金融負債の分類と測定
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- 金融商品の当初認識と当初測定
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- 金融負債の分類と測定
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伊崎も喉を潤すためにコーヒーをひと口飲むと、再び説明を始めた。
「今度は金融負債の分類と測定についてだね。」
「金融負債も金融資産のようにフローチャートで分類していくんですか?」
「いや、ラッキーなことに金融負債の分類はもっとシンプルなんだ。」
それを聞いた桜井は安心した表情を浮かべた。
◆金融負債の分類
「まず、金融負債の分類で押さえてほしいのは3種類あるんだ。」
「あれ?他にも分類があるってことですか?他の分類は押さえなくても大丈夫なんですか?」
「全部説明するとなると、話が細かくなっちゃうからね。今はこの3つの金融負債を理解しておけば大丈夫だよ。」
と、伊崎はノートを取る桜井に補足した。桜井が書き終わるのを確認すると、伊崎はファイルをめくり新しい表を桜井に見せた。
「では、その3つを確認しよう。」
【金融負債の主な分類】
-
金融負債(下記以外)
-
デリバティブ又は売買目的保有の金融負債
-
公正価値オプションを選択した金融負債
「えーと、『デリバティブ又は売買目的保有の金融負債』、『公正価値オプションを選択した金融負債』、『その2つ以外の金融負債』に分けているんですね。」
「そうなんだ。では、この3種類の金融負債は、それぞれどう測定するのか、という説明に移っていくよ。」
「はい。」
◆「金融負債(下記以外)」の測定は償却原価
「まず、表の一番上にある『金融負債(下記以外)』は、償却原価で測定されるんだ。これが金融負債の基本となる測定基礎だよ。」
「なるほど。基本だから、『金融負債(下記以外)』と書かれている金融負債が表の一番上にあるんですね。」
「そうなんだ。償却原価以外で測定される金融負債が、これから説明する項目だよ。」
◆デリバティブ又は売買目的の金融負債はFVTPLで測定
「続いて、2つ目にある『デリバティブ又は売買目的保有の金融負債』はFVTPL、つまり純損益を通じて公正価値で測定することになる。」
「はい。これは金融資産と同じなので、セットで覚えられますね。」
「そうだね。」
◆公正価値オプションを選択した金融負債の測定に注意
「ただ、『公正価値オプションを選択した金融負債』の方は、ちょっと変わっていてね。」
「どう変わっているんですか?」
「公正価値オプションを選択しているわけだから、当然測定は公正価値で行われる。ここまではいいね?」
「はい。大丈夫です。」
桜井はコクリと頷いた。
◆公正価値の変動額を信用リスクによる変動とそれ以外に分けて処理する
「そして、金融負債の公正価値の変動額のうち、信用リスクに対応する額はその他包括利益に表示するんだけど、変動額の残りの金額は純損益に表示することになるんだ。」
「へぇ。金融資産の測定で教えてもらったFVOCIみたいに、変動額を分けて処理する必要があるんですね。」
「そうだね。ここまでならまだいいんだけど、さらに条件があるんだ。」
「え、まだあるんですか?」
◆会計上のミスマッチが拡大する場合には変動額を全額純損益処理する
伊崎は頷いて、説明を続けた。
「この会計処理によって会計上のミスマッチを創出したり、拡大したりすることになる場合には、その金融負債に係るすべての変動額を純損益として表示しなければならないんだ。」
それを聞いた桜井の表情が曇った。
「うーん・・・公正価値オプションを選択した金融資産の時と違って、ちょっと複雑ですね。」
【公正価値オプションを選択した金融負債の公正価値変動額の処理】
◆公正価値オプションを選択した金融資産との共通点
「そうなんだよね。ちなみに、この測定方法も金融商品ごとに選択できるんだけど、一度選択したら取り消しはできないし、さらにリサイクリングも禁止されているんだ。」
「へぇ。そこは公正価値オプションを選択した金融資産と同じなんですね!」
「金融負債の分類と測定については、こんな感じかな。今までの説明を図でまとめると、この表のようになるね。」
「はい、分かりました。」
【金融負債の分類と測定】
《金融負債(下記以外)》
● 償却原価
《デリバティブ又は売買目的保有の金融負債》
● FVTPL
《公正価値オプションを選択した金融負債》
● 公正価値
● 公正価値の変動額に関する処理
▷ 信用リスクを起因する変動⇒その他包括利益
▷ その他の変動⇒純損益
▷ 会計上のミスマッチを創出又は拡大⇒すべて純損益
● リサイクリング無し