〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年9月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年9月1日から9月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 企業価値関係 経済産業省の「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」が「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」と「価値協創ガイダンス2.0」を公表している。 「サステナビリティ・トランスフォーメーション」(SX)の実践の重要性及びSXの実現に向けた具体的な取組、ガイダンスについて述べている。 Ⅲ 人的資本関係 内閣官房の非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」を公表している。 指針は、特に人的資本に関する資本市場への情報開示の在り方に焦点を当てており、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について包括的に整理した手引きである。 Ⅳ 人権尊重のためのガイドライン関係 日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定している。 欧米を中心に人権尊重を理由とする法規制の導入が進み、企業として取組の強化も求められていることもあり、わが国において、サプライチェーンにおける人権尊重の取組に関する業種横断的なガイドラインを作成するものである。 Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務以外の項目)の仮公表(内容:非保証業務以外に関する項目を対象にして、改正倫理規則の適用上の留意点を示す) ② 倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務等に関する項目)(公開草案)(内容:非保証業務等に関する項目を対象にして、改正倫理規則の適用上の留意点を示す) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第31回】 「ハラスメントの懲戒処分の勘所」 弁護士 柳田 忍 【Question】 ハラスメント事案の行為者に対して、懲戒処分を科すべきか否か、懲戒処分を科すべきとしてどの種類の懲戒処分を科すべきかについて、判断に迷うことがよくありますが、判断のポイントなどはありますか。 【Answer】 懲戒処分を実施するべきか否かや、いかなる種類の懲戒処分を科すべきかは、非違行為が犯罪行為に該当するなど重大なものか、行為者に対して事前に注意・指導を行うなどして改善の機会を与えたか等の基準に照らして判断することがポイントになります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 ハラスメントと懲戒処分 懲戒処分とは、企業秩序に違反した労働者に対して科される制裁罰であり、使用者が一方的に行うものである。懲戒処分の行使が認められるためには、労働契約法上の根拠が必要であり、労働協約や個別の労働契約、就業規則等に懲戒の種別及び事由を定めておく必要がある。 また、懲戒処分を行うためには、労働者の非違行為が就業規則等に定めた懲戒事由に該当し、かつ、懲戒処分が対象労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければならない(労働契約法15条)。 ハラスメント防止措置の一環として、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定することが求められているため、多くの企業の就業規則等において、各種ハラスメントは懲戒事由として定められているものと思われる。 問題は、ハラスメント行為が懲戒事由に該当するとしても、懲戒処分に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かという観点から、懲戒処分を行ってもよいものか、懲戒処分を行うとしてもどの種類の懲戒処分を行うべきか、という点である。 非違行為に照らして懲戒処分が重すぎる場合は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、懲戒処分が無効になる。一方、非違行為に照らして懲戒処分が軽い場合には、基本的にはその処分の有効性が争われることはなく、また、仮に争われたとしても、当該懲戒処分の有効性は否定されないであろうが、今後の同種事案の懲戒処分に影響を与えるおそれがある。