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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第63回】「役員給与と事業所得」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第63回】 「役員給与と事業所得」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 事業所得の判断 まず、事業所得の判断要素について確認する。この点については、最高裁判所が判示した事例がある。具体的には、最高裁昭和56年4月24日判決にて(※1)、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。」と示されており、今日の実務はこれに倣っているといえる。 (※1) 民集18巻8号1762頁、TAINS:Z117-4788。 また、国税庁の参考となる通達に「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(法令解釈通達)(平成21年12月17日、課個5-5)」がある。これによれば、事業所得か給与所得かその区分が明らかでないときは、①他人が代替できるか、②時間的拘束を受けるか、③指揮監督を受けるか、④不可抗力により滅失等した場合に報酬を請求できるか、⑤材料や用具等が提供されるか、という点から判断すべき旨が示されている。この通達が示すこれらの要素は、上記最高裁判決を汲んだものであるといえる。 このような点から、その法人の所得を事業所得とすべきかどうかは上記最高裁判決の判示内容や上記通達に照らし、その実態に鑑みた判断が必要となる。ここで、仮に法人が、法人の役員に対して業務委託として支出した金銭がある場合、その相手が法人と密接な関わりがある役員であるために、「自己の計算と危険において独立して営まれている」かどうかの判断に悩む場合もあるかもしれない。 そこで、以下において、このような事例を紹介する。   (2) クラブを経営する法人がその代表取締役に支払った報酬につき、役員賞与であるとされた事例 クラブを経営する有限会社の代表取締役であり、そのクラブのいわゆるママでもある者に対して法人が支払った報酬が、その者の事業所得ではなく役員給与に該当するとされた事例として、札幌地裁平成25年6月20日判決がある(※2)。以下にその概要を紹介する。 (※2) 税務訴訟資料263号順号12237、TAINS:Z263-12237。なお、この事例は控訴及び上告がなされているが、高裁及び最高裁は地裁の判断を全面的に支持しているため、ここでは地裁判決を取り上げる。 本件裁判例の事実関係を整理すると、以下の事実が認定されている。 このような事実関係において、地裁は、①納税者の株式をすべて取得することが予定されており、②甲が資金繰り等の事情による支払い遅延を甘受していたこと、③衣装費用等を納税者が負担することもあったこと、④甲が認めたつけ払いについて納税者は甲に厳格な責任を追及していなかったこと、等の納税者と一体的に経営的立場からママとして稼働していたとして、第三者的立場でホステスとして業務委託契約があったとはいえない旨を認定した。 その上で、甲が、自己の計算と危険において納税者から独立した立場で個人事業を営んでいたとはいい難いとして、納税者から甲に支払われた本件金員の一部が役員賞与(旧法人税法35条)に該当するとして、損金不算入となる旨を示した。   (3) 本件裁判例の意義 本件裁判例は、上記最高裁判決が示した事業所得の意義に照らして本件金員の一部が事業所得に該当しないために給与や賞与であるとされ、それがすなわち当時の法人税における役員賞与に該当するために損金不算入である旨が示された点に意義を見出すことができると思われる。 役員給与税制が整えられた今日においても、外注委託費等として計上していた法人の代表取締役が、個人事業主を兼ねているケースもあるだろう。このような場合において、当該法人と全く関わりのない事業であれば問題ないといえるところ、当該法人の事業と関わりがある事業を個人が営んでいる場合、特に当該法人から業務委託や外注を受ける形であるならば、「自己の計算と危険において独立して営まれている」等とはいい難いとされる場合も考えられる。 本件裁判例では、ママである甲の衣装を法人が負担していたり、法人から甲に対するつけ払いの追及が無かったりという事情が決定打となったと思われる。仮にこのような事実が無く、甲が事業所得として確定申告をしていた等の場合には異なる結論となった可能性も否定できないが(本件裁判例では、甲が事業所得として所得税の確定申告をしていたかについて言及はない)、法人からのこのような金銭の支給が個人事業であるというためには、最低でも自己による危険負担等について立証できるようにするべきであると思われる。   (了)

