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[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第61回】富士フイルムホールディングス株式会社「第三者委員会調査報告書(平成29年6月10日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第61回】

富士フイルムホールディングス株式会社

「第三者委員会調査報告書(平成29年6月10日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【調査委員会の概要】

〔適時開示〕

〔第三者委員会〕

【委員長】

公認会計士 伊藤 大義

【委 員】

弁護士 佐藤 恭一

弁護士 西村 光治

【調査補助者】

デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 所属公認会計士等224名

シティコーワ法律事務所 所属弁護士等15名
弁護士法人松尾綜合法律事務所 所属弁護士等8名

〔調査期間〕

2017(平成29)年4月20日から6月10日まで

〔調査の目的〕

(1) 本事案の事実関係の調査

(2) 本事案に類似する事案の存在及び事実関係の調査

(3) 本事案に関する原因分析及び再発防止策の提言

(4) その他、本委員会が必要と認めた事項

〔適時開示(調査結果)〕

 

【富士フイルムホールディングス株式会社の概要】

富士フイルムホールディングス株式会社(以下「FH」と略称する)は、1934(昭和9)年設立。2016年10月1日付で、富士写真フイルム株式会社から商号変更して、持株会社へ移行。傘下に「イメージングソリューション」「インフォメーションソリューション」事業の中核会社である富士フイルム株式会社(以下「FF」と略称する)、「ドキュメントソリューション」事業の中核会社である富士ゼロックス株式会社(以下「FX」と略称する)をはじめ、多数の連結子会社を有する。連結売上高23,222億円、営業利益1,723億円(数字は、いずれも2017年3月期)。

今般、不正な売上計上が発覚したのは、FXの子会社で、アジア・オセアニア地区を統括するFuji Xerox Asia Pacific Pte. Ltd.(シンガポール。以下「FXAP」と略称する)が管轄するニュージーランド現地法人(以下「FXNZ」と略称する)とオーストラリア現地法人(以下「FXA」と略称する)の2社であった(以下の組織を参照)。

【図:ニュージーランド・オーストラリア子会社の管理体制】

 

【第三者委員会調査報告書の概要】

1 調査に至る経緯

2004年1月

  • FXNZ社長に、ネイル・ウィッタカー氏が就任

2009年9月

  • APOによるFXNZに対する内部監査の実施

2015年7月

  • 内部告発メール
  • APO内部監査部によるFXNZの監査実施

2016年4月

  • 富士フイルムHD、2016年3月期決算発表

5月

  • ネイル・ウィッタカー氏がFXA社長に就任

6月

  • 会計監査人が新日本からあずさに交代

9月

  • ニュージーランドの経済新聞が、FXNZの巨額損失計上、売上の不正計上を報じた記事を掲載

11月

  • あずさ監査法人が会計処理の問題を指摘

2017年2月

  • 富士フイルムHD、1,500億円の普通社債発行

4月

  • 富士フイルムHD、決算発表延期を公表
  • 第三者委員会を設置し調査

2 調査結果の概要

(1) 現地法人の形態

上記の組織体制に見られるように、不正が発覚したニュージーランドとオーストラリアでは、販売会社とリース会社という2つの法人で構成されている。その役割をFXNZに関する調査報告書から抜粋するp.34

MARCOの主な業務は、海外のFX関連会社から、リース対象商品を買い入れ、顧客に販売することであり、顧客との接点を有する。顧客はMARCOとの間で契約を締結する為、顧客に対するリース債権やサービス収入債権はMARCOが取得するが、MARCOはこれをFINCOに債権譲渡する。顧客は契約に基づく支払をMARCOに対して行い、MARCOはFINCOにリース債権及びサービス収入債権相当額を引き渡す。リース債権をFINCOに譲渡した後も、リース対象商品の所有権はMARCOが所有する。FINCOは譲り受けたリース債権から利息収入を得ている。

(2) リース取引の定義

FXNZ及び調査の過程で発覚したFXAにおける会計不正の中心は、本来、オペレーティングリースとして会計処理しなければならないリース契約について、キャピタルリースの一分類である販売タイプリースとしての会計処理を行った結果、本来計上すべきではない売上を計上する方法により、不正を行ったものである。

