公開日: 2016/12/01 (掲載号:No.196)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第11話】「無形資産にのれんは含まれない?」

筆者: 関根 智美

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第11話】

「無形資産にのれんは含まれない?」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

「藤原さん、お疲れみたいですね。」
後輩の山口が藤原に気を使って、小声で桜井に話しかけた。当の藤原は、お昼の弁当を掻きこんだ後、机に伏せて爆睡している。

「最近残業が続いているらしいから。」
桜井もつられて小声で返事をすると、隣の席をちらっと見た。藤原は入社3年目の桜井よりも2つ上の先輩だ。経理部に配属された直後から桜井の教育係だったこともあり、いろいろとお世話になっている。

彼らが勤めているのは、中規模ながらも東証一部上場のメーカーだ。今年の夏に会社がIFRSを導入することを決めてから、藤原はプロジェクトチームのメンバーの一員としていろいろ動いているらしい。まだ戦力不足の桜井は、藤原からIFRSを教えてもらってはいるものの、基本的には蚊帳の外なので、詳しい活動内容は分からないのだが。

「忙しいせいか、藤原先輩、ちょっとピリピリしていますよね。」

「へぇ、そうなんだ。」
突然、2人の間に30代半ばの男性が割って入ってきた。彼の名前は、伊崎治義。課長の倉田と藤原・桜井の中間に位置する、言わば係長クラスの人物だ。彼もまた、IFRS導入プロジェクトチームの一員である。

「今、IFRSプロジェクトの雑務がすべて藤原くんに降ってきている状態だから、完全にキャパオーバーなんだよね、彼。」

「伊崎さん、シーッ。藤原先輩が起きちゃうじゃないですか。」
桜井が伊崎に声をかける。

「大丈夫、大丈夫。このくらいの声じゃ起きないって。」と手を振りながら、伊崎は答えた。

「あ、本当ですね。まだ寝ているみたいです。」と、山口が藤原に近づいて様子を窺う。藤原は相変わらず寝息を立てていた。

「だろう?そもそも以前から経理部のマンパワー不足は問題になっていたから、IFRS導入後のことも見据えて新しい人を今探しているんだよね。でも、IFRSに詳しくてウチで働いてくれる人って、なかなか見つからないみたいでさ。」

「へぇ。そんなに厳しいんですか?」
桜井に頷き返そうとした伊崎がはっとして山口に声をかけた。

「山口君、危ないよ。」
と注意するや否や、藤原が急に目を開けて上体を起こした。様子を窺うために藤原に近づいていた山口は逃げ遅れて、顔面に藤原の頭突きを受ける格好になった。
ガツンという音とともに、藤原は頭を、山口は鼻をそれぞれ押さえてうずくまる。

「・・・・・・!!!」
不意の激痛は人から言葉を奪う。

「藤原先輩、何でいきなり起きるんですか?」
桜井はとっさに山口に駆け寄り怪我の状態を確認する。幸い山口の鼻の骨は折れておらず、鼻血も出ていないようだ。

「おいおい、俺のせいかよ。」
寝起き直後に鈍痛をくらった上、よく分からない理由で後輩からなじられ、納得のいかない藤原は声を荒げた。

「すみません、先輩、僕が悪いんです。」と、真っ赤になった鼻を押さえながら、よろよろと立ちあがった山口が頭を下げる。

「おい、こら、なんかイジメみたいな図じゃないか。俺も悪かったんだし、頼むから頭を上げてくれ。」
185㎝のがっしりした体型の藤原にヒョロっとした170㎝の山口が謝る構図は、確かにイジメと取られてもおかしくないな、と桜井も思った。

「これでまた、他部署の奴らからパワハラだってからかわれるんだから、勘弁してくれよ。」

「えっ!すみません。そうとは知らずに頭を下げてしまって、すみませんでした・・・」
恐縮した様子で山口はさらに何度も頭を下げる。藤原は額に手を当て、天を仰いだ。

「うん、悪循環ってやつだね。」
そう言うと、伊崎は山口の肩をポンと叩き、「とりあえず、医務室に行って鼻を診てもらおうか。」と山口を廊下へ促した。

「さすが、伊崎さん。いつ見ても鮮やかな手際ですね。」
桜井はスマートに山口を藤原から引き離す伊崎の背中を称賛の眼差しで見送った。

「本当に食えない人だよなー・・・あ!今何時だ?」
藤原ははっとして時計を確認すると、ほっと安堵の表情を浮かべた。12時30分。午後の始業までまだ30分ある。

「午後から急ぎの用事でもあるんですか?」
桜井は藤原の方を振り返って尋ねた。

「いや、午後から開発と製造事業本部とのミーティングがあるんだ。IFRS絡みだよ。開発費の資産計上って聞いたことあるだろう?」

「えーと、あるような、ないような・・・」
目を泳がせながら答える桜井に藤原は長いため息をついた。

「お前、無形資産の勉強はしてないのか?」
呆れた口調で訊いた藤原に桜井は後ろめたそうに答えた。

「・・・はい。」

 

● ○  IAS第38号「無形資産」のポイントは2つ ○ ●

まだ昼休みは終わっていないため、2人は再び席についてコーヒーを飲むことにした。藤原はコーヒーを一口すすり、桜井に対する不満を鎮めるために深呼吸をした後、コホンと咳払いをした。