#No. 578(掲載号)
#中尾 隼大
2024/07/18

基礎から身につく組織再編税制 【第66回】「適格株式移転(共同事業)」

基礎から身につく組織再編税制 【第66回】 「適格株式移転(共同事業)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、共同事業を行うための適格株式移転の要件について解説します。   1 共同事業を行うための適格株式移転の要件 共同事業を行うための適格株式移転の要件は次の7つです。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、株式移転完全子法人の株主に株式移転完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十八)。 ただし、次の①又は②を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 (※) ①から②の詳細は、本連載の【第64回】を参照。   3 従業者継続要件 (1) 従業者継続要件とは 「従業者継続要件」とは、株式移転直前の株式移転完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式移転後に株式移転完全子法人の業務((2)参照)に引き続き従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔三)。 (2) 株式移転完全子法人の業務について 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に、株式移転完全子法人との間に完全支配関係がある法人の業務と株式移転後の次に行われる適格合併等に係る合併法人等の業務も株式移転完全子法人の業務に含まれます。   4 事業継続要件 「事業継続要件」とは、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業が株式移転後に株式移転完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔四)。 前回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様に株式移転完全子法人との間に完全支配関係がある法人の業務と株式移転後の次に行われる適格合併等に係る合併法人等において、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   5 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業(子法人事業)と他の株式移転完全子法人の株式移転前に行ういずれかの事業(他の子法人事業)とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます(法令4の3㉔一)。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」というのは、次のような場合をいいます(法規3①二・②・③)。   6 事業規模要件又は経営参画要件 共同事業を行うための適格株式移転の要件として、事業規模要件又は経営参画要件のいずれかを満たすことが求められています(法令4の3㉔二)。 (1) 事業規模要件 「事業規模要件」とは、株式移転完全子法人の子法人事業と他の株式移転完全子法人の他の子法人事業(子法人事業と関連する事業に限ります)のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。共同事業を行うための適格合併の要件と異なり、資本金による規模の判定はできませんのでご留意ください。 事業規模要件は、規模があまりにも異なる株式移転は共同で事業を行うものとは認められないという趣旨により設けられたもので、事業の規模の割合がおおむね5倍を超えないかどうかは、いずれか1つの指標が要件を満たすかどうかにより判定します(法基通1-4-6(注))。 (例) (2) 経営参画要件 ① 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、株式移転前の株式移転完全子法人又は他の株式移転完全子法人のそれぞれの特定役員(②参照)の全てが株式移転に伴って退任するものでないことをいいます。 事業規模要件を満たさない場合でも、株式移転完全子法人の経営陣が退任することなく、株式移転後に経営参画しているものは共同で事業を行うためのものとして認めるという趣旨により設けられています。 ② 特定役員とは 「特定役員」とは社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者(③参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 ③ 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。   7 株式継続保有要件 (1) 株式継続保有要件 「株式継続保有要件」は、株式移転により交付される株式移転完全親法人株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主((2)参照)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔五)。 (2) 支配株主とは 株式継続保有要件における「支配株主」とは、株式移転の直前に株式移転完全子法人又は他の株式移転完全子法人の発行済株式の50%超を保有する株主をいいます。 上図の株主Aは支配株主に該当するため、対価(株式移転完全親法人株式)を継続保有することが求められます。 支配株主に該当しない株主(株主B、株主C、株主D、株主E)については、対価の継続保有は求められません。   8 完全支配関係継続要件 完全支配関係継続要件は、株式移転後に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人の間に株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれていることをいいます(法令4の3㉔六)。   ◆共同事業を行うための適格株式移転の要件のポイント◆ 原則として株式以外の対価を交付しないことが求められています(金銭等不交付要件)。 株式移転完全子法人の株式移転直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が引き続き株式移転完全子法人の業務に従事することが見込まれているかを確認します。 株式移転完全子法人の主要な事業が株式移転後に株式移転完全子法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 事業関連性の判定において、一方の株式移転完全子法人は株式移転前の主要な事業に限定されていますが、他の株式移転完全子法人の事業は限定されていません。 事業規模要件については、事業関連性要件の判定において関連性があるとした事業により判定します。 経営参画要件においては、単なる役員ではなく特定役員が退任しないことが必要です。 支配株主がいる場合のみ、株式継続保有要件の判定を行います。 株式移転後には株式移転によって生じた株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが求められます。   (了)

