公開日: 2023/09/21 (掲載号:No.536)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第45回】「鑑定評価書には表立って登場しない「不動産の価格に関する諸原則」」

筆者: 黒沢 泰

税理士が知っておきたい

不動産鑑定評価常識

【第45回】

「鑑定評価書には表立って登場しない「不動産の価格に関する諸原則」」

 

不動産鑑定士 黒沢 泰

 

1 はじめに

不動産鑑定評価基準(以下、単に「基準」と呼ぶ場合はこの基準を指します)には、「不動産の価格に関する諸原則」という独立した1つの章が設けられています(総論第4章)。

「不動産の価格に関する諸原則」は、基準の根底にあって鑑定評価の理論的基礎をなすものであり、不動産鑑定士が単なる経験的感覚のみによって鑑定評価額を導き出すことのないよう合理的な指針を定めたものです。この原則自体、鑑定評価書には表立って登場しませんが、決して机上の空論ではなく、現実に発生する不動産の価格現象を分析する上で重要な拠り所となっています。

今回は、「不動産の価格に関する諸原則」とはどのようなものであるかにつき、全体的なイメージを捉えた上で、特に鑑定実務に直接かかわりの深いいくつかの原則を掲げて鑑定評価書を読む際の手助けとしたいと思います。

 

2 「不動産の価格に関する諸原則」とは

ちなみに、基準に掲げられている「不動産の価格に関する諸原則」とは以下のものを指します。なお、( )内は基準の文章を筆者が簡潔にまとめたものです。

 需要と供給の原則(需要と供給との相互関係によって価格が定まること)

 変動の原則(多数の価格形成要因の変動の過程において価格が定まること)

 代替の原則(代替可能な他の不動産との関連で価格が定まること)

 最有効使用の原則(その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用を標準として価格が定まること)

 均衡の原則(不動産の最有効使用が発揮されるためには、その構成要素(=土地及び建物)が均衡を得ている必要があること)

 収益逓増及び逓減の原則(不動産の追加投資額に対応する収益は、ある点までは増加するが、これを超えると減少すること)

 収益配分の原則(総収益のうち、資本、労働及び経営に配分される部分以外の部分は、土地に帰属するということ)

 寄与の原則(不動産のある部分に対する投資がその不動産全体の収益をどの程度増加させ、価格に影響を及ぼすかを判定するために役立つ原則)

 適合の原則(不動産が環境に適合しているかどうかが最有効使用判定のかなめとなること)

 競争の原則(不動産の価格は他の類似不動産との競争の過程で形成されること)

 予測の原則(不動産の価格は市場参加者による予測によって左右されること)

上記の趣旨からそれとなく読み取ることができると思われますが、これらの原則は一般の経済法則に基礎を置くものが多い反面、鑑定評価に特有のものも含まれています。

以下、そのいくつかを掲げて解説しますが、これらは鑑定評価書には価格原則という形での直接的な記載はないものの、税理士の方々が知っておけば鑑定評価書を読む際に役立つものと思われます。

 

3 鑑定評価に特有の価格原則

(1) 最有効使用の原則

基準では、最有効使用の原則の趣旨を次のとおり掲げています(下線は筆者によります)。

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。

(総論第4章Ⅳ)

ここで、「その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用」(※)とは、住宅地であれば快適性、商業地であれば収益性、工業地であれば生産性の高さを最も発揮させることのできる使用方法を意味しています。

(※) 基準がこのように少々回りくどい表現をとっているのは、昭和39年3月の基準制定時に、アメリカ不動産鑑定人協会テキストブック「不動産鑑定評価論」に掲載されていた「最高最善の使用の原則(Principle of Highest and Best Use)」を翻訳して基準に取り入れたという背景があるようです。

また、最有効使用の判定に当たっては、鑑定実務の上では、案件ごとに次の視点を念頭に置いて検討を行っています(対象不動産が最有効使用の状態にない場合には減価要因として織り込む必要が生じるからです)。

(ア) 対象不動産にとって、どのような用途が最有効使用といえるか

(イ) 敷地規模との関係を考慮した場合、現状の使用方法が最有効使用といえるか

(ウ) 建物と敷地の配置等から判断して、現状の使用方法が最有効使用といえるか

これを判定するために不動産鑑定士が必ず考慮に入れるのが近隣地域における標準的な使用方法であり、これと対象不動産の現状の使用状況を比較することを通じて、最有効使用の判定につなげているのが通常です(その意味では、次に述べる「適合の原則」や「均衡の原則」と深い関連があるといえます)。

また、最有効使用の原則の適用に当たっては、良識と通常の使用能力を持つ人(一般人)による使用方法を前提としており、特殊な才能を持つ人(=通常以上の収益をあげ得る能力を有する人)による使用方法ははじめから前提としていない点に留意が必要です。

