新リース会計基準における実務対応 -会計処理と申告調整のポイント- 【第2回】 公認会計士 鈴木 慧史 (2) 貸し手の会計処理 ●ファイナンス・リースとオペレーティング・リース 貸し手の会計処理については、リース契約を以下の2種類に分類し、それぞれ会計処理が定められています。 (※1) 以下のいずれかに該当する場合は、ファイナンス・リースに該当すると判断されます。 (※2) ファイナンス・リースにつき、次のいずれかに該当するものは「所有権移転ファイナンス・リース」、いずれにも該当しないものは「所有権移転外ファイナンス・リース」と分類します。 イ 契約上、契約期間終了後または契約期間の中途で、原資産の所有権が借り手に移転することとされているリース ロ 契約上、借り手に対して契約期間終了後または契約期間の中途で、名目的価額またはその行使時点の原資産の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利が与えられており、その行使が確実に予想されるリース ハ 原資産が、借り手の用途等に合わせて特別の仕様により製作または建設されたものであって、当該原資産の返還後、貸し手が第三者に再びリースまたは売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借り手によってのみ使用されることが明らかなリース ●ファイナンス・リースの会計処理 ファイナンス・リースについては、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行いますが、会社の事業内容および事業の一環として行うものかどうかによって、3通りの会計処理が定められています。 (ⅰ) 製造または販売を業とする貸し手が当該事業の一環で行うリース メーカーや卸売業者などで、自社の製商品の在庫を販売する代わりにリースをすることがあります。この場合、経済実態が同じであれば通常の販売と同じように処理するのが妥当です。 そこで、リース開始日にリース料総額から利息相当額を控除した金額により売上高を計上し、同額でリース債権またはリース投資資産を計上します。また、原資産の帳簿価額により売上原価を計上します。 各期に受け取るリース料のうち利息相当額を利息法により配分し、受取利息として計上します。 (※) 売上高の相手勘定は、所有権移転ファイナンス・リースの場合は「リース債権」、所有権移転外ファイナンス・リースの場合は「リース投資資産」という勘定科目を使用します。 設例3 ×1年4月1日に次のリース契約を締結した場合の仕訳は、以下のとおりとなります。 〔仕 訳〕 ×1年4月1日 売上高および売上原価の計上 (※) リース投資資産および売上高の金額は、以下のように計算します。 10,000千円÷1.02+10,000千円÷1.022+10,000千円÷1.023+10,000千円÷1.024+10,000千円÷1.025=47,135千円 ×2年3月31日 リース料の受取り (※) 受取利息額を以下のように計算し、残額をリース投資資産の回収として処理します。 47,135千円×2%=943千円 (ⅱ) 製造または販売以外を業とする貸し手が当該事業の一環で行うリース 主としてリース会社が物件を調達しリースを行うケースで、この場合の収益(リース料と調達価額の差額)の性質は金利と考えて、引渡し時点では販売益を認識せず、リース期間にわたって受取利息を認識します。 そこで、リース開始日に原資産の現金購入価額によりリース債権またはリース投資資産を計上します。その後、各期に受け取るリース料のうち利息相当額を利息法により配分し、受取利息として計上します。 設例4 設例3と同じ条件のリース契約で、原資産の現金購入価額が45,000千円であった場合の仕訳は以下のとおりです。 〔仕 訳〕 ×1年4月1日 リース投資資産の計上 ×2年3月31日 リース料の受取り (※) リース料総額と現金購入価額の差額(5,000千円)をリース期間に配分するための利率は、リース料の割引現在価値が現金購入価額と等しくなる差額として計算され、この設例の場合は3.62%となります。 10,000千円÷1.0362+10,000千円÷1.03622+10,000千円÷1.03623+10,000千円÷1.03624+10,000千円÷1.03625=45,000千円 このため、受取利息を次のように計算します。 45,000千円×3.62%=1,628千円 (ⅲ) 貸し手が事業の一環以外で行うリース (ⅰ)と(ⅱ)は貸し手が事業の一環としてリースを行う場合ですが、それ以外の場合(例えばメーカーが保有不動産を賃貸するケース)は、対象資産の売却と考えて、引渡し時点で売却損益を認識します。 そこで、リース開始日にリース料総額から利息相当額を控除した金額でリース債権またはリース投資資産を計上し、原資産の帳簿価額との差額を売却損益として計上します。その後、各期に受け取るリース料のうち利息相当額を利息法により配分し、受取利息として計上します。 設例5 設例3のリースにおいて、貸し手が事業の一環以外で行うリース(保有する建物の賃貸)であった場合のリース開始時の仕訳は次のとおりです。 ×1年4月1日 売却損益の計上 リース料受取り時の仕訳は設例3と同様です。 ●簡便的な取扱い 貸し手についても、利息相当額の配分について簡便的な取扱いが認められています。貸し手としてのリースに重要性が乏しい場合には、利息相当額の配分を利息法ではなく定額法によることができます。 (※) 重要性が乏しい場合とは、以下の割合が10%未満である場合とされています。 設例6 設例4と同様の条件のリース契約について、簡便的な取扱いを採用した場合、リース料受取り時の仕訳は次のようになります。 〔仕 訳〕 ×2年3月31日 リース料の受取り (※) 利息相当額を5年間で均等に配分します。 (50,000千円-45,000千円)÷5年=1,000千円 ●オペレーティング・リースの会計処理 オペレーティング・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行います。 (続く)
◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第18回】 「EBITDAを間違えた場合に確認すべきこと」 公認会計士 石王丸 周夫 EBITDAという利益指標があります。今回取り上げるのは、決算短信の連結業績予想においてEBITDAの数値を誤った事例です。 EBITDAについては、ウェブ検索するといくらでも解説が出てきます。企業の本来の儲けを示す指標だといわれています。利益指標の1つといってよいでしょう。その一方で、この指標にはよくわからない点もあります。それは、EBITDAを重視している企業が一定数あるにもかかわらず、決算短信での記載は特に要請されていないという点です。 要請されていないということは、EBITDAはさほど重要な指標ではないということなのでしょうか。この点を気に留めたうえで、以下、訂正事例を見ていきましょう。 訂正事例の概要 サマリー情報の業績予想欄にて、EBITDAの数値が誤っていました。この企業は、一般的に業績予想欄で開示される売上高等の項目(一般的イメージは【第11回】参照)のほかにEBITDAを開示しているのですが、そのEBITDAを間違ってしまったのです。訂正事例のイメージは次のとおりです。 〈訂正事例をもとにした誤記載のイメージ〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【訂正前】 3.XXXX年X月期の連結業績予想(XXXX年X月X日~XXXX年X月XX日) 【訂正後】 3.XXXX年X月期の連結業績予想(XXXX年X月X日~XXXX年X月XX日) (※) 説明に関係する数字以外の数字はXで表示しています。 