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《速報解説》 会計士協会、「合意された手続業務に関する実務指針」及びQ&Aの改正を確定~適用は2022年1月1日以降~

《速報解説》 会計士協会、「合意された手続業務に関する実務指針」及びQ&Aの改正を確定 ~適用は2022年1月1日以降~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月15日付けで(ホームページ掲載日は2021年11月19日)、日本公認会計士協会は、次のものの改正を公表した。 これにより、2021年4月30日から6月30日までの間及び2021年10月1日から11月1日までの間に意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられたコメントに対する対応も公表されている。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)「国際関連サービス基準(ISRS)4400「Agreed-Upon Procedures Engagements」」(2020年4月3日)の公表に伴うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」 合意された手続業務では、業務依頼者が実施される手続を業務の目的に照らして適切であると認めた場合に、業務実施者が、業務実施者と業務依頼者が合意した手続を実施する(6項)。 合意された手続業務は、監査業務、レビュー業務又は監査及びレビュー業務以外の保証業務ではない(8項)。 合意された手続業務では、いかなる場合でも、業務実施者が意見又は保証の結論を表明することを目的として、証拠を入手することはない(8項)。 主な改正点は次のとおりである。 1 合意された手続業務における職業的専門家としての判断の明瞭化 業務実施者は、業務の状況を考慮して、合意された手続業務の契約の新規の締結及び更新、並びに実施及び報告において職業的専門家としての判断を行使しなければならない(19項)。 2 独立性に関する事項 独立性が要求されていない合意された手続業務についても、実施結果報告書において独立性に関する記載を行う(独立性の保持が要求されていない旨の記載。33項(12))。 3 「合意された手続実施結果報告書の目的」に関する見出しの追加 合意された手続業務(契約)の目的の明瞭化のため、改正版専門実4400では、実施結果報告書に「合意された手続実施結果報告書の目的」に関する見出しが追加されている。 4 実施結果報告書の配布及び利用制限 改正版専門実4400では、関係者のみに実施結果報告書を配布及び利用する旨の要求事項はない。 配布及び利用制限については、業務実施者の判断に基づいて決定する。   Ⅲ 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に係るQ&A 1 職業的専門家としての判断について(Q4) 合意された手続業務に関して、業務実施者は職業的専門家としての判断が求められる。 業務実施者は、業務の状況を考慮して、合意された手続業務の契約の新規の締結及び更新、並びに実施及び報告において職業的専門家としての判断を行使しなければならない(専門実4400第19項)。 2 独立性(Q8) 専門実4400に基づく合意された手続業務において、法令又は契約条件に基づく場合を除いて、業務実施者の独立性は求められていない。 しかしながら、各国の倫理規程、法令、その他の職業的専門家としての要求事項又は合意された手続業務の業務対象に関する契約、プログラムもしくは取決めにより、独立性に関する要求事項が規定される場合がある(専門実4400のA14項)とし、独立性に関して詳細に記載している。 3 合意された手続及びその手続実施結果の記載(Q11) 合意された手続及び手続の実施結果の記載に関する留意事項として、合意された手続業務の契約を締結する条件として、合意された手続及びその手続実施結果は、明確で、誤解を招かず、かつ、様々な解釈が生じない方法で、客観的に記述することが求められている(専門実4400第23項(3))とし、「手続実施結果の適切な記載」と「手続実施結果の不適切な記載」の例を示しつつ、詳細に記載している。   Ⅳ 適用時期等 2022年1月1日以降に契約を締結する合意された手続業務に適用する。 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/19

《速報解説》 会計士協会が「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」のQ&A改正の公開草案を公表~リモートワークの定着化及び顕在化した課題への対応等について新たに記載~

