公開日: 2021/12/23 (掲載号:No.450)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第9回】「課税減免規定の解釈のあり方」-判例にみられる課税減免規定固有の問題の検討-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第9回】

「課税減免規定の解釈のあり方」

-判例にみられる課税減免規定固有の問題の検討-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は、税法が定める課税減免規定の解釈について、その限定解釈の意義・性格及び射程を検討したが、今回は、その解釈のあり方について若干の判例を素材にして検討することにする。

なお、これまで「課税減免規定」という言葉を特に定義することなく用いてきたが、ここでその定義を述べておくと、課税減免規定とは、納税義務の成立に係る課税要件法の定める種々の法律要件のうち、非課税・経費控除・所得控除・税額控除・課税繰延べ等の措置による租税負担の軽減又は排除を定める規定をいう。それは、納税義務の成立を積極的に根拠づける法律要件(課税根拠要件ないし積極的課税要件)を定める規定に対して、納税義務の成立や租税負担の発生を阻害する法律要件(課税阻害要件ないし消極的課税要件)を定める規定である。租税特別措置法が定める租税優遇措置は勿論これに当たるが、所得税法・法人税法・消費税法・相続税法等のいわゆる「本法」が定める、各租税の基本構造を形成する措置(構造的措置)に係る規定の中にも課税減免規定に該当する規定がある。

 

Ⅱ 解釈の厳格性と解釈の狭義性

税法の解釈については、租税法律主義の下で、法規の文言・法文から離れた自由な解釈を禁止しそれに忠実な解釈すなわち厳格解釈が要請され、そしてその厳格解釈の要請は原則として文理解釈を意味することは、これまでに述べてきたところであるが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1、第7回Ⅰ等参照)、課税減免規定に関する裁判例の中には、解釈の厳格性を解釈の狭義性と同視し、狭義解釈の要請を殊更に強調するものがみられる。租税法規における非課税要件規定の解釈態度について最判昭和53年7月18日訟月24巻12号2696頁が「正当として是認」した仙台高判昭和50年1月22日行集26巻1号3頁は次のとおり判示している(下線筆者)。

被控訴人主張のような意味における合目的解釈ないし法規の趣旨を尊重した解釈に基づいて法律の規定を適用するときは、いわゆる類推ないし拡張解釈に等しく、結果的に法律の規定の本来の規制内容を緩和して適用することとなるのであるが、かようなことは地方税法489条のような非課税要件規定においては避けられるべきものである。

けだし、租税の賦課徴収と国民における財産権の保障との関係が法理論的に後者が原則的であるのに対し、前者が例外的なものとして理解されるべきであるという形式的な観点(例外の内容を原則との比較においてより広義に、より緩和して解すると、やがては原則と例外との区別を失わせるという不当な結果を招くことになる。)のみならず、財産権の保障、租税負担の公平等をその実質的内容とする租税法律主義の原則からいつても、租税法規ことに課税要件規定は狭義に厳格になされなければならないことは異論のないところであろうが、租税法規における非課税要件規定は、課税要件規定を原則的規定とすると、これに対する例外的規定としての地位にあるものと理解され、実質的にも非課税要件規定は、それが課税要件規定とは異なる何らかの財政、経済政策的配慮から定立されるものであるが故に、課税要件規定が実現維持しようとする租税負担の公平等の理念に対して何らかの意味におけるいわゆる阻害的な影響を及ぼすものであることからして、租税法規の解釈適用における前記の狭義性、厳格性の要請は、非課税要件規定の解釈適用において一層強調されてしかるべきだからである。

確かに、解釈の厳格性と解釈の狭義性は、感覚的には、同視することができそうである。しかし、厳格解釈の要請に基づく文理解釈は、「一般人の理解」(最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁。第7回Ⅱ参照)に従って、法規の文言の「通常の意味」(金子宏「租税法解釈論序説―若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈の在り方」同ほか編『租税法と市場』(有斐閣・2014年)3頁)ないし「普通の常識的な意味」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)467頁)を解明するものであるが(第7回Ⅱ参照)、その「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」は、同一の文言につき辞書的には複数の意味がある場合には、広義又は狭義のいずれでもあり得る以上、解釈の厳格性と解釈の狭義性とは、論理的には、別次元の問題である(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【48】)。

法規の文言の「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」が辞書的には広義である場合には、解釈の狭義性は当該文言の縮小解釈に帰結することになる。そうすると、課税減免規定の縮小解釈は、結果的には、課税根拠要件ないし積極的課税要件を定める課税要件規定の拡張解釈と同じく、納税義務の創設・拡大ないし租税負担の増大をもたらすことになるが、そのような縮小解釈ないし拡張解釈は租税法律主義の下で許容されるものではない(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁参照)。

したがって、税法の解釈において厳格解釈の要請を狭義解釈の要請と混同してはならない。解釈者はこのことを特に課税減免規定の解釈について明確に認識すべきである。

 

Ⅲ 「課税要件法に組み込まれた手続法」の解釈

1 手続的協力義務

課税減免規定の中には、課税減免を受けるための一定の手続を定めるものがある。そのような規定は、税法の体系上は、課税要件法の領域に属しながら、手続法の性格をも併有するものであることから、筆者は、従来から、これを「課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法」(前掲拙著【48】【97】【134】)として性格づけ、その解釈のあり方について検討してきた(拙稿「錯誤に基づく選択権行使の拘束力に関する一考察(1)(2・完)」税法学491号(1991年)1頁、同492号(同年)1頁等参照)。

そのうち、そのような規定の手続法的性格に着目しその解釈によって、課税減免の適正さを確保するために納税者の手続的協力義務を拡大しようとする場合がある。例えば、消費税の仕入税額控除に係る帳簿書類保存義務(消税30条7項)から税務調査協力義務を導き出し、これを本来の租税手続法上の税務職員の質問検査権と「接合」しようとするものとして、最判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁は次のとおり判示している(下線筆者。最判平成16年12月20日判時1889号42頁、最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁も同旨)。