調査報告書p.42から、リース取引の分類についての解説を引用する(下線は筆者による)。

第三者委員会は、本定義に基づき、FXNZが採用していた契約類型では、上記aからdに掲げる基準を満たさない、または満たさない可能性がある、と判断した。

(3) リース取引における会計処理

本来、オペレーティングリースに該当するリース取引を販売タイプリースに仮装することの最大のメリットは、リース取引開始時に、リース契約相当額の売上が計上できることにある。一方、オペレーティングリース取引であると認定されてしまうと、売上はリース料受取の都度、認識することとなる。

〇販売タイプリースの貸手における会計処理報告書p.43

〇オペレーティングリースの貸手における会計処理報告書p.44

(4) 問題点

FXNZにおけるリース取引に関する不正な売上計上に係る問題点は、大きく4つに分類される。

① ターゲットボリューム

FXNZにおけるリース取引に係る売上総額はターゲットボリューム(目標コピー枚数量)に基づき算定されていたが、顧客に対しては、実際使用数量により請求していた。契約には、ミニマムペイメント条項(実際の使用数量にかかわらず、ターゲットボリュームに基づく最低限の固定額の支払いを保証する条項)もなかったため、契約締結時に算定した売上と実際の請求との間に乖離が生じていた。

② DSG調整

上記のとおり、顧客の実際使用量がターゲットボリュームを下回った場合には、その分だけ、MARCOのサービス収入が減少することになる。その収入不足に対応してFXNZでは、DSG(Document Services Group)調整と称する、MARCOのサービス収入及びFINCOにおけるリース債権の追加計上を行っていた。

FXNZの経営会議では、システム上でプログラムにより自動計算されたDSG調整額の検討が行われていた。第三者委員会は、DSG調整により、FXNZ経営陣は、APOからの売上目標達成のプレッシャーを回避しつつ、売上目標達成による賞与等の経済的な利益を受けていたと判断している。

③ 残存価額

キャピタルリースでは、機器の所有権がリース契約期間満了後に顧客に移転することが多く、残存価額はほとんどないことが一般的であるにもかかわらず、MARCOでは、残存価額を高く設定することにより、リース料を低く抑えていた。その結果、リース債権の回収可能性に問題が生じることとなっていたが、2015年4月下旬から6月中旬ころに、FXNZ経営陣は、大きな残存価額が社内規程違反と認定されるのを防ぐ目的で、他の顧客契約への残存価額の付け替えを行っていた。

④ 契約ロールオーバー(書換え)

FXNZでは、リース契約を再締結する方法(ロールオーバー)により、同一のリース資産で複数回機器売上を計上する不正も行われていた。こうしたロールオーバーにより、上記からまでの不正行為による問題点は先送りされ、回収見込みの低いリース債権だけが膨れ上がっていった。

(5) 拡大する不正

FXNZでは、上記以外にも、契約未締結又は機器未設置での収益計上が行われていたり、マクロ調整と称する財務業績を向上させるための、売上の二重計上や架空計上、費用を繰り延べたりするなどの不正な会計処理が行われていた。

一方、FXAにおいても、財務諸表に対するリスク項目を「Risk & Opportunity」と呼ばれるスプレッドシートを用いて管理しており、当期の発生費用を翌期に繰り延べ、または翌期の売上を見越し計上するなどの不正が発見されている。

(6) 財務書類への影響額

3 再発防止策

第三者委員会は、調査報告書の最後に、再発防止策を次のように提言している。

(1) FX(富士ゼロックス)に対する提言

 財務諸表作成に際しての倫理観・誠実性の欠如の是正

 経理部の組織再編―事業管理の経理部所管からの分離

 内部監査部門の独立性確保・人材確保

 海外子会社(特にオセアニア地域)の管理体制の見直し

オセアニアにおける子会社管理の難しさについては、地域的な距離とコミュニケーションの問題が、報告書中でも何度となく指摘されている。また、機器販売会社とリース会社を同一の組織であるかのように運用する事業体制が、今般の不正を長く隠蔽する原因の1つであったことも事実である。