決算短信におけるEBITDAの扱い この企業は、決算短信のサマリー情報で、連結業績の1項目としてEBITDA(実績値)を開示しています。東京証券取引所が公表している決算短信の参考様式には、EBITDAの項目はありませんが、企業が投資者の経営成績等の理解に資すると考えた場合には記載できるとされています。そして、その場合は計算方法を欄外等に記載するとされています。(株式会社東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2025年7月)26頁から27頁) 本事例の企業も、EBITDAの計算方法を次のように記載しています。 この算式から、上記の誤りは、営業利益、減価償却費、のれん償却費の3項目のいずれか(複数の場合も)において、何らかの集計ミスが発生したのではないかと考えられます。それ以上のことは外部からはわかりません。 なぜEBITDAを間違えたのか 何がどう間違っていたのか、詳しいことはわからないのですが、この訂正事例にはなんとなく引っ掛かる点があります。それは、記載を求められているわけでもないEBITDAを積極的に開示しておきながら、なぜそこで間違えたのかということです。 ここからは筆者の勝手な推測になります。 もし、EBITDAが企業にとって本当に重要な指標であるならば、その企業はEBITDAを間違えたりしないのではないでしょうか。人間は、本当に大事なことは念には念を入れて確認します。出かけるときに、玄関の鍵を閉めたかどうか気になって家に引き返した経験は、誰にでもあると思います。EBITDAも本当に大事な指標なら、開示前に何度も確認して誤りに気づいたはずです。 しかしながら本事例の場合、正しくは17,900百万円のところを19,500百万円と記載していました。1,600百万円も過大でした。決算短信を作成して公表するまでには、作成部署でのチェックのほか、開示担当部署でのチェックも行われるはずです。次年度の業績予想という重要な事項なので、経営陣も当然に関与しているはずです。それにもかかわらず間違いを見落としてしまいました。しかも、訂正を行ったのは、決算短信を公表してから21日後です。この企業は本当にEBITDAを重視していたのでしょうか。 EBITDAは飾り物か そもそも、EBITDAの開示が本当に必要なのか考えてみます。 この企業のEBITDAは前掲のとおり、営業利益に減価償却費とのれん償却費を足したものです。この3項目は連結財務諸表から拾うことができます。営業利益は連結損益計算書で算定されます。減価償却費とのれん償却費は、連結キャッシュ・フロー計算書に載っています。つまり、決算短信の利用者は、EBITDAの実績値を自分で計算することが可能なのです。 次期業績予想のEBITDAについては、減価償却費とのれん償却費の予想値を入手できないので計算できませんが、その代わりに直近の実績値を使用することで近似値を算定することはできます。 本事例の企業の場合、業績予想の営業利益は前掲のとおり8,000百万円でした。減価償却費とのれん償却費の直近の実績値は、連結キャッシュ・フロー計算書より、それぞれ7,659百万円、1,908百万円だとわかります。これらの金額によりEBITDAを計算してみると、予想EBITDAは17,567百万円となります。前掲のとおり、訂正後の予想EBITDAは17,900百万円でしたので、ほぼ当たっています。このように公表されているデータから算定できるのであれば、企業があえて開示する必要性は高くはないといえます。 EBITDAが本当に必要なのかを考えるには、それが何のための指標なのかということも考えてみる必要があります。 営業利益にプラスする減価償却費とのれん償却費は、営業費用に含まれている項目です。これらをプラスするという意味は、減価償却費とのれん償却費を費用から除外するということです。そうやって求められたEBITDAは、主だった非資金費用を除外した利益を意味します。キャッシュを重視した利益指標といえます。 しかし、キャッシュを重視した指標が欲しいのであれば、連結キャッシュ・フロー計算書があるので、そちらを見ればよい話です。 さらに別の捉え方もあります。減価償却費は過去の設備投資の結果発生する費用、のれん償却費は過去のM&Aから発生する費用です。もし現在の経営者と過去の経営者が異なる場合、現在の経営者としては、自己の経営成績をアピールするときに、自身が決めたわけではない設備投資やM&Aのコストを計算に入れたくはないでしょう。それを除外した利益指標が欲しいはずです。EBITDAはそれにはピッタリの利益指標です。EBITDAをこのように解釈することも可能です。 しかし、これも、決算短信の利用者(主に投資家)にとってはあまり興味がないように思われます。過去の経営者が決めたことであっても、実際に実行されたものである以上、それを織り込んだ利益を知りたいのではないでしょうか。 つまり、決算短信でどうしてもEBITDAを任意開示しなければならない理由はよくわからないのです。もしかしたら、開示をしている企業も心底そう感じているのではないでしょうか。ゆえに本事例の企業は間違いに気づかなかったのかもしれません。 開示前のチェックポイント EBITDAを開示している場合、企業が本当にその指標を重視していて、社内でも日常的に算定、利用しているなら必要以上に注意すべきことはありません。しかし、開示書類上でEBITDAを形式的に算定しているような場合、社内的な関心は低いと考えられるので、集計ミス等の単純なミスが発生していないか十分に注意すべきです。 (了)
〈労働安全衛生法の一部改正に伴う〉 ストレスチェック義務化対象拡大等のポイント 社会保険労務士 富山 直樹 1 はじめに 2025年5月、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が可決・成立し、その中に「職場のメンタルヘルス対策の推進」として「ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている労働者数50人未満の事業場についても実施を義務とする。その際、50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までの十分な準備期間を確保する。」という内容が盛り込まれた。 これまでは労働者数50人以上という比較的中規模以上な事業者に求められてきたストレスチェックであるが、今後は50人未満の小規模事業者にもストレスチェックが義務付けられ、対応が求められる。 本稿では、制度概要から、対応時期、内容、課題等について詳しく解説する。 2 制度概要~ストレスチェックとは~ ストレスチェックが始まったのは今から10年前の2015年に遡る。 「労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防を目的としたものであり、事業者には各事業場の実態に即して実施される二次、三次も含めた総合的な取組みを継続的かつ計画的に進めることが望ましい。」という指針が当時示された。 当時は労働者のメンタルヘルス不調に対する企業の対応が報道されたり、「〇〇ハラスメント」という言葉が続々と生まれたりしていた時期であり、労働者の「なんとなく疲れた」「元気がない」といった心身の不調を可視化し自認することで、更なる悪化を防ぐ目的があったと考えられる。 具体的な内容は次のとおりである。 ① 実施 会社は常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、医師、保健師又は厚生労働大臣の定める研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士もしくは公認心理師(以下「医師等」)によるストレスチェックを行わなければならない。 常時使用する労働者とは、期間の定めのない労働契約により使用される者であること(※1)、1週間の労働時間が当該職場における同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること、の要件を満たす者をいう。 (※1) 契約期間が1年以上の者並びに契約更新により1年以上雇用されることが予定されている者及び1年以上使用されているものを含む。 検査を受ける労働者について、解雇、昇進、異動等に関する直接の権限を持つ管理的地位にある者は、検査の実施に従事してはならない。 ② 事後措置 ― 労働者側 ― ストレスチェックを受けた労働者に対し、当該検査を行った医師等から検査結果が通知されなければならず、この場合において当該医師等は、あらかじめ検査を受けた労働者の同意を得ないで検査結果を会社側へ提供してはならない(“同意あり”の場合は会社側へ検査結果を通知することも可能)。 検査の結果、ストレス度合いが高いと判定された労働者が医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出た時は、会社は当該申出をした労働者に対し、医師による面接指導を実施しなければならない。 面接指導の結果、会社は医師の意見を聞いた上で必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じなければならない。 ― 会社側 ― ストレスチェックの実施者より職場ごとの結果を集団的に分析した結果の提供を受け職場環境の改善のために活用。 「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」(※ストレスチェックの結果報告書)を、1年以内ごとに1回、所轄労働基準監督署長へ提出しなければならない。 以上のような内容を年に1度、行わなければならない。筆者もかつて4回、労働者側としてストレスチェックを受診したことがある。質問冊子に書かれた内容(「はい・いいえ」「数段階での“当てはまる”度合いを問う問題」等)の回答を、マークシート式の回答用紙に鉛筆で記入するタイプで、回答には20分もかからない程度であり、1ヶ月ほどで窓付き封筒に入った個人の判定結果が送られてきた。筆者は紙媒体でのものを受診したが、Web回答で、結果もPDFファイルで送られてくるペーパーレスタイプのものもある模様だ。 3 今回の改正内容 2015年に施行された上記のストレスチェックの実施は、労働者数50人以上の事業場については業種などを問わず実施義務が課されていたが、50人未満の事業場については当分の間、“努力義務”とされていた。 しかし、2025年5月に可決・成立した法改正により50人未満の事業場についても実施が義務化され、すべての事業が対象となった。 理由としてはメンタルヘルス対策の取り組み割合が労働者数50人以上の事業場では91.3%となっているのに対し、30~49人では71.8%、10~29人では56.6%と低い水準であり、こうした現状の改善を目的としているところが大きい(※2)。 (※2) 厚生労働省ホームページ「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」メンタルヘルス対策への取り組み状況 とはいえ、労働者数が50人未満の小規模事業場にとっては新たに対応を求められる業務が増え、影響の大きい改正と考えられる。 4 施行時期 上記法改正については「50人未満の事業場の負担等に配慮し、施行までに十分な準備期間を確保する。」ということ、その施行期日が「公布後3年以内に政令で定める日」という内容が発表された。 具体的な期日については、本稿執筆時点の2025年7月現在では明確にはなっていないが、最も長い準備期間が確保された場合でも2028年5月までには実施が求められることになる。 なお、この制度ができた当時は2014年6月公布、2015年12月施行という、およそ1年半の準備期間であった。今回は小規模事業者を対象とした法改正であり、負担の面から“3年以内”というのが極端に短くなる可能性は低いと考えられるが、余裕を持った対応を心がけたい。 5以降では、2015年当時の準備内容も踏まえつつ、企業が行うべき対応や懸念点について解説する。 5 施行までに企業が行うべき対応と課題 ① 導入 もともと50人以上の労働者を使用する事業場ごとには産業医の選任が義務付けられており、今回の法改正前の段階では産業医と連携した上でストレスチェックを行っていたケースが多いと考えられる。 しかし、今回の対象となる50人未満の事業場には産業医の選任義務はなく、今回の法改正でも変更はないため、「ストレスチェックを誰に行ってもらうのか? 誰に相談するのか?」という疑問が生じるのではないだろうか。 実はこうした小規模事業者向けに、産業医サービスやストレスチェックの実施支援を行っている企業はいくつか存在する。産業医、保健師等の産業保健スタッフの紹介からストレスチェックの実施支援、会社の健康管理相談を承るような事業を行っている会社があり、筆者も懇意にしている会社がある。筆者顧問先の大部分を占める労働者数50人未満の会社からの希望により紹介を行うこともあり、中には、労働者数10名程度でも健康管理意識の高さから、紹介を希望されたケースもある。 ストレスチェックのみを実施してくれるようなサービスもあるので、3年の準備期間のうちに、余裕を持って事業選定を行い、自社に合うサービスに出会えたのであれば早めの相談を推奨する。 しかしその上では、当然の課題として、それらのサービス実施を受けるための金銭的負担、導入にあたっての時間的負担も新たに発生する。 ② 実施 実施にあたっては、プライバシー保護の課題があると考えられる。 会社はストレスチェックを実施後、集団の分析結果を受け取ることができるが、労働者が会社に検査結果の提供に同意していない場合でも、労働者の数が少なければ少ないほど集団分析の結果で個々の結果が容易に推測できてしまうと考えられる。 そして、「検査を受ける労働者について、解雇、昇進、異動等に関する直接の権限を持つ管理的地位にある者は検査の実施に従事してはならない。」という内容を制度概要で述べた。しかし、労働者数が少ない事業場においてはそうした担当者を用意する人的負担という課題も存在する。 また実施にあたっても時間的負担が発生し、特に少数精鋭で通常業務に当たっているような会社では、たかが数十分とはいえ通常業務に加えての対応が求められる負担は小さくないはずだ。 6 まとめ 5で述べたように、時間的、金銭的、人的等々、小規模事業者にとっての負担が大きい改正であることは否めない。 2015年の施行時には、施行7ヶ月前の5月に厚生労働省より「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」というものが発行されている。今回の改正にあたっても、厚生労働省の検討会資料でも「50人未満の小規模事業者の実態に即したマニュアルを策定すべき」という意見が出ており、何かしらのマニュアルや指針は示されると考えられるが、対応を求められる事業者の数や小規模事業者であるが故の負担を考え、早くそれらの内容が示されることを願う次第である。 本稿執筆の2025年7月時点では最新の情報はまだ発表されていないが、続報を待ちたいところである。 7 あとがき 本稿中に記載した通り、私は過去に4回、労働者としてストレスチェックを受診したことがあり、今回、本稿の執筆にあたり、当時の結果を久しぶりに探し出してみた。 筆者は新卒から2020年までの10年間、労働者2,000人程度の地域金融機関に勤務しており、施行当初よりストレスチェックの対象となっていた事業場に勤務していた。 以上のような内容が細かく項目別に数値化されたものであったが、当時を思い出しながら見返すと、当時の状況をよく反映していたと感じた。 退職を決意した年の最後のストレスチェックは要注意レベルに達しており、実際に自ら申し出て(社会保険労務士の勉強もしていたので、興味があったというのもあるが)、産業医面談を希望し受診した。その結果も、現在社会保険労務士の業務に従事することにつながった要因の1つである。 その他にも、「この時期は慕っていた上司が異動してしまい、代わりに来た上司とウマが合わず、苦労していた時期だった。」「この時期は子供2人のイヤイヤ期が重なり、かなり参っていた時期だった。」と、当時の状況を思い起こさせる数値が年別に並んでいた。 ストレスチェックとは若干異なるが、こうした診断ツールの進歩は驚かされるものがあり、筆者は顧問先に採用に関するアドバイスを求められた際は「適性検査」の実施を勧めている。「適性検査」にはストレスチェックと重なる内容があるのもさることながら、「向いている仕事内容」「ハラスメントの危険因子」「メンタルヘルス危険因子」「この回答で猫をかぶっている確率」などというものも、最近のツールでは判定可能なものがある。こうした目では見えない部分を“可視化”することで、ミスマッチを予防する狙いがある。 ストレスチェックも根本にあるのは「ストレス状態の“可視化”」である。可視化だけでも本人が自らの状態をより自認することにより、次の対策に進め、労働者本人にとっても会社にとっても不幸な結果を予防することにつながって欲しいと願う次第である。 (了)