(1) 消費税の納付すべき税額は、納税義務者である事業者が課税期間ごとにする「課税資産の譲渡等についての確定申告」により確定することが原則とされており(法45条1項、国税通則法16条1項1号)、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長等の調査したところと異なる場合に限り、税務署長等の処分により確定する(国税通則法16条1項1号、24条及び25条)。

このような申告納税方式の下では、納税義務者のする申告が事実に基づいて適正に行われることが肝要であり、必要に応じて税務署長等がこの点を確認することができなければならない。そこで、事業者は、帳簿を備付けてこれにその行った資産の譲渡等に関する事項を記録した上、当該帳簿を保存することを義務付けられており(法58条)、国税庁、国税局又は税務署の職員(以下「税務職員」という。)は、必要があるときは、事業者の帳簿書類を検査して申告が適正に行われたかどうかを調査することができるものとされ(法62条)、税務職員の検査を拒み、妨げ、又は忌避した者に対しては罰則が定められていて(法68条1号)、税務署長が適正に更正処分等を行うことができるようにされている。

(2) 法が事業者に対して上記のとおり帳簿の備付け、記録及び保存を義務付けているのは、その帳簿が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしていることが明らかである。そして、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、課税仕入れに関する事項も法58条により帳簿に記録することが義務付けられているから、税務職員は、上記の帳簿を検査して上記事項が記録されているかどうかなどを調査することができる。

法30条7項は、法58条の場合と同様に、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしているものであり、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、法30条8項1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合又は同条9項1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がそのいずれかを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条1項を適用することができることを明らかにするものであると解される。同条10項の委任を受けて同条7項に規定する帳簿又は請求書等の保存に関する事項を定める消費税法施行令(平成7年政令第341号による改正前のもの。以下同じ。)50条1項は、法30条1項の規定の適用を受けようとする事業者が、同条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、所定の日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないことを定めているが、これは、国税の更正、決定等の期間制限を定める国税通則法70条が、その5項において、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限等から7年を経過する日まで更正、決定等をすることができると定めているところと符合する。

法30条7項の規定の反面として、事業者が上記帳簿又は請求書等を保存していない場合には同条1項が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、上記帳簿又は請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。

(3) 以上によれば、事業者が、消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されないものというべきである。

ただ、このような解釈によって納税者の手続的協力義務を拡大しようとすると、仕入税額控除の帳簿書類保存要件につき上記引用判示の(3)の解釈に帰結することになるが、この解釈は仕入税額控除という消費税法上の構造的措置としての実体的措置の適用を左右するものであることからすると、課税減免規定の解釈は、課税減免規定の手続法的性格を考慮した「目的・手段思考」に基づく緩やかな解釈(目的達成の観点から手段について行う緩やかな解釈)に帰結しないよう、その厳格性を慎重に吟味して、これを行うべきである。その意味で、前掲最判平成16年12月20日における滝井繁雄裁判官の反対意見は正当である。少し長くなるが、仕入税額控除の性格・位置づけも含め関連部分を以下に引用しておこう(下線筆者)。

(1) 我が国消費税は、税制改革法(昭和63年法律第107号)の制定を受けて消費に広く薄く負担を課することを目的とし、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税することとしたものであるが、同法は課税の累積を排除する方式によることを明らかにし(同法4条、10条、11条)、これを受けて、法30条1項は、事業者が国内において課税仕入れを行ったときは、当該課税期間中に国内で行った課税仕入れに係る消費税額を控除することを規定しているのである。この仕入税額控除は、消費税の制度の骨格をなすものであって、消費税額を算定する上での実体上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきものである。ただ、法は、この仕入税額控除要件の証明は一定の要件を備えた帳簿等によることとし、その保存がないときは控除をしないものとしているのである(同条7項)。しかしながら、法が仕入税額の控除にこのような限定を設けたのは、あくまで消費税を円滑かつ適正に転嫁するために(税制改革法11条1項)、一定の要件を備えた帳簿等という確実な証拠を確保する必要があると判断したためであって、法30条7項の規定も、課税資産の譲渡等の対価に着実に課税が行われると同時に、課税仕入れに係る税額もまた確実に控除されるという制度の理念に即して解釈されなければならないのである。

(2) しかしながら、法58条、62条にかんがみれば、法30条7項は、事業者が税務職員による検査に当たって帳簿等を提示することが可能なようにこれを整理して保存しなければならないと定めていると解し得るとしても、そのことから、多数意見のように、事業者がそのように態勢を整えて保存することをしていなかった場合には、やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明した場合を除き、仕入税額の控除を認めないものと解することは、結局、事業者が検査に対して帳簿等を正当な理由なく提示しなかったことをもって、これを保存しなかったものと同視するに帰着するといわざるを得ないのであり、そのような理由により消費税額算定の重要な要素である仕入税額控除の規定を適用しないという解釈は、申告納税制度の趣旨及び仕組み、並びに法30条7項の趣旨をどのように強調しても採り得ないものと考える。

(3) 事業者が法の要求している帳簿等を保存しているにもかかわらず、正当な理由なくその提示を拒否するということは通常あり得ることではなく、その意味で正当な理由のない帳簿等の提示の拒否は、帳簿等を保存していないことを推認させる有力な事情である。しかし、それはあくまで提示の拒否という事実からの推認にとどまるのであって、保存がないことを理由に仕入税額控除を認めないでなされた課税処分に対し、所定の帳簿等を保存していたことを主張・立証することを許さないとする法文上の根拠はない(消費税法施行令66条は還付等一定の場合にのみ帳簿等の提示を求めているにすぎない。)。また、大量反復性を有する消費税の申告及び課税処分において迅速かつ正確に課税仕入れの存否を確認し、課税仕入れに係る適正な消費税額を把握する必要性など制度の趣旨を強調しても、法30条7項における「保存」の規定に、現状維持のまま保管するという通常その言葉の持っている意味を超えて、税務調査における提示の求めに応ずることまで含ませなければならない根拠を見出すことはできない。そのように解することは、法解釈の限界を超えるばかりか、課税売上げへの課税の必要性を強調するあまり本来確実に控除されなければならないものまで控除しないという結果をもたらすことになる点において、制度の趣旨にも反するものといわなければならない。

