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[一般会員公開]組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第2回】

筆者:佐藤 信祐

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組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨

【第2回】

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

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連載の目次はこちら

《第1章》
平成13年度税制改正前の議論

1 平成13年度税制改正前の状況

平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」が公表された。この報告書では、同年5月に、会社分割法制を創設する商法改正が行われていることがきっかけであったと記載されている。

組織再編税制が導入される前の合併に対する税制には、明確なものが存在せず、実務上の解釈により対応していたように思われる。そして、現物出資に対する税制も圧縮記帳のみが認められており、基本的には時価取引であったと思われる。

実際に、第7回法人課税小委員会(平成12年6月2日)に提出された資料を見てみると、以下のように記載されている。

Ⅲ 現物出資(子会社設立)・合併・みなし配当に係る現行税制の概要

1 現物出資(子会社設立)に係る現行税制の概要

法人が、現物出資により子会社を設立した場合において、次の要件等を満たすときは、圧縮記帳により出資資産の含み益に対する課税を繰り延べることができる(法人税法51、同施行令93)。

① 子会社の株式等の保有割合が95%以上であること。

② 子会社の設立時に、株式等の保有割合が95%未満となることが見込まれていないこと。

③ 子会社が現物出資により受け入れた資産の受入価額を親会社の帳簿価額以下としていること。

なお、現物出資に代えて、金銭出資により子会社を設立し、その後資産を譲渡するいわゆる変態現物出資についても、圧縮記帳により出資資産の含み益に対する課税の繰延べを認めるものとして取り扱われている(法人税基本通達10-7-1)。

2 合併に係る現行税制の概要

〇 合併法人が、合併により受け入れた資産の評価益を計上した場合には、その評価益のうち、被合併法人の株主に交付されたと考えられる部分については、被合併法人の清算所得として課税し、合併法人に留保されたと考えられる部分については、合併法人において合併差益として課税される(法人税法27、112、同施行令9、26)。

〇 被合併法人の株主については、交付を受ける株式・金銭等に利益積立金及び合併により引き継がれた資産の含み益から成る部分があればみなし配当とされ、また金銭等の交付を受けた場合には、旧株の譲渡益が生ずることがある(法人税法24、61の2、同施行令119の8)。

(以下省略)

Ⅳ 現物出資(子会社設立)・合併・みなし配当に係る現行税制の論点

1 現物出資(子会社設立)に係る現行税制の論点(例)

〇 含み損のある資産を現物出資して子会社を設立する場合には、含み損が損金となる一方、含み益のある資産を現物出資して子会社を設立する場合には、圧縮記帳により課税所得が生じない仕組みとなっている。

〇 親会社が圧縮記帳により損金計上できる金額は、譲渡利益金額の範囲内であれば任意とされている。

〇 子会社株式の保有割合要件については、商法上、会社設立のための発起人が7人以上とされていた点を考慮し、100%とせず95%以上とされたが、現在では、商法改正により発起人1人でも会社設立が可能になっている。

2 合併に係る現行税制の論点(例)

〇 株式の買取りや営業譲渡により企業買収を行う場合には、株式や資産の時価取引としてそれらの譲渡益に対する課税が行われるが、合併により企業買収を行う場合には、株主、合併法人及び被合併法人のいずれにおいても課税繰延べを行うことができる仕組みとなっている。

〇 被合併法人において過去に損失が生じたことなどにより合併時に欠損金(利益積立金のマイナス)がある場合には、合併により受入資産の評価益を計上しても、その欠損金の額に達するまでの金額について課税が行われないことになる。

〇 被合併法人の青色欠損金は、どのような合併の場合であっても合併法人への引継ぎを認められない仕組みとなっている。

〇 合併法人は、合併による受入資産を時価以下で任意に評価換えして評価益を計上できるものとされており、長期間にわたって保有する固定資産の含み損を短期間で処分する棚卸資産や有価証券の含み益によって補てんすることができる。

〇 清算所得とみなし配当の金額は、合併法人から交付を受ける株式の額面金額に基づいて計算するものとされているが、額面金額を基準としてこれを計算する理由が乏しい。

3 みなし配当に係る現行税制の論点(例)

〇 資産の交付がない場合のみなし配当は、受取配当等の益金不算入の対象となり課税対象とならない一方で、そのみなし配当相当額だけ株式の帳簿価額が増額されることから、その株式の時価法による評価益の過少計上や評価損の計上あるいは譲渡をした場合の譲渡益の過少計上や評価損の計上を通じて課税所得を減少させる結果となる。

(以下省略)

このような平成13年度税制改正前の状況は、現行法人税基本通達にもその痕跡が見受けられる。具体的には、同通達12の2-1-1(注1)では「適格合併又は適格分割に係る被合併法人又は分割法人に繰越欠損金がある場合において、合併法人又は分割承継法人がその繰越欠損金の全部又は一部に相当する金額を営業権として受け入れているときであっても、当該営業権については移転がなかったことになるのであるから留意する」とされている。

すなわち、「被合併法人において過去に損失が生じたことなどにより合併時に欠損金(利益積立金のマイナス)がある場合には、合併により受入資産の評価益を計上しても、その欠損金の額に達するまでの金額について課税が行われないことになる。」ことを懸念した通達であると言えよう。