すなわち、懲戒処分の規定は従業員に公平に適用されなければならず、同種事案には同程度の懲戒処分が科されなければならないという原則があり、同種事案に照らして不当に重い処分は無効となる可能性があるのである。 よって、下手に軽い懲戒処分を行うと、今後、同種事案の行為者に対して重い懲戒処分を科すことが困難となる可能性があるので、懲戒処分を行う際には、重すぎず、軽すぎないよう、慎重な判断が必要となる。 2 懲戒処分を実施するか否かの判断基準 まず、そもそも懲戒処分を実施するべきか否かで判断に迷うことも多いであろうが、以下の全てないし多くを満たす場合は、懲戒処分を実施しないという判断も合理的ではないかと思われる。 上記①については、ある言動がハラスメントに該当するか否かは、当事者の関係、当該言動がなされた状況、当該言動の態様等、様々な要素を考慮して判断されるものであり、ある言動がハラスメントに該当するか否かを決めることは簡単ではないことが多い。しかし、例えば、殴る、蹴る、物を投げつけるといった有形力の行使、「クビにしてやる」、「死ね」といった暴言、相手に性行為を強要する行為、女性の胸や臀部などを触る行為などは、どのような状況でなされたとしても問題になる可能性が高いであろうことに異論はないであろう。このような言動がなされたか否かが、まずは、懲戒処分を行うべきか否かの判断基準となり得る。 上記②については、事前に改善の機会が与えられた(が改善せず、再びハラスメント行為に及んだ)か否かが懲戒処分の有効性を判断する要素となり得るため、行為者が過去にハラスメント行為に及んで注意・指導等を受けたか否かも、懲戒処分を行うべきか否かの判断基準となり得る。 上記⑦については、被害者が精神疾患等を発症したか否かはあくまで結果に過ぎないことではあるし、ハラスメント(だけ)が原因で精神疾患等を発症したかも定かではない場合もある。しかし、被害者がハラスメントを受けたタイミングで精神疾患等を発症した場合、当該精神疾患等はハラスメントに起因すると推測されることが一般的であるし、精神疾患等を発症するほどのハラスメントが行われたことの推測が働くため、懲戒処分を行うべきか否かの判断基準となり得る。 上記⑧について、行為者が業務過多のストレス等によりハラスメント行為に及ぶケースがよく見られる。この場合は、ハラスメントの責任は会社側にもあると評価することも可能であり、必ずしも行為者のみを責められない場合もあろうことから、行為者を懲戒処分の対象としないという判断もあり得る。 上記⑨については、主に、被害者の勤務態度が著しく悪かったり、行為者を挑発したりしたため、行為者がかっとなってハラスメント行為に及んだ場合などが考えられる。被害者側に非があるからといって、ハラスメント行為が認められなくなるわけではないが、行為者に制裁を科すべきかという観点からは、考慮に入れる余地がある。 3 懲戒処分の種類を決める判断基準 一般に、軽い順から、譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇といった種類の懲戒処分を規定しているケースが多いものと思われるが、懲戒処分をするべきであると判断した場合、譴責・減給といった比較的軽めの処分にするか、出勤停止といった比較的重めの処分にするか、懲戒解雇という最も厳しい処分にするかで迷うこともあろう。この場合の判断基準は以下のとおりである。 まず、懲戒解雇は労働者にとって死刑宣告に等しいとも言われる厳しい処分であるから、これを行うことができるのは限られた場合となる。例えば、非違行為が、殴る、蹴るといった暴行罪(刑法208条)・傷害罪(同204条)、脅すといった脅迫罪(同222条)、性行為を強要するといった強制性交等罪(同177条)、暴行又は脅迫を用いて体に触るといった強制わいせつ罪(同176条)等、犯罪行為に該当する場合には懲戒解雇処分とすることに客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性が認められることが多いであろう。 また、上記のとおり、事前に改善の機会が与えられた(が改善せず、再びハラスメント行為に及んだ)か否かは懲戒処分の有効性を判断する重要な要素となり得るところ、特に懲戒解雇のような重い処分については、事前に改善の機会が与えられていない場合は、無効となる可能性が高い(T大学事件(東京地判平成27年9月25日労経速2260号13頁)は、行為者と被害者が少なくとも外面的には良好な人間関係を保っており、行為者の言動により被害者が深刻な被害感情を持っていることに行為者が思い至らなかったとしてもやむを得ないこと等からすると、より軽い処分を経て改善・更生の機会を与えないまま、大きな経済的損失を伴う停職処分を科したことは社会通念上相当性を欠く旨判示し、2ヶ月の停職処分を無効とした)。 