〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第5回】 「「更正の請求」を限定的に解すべき理由」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 「更正の請求」の事由及び期間に係る法令解釈 (1) 大阪国税不服審判所平成27年2月9日裁決 (2) 大阪国税不服審判所平成26年10月29日裁決 2 法令解釈の出所 (1) 期間及び手続が限定されること 仙台高裁昭和59年11月12日判決に以下の説示がある。 (2) 後発的事由による場合は納税者に帰責事由がないこと 東京高裁平成28年5月18日判決に以下の説示がある。 (3) 文言どおりに解釈されるべき(請求事由が限定される)こと 東京地裁平成13年1月26日判決に以下の説示がある。 3 納税者(税理士)として留意すべきこと (1) 更正の請求事由を確認する 常識的に「還付されるべきだから」という主観的な心証で更正の請求に及んだとしても、課税庁は国税通則法及び各実定法に規定する更正の請求事由の該非を慎重に吟味した上で、該当すれば「減額更正処分」を、該当しなければ「更正すべき理由がない旨の通知処分」を行う。 まずは、法令に立ち返って(限定された)更正の請求事由に該当するかどうかを確認する必要があり、事由に該当しなければ、更正の請求以外の救済の手段(例えば、国を相手取った不当利得返還請求訴訟など)を検討すべき場合もあり得る。 (2) 期間が厳格である 国税通則法第23条第1項に規定する更正の請求期間が法定申告期限から「5年以内」に伸長されたが、後発的事由による場合は、「2月以内(国税通則法)」「4月以内(相続税法)」など早期の対応が必要であり、1日でも経過すれば、たとえ事由としては該当しても請求は認められない。 (3) 起算日を確認する 特に、後発的事由による更正の請求の場合には、起算日が法定申告期限ではなく、その類型も事由により多岐にわたることから、自らが関わる事案の「〇月以内」のカウントがスタートする日がいつかについて、法令を基に明確にしておく必要がある。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第86回】 「信託財産と滞納処分事件」 ~最判平成28年3月29日(集民252号109頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 2023年3月31日、企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)を公表している。 これは、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示すものである。 実務対応報告は、公表日(2023年3月31日)以後適用する。 Ⅲ 内部統制関係 内部統制関係として、次のものが公表されている。 ① 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(内容:企業会計審議会。「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」への改訂など) ② 「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等(公開草案)(内容:企業会計審議会の意見書を受けて所要の改正を行うもの。意見募集期間は2023年5月12日まで) ③ 「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)(内容:企業会計審議会の意見書などを受けて所要の改正を行うもの。意見募集期間は2023年6月23日まで) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則実務ガイダンス第2号「倫理規則に関するQ&A-監査法人監査における監査人の独立性について-(実務ガイダンス)」(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査法人の計算書類を対象とする監査業務における倫理規則の適用上の留意点などを示す) ② 監査基準報告書701周知文書第2号「監査上の主要な検討事項(KAM)の適用3年目に関する周知文書」(内容:KAMの適用3年目の期末監査を迎えるに当たって、ボイラープレート化の防止、KAMの有用性向上という観点からの留意事項などを取りまとめたもの) ③ 「監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」及び監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)(内容:報酬関連情報の開示の新設に対応。意見募集期間は2023年6月16日まで) ④ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 の改正(内容:報酬関連情報の開示、独立性に関する規定の強化などに対応) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第38回】 「フリーランス新法とハラスメント」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社では、フリーランスの方に業務を委託することが増えています。先日、フリーランスの方を対象にした新法が成立し、当該新法においてはフリーランスに対するハラスメントに関する規制が含まれていると聞きましたので、当該規制の概要と当社が気をつけるべき点を教えていただけますでしょうか。 【Answer】 お尋ねの新法は、企業に対して、フリーランスに対するハラスメントの防止措置を講じることを義務づけることなどを内容としています。講ずべき措置の内容等は追って指針により定められますので、これに従った体制整備等が必要となります。 また、同法施行は公布から1年6ヶ月以内になりますが、同法施行後は、フリーランスを含む業務受託者からの、契約解除がハラスメントに当たるといった主張が増加すると思われますので、今から業務委託契約の解約の正当性を示すエビデンスを集積する体制を構築しておくことが望ましいものと存じます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 総論 企業は、従業員に対しては、ハラスメント防止措置を講じる義務を負っているが、現時点でフリーランス等の業務委託の受託者はこれらの措置義務の対象とはされておらず、個人事業主等に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮することが望ましいとされているに留まる(パワハラ指針6項等)。 しかし、2023年4月28日、業務受託者をこれらの措置義務の保護対象とすること等を内容とする「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(「フリーランス・事業者間取引適正化法」)が成立した(※1)。同法は公布から1年6ヶ月以内に施行されることになっており、遅くても2024年中に施行される見通しとなっている。 (※1) 同法は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、事業者に対して、フリーランスとの取引の適正化を図るための規制を課し、就業環境の整備を義務づけるものであり、ハラスメント防止措置義務は後者の就業環境の整備を義務づける規定の一部である。 近年、企業において業務委託の利用が増加しつつあり、それに伴いフリーランスとのトラブルに関する相談も増えている。そこで、フリーランス・事業者間取引適正化法の成立を機に、本稿においてフリーランスに対するハラスメントについて整理する。 2 フリーランスに対するハラスメント ハラスメントに関連して企業が負担する義務・責任としては、概要、①ハラスメント防止措置義務と、②ハラスメント被害者に対して不法行為・債務不履行(職場環境配慮義務違反・安全配慮義務違反等)に基づき負担する損害賠償責任がある。 以下、それぞれについて説明する。 (1) ハラスメント防止措置義務 フリーランス・事業者間取引適正化法は、「特定業務委託事業者」(※2)に対して、以下の行為に関する相談対応等必要な体制を整備する等の措置を講じるべき義務を課しており、また、「特定受託業務従事者」(※3)がこれらの相談を行ったこと等を理由とする契約解除その他不利益取扱いを禁止している(法14条)。 (※2) 「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するもの(個人の場合)・2人以上の役員があり、又は従業員を使用するもの(法人の場合)をいう(法2条6項)。 (※3) 「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者(※4)である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいう(法2条2項)。 (※4) 「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの(個人の場合)・1人の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの(法人の場合)をいう(法2条1項)。 ハラスメントに当たる内容や、講ずべき措置の具体的な内容等は、今後、指針において定められることになっているが(法15条)、例えば、セクハラについては、「性的な言動により特定受託事業者の就業環境を害する行為や、性的な言動に対する特定受託事業者の対応により、その者に係る業務委託の条件について報酬の減額等の不利益を与える行為」などが想定されている(2023年4月25日実施の参議院の内閣委員会における政府参考人の回答)。 (2) 不法行為・債務不履行に基づく損害賠償責任 フリーランスに対するものであっても、意に反する身体的接触や性交渉を伴う言動や、暴行・脅迫を伴う悪質な嫌がらせがハラスメントに該当し、損害賠償責任の対象となることは言うまでもない。 判断が難しいのは、暴行・脅迫等を伴わない名誉毀損、侮辱、暴言等がなされた場合である。労働者に対する暴行・脅迫等を伴わない言動がパワハラに該当し、損害賠償責任の対象となるか否かは、基本的に、職務上の優位性を利用した、社会通念上許容し得る限度を超える行為であるか否かにより判断されるが、原則として、業務委託者と受託者の間には、指揮命令関係がないため、理論上は、職務上の優位性が利用される場面がなさそうにも思われるためである。 しかし、以下の裁判例が示すとおり、業務委託契約の形式がとられていても、職務上の優越的関係が認められる場合があり、そのような場合にはハラスメントの存在が認定され得る。 【アムール事件判決(東京地判令和4年5月25日・労判1269号15頁)】 【東京地判平成25年6月20日(判時2202号62頁)】 3 留意点 上記のとおり、具体的な措置義務の内容は、今後定められる指針によることになるため、それに従った体制整備を行うことになる。この点、措置義務の内容について、「ハラスメント行為を行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知啓発すること、ハラスメント行為を受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備をすること、ハラスメント行為が発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応」を想定しているとのことであるため(2023年4月25日実施の参議院の内閣委員会における政府参考人の回答)、大枠としては従業員に対するハラスメントに関する措置義務と同様の内容となると思われる。 また、業務委託においては原則として解約が自由であること(民法651条等)が委託者側において雇用契約ではなく業務委託契約を選択する理由の1つであると思われる。 この点、上記のとおり、指針において、業務委託の条件に不利益を与える行為もハラスメントに該当すると示される可能性があり、また、フリーランス・事業者間取引適正化法上、ハラスメントの相談を行ったこと等を理由とする契約解除その他の不利益取扱いが禁止されていることに照らすと、フリーランス・事業者間取引適正化法施行により、契約解除はハラスメントに該当して違法であるといった申告が増加することが推測される。 よって、企業においては、受託者の業務遂行上の問題点を示す事情等の解約の正当性を裏付けるエビデンスを蓄積する体制や運用を構築しておくべきであろう。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第53回】 「遺言と養子縁組」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私(75歳)は卸売業を営む会社の社長です。妻子はおらず姉Aと弟の3人兄弟なのですが、弟とは数十年疎遠となっています。 会社はかねてより姉とともに経営し、姉にはとても助けてもらいここまでやってくることができました。一方、昨今のマクロ的な影響による仕入価格の高騰により苦しい経営状態であります。私は75歳になり姉も同世代ですので、そろそろ2人揃って引退をしようという話になっています。 なお、姉夫婦には一人娘Bがいますが専業主婦であり、会社に関与する可能性はありませんので、引退にあたって事業承継は考えておらず、M&Aの買い手を探すか、買い手が見つからなければ廃業とせざるを得ないと思います。 将来、私の相続財産は当然ながらお世話になってきた姉だけに渡し、弟には相続してほしくないのですが、どのような方法がありますでしょうか。 〈親族関係〉 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 遺言による対応 相続が発生すると、被相続人が所有していた財産は原則として法定相続人が取得することになりますが、遺言が残されていた場合はその内容が優先されます。 兄弟姉妹には遺留分がありませんので、民法の定める方式(民法960)に従って適切に遺言を作成することにより、受遺者以外の兄弟姉妹に相続財産が帰属することを防ぐことができます。 ただし、受遺者を同世代の人物に指定すると、遺贈者よりも先に受遺者が死亡する可能性もあり、その場合せっかく書いた遺言が無効となってしまいます。 なお、兄弟姉妹が相続する場合は、相続税額の2割加算の対象になります(相法18)。 [2] 養子縁組による対応 養子縁組をすると、養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します(民法809)。これにより配偶者及び実子・親がいない被相続人の場合、養子は唯一の相続人となり兄弟姉妹に相続財産が帰属することを防ぐことができます。なお、養子は養親よりも年長者とすることはできません。 また、養子は養親の氏を称することが原則ですが(民法810)、婚姻により夫の氏を称している妻が単独で養子になる場合は、養子は養親の氏を称せず夫の氏を名乗ることができます(民法810但書)。これは、民法では夫婦別姓は認められておらず、妻が養親の氏を称すれば夫婦別姓になってしまうためです。 [3] 養子の税務上の取扱い 養子となった者は、養子縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得することになりますが(民法809)、相続税法においては、法定相続人の数に算入する被相続人の養子の数は、下記のように取り扱われます(相法15②)。 「相続税の基礎控除額」及び「生命保険金・死亡退職金の非課税限度額」、「相続税の総額の計算」では、相続税法における法定相続人の数に算入する被相続人の養子の数を加味し算定されます。 [4] 債務の承継 相続は包括承継であり、原則として被相続人の財産上の権利義務の一切が、被相続人の死亡により相続人へと承継されます。当然のことながら、被相続人の債務も承継されますので、仮に被相続人が事業を行っていて大きな借金を抱えている場合には注意が必要です。 債務超過の場合に備え家庭裁判所への申述による相続放棄が可能ですが、その期間は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(これを「熟慮期間」といいます)になります(民法915①)。 なお、遺言には特定遺贈(特定の財産を遺贈する場合)と包括遺贈(相続財産を割合として遺贈する場合)がありますが、包括遺贈の受遺者は、相続人ではありませんが相続人と同一の権利義務を有し(民法990)、債務も当然に承継されます。したがって包括遺贈の場合の放棄は、相続放棄と同様に、家庭裁判所への申述により行う必要があります(民法990、938)。 