#No. 578(掲載号)
#川瀬 裕太
2024/07/18

相続税の実務問答 【第97回】「贈与を受けた年の中途で贈与者が亡くなった場合の相続時精算課税の選択」

相続税の実務問答 【第97回】 「贈与を受けた年の中途で贈与者が亡くなった場合の相続時精算課税の選択」   税理士 梶野 研二   [答] 令和6年1月1日以後に相続時精算課税の適用を受ける財産の贈与を受けた場合には、その贈与者が亡くなったときに相続税の課税価格に加算される価額は、その財産の価額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額となります。贈与を受けた年中に贈与者に相続が開始した場合には、贈与税の申告書の提出義務はなくなりますので、その贈与について相続時精算課税を適用しようとする場合には、相続時精算課税選択届出書のみを相続税の納税地の所轄税務署長に提出することになります。 あなたの場合、令和7年3月17日までに相続税の納税地(Y市)の所轄税務署長に相続時精算課税選択届出書を提出することにより、お父様から贈与を受けた150万円のうち基礎控除額110万円相当額は、相続税の課税価格に加算する必要はなくなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税に係る基礎控除 令和5年度の税制改正により、相続時精算課税においても暦年課税における基礎控除額と同額の110万円の基礎控除が設けられました。すなわち、令和6年1月1日以後に特定贈与者(「相続時精算課税に係る贈与をした者」をいいます)から贈与により取得した財産については、その者から同年中に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円(注)を控除し、その残額(相続税法第21条の12第1項に規定する相続時精算課税の特別控除を適用することができる場合には、この特別控除の額を控除した残額)に対して贈与税が課されることとなります。 (注) 相続税法第21条の11の2第1項では、基礎控除額は60万円とされていますが、租税特別措置法第70条の3の2第1項の規定により、相続税法の規定による「60万円」は「110万円」に読み替えられています。 また、相続時精算課税に係る特定贈与者に相続が開始した際には、相続時精算課税を適用した財産については、相続税の課税価格に加算又は算入することとされていますが、令和6年1月1日以後に贈与により取得し相続時精算課税を適用した財産については、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額を相続税の課税価格に加算又は算入することとなりました(相法21の15①、21の16②)。   2 相続時精算課税選択届出書の提出 贈与税の申告書は、原則として贈与により財産を取得した年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与を受けた者の納税地(一般的には贈与を受けた者の住所地)の所轄税務署長に提出しなければなりません。贈与税の申告において相続時精算課税を選択する場合には、贈与者ごとにその贈与者から贈与により取得した財産について相続時精算課税の適用を受けようとする旨その他の一定の事項を記載した「相続時精算課税選択届出書」を贈与税の申告書に添付しなければなりません(注)(相法21の9②、相令5①、相規10)。 (注) 相続時精算課税を適用する最初の年に「相続時精算課税選択届出書」を提出すれば、同じ贈与者からの贈与については翌年以降も相続時精算課税が適用されますので、翌年以降の贈与税の申告時に、再度、相続時精算課税選択届出書を提出する必要はありません。 しかしながら、贈与を受けた年中に贈与者が死亡した場合には、贈与税の申告書の提出義務はありませんので、贈与税の申告書に相続時精算課税選択届出書を添付して提出することはできません(相法21の9②、28④)。 この点について相続税法施行令は、贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合において、受贈者がその贈与により取得した財産について相続時精算課税の適用を受けるためには、相続税の納税地(一般的には被相続人の死亡の時における住所地)の所轄税務署長に相続時精算課税選択届出書を提出しなければならないと定めています(相令5③)。この場合、贈与税の申告書は提出されませんので、上記の期間内に、相続時精算課税選択届出書だけを単独で提出することとなります。 相続時精算課税に係る贈与財産の価額(相続時精算課税に係る基礎控除後の価額)は、相続税の課税価格に加算又は算入しなければなりませんので、贈与者(被相続人)からの贈与に係る相続時精算課税の選択は遅くとも相続税の申告書の提出期限までに行われる必要があります。このため、贈与税の申告書の提出期限までに当該贈与をした者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限が到来するときは、相続時精算課税選択届出書は、当該相続税の申告期限までに提出しなければならず、当該贈与をした者の死亡に係る相続税の申告書を提出するときは、相続時精算課税選択届出書は、当該相続税の申告書に添付して提出しなければならないこととされています(相令5④)。 相続税法基本通達21の9-2では、手続きの誤りを防止する観点から、贈与者が年の中途で死亡した場合の相続時精算課税選択届出書の提出先や提出期限について、留意的に次のとおり整理をしています。 (出典) 国税庁ホームページより一部抜粋   3 ご質問の場合 あなたは、お父様の財産を相続されますので、相続時精算課税の選択をされない場合には、相続税法第19条第1項の規定により、令和6年2月にお父様からの贈与により取得した現金150万円を相続税の課税価格に加算しなければなりません。 一方、相続時精算課税が適用される場合には、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額のみが相続税の課税価格に加算されます。すなわち、あなたが、令和6年中にお父様からの贈与により取得した現金150万円について相続時精算課税を選択するのであれば、基礎控除額110万円を控除した後の残額は40万円となりますので、この40万円だけを相続税の課税価格に加算することとなります。 あなたが、お父様からの贈与について相続時精算課税を選択するためには、相続時精算課税選択届出書を提出しなければなりません。その提出先は、あなたの贈与税の納税地(S市)の所轄税務署長ではなく、相続税の納税地(Y市)の所轄税務署長となります。 なお、贈与税の申告書の提出期限は令和7年3月17日(令和7年3月15日は土曜日となりますので、翌週の3月17日(月曜日)が提出期限となります)であり、相続税の申告書の提出期限であるあなたがお父様の相続開始を知った日の翌日から起算して10ヶ月を経過する日(令和7年5月)よりも前に到来します。したがって、お父様からの贈与について相続時精算課税を選択する旨の届出書は、贈与税の申告書の提出期限までに相続税の納税地(Y市)の所轄税務署長に提出しなければなりません。 (了)