よって、基本的には、過去に注意・指導や懲戒処分を受けて改善の機会を与えられた場合でなければ、懲戒解雇を選択するべきではないということになる(もっとも、犯罪行為のような、改善の機会を与えられるまでもなく悪質であることが明らかな非違行為については、改善の機会が与えられていなくても、懲戒解雇が有効になる余地がある)。 一方、出勤停止については、出勤停止処分の期間中は無給となるため、その期間次第では労働者に大きな不利益を与えるものとなり、労働者から処分無効の主張がなされるリスクが高いものであるから、譴責・減給とするか、出勤停止とするかについても慎重な判断が必要となる。原則として、事前の注意・指導等がない非違行為については、出勤停止処分を科さないことが安全であるといえよう。 (了)
《編集部レポート》 第48回日税連公開研究討論会が東京で開催 ~3年ぶりの会場開催、ライブ配信とのハイブリット化も実現~ Profession Journal 編集部 2022年10月7日(金)、日本税理士会連合会(神津信一会長)は、第48回日税連公開研究討論会を開催した。 昨年は新型コロナウイルスの影響を受けライブ配信のみでの実施となったが、本年は来場者全員に抗原検査キットを配布するなど徹底した感染対策の下、3年ぶりに会場での開催となった。また、同時にライブ配信も行うことで、遠方からも視聴可能なハイブリット化を実現した。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 今回の担当は、東京税理士会が第一部テーマ「税制の歪みを糺(ただ)す」、第二部テーマ「人生100年時代における資産形成と税制のあり方」というテーマで発表を行った。 当日は全国から税理士が集い、研究発表の成果へ熱心に耳を傾け、来賓として小池百合子東京都知事が来場、冒頭に祝辞を述べられたほか、河野太郎デジタル大臣からもビデオメッセージが届いた。 当日の研究発表の模様は、後日、日税連HP(会員専用ページ)から視聴できる。 (東京会の発表の様子) (了)
《速報解説》 国税庁、副業収入等の「雑所得」の範囲を明確化する改正通達を公表 ~本業・副業による判定ではなく「帳簿書類の保存の有無」で所得区分を判定~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和4年10月7日、国税庁は、雑所得の範囲について明確化を図る趣旨で、「「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」を公表した。 本改正は、令和4年8月に募集したパブリックコメントの結果を受け、当初の改正案を一部修正した内容となっている。 なお、改正の趣旨及びパブリックコメント募集時の改正案の概要等については、下記拙稿をご参照いただきたい。 【1】 パブリックコメントの実施結果 令和4年8月1日から31日まで実施された本改正に対するパブリックコメントの募集には、7,059通もの意見が提出された。 意見の内容を集約すると、次の6つに区分される。提出された主な意見を記載する。 (注) パブリックコメントの結果及び意見の詳細については、「「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について」における「意見公募の結果について」をご参照いただきたい。 【2】 パブリックコメントを踏まえた改正通達の内容 パブリックコメントにおける意見を踏まえ、最終の改正通達は、当初の改正案から一部修正されたものとなっている。 (注) アンダーラインを付した部分が修正部分であり、強調部分は筆者による。 上記の表のとおり、修正前は、「副業、かつ、収入金額300万円以下の場合には、反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱う」とされていたが、修正後(公表された改正通達)は、本業・副業による判定ではなく、「帳簿書類の保存の有無」で所得区分を判定することとされた。 参考までに、国税庁から公表されている「パブリックコメントからの変更点」を引用する。 〈パブリックコメントからの変更点〉 【3】 適用時期 【1】に示したように、適用時期を遅らせるべきとの意見も提出されているが、所得区分は確定申告書の提出時期に判断するものであることから、遡及適用には当たらないこと、また、そもそも事業所得者には記帳・帳簿書類の保存が義務付けられているので、納税者に影響を及ぼすとは考えられないことから、当初の予定どおり、改正後の取扱いは令和4年分以後の所得税について適用される。 【4】 注意点 改正後の通達では、事業所得と業務に係る雑所得の区分については、過去の判例(※)に基づいて社会通念で判定することが原則である。 (※) 最大判昭和56年4月24日、東京地判昭和48年7月18日。 取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、社会通念での判定において事業所得に区分されると考えられるが、取引を記録した帳簿書類を保存している場合であっても、次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することになる。 (了)
