事例で検証する
最新コンプライアンス問題
【第18回】
「地面師事件とコンプライアンス体制の充実(上)」
弁護士 原 正雄
2017年6月、S社が詐欺師集団に騙され、不動産の売買代金として金63億819万3,309円を騙し取られるという事件が起こった。いわゆる「地面師事件」である。
本件は2018年1月24日に社外役員らによって当時の社長の責任を指摘する調査報告書が作成された。ところがその後、当時の会長と社長の対立が生じ、会長が会社を去る事態へと発展した。さらにその後、当時の社長の責任を問う株主代表訴訟が提起されるなどの経緯を辿った。S社は、2020年12月7日、「総括検証報告書」を公表した。同報告書は、本件の責任を社長のみに問うのは妥当ではなく、過去からの経営者共通の問題であるとしている。
本件にはコンプライアンスの観点から参考になる点が多々見られる。本稿で本件の全てについて述べることはできないが、「総括検証報告書」をベースにいくつかの論点をピックアップし、「上」と「下」の構成で2回にわたって解説したい。
1 本件の始まり
(1) 公証人による認証
本件は、東京の五反田駅近くの不動産(以下「本件不動産」という)を舞台とするものである。本件不動産は東京都心近くの優良物件であり、多くの不動産業者が開発を希望していたが、所有者X氏(女性)が売却を拒み、開発されずに残されていた。不動産業者の中では有名な物件であった。そうした中で地面師グループは、本件不動産の所有者として偽Xを仕立て上げた。
本件は、2017年3月頃、地面師グループから本件不動産の売却の話を聞いたH氏が、S社の東京マンション事業部の営業次長に話を持ち掛けたのが始まりであった。H氏が所有者X氏から本件不動産を60億円で購入し、それをS社に70億円で転売する、との話であった(厳密にはH氏の関係する法人であるが、省略する。以下同じ)。
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