〔会計不正調査報告書を読む〕 【第111回】 大分県農業協同組合(JAおおいた) 「不祥事第三者委員会調査報告書(2020年12月24日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【JAおおいた不祥事第三者委員会の概要】 【大分県農業協同組合(以下「JAおおいた」と略称する)の組織概要】 (※) 令和2年3月31日現在(事業量のうち購買品、販売品は令和元年度中の取扱高) ◎JAおおいたにおける過去の不祥事 【調査報告書の概要】 1 不正貸付発覚の経緯(調査報告書1ページ) JAおおいた東部事業部国東支店において、令和2年7月22日、共済コンプライアンス点検が行われたところ、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明し、内部調査の結果、担当職員であったA氏が、無断で貸付申込書等を作成し、虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得したことが判明した(以下「本件不正貸付」という)。 本件不正貸付は、JAおおいたの不祥事対応要領の「不祥事」に該当し、本来であれば、不祥事の発生部署の所属長が直ちに不祥事の概要をコンプライアンス統括責任者である本店リスク管理部長に報告する必要があったにもかかわらず、同事業部の担当部署の所属長、その上司であった総務部長、同事業部担当の常務理事らは、本店リスク管理部長に報告せず、本件不正貸付を隠蔽した(以下「本件不正貸付の隠蔽」という)。この本件不正貸付の隠蔽は、令和2年8月26日、本店コンプライアンス統括課への内部通報を端緒として、東部事業部の事実確認により発覚したものである。 2 不正貸付の概要(調査報告書18ページ以下) JAおおいた東部事業部では、貸付申込書等の原本が存在しなくても、共済課の端末で共済約款貸付の実行ができる状況にあった。A氏は、借金返済の資金や生活費や遊興費(パチンコ)に窮していたが、東部事業部のずさんな運用(業務処理一覧表と貸付申込書等の原本を突合して確認する作業手順が行われていない)を悪用して、共済契約者から共済約款貸付の申込みがあったことを仮装し、自ら端末を操作して共済約款貸付を実行し、自己の指定する口座に振り込ませて共済貸付金を不正取得しようと考えた。A氏の妻、実母の夫、妻の父親及び飲食店を経営するh社(代表者は妻の父親)が共済に加入していることから、A氏は、これら親族の共済契約を利用して本件不正貸付を行うことにした。 まず、A氏は、平成30年8月3日、A氏の妻が8万円の共済約款貸付の申込みをしてきたことにして、本件不正貸付を行うことにし、A氏の妻名義の貸付申込書と請求書を無断で作成した。請求書には、貸付金の振込口座としてJAおおいた湊支店の自己名義の口座を指定し、事後的に残高通知書が自宅に送付されて本件不正貸付が発覚するのを防ぐため、残高通知書を直送しない設定を選択した。この場合、残高通知書は、共済課に送付されることになるが、A氏は、共済課に送付された残高通知書を無断で抜き取って廃棄していた。 次に、A氏は、平成31年1月28日、A氏の妻が4万円の共済約款貸付の申込みをしてきたことにして、再び本件不正貸付を行うこととし、A氏の妻名義の貸付申込書等を作成せず、共済課の端末に直接この共済約款貸付に関するデータを入力して、全国本部払いで自己名義の口座に貸付金4万円を振り込む手続を行った。組合払いの場合、伝票セットもプリントアウトし、支店において伝票セットと貸付申込書等を突合して振込口座に貸付金を振り込む処理を行うことになっていたことから、本件不正貸付の発覚を防ぐためには貸付申込書等を作成する必要があったのに対し、全国本部払いの場合、全共連から貸付金が直接振り込まれ、支店において伝票セットと貸付申込書等を突合することがないため、これらの書類を作成する必要はなかったためである。 以後、このように、A氏は、A氏の妻、実母の夫、妻の父親及び飲食店を経営するh社名義を使って、次々と貸付申込書等を作成せず、端末上で虚偽の共済約款貸付の申込みをして、自己名義の口座に貸付金を振り込ませるという本件不正貸付を繰り返した結果、本件不正貸付は、平成30年8月3日から令和2年3月31日までの間、合計28回繰り返され、被害総額は983万7,000円に及んだ。 