《速報解説》 株主総会資料の電子提供制度に関する「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」がパブコメに ~株主に交付する書面に記載することを要しない事項について改正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和4(2022)年10月7日、法務省は、「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 株主総会資料の電子提供制度が2022年9月1日に施行されている。同制度では、株主は、電子提供措置の対象となる事項を記載した書面の交付を請求することができるとされている(会社法325条の5第1項)。 一方、電子提供措置の対象となる事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部については、交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができるとされている(会社法325条の5第3項)。 省令案は、この電子提供制度における書面交付請求をした株主に交付する書面(以下「電子提供措置事項記載書面」という)に記載することを要しない事項に関して改正するものである。そのほか、いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象事項についても同様の見直しを行い、また、形式的整備を含む所要の改正も行っている。 意見募集期間は2022年11月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正の内容 1 電子提供措置事項記載書面に記載することを要しない事項 事業報告に記載又は記録すべき事項のうち役員の責任限定契約に関する事項、事業の経過及びその成果、対処すべき課題、補償契約に関する事項及び役員等賠償責任保険契約に関する事項、貸借対照表及び損益計算書に記載又は記録すべき事項並びに連結貸借対照表及び連結損益計算書に記載又は記録すべき事項を、電子提供措置事項記載書面に記載することを要しない事項とする(会社法施行規則95条の4第1項2号~4号)。 2 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度についても、上記1に掲げる事項と同様の事項について、インターネット上のウェブサイトに掲載し、そのウェブサイトのURL等を株主に通知すれば、当該事項に係る情報が株主に提供されたものとみなすものとする(会社法施行規則133条、会社計算規則133条)。 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の特例措置に関する経過措置の規定を削除する(「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(令和3年法務省令第45号)附則2条ただし書)。 Ⅲ 施行期日 公布の日から施行する予定である。 ただし、いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正規定は、令和5年3月1日から施行することを予定している。 (了)
《速報解説》 会計士協会が研究報告として「フォレンジック業務に関する研究」を公表 ~リスクの概要、必要な能力・知見等、業務支援事例等を切り口に取りまとめる~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2022年9月14日の常務理事会の承認を受けて、経営研究調査会研究報告第69号「フォレンジック業務に関する研究」を、同月30日に公表した。 この研究報告は、フォレンジック業務を行う会計事務所等の実務及び業務開発に資するため、改めて整理を行い、主に「リスクの概要」「必要な能力・知見等」「業務支援事例」といった切り口から取りまとめを行ったものであると紹介されている。 本稿では、公表された研究報告の概要を紹介することとしたい。 1 目次 研究報告は61ページに及んでおり、目次の大項目は以下のとおりである。 研究報告では、「フォレンジック業務の全体像」を最初に定義したうえで、フォレンジック業務が必要とされるリスクを、「不正・不祥事リスク」「国際法規制違反リスク」「契約違反リスク」「訴訟リスク」及び「関連業務情報漏えいリスク」の5類型に分類し、「国際法規制違反リスク」以外のそれぞれの類型について、「リスクの概要」「業務に必要な主な能力・知見等」及び「主な業務支援事例」を解説する内容となっている。 