(2) 適合の原則

不動産の収益性(又は快適性、生産性)が最高度に発揮されるためには、対象不動産がその環境に適合していることが必要となります。これが適合の原則といわれるものです。

したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、対象不動産が環境に適合しているかどうかを分析することが不可欠といえます。

鑑定評価書のなかに、「対象建物は環境と適合している」とか、「対象建物は環境との適合を欠く」という趣旨の記載が行われているのはこのためです。

(3) 均衡の原則

均衡の原則とは、敷地内に建物が適正に配置されているなど、敷地との均衡が保たれている場合に、その効用が最高度に発揮される(=最有効使用の状態にある)ことを意味しています。

したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、適合の原則とともに、均衡の原則に当てはめて現実の使用状況を調査することが不可欠といえます。

鑑定評価書のなかに、「対象建物は敷地と適応している」とか、「対象建物は敷地との適応を欠く」という趣旨の記載が行われているのはこのためです。

 

4 まとめ

「不動産の価格に関する諸原則」などというと、いかにも専門的で堅苦しく、理論上の産物に過ぎないのではないかと受け止められる方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの原則のなかには、突き詰めていけば経済学的に奥深いものも含まれていますが、鑑定実務の上ではむしろ常識的な捉え方が集約された価格原則(最有効使用の原則、適合の原則及び均衡の原則)の適用が中心となっているといえます。

その意味で、筆者は、「不動産の価格に関する諸原則」はきわめて現実的な側面を反映するものであり、鑑定実務にも十分活用されている原則であると受け止めています。

(了)

「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。

税理士が知っておきたい

不動産鑑定評価常識

【第45回】

「鑑定評価書には表立って登場しない「不動産の価格に関する諸原則」」

 

不動産鑑定士 黒沢 泰

 

1 はじめに

不動産鑑定評価基準(以下、単に「基準」と呼ぶ場合はこの基準を指します)には、「不動産の価格に関する諸原則」という独立した1つの章が設けられています(総論第4章)。

「不動産の価格に関する諸原則」は、基準の根底にあって鑑定評価の理論的基礎をなすものであり、不動産鑑定士が単なる経験的感覚のみによって鑑定評価額を導き出すことのないよう合理的な指針を定めたものです。この原則自体、鑑定評価書には表立って登場しませんが、決して机上の空論ではなく、現実に発生する不動産の価格現象を分析する上で重要な拠り所となっています。

今回は、「不動産の価格に関する諸原則」とはどのようなものであるかにつき、全体的なイメージを捉えた上で、特に鑑定実務に直接かかわりの深いいくつかの原則を掲げて鑑定評価書を読む際の手助けとしたいと思います。

 

2 「不動産の価格に関する諸原則」とは

ちなみに、基準に掲げられている「不動産の価格に関する諸原則」とは以下のものを指します。なお、( )内は基準の文章を筆者が簡潔にまとめたものです。

 需要と供給の原則(需要と供給との相互関係によって価格が定まること)

 変動の原則(多数の価格形成要因の変動の過程において価格が定まること)

 代替の原則(代替可能な他の不動産との関連で価格が定まること)

 最有効使用の原則(その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用を標準として価格が定まること)

 均衡の原則(不動産の最有効使用が発揮されるためには、その構成要素(=土地及び建物)が均衡を得ている必要があること)

 収益逓増及び逓減の原則(不動産の追加投資額に対応する収益は、ある点までは増加するが、これを超えると減少すること)

 収益配分の原則(総収益のうち、資本、労働及び経営に配分される部分以外の部分は、土地に帰属するということ)

 寄与の原則(不動産のある部分に対する投資がその不動産全体の収益をどの程度増加させ、価格に影響を及ぼすかを判定するために役立つ原則)

 適合の原則(不動産が環境に適合しているかどうかが最有効使用判定のかなめとなること)

 競争の原則(不動産の価格は他の類似不動産との競争の過程で形成されること)

 予測の原則(不動産の価格は市場参加者による予測によって左右されること)

上記の趣旨からそれとなく読み取ることができると思われますが、これらの原則は一般の経済法則に基礎を置くものが多い反面、鑑定評価に特有のものも含まれています。

以下、そのいくつかを掲げて解説しますが、これらは鑑定評価書には価格原則という形での直接的な記載はないものの、税理士の方々が知っておけば鑑定評価書を読む際に役立つものと思われます。

 

3 鑑定評価に特有の価格原則

(1) 最有効使用の原則

基準では、最有効使用の原則の趣旨を次のとおり掲げています(下線は筆者によります)。

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。

(総論第4章Ⅳ)

ここで、「その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用」(※)とは、住宅地であれば快適性、商業地であれば収益性、工業地であれば生産性の高さを最も発揮させることのできる使用方法を意味しています。