3 不正貸付の隠蔽(調査報告書22ページ) 令和2年7月22日、国東支店において、共済コンプライアンス点検が実施されたが、その際、「点検対象契約一覧表(証書貸付)」に記載されている書類のうち、貸付申込書がない共済約款貸付があることが判明した。A氏は、貸付申込書等を作成せずに本件不正貸付を行っていたことから、このように「点検対象契約一覧表(証書貸付)」に記載されている貸付申込書が存在しないという事態が生じた。国東支店長H氏は、A氏に、貸付申込書がないと伝えたが、A氏は、申込書を提出していると虚偽の説明をした。H氏は、A氏に対し、今から支店へ来るよう伝えたが、A氏は、嘘をつき続けてその場を逃れようと考え、これを拒否したため、連休明けの同月27日に事情を聴くということになった。 A氏は、連休中である同月25日、H氏へ電話連絡して、相談をしたい旨を申し出たことから、H氏は、26日16時30分から、総務課長であったI氏とともに、A氏と国東支店において面談した。A氏は、本件不正貸付の事実を自供し、貸付申込書等の書類なく本件不正貸付を行ったこと、その際、名義を無断で使用したこと、パチンコで多額の現金を費消したのが動機であることなどを話した。I氏は、自分の上司である総務部長、A氏の上司である暮らし応援部長と金融・共経課長に電話連絡をして、A氏の本件不正貸付について報告し、その翌日の同月27日午前7時30分から、A氏から再度詳しく事情を聴くことになった。この日以降、A氏は、自宅待機とされた。 A氏からの事情聴取が終わった後、総務部長は、金融・共経課長や国東支店長らに対し、時系列を整理し、今回の共済契約者が誰で金額はいくらなのか、他に類似案件がないかを確認するように指示した。総務部長以下の参加者は、まずは本件不正貸付の事実確認をして共済契約者に説明することを優先すべきものと考え、本店に本件不正貸付を報告すべきという話にはならなかった。 A氏がA氏の妻らの名義を無断で使用して貸付申込書等の書類を作成し(又は貸付申込書等を作成せず)、JAおおいたに対して虚偽の共済約款貸付の申込みを行い、共済貸付金を不正取得した行為は、私文書偽造罪及び詐欺罪という犯罪行為であり、不祥事対応要領の「不祥事」に該当し、本来であれば、不祥事の発生部署の所属長が直ちに不祥事の概要をコンプライアンス統括責任者であるリスク管理部長に報告する必要があったが、JAおおいたでは不祥事が多発しており、今回のA氏の本件不正貸付が公表されれば、JAおおいたの社会的信頼はさらに著しく毀損されるおそれがあった。 そこで、東部事業部担当常務理事、総務部長、暮らし応援部長、金融共済課長らは、親族がA氏に代わって共済貸付金を返済するのであれば、被害回復はなされること、親族も本件不正貸付を公表しないように強く懇願していることなどの状況から、本件不正貸付を本店へ報告せず、本件不正貸付が公表されないようにするという対応をとることとした。 4 第三者委員会によるアンケート調査結果(調査報告書45ページ以下) 不祥事第三者委員会は、調査と並行して、JAおおいたの職員等2,054人を対象とするアンケート調査を行い2,041通の回答を得ている(回収率99%)。全12問からなるアンケート項目のうち、【質問5】及び【質問6】は、職員等による原因分析となっているので、その質問及び回答並びに第三者委員会によるコメントを検討したい。 【質問5】(複数回答可) あなたは、今回の東部事業部における共済貸付金の着服事件の原因は何だと思いますか。その原因として感じておられるものはどれですか。あてはまるものに〇をつけてください。 このアンケート結果に対して、第三者委員会は、「一般に不祥事が生じた場合にこのようなアンケートを行うと、当事者の個人的資質や、全体としてのコンプライアンス意識の欠如などが、原因として多く挙げられる傾向がある」としたうえで、JAおおいたの場合、「共済契約獲得等のノルマが厳しく、職員の負担が大きいから」を原因として挙げる者が多いという点を「きわめて特徴的である」と評している。厳しいノルマと不正の関係について、第三者委員会は、「共済ノルマの負担が重たいことが不祥事発生の原因となる」ということは、自由記載欄を読むことで理解することができるとしているので、「自由記載欄」の分析を追記しておきたい。自由記載欄で圧倒的多数の意見は、「共済、その他ノルマの軽減、廃止」を求めるものであり、全体数に対する割合は19.4%であったということである。