また、「国際法規制違反リスク」については、その内容を「贈収賄法関連法規制」「競争法関連法規制」及び「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与防止関連法規制」の3種類の規制に分類して、それぞれの規制について、「リスクの概要」「業務に必要な主な能力・知見等」及び「主な業務支援事例」を解説している。 2 研究報告の目的とフォレンジック業務における注意点 (1) 研究報告の目的 会計事務所等によるフォレンジック業務は、我が国では 2003年頃より開始され、特に不正調査を行う公認会計士は、不正調査にとどまらず、不正による影響の大きさを評価し、損害額を試算し、訴訟や保険請求等を含むその後の是正措置の戦略策定をサポートすることまで広範な範囲の業務を行ってきている。 研究報告は、こうした経験や知見を有した委員らがこれまでの経験や、海外のメンバーファームの経験も参考に、会計事務所等が実施するフォレンジック業務について、実務事例をできる限り交え改めて整理を行うこととし、今後フォレンジック業務を行う会計事務所等の実務及び業務開発に資することを目的としている。 (2) フォレンジック業務における注意点 研究報告では、会計事務所等が、フォレンジック業務を行う場合において倫理面で特に注意が必要な点として、「誠実性」「客観性・独立性等」「職業的専門家としての能力及び正当な注意」「守秘義務」及び「職業的専門家としての行動」の5項目を挙げている。 この中では、フォレンジック業務における会計事務所等の職業的専門家として必要な能力として、「主に対象業界・企業等及び事業の特徴や特殊性の理解、会計・税務、内部統制や業務フロー、不正調査アプローチと調査手法、損害額や影響額の算定、組織的業務の実施、更には業務の効果的実施に対する経験と専門的知識など」を列挙していることを取り上げておきたい。こうした能力と知見は、5つの類型に分類したリスクについてのフォレンジック業務を行ううえで、ベースとなるものであることは言うまでもない。 3 フォレンジック業務の全体像 研究報告では、経営研究調査会研究報告第51号「不正調査ガイドライン」における不正調査技術を引用する形で、次のようにフォレンジック業務の全体像をまとめている。 前出の「不正調査ガイドライン」における「仮説検証のための主な調査手続」では、上記の4項目に加えて、「(5) 反面調査」と「(6) 不正調査の調査手続と調査範囲」という項目が説明されていることを附記しておく。 4 不正・不祥事リスク(Fraud and Misconduct Risks)関連業務 研究報告の具体的内容について、5類型に分類されたリスク関連業務のうち、会計事務所等によるフォレンジック業務の中心であると考える「不正・不祥事リスク関連業務」に関する解説を見ておきたい。 (1) リスクの概要 研究報告では、「コンプライアンス意識の高まりにより、不正・不祥事に対する企業等の対応そのものがその後の企業等の存続を左右することもある」としたうえで、具体的には、企業等で会社資産の横領が発覚した場合には、企業等は直接・間接に金銭的な被害を受けることになり、その金額が高額となれば、事業に影響を及ぼすことになるし、金額的には事業に著しい影響がない場合であっても、不正・不祥事の発生が表ざたになることで、企業等の管理体制が問われ社会的信頼が失墜し、企業価値が毀損してしまうことが考えられるとそのリスクを説明している。 そのうえで、フォレンジックチームによる不正・不祥事リスク関連業務は、企業等が直面する不正・不祥事リスクの予防及び発見、調査及び是正措置の一部又は全部として実施することになるとしている。 (2) 業務に必要な主な能力・知見等 研究報告では、不正・不祥事リスク関連業務に必要な主な能力・知見等として、次の3項目を挙げている。 「会計不正の特性の理解」では、会計不正の予防及び発見、調査及び是正措置の策定にあたっては、不正の手口を正しく理解することが必要であり、とくに不正調査では、十分な証拠による裏付けが必要であることは言うまでもないが、会計不正を調査する過程では、会計不正が発生していないことの検討も試みるべきであると説明されている。 (3) 主な業務支援事例 研究報告では、不正・不祥事リスク関連業務における「主な業務支援事例」として、次の7つの事例が報告されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2022年10月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.489を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.117- 「どうなる「財源三兄弟」」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 霞が関で「財源三兄弟」と呼ばれている課題がある。