XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
2023年3月24日に金融庁より「令和4年度の有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。
レビュー結果の内容は、有価証券報告書のみならず、計算書類の作成においても参考となる箇所がある。
なお、本稿執筆時点では公表されていないが、近日中に「令和5年度の有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表されるため、公表された際には、適宜確認されたい。
1 収益認識注記
(1) 履行義務の内容及び履行義務の充足時点
〈指摘事項〉
➤会計方針の注記では、主要な事業における主な履行義務の内容及び履行義務の充足時点を注記する必要があるが、以下のとおり、不十分なケースがある。
➤主な履行義務の内容に関して、「商品の販売」と抽象的な注記に留まっている。
➤履行義務の充足時点に関して、「支配が顧客に移転した時点」と抽象的な注記に留まっている。
➤収益認識関係注記の収益の分解情報では、事業別に収益を分解しているが、会計方針の注記の「商品の販売」とこれらの事業との関係性を読み取ることができない。
〈留意事項〉
➤会計方針の注記において、主な履行義務の内容及び履行義務の充足時点に関して、企業固有の取引内容や契約条件に基づき具体的に注記する。
➤会計方針の注記において、少なくとも、収益認識関係注記の収益の分解情報やセグメント情報注記等との関係性を説明する。もしくは、収益の分解情報の区分等で主な履行義務の内容を注記する。
(2) 重要性等の代替的な取扱い
〈指摘事項〉
➤収益認識に関する会計基準の適用指針では、重要性等に関する代替的な取扱いが認められ、国内販売において、出荷時から商品の支配が顧客に移転するまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時などの一時点で収益を認識することができる。
➤国内取引については履行義務の充足時点は商品の納品時であるが、当該代替的な取扱いを適用し、出荷時点で収益を認識しているが、会計方針の注記において、出荷時点で収益を認識している旨のみを注記していて、履行義務の充足時点や代替的な取扱いを適用している旨の注記をしていないケースがあった。
〈留意事項〉
➤重要性等に関する代替的な取扱いを適用し、履行義務の充足時点と収益認識の通常の時点が異なる場合には、会計方針の注記において、その内容を適切に注記する。
(3) 一時点で充足される履行義務
〈指摘事項〉
➤会計方針の注記においては、一時点で充足される履行義務について、約束した財又はサービスに対する支配を顧客が獲得した時点を評価する際に行った重要な判断を注記する必要がある。
➤しかし、契約条件に照らすと商品の納品時に商品の支配が顧客に移転すると判断しているが、当該判断は一般的な内容であることから、重要性が乏しいと考え、当該判断に関する注記を省略していたケースがあった。
➤顧客との契約や履行義務の内容は企業ごとに異なるものであり、これに関する会社の判断の内容は、財務諸表利用者が会社の収益を理解する上で有用であり、重要性が乏しいとの判断は適切ではない。
〈留意事項〉
➤会計方針の注記においては、一時点で収益を認識する場合において、顧客に商品の支配が移転した時点のみならず、何故その時点が適切と判断したかについての判断内容を注記する。
(4) 一定の期間にわたり充足する履行義務
〈指摘事項〉
➤会計方針の注記において、一定の期間にわたり充足される履行義務は、(a)収益を認識するために使用した方法、及び(b)当該方法が財又はサービスの移転の忠実な描写となる根拠を注記する必要がある。
➤しかし、重要性が乏しいと判断し、上記の(a)と(b)についての注記を省略しているケースがあった。
➤これらの情報は、財務諸表利用者が一定の期間にわたり充足される履行義務に関する収益の認識方法やその判断を理解する上で有用であり、重要性が乏しいとの判断は適切ではない。
〈留意事項〉
➤会計方針の注記においては、一定の期間にわたり充足する履行義務については、(a)収益を認識するために使用した方法(インプット法又はアウトプット法など進捗度の具体的な測定方法)及び(b)当該方法が財又はサービスの移転の忠実な描写となる根拠(進捗度を測定する方法として何故その方法が適切と判断したのか)についても注記する。
(5) 顧客との契約から生じる収益以外の収益
〈指摘事項〉
➤顧客との契約から生じる収益については、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、又は顧客との契約から生じる収益の額を収益認識関係注記に注記する必要がある。
➤しかし、顧客との契約から生じる収益には「リース取引に関する会計基準」に基づく不動産賃貸収入が含まれていたが、それを区分して注記していないケースがあった。
➤不動産賃貸収入の金額に一定の重要性がある場合は、顧客との契約から生じる収益と区分して注記する必要がある。
〈留意事項〉
➤「収益認識に関する会計基準」の範囲外である「リース取引に関する会計基準」に基づく不動産賃貸収入や「金融商品に関する会計基準」に基づく金融収益等については、顧客との契約から生じる収益の額に含めてはならないため、収益認識関係注記おいては、顧客との契約から生じる収益と区分して「その他の収益」等の名称で注記する。
(6) 単一セグメントである場合や履行義務の充足時点が一時点である場合
〈指摘事項〉
➤収益認識関係注記において、顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して注記する。
➤したがって、収益の分解の区分方法を検討するにあたっては、単一セグメントであることや履行義務の充足時点が全て一時点であることのみを理由として収益を分解しないことは適切ではない。
〈留意事項〉
➤単一セグメントであっても、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析において、主要な製品別の分析を開示している場合には、同じ区分で分解することなどを検討する。
➤履行義務の充足時点が全て一時点であっても収益の分解の区分の開示を検討する。