#No. 578(掲載号)
#梶野 研二
2024/07/18

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第47回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第47回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   17 ビットコインETFと分離課税(その1):概要 今後、数回に分けて、日本の居住者が米国のビットコインETF(上場投資信託)を譲渡した場合の所得が分離課税の対象となるかという点を検討する。この論点は、日本における暗号資産の分離課税に関する議論に種々の影響を与えるであろう。 (1) SECによるビットコインETFの承認 2024年1月10日に、SEC(米国証券取引委員会)は、暗号資産であるビットコインの現物を運用対象とするETF(Exchange Traded Fund)(以下「ビットコインETF」という)を承認した。同日において承認された11銘柄は下記「米国ビットコインETF比較表」のとおりである。 〈米国ビットコインETF比較表〉 (出典) 各銘柄の目論見書等に基づいて筆者作成 この11銘柄は、原則として、いずれの銘柄も、①運用対象は現物のビットコインのみである、②受託者はデラウェア州法定信託法に従って設立されたDelaware Trust Companyである、③信託は米国連邦所得税法上、グランタートラストとして取り扱われる可能性が高いという見解を示しているなど、共通点が多い(ただし、銘柄によっては異なる場合あり)。 SECによる上記承認の背景には次のような事情がある。 本稿執筆時点(2024年6月末時点)では、日本において暗号資産を原資産とするETF(上場投資信託)を組成することは、法令等の関係上、難しいと考えられている。 もっとも、日本の居住者が米国ビットコインETFを売買することはありえるし、そもそもビットコインETFを譲渡したことによる所得についてどのような課税関係になるのか、とりわけ分離課税の適用があるのかという点について、日本の投資家の関心は高いと思われる。 このようなビットコインETFの課税関係が日本の暗号資産税制、とりわけ分離課税導入の是非をめぐる議論に影響を与える可能性も見過ごすことはできない。 (2) ETFとは 国内ETFの組成類型について、根拠法令は何か、投資信託を金銭又は現物で設定するか、解消する際には金銭で償還するか又は現物と交換するかなどの観点から、次の4つに分類される。 上記の4つの類型のうち、比較的スタンダードな類型である❸の現物設定・現物交換型の設定・交換プロセスは、次のとおりである(森・濱田松本法律事務所編『投資信託・投資法人の法務』224-225頁(商事法務、2016) 参照)。 ETFには、大口の投資家がETFの設定(発行)・償還 (交換)を行う発行市場と、一般投資家がETFの受益証券を取引する流通市場とがある。 各市場における価格について、発行市場では、ETFの純資産総額(Net Asset Value)を発行済受益権の総口数で割った基準価額が用いられ、流通市場では一般投資家が市場価格で取引をしている。 参考として、証券監督者国際機構 (International Organization of Securities Commissions)は、ETFについて、要旨次のとおり説明している(The Board OF THE INTERNATIONAL ORGANIZATION OF SECURITIES COMMISSIONS, Good Practices Relating to the Implementation of the IOSCO Principles for Exchange Traded Funds: Final Report 63-64(2023))。 (3) ビットコインETFの特徴 銘柄によって仕組み等が異なる場合はあるものの、ビットコインETFに共通する特徴として、例えば次の点を挙げることができる。   (了)