《速報解説》 会計士協会が「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」の Q&A改正の公開草案を公表 ~リモートワークの定着化及び顕在化した課題への対応等について新たに記載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年11月17日、日本公認会計士協会は、「IT委員会研究報告第34 号「IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」Q&A」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、リモートワークの定着化及び顕在化した課題への対応等について述べたものである。 意見募集期間は2021年12月17日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ リモートワーク関連技術・対策のQAの追加など 1 電子データ授受に関する方針を定める上での留意点(Q22) 電子データ授受に関する方針を定める上での留意点を追加し、主に次の事項を記載している(Q22)。 2 リモート会議の実施に対する主なリスクの例示(Q35) リモート会議の実施に対する主なリスクの例示を追加している(Q35)。 例えば、次の事項である。 3 リモートワークの導入に当たってのセキュリティ対策(Q36) リモートワークの普及に伴い、総務省から、リモートワークの導入に当たってのセキュリティ対策についての考え方や対策例を示した「テレワークセキュリティガイドライン」が公表されている(Q36)。   Ⅲ リスクアセスメントの例示の更新 「付録2:業務の局面におけるリスクとリスク対応例」を更新している。   Ⅳ 予防のみならず被害を受ける前提の早期検知・対策(Q7、27) 近年のサイバーセキュリティ攻撃は巧妙になってきており、これを予防的に防ぎきることは難しくなってきている。このため、早期の検知を行えるような組織やシステム運用上の仕組みを導入することや、影響の特定早期化や対応の早期化など被害の最小化につながる取り組みを行っていくことも大事であるとしている(Q7)。 また、サイバー攻撃等のインシデントが発生したことを想定し、外部業者等セキュリティに関して相談できる窓口等について事前に確認したり、セキュリティベンダー等に日頃の対策について意見を求めたりするなどの対応が有効と考えられるとしている(Q27)。   Ⅴ クラウドサービス等外部委託先を利用することを前提とした記載の強化(Q9、11、12) 業務の実行やIT機能は外部に移転することが可能だが、説明責任は移転することができないことから、外部にどのような作業や業務を委託するのかによって、扱う情報も異なることを前提にリスクに応じた対策を行うことが肝要であるとしている(Q9)。 そのほか、Q11、Q12についても改正している。   Ⅵ PC等からの情報漏洩を避ける日常的な防止策の例示の追加(Q25) 重要な情報を取り扱うファイルサーバや仮想デスクトップ等の場合は、ディスク障害や保守メンテナンス時に重要なデータが保存されたHD、SSDを返却せずに、自社で保管又は処分が可能な「ディスク返却不要オプション」を用意している機器ベンダーもあるので、自社で情報漏洩のリスクを完全にコントロールできるサービスがあれば積極的に検討することが望ましいなどの記載が行われている(Q25)。 (了)

#No. 445(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/19

プロフェッションジャーナル No.445が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年11月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.445を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/11/18

日本の企業税制 【第97回】「OECDが国際課税の枠組みの見直しに関する解決策について合意」

日本の企業税制 【第97回】 「OECDが国際課税の枠組みの見直しに関する解決策について合意」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   OECDの「BEPS包摂的枠組み」加盟国は、10月8日、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する2つの柱の解決策に関する声明」及び「詳細な実施計画」を発表した。 これは、国際課税ルールを21世紀にふさわしいものにするための長年にわたる精力的な交渉を経て、「BEPS包摂的枠組み」加盟国である140の国・地域のうちケニア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカの4ヶ国を除く136の国・地域が合意して取りまとめられたものである。今回の合意には、今年7月の「BEPS包摂的枠組み」加盟国間での大枠合意に参加していなかったエストニア、ハンガリー、アイルランドも含まれている。 10月末のG20ローマ・サミットの議論の総括として発表された首脳宣言では、次のように触れられている。 今回の合意の具体的な内容の概要は次の通りである。   〇第1の柱 第1の柱は、最大規模の多国籍企業に関して、各国間の利益と課税権のより公平な配分を確保するもので、物理的拠点の有無にかかわらず多国籍企業が事業活動を行い利益を得ている市場へ再配分する仕組みである。 具体的には、課税対象は、全世界売上が200億ユーロ(約2.6兆円)超、かつ、利益率が10%超の多国籍企業(ただし、この売上閾値を満たすセグメントがある場合には、例外的にセグメント単位で課税する場合がある)とし、その売上の10%を超える超過利益の25%を売上等に応じてネクサス(課税根拠)を有する市場国に配分することとしている。ネクサスの有無の判定については、その市場国で100万ユーロ(約1.3億円)の売上があるかどうかで決まる。ただし、GDPが400億ユーロ(約5.2兆円)未満の国は25万ユーロ(約3,250万円)の売上とする。 これにより対象となる約100社の多国籍企業の1,250億米ドル超の利益が世界各国に再配分されるものと見込まれている。なお、売上閾値については条約発効7年後にレビューを行い、円滑な制度の実施を条件として100億ユーロ(約1.3兆円)に引き下げることとしている。 第1の柱を実施するために今後策定する多国間条約において、全ての企業に対する全てのデジタルサービス税等を廃止し、将来にわたり導入しないことを定めることとし、新たに施行されるデジタルサービス税及びその他の関連する類似の税制措置は、2021年10月8日から、2023年12月31日又は多国間条約発効のいずれか早い日まで課されないこととしている。なお、10月21日に、米国とイギリス・フランス・イタリア・スペイン・オーストリアとの間で、第1の柱の制度発行までの間、すでにそれらの国で導入されているデジタルサービス税等の税額を、第1の柱の実施による税額と実質的に同水準にする枠組みの導入を条件として、上記5ヶ国に対する制裁関税の発動を米国が取りやめることを合意した旨公表されている。 なお、この第1の柱に係る多国間条約は2022年中に策定・署名開放され、2023年から実施が始まる予定である。   〇第2の柱 第2の柱では、15%の最低法人税率を導入し、これより低い税負担の国における所得については、親会社のある国で15%との差分について課税されるなどの措置が講じられる。これにより、世界全体で年間約1,500億米ドルの追加税収が発生すると推定されている。 具体的には、第2の柱は次の①~③の措置で構成されている。 なお、上記①と②を併せてGloBE(Global Anti-Base Erosion)ルールと呼ばれている。GloBEルールの対象となるのは、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,000億円)以上(国別報告事項の対象となる企業と同水準)の多国籍企業である。 ただし、①の制度において親会社の所在国で課税する税額は、軽課税国にある各子会社等の所得にその国の実効税率と最低税率の差分を乗じて計算するが、各子会社等の所得に関しては、各子会社等の有形資産(簿価)と支払給与の5%の金額を控除する(カーブアウト)。控除の割合は、導入当初は有形資産(簿価)の8%、支払給与の10%とし、有形資産(簿価)については、当初5年間は0.2%、その後5年間は0.4%の割合で逓減し、支払給与については、当初5年間は0.2%、その後5年間は0.8%の割合で逓減する。 なお、第2の柱については、各国の個別対応となるが、2022年に各国国内法導入後、IIRは2023年、UTPRは2024年に施行開始が念頭に置かれている。 (了)