《税務必敗法》 【第4回】 「e-Tax、eLTAXの送信を忘れた」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 確定申告の期日に、顧問先のA社から「e-Taxのメッセージボックスを見たところ、法人税の確定申告に関する受信通知は来ているが、消費税の確定申告に関する受信通知は来ていない。消費税の申告はしてくれたのか?」という問い合わせの電話が来た。 担当者と上司が、電子申告ソフトを見てみると、送信ボックスに消費税の申告データが残ったままであった。原因は、担当者が法人税と消費税の申告データをまとめて送信したつもりが、操作方法の誤りにより、法人税の申告データしか送信できていなかったためであった。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「e-Tax、eLTAXの送信を忘れた」である。 近年は、e-Tax、eLTAXにより電子申告で申告書等を提出することが多くなった。しかし、電子申告は便利である反面、送信ミスのリスクがある。 そこで、今回は、電子申告の送信ミスの原因とその対策について解説する。 また、電子申告に関連する事項として、Windows10のサポート終了に関する国税庁の対応についても解説する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 電子申告の送信ミスをする原因 (1) 送信ボタンの操作ミス 送信ミスで想定されるのは、電子申告ソフトの送信ボタンの操作ミスである。例えば、送信ボタンを押して送信したつもりが、送信できていなかったというケースが想定される。 また、事例で紹介したように、複数の種類の申告書をまとめて送信するときに、操作ミスで一部の申告書しか提出できていなかったというケースも想定される。 実は、筆者がこのミスをしてしまったことがある。消費税の確定申告に関する受信通知が来ないのでおかしいな、と思い送信ボックスを見たところ消費税の申告データが残ったままだったのである。すぐに自分で気が付いたので事なきを得たが、電子申告ソフトの操作方法には十分注意すべきである。 (2) 後で出そうと思って忘れていた 申告等データを作成し、後で送信しようと思ったものの、うっかり忘れてしまうというケースも想定される。 例えば、申告等データを作成するのは無資格の担当者であるが、電子署名・送信を行うのは税理士、というように担当が別の場合も、連絡ミス等によって申告を失念する可能性がある。 (3) 退職時の引継ぎ漏れ 職員の退職時も注意すべきである。前任者が申告等データを作成したものの、まだ送信していない場合、後任者への引継ぎ漏れで送信を忘れてしまうことが想定される。 (4) データの未添付 データを添付したつもりが未添付だったということもありうる。例えば、提出すべき別表のPDFの添付漏れという事態が想定される。 3 送信失念の影響 (1) 無申告加算税等の発生の可能性 電子申告で申告書の送信を失念し、確定申告期限を過ぎてしまうと無申告となってしまう。無申告となると、原則として無申告加算税(地方税の場合は不申告加算金)の対象となる。 (2) 延滞税等の発生の可能性 ダイレクト納付や自動ダイレクトの場合、申告ができなければ口座振替による納付も行われない。その結果、期限後納付となり、延滞税や延滞金が発生することになる。 (3) 顧問契約の解除の可能性 期限後申告となると、顧問先からの信用を失い、顧問契約が解除となる可能性がある。 (4) 損害賠償の可能性 届出書、申請書、別表の送信ミスが損害賠償につながる可能性もある。次のように届出書の送信ミスによる損害賠償事例も発生している。 (株式会社日税連保険サービス『税理士職業賠償責任保険事故事例(2021年7月1日~2022年6月30日版)』の事例14より引用) 関連する事例として、電子申告未対応の別表を、後日郵送で提出しようとしたものの、その郵送を失念してしまい、特別控除の適用を受けることができず損害賠償となった事例もある(株式会社日税連保険サービス『税理士職業賠償責任保険事故事例(2022年7月1日~2023年6月30日版)』の事例11より) なお、電子申告未対応の別表等については、PDF形式でも送信できる。この点は、国税庁「リリース前の別表等について」を確認されたい。 4 送信失念を防止するための対策 (1) 即時通知、受信通知を必ず確認する 申告等データを送信したら、即時通知と受信通知を確認することである。特に、受信通知は申告等データが税務署に到達したこと等を確認するものなので、受信通知が届いていないということは税務署に提出できていないということである。送信後は、メッセージボックスを必ず確認すべきである。 (2) 管理台帳を作成する 申告等データの作成と電子署名・送信の担当者が別である場合、連絡ミスや後で出そうと思って送信を忘れるというリスクがある。そのため、作成日と送信日を一覧にした管理台帳を作成して管理する方法が考えられる。 (3) 手続書を作成する 事務所内で、電子申告ソフトの使用方法に関する手続書を作成することも有用である。個人任せではなく、手続すべてを事務所全体で管理することが事故の防止につながるといえる。 (4) 退職者の引継ぎ事項を確認する 退職者が出た場合、申告等データを作成した後、未送信となっているものがないかどうかを引継ぎ時に確認するとよいであろう。 (5) 提出する申告書や別表を事前に整理する 電子申告に限った話ではないが、顧問先別に提出すべき申告書や別表を整理して一覧にしておくことも必要である。 筆者の周囲では、事業所税の申告書の提出を失念したため、不申告加算金約40万円が発生し、自己負担したという税理士がいる。事業所税のように顧問先によって提出の要否が異なる税金もあるので事前の整理が重要である。 5 Windows11への更新失念 (1) Windows10は推奨環境から除外へ Windows10は、2025年10月14日以降、Microsoftのサポートが終了する。 これに伴い、国税庁は同年4月25日付で「【重要】Windows 10をご利用の方へ」を公表し、同年10月14日以降、e-Taxソフトをはじめとしたソフト等の利用環境として、Windows 10を推奨しない予定であることを公表した。 これを受けて、税務申告ソフト各社も、OSをWindows10からWindows11に更新することをユーザーに呼び掛けている。 (2) Windows11に更新しなかった場合のリスク Windows11に更新しなかった場合、e-Taxソフトや市販の税務申告ソフトの動作がどのようになるかは不明であるが、仮に、Windows10で作動した場合であったとしても、例えば、申告時にエラーが発生するといったトラブルが想定される。 (3) 古いパソコンは要注意 Windows11への更新は無料であるが、古いパソコンだと対応できない可能性がある。そのため、現在使用しているパソコンがWindows11に対応しているかどうか確認しておくべきである。 今後、Windows10のサポート終了に伴うパソコンの買い替え需要が増加すると予想される。通常より納期が遅くなる可能性があるので、買い替えの場合は、早めの対応が必要である。 6 おわりに 今回は、e-Tax、eLTAXの送信の失念の原因や防止策について説明した。 何事もそうであるが、慣れたときにミスが出やすい。したがって、常に決められた手順に従い、丁寧に手続を進めるべきである。 本稿がe-Tax、eLTAXを使用する皆様の実務の参考になれば幸いである。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第96話】 「フェラーリは減価償却資産か?」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 浅田調査官は、昼食後に、ソファーにもたれて、判例(東京地裁令和5年3月9日判決)を読んでいる。 「・・・おかしいな・・・」 浅田調査官は、時々、呟きながら、思案顔になる。 そこに、昼食を終えた中尾統括官が、爪楊枝をくわえながら戻ってくる。 「・・・浅田君・・・休み時間ぐらい、のんびりしたらどうだい・・・」 熱心に判例を読んでいる浅田調査官に、中尾統括官は声をかける。 「・・・この判例って・・・おかしいと思いません?」 ソファーにもたれていた浅田調査官は、背筋を伸ばして中尾統括官の顔を見る。 差し出された判例の概要は、次のように記載されている。 「フェラーリF50・・・という車は・・・かなり高額なんだろう?」 中尾統括官は、浅田調査官に訊ねる。 「ええ、判例では・・・フェラーリF50は、フェラーリ社の歴史の中でも重要なコレクションカーであり、かつ、349台限定で製造されたことから、その機能面のみならず、美的側面や希少性も価格形成要因の相当部分を占めているものと認められる・・・と述べられています」 「・・・それで・・・いくらぐらいで売買されているの?」 中尾統括官が再度訊ねる。 「・・・数億円です・・・」 その答えを聞いて、中尾統括官は、驚く。 「・・・フェラーリF50って、そんな高いの?」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「・・・それで・・・フェラーリF50について、他の車両と同様に、減価償却をすべきかどうか、ということが争点になっているのです」 浅田調査官は、ソファーのテーブルで、譲渡所得の算式を書く。 「そして、取得費については、『使用又は期間の経過により減価する資産』であれば、減価償却相当額を控除することになります・・・」 「・・・例えば、1億円で購入したフェラーリF50を2億円で譲渡した場合、減価償却をしなければ、1億円がキャピタルゲインになりますが、減価償却を行い、その減価償却相当額が9,000万円であれば、1億9,000万円がキャピタルゲインとして課税されます・・・」 浅田調査官は、中尾統括官に説明する。 「なるほど・・・それでフェラーリF50が減価償却資産に該当するかどうかが争われた事件ということか・・・」 中尾統括官は、大きく頷く。 「ところで・・・裁判所は、フェラーリF50は、減価償却資産に該当するという判断をしていることに、君は納得しないということか?」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「ええ、フェラーリF50は自動車の機能を有していることから、車両として減価償却すべきだと述べています・・・しかし、その価格形成要因としては、機能面よりも、美的側面や希少価値・・・すなわち、減価償却をすることが妥当でない要因が大きいと思うのです・・・だから、単純に、フェラーリF50全てを減価償却することに疑問があります・・・」 そう言うと、浅田調査官は、再び、ペンを持って図を描く。 「すなわち・・・フェラーリF50の取得費を、図に示したように、その価格形成要因で按分すべきだと思うのです・・・車両の機能面については、自動車の専門家であれば、おそらく客観的に計算は可能なように思えます・・・そうすると、取得費から車両の機能面を原価計算で算出し、その金額を控除すれば、美的側面・希少価値の評価額が導かれます・・・そして、車両の機能面の価額(2,500万円)のみを減価償却すれば良いと思います・・・」 浅田調査官は、図を見ながら説明をする。 「・・・判例は、次のように、フェラーリF50は、骨とうではないから、減価償却すべきであるといっていますが、骨とうでなくても減価しないものは他に多くあるし、また、それは、長期間であるという必要性はないと思います・・・」 「・・・そして、次のように判断していますが、価格推移に不確定な面があることは、減価償却をするか否かに直接関係しないことだと思います・・・これは強引な結論と思います・・・」 「・・・もともと減価償却は、仮定を前提とした計算ですから、その算出方法に合理性があれば、車両の機能面のみを減価償却することも可能だと思うのですが・・・」 浅田調査官は、不満そうに言う。 (つづく)
《速報解説》 各府省庁からの令和8年度税制改正要望が出揃う ~研究開発税制の拡充・延長、大胆な投資促進税制の創設、暗号資産税制の見直し等~ Profession Journal編集部 本年も8月末から9月頭にかけて各府省庁より税制改正要望が公表された。 令和8年度税制改正要望では、国内産業基盤の維持・強化を図ることを目的とした設備投資や研究開発投資等の国内投資を後押しするための新税制の創設や研究開発税制などの既存制度の拡充・延長等が要望されているほか、時限措置として令和8年分所得税において講じられた生命保険料控除制度の拡充の恒久化や分離課税の導入を含めた暗号資産取引等に係る課税の見直し等の社会情勢に即した要望がされている。 以下では、令和8年度税制改正要望の一部を紹介する。 〇研究開発税制の拡充・延長及び大胆な投資促進税制の創設 経済産業省は、日本の成長力・国際競争力を高めるには中長期的に企業の研究開発投資の増加を促し、国際的に遜色のないイノベーション立地競争環境を確保するためのインセンティブ強化が必要として、研究開発税制の拡充及び延長を要望している。 具体的な要望内容としては、既存の一般型等とは別に日本の戦略技術領域を対象とした戦略技術領域型の創設、オープンイノベーション型の中に特定大学等戦略研究拠点との共同・委託研究の追加、大学等との共同・委託研究時の対象費用の明確化・手続き合理化、税額控除の繰越制度の導入、高度研究人材の活用に関する試験研究費の拡充、中堅企業に対するインセンティブ強化、試験研究費の範囲の明確化、一般型の控除率の上乗せ措置の適用期限の3年間延長(令和10年度末まで)等が示されている。 また、国内投資の拡大を通じて日本企業の「稼ぐ力」を向上させ、賃上げを含めた好循環を形成するため、5年間を集中投資期間と位置づけた上で、高付加価値化のための大胆な設備投資を促進する新税制の創設を要望しているものの、現状、具体的な要件等は明らかとなっていない。 そのほか、令和5年度に創設されたパーシャルスピンオフ税制(適用期限は令和9年度末)に関し、スタートアップの創出だけでなく、ノンコア事業を切り出し、コア事業に専念するための事業ポートフォリオの組替えも促進できるよう適用要件を見直した上で、本制度の恒久化を要望しているほか、車体課税の抜本見直し、オープンイノベーション促進税制の2年間延長(令和9年度末まで)等も要望している。 〇中小企業者等向けの主な税制改正要望 経済産業省から示された中小企業者等向けの主な改正要望としては、同じく上記の研究開発・イノベーション投資の促進を目的とした中小企業技術基盤強化税制における控除率の見直し等の拡充及び3年間の適用期限延長(令和10年度末まで)が要望されている。 