(4) 保存の意味を本来の客観的な状態での保管という用語の持つ一般的な意味を超えて解釈することが、制度の趣旨から是認されるという場合がないわけではない。例えば、青色申告の承認を受けた者は所定の帳簿書類の備付け、記録及び保存が義務付けられ、それが行われていないことは青色申告承認の取消事由となるものと定められているところ、納税者が正当な理由なく税務職員による帳簿書類の提示の要求に応じないときは、帳簿書類の備付け、記録及び保存の義務を履行していないものとして青色承認の取消事由になるものと解されている。しかしながら、青色申告制度は、納税義務者の自主的かつ公正な申告による租税義務の確定及び課税の実現を確保するため、一定の信頼性ある記帳を約した納税義務者に対してのみ、特別な申告手続を行い得るという特典を与え、制度の趣旨に反する事由が生じたときはその承認を取消しその資格を奪うこととしているものである。そして、青色申告の承認を受けた者は、帳簿書類に基づくことなしには申告に対して更正を受けないという制度上の特典を与えられているのであるから、税務調査に際して帳簿等の提示を拒否する者に対してもその特典を維持するというのは背理である。したがって、その制度の趣旨や仕組みから、税務職員から検査のため求められた書類等の提示を拒否した者がその特典を奪われることは当然のこととして、このような解釈も是認されるのである。

これに対し、法における仕入税額控除の規定は、前記のとおり課税要件を定めているといっても過言ではなく、青色申告承認のような単なる申告手続上の特典ではないと解すべきものである。そして、法は、消費税額の算定に当たり、仕入税額を控除すべきものとした上で、帳簿等の保存をしていないとき控除の適用を受け得ないとしているにとどまるのである。法30条7項も、消費税を円滑かつ適正に転嫁するために帳簿の保存が確実に行われなければならないことを定めたものであり、着実に課税が行われるよう、課税売上げの額を正しく把握すると同時に控除されるべき税額は確実に控除されなければならないという消費税制度の趣旨を考えれば、同項にいう「保存」に、その通常の意味するところを超えて税務調査における提示をも含ませるような解釈をしなければならない理由は見いだすことはできず、そのように解することは、本来控除すべきものを控除しない結果を招来することになって、かえって消費税制度の本来の趣旨に反するものと考えるのである。

(5) 事業者が帳簿等を保存すべきものと定められ、これに対する検査権限が法定されているにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じないという調査への非協力は、申告内容の確認の妨げになり、適正な税収確保の障害にもなることは容易に想像し得るところであるが、法は、提示を拒否する行為については罰則を用意しているのであって(法68条)、制度の趣旨を強調し、調査への協力が円滑適正な徴税確保のために必要であることから、税額の計算に係る実体的な規定をその本来の意味を超えて広げて解することは、租税法律主義の見地から慎重でなければならないものである。

なお、滝井裁判官は仕入税額控除を「消費税額を算定する上での実体上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきもの」(上記引用中の2つ目の下線部)として課税要件そのものとはみていないが、このことも妥当である。というのも、税額控除は、課税要件としての課税標準に対して同じく課税要件としての税率を乗じて算出された金額(算出税額)から控除されるものであり、税法の体系上は、納税義務の成立に係る課税要件法の領域には属さないものの、算出税額から控除され実際の租税負担(納付税額)を決定するものであることから、成立した納税義務の消滅原因の1つである免除のうち納税義務の成立と連動する特殊な形態の免除であり、租税実体法の領域には属するからである(前掲拙著【95】参照)。筆者は課税減免規定を、前記Ⅰで述べたとおり、納税義務の成立や租税負担の発生を阻害する法律要件(課税阻害要件ないし消極的課税要件)を定める規定と定義しているが、税額控除は租税負担の発生を阻害することから課税減免規定に該当すると考えるのである。

2 意思主義

課税減免規定のうち課税減免を受けるための一定の手続を定めるもの(課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法)において、納税者がその選択を誤った場合の救済については、その選択をしなかった場合に係る宥恕規定の適用を除き、実定税法上特段の救済措置は講じられていないため、実定税法の解釈によって対応することはできない。そこで、その救済措置を法創造によって創設することができるかどうかが問題になる。

租税法律主義の下では、行政による法創造が許容される余地はなく、裁判官による法創造も原則として認められない(例外的に法創造を認めた判例については、拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則ー裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究ー」税法学586号=日本税法学会創立70周年記念号(2021年)377頁、386頁以下、特に下記の判例の検討については390-392頁参照)。とりわけ課税要件法の領域では、「私法上の債務関係の成立に必要な意思の要素に代わるもの」(金子・前掲書156頁。前掲拙著【88】も参照)としての課税要件はすべて法律で定められなければならない(課税要件法定主義)ので、この建前上は、少なくとも納税義務の成立については、課税減免規定に係る選択が納税者の意思表示であるとしても、近代法の基本原理としての意思主義が働く余地はない。

もっとも、課税減免規定のうち選択に係る手続法の側面に着目すると、意思主義に基づく法創造による救済の余地を認めることができるように思われる。そのような余地を社会保険診療報酬に係る概算経費の選択(措置法26条3項)について認めた判例として、最判平成2年6月5日民集44巻4号612頁がある。この判決は、概算経費選択を「意思表示」とみて、錯誤に基づく概算経費選択の取扱いについて次のとおり判示した(下線筆者)。