#No. 445(掲載号)
#小畑 良晴
2021/11/18

〈令和3年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「令和2年分から適用されている改正事項の再確認」

〈令和3年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「令和2年分から適用されている改正事項の再確認」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   連載第2回は、令和2年分から適用されている改正事項について、再確認を行うこととする。 令和2年分の年末調整から適用されている改正事項のうち、主なものは次の6つである。 各改正の概要を以下に示す。なお、改正内容の詳細については、下記の拙稿をご参照いただきたい。   【1】 給与所得控除と公的年金等控除の見直し 給与所得控除の控除額が一律10万円引き下げられ、上限額も195万円に引き下げられた(所法28③)。 公的年金等控除の控除額も一律10万円引き下げられ、上限額が設定された。また、公的年金等以外の所得の合計額が1,000万円を超えると、控除額はさらに10万円又は20万円減額される(所法35④)。   【2】 配偶者、扶養親族等の所得要件の調整 給与所得控除と公的年金等控除の引下げに伴い、扶養親族等の合計所得金額要件の調整が行われた(所法2①三十二~三十四)。 この調整の結果、給与所得控除と公的年金等控除は引き下げられたが、給与又は公的年金等の収入金額ベースでみると改正前後の金額に変更はない。 (例) 扶養親族の所得要件 (※) 65歳未満の場合の金額、65歳以上の場合は158万円以下。   【3】 基礎控除の見直し 給与所得控除額と公的年金等控除額が引き下げられる一方で、基礎控除の控除額は10万円引き上げられた。ただし、合計所得金額が2,400万円を超えると控除額は段階的に引き下げられ、2,500万円を超えると控除額はゼロとなる(所法86①)。 なお、年末調整で基礎控除の適用を受けようとする場合には、その年最後の給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に「基礎控除申告書」を提出する必要がある(所法190二ホ)。   【4】 所得金額調整控除の導入 給与所得控除の引下げ等による改正の影響に対し、子育てや介護に配慮する観点から、また、給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合に負担増が生じないように「所得金額調整控除」が措置された。 所得金額調整控除には、①子ども等を有する場合の調整と②給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整の2つがある(措法41の3の3①②)。 これらの調整はいずれも確定申告で適用されるものであるが、①子ども等を有する場合の調整は、年末調整においても適用を受けることができる(措法41の3の4)。 なお、年末調整で所得金額調整控除の適用を受けようとする場合には、その年最後の給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に「所得金額調整控除申告書」を提出する必要がある(措法41の3の4①②)。   【5】 ひとり親控除の創設と寡婦控除の見直し ひとり親控除の創設により、婚姻歴に関係なくすべてのひとり親が控除の対象となり、男性のひとり親と女性のひとり親は同じ取扱いとなった(所法2①三十一、81)。 また、ひとり親控除の創設に伴い、寡婦の範囲からひとり親が除かれ、すべての寡婦に所得制限が設けられた(所法2①三十)。   【6】 年末調整手続の電子化 年末調整関係書類のすべてが、電子データにより提供できるよう手当された(所法198②)。ただし、住宅借入金等特別控除関係書類については、家屋の居住年が平成31年以後のものに限られる。 年末調整の電子化の最終形は、①従業員等が控除証明書等を電子データで取得し、それを利用して年末調整申告書データを作成、②給与等の支払者が従業員等から➀の提供を受け、年税額の計算を行う(下記パターンD)であるが、パターンAからCまでの部分的な電子化であっても、年末調整業務について一定の効率化を図ることができる。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (出典) 国税庁「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ(令和3年10月改訂版)」4頁。 なお、国税庁ホームページには、「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」が公表されており、年末調整の電子化についての各種パンフレットやFAQも提供されているので参考にされたい。 *  *  * 次回(第3回)は、これらの改正事項の年末調整実務における留意点について、具体例を用いて解説する予定である。 (了)   