なお、判例では民法915条がいう「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、単に被相続人の死亡とそのことにより自己が相続人となったことを知った時であるとは限らないと判示しています。つまり判例によると相続人が相続財産(消極財産含む)は存在しないと信じていた場合には、相続財産(消極財産含む)の存在を認識した時から、熟慮期間3ヶ月の起算をすべきことになります。 [5] 結論 ご相談の場合、Aへの包括遺贈もしくはBとの養子縁組が考えられます。 Aへの遺贈をお考えの場合は相談者と同世代であることから、相談者よりもAが先に亡くなるリスクを考慮して遺言を作成すべきです。 養子縁組については、相談者より年長者を養子とすることはできませんので、Aが養子になることはできません。Bを養子にすることが考えられますが、これは税務面でも有利になります。つまり、相談者の財産がAへの包括遺贈を経てBに承継される場合、Aで一度相続税が課税され(兄弟姉妹の場合、相続税は2割加算)、さらにAからBへの相続税も生じます。将来的にBへ相談者の財産が承継されることを前提にするならば、Bを相談者の養子とし、相談者からBへ直に財産が承継されるようにすることは検討の余地があります。 ここで注意が必要なのは、Bは相談者の会社に関与しないため想定外の借入金が存在することを把握できないということです。相談者の会社は原材料の高騰など厳しい経営環境にあるとのことですので、万が一債務超過になった場合は養子になったとしても最後は相続放棄の選択があることをBに伝え、しっかり継続的にコミュニケーションをとる必要があります。 なお、Bは婚姻されているようですので、養子縁組を行っても氏が変わることはありません。また、ご相談の養子縁組は普通養子縁組になりますので、Aとの間の親族関係に変化はありません。 実行についての具体的な判断は、弁護士や税理士等の専門家と相談のうえ、決定されることをお勧めします。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 NFTとその利活用 【第1回】 「NFTの基礎知識」 東京ハッシュ株式会社 代表取締役 段 璽 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 1 はじめに 去る1月13日、国税庁のホームページにて「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」が公表された。国内でもNFTが身近な概念として定着しつつある中で、税務・会計においても存在感が増していることを表しているといえるだろう。もとい、そもそもNFTとは何であるかを理解しておくことが重要である。 このような観点から、本連載では、3回に分けてNFTの入門知識を概説する。【第1回】では、NFTに関する最も基礎的な要素の理解を目指し、NFTの定義と性質、ブロックチェーンとの関係、長所と短所について述べるとともに、NFTを様々な面で拡張するユーティリティとNFTコレクションについても説明する。 2 NFTの定義と性質 NFTは「Non-Fungible Token」の略であり、「非代替性トークン」とも訳される。まず、ここでいうトークンとは、「所有と移転(譲渡)が可能なデジタルデータ」であると理解していただきたい。イメージとしては、オンラインゲームでプレイヤーがアイテムを収集し、通貨を介して他のプレイヤーと取引をする状況において、アイテムや通貨がトークンに当てはまる。 Fungibilityは「代替性」を意味する。通貨は普通、代替可能である。つまり、Aさんが持つ100円とBさんが持つ100円の間には価値の差がなく、両者が100円を交換することに何の問題もない。したがって、最小単位(1円)までの分割も可能である。一方で、代替不可能なものはこの世に唯一無二である。一点ものの絵画や不動産、あるいは個人的な思い入れが詰まった100円玉も非代替性を持つといえる(※)。非代替性を持つものは互いに識別可能であり、個別のIDが付与されていると考えても差し支えない。 (※) このように代替性の有無は文脈によって変わるが、NFTとして表されているものについては、それが非代替性を持つと主張していると捉えてもよいだろう。 3 ブロックチェーンとメタデータ NFTの多くはブロックチェーン上でやりとりされる。この文脈におけるブロックチェーンの役割は、NFTの所有者の記録を台帳に収め続けることである。つまり、過去と現在において、「特定のNFTを誰が所有しているか」を記録し続けている。 通貨の役割を持つ一般的な暗号資産(俗にいう「トークン」)とNFTとの決定的な違いは、NFTは何かしらの唯一無二な概念に対する権利を表象するということである。その概念は、しばしば「メタデータ」という関連データとしてNFTに紐付けられている。例えば、芸術作品の画像データをメタデータに持つNFTがあれば、「対応する芸術作品の所有権をそのNFTの所有者が持つこと」がブロックチェーン上で示されていることになる。 4 NFTの長所と短所 (1) NFTの長所 ブロックチェーン上で管理されるNFTには、いくつかの長所がある。まず、ブロックチェーンで一度確定した取引は覆すことが非常に困難であり、NFTの所有権を高いレベルで保証することができる。また、ブロックチェーンが安全に存続する限り、利用者に落ち度がなければ、その所有権や存在は永続的である。利用者自身が所有に対して主権と責任を持つ様は「自己主権」とも表現され、特定の企業や政府に管理を委ねる必要がないことから、しばしば好まれる特性である。 そして、ブロックチェーンの規格に沿っていれば、NFTには互換性が保たれる。言い換えれば、特定のゲーム内で獲得したアイテムがNFTであれば、そのゲームの存続にかかわらず、NFTの所有権をブロックチェーンで示すことができる。デジタルデータであるため、証明や移転にかかる手間が実物より少ないことも長所である。 さらには、コンピュータプログラムとして様々なロジックを付与することが可能であり、これを利用すると、例えば著作権者のために、二次流通におけるロイヤリティ収入の機会を与えることができる。 (2) NFTの短所 一方で、NFTには短所もいくつかあり、主にリスクの高さが関連している。まず、ブロックチェーン上のデータであるがゆえに、ブロックチェーンやプログラムの安全性に問題がある場合にはNFTの所有権が危ぶまれる。管理体制の不備等、利用者の過失によってNFTを永遠に失う可能性もある。 さらに、プロジェクトという括りでNFTを新たに発行するビジネス形態が一般的になってきているが、これを模した投資詐欺は後を絶たず、被害に遭うリスクにも注意が必要である。 そして、NFTを資産として保有する場合、その価格変動リスクは暗号資産と関連が強く、比較的大きい。 5 NFTのユーティリティ 以上のように、NFT自体は特定のメタデータと繋がった単なるデータであり、ブロックチェーンにその存在と取引が記録されることに由来して、いくつかの基礎的な特性を持つものである。しかしながら、実態はこれにとどまらず、NFTをツールとして捉えることで、更なる利用価値(ユーティリティ)を取り決め、活用するケースも多い。 代表的なNFTユーティリティは、著作物の(商用)利用権、データへのアクセス権、会員制コミュニティへのアクセス権、イベント参加権などである。さらに、特定のNFT保有者に別のNFTや暗号資産等を配布したり、NFTを売却できないように一時的に預け入れることで、新たな投資機会を与えたりするスキームもある。こうしたNFTのユーティリティはビジネスにおいてインセンティブとして活用される。 注意点として、NFTのユーティリティは、ブロックチェーン上でコンピュータプログラム(スマートコントラクトと呼ばれる)に従って実現が約束されるものと、それ以外、つまり主に人間の裁量によって実現されるものがある。例を挙げると、前者はNFTの預け入れを条件とした投資機会、後者はオフラインイベントの参加権が当てはまる。リスクとして、スマートコントラクトの脆弱性や詐欺の可能性に気を付けなければいけない。 6 NFTコレクション NFT自体は唯一無二であるが、1つの銘柄として「NFTコレクション」を作成し、その銘柄に属しながら互いに識別可能であるNFTを複数個設定することも可能であり、現在はこのパターンがむしろ標準的である。NFTコレクションを実現するための技術的なコントラクト規格があり、イーサリアム・ブロックチェーンのERC-721はその最も標準的な例である。