〈ポイント解説〉
役員報酬の税務
【第82回】
「役員個人所有住宅を借り上げて役員社宅とすることの可否」
税理士 中尾 隼大
【 質 問 】
当社は、役員が所有する住宅(築10年・150㎡程度)を借り上げて、その役員にそのまま社宅として賃貸しようと考えています。適正に計算した賃貸料相当額を役員から収受して運用する予定です。
何か問題はありますか。
【 回 答 】
この場合には、社宅としての給与課税を非課税とする取扱いの適用には強い疑義があり、税務上は否認されるリスクが高いと考えます。国税庁が公表している役員社宅の取扱いは、法人が役員に住宅を貸与する場合の賃貸料相当額を示すものですが、役員本人が既に所有する住宅を法人が形式的に借り上げ、同役員に再貸与する場面まで予定したものとはいい難いためです。以下にその理由を解説します。
○●○● 解 説 ●○●○
(1) 社宅家賃の設定
法人が居住用不動産を所有又は借り上げて、社宅として従業員に対して貸与することで、法人側では減価償却費や借上げ家賃等を損金算入でき、従業員側では福利厚生にもなるということは、一般によく知られている。
同様に、当該法人の役員に対して貸与することで、役員社宅として運用することも一般に行われているだろう。この場合において、以下の計算式にて計算した賃貸料相当額を、役員から受け取っていれば、給与として課税されない(所法36、所令84の2、所基通36-15、36-40~41)(※1)。
(※1) 床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して豪華社宅と判定されれば、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額となる。
【小規模な住宅である場合の賃貸料相当額】
次の①から③までの合計額が賃貸料相当額となる。
① (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
② 12円×(その建物の総床面積(㎡)/(3.3㎡))
③ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
【小規模な住宅でない場合の賃貸料相当額】
① 自社所有の社宅の場合
次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じる。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
② 他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記①で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額となる。
このうち、小規模な住宅でない場合の賃貸料相当額の計算における②では、法人が他者から借り受けた住宅等を貸与する場合に、法人が家主に払う家賃の50%の金額(又は自己所有の場合の賃貸料相当額の多い方)を受け取れば、給与として課税されないとされている。
(2) 借上げと賃貸を同時に行うことの是非
上記の取扱いの利用を想定したのが、今回の質問である。具体的な金額を当てはめると、役員が元々所有して居住している住宅につき、法人が借り上げて相場家賃30万円を支払い、その支払家賃の50%である15万円を役員から収受すること等が想定される。この場合、事実上はその差額である15万円を法人が負担する家賃として所得の圧縮ができるようにも思われる。これが叶うのであれば、役員にとっても住宅維持費が軽減されることとなる。
このようなことを実行した場合に、税務上の取扱いはどのようになるのだろうか。筆者が調査した限り、直接これを示す法令、通達又は裁決例や裁判例を確認することができないため、社宅の趣旨や沿革を確認し、そのリスクを検討する。
福利厚生としての社宅の起源を確定的に示すものはないものの、「いつの時代も、何らかの事業を進めようとする者がその働き手の衣食住などを用意するのは自然なこと」として、身分制社会の時代からそれがみられるとした上で、戦前から戦後、そして現在に至るまで、寄宿舎や住宅の存在感が大きいことを示唆する見解がある(※2)。また、戦後の困窮を背景に「企業の福利厚生も衣食住の最低水準をどう確保するかが大きな課題」と指摘し、「福利厚生は基本的に企業の正規従業員にだけ与えられるので、退職すればその便益を享受できなくなる。したがって福利厚生はそれ自体として労働者の企業への定着を促すことになり、企業が必要とする人材の安定的確保をひとつの課題とする雇用管理の一環を形成する。この点は特に生活の基礎的条件を成す・・・住宅について顕著にあらわれる」として、社宅の有用性を指摘するものがある(※3)。
(※2) 榎一江「福利厚生の起源」日本労働研究雑誌No780(2025)4頁以下。
(※3) 能塚正義「福利厚生の起業福祉への展開と労働者生活」同志社大学經濟學論叢45巻3号(1994)253・256頁。
これらに鑑みれば、社宅の趣旨としては、法人が役員や従業員の住環境を維持して居住の安定を図ることであり、法人にとっての利があるとして実施されていると思われる。この前提に立てば、役員自身で既に住宅を有しており、それを法人に賃貸した上で、同物件を役員が法人から賃借することは、従来から浸透する社宅の趣旨に合致する適用場面とはいい難いと思われる。何より、上記(1)で確認した賃貸料相当額の計算は、住宅を提供する経済的利益を受ける役員が、給与として課税されない水準を示すものであるため、役員が自己所有住宅を法人に貸し付けることまで予定したものではない。そのため、実質的には役員が従前どおり自己所有住宅に居住している状態に変化はなく、法人が住宅を確保して役員に提供しているという実態にも乏しいと考えられる。以上から、税務上は社宅としての非課税の取扱いの適用について慎重に判断すべきであり、否認される可能性は相応に高いものと考えられる。
つまり、本件のようなスキームでは、法人は役員の居住の便宜を図るために住宅を確保しているのではなく、役員が既に所有している住宅を形式的に借り上げているにすぎない。この点で、所得税基本通達36-40及び同通達36-41が予定する社宅の運用とは事実関係を異にすると思われる。
この場合において、差額部分については給与課税の対象と判断される可能性があり、また、その支給形態によっては定期同額給与等に該当せず、損金不算入となるリスクもある。なお、当該役員が住宅ローンを負っている場合において、金融機関との契約違反によって一括返済を求められる等のリスクも考えられる。
(3) 購入して賃貸する
これに対し、一般的に社宅を活用した節税策として散見するのは、役員が有する住宅を法人が購入し、その上で、当該役員の社宅扱いとする方法である。この場合には、役員から法人に所有権が移動することから、上記(2)のような問題は生じにくいものと思われる。
この場合においても、法人が役員から住宅を購入するという取引が前提となるので、利益相反取引に関する会社法上の手当て、適切な家賃の設定、社内規程や賃貸契約書の整備等を行うべきといえる。また、豪華社宅に該当する物件は別途問題となる。
さらに、この場合には家具やカーテン、食器等の生活用品を既に役員自身が購入しているはずであるため、これら家具等まで法人所有とすることには慎重であるべきである。仮に家具等も法人所有となれば、居住する役員が家具等を使用することによる経済的利益の問題も生じるからである。この点について争点となったのが、国税不服審判所平成21年10月28日裁決である(※4)。この事例では、役員は本件家具等の使用料名目での金員の支払はしていないため、経済的利益の供与があったとして納税者の主張が退けられている。
(※4) 裁決事例集78巻237頁。
実際に役員所有住宅を法人が取得して社宅とする場合には、住宅だけでなく家具等の取扱いについても十分留意すべきである。
〔凡例〕
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
法規・・・法人税法施行規則
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
消法・・・消費税法
消基通・・・消費税法基本通達
相法・・・相続税法
相基通・・・相続税法基本通達
財基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
通令・・・国税通則法施行令
地法・・・地方税法
地令・・・地方税法施行令
地規・・・地方税法施行規則
(例)法法34①一・・・法人税法34条1項1号
(了)
次回は8/20に公開予定です。





