措置法26条1項は、医師又は歯科医師が社会保険診療報酬を有する場合において、事業所得金額の計算上、右報酬に係る必要経費としては、所得税法37条1項等に基づく実額経費によることなく、右報酬に一定の標準率を乗じて算出する概算経費とする旨を規定し、措置法26条3項は、同条1項の規定は、確定申告書に同項の規定により事業所得金額を計算した旨の記載がない場合には、適用しないと規定している。したがって、納税者である医師又は歯科医師が確定申告書において同項の規定により事業所得金額を計算した旨の記載をしていない場合でない限り、換言すれば、納税者である医師又は歯科医師が確定申告書において同項の規定により事業所得金額を計算した旨の記載をしている場合(すなわち、概算経費選択の意思表示をしている場合)には、同項が適用され、概算経費が事業所得金額の計算上控除されるべき社会保険診療報酬の必要経費となるのである。そしてこの場合、実額経費の金額が概算経費の金額を上回っているかそれとも下回っているかということは、同項の適用を左右するものではなく、仮に実額経費の金額が概算経費の金額を上回っている場合でも、右概算経費が国税に関する法律の規定に基づく社会保険診療報酬の必要経費となるのである(最高裁昭和60年(行ツ)第81号同62年11月10日第三小法廷判決・裁判集民事152号155頁参照)。

しかしながら、歯科医師の事業所得金額の計算上その診療総収入から控除されるべき必要経費は、自由診療収入の必要経費と社会保険診療報酬の必要経費との合計額であるところ、本件においては、診療経費総額を自由診療収入分と社会保険診療報酬分に振り分ける計算過程において、診療総収入に対する自由診療収入の割合を出し、これを診療経費総額に乗じて自由診療収入分の必要経費を算出し、これを診療経費総額から差し引いて社会保険診療報酬の実際の必要経費(実額経費)を算出すべきところ、誤って社会保険診療報酬に対する自由診療収入の割合を出し、これを診療経費総額に乗じて自由診療収入分の必要経費を算出し、これを診療経費総額から差し引いて実額経費を算出したため、自由診療収入分の必要経費を正しく計算した場合よりも多額に、実額経費を正しく計算した場合よりも少額に算出してしまい、そのため右実額経費よりも概算経費の方が有利であると判断して概算経費選択の意思表示をしたというのであるから(なお、本件記録によれば、右の誤りは本件確定申告書に添付された書類上明らかである。)、右概算経費選択の意思表示は錯誤に基づくものであり、上告人の事業所得金額の計算上その診療総収入から控除されるべき必要経費の計算には誤りがあったというべきである。

ところで、国税通則法19条1項1号によれば、確定申告に係る税額に不足額があるときは修正申告をすることができるところ、本件においては、確定申告に係る自由診療収入の必要経費の計算の誤りを正せば、必然的に事業所得金額が増加し、確定申告に係る税額に不足額が生ずることになるため、修正申告をすることができる場合に当たることになる。そして、右修正申告をするに当たり、修正申告の要件を充たす限りにおいては(すなわち、確定申告に係る税額を増加させる限りにおいては)、確定申告における必要経費の計算の誤りを是正する一環として、錯誤に基づく概算経費選択の意思表示を撤回し、所得税法37条1項等に基づき実額経費を社会保険診療報酬の必要経費として計上することができると解するのが相当である。本件修正申告において、上告人は、自由診療収入の必要経費を確定申告に係る751万5552円から560万1502円に減額し、社会保険診療報酬の必要経費を実額経費である1926万4788円に改め、確定申告に係る必要経費の総額2554万1101円を2486万6290円に減額したものであるから、税額を増加させるものであり、修正申告の要件を充たし、概算経費選択の意思表示の撤回が有効になされたものとして、本件修正申告は適法というべきである。

「近代法の構造というものは、すべて個人の意思を中心に構成されている」(伊藤正己『近代法の常識〔第3版〕』(有信堂・1992年)163頁)が、税法は租税法律主義の支配する領域にあるとはいえ究極的・原理的には近代法を基礎とするものである以上、課税減免規定がその適用を納税者の選択にかからしめその選択の法的性格が意思表示と解される場合には、税法についても意思主義の妥当性を認め、それに基づく法創造による救済を認める余地はあると考えられる。そのような法創造を行った前記判決は、税法における裁判を受ける権利(憲法32条)の実効的保障を目的とする司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の観点から、錯誤に基づく概算経費選択に係る実定税法上の救済措置の不備を補い司法的救済を実現するものとして、高く評価すべきものである(前掲拙稿(税法学586号)400頁参照)。

なお、この判決は、修正申告の事案に関するものであるが、「錯誤に基づく概算経費選択の意思表示」の撤回に基づく実額経費(所税37条1項)の控除により申告税額が減少する場合には、更正の請求(税通23条1項)が認められると解される(金子・前掲書969頁、前掲拙稿(税法学586号)392頁参照)。

 

Ⅳ おわりに

以上において、前回に引き続き、課税減免規定の解釈について検討した。課税減免規定も税法が定める規定である以上、その解釈も原則として税法一般の解釈と異ならないと考えられるものの、通常の課税要件規定(課税根拠規定ないし積極的課税要件規定)とは異なる固有の解釈方法論を必要とする場合もあるように思われる。

今回は、特に課税減免規定の解釈について厳格性と狭義性との混同の問題性を指摘し(Ⅱ)、また、「課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法」という観点から、課税減免規定の解釈のあり方について検討し、納税者の手続的協力義務の拡大の問題性及び誤った選択に関する、意思主義に基づく法創造による救済の必要性を明らかにした(Ⅲ)。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

谷口教授と学ぶ

税法基本判例

【第9回】

「課税減免規定の解釈のあり方」

-判例にみられる課税減免規定固有の問題の検討-

 

