公開日: 2016/06/30 (掲載号:No.175)
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事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第6回】「コーポレートガバナンスと反社会的勢力の排除-中華料理チェーン店における第三者委員会調査報告書の分析」

筆者: 原 正雄

事例で検証する

最新コンプライアンス問題

【第6回】

「コーポレートガバナンスと反社会的勢力の排除
-中華料理チェーン店における第三者委員会調査報告書の分析」

 

弁護士 原 正雄

 

2013年12月19日早朝、餃子を中心とする中華料理チェーン店を経営するO社の代表取締役社長のT氏が射殺された。その後、捜査は進展しなかったが、事件から約2年後の2015年12月13日、突然に「組関係者浮上」との報道がなされた。

O社は、この報道を受け、O社と反社会的勢力との関係の有無、及びO社のコーポレートガバナンスの評価検証のため、2016年1月5日、外部の専門家で構成する第三者委員会を設置した。

2016年3月29日、O社は、同委員会の「調査報告書」を公表した。同報告書は公表版であり、会社にはより詳細なものが提出されたようだが、それでも全93ページにわたる詳細なものである。同報告書は、O社が30年以上前からA氏と関係を有しており、A氏に200億円以上の資金を流出させ、このうち170億円が未回収となっていることを認定している。そのうえでO社のコーポレートガバナンスの状況、反社会的勢力の排除の状況を分析評価している。

同報告書の公表日から翌日の2016年3月30日にかけて、O社の株価は、4,200円から3,500円まで2割近く急落した。しかし、その後は次第に値を戻し、6月10日現在、3,995円まで上昇している。これは、O社が痛みを躊躇せずに過去と向き合い、将来に向けてコーポレートガバナンスを構築しようという、強い決意と姿勢を市場が評価したものと解する。

本報告書は、企業が反社会的勢力との関係を謝絶することの困難さ、そしてそこから立ち直るための方法を知るうえで、示唆に富む。そこで、本報告書の記載を確認しつつ、検討する。

 

1 コーポレートガバナンスと反社会的勢力排除

2007年6月19日、犯罪対策閣僚会議が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表した。同指針は、反社会的勢力排除について、企業の社会的責任であり、企業防衛のためにも必要不可欠と明言している。

その後、2009年8月には、東京証券取引所が有価証券上場規程等を改定し、上場廃止事由の1つとして、反社会的勢力との関与を追加した。2010年から2011年にかけては、全国の都道府県で暴力団排除条例が制定施行された。

2015年に制定された東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは、基本原則2において「ステークホルダーとの適切な協働」を宣言している。ここで「適切な」とは、反社会的勢力排除の趣旨を含む。

社会は、企業が反社会的勢力と関係を持つことを許さなくなっている。現に、2013年には、金融機関が、反社会的勢力への融資を放置していたとして、金融庁から業務改善命令を受けた

O社が今回の第三者委員会による調査報告書を公表したのは、このような社会の変化を受けてのことであった。

 

2 第三者委員会の調査報告書

(1) O社の歴史

調査報告書は、2013年に発生した上記事件から50年以上前、1967年の創業時にさかのぼって、O社の歴史を紐解いている。

創業者は、1977年頃にA氏と知り合い、1985年頃から助力を得るようになった。1994年頃から、A氏との間で、経済合理性が明らかではない多額の貸付や、不動産売買等の不適切な取引を繰り返すようになった、とのことである。

調査報告書は、そうしたことを踏まえて、O社の過去のコーポレートガバナンスの状況を分析している。

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「コーポレートガバナンスと反社会的勢力の排除
-中華料理チェーン店における第三者委員会調査報告書の分析」

 

弁護士 原 正雄

 

2013年12月19日早朝、餃子を中心とする中華料理チェーン店を経営するO社の代表取締役社長のT氏が射殺された。その後、捜査は進展しなかったが、事件から約2年後の2015年12月13日、突然に「組関係者浮上」との報道がなされた。

O社は、この報道を受け、O社と反社会的勢力との関係の有無、及びO社のコーポレートガバナンスの評価検証のため、2016年1月5日、外部の専門家で構成する第三者委員会を設置した。

2016年3月29日、O社は、同委員会の「調査報告書」を公表した。同報告書は公表版であり、会社にはより詳細なものが提出されたようだが、それでも全93ページにわたる詳細なものである。同報告書は、O社が30年以上前からA氏と関係を有しており、A氏に200億円以上の資金を流出させ、このうち170億円が未回収となっていることを認定している。そのうえでO社のコーポレートガバナンスの状況、反社会的勢力の排除の状況を分析評価している。

同報告書の公表日から翌日の2016年3月30日にかけて、O社の株価は、4,200円から3,500円まで2割近く急落した。しかし、その後は次第に値を戻し、6月10日現在、3,995円まで上昇している。これは、O社が痛みを躊躇せずに過去と向き合い、将来に向けてコーポレートガバナンスを構築しようという、強い決意と姿勢を市場が評価したものと解する。

本報告書は、企業が反社会的勢力との関係を謝絶することの困難さ、そしてそこから立ち直るための方法を知るうえで、示唆に富む。そこで、本報告書の記載を確認しつつ、検討する。

 

1 コーポレートガバナンスと反社会的勢力排除

2007年6月19日、犯罪対策閣僚会議が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表した。同指針は、反社会的勢力排除について、企業の社会的責任であり、企業防衛のためにも必要不可欠と明言している。

その後、2009年8月には、東京証券取引所が有価証券上場規程等を改定し、上場廃止事由の1つとして、反社会的勢力との関与を追加した。2010年から2011年にかけては、全国の都道府県で暴力団排除条例が制定施行された。

2015年に制定された東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは、基本原則2において「ステークホルダーとの適切な協働」を宣言している。ここで「適切な」とは、反社会的勢力排除の趣旨を含む。

社会は、企業が反社会的勢力と関係を持つことを許さなくなっている。現に、2013年には、金融機関が、反社会的勢力への融資を放置していたとして、金融庁から業務改善命令を受けた

O社が今回の第三者委員会による調査報告書を公表したのは、このような社会の変化を受けてのことであった。

 

2 第三者委員会の調査報告書

(1) O社の歴史

調査報告書は、2013年に発生した上記事件から50年以上前、1967年の創業時にさかのぼって、O社の歴史を紐解いている。

創業者は、1977年頃にA氏と知り合い、1985年頃から助力を得るようになった。1994年頃から、A氏との間で、経済合理性が明らかではない多額の貸付や、不動産売買等の不適切な取引を繰り返すようになった、とのことである。

調査報告書は、そうしたことを踏まえて、O社の過去のコーポレートガバナンスの状況を分析している。

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連載目次

「事例で検証する最新コンプライアンス問題」

筆者紹介

原 正雄

(はら・まさお)

弁護士。一橋大学法学部卒、中島経営法律事務所パートナー

専門は、コンプライアンス、企業危機管理、消費者対応、製造物責任、知的財産、労務、セクハラ・パワハラ、証券取引、M&A、訴訟など企業法務

主な著書に「社内規程整備で取り組む―中小企業のコンプライアンス対策」(清文社)、「図解 仕事の法律」(共著、三笠書房)、「ネットリスク対策なるほどQ&A」(共著、中央経済社)、「事例で見る借地借家契約の解除」(共著、新日本法規)など多数。
論文執筆、講演・研修など多数。

http://www.ntlo.net/partner/detail/id=15&contents_type=45

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