「こども政策」、「GX(グリーントランスフォーメーション)」、「防衛費」の3つである。いずれも、相当規模の予算措置が必要な政策・事業で、財源をどう調達するのかという共通の問題がある。 * * * 「こども政策」は「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針2022)で、「社会全体での費用負担の在り方を含め幅広く検討」とされた。既存の社会保険料に上乗せするアイデアや、かつて小泉進次郎氏が担いだ「こども保険」などのアイデアが出始めている。しかし、社会保険料を引き上げるという考え方に対しては、「税に代わる安易な財源の調達手段」という強い批判が予想され、年末までの合意形成は容易ではない。 次にGX(グリーントランスフォーメーション)だ。政府はすでに10年間で20兆円の政府投資について、「財源の裏付けを確実に確保すること」を条件にコミットしており、GX経済移行債(仮称)という名称の「つなぎ国債」が検討されている。 つなぎ国債というのは、「将来の財源」の確保を前提に出す国債なので、「将来の財源」をあらかじめ決めておく必要がある。経産省は、炭素税、排出量取引などのカーボンプライシングの導入や、再生可能エネルギー発電促進賦課金(FIT、固定価格買取制度)の見直し(上乗せ)などの議論を行っている。しかし、経済界や家計の負担増につながる20兆円もの財源を、短期間で合意することができるのかという疑問がある。 最後は「防衛費」で、これが最大の課題だ。ロシアのウクライナ侵攻を契機にわが国をとりまく安全保障環境が激変した。世論も一気に、防衛費を増やさなければ、という流れになった。岸田首相は5月の日米首脳会談で日本の防衛力の抜本的な強化を表明し、自民党は、7月の参院選で、「NATO(北大西洋条約機構)諸国の国防予算の対 GDP 比目標(2%以上)を念頭に5年以内での防衛費増を目指す」と公約した。 現在わが国の防衛費は5.4兆円(GDP比1%)だが、NATO基準では、海上保安庁の予算なども含むので、わが国の防衛費は1.24%になる。それを5年間で2%に増やすというと、単純計算で毎年7、8,000億円ほど増額する必要がある。 政府は有識者会議を立ち上げ、「必要となる防衛力の内容」、「予算規模」、「財源」の3つの論点の議論を始めた。 近代国家の戦費調達の歴史を振り返ると、1799年に英国はナポレオン戦争の戦費調達のために世界最初の所得税が導入され、1914年の第一次世界大戦時に本格的な所得税となった。米国でも1814年対イギリス戦争のため所得税が提案され、その後南北戦争で導入された。わが国でも所得税法が誕生したのは、富国強兵による国力増強のための1887年である。戦費調達は、広く国民が負担すべき費用という考え方の下で所得税を財源としてきた。 防衛は、その対価を払わなくてもサービスを受けることができる公共財で、その受益は広く個人や企業に及んでいる。全員が「受益」している公共サービスである。その費用は個人や法人など幅広い主体が「会費」として公平に負担すべきものではないか。これは財政論というより、哲学の問題である。増税が経済に与える影響を緩和するため、負担を「薄く・長く」するような工夫は必要だろう。 2011年の東日本大震災の復旧・復興についてその財源は、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うことを基本とする」として長期にわたる付加税としたことを思い出したい。 現下の状況に鑑みると、防衛費の増強は必要だろう。防衛費というブラックボックスの中身を国民に分かりやすく示しつつ、わが国の経済・財政の身の丈にあった規模を議論してほしい。 * * * 以上、岸田政権は、支持率が低下する中、大変な予算編成作業が待っている。英国のように、財政リスクをまき散らし市場の信頼を失うようなことのないような対応をお願いしたい。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第2回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 第1章 暗号資産の税務と課税問題 第1節 暗号資産とは 1 暗号資産の定義 暗号資産には、例えば、次のような特徴がある。 法律上は、資金決済法に暗号資産の細かい定義が設けられている。 同法2条5項1号の暗号資産は、「1号暗号資産」、同項2号の暗号資産は「2号暗号資産」と呼ばれている。 