大阪大学大学院高等司法研究科教授
谷口 勢津夫

 

Ⅰ はじめに

前回は、税法が定める課税減免規定の解釈について、その限定解釈の意義・性格及び射程を検討したが、今回は、その解釈のあり方について若干の判例を素材にして検討することにする。

なお、これまで「課税減免規定」という言葉を特に定義することなく用いてきたが、ここでその定義を述べておくと、課税減免規定とは、納税義務の成立に係る課税要件法の定める種々の法律要件のうち、非課税・経費控除・所得控除・税額控除・課税繰延べ等の措置による租税負担の軽減又は排除を定める規定をいう。それは、納税義務の成立を積極的に根拠づける法律要件(課税根拠要件ないし積極的課税要件)を定める規定に対して、納税義務の成立や租税負担の発生を阻害する法律要件(課税阻害要件ないし消極的課税要件)を定める規定である。租税特別措置法が定める租税優遇措置は勿論これに当たるが、所得税法・法人税法・消費税法・相続税法等のいわゆる「本法」が定める、各租税の基本構造を形成する措置(構造的措置)に係る規定の中にも課税減免規定に該当する規定がある。

 

Ⅱ 解釈の厳格性と解釈の狭義性

税法の解釈については、租税法律主義の下で、法規の文言・法文から離れた自由な解釈を禁止しそれに忠実な解釈すなわち厳格解釈が要請され、そしてその厳格解釈の要請は原則として文理解釈を意味することは、これまでに述べてきたところであるが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1、第7回Ⅰ等参照)、課税減免規定に関する裁判例の中には、解釈の厳格性を解釈の狭義性と同視し、狭義解釈の要請を殊更に強調するものがみられる。租税法規における非課税要件規定の解釈態度について最判昭和53年7月18日訟月24巻12号2696頁が「正当として是認」した仙台高判昭和50年1月22日行集26巻1号3頁は次のとおり判示している(下線筆者)。

被控訴人主張のような意味における合目的解釈ないし法規の趣旨を尊重した解釈に基づいて法律の規定を適用するときは、いわゆる類推ないし拡張解釈に等しく、結果的に法律の規定の本来の規制内容を緩和して適用することとなるのであるが、かようなことは地方税法489条のような非課税要件規定においては避けられるべきものである。

けだし、租税の賦課徴収と国民における財産権の保障との関係が法理論的に後者が原則的であるのに対し、前者が例外的なものとして理解されるべきであるという形式的な観点(例外の内容を原則との比較においてより広義に、より緩和して解すると、やがては原則と例外との区別を失わせるという不当な結果を招くことになる。)のみならず、財産権の保障、租税負担の公平等をその実質的内容とする租税法律主義の原則からいつても、租税法規ことに課税要件規定は狭義に厳格になされなければならないことは異論のないところであろうが、租税法規における非課税要件規定は、課税要件規定を原則的規定とすると、これに対する例外的規定としての地位にあるものと理解され、実質的にも非課税要件規定は、それが課税要件規定とは異なる何らかの財政、経済政策的配慮から定立されるものであるが故に、課税要件規定が実現維持しようとする租税負担の公平等の理念に対して何らかの意味におけるいわゆる阻害的な影響を及ぼすものであることからして、租税法規の解釈適用における前記の狭義性、厳格性の要請は、非課税要件規定の解釈適用において一層強調されてしかるべきだからである。

確かに、解釈の厳格性と解釈の狭義性は、感覚的には、同視することができそうである。しかし、厳格解釈の要請に基づく文理解釈は、「一般人の理解」(最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁。第7回Ⅱ参照)に従って、法規の文言の「通常の意味」(金子宏「租税法解釈論序説―若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈の在り方」同ほか編『租税法と市場』(有斐閣・2014年)3頁)ないし「普通の常識的な意味」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)467頁)を解明するものであるが(第7回Ⅱ参照)、その「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」は、同一の文言につき辞書的には複数の意味がある場合には、広義又は狭義のいずれでもあり得る以上、解釈の厳格性と解釈の狭義性とは、論理的には、別次元の問題である(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【48】)。

法規の文言の「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」が辞書的には広義である場合には、解釈の狭義性は当該文言の縮小解釈に帰結することになる。そうすると、課税減免規定の縮小解釈は、結果的には、課税根拠要件ないし積極的課税要件を定める課税要件規定の拡張解釈と同じく、納税義務の創設・拡大ないし租税負担の増大をもたらすことになるが、そのような縮小解釈ないし拡張解釈は租税法律主義の下で許容されるものではない(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)123頁参照)。

したがって、税法の解釈において厳格解釈の要請を狭義解釈の要請と混同してはならない。解釈者はこのことを特に課税減免規定の解釈について明確に認識すべきである。

 

Ⅲ 「課税要件法に組み込まれた手続法」の解釈

1 手続的協力義務

課税減免規定の中には、課税減免を受けるための一定の手続を定めるものがある。そのような規定は、税法の体系上は、課税要件法の領域に属しながら、手続法の性格をも併有するものであることから、筆者は、従来から、これを「課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法」(前掲拙著【48】【97】【134】)として性格づけ、その解釈のあり方について検討してきた(拙稿「錯誤に基づく選択権行使の拘束力に関する一考察(1)(2・完)」税法学491号(1991年)1頁、同492号(同年)1頁等参照)。

そのうち、そのような規定の手続法的性格に着目しその解釈によって、課税減免の適正さを確保するために納税者の手続的協力義務を拡大しようとする場合がある。例えば、消費税の仕入税額控除に係る帳簿書類保存義務(消税30条7項)から税務調査協力義務を導き出し、これを本来の租税手続法上の税務職員の質問検査権と「接合」しようとするものとして、最判平成16年12月16日民集58巻9号2458頁は次のとおり判示している(下線筆者。最判平成16年12月20日判時1889号42頁、最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁も同旨)。