#No. 578(掲載号)
#泉 絢也
2024/07/18

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第50回】「寄与度利益分割法の適用が認められた事例(地判平24.4.27、高判平25.3.28、最判平27.1.16)(その1)」~租税特別措置法66条の4第1項、2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第50回】 「寄与度利益分割法の適用が認められた事例 (地判平24.4.27、高判平25.3.28、最判平27.1.16)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、2項~   税理士 水野 正夫     1 事案の概要 本件は、被告(Y、課税庁)が、農産物の輸入・卸売販売を営む内国法人Xに対し、バハマ所在の国外関連者Sからエクアドル産バナナを仕入れた国外関連取引(以下、「本件取引」という)についていわゆる移転価格税制を適用し、平成11年度から平成16年度までの法人税等について更正処分等を行ったところ、原告Xが被告Yが行ったこれらの処分に違法があると主張して、その取消しを求めた事案である(※1)。 (※1) 移転価格税制の適用による経済的二重課税の救済については、わが国と国外関連者の所在国の租税条約上の相互協議条項に基づいた二国間の相互協議によって二重課税を排除するというルートも用意されており、相互協議を通じて二重課税の排除を求めるケースも多くあると思われるが、本件の場合、わが国と国外関連者の所在地国であるバハマと租税条約が締結されておらず、相互協議を利用できなかった事案である。 本件は、地裁判決、高裁判決で納税者が敗訴し、最高裁は納税者による上告を不受理としたことから、本稿では東京地裁判決(以下、「本判決」という)(※2)を検討することにする。 (※2) 本判決の評釈として、神山弘行「移転価格税制において寄与度利益分割法の適用が認められた事例」ジュリスト1445号(2012年)8-9頁、宮本十至子「寄与度利益分割法による独立企業間価格算定の適法性」税研178号(2014年)166-170頁参照。 租税特別措置法66条の4第1項は、「法人が、・・・各事業年度において、当該法人に係る国外関連者・・・との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、当該取引・・・につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。」と規定する。 また、同条第2項は独立企業間価格の算定方法につき、「前項に規定する独立企業間価格とは、国外関連取引が次の各号に掲げる取引のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める方法により算定した金額をいう」として、独立価格比準法(同項1号イ)、再販売価格基準法(同項1号ロ)、原価基準法(同項1号ハ)、を挙げ、これらの同項1号イからハまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り、イからハまでに掲げる方法に準ずる方法その他政令で定める方法を用いることができるとしていた(※3)。 (※3) 本件は基本三法がその他の方法(利益分割法を含む)に優先していた当時の事件である。その後平成23年改正により、優先順位は廃止され、最も適切な方法によることとされている(租税特別措置法66条の4第2項)。 この委任を受けた租税特別措置法施行令39条の12第8項は、「法第66条の4第2項第1号ニに規定する政令で定める方法は、国外関連取引に係る棚卸資産の同条第1項の法人又は当該法人に係る同項に規定する国外関連者による購入、製造、販売その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもつて当該国外関連取引の対価の額とする方法とする」として、いわゆる寄与度利益分割法を規定している。 本件の争点は以下のとおりである。 (1) 本件国外関連取引に寄与度利益分割法を用いたことの適法性【争点①】 寄与度利益分割法は、基本三法を用いることができない場合に限り、これを用いることができる(租税特別措置法66条の4第2項1号柱書)ところ、本件国外関連取引について、基本三法のうち再販売価格基準法を用いるに当たり、エクアドル政府規制が「通常の利益率」(同号ロ)の算定に当たって必要な調整を加えるべき「差異」(租税特別措置法施行令39条の12第6項)に当たるにもかかわらず、その調整が不可能であるとして、再販売価格基準法を用いることができないとしたことは違法か否か。 (2) 日本市場の特殊要因(エクアドル産バナナの価格下落)によるXの営業損失を分割対象利益に含めたことの違法性【争点②】 寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失の全額を分割対象利益としたことの違法性、すなわち、上記各事業年度における原告の営業損失の全部又は相当部分は、日本市場におけるエクアドル産バナナの市場価格の下落などの日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであったのにそれをせず、営業損失の全額を分割対象利益としたことは違法か否か。 (3) 分割要因としてX及びSが支出した販売費及び一般管理費(以下、「販管費」という)を用いたことの違法性【争点③】 寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、分割要因として、原告及びBが支出した販管費を用いたことの違法性(租税特別措置法施行令39条の12第8項は「支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」を分割要因とすべき旨規定しているところ、本件において、原告及びBが支出した販管費がこれに当たるとしたことは違法か否か)。   2 判示 (1) 本件国外関連取引に寄与度利益分割法を用いたことの適法性【争点①】 原告は、フィリピン産バナナの輸入取引を行うA社を比較対象とした再販売価格基準法が適用可能であるとし、再販売価格基準法における「通常の利益率」に客観的に明らかな重大な影響を与える差異についてのみ調整すれば足り、「比較対象取引との比較においては、『売手の果たす機能』が最も重視されるところ、原告とA社の果たす機能は類似しており、A社の売上総利益率は原告にも当てはまるべきものであるから、A社の売上及び原価並びにA社と原告の機能の類似性の判断について、エクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない」と主張した。また、原告は、「バナナ輸入業者による加工業者等に対する再販売は、需要と供給によって定まる市場価格である浜値で取引されており、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから、原告のエクアドル産バナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない」とし、「エクアドル政府規制の有無は、バナナ輸入業者の『通常の利益率』の算定に客観的に明らかな重大な影響を与える差異であるとは認められないから、再販売価格基準法の適用に当たり、調整を行うべき差異であるとはいえない」と主張した。 これに対し、本判決は、「エクアドル政府規制、すなわち、エクアドル政府による最低買取価格及び最低輸出価格の設定は、バナナ輸出業者によるバナナ生産者からの買取価格及び輸出価格の下限を定めるものであって、当該規制が存在しない場合に比べ、バナナ生産者からの買取価格及び輸出価格を上昇させる方向に作用する要因であることは明らか」であり、「エクアドル産バナナの輸入価格が上昇すれば、その分だけ原価の合計額が上昇し、売上総利益の額が減少することになるのであって、その割合である「通常の利益率」にも影響が及ぶことは明らかというべきである」とした。 そして、「エクアドル政府規制は『通常の利益率』に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり、当該規制の有無により通常の利益率に生じる差について調整する必要があるところ、その具体的な影響を数値化して特定することは不可能であり、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないから、本件国外関連取引について、A社のフィリピン産バナナの輸入取引を比較対象取引として、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許され」ず、また、「本件国外関連取引について、原価基準法における適切な比較対象取引が存在しないというべきであるから、原価基準法を用いてその独立企業間価格を算定することはできない」として、「本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法である」と判示した。 (2) 日本市場の特殊要因(エクアドル産バナナの価格下落)によるXの営業損失を分割対象利益に含めたことの違法性【争点②】 本判決は、争点②について、「寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定するに当たり、原告が平成12年12月期及び平成13年12月期において計上した営業損失は、日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであるとの原告の主張は、法令上の根拠を欠くものであって、その理由として述べるところもいずれも採用することはできない。そして、他に、原告の主張するように解すべき理由を見出すこともできない」とし、「よって、本件国外関連取引について、平成11年12月期ないし平成13年12月期におけるBの原告に対する取引に係る営業利益を円換算した額及び原告の営業利益(損失)の額の合計額を分割対象利益として、寄与度利益分割法を用いて本件独立企業間価格を算定したことは適法である」として、納税者の主張を排斥している。 (3) 分割要因としてX及びSが支出した販管費を用いたことの違法性【争点③】 さらに、本判決は、争点③について、「原告及びBの支出した販管費は、措置法施行令39条の12第8項にいう『当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因』に当たるというべきであって、この点の原告の主張、すなわち、およそバナナの輸入販売業においては、販管費の支出が増加すれば営業利益が増加するという関係がなく、平成12年12月期及び平成13年12月期における分割対象利益は、その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日本市場の特殊要因により生じた原告の営業損失から構成され、原告及びBの販管費との間に関連性はないから、販管費は、『当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因』に当たらないという主張は、採用することができない。よって、本件各処分が、販管費を分割要因として寄与度利益分割法を用いて算定された独立企業間価格に基づいてされた点に、何ら違法な点はない」と判示した。 ((その2)へ続く)