これを初めて活用したNFTコレクション「CryptoKitties」は複数の子猫を表すNFTから構成されており、それぞれが唯一のNFTとして識別されるが、同時にその全てがCryptoKittiesに属している。 7 おわりに 本稿では、NFTの基礎的な観点を概説した。NFTは非代替性のトークンとしてブロックチェーン上でその存在と取引が記録され、確実性の高い形で唯一無二の概念に対する所有権を表す。またNFTにはユーティリティがしばしば付与され、ビジネス媒体としても活用されている。現在は、複数のNFTを1つの銘柄としてまとめたNFTコレクションが主流である。 【第2回】では、NFTの利用形態について、若干の技術的背景とともに解説する。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第68話】 「個人事業者の死亡と従業員退職金」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 浅田調査官は、受話器を握りながら、頷いている。 「・・・そうですねえ・・・それは必要経費にならないと思いますが・・・」 知り合いの税理士からの質問である。 昨年、甲という税理士が死亡したのであるが、その亡甲の令和4年分所得税について、亡甲税理士事務所の従業員のうち10名分の未払退職金1,200万円を、亡甲の事業所得の金額の計算上必要経費に算入して、準確定申告をしても良いかという問いである。 「・・・顧客と税理士の間の契約は、委任契約で、民法によれば、委任契約は、受任者の死亡によって終了する・・・しかし、雇用契約は、使用者の死亡によって終了するとは、法令では特に規定していない・・・」 浅田調査官は、受話器を戻してから、呟く。 「・・・判例も・・・被相続人が死亡した場合の従業員と被相続人との雇用契約は、民法896条により相続人に相続するため終了せず、したがって、従業員退職金は、支払い債務として確定していないと判示している・・・」 広島高裁平成29年1月27日判決のコピーを机の上に広げて、浅田調査官は、判決文を確認する。 「・・・所得税法37条では・・・償却費以外の費用で『その年において債務の確定しないものを除く』として債務確定基準を要求している・・・そして、更に、債務確定基準の判定として、所得税基本通達37-2で、次の3つの要件を規定している・・・」 浅田調査官は、法令と通達を見ながら、図を描く。 浅田調査官が自分で描いた図を見ていると、突然、頭上から、「・・・何の図?」という中尾統括官の声が聞こえる。 「・・・これですか・・・個人事業者の死亡に起因する従業員退職金の必要経費の該当性を表した図なのですが・・・」 浅田調査官は、図を指差しながら説明する。 「なるほど・・・それで・・・浅田君の結論は?」 中尾統括官は尋ねる。 「ええ、所得税基本通達37-2の(1)の債務の成立ですが・・・これって、退職金債務を必要経費として計上するうえで、重要なんですか?」 浅田調査官が逆に尋ねる。 「そりゃあそうだろう・・・債務の成立とは、債権者と債務者の間で、法律上の義務や権利が生じることを指しているのだから、それがなければ・・・債務として計上することはできない・・・」 中尾統括官の声は、大きくなる。 「・・・ということは・・・債務の成立後、事業者が義務を履行しない場合には、債権者である従業員は法的手段を用いて債務の履行を求めることができるということですか?」 浅田調査官の問いに、中尾統括官は、大きく頷く。 「そうだ」 浅田調査官は、思案顔になる。 「・・・この前事業者の退職金債務の額は、計算上、算出することは可能なのですが、それだけでは、必要経費として計上することができないということなのですね・・・しかし、仮に、前事業者と従業員の間で、退職金債務について何らかの合意などがあれば、債務の成立が認められますか?」 浅田調査官は、再び、尋ねる。 「・・・例えば・・・前事業者が・・・生前、遺言書に、従業員の退職金を支払う旨の記載をしていれば・・・必要経費として認められる可能性はあるだろう・・・」 中尾統括官が答える。 「・・・すなわち、債務の成立には、債権者(従業員)と債務者(前事業者)の間に、法的な効力があることが必要だということだ・・・」 浅田調査官は、じっと聞いている。 「一般論として・・・使用者の税理士が死亡して、顧問先の委任契約が終了すれば、税理士法では税理士業務が禁止され、従業員を雇用することができない・・・そうすると、事業を承継した税理士(事業者)は、新たに、従業員と雇用契約を締結したとみるのが妥当であり、退職金債務も雇用契約の期間で按分すべきだと思います・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、パソコンから国税不服審判所の裁決事例を検索する。 画面には「国税不服審判所平成13年10月17日裁決(裁決事例集No.62・76頁)」が表示されている。 「・・・この裁決では・・・関係者の答述及び従業員全員が請求人らに提出した退職所得の受給に関する申告書から、従業員退職金の支払いについて、労使間で事前の協議が整い、従業員にその協議内容を周知し、請求人らは従業員の了解の下に退職所得の受給に関する申告書の提出を受けたものと認められるから、従業員退職金の支払債務は成立していると判断するのが相当である・・・として、必要経費が認められたらしいのですが・・・」 中尾統括官は、パソコンの画面を覗く。 「法人成りによる個人から法人への事業承継の方が、退職金債務は、認められやすいのかもしれない」 中尾統括官は、苦笑いをする。 (つづく)
《速報解説》 ASBJが、IFRS等との整合性を考慮した「リースに関する会計基準(案)」等を公表 ~使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを提案~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年5月2日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際財務報告基準(IFRS)及び米国財務会計基準におけるリースの会計処理等との整合性を考慮し、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)を改正するものである。 公開草案は、現行の「リース取引」の用語を「リース」の用語へ改正するなど多くの改正を提案しており、また、関連して、企業会計基準公開草案第74号「『固定資産の減損に係る会計基準』の一部改正(案)」、企業会計基準公開草案第78号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」など多くの公開草案が公表されている。 後述するように、日本公認会計士協会の実務指針等についても、多くの公開草案が公表されている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 1 借手の会計処理 借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(会計基準案BC12項、BC34項)。 2 貸手の会計処理 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、企業会計基準第13号の定めを維持する(会計基準案BC12項)。 Ⅲ 主な内容 1 範囲 本会計基準案は、契約の名称などにかかわらず、次の①から④に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(会計基準案3項)。 なお、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に適用する(会計基準案BC17項)。 2 リースなどの定義 例えば、次の用語の定義が規定されている(会計基準案5項~13項、適用指針案4項)。 IFRS 第16号の定めと整合させており、借手と貸手の両方に適用する(会計基準案BC21項)。 3 リースの識別 リースの識別に関する規定として、主に次のものを定める(会計基準案23項~28項、適用指針案5項~14項)。 次のことに注意する。 4 リース期間 5 借手のリースの会計処理 借手は、IFRS第16号と同様に、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上する(会計基準案31項~33項、適用指針案16項、17項、21項~23項、25項~34項)。 