(1) 消費税の納付すべき税額は、納税義務者である事業者が課税期間ごとにする「課税資産の譲渡等についての確定申告」により確定することが原則とされており(法45条1項、国税通則法16条1項1号)、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長等の調査したところと異なる場合に限り、税務署長等の処分により確定する(国税通則法16条1項1号、24条及び25条)。

このような申告納税方式の下では、納税義務者のする申告が事実に基づいて適正に行われることが肝要であり、必要に応じて税務署長等がこの点を確認することができなければならない。そこで、事業者は、帳簿を備付けてこれにその行った資産の譲渡等に関する事項を記録した上、当該帳簿を保存することを義務付けられており(法58条)、国税庁、国税局又は税務署の職員(以下「税務職員」という。)は、必要があるときは、事業者の帳簿書類を検査して申告が適正に行われたかどうかを調査することができるものとされ(法62条)、税務職員の検査を拒み、妨げ、又は忌避した者に対しては罰則が定められていて(法68条1号)、税務署長が適正に更正処分等を行うことができるようにされている。

(2) 法が事業者に対して上記のとおり帳簿の備付け、記録及び保存を義務付けているのは、その帳簿が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしていることが明らかである。そして、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、課税仕入れに関する事項も法58条により帳簿に記録することが義務付けられているから、税務職員は、上記の帳簿を検査して上記事項が記録されているかどうかなどを調査することができる。

法30条7項は、法58条の場合と同様に、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしているものであり、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、法30条8項1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合又は同条9項1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がそのいずれかを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条1項を適用することができることを明らかにするものであると解される。同条10項の委任を受けて同条7項に規定する帳簿又は請求書等の保存に関する事項を定める消費税法施行令(平成7年政令第341号による改正前のもの。以下同じ。)50条1項は、法30条1項の規定の適用を受けようとする事業者が、同条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、所定の日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないことを定めているが、これは、国税の更正、決定等の期間制限を定める国税通則法70条が、その5項において、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限等から7年を経過する日まで更正、決定等をすることができると定めているところと符合する。

法30条7項の規定の反面として、事業者が上記帳簿又は請求書等を保存していない場合には同条1項が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、上記帳簿又は請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。

(3) 以上によれば、事業者が、消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されないものというべきである。

ただ、このような解釈によって納税者の手続的協力義務を拡大しようとすると、仕入税額控除の帳簿書類保存要件につき上記引用判示の(3)の解釈に帰結することになるが、この解釈は仕入税額控除という消費税法上の構造的措置としての実体的措置の適用を左右するものであることからすると、課税減免規定の解釈は、課税減免規定の手続法的性格を考慮した「目的・手段思考」に基づく緩やかな解釈(目的達成の観点から手段について行う緩やかな解釈)に帰結しないよう、その厳格性を慎重に吟味して、これを行うべきである。その意味で、前掲最判平成16年12月20日における滝井繁雄裁判官の反対意見は正当である。少し長くなるが、仕入税額控除の性格・位置づけも含め関連部分を以下に引用しておこう(下線筆者)。

(1) 我が国消費税は、税制改革法(昭和63年法律第107号)の制定を受けて消費に広く薄く負担を課することを目的とし、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税することとしたものであるが、同法は課税の累積を排除する方式によることを明らかにし(同法4条、10条、11条)、これを受けて、法30条1項は、事業者が国内において課税仕入れを行ったときは、当該課税期間中に国内で行った課税仕入れに係る消費税額を控除することを規定しているのである。この仕入税額控除は、消費税の制度の骨格をなすものであって、消費税額を算定する上での実体上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきものである。ただ、法は、この仕入税額控除要件の証明は一定の要件を備えた帳簿等によることとし、その保存がないときは控除をしないものとしているのである(同条7項)。しかしながら、法が仕入税額の控除にこのような限定を設けたのは、あくまで消費税を円滑かつ適正に転嫁するために(税制改革法11条1項)、一定の要件を備えた帳簿等という確実な証拠を確保する必要があると判断したためであって、法30条7項の規定も、課税資産の譲渡等の対価に着実に課税が行われると同時に、課税仕入れに係る税額もまた確実に控除されるという制度の理念に即して解釈されなければならないのである。

(2) しかしながら、法58条、62条にかんがみれば、法30条7項は、事業者が税務職員による検査に当たって帳簿等を提示することが可能なようにこれを整理して保存しなければならないと定めていると解し得るとしても、そのことから、多数意見のように、事業者がそのように態勢を整えて保存することをしていなかった場合には、やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明した場合を除き、仕入税額の控除を認めないものと解することは、結局、事業者が検査に対して帳簿等を正当な理由なく提示しなかったことをもって、これを保存しなかったものと同視するに帰着するといわざるを得ないのであり、そのような理由により消費税額算定の重要な要素である仕入税額控除の規定を適用しないという解釈は、申告納税制度の趣旨及び仕組み、並びに法30条7項の趣旨をどのように強調しても採り得ないものと考える。

(3) 事業者が法の要求している帳簿等を保存しているにもかかわらず、正当な理由なくその提示を拒否するということは通常あり得ることではなく、その意味で正当な理由のない帳簿等の提示の拒否は、帳簿等を保存していないことを推認させる有力な事情である。しかし、それはあくまで提示の拒否という事実からの推認にとどまるのであって、保存がないことを理由に仕入税額控除を認めないでなされた課税処分に対し、所定の帳簿等を保存していたことを主張・立証することを許さないとする法文上の根拠はない(消費税法施行令66条は還付等一定の場合にのみ帳簿等の提示を求めているにすぎない。)。また、大量反復性を有する消費税の申告及び課税処分において迅速かつ正確に課税仕入れの存否を確認し、課税仕入れに係る適正な消費税額を把握する必要性など制度の趣旨を強調しても、法30条7項における「保存」の規定に、現状維持のまま保管するという通常その言葉の持っている意味を超えて、税務調査における提示の求めに応ずることまで含ませなければならない根拠を見出すことはできない。そのように解することは、法解釈の限界を超えるばかりか、課税売上げへの課税の必要性を強調するあまり本来確実に控除されなければならないものまで控除しないという結果をもたらすことになる点において、制度の趣旨にも反するものといわなければならない。