#No. 578(掲載号)
#水野 正夫
2024/07/18

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第4回】「Scope1の算定のしくみ」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第4回】 「Scope1の算定のしくみ」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔PNパッケージ社の登場人物〕 *  *  * 温室効果ガスのサプライチェーン排出量は、「Scope1」・「Scope2」・「Scope3」の3つに区分けして算定します(【第3回】参照)。 Scope1は、燃料の使用や製品の製造などを通じて、自社が「直接」排出する温室効果ガスです。 *  *  * *  *  * 目に見えない温室効果ガスがどれだけ排出されているかを直接計測することは、困難です。そのため、ほとんどの場合、計算によって温室効果ガスの排出量を推定する方法がとられます。 二酸化炭素(CO2)排出量は、次の式で算定されます。 *  *  * *  *  * 排出係数(排出原単位)は、活動量あたりの温室効果ガス排出量を指します。環境省のホームページには、排出係数一覧を記載した資料が公開されています(※1)。 (※1) 環境省「算定・報告・公表制度における算定⽅法・排出係数⼀覧」 たとえば、ガソリン(揮発油)の排出係数は2.29t-CO2/klです。すなわち、ガソリン1kl(=1,000l)を使用することで、2.29tの二酸化炭素が排出されることを意味します。 *  *  * *  *  * Scope1は、主に、ガソリンや軽油、ガスといった燃料を使用することにより生じる温室効果ガスと、セメントや鉄などを製造する際の化学反応によって生じる温室効果ガス(※2)からなります。 (※2) たとえば、セメント製造においては、主原料である石灰石を焼成する際に多量の二酸化炭素が排出される。 *  *  * *  *  * 温室効果ガス排出量の把握は、継続して行うことに意味があるので、自社の算定目的に沿った無理のない方法から始めるとよいでしょう。なお、近年では、排出量算定の普及に伴い、排出量を算定・集計するシステムやクラウドサービスも増えています。 *  *  * *  *  * 経理部での会計処理は「金額」で行うため、燃料ごとの使用量まで捕捉していないこともあります。燃料ごとの使用量を把握しておけば、燃料費の節減対策を考えることもできます。 また、Scope1の情報は、将来設備投資を行う際に参考にすることもできます。 *  *  * *  *  * 日本では、「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」が定められています。温対法では、温室効果ガスを相当程度多く排出する事業者(「特定排出者」)に対して、事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を算定・報告・公表することが義務付けられています(※3)。 (※3) 環境省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度/制度概要」 この「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(一般に「SHK制度」と略記)」のために、環境省からは算定方法・排出係数一覧が公開されています。日本では、これが温室効果ガス排出量の算定に広く利用されています。 *  *  * *  *  * なお、GHGプロトコルにおけるScope1及びScope2の排出量と、SHK制度における報告値は、事業者単独の国内事業については共通する部分が大半です。ただし、細かい点では違いが見られます。 詳細は割愛しますが、たとえば、輸送事業者以外の事業者が自社所有の自家用乗用車を使用することにより生じる排出量は、SHK制度では算定対象外とされていますが、Scope1の算定には含める必要があります(※4)。 (※4) 環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」第2部 1.1.1 *  *  * *  *  * 温室効果ガス排出量の算定を行うには、前提として、その算定対象となる組織の範囲を明確にしておく必要があります。 *  *  * *  *  * Scope1及びScope2の「自社」の範囲には、子会社なども含めるのが原則です。この範囲の設定方法としては、「出資比率基準」と「支配力基準」の2つの考え方があり、いずれかを選択することができます。 出資比率基準は、対象とする企業の排出量のうち、その企業に対する出資比率に応じた分だけを自社の排出量として取り込む方法です。一方、支配力基準は、支配下の企業の排出量の100%を自社の排出量として取り込む方法です。 【株式保有率80%の子会社があり、当社が支配力を有しているケース】 *  *  * *  *  * Q Scope1はどのように算定するの? A Scope1は、燃料の使用や製品の製造などを通じて、自社が直接排出する温室効果ガスです。温室効果ガス排出量は「活動量 × 排出係数」で求められます。日本では、環境省が提供する排出係数のデータが広く利用されています。 (了)