(※) 基準がこのように少々回りくどい表現をとっているのは、昭和39年3月の基準制定時に、アメリカ不動産鑑定人協会テキストブック「不動産鑑定評価論」に掲載されていた「最高最善の使用の原則(Principle of Highest and Best Use)」を翻訳して基準に取り入れたという背景があるようです。

また、最有効使用の判定に当たっては、鑑定実務の上では、案件ごとに次の視点を念頭に置いて検討を行っています(対象不動産が最有効使用の状態にない場合には減価要因として織り込む必要が生じるからです)。

(ア) 対象不動産にとって、どのような用途が最有効使用といえるか

(イ) 敷地規模との関係を考慮した場合、現状の使用方法が最有効使用といえるか

(ウ) 建物と敷地の配置等から判断して、現状の使用方法が最有効使用といえるか

これを判定するために不動産鑑定士が必ず考慮に入れるのが近隣地域における標準的な使用方法であり、これと対象不動産の現状の使用状況を比較することを通じて、最有効使用の判定につなげているのが通常です(その意味では、次に述べる「適合の原則」や「均衡の原則」と深い関連があるといえます)。

また、最有効使用の原則の適用に当たっては、良識と通常の使用能力を持つ人(一般人)による使用方法を前提としており、特殊な才能を持つ人(=通常以上の収益をあげ得る能力を有する人)による使用方法ははじめから前提としていない点に留意が必要です。

(2) 適合の原則

不動産の収益性(又は快適性、生産性)が最高度に発揮されるためには、対象不動産がその環境に適合していることが必要となります。これが適合の原則といわれるものです。

したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、対象不動産が環境に適合しているかどうかを分析することが不可欠といえます。

鑑定評価書のなかに、「対象建物は環境と適合している」とか、「対象建物は環境との適合を欠く」という趣旨の記載が行われているのはこのためです。

(3) 均衡の原則

均衡の原則とは、敷地内に建物が適正に配置されているなど、敷地との均衡が保たれている場合に、その効用が最高度に発揮される(=最有効使用の状態にある)ことを意味しています。

したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、適合の原則とともに、均衡の原則に当てはめて現実の使用状況を調査することが不可欠といえます。

鑑定評価書のなかに、「対象建物は敷地と適応している」とか、「対象建物は敷地との適応を欠く」という趣旨の記載が行われているのはこのためです。

 

4 まとめ

「不動産の価格に関する諸原則」などというと、いかにも専門的で堅苦しく、理論上の産物に過ぎないのではないかと受け止められる方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらの原則のなかには、突き詰めていけば経済学的に奥深いものも含まれていますが、鑑定実務の上ではむしろ常識的な捉え方が集約された価格原則(最有効使用の原則、適合の原則及び均衡の原則)の適用が中心となっているといえます。

その意味で、筆者は、「不動産の価格に関する諸原則」はきわめて現実的な側面を反映するものであり、鑑定実務にも十分活用されている原則であると受け止めています。

(了)

「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

税理士が知っておきたい
不動産鑑定評価の常識

第1回~第40回 ※クリックするとご覧いただけます。

第41回~

筆者紹介

黒沢 泰

(くろさわ・ひろし)

大手鉄鋼メーカーの系列会社(部長職)にて不動産鑑定業務を中心に担当。不動産鑑定士。

【役職等】
不動産鑑定士資格取得後研修担当講師(財団の鑑定評価、現在)、不動産鑑定士実務修習修了考査委員(現在)、不動産鑑定士実務修習担当講師(行政法規総論、現在)、(公社)日本不動産鑑定士協会連合会調査研究委員会判例等研究委員会小委員長(現在)

【主著】
『土地の時価評価の実務』(平成12年6月)、『固定資産税と時価評価の実務Q&A』(平成27年3月)、『基準の行間を読む 不動産評価実務の判断と留意点』(令和元年8月)『不動産鑑定評価書を読みこなすための基礎知識』(令和2年12月)『土地利用権における鑑定評価の実務Q&A』(令和3年12月)『新版 実務につながる地代・家賃の判断と評価』(令和4年9月)『新版/税理士を悩ませる『財産評価』の算定と税務の要点』(令和5年7月)『税理士が知っておきたい/実務で役立つ 不動産鑑定評価の常識』(令和6年7月、以上清文社)、『新版 逐条詳解・不動産鑑定評価基準』(平成27年6月)『新版 私道の調査・評価と法律・税務』(平成27年10月)、『不動産の取引と評価のための物件調査ハンドブック』(平成28年9月)、『すぐに使える不動産契約書式例60選』(平成29年7月)『雑種地の評価 裁決事例・裁判例から読み取る雑種地評価の留意点』(平成30年12月、以上プログレス)、『事例でわかる不動産鑑定の物件調査Q&A(第2版)』(平成25年3月)、『不動産鑑定実務ハンドブック』(平成26年7月、以上中央経済社)ほか多数。

     

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