(4) 保存の意味を本来の客観的な状態での保管という用語の持つ一般的な意味を超えて解釈することが、制度の趣旨から是認されるという場合がないわけではない。例えば、青色申告の承認を受けた者は所定の帳簿書類の備付け、記録及び保存が義務付けられ、それが行われていないことは青色申告承認の取消事由となるものと定められているところ、納税者が正当な理由なく税務職員による帳簿書類の提示の要求に応じないときは、帳簿書類の備付け、記録及び保存の義務を履行していないものとして青色承認の取消事由になるものと解されている。しかしながら、青色申告制度は、納税義務者の自主的かつ公正な申告による租税義務の確定及び課税の実現を確保するため、一定の信頼性ある記帳を約した納税義務者に対してのみ、特別な申告手続を行い得るという特典を与え、制度の趣旨に反する事由が生じたときはその承認を取消しその資格を奪うこととしているものである。そして、青色申告の承認を受けた者は、帳簿書類に基づくことなしには申告に対して更正を受けないという制度上の特典を与えられているのであるから、税務調査に際して帳簿等の提示を拒否する者に対してもその特典を維持するというのは背理である。したがって、その制度の趣旨や仕組みから、税務職員から検査のため求められた書類等の提示を拒否した者がその特典を奪われることは当然のこととして、このような解釈も是認されるのである。

これに対し、法における仕入税額控除の規定は、前記のとおり課税要件を定めているといっても過言ではなく、青色申告承認のような単なる申告手続上の特典ではないと解すべきものである。そして、法は、消費税額の算定に当たり、仕入税額を控除すべきものとした上で、帳簿等の保存をしていないとき控除の適用を受け得ないとしているにとどまるのである。法30条7項も、消費税を円滑かつ適正に転嫁するために帳簿の保存が確実に行われなければならないことを定めたものであり、着実に課税が行われるよう、課税売上げの額を正しく把握すると同時に控除されるべき税額は確実に控除されなければならないという消費税制度の趣旨を考えれば、同項にいう「保存」に、その通常の意味するところを超えて税務調査における提示をも含ませるような解釈をしなければならない理由は見いだすことはできず、そのように解することは、本来控除すべきものを控除しない結果を招来することになって、かえって消費税制度の本来の趣旨に反するものと考えるのである。

(5) 事業者が帳簿等を保存すべきものと定められ、これに対する検査権限が法定されているにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じないという調査への非協力は、申告内容の確認の妨げになり、適正な税収確保の障害にもなることは容易に想像し得るところであるが、法は、提示を拒否する行為については罰則を用意しているのであって(法68条)、制度の趣旨を強調し、調査への協力が円滑適正な徴税確保のために必要であることから、税額の計算に係る実体的な規定をその本来の意味を超えて広げて解することは、租税法律主義の見地から慎重でなければならないものである。

なお、滝井裁判官は仕入税額控除を「消費税額を算定する上での実体上の課税要件にも匹敵する本質的な要素とみるべきもの」(上記引用中の2つ目の下線部)として課税要件そのものとはみていないが、このことも妥当である。というのも、税額控除は、課税要件としての課税標準に対して同じく課税要件としての税率を乗じて算出された金額(算出税額)から控除されるものであり、税法の体系上は、納税義務の成立に係る課税要件法の領域には属さないものの、算出税額から控除され実際の租税負担(納付税額)を決定するものであることから、成立した納税義務の消滅原因の1つである免除のうち納税義務の成立と連動する特殊な形態の免除であり、租税実体法の領域には属するからである(前掲拙著【95】参照)。筆者は課税減免規定を、前記Ⅰで述べたとおり、納税義務の成立や租税負担の発生を阻害する法律要件(課税阻害要件ないし消極的課税要件)を定める規定と定義しているが、税額控除は租税負担の発生を阻害することから課税減免規定に該当すると考えるのである。

2 意思主義

課税減免規定のうち課税減免を受けるための一定の手続を定めるもの(課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法)において、納税者がその選択を誤った場合の救済については、その選択をしなかった場合に係る宥恕規定の適用を除き、実定税法上特段の救済措置は講じられていないため、実定税法の解釈によって対応することはできない。そこで、その救済措置を法創造によって創設することができるかどうかが問題になる。

租税法律主義の下では、行政による法創造が許容される余地はなく、裁判官による法創造も原則として認められない(例外的に法創造を認めた判例については、拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則ー裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究ー」税法学586号=日本税法学会創立70周年記念号(2021年)377頁、386頁以下、特に下記の判例の検討については390-392頁参照)。とりわけ課税要件法の領域では、「私法上の債務関係の成立に必要な意思の要素に代わるもの」(金子・前掲書156頁。前掲拙著【88】も参照)としての課税要件はすべて法律で定められなければならない(課税要件法定主義)ので、この建前上は、少なくとも納税義務の成立については、課税減免規定に係る選択が納税者の意思表示であるとしても、近代法の基本原理としての意思主義が働く余地はない。

もっとも、課税減免規定のうち選択に係る手続法の側面に着目すると、意思主義に基づく法創造による救済の余地を認めることができるように思われる。そのような余地を社会保険診療報酬に係る概算経費の選択(措置法26条3項)について認めた判例として、最判平成2年6月5日民集44巻4号612頁がある。この判決は、概算経費選択を「意思表示」とみて、錯誤に基づく概算経費選択の取扱いについて次のとおり判示した(下線筆者)。

