた。 「経済財政白書(平成21年版)」によると、税による再分配効果はOECD21ヶ国の中で日本が最も低い。 これは低所得者の負担が他国と比較して高いことがひとつの要因であるが、最高税率の引下げや累進税率の緩和に加え、この金融所得への低率な分離課税による累進性の喪失も一因であると考えられる。 近年、格差や貧困といったものは社会的な問題となっており、最近の所得税改正は所得再分配機能の回復を念頭に置いているようである。 4 金融所得課税の一体化 1990年代に北欧諸国で始まった税制に、“二元的所得税”という新たな考え方がある。 二元的所得税とは、「勤労所得」と「金融所得」はその所得の種類が異なるものであるから、これらを分離し、勤労所得には累進的な税を課し、金融所得には比例的な税を課す、という考え方である(*4)。 (*4) 厳密にいえば、所得税のタイプには①包括的所得税、②二元的所得税、③準二元的所得税、④比例税、⑤支出税の5つの定義が存在し、これは③の枠に属するものかと考えられる。 グローバルな取引から生み出される金融所得については、その取引による経済成長を阻害することなく、また、国際的な潮流に足並みを揃える必要がある。 日本の税制の土台であるシャウプ勧告によれば、包括的に所得を捉え課税することを求め、すべての所得を合算する総合課税を理想としている。 すべての所得に対し、超過累進税率により税を課すことにより、真の応能負担の原則が実現し、所得再分配機能を果たしうるのである。 しかし、そもそも包括的な所得の捕捉は困難である。また、金融所得に対しても累進税率を適用すると過大な税負担となる可能性があり、自由な金融取引を阻害し、経済の活性化を妨げることとなる。 そこで、金融所得課税の一体化を行おうという動きがある。 つまりは、7%から15%への税率アップと非課税から課税への転換という金融所得に対する増税である。 しかしながら、上記改正を行うと高所得者ばかりか低所得者にまで増税の効果が及ぶことになりかねず、累進性逆進の解消や所得再分配機能の回復には結び付かない。 そこで、この改正にあたり、100万円以下の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等については非課税措置が創設され、平成26年1月1日より適用される。いわゆる世間一般でNISA(ニーサ)と呼ばれているものである。この非課税措置は資産形成の支援・促進を目的としているが、同時に、比例税率のなかにも多少の累進性を持たせる効果もある。 ここで、上記の申告所得税負担率の推移図をもう一度見ていただきたい。 この金融所得課税一体化改正の目的は、合計所得1億円超から起こる負担率の下降を少しでも食い止めることである。これは同時に、合計所得1億円以下、特に中・低所得者層の負担率を下げることにもなり得よう。 上記改正により、超過累進税率の矛盾がなくなるわけではないが、所得階級別の実質負担率は当然変化するであろう。その結果、累進税率の逆進性は現行より弱くなり、所得再分配機能にも影響を及ぼすかもしれない。 そう、税の負担はその時代その経済状況により変化するのである。 ◆ おわりに ◆ 全3回にわたり、“税金の実質負担率“という視点から所得に対する税について比較と検証を行ってきた。 同じ事業から獲得した所得であっても、法人形態と個人形態では税金の種類が異なるため、実質負担率にも差が生じる。 それでは、同じ所得税であれば、その所得の種類が異なっても実質負担率は同じかといえば、そうでもない。 税の制度というものは、さまざまな原理、時代背景や社会情勢、経済状況、政策的な配慮から成り立ち改正が重ねられている。どういった視点から税をとらえるのか、何を重要視するのかにより、そのシステムは全く異なるものとなる。もしかしたら100年後の税制は現在とは大きく異なるものになっているかもしれない。 本稿では平成25年9月という一時点にたち、所得に対する税について、そのシステムと負担率、また税の根幹にある考え方について考察を試みた。 本稿執筆現在も法人税率の引下げや復興特別法人税の前倒しでの廃止などが議論されているが、毎年の税制改正について、その背景にある経済状況や社会情勢とつなぎ合わせて考えてみるのもまた一興であろう。 (連載了)