企業会計基準適用指針第16号における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法は踏襲しない。 6 短期リースに関する簡便的な取扱い 借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認める(企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であるリースをいう(適用指針案4項(2))。 7 少額リース 次の(1)又は(2)について、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認める。 8 借地権の設定に係る権利金等 借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行う(適用指針案24項)。 ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、一定の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことを認める。 9 利息相当額の各期への配分 リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額は、利息相当額として取り扱い、当該利息相当額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は利息法による(会計基準案34項、適用指針案35項~39項。企業会計基準第13号、企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合についての簡便的な取扱いを規定する。 10 使用権資産の償却 使用権資産の償却について、基本的に企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号におけるリース資産の償却と同様の会計処理を行う。 11 リースの契約条件の変更 「リースの契約条件の変更」とは、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲又はリースの対価の変更(例えば、1つ以上の原資産を追加もしくは解約することによる原資産を使用する権利の追加もしくは解約、又は、契約期間の延長もしくは短縮)をいう(会計基準案22項)。 リースの契約条件の変更が生じた場合の会計処理等を規定する。 12 リース期間に含まれない再リース 企業会計基準適用指針第16号は、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として、発生時の費用として処理する取扱いを規定している。 当該規定は、IFRS第16号にはないが、本会計基準案等では、対象となる再リースを特定したうえで、当該取扱いを踏襲する。 借手は、リース開始日及び直近のリースの契約条件の変更の発効日において再リース期間を借手のリース期間に含めないことを決定した場合、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことを認める。 13 セール・アンド・リースバック取引 「セール・アンド・リースバック取引」とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下「リースバック」という)する取引をいう(適用指針案4項(11))。 次のことが規定されている。 14 貸手のリースの会計処理 ファイナンス・リースの会計処理について、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性から、企業会計基準適用指針第16号で規定されていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」を廃止する。 15 オペレーティング・リース 企業会計基準第13号では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めている。 本会計基準案等では、フリーレント(契約開始当初数ヶ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にして収益認識会計基準との整合性を図るため、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとする(会計基準案46項、適用指針案78項、BC104項)。 16 サブリース取引 「サブリース取引」とは、原資産が借手から第三者にさらにリース(以下「サブリース」という)され、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引をいう(適用指針案4項(12))。 当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」という(適用指針案4項(12))。 サブリース取引は、IFRS第16 号と同様に、ヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行う(適用指針案85項~89項)。 17 転リース取引 サブリース取引のうち、原資産の所有者から当該原資産のリースを受け、さらに同一資産を概ね同一の条件で第三者にリースする取引を転リース取引という(適用指針案89項)。 転リース取引の会計処理について、本会計基準案等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに認める。 18 借手の開示(表示及び注記) 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(会計基準案47項)。 リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案48項)。 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする。 リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案49項)。 借手の注記として、次のものを注記する(会計基準案53項)。 19 貸手の開示(表示及び注記) 貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除いて、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲しており、貸手の表示についても、企業会計基準第13号を踏襲する。 リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案50項。重要性が乏しい場合の規定あり)。 リース債権及びリース投資資産について、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には流動資産に表示する。 当該企業の主目的たる営業取引以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示する。 次の事項について、損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案51項)。 貸手の注記として、次のものを注記する(会計基準案53項)。 Ⅳ 適用時期等 本会計基準は、20XX年4月1日[公表から2年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる。 経過措置に注意する(本会計基準案等においては、企業会計基準第13号を定めた時の経過措置について継続して適用できることなど)。 Ⅴ 日本公認会計士協会の実務指針等の改正案 例えば、次の実務指針等の改正に関する公開草案が公表されている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 また、「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第5号)は廃止する予定である。 (了)
