役員インセンティブ報酬の分析
【第8回】
「ストック・オプション②」
-平成29年度税制改正の影響-
弁護士・公認会計士 中野 竹司
今回はストック・オプションに対する平成29年度税制改正の影響についてまとめてみたい。
1 役員報酬のためのストック・オプションの概要
平成29年度税制改正前のストック・オプションについては、すでに本連載の【第3回】において検討を行っている。税制改正による影響以外は、本稿執筆時点でも変更はないが、簡単に復習しよう。
ストック・オプションは、自社株式オプション、すなわち新株予約権といった自社の株式を原資産とするコールオプションを利用したもので、企業がその従業員等に、報酬として自社株式オプションを付与する報酬制度である。
ストック・オプションは、会社法制定時にその246条2項において、役務提供の対価と相殺等することにより新株予約権を付与できることが明らかにされ、またこれに伴い、税務上の取扱いが平成18年度税制改正等によりある程度明らかにされたことから、他のインセンティブ報酬制度よりも早い時期から普及が進んだ。
ストック・オプション制度の具体的な形態としては、株式報酬型ストック・オプション、業績等条件付ストック・オプションや有償ストック・オプションなどがあり、業績連動の中長期インセンティブとして、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる「1円ストック・オプション」)が、退職慰労金制度を廃止し、その代替として付与する目的で普及してきた。
ストック・オプションは、例えば株式公開前に従業員へストック・オプションを与え、株式公開時にこれを行使した後、株式売却益を得ることや、公開後は株価が上昇することによりやはり株式売却益を得ることが可能となる方法であり、手元現金が不足している企業が、従業員や役員に対するインセンティブを付与することができる等のメリットがある。
しかし、ストック・オプションは、これを行使して株式を取得・売却することで初めて報酬が実現する手法である。このため、役員が手に入れる現金金額は株価の上昇と直結し、ストック・オプションの行使価格が株価を上回っている状況では行使するインセンティブが働かないという点で難点があり、役員が中長期的な業績向上よりも、株価上昇を狙った短期的な利益計上に走りがちであるという問題点が指摘されている。また、株価が低迷している状況下では、ストック・オプションは業績連動の機能を果たせないという限界もある。
2 税法上の視点(平成29年度税制改正後)
(1) 平成29年度税制改正の影響
平成29年度税制改正前のストック・オプションは、法人税法34条1項における役員給与の損金不算入制度の中には入らず、それとは別に損金算入の可否を判断するという枠組みになっており、税制非適格のストック・オプションは原則損金算入可能となっていた。
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