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第18話】 「行政指導か、税務調査か」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「おい、君は一体、どう言ったんだ!」 渕崎統括官は、少し声を荒げる。 調査選定をしている山口調査官は目を丸くして、渕崎統括官の声に驚く。 「・・・・・・」 「さっき、納税者に電話をしていただろう」 山口調査官は、頷く。 「ええ、坂口工業に電話したのですが・・・」 山口調査官は、渕崎統括官に応える。 「坂口工業の提出された確定申告書をチェックしていたら、計算の誤りが何ヶ所かあったので、それで電話をして・・・」 「・・・そのとき、「調査をする」とか言ったのか?」 渕崎統括官がすかさず尋ねる。 「ええ・・・計算誤りが何ヶ所か見つかったので、調査をしたら何かもっと大きな誤りを発見できると思って・・・「調査をする」と言ったのですが」 渕崎統括官は、渋い顔をする。 「調査選定の判断は、最終的に統括官の私がするのだから、勝手に君がそんなことを納税者に言ったら駄目じゃないか」 山口調査官は、目を伏せて聞いている。 「それに君も、改正された国税通則法について研修を受けただろうだから、当然「税務調査」がどういうものか知っているだろう」 渕崎統括官の声がますます大きくなる。 内勤をしている周りの職員は黙って仕事をしているが、皆、聞き耳を立てている。 「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達1-2(調査に該当しない行為)(1)ロに、こう書いてあるだろう」 渕崎統括官が通達を広げて、読み始める。 静まり返った法人課税第三部門に、渕崎統括官の声が響く。 「通達に、ちゃんと、「提出された納税申告書に計算誤り」って、書いてあるだろう」 山口調査官を問い詰める。 「しかし・・・私は、調査対象の選定をしていて・・・この会社に計算誤りがあることを発見したことから、他にも誤りがあるだろうと推測して税務調査をしようとしたのですが・・・このような選定はできない、ということですか?」 山口調査官の声も高くなる。 「それは・・・」 渕崎統括官の声が一瞬詰まる。 「まあ・・・この通達は自発的な見直しを要請する行為の例として挙げているが・・・君の税務職員としての経験や勘で、この計算誤りを奇貨として税務調査の選定を行うことは、一向にかまわないが・・・」 渕崎統括官の声がトーンダウンする。 「そうすると、統括官、この場合、税務調査に行く前に相手方がこの計算誤りについて修正申告を提出してきたら、どうなるんですか?」 山口調査官は、何かを思い出したように質問をする。 「どうなるって・・・」 渕崎統括官が聞き返す。 「つまり、この修正申告に対して、こちらで、過少申告加算税を課することができるかどうかということですよ」 山口調査官の語調は、さらに強くなる。 「そりゃあ・・・こちらが計算の誤りを指摘して、調査をすると言ってから納税者が修正申告書を提出するのだから、「更正を予知しないでした申告」には該当しないだろう」 渕崎統括官は、一瞬、考えてから言う。 国税通則法65条5項では、次のように書かれている。 「そうすると・・・」 山口調査官が腕を組んで、考える。 「もし私が、坂口工業の計算誤りに対して、この通達のように自発的な見直しを要請することで、修正申告書の提出を要請した場合・・・もちろん相手方には「これは行政指導です」と伝えるのですけど・・・」 山口調査官は渕崎統括官の顔を見る。 渕崎統括官は、国税通則法が載った「税務六法」を見ている。 「それはもちろん、過少申告加算税は課せられないだろう・・・。わざわざこの関係通達1-2にも「これらの行為のみに起因して、修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は源泉徴収に係る所得税の自主納付があった場合には、当該修正申告書等の提出等は更正若しくは決定又は納税の告知があるべきことを予知してなされたものには当たらないことに留意する」と書いてあるのだから・・・」 渕崎統括官は、山口調査官に応える。 「そうすると、おかしいですね・・・」 山口調査官は、頸を傾げる。 「何がおかしい?」 「だって、同じ計算の誤りで、税務署が「税務調査をする」と言えば過少申告加算税が課せられ、「行政指導」と相手に伝えれば、課せられないということが・・・」 「それは・・・税務調査をするという前提で計算の誤りを伝えるのだから、その後、修正申告書が提出されたら、国税通則法65条5項は適用されないだろう」 渕崎統括官のコメントに、山口調査官は、しばし沈黙した。 (つづく)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第7回】 「建物を評価する」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 〔不動産(土地・建物)の評価〕 今回から3回にわたって不動産(土地・建物)の評価について学んでいくが、本連載では相続税における評価を説明していくこととする。 なお、遺産分割協議においては、厳密には相続税評価額でなく時価を基礎として話合いを行うことが理論的であることから、土地の時価については相続税評価額を公示価格ベースに変換するため、相続税評価額を80%で除した金額(*1)を時価とすることも実務上は行われる。 