企業不正と税務調査
【第7回】
「従業員による不正」
(1) 経理部門社員による横領
税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝
今回から3回にわたって、従業員による不正について、横領事件を中心に見ていきたい。
本連載【第1回】で引用した事例が2例とも従業員による横領であったように、税務調査をきっかけにして、経営者・顧問税理士・会計監査人が気付かなかった従業員不正が発覚することは少なくない。
また、犯人とされた従業員は、概してまじめで、休みも少なく、業務に精通しており、周囲からの信頼が厚い場合が多い。
彼らは、どのようにして不正への道に足を踏み入れ、いかに巧妙な隠蔽工作をし、にもかかわらず、国税調査官が発見できたのはなぜか。
具体的な手口を見る前に、まず、こうした不正がどのような犯罪を構成するか、刑法の条文で確認したい。
従業員による不正で成立する犯罪は、詐欺又は業務上横領であり、それぞれ次のように規定されている。
刑法246条1項(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
246条の2(電子計算機使用詐欺)
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。
253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
従業員が勝手に、会社に帰属する金銭などの資産を私的に流用してしまった場合は、詐欺か横領の罪名で刑事告訴されることになり、今回取り上げる経理担当者による不正は、上記の「電子計算機使用詐欺」に問われることもあるわけだが、本稿では、犯罪の構成要件を解説することが目的ではないので、こうした私的流用行為を広く「横領」として記述する。
1 経理部担当者による横領の特徴
ここでは、昨年10月に発覚した文具製造会社の事例を参照したい。
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