事例で検証する
最新コンプライアンス問題
【第7回】
「過重労働とコンプライアンス
-行政・立法と大手広告代理店事件」
弁護士 原 正雄
2015年12月25日クリスマス早朝、大手広告代理店の新入社員の女性が自ら命を絶つという痛ましい事件が起こった。同事件は、翌2016年9月30日、労基署から「長時間労働で精神障害を発症し、自殺」として労災認定を受け、同年10月7日、遺族が記者会見を開いて報道されたことで、広く世間に知られた。
同社では、1991年にも従業員が自ら命を絶つという事件が起きており、2000年3月、最高裁が同社の責任を認めている。その事件を受けて、行政や立法は、2001年以降、長時間労働の是正に向けた取り組みを行っており、特に近年は、安倍内閣が「働き方改革」の実現を目指している。本事件は、そうした中で起きた。
以下、政府の取り組みと本事件の位置付けを確認する。
1 1991年の事件
1991年8月、今回の事件が起きたのと同じ大手広告代理店で、入社2年目の社員(24才)が自ら命を絶った。同社員は長時間労働を続け、直前は3日に1回、午前6時30分まで残業し、家に帰れず会社近くで宿泊する状況であったとのことである。
1998年、同事件が労災認定された。遺族が会社を訴え、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の全てが会社の責任を認めた。特に、最高裁判所が、会社に「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」があり上司の配慮不足が「過失」であった、と認定したことは、その後の行政や立法に大きな影響を与えた(最判2000年3月24日民集54巻3号1155頁。2000年6月、差戻し後の高等裁判所で、会社が約1億6,800万円を支払い陳謝する、との和解が成立)。
2 立法や行政の取り組み
(1) 行政による対応の強化
2001年12月12日、厚生労働省は「脳・心臓疾患の認定基準」を改正し、月100時間以上の時間外労働で、原則として過労死の労災認定をするとした。
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