第三者委員会は、アンケート自由記載欄のコメントを37件、報告書に記載しているが、その中で、ノルマが不正につながると指摘しているコメントを引用しておきたい。 【質問6】(複数回答可) あなたは、今回の東部事業部における共済貸付金の着服事件が隠蔽された原因は何だと思いますか。あてはまるものに〇をつけてください。 この調査結果について、第三者委員会は、「内輪で穏便に済ませようとする内向きの意識や、これまでJAおおいたが不祥事続きであり、『これ以上不祥事を起こすことができない』という危機意識に、幹部職員のコンプライアンス意識の低さが相まって、『これ以上不祥事を表沙汰にすることができない』という誤った意識が生まれ、結果として、今回の本件不正貸付の隠蔽が起きた、と職員は考えていることが窺える」と評価している。 5 不祥事第三者委員会による原因論(調査報告書77ページ以下) 第三者委員会は、上記のアンケート結果も踏まえたうえで、原因論として、「不正貸付」と「不正貸付の隠蔽」とを分けて分析しているので、それぞれの項目を挙げておきたい。 6 第三者委員会による再発防止策(調査報告書89ページ以下) 上記の「原因論」を踏まえ、第三者委員会は、再発防止策を次のように提言している。 特徴的な再発防止策の詳細を検討する。 まず、「(7) 牽制の利いた仕組み、体制の確立」では、今や一般金融機関で定着しているスリーライン・ディフェンスという考え方について、JAにおいても信用事業、共済事業においてはスリーライン・ディフェンスに近い体制をとることを目指すべきであるとしたうえで、JAおおいた東部事業部共済課においては、第一線からして全く機能していなかったことを挙げ、「ひとたび職員が悪心を起こせば、いつでも不正が可能となってしまう」と結論づけている。 さらに、「(10) 内部通報制度の活性化」では、「内部通報制度が活性化されていると、隠蔽に対する牽制が強く働くことになり、『所詮不祥事の隠蔽(不祥事を表沙汰にしないこと)はできないから、内部からの情報漏洩で発覚するぐらいならば、公式に報告をするべし』という覚悟が、組織の中に根付くことになる」とその利点を挙げ、外部の弁護士事務所の受付窓口を職員の「よろず相談窓口」のようなものから、明確に通報に特化したものとするべきであると提言している。 そして、「(11) ノルマの見直し」については、共済契約獲得をはじめ、各種ノルマの負荷によって苦しんでいる職員が多くいること、また、ノルマ達成のために自爆営業をして可処分所得が減っている職員がいること(そのような職員は、金銭の取扱いには不適格な人材となってしまう)、ノルマによって職員に達成感がなくモチベーションが下がってしまっているということに照らすならば、現行のノルマを現実的な数値にするように見直すとともに、本来業務の妨げにならないようなシステムに再構築することが必要であると考えられるとしている。 【調査報告書の特徴】 本調査報告書を読んでいて驚かされたのは、JAおおいた幹部職員による不祥事隠蔽体質の根深さであった。ノルマを果たすための「自爆営業」という表現も初めて目にするものであった。農業協同組合として、JAおおいたが特殊なのかどうかまで、第三者委員会は言及していないが、大分県知事による「業務改善命令」では、「平成20年6月1日発足以降、不祥事に関して業務改善命令と幾度にもわたる報告徴求を発出してきた」と書かれているように、不祥事が頻発していたことは間違いないようである。 1 悉皆調査委員会の設置 JAおおいたでは、不祥事第三者委員会の調査中に、複数の新たな不祥事が発覚したことを契機に、第三者委員会とは別に、「悉皆調査委員会」を設置して、まだ発覚していない不正行為や不適切行為を「総ざらい」するという異例の事態になっている。悉皆調査委員会は、2021(令和3)年3月末を目途に調査結果をまとめる予定であると公表している。 2 「自爆」営業とは 報告書には、繰り返し「自爆営業」という用語が使われている。そこで、第三者委員会による定義を確認しておきたい。 第三者委員会もこうした「自爆営業」が不正の原因となっているとして、アンケートの自由記載欄を参照して、次のようなJAおおいたの業務実態を紹介している(調査報告書79ページ)。 そのうえで、結論として、「過大なノルマによる可処分所得の減少やモチベーションの低下などが、本件不正貸付を含むJAおおいたで立て続けに起きている不祥事の背景となっていることは間違いないところであると考えられる」とも述べている。 