公開日: 2017/01/12 (掲載号:No.201)
文字サイズ

ストーリーで学ぶIFRS入門 【第12話】「金融商品会計はIFRSも難しい?」

筆者: 関根 智美

● ○ エピローグ ○ ●

「さて、以上が駆け足だけど、IFRS第9号の基礎の基礎だよ。」
桜井はふぅ、と息を吐いた。

「ありがとうございました。とてもじゃないけど、自分1人だったら理解できなかったと思います。」
桜井は苦笑交じりに言った。

「基礎が分かれば、あとは肉づけしていけばいいからね。頑張って。」
伊崎は笑った後、再び口を開いた。

「それに、自力で全部やる必要はないんだよ。IFRSの勉強にしても、仕事にしてもね。そのためのチームでしょ?」

「チーム、ですか・・・」

「そうだよ。桜井君も今や経理部の重要な戦力だからね。2年前なんて散々だったけどねー」

「そ、それは言わないでくださいよっ!」

「あの時なんて・・・」と過去の恥ずかしいエピソードを次々と並び立てる伊崎を、桜井は慌てて止めに入る。そこへ橋本がコーヒーを片手に出社してきた。

「あら、珍しい組み合わせね。」
橋本の席を借りていた桜井は慌てて立ち上がり、席を譲る。

「おはようございます。席をお借りしていました。どうぞ。」

「あら、大丈夫よー。ゆっくりしていっても。」
セリフとは裏腹に橋本はさっと荷物を机に置く。そして伊崎と桜井を交互に見た後、伊崎ににっこり笑いかけた。

「伊崎さん、上手くやれたようね。」

「だと思うよ。」と伊崎も橋本に負けない笑みを返す。

「???」
2人の会話の意味が分からない桜井は、その場の雰囲気になぜか居たたまれなくなった。そして、「では、僕はこれで失礼します。」と頭を下げると、桜井はそそくさと自分の席に戻って仕事に取り掛かることにした。

 


金融商品
(financial instrument)

  • 一方の企業にとっての金融資産(financial asset)と、他の企業にとっての金融負債(financial liability)または資本性金融商品(equity instrument)の双方を生じさせる契約

【金融商品の当初認識と当初測定】

《当初認識》 契約の当事者になった時点

  • 通常の方法による金融資産の売買
    ⇒ 取引日 又は 決済日

《当初測定》 公正価値で測定

  • 純損益を通じて公正価値測定するもの以外の金融資産や金融負債では、取引コストも加減
  • 重大な金融要素を含んでいない営業債権
    ⇒ 取引価格で測定

【金融資産分類・測定のフローチャート】

【金融負債の分類と測定】

《金融負債(下記以外)》

● 償却原価

《デリバティブ又は売買目的保有の金融負債》

● FVTPL

《公正価値オプションを選択した金融負債》

● 公正価値

● 公正価値の変動額に関する処理

▷ 信用リスクを起因する変動⇒その他包括利益

▷ その他の変動⇒純損益

▷ 会計上のミスマッチを創出又は拡大⇒すべて純損益

● リサイクリング無し

【減損:一般的アプローチのまとめ】

【減損:簡便的アプローチのまとめ】


(注)
・この記事はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。
・各記事は公開日現在に公表されている基準等に基づいていますので、閲覧の際はご留意ください。
・この記事は基礎的な事項を中心に扱っており、IFRSの全てを網羅するものではありません。詳細につきましては、それぞれの専門家にご相談ください。
・文中、意見に関する部分は私見であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第12話】

「金融商品会計はIFRSも難しい?」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

「ピリピリ!って音、しない?」
隣の席の橋本にいきなり話しかけられた伊崎は当惑した。橋本が何のことを言っているのか、さっぱり分からなかったからだ。伊崎のその表情を気にすることなく、橋本がさらに言う。

「ほら、向かいのあの2人の空気よ。年末からずっとあの調子じゃない。」

伊崎もその言葉で納得した。2人の対面の席には、経理部の若手コンビである藤原と桜井がいつものように和気あいあいと雑談することもなく、それぞれのPCに黙々と集中している。どうやら年末に2人の間でひと悶着あったようだった。

「伊崎さんは何があったか知っている・・・わけないわよね。」と橋本は、伊崎の顔をちらりと見てからため息をついた。

「第3四半期は年始休暇のせいで作業日程がいつもよりタイトだから、黙って仕事してくれる分にはいいんじゃないかな?」
伊崎は両手を後頭部で組み、背もたれに体を預けて軽く伸びをした。

ここは、東証一部に上場しているメーカーの経理部である。3月決算会社であるため、経理部は年明け早々から第3四半期決算のプチ繁忙期に入っていた。課長の倉田を始め、中堅クラスの伊崎、橋本、入社5年以下の若手である藤原、桜井、山口がそれぞれの分担を黙々とこなしている。この会社では今年の夏にIFRSを導入することを決定したのだが、この期間ばかりはIFRS導入プロジェクトも活動休止中だ。

「あら、職場の雰囲気って大事なのよ?私なんて繊細だから、この緊張感のある空気が気になっちゃって・・・」
「部署異動の希望を出そうかしら~」と、派遣社員を除く経理部の中で紅一点の橋本はしれっと言う。