また、事業承継税制に関しては、特例承継計画の期限延長が要望(※)されているほか、事業承継による世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念も踏まえ、事業承継の在り方について検討するとしている。 (※) 令和6年度税制改正と同様に、特例承継計画の提出期限の延長の要望であり、適用期限の延長は要望されていない。 加えて、1984年以来見直しがされていない企業の従業員への食事支給に係る所得税を非課税とする制度(従業員が食事価額の50%以上を負担し、企業が負担した金額が月額3,500円以下の場合に、食事に係る所得税を非課税とする制度)について、足元の物価上昇等を踏まえ、非課税限度額の引上げを行う見直しを要望しているほか、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置については、昨今の経済状況等やインボイス制度の対応状況を踏まえた所要の見直しと2年間の適用期限延長(令和9年度末まで)を要望している。 〇暗号資産取引等に係る課税の見直し 令和7年度税制改正大綱において検討事項(下記参照)として織り込まれた暗号資産取引に係る課税については、暗号資産取引に係る必要な法整備と併せて、分離課税の導入を含めた暗号資産取引等に係る課税の見直しを金融庁が要望している。 ※自由民主党ホームページ「令和7年度税制改正大綱」の106頁より抜粋 また、NISAについては、あらゆる世代が自身のライフプランに沿った形で資産形成を行えるよう、対象商品の拡充を含めたNISAの一層の充実のための措置及びNISAに係る所在地確認の手続きの簡素化が要望されている。 〇生命保険料控除制度の拡充の恒久化等 そのほか、金融庁は農林水産省・厚生労働省・経済産業省との共同要望として、令和7年度税制改正により令和8年分所得税において講じられた生命保険料控除制度の拡充(23歳未満の扶養親族を有する場合の一般生命保険料控除枠の所得控除限度額に対する2万円の上乗せ措置)を恒久化すること等を要望している(現行は1年間の時限措置)。 なお、ここ何年か検討が続いている金融所得課税の一体化や文部科学省との共同要望である教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置の適用期限の3年間延長(令和10年度末まで)等も要望されている。 〇住宅ローン減税等の住宅取得等促進に係る所要の措置 国土交通省からは、住宅価格の高騰等による厳しい住宅取得環境を踏まえ、令和7年末に適用期限を迎える住宅ローン減税等について必要な検討を行い、所要の措置を講じること及び新築住宅に係る固定資産税の減額措置等についても同様の観点から所要の措置を講じることが要望されているほか、既存住宅のリフォームに係る特例措置及び居住用財産の買換え等に係る特例措置の2年間の延長等も要望されている。 (了)
2025年8月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.633を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第51回】 「類推解釈と「疑わしきは納税者の利益に」」 -借地権利金「経済的実質」事件・最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、借地権の設定に伴い授受される権利金(以下「借地権利金」という)に係る所得税法上の所得区分が争われた事件に関する最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁(以下「本判決」という)を検討する。 本判決は次のとおり判示して(以下「判旨A」という。下線筆者)、昭和34年法律第79号による改正前の所得税法(昭和22年法律第27号。以下「旧所得税法」という)の下で一般論としては類推解釈により一定の借地権利金の譲渡所得該当性を認めたものであり、税法の分野では類推解釈ないし類推適用を認めた(と解される)数少ない判例の1つである(他の判例については拙著『税法創造論』(清文社・2022年)147-149頁[初出・2021年]参照。なお、類推解釈と類推適用は、類推すなわち「ある事案を直接に規定した法規がない場合に、それと類似の性質・関係をもった事案について規定した法規を間接的に適用すること」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)468頁)を法適用過程における法適用者の視線(同459-460頁参照)の「先」に着目して別異に表現したものであると解されるので、以下では特に区別することなく用いることにする)。 Ⅱ 実質主義に基づく類推解釈と「疑わしきは納税者の利益に」 本判決は、「土地賃貸借における権利金授受の慣行」の一般化及び権利金の額の高額化や「借地法等による借地人の保護」というような土地賃貸借をめぐる法状態の変化に基づく借地権利金の「経済的実質」の変化に着目し(判旨A第2段落。「借地権価格の発生と権利金授受の慣行化」については白石満彦「借地権課税80年のあゆみ」税大論叢6号(1972年)209頁、240頁以下参照)、実質主義の考え方に基づき類推解釈を認めたものと解される(富沢達「判解」最判解民事篇(昭和45年度)1041頁、1046-1047頁参照)。 実質主義は「実質課税の原則」とも呼ばれ、税法の解釈の場面では、「租税法の基礎原則の1つ」としての「租税負担の公平の原則」に基づく「実質課税」を要請する「解釈原理」(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)128頁)であり、国税通則法の制定に当たって、「税法の解釈及び課税要件事実の判断については、各税法の目的に従い、租税負担の公平を図るよう、それらの経済的意義及び実質に即して行なうものとするという趣旨の原則規定をもうけるものとする」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)』(昭和36年7月)4頁)と答申されながらその実定法化が見送られたものであるが、判例では「税法上条理として是認されていたもの」(最判昭和39年9月17日集刑152号837頁)とされてきた(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第6回、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【42】等参照)。 ただ、類推解釈は、一般に、租税法律主義の下では許容されないと考えられており(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁等参照)、租税法律主義との相克が問題とされてきた実質主義に基づく場合はなおさらである。夙に、「租税法律主義は、納税義務の限界の租税法による明確化を要請しているのであるから、納税義務者に不利な税法の類推適用の禁止を要請する(・・・・・・)と共に、納税義務者にとつて有利な恣意的な税法の類推適用の禁止をも要請するのである。」(中川一郎『税法の解釈及び適用』(三晃社・1961年)155-156頁)とさえ説かれていたのであり、これらの「要請」は、執行上の原則としての租税法律主義(形式的租税法律主義)すなわち合法性の原則(前掲拙著『税法基本講義』【37】参照)が税法の解釈適用について要請するところである(同【41】参照)。にもかかわらず、本判決が一定の借地権利金の所得区分について旧所得税法9条の類推解釈を認めたのはなぜであろうか。 