なお、不動産(土地・建物)の評価のうち、今回は建物の評価(相続税評価)について見ていく。 〔建物の評価方法〕 相続税評価は、実務的には国税庁の財産評価基本通達(以下「評基通」)に従って評価を行うことがほとんどである。 建物の評価については、固定資産税評価額をもって相続税評価とすることとされている(評基通89)。 ただし、貸家の場合には、以下の算式で評価を行うこととされている(評基通93)。 実際の実務を経験していないとイメージしづらいと思われるため、具体的に見ていくこととする。 〈固定資産税課税明細書〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(東京主税局ホームページへ)。 (東京主税局ホームページより) 上図は、ある建物の固定資産税評価額を示している。 この資料上、建物の固定資産税評価額は「価格」という欄に表示されている(下拡大図参照)。したがって、この建物の相続税評価額は、固定資産税評価額である6,000,000円となる。 なお、この建物を他人に賃貸している場合には、以下のように相続税評価額が計算される。 〔借家権割合について〕 借家権割合は、毎年公表される財産評価基準書(都道府県毎)に記載がある(*2)。 なお、すべての都道府県で借家権割合は一律30%とされている。 〔賃貸割合について〕 賃貸割合は、以下の算式で計算する(評基通93、26(2))。 つまり、賃貸している部分の床面積の比率(貸していない部分がある場合、その部分は除く)となる。 戸建賃貸の場合では、課税時期において、貸している場合100%であり、貸していない場合0%となる(*3)。またアパート賃貸の場合には、課税時期において、全室賃貸していれば100%であり、一部賃貸していない場合(親族が使用している場合など)には、その部分の床面積分だけ賃貸割合が減少することになる(*4)。 建物の相続税評価は、固定資産税評価額(賃貸している場合には固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合))となるが、必ずしも建物を一人で単独所有している場合だけではない。つまり、共有している場合(*5)や、区分所有している場合(*6)もある。 共有の場合には、建物の相続税評価額に共有の持分割合を乗じることで、相続税評価額が計算される(評基通2(なお、共有の持分割合は建物の登記簿に記載がある))。 区分所有の場合には、建物全体の相続税評価額を基に、各部分の使用収益等の状況を勘案して計算した各部分に対応する価額によって評価する(評基通3)。 具体的には、区分所有の対象となる部分ごとに固定資産税評価額が付されているため、それを基礎にして相続税評価を行う(*7)。 (了)
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載7】 路線価図の読み方(4) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 道路と建物 (二)道路とは――道と道路 (三) セットバックの減額補正 図表1(ア) (イ) 図表2 普通住宅地区 図表3 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (四) 計画道路予定地の減額補正 図表4 道路予定地に関する補正率表 図表5 普通商業・併用住宅地区 図表6 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載40〕 外国子会社への出向者の 帰国後の現地所得税を 内国法人が負担した場合の取扱い 税理士 郭 曙光 内国法人が社員を外国子会社に出向させ、社員の現地における所得税相当額を負担するというケースが見受けられるが、そのようなケースにおいて、社員が出向を終えて帰国し、帰国後に、外国子会社における勤務期間の給与に係る現地の所得税相当額を内国法人が負担した場合には、その負担額が内国法人からの国内における給与として源泉徴収の対象となる、という裁決(東裁(所)平23年第7号、平成23年7月6日)が出されている。 本稿においては、この裁決の内容を確認した上で、上記のようなケースとその類似ケースにおいて、内国法人が出向者の現地所得税相当額を負担した場合の取扱いについて、解説と検討を行うこととする。 1 本件裁決における海外勤務者給与に関する事実関係 本件裁決における事例(以下、「本件」という)における内国法人は、海外勤務規定や覚書等において、海外出向社員に対する海外勤務者給与について、次の図に示す処理を行っている。 