#No. 578(掲載号)
#石王丸 香菜子
2024/07/18

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2024年7月】第1四半期決算(2024年6月30日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2024年7月】 第1四半期決算(2024年6月30日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第1四半期決算(2024年6月30日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。基本的に2024年4月1日から6月30日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 会計関係 日本公認会計士協会は次のものを公表している。 〇 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正(内容:「中間財務諸表に関する会計基準」等を受けた改正)   Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公表されている。 ① 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和6年度)(内容:有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項等を記載している。金融庁) ② 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等(内容:「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたもの。意見募集期間は2024年7月16日まで)   Ⅳ 四半期決算関係 次のものが公表されている。 ① 金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について(内容:東京証券取引所における四半期決算短信の取扱いを示すもの) ② 四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正及び期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務情報に対するレビュー」の公表(内容:独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビューと独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビューに関する報告書) ③ 期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」(内容:四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューについて、Q&A形式によって解説するもの)   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正及び期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務情報に対するレビュー」の公表(内容:独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビューと独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビューに関する報告書) ② 期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」(内容:四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の期中レビューについて、Q&A形式によって解説するもの) ③ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 の改正(内容:四半期開示制度の見直しに伴って、期中レビュー導入への対応や守秘義務条項を一部追加するもの) ④ 財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正(内容:報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示の記載例を追加するもの) ⑤ 「保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」及び保証業務実務指針2400実務ガイダンス第1号「財務諸表のレビュー業務に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(内容:レビュー業務の対象範囲の整理などを行うもの) ⑥ テクノロジー委員会研究文書第10号「サイバーセキュリティリスクへの監査人の対応(研究文書)」(内容:財務諸表監査や財務報告に係る内部統制の監査において、サイバーセキュリティリスクを考慮する重要性の増加を踏まえ、監査を実施するに当たっての留意点などについて研究したもの) ⑦ 監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正(内容:監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)を受けたもの)   Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2024年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日、改正企業会計基準第27号)等(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果についての取扱いを示すもの。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ② 実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等(内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用) (了)

#No. 578(掲載号)
#阿部 光成
2024/07/18

給与計算の質問箱 【第55回】「青色事業専従者給与額の変更」

給与計算の質問箱 【第55回】 「青色事業専従者給与額の変更」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 私は青色申告者の個人事業主で、妻に青色事業専従者給与を支払っています。青色事業専従者給与は1月から6月まで月額20万円でしたが、7月から月額30万円に増額することは可能でしょうか。 A 可能である。以下で詳しく解説する。 * * 解 説 * * 青色事業専従者給与の額を変更するためには、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく所轄の税務署へ提出しなければならない。「遅滞なく」なので上記問いの7月からの変更であれば、同月中に提出すればよい。「青色事業専従者給与に関する変更届出書」は、「青色事業専従者給与に関する届出書」と同じ様式であり、変更理由(業務量の増加など)を記載する。 また、以下のとおり、個人事業主の家族従業員は原則として労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険の対象外なので、給与からは源泉所得税と住民税(特別徴収。普通徴収へ切替可能)を控除して支給する。   1 労災保険 同居親族は、原則として加入できない。例外として、常時同居親族以外の労働者を使用する事業において、次の①~②の条件を満たす場合は加入できる。   2 雇用保険 同居親族は、原則として加入できない。例外として、次の①~③の条件を満たす場合は加入できる。ハローワークへ雇用の実態を確認できる書類等の提出が必要となる。   3 健康保険・厚生年金保険 個人事業主の家族は、原則として被保険者になることができない。例外として、次の①~④の条件を満たす場合は被保険者になることができる。 (了)