#No. 445(掲載号)
#篠藤 敦子
2021/11/18

給与計算の質問箱 【第23回】「年末調整書類の書式の前年からの変更点」

給与計算の質問箱 【第23回】 「年末調整書類の書式の前年からの変更点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 年末調整書類の書式について前年から変更がありましたら教えてください。 A 年末調整書類の書式の変更点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 新たに書類の右上にQRコードが記載された (1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」のQRコードを読み取ると記載例が表示される。「令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」にはQRコードは無い。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」及び「令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」よりそれぞれ抜粋。 (2) 給与所得者の保険料控除申告書 「令和3年分給与所得者の保険料控除申告書」のQRコードを読み取ると、国税庁のサイトの「給与所得者(従業員の方へ)」が表示される。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和3年分給与所得者の保険料控除申告書」より抜粋。 (3) 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書 「令和3年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」のQRコードを読み取ると、国税庁のサイトの「給与所得者(従業員の方へ)」が表示される。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和3年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」より抜粋。   2 押印が不要になり、氏名欄にあった㊞がなくなった 税金、社会保険に関するほとんどの書類は押印不要となったが、引き続き押印が必要な書類は以下のとおりである。 ◎税金関係 ◎労働保険関係 ◎雇用保険関係 ◎健康保険(協会けんぽ)関係 ◎年金関係 (了)