上記の図から分かるとおり、外国子会社が負担して支給する給与に対する現地の所得税は、外国子会社が社員名で納税を行い、内国法人が負担して支給する給与に対する現地の所得税は、内国法人が社員名で納税を行うこととしている。 この内国法人の社員名による納税は、この社員の帰国後に行われている。 内国法人は、この納税に関しては、給与の支給時に、我が国の所得税及び住民税の負担水準と同様の水準の負担が生ずるものと考えて納税額を計算し、未払費用を計上している。そして、納税時に、この未払費用の計上を修正し、その上で、不足分の納税額を含めて、納税額の総額を給料として計上している。 2 双方の主張の相違と本事案の争点 原処分庁は、帰国した社員が負担すべき外国所得税額を内国法人が負担したことによる経済的利益は、内国法人が雇用関係に基づいて社員に支給する給与等に該当し、その外国所得税額を現実に納付した時に経済的利益を供与したとして、内国法人に源泉徴収義務がある、と主張した。 これに対して、請求人(内国法人)は、海外勤務規定に海外出向社員の外国所得税額を内国法人が負担することがあらかじめ定められていることや外国所得税額が帰国した社員の海外勤務中に支給される給与等の手取保証額を基礎したグロスアップ計算により算出されていることから、外国所得税額に相当する給与等は手取保証額である給与等と一体であり、その手取保証額である給与の支給時に生じた所得、すなわち、帰国した社員の非居住者期間に生じた国外源泉所得に該当し、内国法人に源泉徴収義務はない、と主張した。 要するに、外国子会社に出向した社員が帰国した後に内国法人が納付したその社員の海外勤務中の給与に係る外国所得税額の負担による経済的利益は、その社員の非居住者であった期間中に生じた所得であるのか、あるいは、居住者となった時以後の所得であるのか、ということが本件の主な争点となっている。 3 国税不服審判所の裁決 国税不服審判所は、海外勤務規定等に内国法人が外国所得税額を負担する旨を定めているものの、負担時期に関する定めがないことや手取保証額である給与の支給時において納付すべき外国所得税額が確定していない等の理由から、内国法人が外国所得税額を現実に納付した時に、社員が外国所得税額に係る租税債務の消滅による経済的利益を享受したとし、内国法人が納付した外国所得税額による経済的利益は、その社員が日本の居住者となった以後の所得に該当するとして、内国法人に源泉徴収の義務がある、という裁決を下した。 ただし、本件の外国所得税額を納付したことによる経済的利益は、内国法人が未払費用として計上した金額を超える部分の金額となるとして、更正処分の一部を取り消した。 4 検討 上記3において述べたとおり、この裁決においては、内国法人が外国所得税額を見積計上した金額(未払費用として計上した金額)を超える部分の負担額のみが社員が居住者となった時以後の所得に該当する、としている。 この裁決に従えば、内国法人が正しく外国所得税額を見積計上していれば課税は行われない、という結論となる。 このような結論は、納税者が実務対応をする上では、歓迎するべきものと言ってもよい。 納税者は、我が国における年末調整と同じように、外国所得税の額の計算を正しく行って未払費用又は預り金を計上すればよいわけである。 しかし、本来、どのような判断が適切であるのかという点に関しては、疑問が残ることとなった。 内国法人が支給する給与が非居住者である期間の所得となるのか、あるいは、居住者である期間の所得となるのかという問題は、経理の仕方の如何によって結論が変わるものではないはずである。 本件における海外勤務規定や覚書等の内容の詳細が分からないため、確たることは言えないが、本件においては、仮に、社員が帰国後に内国法人において勤務していなかったとしても、内国法人は海外勤務規定や覚書等によって社員の外国所得税を負担しなければならなかったのではないかと想定される。 内国法人による外国所得税の負担がその内国法人の下における社員としての勤務にかかわらず行われるものであるとすれば、その負担額の全額を非居住者である期間の勤務に基因する外国源泉所得とすべきであると考える。 本件においては、内国法人による外国所得税の追加負担額に相当する金額が外国において給与として課税対象となっておらず、我が国においても課税対象としないということであれば、いずれの国においても課税されない給与があることを容認することとならざるを得ないことを背景として、外国所得税額の追加負担額に相当する金額を我が国における課税対象とするという判断を下したものではないかと想定される。 仮に、本件がそのような事情にあるとすれば、上記の裁決は、行政判断としては妥当であるとの評価がなされることになるものと思われるが、理論的には難しい課題を残すものとなったと評価されることにならざるを得ないと考える。 (了)