#No. 578(掲載号)
#上前 剛
2024/07/18

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第55回】「賃貸借における土地の対象範囲」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第55回】 「賃貸借における土地の対象範囲」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 土地の賃貸借を開始するに当たって、どこからどこまでの範囲をその対象とするかがしばしば問題とされます。これは【第53回】で述べた「対象不動産の確定」にも関連することですが、賃料を算定する際の重要な前提条件ともいえます。 例えば、以下の〈資料〉のような大きな区画の土地の一部を建物所有目的で賃貸借の対象とする場合、残りの部分を賃借人が駐車場として使用する計画でもない限り、全体の区画を借地の対象として賃料を算定することは合理的とはいえません(本来の建物の使用に必要な範囲をはるかに超えてしまうからです)。 〈資料〉 大きな区画の土地の一部の賃貸借 現行の借地借家法のもとで、建物所有を目的とする普通借地権(旧借地法の借地権に該当します)を設定するケースは親子会社(あるいは親族会社)間での例を除き、きわめて少ないのが実情です。しかし、事業用定期借地権(借地借家法第23条)のように、契約期間が満了すれば貸主が確実に土地の返還を受けられることが法的に保証されている借地契約の場合、今回取り上げるケースに出合うことがあることと思われます。   2 賃貸借における土地の対象範囲の取り決め 上記1の〈資料〉のように、大きな区画の土地の一部を賃貸借の対象とする場合、契約に先立って当事者間(貸主・借主間)で、借地契約の範囲を取り決めておくのが通常です。その際の考え方ですが、建物の使用に必要な土地の範囲を現地で確認の上、これを図面上に記載して明確にしておくことが求められます(分筆登記までは不要ですが、賃貸借の対象面積が計算できるような図面を手元に備え付けておかなければ用を足さないといえます)。 ケースによっては、建物の周辺に障害物があり机上で推し測ったとおり簡単にいかないことも珍しくはありません(現地確認が必要な理由はここにあります)。 また、〈資料〉のような場合、実務としては、建物の1階の床面積の2割増の面積をもって土地の賃料算定の基礎として取り決めているケースも見受けられます(ただし、これはあくまでも当事者間の取り決めに基づく一例であり、他のケースにもそのまま当てはまるということではありません)。 なお、以下に述べるような法定地上権が生じる場合、その効力が及ぶ敷地の範囲をどのように捉えるかという考え方は、今回取り上げているケースにも応用が利くものと思われます(法定地上権の場合、最初から建物の敷地の範囲が取り決められているわけではなく、法定地上権が生じた際にはじめて裁判所によりその範囲が明確化されるためです)。   3 法定地上権の場合~本件を検討する際に参考となる考え方 法定地上権とは、民法第388条に規定されている強い権利であり、物権としての性格を有し、譲渡性もあります。 なお、法定地上権の性格をひとことで表現すれば、土地の賃借権のような債権(貸主の承諾が必要な権利)とは異なり、貸主の承諾を必要としない物権としての性格を有する権利であるといえます。 そのため、法定地上権が成立する前提として次の4つの要件を満たすことが必要とされ、どれか1つの要件を欠いた場合には法定地上権は成立しないものとして扱われています。 通常の借地権は土地の賃貸借(賃借権)によるものであり、上記2で述べたとおり設定契約時に対象となる敷地の範囲を明確にして契約を締結しますが、法定地上権の場合、最初から合意に基づいて利用範囲を取り決めているわけではありません。そのため、その効力の及ぶ範囲が問題となるわけです。 過去の裁判例の傾向によれば、法定地上権は、形式的に建物の存する土地の一筆全部に及ぶものではなく、建物の利用上必要な範囲に限られるとされています。その理由としては、建物が存しない他の敷地部分についてまで法定地上権の効力が及ぶとするのは合理的ではないという考え方が背景にあるものと推察されます。 なお、どこまでが建物の利用に必要な範囲か否かという点に関しては、建蔽率等の建築基準法の規制も重要な判断要素とされているようです。   4 おわりに 以上、土地の賃貸借の場合を前提として述べてきましたが、建物の賃貸借に当たっても同じような捉え方をすることができます。それは、「建物を貸し借りする」ことが当事者間の約束事項であるにしても、その敷地部分は建物と物理的に切り離すことはできず、事実上借主の使用に供されることに端を発します。そのため、鑑定評価においては、家賃を試算するための1つの手法として、建物及びその敷地の価格の合計額を基礎価格とする方法(積算法)も適用されています。 もちろん、家賃の試算の際にはこのような方法だけでなく、近隣相場や近隣の賃貸事例が重要な役割を果たします(これらを基に試算する方法が賃貸事例比較法です)。これらの資料によるだけでは家賃算定の内訳まで把握することはできませんが、市場における成約事例や募集事例の金額には建物敷地の地代相当額も反映されていると考えることが、今まで述べてきた家賃の捉え方とも整合し合理的といえます。 (了)

#No. 578(掲載号)
#黒沢 泰
2024/07/18

《税理士のための》登記情報分析術 【第14回】「登記事項等に関する改正」~海外居住者の国内連絡先の登記~

《税理士のための》 登記情報分析術 【第14回】 「登記事項等に関する改正」 ~海外居住者の国内連絡先の登記~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   本連載【第12回】でも解説をしたが、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題に対応するために行われた民法等の一部改正により、不動産登記法等も改正され、令和6年4月1日から新しい登記事項が加わるなどの改正が行われた。今回は改正内容のうち、「海外居住者の国内連絡先の登記」について解説を行う。   1 国内連絡先を登記する意義 海外居住者が日本国内の不動産を購入する事例が増えているが、管理上の問題が生じた場合に海外居住者には連絡が取りにくい点が問題視されていた。そこで、海外居住者が不動産の所有権を取得する場合には、国内連絡先を登記事項とすることで、連絡が付きやすい状態を創出しようとしている(不動産登記法73条の2第1項2号)。 国内連絡先として登記すべき事項は次のとおりである。 (1) 国内連絡先となる者が自然人である場合 ①と②のいずれかを登記する。 【国内連絡先の登記記録例(自然人)】 (2) 国内連絡先となる者が「会社法人等番号」を有する法人である場合 ①と②のいずれかを登記する。 【国内連絡先の登記記録例(法人)】 (3) 国内連絡先となる者がない場合 なお、国内連絡先となる者がないときは、その旨を登記することも認められている。 【国内連絡先となる者がない場合の登記記録例】 所有者が国内から海外に住所を移転させた場合にも、国内連絡先の登記は必要となるとされており、今後ますます国際化が進むことを考えると身近な登記制度となるだろう。   2 国内連絡先の登記に必要となる添付書面 国内連絡先の登記をするにあたっては、国内連絡先とされた住所等が正しいことを証明するために国内連絡先となる者の印鑑証明書等の添付が必要となるほか、国内連絡先となる者の承諾書(実印押印)を添付することとされている。国内連絡先となる者がないときは、所有者となる者が作成した上申書を添付することになる。   3 国内連絡先となることについて 国内連絡先となる者には、不動産関連事業者や司法書士等が就任することが想定されている。国内連絡先として登記されることで、どのような業務が発生しうるのか、トラブルが起こりえるのかなどについては、今後事例が積み重なっていくなかで明らかになると思われる。税理士の顧問先にも海外居住者は少なくないであろうが、税理士が国内連絡先となることを依頼された場合には、その可否について慎重に検討したうえで判断したほうがよいだろう。 (了)

#No. 578(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/07/18
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