#No. 445(掲載号)
#上前 剛
2021/11/18

相続税の実務問答 【第65回】「中小企業倒産防止共済契約の解約手当金(返戻金)に対する課税関係」

相続税の実務問答 【第65回】 「中小企業倒産防止共済契約の解約手当金(返戻金)に対する課税関係」   税理士 梶野 研二   [答] 中小企業倒産防止共済の契約者であったお父様の死亡により、この共済契約は解約したものとみなされ、解約手当金が支払われることとなりますが、この金額は、お父様の所得税の準確定申告において事業所得の収入金額に算入することになります。 また、相続税の計算においては、解約手当金の支給を受ける権利が本来の相続財産として相続税の課税対象となります。なお、相続税の課税価格の計算上、お父様の準確定申告により納付する所得税額は債務として控除することとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 中小企業倒産防止共済契約 (1) 中小企業倒産防止共済制度の概要 一般に「経営セーフティ共済」といわれている中小企業倒産防止共済は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐため、中小企業倒産防止共済法に基づき国が全額出資する独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する共済制度です。 この共済に加入することができるのは、継続して1年以上事業を行っており、「資本金の額又は出資の総額」及び「常時使用する従業員数」が一定の基準を満たす中小企業者(会社及び個人事業者)及び企業組合や協業組合等の組合です。加入者の取引先事業者が倒産(※1)したことにより売掛金債権等の回収が困難となった場合に、加入者は、無担保・保証人なしで掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで共済金の借入れを受けることができます。 (※1) 倒産とは、取引先事業者に、法的整理、取引停止処分、でんさいネットの取引停止処分、私的整理、災害による不渡り、災害によるでんさいの支払不能、特定非常災害による支払不能のいずれかの事態が生じることをいいます。いわゆる「夜逃げ」は該当しません。 (2) 中小企業倒産防止共済契約が解約された場合 中小企業倒産防止共済契約が解約された場合には、解約手当金(以下「返戻金」といいます)を受け取ることができます。自己都合による解約であっても、掛金を12ヶ月以上納めていれば掛金総額の8割以上が返戻金として戻り、掛金を40ヶ月以上納めていれば、その全額が戻ります(掛金を納めていた期間が12ヶ月未満の場合には、掛捨てとなります)。中小企業倒産防止共済の加入者である個人事業主が死亡した場合には、その時点で共済契約は解約されたものとみなされます(共済法7④)ので、その者が掛金を12ヶ月以上納付していたときには、返戻金が支給されることとなります。 なお、個人事業主が死亡したときに、事業を引き継ぐ相手に共済契約者の地位を引き継ぐこともできます(共済法12)。 中小企業倒産防止共済制度の詳細につきましては、独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページをご確認ください。   2 中小企業倒産防止共済契約に係る課税上の取扱い (1) 掛金の支払時 一般的に、中小企業倒産防止共済契約など長期間にわたり使用・運用される共済契約に係る掛金納付額は、所得税及び法人税の課税上、その支出した日の属する年分又は事業年度分の必要経費又は損金の額に算入することはできません。しかしながら、租税特別措置法第28条第1項又は同法第66条の11第1項の規定を適用することにより、個人又は法人がそれぞれ各年又は各事業年度において支出した中小企業倒産防止共済契約に係る掛金納付額を、それぞれその支出した日の属する年分の事業所得又は支出した日の属する事業年度の所得の金額の計算において必要経費又は損金に計上することができます(以下、この特例を「倒産防止共済特例」といいます)。 なお、この倒産防止共済特例を適用するためには、確定申告書等に必要経費計上又は損金算入に関する明細書の添付が必要となります(措法28②、66の11②)。 (2) 共済契約解約時 共済契約を解約した場合には、解約者に対して返戻金が支給されることとなっています。そして、加入者が倒産防止共済特例を適用した場合には、この返戻金の額を事業所得の総収入金額又は益金の額に算入することが必要となります。 (3) 共済契約者が死亡した場合 倒産防止共済特例を適用していた倒産防止共済契約の契約者が死亡し、共済契約を解約したものとみなされたときには、上記(2)により、所得税の準確定申告において、返戻金の額を事業所得の総収入金額に含める必要があります。そして、相続税の計算においては、契約者が、倒産防止共済特例を適用していたかどうかにかかわらず、返戻金の支給を受ける権利(解約手当金請求権)を相続財産に含めることとなります。なお、被相続人の準確定申告に係る所得税額は債務として相続財産の価額から控除することとなります。 また、倒産防止共済契約の契約者の死亡による共済契約の承継が行われた場合には、みなし解約の場合に支給される返戻金相当額が相続税の課税対象となります。 (注) 相続財産である非上場会社の株式を純資産価額方式で評価する場合において、評価会社が倒産防止共済に加入しているときには、課税時期に同契約を解約した場合に支給される返戻金相当額を資産に計上する必要があります。評価対象株式の発行法人が倒産防止共済特例を適用している場合には、計上漏れが生じるおそれがありますので、注意が必要です。   3 会計検査院の指摘 会計検査院が、倒産防止共済特例の適用に関して実地検査を行い、所得税における返戻金額の収入計上の有無等を確認したところ、相当数の任意解約者の返戻金額の収入計上が適切に行われていないなどの疑義が認められる状況となっていたなどとして、会計検査院法第36条の規定に基づき、令和3年10月11日付文書にて、国税庁長官に対して、所得税の申告における倒産防止共済特例の適用に伴う返戻金額の収入計上に係る審査体制の整備等についての改善の処置を要求しました(※2)。 (※2) 会計検査院法第36条の規定による処置要求の内容については、会計検査院のホームページをご確認ください。 会計検査院の指摘は、所得税に対するものですが、今後、相続税の課税においても、倒産防止共済契約について適正な申告がされているかどうかの確認が厳格に行われるものと考えられます。   4 ご質問の場合 お父様の死亡により、お父様の加入していた倒産防止共済は、解約されたものとみなされますので、返戻金をお父様の所得税の準確定申告書において申告するとともに、相続税の申告においては、当該金額相当額を返戻金の支給を受ける権利として申告する必要があります。ただし、準確定申告書により納付すべき所得税(復興特別所得税を含みます)の額は、債務控除の対象になります。 なお、あなたがお父様の事業を継続し、倒産防止共済契約を承継した場合には、お父様が亡くなられた時に共済契約が解約されたとした場合に支給される返戻金相当額が相続税の課税対象となります。 (了)

