公開日: 2020/03/05 (掲載号:No.359)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例15】「特許業務法人の社員は使用人兼務役員に該当するのか」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例15】

「特許業務法人の社員は使用人兼務役員に該当するのか」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は都内で個人の税理士事務所を経営しております。今回のご相談は、その中のクライアントで、高校時代のサッカー部の仲間Aが経営するある特許業務法人Bの法人税の取扱いに関するものです。

特許業務法人というのは、弁理士法に基づき設立される特殊法人(弁理士法37)で、弁護士法に基づく弁護士法人や税理士法に基づく税理士法人に類似する制度です。特許業務法人Bには4名の社員がおり、そのうちの1名(A)が代表社員となっています。

代表社員Aの給与は固定給で、前年度の法人全体の収益の状況を基に算定した金額を12等分し、毎月同額ずつ支払っております。残りの社員はいずれも弁理士で、その報酬たる給与は固定給部分(月額20万円)と歩合給部分で構成されています。このうち歩合給は、各社員が担当した案件につき、法人Bが顧客に請求する金額の一定割合を乗じた金額としています。当該歩合給は、年2回、他の従業員に対して賞与を支払う時期と同じタイミングで各社員に支給しています。

私は特許業務法人Bの法人税の申告書を作成するにあたり、代表社員AとA以外の社員に対する給与の支払い内容を確認しました。その結果、A以外の社員は優秀な弁理士で科学技術には滅法明るいのですが、事務作業には興味がなく、事務所の経営にタッチする意欲もないことから、勤務実態は使用人としての色彩が強いといえます。勿論、特許業務法人の社員であるので、法律上業務執行権を有していることから、法人税法上は、使用人兼務役員に該当するものと考えました。そこで、特許業務法人Bの社員になる一歩手前の職種であるディレクター3名の給与と比較し、それを上回る部分の金額は損金不算入としましたが、それ以下の部分の金額については全額損金に算入しました。

ところが、最近特許業務法人Bが受けた税務調査で、特許業務法人の社員は使用人としての立場でその職務に従事するものではないため、法人税法上、使用人兼務役員には該当せず、代表社員A以外の社員に対して支払った給与のうち、歩合給部分は全額損金不算入である旨を調査官から言い渡されました。

既に説明したとおり、A以外の社員はいわば「技術オタク」で事務所の経営にタッチする意欲はなく、おおよそ役員や経営者としての役割を果たしておらず、実際、事務所経営はAが1人で担っているのが実態であることから、調査官の主張には納得がいきません。法人税法上、A以外の社員が使用人兼務役員に該当する余地はないのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例15】

「特許業務法人の社員は使用人兼務役員に該当するのか」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は都内で個人の税理士事務所を経営しております。今回のご相談は、その中のクライアントで、高校時代のサッカー部の仲間Aが経営するある特許業務法人Bの法人税の取扱いに関するものです。

特許業務法人というのは、弁理士法に基づき設立される特殊法人(弁理士法37)で、弁護士法に基づく弁護士法人や税理士法に基づく税理士法人に類似する制度です。特許業務法人Bには4名の社員がおり、そのうちの1名(A)が代表社員となっています。

代表社員Aの給与は固定給で、前年度の法人全体の収益の状況を基に算定した金額を12等分し、毎月同額ずつ支払っております。残りの社員はいずれも弁理士で、その報酬たる給与は固定給部分(月額20万円)と歩合給部分で構成されています。このうち歩合給は、各社員が担当した案件につき、法人Bが顧客に請求する金額の一定割合を乗じた金額としています。当該歩合給は、年2回、他の従業員に対して賞与を支払う時期と同じタイミングで各社員に支給しています。

私は特許業務法人Bの法人税の申告書を作成するにあたり、代表社員AとA以外の社員に対する給与の支払い内容を確認しました。その結果、A以外の社員は優秀な弁理士で科学技術には滅法明るいのですが、事務作業には興味がなく、事務所の経営にタッチする意欲もないことから、勤務実態は使用人としての色彩が強いといえます。勿論、特許業務法人の社員であるので、法律上業務執行権を有していることから、法人税法上は、使用人兼務役員に該当するものと考えました。そこで、特許業務法人Bの社員になる一歩手前の職種であるディレクター3名の給与と比較し、それを上回る部分の金額は損金不算入としましたが、それ以下の部分の金額については全額損金に算入しました。

ところが、最近特許業務法人Bが受けた税務調査で、特許業務法人の社員は使用人としての立場でその職務に従事するものではないため、法人税法上、使用人兼務役員には該当せず、代表社員A以外の社員に対して支払った給与のうち、歩合給部分は全額損金不算入である旨を調査官から言い渡されました。

既に説明したとおり、A以外の社員はいわば「技術オタク」で事務所の経営にタッチする意欲はなく、おおよそ役員や経営者としての役割を果たしておらず、実際、事務所経営はAが1人で担っているのが実態であることから、調査官の主張には納得がいきません。法人税法上、A以外の社員が使用人兼務役員に該当する余地はないのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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