事例で検証する
最新コンプライアンス問題
【第5回】
「傾斜マンション事件-記録マネジメントの重要性」
弁護士 原 正雄
2014年11月、横浜市都筑区で、鉄筋コンクリート造12階建、全4棟705戸の大規模マンション(本件マンション)の住民が、2つの棟をつなぐ渡り廊下の接合部の高さの差に気づいた。全長56mに対し、手摺で2.4センチ、床面で1.5センチの差であった。2007年12月に完成して、約7年が経過していた。
本件マンションの販売元である不動産会社MR社は、当初は「2011年の東日本大震災によるひずみ」と回答した。しかし、その後の調査で杭が支持層に到達していない可能性が明らかになった。さらに、杭打ちデータや杭を固定するセメント量について、データ偽装が発覚した。
本件は、2015年12月25日に国交省が「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会・中間とりまとめ報告書」を公表し、2016年1月8日には杭打ち業者A社が「中間報告書」を公表した。また、同月13日には、国交省が関係各社に行政処分を下した。
そこで今回は、本件の経緯と各社の対応を分析する。
1 事前調査に基づく杭の長さ
マンション建設は、杭打ち工事から始まる。本件マンションでは、専門会社による26ヶ所の事前調査を経て、元請の建設会社M社が、2005年11月までに、杭を打つ場所、数、長さを決定した。そのうえで、M社は、一次下請H社を通じて、二次下請の杭打ち業者A社に、杭打ち工事を発注した。
設計の際、元請M社は、以前の建物の杭の長さが18mであったことを知りながら、杭の長さを14mとした。この点について、週刊誌は「元請の発注ミスで杭の長さが2mほど足りず」と記載している(フライデー2015.11.13)。また、杭打ち業者A社は「設計ミス」と主張している。
他方、元請M社は「杭の仕様は建物によって違う」、「杭は工事の際に確認しながら打込むべきものだ」と反論している(日経2015.12.4)。
2 杭打ち工事とデータ化
杭打ち業者A社は、2005年12月9日から翌2006年3月10日までの約3ヶ月間で、杭打ち工事を実施した。
杭打ち工事では、杭打機オペレーターが、①杭を支持層に到達するまで打ち込んだうえ、②セメントを流し込んで地盤に固定する必要がある。その際、現場責任者は、以下のとおり記録化する。
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