#No. 445(掲載号)
#梶野 研二
2021/11/18

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第12回】「事業の全部を転業した場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第12回】 「事業の全部を転業した場合の特定事業用宅地等の特例の適用の可否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人は中華料理屋の飲食店を営んでいましたが、その事業の用に供していたA宅地及び建物(いずれも被相続人が100%所有)を相続により長男である甲が取得しました。また、被相続人と生計を一にしていた二男乙はそば屋を営んでおり、その事業の用に供していたB宅地及び建物(いずれも被相続人が100%所有)を相続により乙が取得しました。 相続後のA宅地及びB宅地の利用状況がそれぞれ次の通りであった場合には、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用を受けることはできますか。 [A] A宅地については、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることはできませんが、B宅地については、他の要件を満たせば、特例を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定事業用宅地等の事業継続要件 特定事業用宅地等の要件として、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く、以下同じ)の⽤に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たす必要があります(措法69の4③一)。 なお、特定事業用宅地等の意義については、【第11回】で解説しています。   2 A宅地の事業継続要件の判断 A宅地については、1の①被相続人の事業を承継した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が被相続人の事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその事業を営んでいることが要件とされています。本問の場合には、被相続人の事業を申告期限まで営んでいませんので、特例の適用を受けることはできません。 なお、被相続人の事業(中華料理屋)が飲食店業であり、甲の事業(喫茶店業)も飲食店業であることから事業の同一性が全くないわけではありませんが、下記の日本標準産業分類(平成25年10月改定・平成26年4月1日施行)の小分類では、中華料理店が小分類番号762の専門料理店であるのに対して、喫茶店は小分類番号767の喫茶店であるため、小分類が異なっています。 (※) 総務省ホームページ「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」より一部抜粋、赤文字加工は筆者による。 事業の同一性の判断については、明確な基準があるわけではありませんが、1つの判断基準として日本標準産業分類の小分類が参考となります。もっとも、被相続人の事業と転業する事業との関連性や営業許可基準が同一であるか否かによっても判断が分かれることもありますので、あくまでも日本標準産業分類の小分類も含めて総合勘案して判断する必要があります。   3 B宅地の事業継続要件の判断 B宅地については、1の②生計一親族の事業を継続した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が相続開始前から申告期限まで引き続き、自己の事業の用に供していることが要件とされています。 被相続人の相続開始前と開始後で事業の同一性は要件となっていませんので、本問のようにそば屋(小分類番号763)と喫茶店(小分類番号767)で事業の同一性が認められないような場合であっても、それぞれの事業について生計一親族が事業主として事業を営んでいれば、生計一親族の事業継続要件は満たされることになります。 被相続人の事業を承継した場合は、相続開始前の被相続人の事業を継続する必要がありますが、生計一親族の事業を継続した場合は、相続開始前の生計一親族の事業の継続要件はありませんので、その違いに注意する必要があります。   ★実務上のポイント★ 被相続人の事業と生計一親族の事業では事業継続の要件が異なりますので、それぞれの要件を確認して判定することが重要となります。また、事業の同一性については、日本標準産業分類の小分類等を総合勘案して判断することになります。   (了)