3 JAおおいたによる業務改善計画 2月8日、JA大分は、「業務改善計画書の提出について」を重要なお知らせとして、大分県から受けていた業務改善命令に伴う業務改善計画書を提出したことを公表した。大分県から出されていた5項目の業務改善命令と、JAおおいたの業務改善計画の概要を検討したい。なお、大分県から「業務改善命令」を受けたことについては、10月9日付で、JAおおいたのサイトで「重要なお知らせ」として掲載されていたのだが、その後、削除された模様である。当初のリリースには、5項目の改善命令の前提として、以下の文言が置かれていた。 なお、大分県のサイトから、業務改善命令を行う理由を合わせて引用しておきたい。 【大分県業務改善命令項目1】 東部事業部の不祥事件に係る役職員の責任の明確化 【大分県業務改善命令項目2】 過去の不祥事件の検証に基づくコンプライアンス研修を強化 【大分県業務改善命令項目3】 職員の適格性に基づく適正な人事管理と広域人事異動の拡充等による本店のガバナンス強化 【大分県業務改善命令項目4】 電算システムを含めた事務処理手法の見直しを通じた内部牽制機能の強化 【大分県業務改善命令項目5】 役員と職員が一体となった法令等を遵守する健全な組織風土の改革 JAおおいたによる業務改善計画は、関係者に厳正な処分を行い、内部通報制度の改善では、弁護士による外部窓口の設置と制度の周知を行うこととし、スリーライン・ディフェンス機能を強化するなど、業務改善につながる項目に言及されており、一定の効果は期待できる内容であると評価できる。また、ノルマ(個人目標)の大幅な削減が実現すれば、役職員のモチベーション向上に寄与する可能性は高い。とはいえ、本項目の冒頭で記したように、「業務改善命令」を受けたことをサイトから削除して、これを隠すようにも見える姿勢は、これまでの不祥事の隠蔽行為の延長にあるように感じるところである。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第35回】 「基本に返って計算チェックを徹底せよ」 公認会計士 石王丸 周夫 1 合計が合わないミス 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例35-1】 貸借対照表の流動資産の合計が合わない。 (出所) 株式会社インターワークス「第30回 定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 【事例35-1】には、間違いが2つあります。 まず1つ目は、前回取り上げたミスと同じものです。同じ勘定科目が2つ掲載されているというミスです。 この貸借対照表では「前払費用」が2つもあります。【事例35-1】の会社は、2020年6月8日にこの事例を含む定時株主総会招集通知を公表し、2020年6月17日に記載事項の一部訂正を行っています。それによると、正しくは、下の方の「前払費用」が「未収入金」だったそうです。このようなミスを見逃したまま決算書を公表してしまわないように、「勘定科目の素読をしましょう」というのが、前回の話でした。 次に2つ目のミスです。これが今回のテーマになります。流動資産の部を見てください。「現金及び預金」から始まって、「貸倒引当金」まで記載されていますが、これらの金額を足し合わせても、ゴシックで記載されている「流動資産」の合計値に一致しないのです。 この決算書の表示単位は千円で、千円未満の端数は切り捨てて表示されています。したがって、記載された金額を単純に足し合わせても、ピタリとは一致しませんが、それは問題ではありません。問題は、切捨て表示の影響を明らかに超えるような不一致があることです。 流動資産の各科目を足し合わせた金額が1,736,465千円ですが、ゴシック表示の流動資産の合計値は1,802,815千円となっています。差額が66,350千円(ゴシック表示の流動資産合計値が過大)です。 流動資産の内訳科目について切り捨てられた端数金額の合計を推定すると、最大で4,995円になります。次のような計算です。まず、切り捨てられる金額は千円未満の端数なので、1科目につき最大999円です。この貸借対照表の流動資産には6科目ありますが、貸倒引当金は貸方残の科目(控除項目)なので、これ以外の5科目について999円ずつ切り捨てられたとします。