2023年4月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.517を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第25回】 「事実認定による否認論をめぐる判例の動向」 -「租税法上の一般原則としての平等原則」は事実認定による否認論を正当化することができるか- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、租税回避の否認に関して租税法律主義の下で否認規定必要説が確立されてきたとの理解を述べたが、その際に、否認規定必要説の確立において重要な役割を果たしたものと解される土地相互売買[岩瀬]事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁が、後に最高裁が私法上の法律構成による否認論を含め広く事実認定による否認論に対して慎重ないし否定的な態度をとることに道筋を示したとの理解も述べたところである(Ⅲ2参照)。 ただ、第15回においては、財産評価基本通達総則6項事件・最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁(以下「令和4年最判」という)を目的論的事実認定の側から検討しその検討を通じて、同最判が財産評価に係る事実認定による否認を「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化したものであるとの理解を述べた上で、最高裁において財産評価についても事実認定による否認論に関する従来の否定的な立場に軌道修正すべき旨を述べた(Ⅲ3参照)。とはいえ、それで令和4年最判という難解な判決について検討し尽くしたとは思われず、その後も検討を重ね、その一部を公表したが(第21回Ⅳ参照)、改めて本格的に検討し直しその成果を公表しようと考えてきたところである。 そこで、事実認定による否認論に関する判例の従来の否定的な立場については既に検討したところ(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)210-215頁[初出・2011年]のほかに、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第9回、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【75】)を参照していただくとして、今回は、令和4年最判の判断過程及び判断内容をもう一度整理し直し、事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」(上記拙著【74】参照)の側から第15回における検討を見直し再構成した上で、「租税法上の一般原則としての平等原則」によって事実認定による否認論を正当化することは租税法律主義の下では許容されないことを明らかにすることにする(Ⅲ)。その検討に入る前に、次のⅡで、財産評価が事実認定であること及びそのことの法的意味を確認しておくことにしよう。 Ⅱ 財産評価と事実認定 1 財産評価の法的性格 第15回では、財産評価を事実認定として性格づけることを前提にして令和4年最判を検討したが、財産評価のそのような性格づけは筆者だけでなく(前掲拙著『税法基本講義』【56】参照)、他の論者によっても説かれるところである。例えば下記の如くである(①碓井光明「相続財産評価方法と租税法律主義」税経通信45巻15号(1990年)9頁、②岩﨑政明「財産評価通達の意義と役割」ジュリスト1004号(1992年)27頁、29頁、③金子宏『租税法理論の形成と解明 下巻』(有斐閣・2010年)368頁[初出・2000年]、④増井良啓「租税法の形成における実験―国税庁通達の機能をめぐる一考察」中山信弘=中里実編『政府規制とソフトロー〔ソフトロー研究叢書第3巻〕』(有斐閣・2008年)185頁、194頁)。 いずれにせよ、財産評価の法的性格を事実認定として捉える考え方は、法的三段論法に基づく法的判断の構造から論理必然的に導き出すことができる、といってよかろう。 このように財産評価の法的性格を事実認定として捉えると、令和4年最判の争点を「財産評価基本通達総則6項の適用問題」として議論するのはミスリーディングであるように思われる。というのも、財産評価が事実認定であり財産評価基本通達がその方法等を定めるもの(上記③の見解では「適用通達」ないし「認定通達」)である以上、同通達の定めにより難い場合(いわゆる「特別の事情」がある場合)に異なる方法等を採用することは、財産評価という事実認定の合理性を担保するために当然必要なことであり、同通達総則6項はそのことを確認しているにすぎないからである。つまり、同通達総則6項は、国税庁長官の指示に係る部分以外は、税務行政の外部にいる納税者や裁判所にとっても事実認定のあり方として当然のことを確認しているにすぎないのである。このような意味で、令和4年最判が判決理由の中で同通達総則6項に言及しなかったのは正当である(そもそも評価通達それ自体について「国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。」と判示している)。 なお、法的三段論法に基づく法的判断という場合における「法的判断」という言葉は、「民事裁判は、事実の確定および法に依拠した判断という作業によって構成されるものであ[る]」(広中俊雄『新版民法綱要 第一巻 総論』(創文社・2006年)42頁)といわれる場合の「法に依拠した判断」(法的判断をこの意味で理解するものとして広渡清吾「法的判断と政策形成―『法律』と『法』の間―」法社会学63号(2005年)15頁、16頁参照)よりも広く、「事実の確定」を含む法の適用過程全体を通じて行われる判断という意味で、用いているが(筆者は前者を「狭義の法的判断」といい、後者を「広義の法的判断」ということにしている)、ただ、「事実の確定」と区別して用いる上記の用語法も、次の2の検討との関係では有益な示唆を与えてくれるように思われる。 2 租税法律主義の下における事実認定と税法的評価(狭義の税法的判断)との峻別・遮断 財産評価に関する前記のような性格づけを前提にして、次に問題にすべきは、事実認定と認定事実(認定される事実)に対する狭義の法的判断との関係をどのように考えるかである。この関係については一般に次のように考えられている(亀本洋『法的思考』(有斐閣・2006年)383頁[初出・1999年]。下線・傍点筆者)。 ただし、「事実認定の事実判断性」の観点からは事実認定について次の指摘がされている(山木戸克己『民事訴訟法論集』(有斐閣・1990年)54頁[初出・1976年]。下線筆者)。 これらの見解からすると、事実認定と法的な観点からの法的評価とは密接不可分の関係にあるが、「法的評価と切り離した限りでの事実認定」においては、「純然たる事実判断」を理念として想定した上で、これを行うべきことになろう。このことは、租税法律主義の下での事実認定については特に強く要請されると考えられる。 それは、租税法律主義の下では、課税要件事実の認定において行われる種々の法的評価(契約解釈、会社法会計等)のうち税法的評価については、税法上の明文の規定に基づいてこれを行うことが要請されるからである。そうでなければ、租税法律主義は、税法の適用の実際において、事実認定を通じて、その存在意義を喪失することになろう。 要するに、租税法律主義の下では、事実認定と認定事実に対する税法的評価との関係について、後者は、課税要件法の解釈によって定立された規範に認定事実を当てはめる際に当該規範に照らして行うべきものとして、前者とは峻別し遮断すべきであると考えるところである(第21回Ⅳ参照)。つまり、後者は、税法における狭義の法的判断すなわち狭義の税法的判断として、法的三段論法では当てはめ(包摂)の段階に位置づけられるべき判断である(この点に関して有益な示唆を与えてくれるドイツ税法の研究として、岩﨑政明「租税法における経済的観察法-ドイツにおける成立と発展-」筑波法政5号(1982年)30頁、67-69頁等参照)。 なお、筆者は上記のような考え方に基づいて、「ナマの事実」という言葉を、税法の適用・税法的評価を受ける前の事実という意味で用い、これには①事実状態や事実行為の探知だけでなく、②法律行為・契約の解釈、③公正妥当な会計処理(法税22条4項)の結果の確認、及び④財産評価も含まれるとの理解を示してきた(前掲拙著『税法基本講義』【56】参照)。 