公開日: 2017/03/23 (掲載号:No.211)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第14話】「棚卸資産(IAS第2号)は論点が分かりやすい」

筆者: 関根 智美

● ○ エピローグ ○ ●

「これで、棚卸資産入門の授業は終わりだよ。」
桜井はにっこり笑って山口を見た。初めてのIFRSの授業をやり終えて、ようやく心からの笑顔を見せる。

「だいたい理解できたと思います。わざわざ時間を作ってもらってすみませんでした。」
山口はぺこりと頭を下げた。

「うーん、こういう時は『ありがとう』の方が嬉しいな。」
桜井は苦笑して言った。

「あ、すみませんでした。ありがとうございました。」

「・・・・・・」
どうしたら山口に「すみません」を言わせないようにすることができるのか、未だに分からない桜井であった。

 

棚卸資産の定義

  • 通常の事業の過程において販売を目的として保有される資産
  • そのような販売を目的とする生産の過程にある資産
  • 生産過程又はサービスの提供にあたって消費される原材料又は貯蔵品

【棚卸資産原価(cost)の構成要素】

購入原価

  • 購入代価、輸入関税その他の税金、運送費及び荷役費等が含まれる
  • 値引き・割戻し等は購入原価から控除

※仕入割引も購入原価から控除する!

加工費

  • 製造直接費及び製造間接費の規則的な配賦額が含まれる
  • 変動製造間接費の配賦⇒使用設備の実際使用量
  • 固定製造間接費の配賦⇒使用設備の正常生産能力
  • 配賦差異は発生した期に費用処理(生産水準が異常に高い場合を除く)

※異常な仕損に係る製造コストは原価に含めない!

その他コスト

  • 棚卸資産が現在の場所及び状態に至るまでに発生したコストが含まれる
  • 棚卸資産が適格資産に該当する場合、借入コストを原価に含める

(注) 原価の測定技法について

標準原価法(standard cost method)及び売価還元法(retail method)は、その適用結果が上記の原価と近似する場合のみ、簡便法として使用可能。

 

▷ 原価算定方式

  • 個別法(specific identification)、先入先出法(FIFO)、加重平均法(weighted average)により評価
  • 性質及び用途が類似する全ての棚卸資産→同じ原価算定方式を使用
  • 後入先出法は認められない

▷ 棚卸資産の評価

  • 原価又は正味実現可能価額とのいずれか低い額で測定

(※) 正味実現可能価額(net realizable value)

=通常の事業の過程における見積売価-完成までに要する原価の見積額-販売に要する見積額

▷ 費用認識

  • 棚卸資産販売時に関連する収益を認識する期間の費用として計上
  • 正味実現可能価額への評価減及び棚卸資産に係る全ての損失は発生した期間に費用計上
  • 正味実現可能価額の上昇による評価減の戻入れは、戻入れを行った期間に、費用として認識した棚卸資産の金額の減額として認識

 

【棚卸資産 開示事項一覧】

〇 棚卸資産の測定にあたって採用した会計方針(原価算定方式も含む)

〇 棚卸資産の帳簿価額の合計金額及びその企業に適した分類ごとの帳簿価額

〇 売却コスト控除後の公正価値で計上した棚卸資産

〇 期中に費用として認識した棚卸資産の額

〇 期中に認識した棚卸資産の評価減の金額

〇 棚卸資産の評価減の戻入額とその原因となった状況及び事象

〇 負債の担保として差し入れた棚卸資産の帳簿価額

 

(注)
・この記事はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。
・各記事は公開日現在に公表されている基準等に基づいていますので、閲覧の際はご留意ください。
・この記事は基礎的な事項を中心に扱っており、IFRSの全てを網羅するものではありません。詳細につきましては、それぞれの専門家にご相談ください。
・文中、意見に関する部分は私見であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第14話】

「棚卸資産(IAS第2号)は論点が分かりやすい」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

3月も中旬を過ぎると、経理部内の空気が変わる。

ピリピリしていて、でも少しわくわくするような、まるでお祭り前の雰囲気に似ているな、と桜井はいつも感じていた。この空気の変化は、待ち遠しい春が近づいているからではなく、年度決算という大仕事が来月に控えているためだ。

桜井は経理部と財務部一同が集まったミーティングに出席していた。決算日程や担当割当を確認するためだ。もうすぐ入社してから丸三年になる桜井も、この時期独特の雰囲気に慣れてきた。小一時間ほど、情報共有や作業の確認を終えると、各々自席へ戻るため席を立った。

「あの、すみません、桜井さん。」
会議室から立ち去ろうとした桜井を後輩の山口が呼び止めた。

桜井が振り返ると、山口は少しおどおどした表情を浮かべている。去年の春に入社した山口にとって、今回が実質的に初めての決算だ。桜井には山口の緊張が手に取るように分かった。

「どうしたの?」と、桜井は努めて優しく尋ねた。

「すみません。ちょっと作業内容で分からないところがありまして・・・」
山口は申し訳なさそうな顔をして、ミーティング資料の該当箇所を桜井に見せた。

「ああ、ここね。僕が去年やったんだけど、ちょっと意味が分かりづらいよね。そこはね―。」
桜井が山口に一通り説明を終えた後も、山口の表情は晴れなかった。

「大丈夫?なんだか顔色が良くないようだけど。」

「すみません、何だか不安なんです。数年後にはウチの会社も日本基準からIFRSに変わるんですよね。日本基準でも一杯一杯なのに、やっていけるのかなって・・・」
2人の勤める会社は規模こそ大きくないものの、東証一部に上場しているメーカーだ。昨今のIFRS導入の流れに乗り遅れないために、数年以内にIFRSを導入する予定なのだ。

桜井は思わず笑った。山口はビックリして頭を上げた。

「ごめん、ごめん。決して馬鹿にしているわけじゃなくて、僕と同じ気持ちの人間がいて安心したんだ。」

「桜井さんもですか?」と、意外そうな表情をして山口が訊いた。

「でも、桜井さんは藤原さんからIFRSを教えてもらっていますよね?だったら、大丈夫じゃないんですか?」
そこで、桜井は気まずそうに頭を掻いた。

「いや、僕があまり積極的に勉強しないから、藤原先輩を怒らせちゃったんだ。」
それを聞いた山口は、神妙な顔で頷いた。どう反応していいか分からなかったためだろう。

「今思えば、僕が先輩に甘えすぎていたんだよね。自分から勉強しなくても、先輩が率先して勉強する時間を作ってくれたから。」

「藤原さんって優しいですもんね。」
山口の的を射た言葉に桜井は苦笑して頷いた。

「うん。だから甘えすぎないように、最近は自分でも自主的に勉強しているんだ。」

「そうなんですか。」と相槌を打つと、山口はしばらく黙り込んでから再び口を開いた。

「あの・・・もし良かったら僕にIFRSを教えてもらえないでしょうか。」

「ええっ!?」
突然の山口の依頼に桜井は驚いて声を上げた。

「僕でも分かるところなら教えられるとは思うけど・・・」と自信無げに付け加える。

「では、棚卸資産はどうでしょうか?今度の決算で担当することになったので、IFRSが導入された後、どんなふうに会計処理することになるのか、知りたいです。」

「ああ、そう。えーと・・・棚卸資産なら、大丈夫だよ。」
桜井は内心ホッとした。

「簡単な論点から勉強しているんだ。」と、桜井はニヤリと付け足した。

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連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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