第三者委員会の再発防止策は、「子会社管理の体制・方法の見直し」や「何らかの対策を講じること」を求めているのだが、残念ながら、提言内容はいまひとつ具体性に欠けるものとなってしまっている。

(2) FH(富士フイルムHD)に対する提言

一方、FHに対する提言の冒頭には、次の記述がある。

FHとFXとの間には、FHとFFの間に見られるような一体感は認められない。

第三者委員会はそこまで踏み込んだ表現はしていないが、今般の不正が長く隠蔽されてきた原因は、この言葉に尽きるかもしれない。

そう指摘したうえで、第三者委員会は、FHに対する再発防止策の提言として、グループ内の一体感の醸成を求め、次のように報告書を締め括っている。

FHは、グループ会社の適切なガバナンスを実現するため、FXも含めて組織、経営管理機能及び人事のあり方を再検討し、コンプライアンス体制・内部統制の仕組みの充実に向けた、全社的な再整備を行う必要があるだろう。

 

【調査報告書の特徴】

2016年9月8日、ニュージーランドのメジャーな経済新聞であるNational Business Review(以下「NBR紙」と略称する)をはじめとする新聞各紙は、FXNZが決算で巨額損失を計上した事実を報じた。また、巨額損失の原因として、NBR紙は、9月16日において、FXNZにおいて売上の不正計上があったという記事を掲載した。

日本有数の企業グループである富士フイルムホールディングスの海外子会社における会計不正は、この現地報道を契機に表沙汰になっていく。

報道を受けて、FXNZは、Companies Office(企業登記・財務情報等を管理する政府機関)及びSerious Fraud Office(SFO、ニュージーランド警察省の一機関である重大不正捜査局)から問い合わせを受ける。同時に、会計監査人からも問い合わせを受けるが、いずれも、シナリオに基づいた回答を行い、不正の隠蔽を図り続けた。

こうした状況の中、2016年3月期まで会計監査を担当した新日本監査法人に代わって、同社の会計監査人となったあずさ監査法人は、この問題の調査を要求し、社内調査を経て、第三者委員会の設置に至る。最初に、APOによる内部監査で不正の兆候が発見されてから実に9年目に、ようやく不正会計が白日の下にさらされた格好である。

1 詳細な事実認定

186ページに及ぶ調査報告書は、多くの調査担当者が、実に念入りに不正の事実に迫っていることを示す記述に溢れている。関係者のうち、誰が不正であることを承知していたか、いつから不正が行われていたかを暴いていく様子は、相当の説得力を有している。

また、調査の過程で、ウィッタカー氏が移籍したFXAでも同様の不正が行われていた事実を把握し、追加で調査を行っていることも、第三者委員会をはじめ、今般の調査に携わった多くの関係者の努力の賜物であろう。

ただ、あえて、調査報告書の記述に不足している、またはやや分かりづらい点を挙げるとすれば、次の3点が挙げられようか。すなわち、

(1) 2009年9月のAPOによる内部監査の結果、売上計上の適正性に疑義を持っていたにもかかわらず、どうしてFXNZの不正を防止できなかったか

(2) 不正のトライアングルのうち、「動機」「正当化」といった要素について第三者委員会はどう認定しているのか

(3) ウィッタカー氏へのインタビューはできたのか

という3点である。

(1) APOによる内部監査がFXNZの不正を止められなかった理由報告書p.143

2009年9月の監査において、APO内部監査部は、FXNZの売上計上の適正性について、「オペレーティングリース」とすべきであると指摘した。この指摘に基づき、是正が行われていれば、今般のような第三者委員会による調査という事態は防ぐことができたはずである。

第三者委員会は、不正を防止できなかった理由として、以下の4点を挙げている。

 APO内部監査部の独立性の欠如

 APO経理部の機能不全

 FX吉田晴彦副社長、柳川専務らによる隠蔽

 APO内部監査部のリソース不足及びシンガポールからオセアニアへの物理的距離

APO内部監査部門が機能不全に陥っていたことは間違いない。そこには、日本から来た上司と現地雇用社員との間の確執、アジアとオセアニアにおける企業風土の相違といった、日本企業が海外現地法人を統治するうえでの根源的な問題点があったのではないかと思料するが、そのあたりの記述に物足りなさを感じるとともに、問題点が曖昧になってしまっている印象を受ける。