Ⅲ 「租税法上の一般原則としての平等原則」と事実認定による否認論の正当化 1 令和4年最判の判断過程及び判断内容 さて、ここで令和4年最判の判断過程をみておこう。詳しくは第15回における検討を参照していただくことにして、以下では、その骨子のみを述べておくことにする。 令和4年最判は、相続税法22条の適用について、「租税法上の一般原則としての平等原則」との関係で、「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」(下線筆者。以下「前提判示」という)と判示した上で、次のとおり判示した(下線及び[❶]~[❺]筆者)。 この判示を判断過程に即して整理すると、それは、前記の前提判示に従って(イの冒頭の「これを本件各不動産についてみると」)、下線部❶で原則的判断を示した上で、それに対する例外的判断として、(1)まず、本件購入・借入れ、本件各通達評価額及び本件被相続人に係る法定相続人の数という事実(以下「本件各認定事実」という)に対する税法的評価(狭義の税法的判断)の観点として、㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)及び㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という観点を設定し、(2)次に下線部❹で、それらの観点に照らして本件各認定事実を評価しているが、そこでは、本件各通達評価額が「本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者」との間で生じさせる「看過し難い不均衡」を「実質的な租税負担の公平に反する」と評価し、もって前記の前提判示にいう「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の存在を肯定し、(3)最後に下線部❺で、本件各更正処分に係る本件各鑑定評価額を、平等原則違反でないとして、相続税法22条に当てはめることにより、結論に至っている。 以上のような判断は、平等原則(憲法14条1項)に関する判例・通説の平等判断枠組み、すなわち、相対的平等の観念に基づき差別(不合理な区別)の禁止あるいは合理的区別の許容の意味での平等原則に基づく判断枠組みを、前記の前提判示で出発点とし、少なくとも「表層的には」これに従った判断であると解されるが、しかし、その判断枠組みが前記判断過程の最後まで、しかも内容的にその判断の「深層まで」貫徹されているとはいえないように思われる(第15回Ⅲ2参照)。この点について、以下では、第15回の検討を事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」の側から見直し再構成することにしたい。 なお、以下の検討は、主として前記の例外的判断について行うが、その前に、前記の原則的判断について次の点を指摘しておくことにする。すなわち、下線部❶は、最高裁が財産評価について「租税法上の一般原則としての平等原則」の適用上「評価額の幅」を認めたものとして重要な意味をもつ判断であると考えられる(筆者とは異なる観点からではあるが「評価額の幅」を検討するものとして、酒井克彦「いわゆるタワマン評価事件に関する諸論点(中)-最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決-」税理66巻3号(2023年)175頁、179頁以下参照)。 そもそも、財産評価も前述のとおり事実認定である以上、裁判において裁判官は、税務行政と同様「その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情」(財産評価基本通達1(3))を経験則に基づき一定の合理的な方法により考慮し財産評価を行うが、自由心証主義に従い、その考慮は裁判官の自由な判断に委ねられることから、財産評価において「評価額の幅」は観念されて然るべきものである。この点においては、税務行政による財産評価も同様であり、裁判官による事実認定に関する自由心証主義に基づく判断に基本的に相当する裁量的判断が税務行政による財産評価にも認められるが(「事実の前における国家機関の対等・平等」については前掲拙著『税法基本講義』【56】参照)、このことは納税者による財産評価についてもいえることである。 2 「裁判規範としての租税回避否認規定」の措定 さて、前記の原則的判断に対する例外的判断についてであるが、まず、財産評価に関する判断に当たって、どのような理由・目的で本件各認定事実に対する税法的評価(狭義の税法的判断)の観点として、㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)及び㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という観点を設定したのかを明らかにすることから、検討を始めることにする。 上記の2つの観点は、上述のとおり、本件各認定事実に対する税法的評価(狭義の税法的判断)の観点であるから、論理的には、本件各認定事実を当てはめるべき課税要件規定からその解釈によって導き出されるべきものである。このような意味で「観点」という語を用いたものと解される判例として、未処理欠損金額引継規定濫用[ヤフー]事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁の次の判示(下線筆者)を挙げることができる。 この判示にいう「観点」は、法人税法132条の2という租税回避否認規定からその解釈によって導き出された要件事実であると解される(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)306頁[初出・2017年]、326頁[初出・2018年]、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第10回Ⅱ参照)。 そうすると、令和4年最判が設定した㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)及び㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という観点も、本件に適用されるべき租税回避否認規定から導き出される要件事実であるとみることができよう。ただ、前記のヤフー事件最判と異なり、令和4年最判は、法人税法132の2のような明文の租税回避否認規定の適用が問題にならない本件では、不文の租税回避否認規定を措定してこれから上記の2つの観点を導き出したものと考えられる。しかも、令和4年最判が措定したものと考えられる租税回避否認規定は、法人税法132条の2のような代替的・補充的課税要件規定という意味での租税回避否認規定(前掲拙著『税法基本講義』【72】参照)ではなく、事実認定による否認論において適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」(同【74】参照)であり、その意味で「不文の租税回避否認規定」であると考えるところである。 以上の検討に基づき、以下では、㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)という要件事実を内容とする否認要件をⓐ顕著軽減要件といい、㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という要件事実を内容とする否認要件をⓑ軽減意図要件ということにする。 3 「裁判規範としての租税回避否認規定」の適用 次に、本件各認定事実に対する税法的評価(狭義の税法的判断)に当たって、下線部❹は、本件各認定事実のうち本件購入・借入れについてⓑ軽減意図要件が充足されているとの判断を前提として、これを本件各通達評価額と結びつけてⓐ顕著軽減要件が充足されていると判断した。なお、本件各認定事実のうち本件被相続人に係る法定相続人の数についてはⓑ軽減意図要件の充足が問題にされていなかったので、判断の対象とされなかったものと考えられる。 そうすると、令和4年最判が下線部❷及び下線部❸で措定した「裁判規範としての租税回避否認規定」は、論理的には、本件購入・借入れ及び本件各通達評価額に適用され、両者による相続税負担軽減を否認することに帰結することになりそうである。しかし、令和4年最判は、本件購入・借入れによる相続税負担軽減は否認せず、本件各通達評価額による相続税負担軽減のみを否認した(以下では、大石篤史「財産評価の否認」金子宏=中里実編『租税法と民法』(有斐閣・2018年)168頁の表現をお借りし、前者につき「法形式の否認」、後者につき「財産評価手法の否認」という見出しを用いることとさせていただく)。