措置法26条1項は、医師又は歯科医師が社会保険診療報酬を有する場合において、事業所得金額の計算上、右報酬に係る必要経費としては、所得税法37条1項等に基づく実額経費によることなく、右報酬に一定の標準率を乗じて算出する概算経費とする旨を規定し、措置法26条3項は、同条1項の規定は、確定申告書に同項の規定により事業所得金額を計算した旨の記載がない場合には、適用しないと規定している。したがって、納税者である医師又は歯科医師が確定申告書において同項の規定により事業所得金額を計算した旨の記載をしていない場合でない限り、換言すれば、納税者である医師又は歯科医師が確定申告書において同項の規定により事業所得金額を計算した旨の記載をしている場合(すなわち、概算経費選択の意思表示をしている場合)には、同項が適用され、概算経費が事業所得金額の計算上控除されるべき社会保険診療報酬の必要経費となるのである。そしてこの場合、実額経費の金額が概算経費の金額を上回っているかそれとも下回っているかということは、同項の適用を左右するものではなく、仮に実額経費の金額が概算経費の金額を上回っている場合でも、右概算経費が国税に関する法律の規定に基づく社会保険診療報酬の必要経費となるのである(最高裁昭和60年(行ツ)第81号同62年11月10日第三小法廷判決・裁判集民事152号155頁参照)。

しかしながら、歯科医師の事業所得金額の計算上その診療総収入から控除されるべき必要経費は、自由診療収入の必要経費と社会保険診療報酬の必要経費との合計額であるところ、本件においては、診療経費総額を自由診療収入分と社会保険診療報酬分に振り分ける計算過程において、診療総収入に対する自由診療収入の割合を出し、これを診療経費総額に乗じて自由診療収入分の必要経費を算出し、これを診療経費総額から差し引いて社会保険診療報酬の実際の必要経費(実額経費)を算出すべきところ、誤って社会保険診療報酬に対する自由診療収入の割合を出し、これを診療経費総額に乗じて自由診療収入分の必要経費を算出し、これを診療経費総額から差し引いて実額経費を算出したため、自由診療収入分の必要経費を正しく計算した場合よりも多額に、実額経費を正しく計算した場合よりも少額に算出してしまい、そのため右実額経費よりも概算経費の方が有利であると判断して概算経費選択の意思表示をしたというのであるから(なお、本件記録によれば、右の誤りは本件確定申告書に添付された書類上明らかである。)、右概算経費選択の意思表示は錯誤に基づくものであり、上告人の事業所得金額の計算上その診療総収入から控除されるべき必要経費の計算には誤りがあったというべきである。

ところで、国税通則法19条1項1号によれば、確定申告に係る税額に不足額があるときは修正申告をすることができるところ、本件においては、確定申告に係る自由診療収入の必要経費の計算の誤りを正せば、必然的に事業所得金額が増加し、確定申告に係る税額に不足額が生ずることになるため、修正申告をすることができる場合に当たることになる。そして、右修正申告をするに当たり、修正申告の要件を充たす限りにおいては(すなわち、確定申告に係る税額を増加させる限りにおいては)、確定申告における必要経費の計算の誤りを是正する一環として、錯誤に基づく概算経費選択の意思表示を撤回し、所得税法37条1項等に基づき実額経費を社会保険診療報酬の必要経費として計上することができると解するのが相当である。本件修正申告において、上告人は、自由診療収入の必要経費を確定申告に係る751万5552円から560万1502円に減額し、社会保険診療報酬の必要経費を実額経費である1926万4788円に改め、確定申告に係る必要経費の総額2554万1101円を2486万6290円に減額したものであるから、税額を増加させるものであり、修正申告の要件を充たし、概算経費選択の意思表示の撤回が有効になされたものとして、本件修正申告は適法というべきである。

「近代法の構造というものは、すべて個人の意思を中心に構成されている」(伊藤正己『近代法の常識〔第3版〕』(有信堂・1992年)163頁)が、税法は租税法律主義の支配する領域にあるとはいえ究極的・原理的には近代法を基礎とするものである以上、課税減免規定がその適用を納税者の選択にかからしめその選択の法的性格が意思表示と解される場合には、税法についても意思主義の妥当性を認め、それに基づく法創造による救済を認める余地はあると考えられる。そのような法創造を行った前記判決は、税法における裁判を受ける権利(憲法32条)の実効的保障を目的とする司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の観点から、錯誤に基づく概算経費選択に係る実定税法上の救済措置の不備を補い司法的救済を実現するものとして、高く評価すべきものである(前掲拙稿(税法学586号)400頁参照)。

なお、この判決は、修正申告の事案に関するものであるが、「錯誤に基づく概算経費選択の意思表示」の撤回に基づく実額経費(所税37条1項)の控除により申告税額が減少する場合には、更正の請求(税通23条1項)が認められると解される(金子・前掲書969頁、前掲拙稿(税法学586号)392頁参照)。

 

Ⅳ おわりに

以上において、前回に引き続き、課税減免規定の解釈について検討した。課税減免規定も税法が定める規定である以上、その解釈も原則として税法一般の解釈と異ならないと考えられるものの、通常の課税要件規定(課税根拠規定ないし積極的課税要件規定)とは異なる固有の解釈方法論を必要とする場合もあるように思われる。

今回は、特に課税減免規定の解釈について厳格性と狭義性との混同の問題性を指摘し(Ⅱ)、また、「課税要件法・租税実体法に組み込まれた手続法」という観点から、課税減免規定の解釈のあり方について検討し、納税者の手続的協力義務の拡大の問題性及び誤った選択に関する、意思主義に基づく法創造による救済の必要性を明らかにした(Ⅲ)。

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」

第1回~第20回

第21回~

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同センター理事・同センター「日税研究賞」選考委員・同センター編集委員会委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社・2023年)、『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(共著・弘文堂・2025年)、『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)、『税法基本判例Ⅱ』(清文社・2025年)など。
 
   

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