これは、当時の商法において、時価以下主義による資産の受入れが可能であったことが原因である(※1)。現行企業結合会計では考えられない処理ではあるが、同通達が制定された平成14年2月15日では、このような会計処理が行われる可能性があったということが言える。

(※1) 現行税法であっても、事業譲渡を行った後に、事業譲渡法人を清算した場合には、法人税法59条3項に規定する欠損金額(「特例欠損金」「期限切れ欠損金」と称される)の範囲内であれば、含み益に対する課税がされないが、時価以下主義ではなく、時価取引であることから、同項の制度趣旨に反していない限り、問題視されるべきものではないと考えられる。

また、現物出資の制度も、会社を設立する場合の圧縮記帳のみが認められており、企業が組織再編成を円滑に行うための阻害要因になっていたことは容易に想像ができる。会社分割法制が導入されたことからも、租税法上も、適格組織再編成の制度を導入していく必要があったということが言える。なお、現行地方税法73条の7第2号の2、同施行令37条の14の2に定められている不動産取得税の特例(※2)では、類似の制度が残されており、会社分割の制度が整備された現在では、使いにくい内容となっている。

(※2) 被現物出資法人の設立時に、次に掲げる要件が充足される場合に不動産取得税が課されないこととされている。

① 現物出資法人が、被現物法人の発行済株式総数の100分の90以上を所有していること。

② 被現物出資法人が、現物出資法人の事業の一部の譲渡を受け、当該譲渡に係る事業を継続して行うことを目的としていること。

③ 被現物出資法人の取締役の1人以上が、現物出資法人の取締役又は監査役であること。

このように、企業が組織再編成を円滑に行えるようにする必要がある一方で、法人課税小委員会の指摘からは、圧縮記帳のような恩典として組織再編税制を位置づけるのではなく、あるべき制度として位置づけようとしていたことが読み取れる。そのため、かつてないほどの詳細な税制が設けられることになり、組織再編税制が難解税制のひとつとして挙げられるようになったと言える。

*   *   *

次回では、「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の内容について触れていきたい。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨

《序章》・《第1章》(第1回~第8回)

【第1回】

《序 章》

1 はじめに

2 組織再編税制の読み方

【第2回】

《第1章》 平成13年度税制改正前の議論

1 平成13年度税制改正前の状況

【第3回】

2 会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方

(1) 基本的な考え方

【第4回】

(2) 資産等を移転した法人の課税

 移転資産の譲渡損益の取扱い

(ⅰ) 概要

(ⅱ) 企業グループ内の組織再編成

【第5回】

(ⅲ) 共同事業を行うための組織再編成

 資本金の部の金額の取扱い

【第6回】

(3) 株主の課税

 株式の譲渡損益の取扱い

 みなし配当の取扱い

【第7回】

(4) 各種引当金の引継ぎ等

(5) 租税回避の防止

(6) その他

(7) 総括

【第8回】

3 現物出資の課税の特例制度

(1) 制度の概要

(2) 平成10年度税制改正

《第2章》 平成13年度税制改正(第9回~第27回)

【第9回】

1 平成13年度改正税法のすべて(法人税法)

(1) 研究対象

(2) 制度創設の趣旨

(3) 制度の概要

【第10回】

(4) 税制適格要件

 適格合併

(ⅰ) 金銭等不交付要件

(ⅱ) 100%グループ内の適格合併

【第11回】

(ⅲ) 50%超100%未満グループ内の適格合併

(ⅳ) 共同事業を営むための適格合併

【第12回】

 適格分割

(ⅰ) 分割型分割と分社型分割

(ⅱ) 金銭等不交付要件

【第13回】

(ⅲ) 100%グループ内の適格分割

(ⅳ) 50%超100%未満グループ内の適格分割

イ 50%超100%未満グループの判定

【第14回】

ロ 主要資産等引継要件

ハ 従業者引継要件

ニ 事業継続要件

(ⅴ) 共同事業を営むための適格分割

 適格現物出資

【第15回】

(5) 組織再編税制における移転資産等の譲渡損益の取扱い

 移転資産等の譲渡損益の計上に係る取扱いの原則

【第16回】

 適格組織再編成の場合の特例

(ⅰ) 適格合併及び適格分割型分割

(ⅱ) 適格分社型分割及び適格現物出資

【第17回】

(6) 資本の部の金額の取扱い

 概要

 合併

(ⅰ) 資本積立金額

(ⅱ) 利益積立金額

【第18回】

 分割型分割

(ⅰ) 分割法人の税務処理

(ⅱ) 分割承継法人の税務処理

 分社型分割、現物出資

【第19回】

 減資又は残余財産の一部分配・株式の消却・退社又は脱退等

(ⅰ) 株式の消却を伴わない無償減資

(ⅱ) 株式消却を伴わない有償減資、残余財産の一部分配

(ⅲ) 株式消却を伴う有償減資、無償減資、社員の退社又は脱退

(7) みなし配当の取扱い

(8) 株主等の旧株の譲渡損益の取扱い

【第20回】

(9) 個別項目(概要)