この結論に至る論理構成をどのように理解すべきであろうか。 (1) 法形式の否認 まず、本件購入・借入れによる相続税負担軽減は、債務控除(相税13条)の利用による一種のタックス・シェルター(tax shelter)であり、租税回避に該当すると考えられる(前掲拙著『税法基本講義』【69】参照)。そうすると、本件購入・借入れは、租税回避の定義(ここでは経験的事実を前提とする租税回避の定義。上記拙著【66】参照)によれば、「異常な」行為ということになるが、問題は本件購入・借入れについてどのような行為を「通常の」行為として想定するかである。この問題については、本件購入・借入れをしないことも私的自治の原則の下では当然認められるので、本件購入・借入れをしないことを「通常の」行為として想定すべきことになろう。 しかし、令和4年最判は、そのような「通常の」行為への引き直しによって本件購入・借入れを否認することはしなかった。この点については、最高裁は租税法律主義を尊重し、その否認のためには明文の根拠規定が必要である(否認規定必要説)にもかかわらず、そのような規定が現行法上定められていないことを重視したものと解される(前回Ⅲも参照)。その限りでは、令和4年最判も、事実認定による否認論に関する従来の否定的な立場(前記Ⅰ参照)を堅持したものといえよう(このことは第15回における検討では明らかにできなかったことであるが、ここで、その旨を記しておく)。 (2) 財産評価手法の否認 次に、本件各通達評価額による相続税負担軽減については、令和4年最判は、「租税法上の一般原則としての平等原則」の適用上、財産評価に「評価額の幅」を認め本件各鑑定評価額もこれに収まること(下線部❶。前記1参照)を前提にして、本件各通達評価額を本件各鑑定評価額に引き直したものと解される。 そのような引き直しについても、本件購入・借入れの場合と同じく現行法上明文の根拠規定は定められていないが、にもかかわらず、令和4年最判がそれを認めたのは、本件各鑑定評価額も「評価額の幅」に収まるものとして「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化することができると判断したからであると考えられる。 ここに、令和4年最判が「租税法上の一般原則としての平等原則」を援用した真の意図を見出すことができるように思われる。すなわち、令和4年最判が「租税法上の一般原則としての平等原則」を援用したのは、事実認定による否認論において措定される「裁判規範としての租税回避否認規定」の適用を正当化するためであったと考えられるのである。 しかしながら、事実認定による否認論は、明文の規定がある場合にしか租税回避の否認を許容すべきでないとする租税法律主義の要請を訴訟の場面で潜脱することから、租税法律主義に違反する考え方である(前掲拙著『税法基本講義』【75】、前掲拙著『税法創造論』344頁参照)。したがって、これを「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化することは許容されないと考えられる。 ここで、もし「租税法上の一般原則としての平等原則」が租税平等主義ないし租税公平主義(憲法14条1項)を意味するとしても、そこで要請される租税負担の平等・公平は租税法律を離れて観念されるものではなく租税法律の中に含まれているものとして観念されるべき平等・公平であること(「含み公平観」については前掲拙著『税法基本講義』【21】参照)からすると、そもそも租税法律主義に反する事実認定による否認論において措定される「裁判規範としての租税回避否認規定」の適用を「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化することはできないであろう。 むしろ、「租税法上の一般原則としての平等原則」は、上記のような客観的な憲法原則としての租税平等主義・租税公平主義を意味するものではなく、「実質より見た現行租税法における基礎原則」としての「公平負担の原則」とりわけ「租税法の解釈適用における公平負担の原則」(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)87頁、88頁、89頁)を意味するものと解される(第15回Ⅲ4参照)。これは実質主義ないし実質課税の原則とも呼ばれる考え方であり、税制調査会が国税通則法の制定に当たって「租税制度を構成するについて公平の原則が重要視されるべきことを述べたのであるが、このようにして構成された租税制度のもとで現実に課税を行なう場合においても、租税負担の公平を図ることが重要であることは勿論である。」(同「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月)9頁)として、その実定法化を提案したものである。 公平負担の原則ないし実質主義は、次の見解(田中・前掲書89頁。下線筆者)で述べられていることからしても、租税法律主義と明らかに抵触する内容を含む考え方である。 令和4年最判では、「租税法上の一般原則としての平等原則」も、「実質的な租税負担の公平」を要請するものとされているが、同最判がその要請を実定税法上の明文の規定に基づくことなく事実認定による否認論の正当化のために援用したことは、そもそも、租税法律主義に反し許容されないと考えるところである。この点について、次の見解(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])A20頁[中川一郎執筆]。下線筆者)は正鵠を射たものである。 事実認定による否認論は、要件事実論の観点から課税要件法の解釈にアプローチしその目的(租税負担の公平)の考慮に基づき、上記の見解が述べているような「補正解釈」という手法を用いて、課税要件法を「裁判規範としての租税回避否認規定」として再構成する考え方であるが(前掲拙著『税法基本講義』【74】、同『税法創造論』342-345頁[初出・2016年]のほか、司法研修所編『増補 民事訴訟における要件事実 第一巻』(法曹会・1986年)10-11頁も参照)、令和4年最判が「租税法上の一般原則としての平等原則」を課税要件法(本件では相税22条)のそのような「補正解釈」の根拠として援用しているかどうか(平等原則の法規創造力の有無及び程度の問題)はともかく、少なくともその「補正解釈」によって措定した「裁判規範としての租税回避否認規定」(ⓐ顕著軽減要件及びⓑ軽減意図要件)の適用を正当化したものと解されることから、「租税法上の一般原則としての平等原則」によるそのような正当化を許容しない私見は、基本的な考え方(租税法律主義重視・貫徹思考)の点で上記の見解と通ずるところがあるように思われる。 なお、前記の見解にいう「補正解釈」という実質的立法について付言しておくと、次の見解(品川芳宣「判批」TKC税研情報31巻4号(2022年)15頁、25頁)は、いわゆる三年しばり特例(平成8年法律第17号による改正前の措置法69条の4)のような措置を想定して説かれたものと思われるが、傾聴に値する見解である。 Ⅳ おわりに 今回は、事実認定による否認論をめぐる判例の動向に関連して、従来の否定的な立場とは異なりこれを認めたものと解される令和4年最判の判断を、事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」の側から検討した結果、「租税法上の一般原則としての平等原則」によって事実認定による否認論を正当化することは租税法律主義の下では許容されない旨の結論を述べた。 ただ、この結論を確定するには、なお解明すべき問題が残されていると考えるところである。それは、前記Ⅲ3(2)の最後の方で述べた平等原則の法規創造力の有無及び程度の問題であり、憲法規範論の観点から平等原則それ自体について検討すべきものである。この問題に関する検討は、別稿(井上典之ほか編『棟居快行先生古稀記念 もうひとつの憲法学(仮)』(信山社・2025年刊行予定)に寄稿させていただく予定の「税法における平等原則(租税平等主義)の意義と課題(仮)」)において行うことにするが、その検討をもって令和4年最判に対する「判例・通説の平等判断枠組みの『表層的確認』」(第15回Ⅲ2)及び「判例・通説の平等判断枠組みの『深層的濫用』」(同3)という評価を確定させたいと考えている。 (了)