確かに、借地権利金のうち「借地権設定契約が長期の存続期間を定めるものであり、かつ、借地権の譲渡性を承認するものである等、所有者が当該土地の使用収益権を半永久的に手離す結果となる場合に、その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額が支払われるというようなもの」(判旨A第3段落)については、実質主義に基づき、「経済的、実質的には、所有権の権能の一部を譲渡した対価としての性質をもつものと認めることができる」(同段落)として、所得の「経済的実質」(判旨A第2段落)の類似性の観点から、「公平な課税の実現のために」(同第2段落)、「譲渡所得に当たるものと類推解釈する」(判旨A第3段落)という法律構成は、形式論理的には成り立つであろう。 しかし、そのような法律構成は、「法文からはなれた自由な解釈」(清永・前掲書35頁)に帰結するものであり、「すべての法解釈の出発点」(田中成明・前掲書467頁)で「最も説得力のある権威的論拠とされる法文および文言に忠実な文理解釈」(前掲拙著『税法基本講義』【44】)が可能である場合に採用すべきものではない。そうすると、「所得税法は最初の九つの種類の所得に属しないものをもってすべて最後の所得分類である雑所得に含ましめているのであるから、なぜ雑所得に該当しないと判断したのかその理由も必要であったと考えられる。」(清永敬次「判批」民商法雑誌65巻3号(1971年)437頁、444頁。下線筆者)との指摘は、法解釈方法論の観点からみた本判決の問題の核心を突くものであると考えられる。 上記の指摘の前に、「本件の場合、不動産所得に属するかそれとも譲渡所得に属するか疑わしい場合であったとして、その場合、なぜ譲渡所得に属するものと判断したのか必ずしも十分な説明が与えられているとは思えない。」(清永・前掲「判批」444頁)との指摘もされているが、これらの指摘はいずれも正鵠を射たものといえる。そうすると、本件借地権利金の所得区分につき雑所得該当性を検討せず不動産所得と譲渡所得との対比において後者と類推解釈するという本判決の法律構成を、前記のように実質主義に基づき形式論理的に理解するだけでは本判決の表面的な理解にとどまることになろう。本判決の真意を理解するには、上記の法律構成を正当化する価値判断を明らかにする必要があるように思われるのである。 その価値判断は本判決では明示的には述べられていないが、本判決は原審・東京高判昭和41年3月15日訟月12巻5号768頁(以下「原判決」という)の次の判示(下線筆者)を原則として是認したものと解される。 上記判示のうち「法律の解釈上疑わしい場合には、国民の利益に解するのが当然であるというべきであ[る]」という考え方は、「疑わしきは納税者の利益に(in dubio contra fiscum)」として税法の解釈原理たり得るか否かが夙に議論されていたところであるが(中川・前掲書128-135頁等参照)、下記の見解(清永・前掲書37頁。下線筆者)の説くところからすると、「疑わしきは納税者の利益に」は法解釈者の価値判断の問題として理解するのが妥当であるように思われる。下記の見解は「不明確な立法をしたことによる不利益を課税する側に負担させること」に対する積極的・肯定的価値判断に基づくものと解されるからである(岡村忠生ほか『租税法〔第4版〕』(有斐閣・2023年)29-30頁[岡村忠生執筆]も参照)。 要するに、本判決は原判決の前記判示を原則として是認し、その判示に含まれる「疑わしきは納税者の利益に」という価値判断をもって類推解釈を正当化する立場を踏襲したものと解される。 Ⅲ 実質主義及び遡及適用の禁止による類推解釈の限界づけ もっとも、原判決は、本判決と異なり、借地権利金の「経済的実質」について言及していない。むしろ、原判決は本件借地権利金について次のとおり判示し(下線筆者)その性質を明らかにすることができないことを自認している。 これに対して、本判決は下記のとおり判示し(以下「判旨B」という。下線筆者)、「性質の明らかでない権利金で・・・・・その後の法律の改正により譲渡所得と擬制されることになつた要件を充たすようなもの」(判旨B第2段落)について「法の改正前においても」(同段落)譲渡所得と類推解釈することを相当とした原判決には「法律の解釈を誤り、その結果審理を尽くさなかつた違法」(同段落)があるとして、原判決を破棄し本件を原審に差し戻した(差戻控訴審・東京高判昭和46年12月21日民集24巻11号1638頁では、本件借地権利金は「性質のあいまいな権利金」として不動産所得に該当するとされた)。 本判決は判旨Bで原判決に「法律の解釈を誤」った違法を認めたが、その理由について調査官解説は次のとおり解説している(富沢・前掲「判解」1047-1048頁。下線筆者)。 この調査官解説は、類推解釈の「限界」を「譲渡所得に当たると類推解釈すべき経済的実質」の有無に見出していると解される。すなわち、本判決について、これを類推解釈が実質主義に基づくものであるかどうかによって類推解釈の許容性を判断した判決とみて、解説を行っていると解されるのである。この解説によれば、「疑わしきは納税者の利益に」という価値判断によって正当化される類推解釈であっても、「譲渡所得に当たると類推解釈すべき経済的実質」を有しない権利金を譲渡所得とする類推解釈は、「法律の解釈を誤[ったもの]」(判旨B第2段落)であるということになろう。 これに加えて、本判決は、「性質の明らかでない権利金で・・・・・その後の法律の改正により譲渡所得と擬制されることになつた要件を充たすようなもの」(判旨B第2段落。下線筆者)について「法の改正前においても」(同段落)譲渡所得と類推解釈することを相当とした原判決には「法律の解釈を誤り、その結果審理を尽くさなかつた違法」(同段落)があると判断したが、これは、「租税法律主義の原則を強調し、経済生活の法的安定と予測可能性の必要を説き、税法の厳格解釈、税法における類推の禁止、遡及適用の禁止等を解釈原理として主張する論」(富沢・前掲「判解」1046頁。下線筆者)に立って、原判決が「その後の法律の改正により譲渡所得と擬制されることになつた要件」について「解釈原理」としての「遡及適用の禁止」に反する「法律の解釈」を行った、と判断したものと解される。 なお、昭和34年の所得税法改正による一定の借地権利金の譲渡所得扱いについて、次の説明(税制調査会『税制調査会答申及びその審議の内容と経過の説明』(昭和36年12月)558頁。下線筆者)がされている。 この説明からも明らかであるように、昭和33年所得税法改正は、実質主義の考慮に基づいてのみ借地権利金の譲渡所得該当性の要件を定めたのではなく、他の「諸点」をも考慮してその要件を定めたものであり、この点について次の解説(金子・前掲書266-267頁。下線筆者)は正鵠を射たものである。 これらの説明・解説によれば、原判決は、昭和34年所得税法改正の趣旨ないし理由に照らしてみると、本判決における実質主義に基づく類推解釈と異なり、いわゆる過剰包摂(overinclusion)をもちらす類推解釈を採用した点でも、「法律の解釈を誤[ったもの]」(本判決判旨B第2段落)として破棄され、「性質の明らかでない」(同段落)本件借地権利金について「権利金の性質等につき審理する必要がある」(同段落)として、原審に差し戻されたと解される。 本判決は、本件直後の昭和34年所得税法改正に「先導」されて安心して(恣意的判断の誹りの憂いなく)類推解釈を行ったことも否めないであろうが、ただ、同改正を「前倒し」して類推解釈を行ったのではなく、あくまでも実質主義に基づき類推解釈を行ったものとみるべきであろう。 Ⅳ おわりに 今回は、本判決が借地権利金の所得区分につき採用した実質主義に基づく類推解釈に関する法律構成を検討し、その類推解釈の正当根拠と限界を明らかにした。 問題は、その正当根拠としての「疑わしきは納税者の利益に」という価値判断を税法の解釈方法論の観点からどのように位置づけるかである。この点について、筆者は以下のように考え(前掲拙著『税法基本講義』【44】参照)、「疑わしきは納税者の利益に」という価値判断に基づく類推解釈が、法創造根拠理由の1つとしての実質主義に基づき許容されると考えるものである(前掲拙著『税法創造論』151-153頁[初出・2021年]参照)。 