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#柴田 健次
2021/11/18

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第32回】「役員及び役員給与と関連する周辺論点」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第32回】 「役員及び役員給与と関連する周辺論点」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ 以下、考えられる周辺論点をサマリーする。   (1) 役員給与や役員退職給与を支給することが影響する論点 ① 海外から招聘した役員のグロスアップ計算 海外から役員や従業員として人材を受け入れる場合、当事者から希望する手取り額の保証を求められることがある。この場合、対象者と合意した手取り額から日本における社会保険料・所得税等を控除する前の額面支給額をグロスアップ計算する必要がある。 ここで、対象者を役員として受け入れる場合は定期同額給与該当性について疑念が生じるが、平成29年度税制改正により緩和され、手取り額ベースでの定期同額給与への該当性判断が可能であると明らかにされた(法令69②)。 ② 海外出向役員に対する源泉徴収の必要性 内国法人に勤務する従業員が1年以上の予定で海外に出向し、引き続き内国法人から給与支給を受ける場合、当該従業員は所得税法上の非居住者となるため(所法3②、7、161他)、支給を続けた場合に源泉徴収の必要はない。しかし、役員が海外へ出向し、内国法人の役員として報酬の支給を受けた場合には国内源泉所得に該当するため、20.42%の税率で源泉徴収が必要となる(所法212、所令285他)。 これに対し、その役員が海外支店の使用人としての立場で常時海外において勤務している場合には、源泉徴収の必要はない(国税庁タックスアンサー「No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収」)。 ③ 消費税における納税義務判定 消費税の納税義務判定の1つに、特定期間における課税売上高による判定がある(消法9の2)。当該規定は、法人であればその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合に納税義務を負うものであるが、当該課税売上高は特定期間中に支払った給与等の金額に代えることができると定められている(消法9の2③)。 ここで、給与等の範囲は、所得税の課税対象とされる給与、賞与等が該当し、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費等は該当せず、未払額も含まれないとされている(消基通1-5-23)。したがって、1人役員の法人等は、事前確定届出給与制度の適用を受けることで、特定期間における納税義務の判定に係る納税義務のコントロールが事実上可能であると考えられる。 もっとも、特定期間に関する判定は、多々ある消費税の納税義務に関する規定の1つに過ぎないため、当然ながら他の諸規定にも留意する必要がある。 ④ 社会保険料と事前確定届出給与制度の関係 社会保険料と事前確定届出給与制度の関係については、既に本連載で触れているため、詳細は【第7回】参照のこと。 ⑤ 事業税における外形標準課税への影響 資本金額が1億円超の法人は、法人事業税について外形標準課税制度の適用となり、付加価値割と資本割を考慮しなければならない(地法72の2①一イ)。 このうち、付加価値割においては報酬給与額として役員に対する給与も加味する必要があるが、損金不算入となる役員給与は報酬給与額の対象とならない(地法72の15①)。 ⑥ 株価評価額への影響 役員退職給与が税務調査等により損金不算入とされた場合、株価評価額へも影響する可能性がある。この点については当連載で既に触れているため、詳細は【第25回】参照のこと。 ⑦ 第二次納税義務との関係 役員退職給与の支給を受けた取締役は、第二次納税義務を賦課される可能性もある。この点についても当連載で既に触れているため、詳細は【第28回】参照のこと。   (2) 役員の存在自体が影響する論点 ① 完全支配関係判定の5%ルール 完全支配関係の判定上用いられる、一定の従業員持株会の株式保有割合が5%未満である場合にはその5%未満の株式を発行済株式から除く、いわゆる5%ルールには、使用人兼務役員は含まれないという論点がある(法基通1-3の2-4)。 ② 合併の適格性判断における特定役員引継要件 資本関係のない法人間で行う合併に係る適格性判断の基準として、共同事業要件が設けられている(法法2十二の八ハ、法令4の3④)。このうち、特定役員引継要件は、合併前の被合併法人の特定役員(※1)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが、合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていることが必要とされている(法令4の3④二)。 (※1) 社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事しているものをいう。なお、「これらに準ずる者」とは、社長等と同様に法人の経営の中枢に参画している者をいうと示されている(法基通1-4-7)。 特定役員引継要件は、事業規模要件に代わる要件であるため(※2)、合併を検討するにあたり重要な要件であるといえる。合併に直面した場合、双方の法人の役員のうち特定役員となる者について確認が必要である。 (※2) 国税庁ホームページ「特定役員引継要件」参照。 ③ 中小企業者等における所得拡大促進税制の対象範囲 所得拡大促進税制とは、中小企業者等が国内雇用者への給与等を前年度より増加させた場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度である(措法42の12の5②)。 この場合の国内雇用者は、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者等は適用対象に含まれないこととなる(措法42の12の5③九)。 ④ 法人版事業承継税制の特例措置 法人版事業承継税制の特例措置は、株式会社等の株式の移動に係る贈与税や相続税について、一定要件を充足する限り納税が猶予され、最終的に納税額が免除されることを予定する制度である(措法70の7の5以下)。 このうち、役員に関する要件は、先代経営者に係るものと後継者に係るものがある。 先代経営者に係るものとして、贈与時までに代表者を退任すれば取締役として経営に携わることが可能となる点がある(措令40の8の5①一ハ)(※3)。後継者に係るものとしては、贈与の日まで3年以上継続して役員であるとともに(措法70の7の5②六へ)、贈与時までに代表者に就任すること(措法70の7の5②六ロ)が必要となる点がある(※4)。 (※3) 相続の場合、相続開始前において代表者であったことが必要となる(措令40の8の6①一)。 (※4) 相続の場合、相続開始直前において役員に就任し(措法70の7の6②七へ、措規23の12の3⑪二、先代経営者が70歳未満で死亡した場合を除く)、かつ、相続開始日の翌日から5ヶ月を経過する日において代表者に就任することが要件として求められている(措法70の7の6②七イ)。 ⑤ 均等割・分割基準の人数 法人事業税や法人道府県民税、法人市町村民税を計算するにあたり、複数の自治体に事業所を有する場合には、その事業年度(算定期間)終了の日における各事業所等の従業者の数をベースに、課税標準額等を分割して計算する必要がある(地法72の48①、57①②、321の13①②)。また、市町村民税の均等割においても、従業者数の合計により税率が定められている(標準税率を定める地法312①他)。 分割基準における「従業者」は、有給無給・常勤非常勤問わず、役員も対象となる(地規6の2の2①、地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)2-58、地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)2-59)(※5)。 (※5)東京都主税局「分割基準のガイドブック」8頁が参考となる。 均等割における役員は、棒給、給料若しくは賞与又はこれらの性質を有する給与の支給を受けることとされている役員である(地令48)。 (了)

