企業不正と税務調査
【第1回】
「連載に当たって」
税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝
昨今、税務当局による調査によって、内部監査や会計監査(外部監査)では発見できなかった企業不正が発覚する事例が、数多く報告されている。
特に一昨年(2011年)3月から4月にかけて大きく報道された事例は、以下【事例1】のように、金額の大きさもさることながら、長期間にわたって発覚しなかった不正が、税務調査をきっかけに明るみに出たことで注目を集めることとなった。
【事例1】 「女性社員が9億円横領 10年以上不正を重ねる」
東芝の100%子会社で照明器具製造の東芝ライテック(神奈川県横須賀市)が、東京国税局による税務調査をきっかけに、女性社員(57)による9億円超の横領が見つかっていたことが分かった。
同社は女性社員を懲戒解雇し、業務上横領容疑で横浜地検に告訴状を提出。横浜地裁川崎支部に損害賠償を求める民事訴訟を起こした。
関係者によると、女性社員は1974年に東芝に入社、技術管理部門でソフトウエアやデータ作成の発注業務をしていた。東芝ライテックに移り10年以上前から水増し発注を繰り返し、取引先から水増し分を還流させていた。
いわゆる仕入先からのキックバックを利用した横領の典型例である本事例では、10年以上にわたり不正が繰り返されていたことはもちろん、同社が東証一部上場企業の100%子会社であることを考え合わせると、本件不正は、親会社による業務監査は無論のこと、公認会計士による外部監査(会計監査)をも潜り抜けてきたことが推測され、どのように不正が隠蔽されてきたのか、なぜ、東京国税局はそれを見破ることができたのか、たいへん興味深い事例である。
一方、インターネットバンキングによる出納業務を任されていた経理社員の不正事例(巨額横領事件)も報道された。
【事例2】 「経理部係長 会社の口座からキャバ譲に5億円貢ぐ」
会社の資金約5億円を自身の口座に振り込み、大半をキャバクラ嬢に貢いでいた経理部係長が御用となった。
警視庁中央署は11日、電子計算機使用詐欺容疑で、工業ゴム大手シバタ(東京都中央区)の元経理部係長(33)を逮捕した。
同署によると、容疑者は05年5月ごろから、インターネットバンキングで会社の口座から192回にわたり計約5億2,000万円を引き出したとみられる。「ほとんどは好きなキャバクラ嬢の求めに応じて送金した。
10年8月に税務署の調査で不正が発覚。同社は容疑者を同10月に解雇し、警視庁に告訴、昨年5月に受理されていた。
約5年の間に200回近い不正支出が繰り返され、5億円とも6億円ともいわれる金銭が流出していながら、経営者が気づかなかったというのも、にわかには信じがたいことではあるが、こちらも税務調査に対して、不正を誤魔化しきれず、自白した事例のようである。
この2つの事例からもわかるように、役員・従業員による不正な金銭の支出や横領といった犯罪について、税務調査は非常に有効に機能しているようである。
もちろん、それ以外にも、税務調査の結果、企業不正が発覚し、追徴課税を受けた事例は枚挙に暇がない。
そこで本連載は、企業不正の類型(例えば、所得隠し、資産の横領や架空経費の計上、粉飾決算など)ごとに、不正の特徴、隠ぺい工作、発覚に至る端緒を解説し、なぜ税務調査が、そうした不正発見に有効に機能するのかを検証することを第一の目的とする。
同時に、そうした税務調査に用いられる手法を応用し、業務の過程で、又は内部監査により、早期の不正発見、抑止につなげることが可能かどうかを論じる予定である。
中堅・中小企業にとって外部監査に類似する役割を担う税理士にとっても、月次決算などの業務において、関与先従業員の不正を見逃すことがあってはならず、税務調査で発覚する前にいかにして不正を発見するか、不正をさせないためにどのような管理体制の構築をアドバイスするべきかは、大きな課題であろうかと思われるので、税理士業務を通じた不正の防止、早期発見についても考察したい。
【連載予定(全12回)】
第 1 回 連載にあたって(本稿)
第 2 回 企業不正発生のメカニズム
第 3 回 税務調査と内部監査・会計監査との相違点
第 4 回 経営者による不正 (1)売上除外
第 5 回 経営者による不正 (2)架空・水増し人件費
第 6 回 経営者による不正 (3)不正防止・発見のための手法と再発防止策
第 7 回 従業員による不正 (1)経理部門社員による横領
第 8 回 従業員による不正 (2)営業部門・購買部門社員による横領
第 9 回 従業員による不正 (3)不正防止・発見のための手法と再発防止策
第10回 粉飾決算 (1)棚卸資産の架空・過大計上
第11回 粉飾決算 (2)架空売上
第12回 粉飾決算 (3)不正防止・発見のための手法と再発防止策
なお、連載中にマスコミ報道、適時開示情報などで、注目すべき事例が発覚した場合には、適宜、事例解説をはさむ予定である。
(了)
「企業不正と税務調査」は、隔週の掲載となります。


