《速報解説》
住宅借入金等特別控除の見直し
~令和4年度税制改正大綱~
公認会計士・税理士 篠藤 敦子
「令和4年度税制改正の大綱」(令和3年12月24日閣議決定)では、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下、住宅借入金等特別控除という)について、適用期限が4年間延長され、控除率や控除期間等に見直しが行われるとともに、環境性能等に応じた借入限度額の上乗せ措置が講じられることとなった。
以下、大綱及び国土交通省から公表されたQ&A等で示された内容について解説を行う。
なお本制度に係る昨年度の税制改正については、下記拙稿を参照されたい。
【1】 適用期限の延長
適用期限が4年間延長され、一定の家屋を令和7年12月31日までの間に居住の用に供した場合を対象とすることとされた。
【2】 借入限度額に係る上乗せ措置の見直し
(1) 新築住宅・買取再販住宅
消費税率が8%に引き上げられた際、反動減対策として導入された借入限度額の上乗せ措置(※)は終了し、新たに住宅の性能等に応じた上乗せ措置が講じられる。
(※) 一般の住宅:上乗せ後の上限4,000万円(上乗せ前の上限2,000万円)
認定長期優良住宅・認定低炭素住宅:上乗せ後の上限5,000万円(上乗せ前の上限3,000万円)
具体的には、新築住宅及びリフォームにより良質化した上で販売する買取再販住宅においては、認定住宅(認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅)・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅について借入限度額の上乗せ措置が講じられる。
上乗せ措置の対象となる買取再販住宅の範囲、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅の概要は、次のとおりである。
〔買取再販住宅の範囲〕
登録免許税の特例措置の対象となる買取再販住宅(床面積50㎡以上、新築後10年以上経過、建物価格に占めるリフォーム工事の総額の割合が20%(リフォーム工事の総額が300万円を超える場合には300万円)以上等の要件を満たした家屋)
→詳しくは国土交通省HP「買取再販で扱われる住宅の取得に係る特例措置」を参照されたい。
省エネ性能がいわゆるZEH基準、すなわち断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6の性能を有する住宅
断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上の性能を有する住宅
(注) ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅として住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする場合には、確定申告時に一定の証明書類が必要となる見込みである。
なお、新築住宅及び買取再販住宅に係る控除期間は、原則として13年間とされる。
また、東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等特別控除の特例については、適用期限を令和7年12月31日まで4年間延長した上で、借入限度額、控除率及び控除期間が次のとおりとされる。
(※1) 上記は新築等の場合のもの。既存住宅の取得又は住宅の増改築等の場合には、借入限度額3,000万円、控除期間10年となる。
(※2) 居住が令和7年1月1日以後のものについては、警戒区域設定指示等の対象区域外に従前住宅が所在していた場合には適用できなくなる。
(2) 既存住宅
従来、借入限度額の上乗せ措置は新築住宅にのみ適用されていたが、既存住宅が認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅に該当する場合には、既存住宅についても一定の上乗せ措置が講じられる。
なお、既存住宅に係る控除期間は10年間とされる。
また、既存住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)については、「昭和57年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和される。
【3】 控除率、所得要件の見直し
会計検査院の平成30年度決算検査報告では、住宅借入金等特別控除の控除率である1%を下回る金利で住宅ローンを借り入れている者の割合が78.1%となっているとの指摘があった。
この指摘に対応する観点から、控除率を0.7%に引き下げるとともに、適用対象者の所得要件も合計所得金額2,000万円以下(現行:3,000万円以下)に引き下げることとされた。
【4】 床面積要件の見直し
床面積要件について、令和5年以前に建築確認を受けた新築住宅において、合計所得金額1,000万円以下の者に限り、40㎡(通常の床面積要件は50㎡)に緩和される。
* * *
(※) 国土交通省公表資料に筆者一部加筆。
【5】 個人住民税における住宅借入金等特別控除
令和4年分以後の所得税で住宅借入金等特別控除の適用がある者(住宅の取得等をして令和4年から令和7年までの間に居住の用に供した者に限る)のうち、所得税から控除しきれなかった額を、翌年度分の個人住民税において、控除限度額の範囲内(所得税の課税総所得金額等の5%(最高9.75万円))において、個人住民税額から控除する措置が講じられる(この措置による令和5年度以降の個人住民税の減収額は、全額国費で補塡する)。
【6】 確定申告等手続の見直し
本制度適用にあたり確定申告及び年末調整の際に必要とされていた年末の借入金残高証明書の提出又は提示が不要とされ、これに代えて、銀行等が年末の借入金残高等を記載した調書を作成し所轄税務署長に提出することとなる。ただし適用を受ける者は銀行等へ住宅ローン控除に関する申請書を提出する必要がある。
また、新築の工事の請負契約書の写し等についても確定申告書への添付が不要とされるが、確定申告期限から5年間は、税務署長からの提示又は提出の求めに応じる必要がある。
上記の改正は、居住年が令和5年以後である者が、令和6年1月1日以後に行う確定申告及び年末調整について適用する。
【7】 その他
これらの他、住宅関係の所得税の改正項目として、認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除(措法41の19の4)の見直しが示されている。
〈見直しの概要〉
・対象となる住宅にZEH水準省エネ住宅を追加
・適用期限を令和5年12月31日まで2年間延長
(了)