● ○ エピローグ ○ ●
「これで、棚卸資産入門の授業は終わりだよ。」
桜井はにっこり笑って山口を見た。初めてのIFRSの授業をやり終えて、ようやく心からの笑顔を見せる。
「だいたい理解できたと思います。わざわざ時間を作ってもらってすみませんでした。」
山口はぺこりと頭を下げた。
「うーん、こういう時は『ありがとう』の方が嬉しいな。」
桜井は苦笑して言った。
「あ、すみませんでした。ありがとうございました。」
「・・・・・・」
どうしたら山口に「すみません」を言わせないようにすることができるのか、未だに分からない桜井であった。
棚卸資産の定義
- 通常の事業の過程において販売を目的として保有される資産
- そのような販売を目的とする生産の過程にある資産
- 生産過程又はサービスの提供にあたって消費される原材料又は貯蔵品
【棚卸資産原価(cost)の構成要素】
購入原価
- 購入代価、輸入関税その他の税金、運送費及び荷役費等が含まれる
- 値引き・割戻し等は購入原価から控除
※仕入割引も購入原価から控除する!
加工費
- 製造直接費及び製造間接費の規則的な配賦額が含まれる
- 変動製造間接費の配賦⇒使用設備の実際使用量
- 固定製造間接費の配賦⇒使用設備の正常生産能力
- 配賦差異は発生した期に費用処理(生産水準が異常に高い場合を除く)
※異常な仕損に係る製造コストは原価に含めない!
その他コスト
- 棚卸資産が現在の場所及び状態に至るまでに発生したコストが含まれる
- 棚卸資産が適格資産に該当する場合、借入コストを原価に含める
(注) 原価の測定技法について
標準原価法(standard cost method)及び売価還元法(retail method)は、その適用結果が上記の原価と近似する場合のみ、簡便法として使用可能。
▷ 原価算定方式
- 個別法(specific identification)、先入先出法(FIFO)、加重平均法(weighted average)により評価
- 性質及び用途が類似する全ての棚卸資産→同じ原価算定方式を使用
- 後入先出法は認められない
▷ 棚卸資産の評価
- 原価又は正味実現可能価額とのいずれか低い額で測定
(※) 正味実現可能価額(net realizable value)
=通常の事業の過程における見積売価-完成までに要する原価の見積額-販売に要する見積額
▷ 費用認識
- 棚卸資産販売時に関連する収益を認識する期間の費用として計上
- 正味実現可能価額への評価減及び棚卸資産に係る全ての損失は発生した期間に費用計上
- 正味実現可能価額の上昇による評価減の戻入れは、戻入れを行った期間に、費用として認識した棚卸資産の金額の減額として認識
【棚卸資産 開示事項一覧】
〇 棚卸資産の測定にあたって採用した会計方針(原価算定方式も含む)
〇 棚卸資産の帳簿価額の合計金額及びその企業に適した分類ごとの帳簿価額
〇 売却コスト控除後の公正価値で計上した棚卸資産
〇 期中に費用として認識した棚卸資産の額
〇 期中に認識した棚卸資産の評価減の金額
〇 棚卸資産の評価減の戻入額とその原因となった状況及び事象
〇 負債の担保として差し入れた棚卸資産の帳簿価額
(注)
・この記事はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。
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・この記事は基礎的な事項を中心に扱っており、IFRSの全てを網羅するものではありません。詳細につきましては、それぞれの専門家にご相談ください。
・文中、意見に関する部分は私見であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。
(了)
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