「さっきの無形資産の話に戻るけど、IFRSの無形資産がIAS第38号に規定されているってことは、知ってるよな?」

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【第11話】

「無形資産にのれんは含まれない?」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

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● ○ プロローグ ○ ●

「藤原さん、お疲れみたいですね。」
後輩の山口が藤原に気を使って、小声で桜井に話しかけた。当の藤原は、お昼の弁当を掻きこんだ後、机に伏せて爆睡している。

「最近残業が続いているらしいから。」
桜井もつられて小声で返事をすると、隣の席をちらっと見た。藤原は入社3年目の桜井よりも2つ上の先輩だ。経理部に配属された直後から桜井の教育係だったこともあり、いろいろとお世話になっている。

彼らが勤めているのは、中規模ながらも東証一部上場のメーカーだ。今年の夏に会社がIFRSを導入することを決めてから、藤原はプロジェクトチームのメンバーの一員としていろいろ動いているらしい。まだ戦力不足の桜井は、藤原からIFRSを教えてもらってはいるものの、基本的には蚊帳の外なので、詳しい活動内容は分からないのだが。

「忙しいせいか、藤原先輩、ちょっとピリピリしていますよね。」

「へぇ、そうなんだ。」
突然、2人の間に30代半ばの男性が割って入ってきた。彼の名前は、伊崎治義。課長の倉田と藤原・桜井の中間に位置する、言わば係長クラスの人物だ。彼もまた、IFRS導入プロジェクトチームの一員である。

「今、IFRSプロジェクトの雑務がすべて藤原くんに降ってきている状態だから、完全にキャパオーバーなんだよね、彼。」

「伊崎さん、シーッ。藤原先輩が起きちゃうじゃないですか。」
桜井が伊崎に声をかける。

「大丈夫、大丈夫。このくらいの声じゃ起きないって。」と手を振りながら、伊崎は答えた。

「あ、本当ですね。まだ寝ているみたいです。」と、山口が藤原に近づいて様子を窺う。藤原は相変わらず寝息を立てていた。

「だろう?そもそも以前から経理部のマンパワー不足は問題になっていたから、IFRS導入後のことも見据えて新しい人を今探しているんだよね。でも、IFRSに詳しくてウチで働いてくれる人って、なかなか見つからないみたいでさ。」

「へぇ。そんなに厳しいんですか?」
桜井に頷き返そうとした伊崎がはっとして山口に声をかけた。

「山口君、危ないよ。」
と注意するや否や、藤原が急に目を開けて上体を起こした。様子を窺うために藤原に近づいていた山口は逃げ遅れて、顔面に藤原の頭突きを受ける格好になった。
ガツンという音とともに、藤原は頭を、山口は鼻をそれぞれ押さえてうずくまる。

「・・・・・・!!!」
不意の激痛は人から言葉を奪う。

「藤原先輩、何でいきなり起きるんですか?」
桜井はとっさに山口に駆け寄り怪我の状態を確認する。幸い山口の鼻の骨は折れておらず、鼻血も出ていないようだ。

「おいおい、俺のせいかよ。」
寝起き直後に鈍痛をくらった上、よく分からない理由で後輩からなじられ、納得のいかない藤原は声を荒げた。

「すみません、先輩、僕が悪いんです。」と、真っ赤になった鼻を押さえながら、よろよろと立ちあがった山口が頭を下げる。

「おい、こら、なんかイジメみたいな図じゃないか。俺も悪かったんだし、頼むから頭を上げてくれ。」
185㎝のがっしりした体型の藤原にヒョロっとした170㎝の山口が謝る構図は、確かにイジメと取られてもおかしくないな、と桜井も思った。

「これでまた、他部署の奴らからパワハラだってからかわれるんだから、勘弁してくれよ。」

「えっ!すみません。そうとは知らずに頭を下げてしまって、すみませんでした・・・」
恐縮した様子で山口はさらに何度も頭を下げる。藤原は額に手を当て、天を仰いだ。

「うん、悪循環ってやつだね。」
そう言うと、伊崎は山口の肩をポンと叩き、「とりあえず、医務室に行って鼻を診てもらおうか。」と山口を廊下へ促した。

「さすが、伊崎さん。いつ見ても鮮やかな手際ですね。」
桜井はスマートに山口を藤原から引き離す伊崎の背中を称賛の眼差しで見送った。

「本当に食えない人だよなー・・・あ!今何時だ?」
藤原ははっとして時計を確認すると、ほっと安堵の表情を浮かべた。12時30分。午後の始業までまだ30分ある。

「午後から急ぎの用事でもあるんですか?」
桜井は藤原の方を振り返って尋ねた。

「いや、午後から開発と製造事業本部とのミーティングがあるんだ。IFRS絡みだよ。開発費の資産計上って聞いたことあるだろう?」

「えーと、あるような、ないような・・・」
目を泳がせながら答える桜井に藤原は長いため息をついた。

「お前、無形資産の勉強はしてないのか?」
呆れた口調で訊いた藤原に桜井は後ろめたそうに答えた。

「・・・はい。」

 

● ○  IAS第38号「無形資産」のポイントは2つ ○ ●

まだ昼休みは終わっていないため、2人は再び席についてコーヒーを飲むことにした。藤原はコーヒーを一口すすり、桜井に対する不満を鎮めるために深呼吸をした後、コホンと咳払いをした。

「さっきの無形資産の話に戻るけど、IFRSの無形資産がIAS第38号に規定されているってことは、知ってるよな?」

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筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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