「うーん、これ以上仕事が増えるのは困るなぁ。橋本さんがいないと、税金まで僕が担当することになりそうだ。」
橋本は、頬杖をついて伊崎の方に体を向けた。

「でしょう?だから、どうにかしてあの2人を和解させましょうよ。どうせ喧嘩の原因は藤原くんが作ったんでしょうけど。」

「だったら、僕は協力できないんじゃないかな?なぜか藤原君には嫌われているんだよね。」
伊崎は腕を組んで、橋本に言った。橋本は首を傾げながら頬杖をついている方の人指し指で、トントンと頬を叩く。

「うーん、伊崎さんの要領の良さが羨ましいからかしら?ほら、藤原君って不器用なタイプだから。」
そう言うと橋本は暫く沈黙し、再び口を開いた。

「ま、いいわ。私が藤原君に話を聞いてみるから、伊崎さんは桜井君をお願いね。」
橋本は伊崎ににっこりとほほ笑みかける。伊崎はやれやれと首を振りながらも、引き受けることにした。

翌日、早朝の冷気で頬を赤らめた桜井がオフィスに入ると、既に経理部に先客がいた。

「あれ?伊崎さん、おはようございます。今日は珍しいですね。」
桜井は伊崎の向かいの席に鞄を置き、コートを脱ぎはじめた。

「おはよう。偶然目が早く覚めちゃったから、仕事を片付けに来たんだ。来週中には数字を固めておかなきゃいけないからね。」
伊崎はほほ笑んで答えた。もちろんこれは方便で、本当は桜井と一対一で話をしたかったからだ。藤原と微妙な雰囲気にある桜井は、隣席の藤原を避けるためか、残業をほどほどにこなした後すぐ帰宅し、早朝に作業をしていた。

「桜井君は、進捗状況はどう?順調?」

「まぁまぁって感じです。今日から有価証券の予定です。」
桜井は作業管理表を確認して答えた。

「そっか。じゃ、すぐに終わりそうだね。今回特に問題のある有価証券もないし、いつも通りだから。ところで、藤原君に何を言われたんだい?」

「ええ・・・えっ!?」
仕事の話からいきなり切り替えられた話題に桜井は動揺した。

「ほら、何か君たち微妙な雰囲気になっているから、僕で良ければ相談に乗るよ?」
伊崎は先ほどからゆったりした笑顔を浮かべている。桜井は一瞬逡巡したが、もやもやした胸の内を誰かに、できれば優しそうな人に聞いてもらいたいという思いもあり、先月の藤原とのやり取りを話すことにした。

「・・・へぇ、なるほどね。」
一部始終を聞き終えた伊崎は、買ってきたばかりの缶コーヒーのうち1本を桜井に手渡し、自分の分のプルタブを開けた。桜井も伊崎の隣の席に腰かけ、お礼と共に受け取ったコーヒーを一口すする。

「はい・・・。いくら先輩だからって、あんなに偉そうに言う筋合いはないと思います。それに、IFRSだって僕から頼んで教えてもらっているわけじゃないし・・・」
桜井は溜めこんでいた鬱憤を吐き出して、少しすっきりしたようだ。

「そうかー。そういうことなら、今のままちょっと距離を置いていたらいいんじゃないかな。」
桜井は伊崎の意外な返答を聞いて、呆気に取られた顔をした。

「え?伊崎さんは僕たちを仲直りさせようとしているんじゃないんですか?」

伊崎はコーヒーを飲みながら言った。
「だって、少なくとも君は自分が間違っているって思ってないわけでしょ?」

「ええ、まぁ、そうですけど・・・」

「なら、折れる必要なんてないと思うよ。後輩だからとか、関係なく。」

「それでもいいんですか?」

「だって、必要最低限の業務連絡とかはしているわけでしょ?仕事に支障がないのなら、それでいいんじゃないかな。皆と仲良くなんて、無理だよ。」

桜井は、自分の意見が聞き入れられたことで肩すかしを食らった気分になった。心のどこかで自分が非難されるのでは、と予想していたからなのだが、すんなり受け入れられると、それはそれで漠然と不安な気持ちになる。
「でも・・・」

そこで伊崎は桜井の方に向き直った。
「そもそも、IFRSを教えてもらったことがきっかけなんだよね?それなら、僕が藤原君の代わりにIFRSを教えようか?」

さらに伊崎は、「もしかしたら、藤原君より上手いかもしれないよ?」とおどけた口調で付け加えた。

桜井は暫く黙って考え込んだ。桜井だって、せっかくIFRSの勉強を始めたのだから、このまま続けたいとは思っているのだ。しかし、自分から積極的に本を開くことはついつい後回しになっているし、今の気まずい状況で藤原に頭を下げて教えてもらうのも抵抗がある。伊崎の申し出は、桜井にとって願ったり叶ったりだった。

「では、IFRSのこと、伊崎さんにお願いしてもいいですか?」
桜井はおずおずと言った。

「もちろんだよ。」
伊崎は再び桜井に笑顔を向けた。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

#