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#中尾 隼大
2021/11/18

基礎から身につく組織再編税制 【第34回】「適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限」

基礎から身につく組織再編税制 【第34回】 「適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限について解説します。   1 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限の趣旨 適格分割があった場合には、分割法人の有する資産は、分割法人の帳簿価額で分割承継法人に引き継がれます。したがって、分割法人から移転を受けた資産の含み損を実現させ、分割承継法人の所得と相殺する、あるいは、分割法人から移転を受けた資産の含み益を実現させ、分割承継法人の含み損と相殺するといった租税回避行為が想定されます。 このような租税回避行為を防止する観点から、一定の適格分割があった場合に、その後に含み損を実現したときは、その損失を損金の額に算入しないという規定が設けられています。   2 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限 (1) 内容 完全支配関係又は支配関係がある適格分割があった場合に、次のいずれにも該当しないときは、適用期間((2)参照)に分割承継法人において生じた一定の特定資産譲渡等損失額((3)参照)が損金不算入となります(法法62の7①、法令123の8①)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令123の8①二)。 (2) 適用期間 「適用期間」とは、次のいずれか早い日までの期間をいいます。 支配関係が生じた時期により、適用期間が下図のように異なることとなります。 又は (3) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、分割法人の特定資産(特定引継資産)に係る譲渡等損失額と分割承継法人の特定資産(特定保有資産)に係る譲渡等損失額の合計額をいいます(法法62の7②)。 ① 特定引継資産 「特定引継資産」とは、適格分割により分割法人から分割承継法人へ移転した資産で、支配関係発生日前から分割法人が有していた資産(※)をいいます。 (※) 支配関係が生じた事業年度開始の日以後に有する資産が除外されるため(法令123の8③五)、特定保有資産と同様に支配関係が生じた事業年度開始の日前から有していた資産となります。 ② 特定保有資産 「特定保有資産」とは、支配関係が生じた事業年度開始の日前から分割承継法人が有していた資産をいいます。 ③ 特定資産から除かれるもの 特定資産からは次の資産が除かれています(法令123の8③⑭)。 ④ 1,000万円に満たないかどうかの判定 ③(ハ)における1,000万円の判定は、次のように区分した後の単位で判定することとされています(法規27の15①)。 ⑤ 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するための要件 適格分割の日の属する事業年度の確定申告書にその資産の時価及びその帳簿価額に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、時価の算定の基礎となる事項を記載した書類を保存する場合に限ります(法規27の15②)。 ⑥ 特定資産譲渡等損失額の計算方法 特定資産譲渡等損失額は、特定引継資産及び特定保有資産について生じた譲渡、評価換え、貸倒れ、除却等の事由(譲渡等特定事由)による損失額から譲渡又は評価換えによる利益の額を控除して計算します。 (※) 特定引継資産の譲渡等損失額と特定保有資産の譲渡等損失額の損益通算は認められません。 (4) みなし共同事業要件 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 なお、みなし共同事業要件については、次回詳しく解説します。   3 時価評価した場合の特例 (1) 内容 分割法人において含み益が生じている資産を多額に有しているケースでは、含み益を実現させて含み損と相殺すれば、含み損を自社で利用することができ、租税回避とはいえないため、特定資産の譲渡等損失について制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 時価純資産超過額がある場合の特例 支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額がある場合には、特定資産譲渡等損失額の制限はありません。 (3) 簿価純資産超過額がある場合の特例 支配関係事業年度の前事業年度終了時における簿価純資産超過額がある場合には、簿価純資産超過額から繰越欠損金の制限対象金額についての特例で特定資産譲渡等損失額からなる欠損金額とみなされた金額を控除した金額が制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。   4 事業の移転がない場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格分割の場合には、移転資産の含み益に対応する特定保有資産の譲渡等損失額の損金算入制限をすれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、事業の移転がない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額について特例が設けられています(法令123の9)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額に満たない場合には、特定保有資産の譲渡等損失額の制限はありません。 移転資産の含み益が欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を超える場合には、移転資産の含み益から欠損金の使用制限を受けて切り捨てられた欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 次回は、「みなし共同事業要件」について解説します。   ◆適格分割があった場合の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限のポイント◆ 分割法人の特定資産(特定引継資産)と分割承継法人の特定資産(特定保有資産)の両方について損金算入制限の規定が設けられています。 支配関係が生じた事業年度開始の日において含み損がない資産を特定資産から除外するためには一定の手続きが必要です。 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 特定保有資産の譲渡等損失額の制限対象金額の計算については、事業の移転がない場合の特例が設けられています。   (了)

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#川瀬 裕太
2021/11/18
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