租税法律主義・合法性の原則の下で税法の解釈については厳格な解釈の要請が妥当するが、最も説得力のある権威的論拠とされる法文及び文言に忠実な文理解釈こそが、厳格な解釈の要請に最もよく適合する。もっとも、このことは、文理解釈が著しく不当・不合理な結果をもたらすものでない場合を前提にして、いえることである。そうでない場合のうち、文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理な結果なものである場合には、裁判官は納税者に有利な「解釈」によってその結果を除去すべきである。 というのも、文理解釈の結果が課税権者たる国家にとって著しく不当・不合理なものである場合であれば国家は立法権を行使して法改正によりその結果を除去することができるのに対し、納税者は直接的には自らその結果を除去する権限を持たず、裁判を受ける権利(憲32条)を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまるが、裁判官は裁判を受ける権利を実質化し司法的救済を実現するためには、文理から離れた法創造によってでもその結果を除去し納税者の権利を救済しなければならないからである(司法的救済保障原則については前掲拙著『税法基本講義』【27】参照)。 (了)
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第4回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 10 課税事業年度等 法人は各課税事業年度の基準法人税額に対して、当分の間、防衛特別法人税を課される(防衛財確法9)。課税事業年度は2026年4月1日以後に開始する各事業年度(法人税法第13条及び第14条に規定する事業年度)とされ、通算子法人については別途規定が設けられている(※1)(防衛財確法10)。納税地は法人税法の納税地と同一である(防衛財確法12)。 (※1) 通算親法人の2026年4月1日以後に開始する事業年度の期間内に開始する通算子法人の事業年度 11 課税標準と基準法人税額 (1) 課税標準法人税額 防衛特別法人税の課税標準は、各課税事業年度の課税標準法人税額とされ(防衛財確法12①)、課税標準法人税額は、法人が留保金課税がある場合とない場合とで計算が異なる。留保金課税がない場合は、各課税事業年度の基準法人税額から基礎控除額を控除した金額が課税標準法人税額とされる(防衛財確法12②一)。 【図表5】留保金課税がない法人の課税標準法人税額 各課税事業年度の基準法人税額には、留保金課税を受けた場合の留保税額(※2)を含む金額として計算されるが、この場合の課税標準法人税額は以下の金額の合計とされる(防衛財確法12②二)。 (※2) 基準法人税額のうちに特定同族会社の特別税率(留保金課税)により加算された金額 (注1) 基準法人税額から留保税額を控除した金額 (注2) 基準法人税額のうち留保税額 (注3) 基準法人税加算額から上記①で控除しきれなかった基礎控除額 【図表6】留保金課税がある法人の課税標準法人税額 (2) 基準法人税額の計算 法人税の計算過程と防衛特別法人税における基準法人税額の計算過程(地方法人税の基準法人税額の計算と同様である)は下記の【図表7】に示すとおりである。 内国法人の基準法人税額は、法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額につき、法人税法その他の法人税の税額の計算に関する法令の規定(以下の規定を除く)により計算した法人税の額である(防衛財確法10一)。すなわち、基準法人税額は、【図表7】の①から②を控除し、③~⑥を加算し、⑦を控除せずに計算される。外国法人の基準法人税額は、恒久的施設の有無により、各事業年度の国内源泉所得に係る所得の金額の区分ごとに、法人税法その他の法人税の税額の計算に関する法令の規定(所得税額控除等の規定を除く)により計算した法人税の額の合計額である(防衛財確法10二)。 【図表7】内国法人に係る法人税の計算過程と防衛特別法人税における基準法人税額の計算過程との関係 *1 戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置による税額控除(措法42の12の6⑥⑦)、控除対象所得税額等相当額の控除(措法66の7④・66の9の3③) *2 通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額(措法42の14①④)のうち戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置による部分 (出典:財務省ホームページ「令和7年度税制改正の解説」を基に筆者作成) (3) 基礎控除額 基礎控除額は、年500万円とされ(防衛財確法13③一)、課税事業年度が1年に満たない法人は月数で按分する(1月未満の端数は切上げ)(防衛財確法13⑧⑨)。通算法人の場合には、500万円を各通算法人の基準法人税額又は加算前基準法人税額の比で配分した金額とされる(防確法13③二)。 (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例149(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆国、地方公共団体、公共・公益法人等の仕入控除税額の計算の特例 国、地方公共団体、公共・公益法人等(人格のない社団等を含む)は、本来、市場経済の法則が成り立たない事業を行っていることが多く、通常は租税、補助金、会費、寄附金等の対価性のない収入を恒常的な財源としているのが実態である。 このような対価性のない収入によって賄われる課税仕入れ等は、課税売上げのコストを構成しない、いわば最終消費的な性格を持つものと考えられる。また、消費税法における仕入税額控除制度は、税の累積を排除するためのものであることから、対価性のない収入を原資とする課税仕入れ等に係る税額を課税売上げに係る消費税の額から控除することは合理性がない。 そこで、国、地方公共団体、公共・公益法人等については、通常の方法により計算される仕入控除税額について調整を行い、補助金等の対価性のない特定収入により賄われる課税仕入れ等に係る税額について、仕入税額控除の対象から除外することとされている。 ◆特定収入の意義(消基通16-2-1) 国、地方公共団体等に対する仕入れに係る消費税額の計算の特例に規定する「特定収入」とは、資産の譲渡等の対価に該当しない収入のうち、次の特定収入に該当しないものに掲げる収入以外の収入をいうのであるから、例えば、次の収入がこれに該当する。 ◆特定収入に該当しないもの(消令75) 資産の譲渡等の対価以外の収入で、次のようなものは特定収入に該当しない。 ◆特定収入がある場合の仕入控除税額の調整 国、地方公共団体、公共・公益法人等が簡易課税制度を適用せず、原則課税により仕入控除税額を計算する場合で、特定収入割合が5%を超えるときは、通常の計算方法によって算出した仕入控除税額から一定の方法によって計算した特定収入に係る課税仕入れ等の消費税額を控除した残額を、その課税期間の仕入控除税額としなければならない。 ただし、国、地方公共団体、公共・公益法人等が簡易課税制度を適用している場合又は特定収入割合が5%以下である場合には、この仕入控除税額の調整をする必要はなく、通常の計算方法によって算出した仕入控除税額の全額を、その課税期間の仕入控除税額とすることができる。 ◆特定収入割合 特定収入割合は、その課税期間中の特定収入の合計額を、その課税期間中の税抜課税売上高、免税売上高、非課税売上高、国外売上高の合計額(=資産の譲渡等の対価の額の合計額)及び特定収入の合計額の総合計額で除して計算する。 (了)