(2) 不正の「動機」は何か

報告書では繰り返し、FXグループにおける「売上至上主義」という表現が使われている。また、不正を行うことによって、FXNZ経営陣は、APOからの売上目標達成のプレッシャーを回避しつつ、売上目標達成による賞与等の経済的な利益を受けていたという記述もある。しかし、売上至上主義、売上拡大に伴い享受できるインセンティブは、経営陣にとって、売上を拡大する動機とはなっても、不正な売上計上を行う動機にはつながらないのではないか。

同様に、不正のトライアングルは、不正実行者による「正当化」、不正を行ううえでの言い訳を必要とするという仮説であるが、そうした正当化につながる事情についてもコメントがなく、物足りなさを感じる。

(3) ウィッタカー氏へのインタビューはできたのか

ウィッタカー氏の調査はAPO法務の立会いのもと、シンガポールの法律事務所に属する弁護士が行い、その調査結果は、「FXA・FXNZ問題の外部弁護士ヒアリング調査結果(2016年4月18日付)」としてまとめられ、「FX会長・山本氏及びFX社長・栗原氏への報告では、FXNZに関するリスクについて十分に伝えられず、2016年3月期決算が適正になされたことが強調された報告書p.127」との記述がある。ただし、第三者委員会が、今般の不正行為の首謀者と見られるFXNZ元社長で、その後FXA社長へと転じたネイル・ウィッタカー氏に対するインタビューを行ったのかどうか、報告書に記述はない。

前項でも、動機の解明が一部不十分なのではないかと指摘したが、インタビューを試みたが行えなかったのか、最初からインタビュー抜きで調査を進める方針であったのか、そして、それらの理由は何か、といった事情に関する第三者委員会のコメントがないことは、調査報告書の読後に、物足りなさを感じる一因であろう。

2 FX経営陣内部の対立と内部監査部門報告書p.135

2016年10月28日、FX社長・栗原氏とFX経営監査部との定例会では、栗原社長から、「APOやFX経理部の対応をみると、東芝に非常に似ている」、「当事者は隠す」、「1回目の時にちゃんと調べて対応しておけばよかったのに、その時は問題ないで済ましてしまい、結果として2回目が来て、このような事態になっている」、「監査は性悪説でやるべきである」などの発言が出たということである。

一方、11月8日におけるFX副社長・吉田氏と経営監査部の定例会では、「(会計上は)不正は行っていない」、「会計処理は監査法人が認めている」、「不正はしていないんだから、強いポジションを取りたい。最後は風評被害でNBR紙を訴える覚悟だってある」などの発言があったとのことで、社長と副社長との間の温度差が大きく、その間で板挟みになって苦慮している経営監査部と経理部の様子が描かれている。

経営トップが一堂に会して議論をするのではなく、経営監査部が個別に報告を行い、指示を受けるというのは、取締役会や経営会議が議論の場にならない日本的経営の特徴といえるものかもしれないが、その結果、FX経営監査部は、FH監査部に対し、吉田副社長の指示により、FHからの質問状には回答できないと伝えることになる。本来、経営監査部は社長直轄であり、こうした経営監査部の判断がなぜ行われたのかまで報告書には記述はない。

3 取締役の退任・異動

第三者委員会調査報告書と同時に公表された「人事上の措置」では、FXの取締役のうち、会長、副社長及び専務並びに常務執行役員が退任して、新たにFH会長CEOである古森重隆氏が、FX会長に就任することとなった。

取締役・監査役体制の大幅な変更が、第三者委員会が指摘した「FHとFXとの間の一体感の希薄さ」を解消することにつながるのかどうかは不明だが、これまでのように、FHがFXのガバナンスに口を出せないような体制が変更されたことは事実であろう。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第60回 ※クリックするとご覧いただけます。

第61回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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