➤検討の結果、収益を分解するべきものがなかった場合には、適切な検討を行ったことがわかる内容の注記をすることが望ましい。
(7) 契約資産及び契約負債の内容の説明
〈指摘事項〉
➤収益認識関係注記おいて、契約資産及び契約負債に関して、履行義務の充足の時期と通常の支払時期が契約資産及び契約負債の残高に与える影響を注記する必要がある。
➤しかし、重要性が乏しいと判断し、当該注記を省略しているケースがあった。
➤契約資産及び契約負債の残高には一定の重要性がある場合は、会社の重要性が乏しいとの判断は適切ではない。
〈留意事項〉
➤履行義務の充足の時期と通常の支払時期が契約資産及び契約負債の残高に与える影響を説明する上で、その前提として契約資産及び契約負債の内容を説明することが必要である。
➤履行義務の充足の時期と通常の支払時期との関係性を説明することで、財務諸表利用者は履行義務の充足の時期とキャッシュ・フローとの関係をより良く理解できる。
(8) 残存履行義務に配分した取引価格の総額等の注記における実務上の便法
〈指摘事項〉
➤収益認識関係注記において、残存履行義務(当期末時点の未充足の履行義務)に配分した取引価格の総額等を注記する必要がある。
➤一方、実務上の便法も認められ、履行義務が当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合など一定の条件を満たす場合には残存履行義務に配分した取引価格の総額等の開示を省略できる。この場合には、その旨(どの条件に該当するか、及び当該注記に含めていない履行義務の内容)を注記する必要がある。
➤しかし、予想される契約期間が1年以内であるため、実務上の便法を適用し、残存履行義務に配分した取引価格の総額等の注記を省略したが、その旨を注記していないケースがあった。残存履行義務に配分した取引価格の総額に一定の重要性がある場合は、その旨の注記が必要である。
〈留意事項〉
➤履行義務が当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合など一定の条件を満たす場合には残存履行義務に配分した取引価格の総額等の注記を省略できるが、その場合には、その旨(どの条件に該当するか、及び当該注記に含めていない履行義務の内容)を注記する必要がある。
➤経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析において、受注残高の開示を行っていることを理由として、残存履行義務に配分した取引価格の開示を省略することはできない。
2 金融商品会計注記
〈指摘事項〉
➤時価で連結貸借対照表に計上しているデリバティブ取引から生じる正味の債権及び債務を誤って「時価で連結貸借対照表に計上している金融商品以外の金融商品」として注記している。
➤時価ではなく、償却原価で連結貸借対照表に計上している満期保有目的の債券を誤って「時価で連結貸借対照表に計上している金融商品」として注記している。
〈留意事項〉
➤金融商品の内容や会計処理方法を踏まえて、いずれの区分で注記するべきか注意する必要がある。
➤デリバティブ取引については、外貨建金銭債権債務等に係る為替予約等の振当処理及び金利スワップの特例処理を適用している場合を除き、デリバティブ取引から生じる正味の債権及び債務は時価をもって貸借対照表額とするため、「時価で連結貸借対照表に計上している金融商品」の区分で注記する。
3 退職給付関係
(1) 連結貸借対照表
〈指摘事項〉
➤複数の退職給付制度を採用している場合、1つの退職給付制度に係る年金資産が当該退職給付制度に係る退職給付債務を超える場合は、当該年金資産の超過額を他の退職給付制度に係る退職給付債務から控除してはならない。
➤連結貸借対照表において、年金資産(退職給付に係る資産)と退職給付債務(退職給付に係る負債)を相殺せずに表示するべきであったが、相殺されて表示されているケースがあった。
(2) 退職給付関係注記
〈指摘事項〉
➤退職給付に係る調整額(その他の包括利益)は、連結包括利益計算書注記及び退職給付関係注記において開示される。
➤退職給付関係注記における①数理計算上の差異の発生額と費用処理額及び②過去勤務費用の発生額と費用処理額が、連結包括利益計算書関係注記における退職給付に係る調整額(当期発生額と組替調整額)と整合していなかった。
✓ 経理の状況より前の開示と財務諸表
✓ 経理の状況より前の開示と注記
✓ 財務諸表と注記
✓ 各注記
4 セグメント情報
(1) 特定の国別情報
〈指摘事項〉
➤特定の国の売上高が連結損益計算書の売上高の10%以上である場合には当該国の売上高、また、特定の国の有形固定資産の残高が連結貸借対照表の有形固定資産の残高の10%以上である場合には当該国の有形固定資産の残高を注記する必要があるが、これらの注記が漏れていた。
➤例えば、北米の売上高は開示されているが、アメリカ合衆国の売上高が単独で連結損益計算書の売上高の10%以上であったにもかかわらず、開示されていない。
(2) 主要な顧客
〈指摘事項〉
➤単一の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の10%以上である場合には当該顧客の氏名等の情報を注記する必要がある。
➤顧客との契約において顧客名を開示しない旨の守秘義務条項があることを理由として、当該顧客の社名を注記していないケースがあった。
有価証券報告書の開示は、法律で求められているため、守秘義務条項をもとに開示をしないことはできない。これはセグメントだけでなく、企業結合関係注記でも同様であるため、注意が必要である。
5 コーポレートガバナンスの状況等の株式の保有状況
〈指摘事項〉
➤提出会社が経営管理を行うことを主たる業務とする会社(持株会社)である場合には、提出会社(①)及びその連結子会社のうち最大保有会社(②)の投資株式について一定の開示(第4 提出会社の状況 4 コーポレートガバナンスの状況等(5)株式の保有状況における開示)が必要となる。
➤最大保有会社(②)の投資株式計上額が、連結貸借対照表計上額の3分の2を超えない場合には、次に大きい会社(③)についても開示が必要となる。
➤提出会社(①)に関する記載、次に大きい会社(③)に関する記載が漏れているケースがあった。
(連載了)