~税務争訟における判断の分水嶺~
課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から
【第15回】
「株式の売買は無権代理行為によるものであり譲渡所得の課税要件は充足されないとした事例」
税理士 佐藤 善恵
本連載の趣旨
課税庁の審理室や訟務官室が作成した「判決情報」や「判決速報」は、課税庁が、現場の調査担当者に向けて事例を紹介するための内部文書です。これらで取り上げられる事例には、あまり知られていない判決等も含まれていますが、どれもが税務調査の現場にフィードバックが必要と考えられているという点において重要な事例といえます。
本連載は、課税庁が調査担当者に向けて発信している判決等の要旨をご紹介するとともに、その判断の分水嶺がどこにあったかを検討し、さらに、実務上の留意点や裁判所の考え方を示唆しようとするものです。
なお、「判決情報」等は、TAINSデータベース(※)から取り出すことができますので、毎回、末尾にTAINSコードを記載いたします。
(※) 一般社団法人日税連税法データベースが運営する税務関連情報データベース
◆平成25年10月31日東京地裁[認容](確定)
(※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。
〔概要等〕
原告(甲)は、同族会社A社の株式(本件株式)を所有していたところ、平成19年中に本件株式が関係会社(Hら)に移転して、その対価とされる金員が甲名義の銀行口座に入金されたため、課税庁は、甲のその年分の所得税について本件株式に係る譲渡所得が申告漏れであるとして更正処分等をした。
甲は、譲渡収入とされた金員は、甲の父である乙(平成19年10月28日死亡)又は乙が代表取締役を務めていた複数の法人(H法人グループ)に対する自らの「預け金」が返還されたものであって、譲渡所得は発生していないとして処分の取消しを求めて争った。
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