資金決済法において暗号資産とは次のものである。ただし、金融商品取引法2条3項の電子記録移転権利を表示するものを除く。 1号暗号資産及び2号暗号資産該当性の判断に当たり、例えば次の点が考慮される(金融庁・事務ガイドライン「第三分冊:金融会社関係 16 暗号資産交換業者関係」Ⅰ-1-1) 2号暗号資産の補足として、金融庁は、「2号暗号資産について1号暗号資産と『同等の経済的機能を有するか』との基準を設けるべきではない。同等の経済的機能とならないような制限を加えることで、資金決済法に基づく規制の対象外になりかねない。」という意見に対して、次のとおり回答している(令和元年9月3日金融庁「コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」回答No.4)。 ここでは、2号暗号資産該当性を判断する際に、決済手段等の経済的機能を有しているか否かという観点を重視していることが注目される。 暗号資産からは、通貨建資産が除かれている。 通貨建資産とは、本邦通貨や外国通貨をもって表示され、又はこれらをもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものが行われることとされている資産である。通貨建資産をもって債務の履行等が行われることとされている資産は、通貨建資産とみなされる(決済2⑥)。 通貨建資産の該当性に関して、本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものであることを判断するに当たり、発行者及びその関係者と利用者との間の契約等により、当該発行者等が当該利用者に対して法定通貨をもって払い戻す等の義務を負っているかなどの点が考慮される(金融庁・事務ガイドライン「第三分冊:金融会社関係 16 暗号資産交換業者関係」Ⅰ-1-1)。 なお、令和4年6月3日に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」において、資金決済法の暗号資産の定義規定は次のとおり改められた。 2 通貨該当性・強制通用力の有無 暗号資産は、法定通貨ではないが支払手段として使うことができる(ただし、暗号資産での支払を受け入れてくれる店舗等は限られている)。 それでは、通貨とは何か。 通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律(通貨法)等によれば、次のことがいえる。 民法は、次のとおり定めている。 ここでいう通貨とは、「強制通用力ある貨幣の意味であり、強制通用力の有無とは、この効力を有する範囲の貨幣をもってする弁済は本旨に従う弁済になるという意味」であると解されている(我妻栄『新訂債権総論』37頁(岩波書店1964))。 すなわち、この場合の強制通用力とは、法律上、支払手段として通用する効力であり、金銭債務の債務者が弁済に用いたときに、債権者が弁済の受領を拒むことができず、当然にその弁済が有効となる効力である(法令用語研究会編『法律用語辞典〔第4版〕』228頁(有斐閣2012)、末廣裕亮「仮想通貨の法的性質」法教449号52頁参照)。 また、私法上の「金銭」は、各種の「通貨」であり、各種の「法貨」であるという見解がある。すなわち、「金銭=通貨=法貨」という関係が成り立つという(片岡義広「ビットコイン等のいわゆる仮想通貨に関する法的諸問題についての試論」金融法務事情1998号31頁以下参照)。 いずれにしても、暗号資産は上記通貨法でいうところの通貨には該当しない。 暗号資産が法定通貨ではなく、強制通用力を有していない以上、暗号資産による支払は、相手方との合意がない限り、債務の弁済の提供(民493)にはならない。 上記の観点とは別に、通貨の3大機能との関係を確認しておく。 暗号資産は、価値の交換手段として、実際に一部の店舗等で使用可能であることをもって交換手段としての機能を有するという見方もあれば、法定通貨と比較していまだその機能は十分なものとはいえないという見方もある。 ある商品の値段が1BTCと表示され、その商品が1BTCの価値があることを示しているのであれば、暗号資産であるBTCは価値尺度としての機能を有するという見方もあれば、実際には、商品の値段をBTCという単位で認識されることは少なく、結局、価値尺度としては法定通貨が使われており、法定通貨と比較していまだその機能は十分なものとはいえないという見方もある。 価格の安定化が図られている暗号資産は、価値保蔵の手段として機能しているという見方もあれば、それ以外の暗号資産は、ボラティリティ(価格の変動幅)が高いので、価値保蔵の手段としては機能していないという見方もある。 このように、上記の通貨の3大機能について、一部の暗号資産は一定の機能を有しているが、それは必ずしも十分なものではないという見方がありうる。 (了)