(10) みなし事業年度

(11) 受取配当等の益金不算入

【第21回】 1/18公開

(12) 減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法

 概要

 期中損金経理額の損金算入

 損金経理をした金額

 取得価額

 取得日

 中古耐用年数

【第22回】 1/25公開

(13) 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入

(14) 貸倒引当金

【第23回】 2/1公開

(15) 青色欠損金

【第24回】 2/8公開

(16) 特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入

(17) 租税回避行為の防止

(18) 総括

【第25回】 2/15公開

2 平成13年版改正税法のすべて(その他の税目)

(1) 所得税法

(2) 登録免許税法

(3) 消費税法

(4) 国税通則法・国税徴収法

(5) 地方税法

【第26回】 2/22公開

3 朝長鑑定

(1) はじめに

(2) 法人税法施行令112条7項5号の解釈

 みなし共同事業要件の制度趣旨

 特定役員引継要件の制度趣旨

(ⅰ) 「特定役員」

(ⅱ) 「特定役員」の就任時期

(ⅲ) 「特定役員」の在任期間

(3) 完全支配関係継続要件における「継続することが見込まれている」の解釈

【第27回】 3/1公開

4 阿部泰久氏のコメント

(1) 概要

(2) 企業組織再編税制の考え方と実務検討(山本守之税理士との対談)

 金銭等不交付要件

 50%超100%未満グループ内の組織再編

 主要資産等引継要件

 従業者引継要件

 事業関連性要件

 事業規模要件及び特定役員引継要件

 みなし共同事業要件

《第3章》 平成14年度から平成17年度までの税制改正(第28回)

【第28回】 3/8公開

1 平成15年度税制改正

(1) 2段階組織再編

(2) 資本積立金額及び利益積立金額の計算の厳格化

(3) 宥恕規定の導入

(4) 耐用年数

2 平成16年度税制改正

3 総括

《第4章》 平成13年から平成17年までの議論(第29回~第32回)

【第29回】 3/15公開

1 法人税基本通達の公表

(1) 1株に満たない端数の処理

(2) 名義株

(3) 従業者の範囲

(4) 主要な事業、売上金額等に準ずるもの

【第30回】 3/22公開

(5) 特定役員の範囲

(6) 主要な資産及び負債の判定

(7) 従業者が従事することが見込まれる業務

(8) 3社合併の取扱い

(9) 特定資産譲渡等損失

【第31回】 3/29公開

2 五枚橋實氏の見解

(1) はじめに

(2) 合併交付金

(3) 未経過固定資産税

(4) 組織再編成前の株式の異動

(5) 支配関係継続要件

【第32回】 4/5公開

(6) 事業継続要件

(7) 従業者引継要件

(8) 事業規模要件

(9) 包括的租税回避防止規定

《第5章》 平成18年度税制改正(第33回~第39回)

【第33回】 4/12公開

1 概要

2 会社法の制定に伴う整備

(1) 資本の部の整備

 資本の部の構成

 自己株式

(a) みなし配当が生じる場合

(b) みなし配当が生じない場合

(c) その他

【第34回】 4/19公開

 DES(デット・エクイティ・スワップ)

 2以上の種類株式を発行する法人が自己株式の取得等をした場合の減少資本金等の額

 非適格合併等に伴い移転を受ける資産等に係る調整勘定等の損金算入制度等整備の創

 株式交換等に係る税制の改正に伴う整備

 支払配当に関する整備

 その他の整備

【第35回】 4/26公開

(2) 有価証券の譲渡損益

 取得請求権付株式等の請求権の行使等による株式の譲渡

 新株予約権付社債に付された新株予約権の行使等による社債の譲渡

 組織再編成による新株予約権の処理

 有価証券の取得価額

 有価証券の譲渡損益の益金又は損金算入時期

【第36回】 5/10公開

(3) 分割型分割その他の組織再編税制に係る所要の整備

 分割型分割の定義

 分割型分割の間接交付化に伴う整備

 移転負債の範囲に含まれる新株予約権交付義務

 反対株主の株式買取請求

 議決権のない株式

【第37回】 5/17公開

3 株式交換等に係る税制

(1) 改正の概要

(2) その後の影響

4 新株予約権を対価とする費用

5 新株予約権の有利発行又は不利発行

【第38回】 5/24公開

6 欠損等法人

【第39回】 5/31公開

7 非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金不算入

(1) 導入の経緯

(2) 非適格合併等の範囲

(3) 資産等超過差額

《第6章》 平成19年度税制改正(第40回)

【第40回】 6/7公開

1 三角組織再編成

2 事業の明確化

3 計算要素にゼロ又はマイナスがある場合の規定の整備

4 その他

《第7章》 平成20年度から平成21年度までの税制改正(第41回)

【第41回】 6/14公開

1 平成20年度税制改正

(1) 1株に満たない端数

(2) 全部取得条項付種類株式

(3) 株式交換又は株式移転により増加する資本金等の額

(4) 自己株式の取得により減少する資本金等の額

2 平成21年度税制改正

・・・  以下、順次公開 ・・・

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

       

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