そうすると、「999円 × 5科目 = 4,995円」です。 以上から、前掲の差額66,350千円は、端数切捨ての影響を明らかに越えた差額だとわかります。つまり異常値です。 2 異常値の原因を特定する 不一致の差額が異常値だとわかったら、次はどこが間違いなのかを探らなければなりません。 合計が一致しない場合、可能性としては以下の3つが考えられます。 このうち①に該当する場合は、他の合計計算にも影響が出ているはずなので、簡単にわかります。流動資産合計値と固定資産合計値を足し合わせた金額が資産合計の金額に一致するかどうかを確かめればよいのです。そうすると、ここでは1千円ずれていますが、それは端数切捨ての影響と考えられるため、異常なしということになります。 したがって、原因は上記②となります。②の場合、どの科目の残高が間違っているかは見ただけではわかりません。転記元の書類又はデータと突合し、転記ミスを見つける必要があります。 3 基本の徹底を 結論を言うと、【事例35-1】では、転記ミスの数字は流動資産の「その他 7,372」でした。これが、正しくは「その他 73,721」だったのです。 転記するケタを間違えたと思われます。このようなミスはよく見かけます。類似事例としては、この連載の【第9回】の【事例9-2】、【第11回】の【事例11-1】、【第22回】の【事例22-5】があります。 これらのミスを防止することは難しく、【第22回】で紹介したような、転記作業のシステム化(自動化)や決算書の表示単位の変更(千円から百万円に変更して、表示する数字の個数を減らす)といった対策もありますが、会社の置かれた環境によっては採用に制約があります。したがって、起きてしまったミスを決算公表前に発見することが重要になってきます。方法としては「計算チェック」になります。【第12回】でも述べましたが、計算チェックを習慣化すべきです。 決算書の作成業務というのは、昔に比べればシステム化が進んでいるとはいえ、手作業に依存している部分もまだまだあります。「会計ソフトを使っているのだから、転記ミスなど起こるはずはない」と思っている人もかなりいますが、それは違います。【事例35-1】のような基本的かつ影響甚大なミスが公表決算書において起こっている事実を直視すべきでしょう。まさに「論より証拠」です。 なお、ミスの防止には類似事例の蓄積も大事なので、以下に一例を紹介しておきます。 【事例35-2】 項目合計欄における数字の転記ミス。 (出所) 株式会社立花エレテック「第91回 定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 訂正後の固定負債合計は「2,452」となっていました。 つまり、この事例では、数字の並びを間違えて転記してしまったようです。 貸借対照表の合計欄でミスが起こることは【第12回】の【事例12-2】でも触れましたが、いずれも計算チェックで発見可能です。基本の徹底を心がけましょう。 〈今回のまとめ〉 決算書のチェックは、基本に立ち返り、計算チェックを習慣化しましょう。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第12回】 「オンライン会議時に常にカメラをオンにするよう命令したらリモートハラスメントに該当するのか」 弁護士 柳田 忍 【Question】 コロナ禍をきっかけに、当社でもオンライン会議システムを導入しましたが、従業員から「オンライン会議時に常にカメラをオンにするよう命令することはリモートハラスメント(リモハラ)だ」との指摘がありました。どのように対応すべきでしょうか。 また、リモートハラスメント(リモハラ)防止のために気をつけるべき点は何ですか。 【Answer】 常にカメラをオンにするように命じるのではなく、カメラをオンにすべき打ち合わせの対象を限定するなどの運用が望ましいと思われます。リモハラ防止対策としては、「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」のタイプのハラスメントの防止に重点を置いた対策も有用であると思われます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 リモートハラスメントとは リモートハラスメント(リモハラ)とは、リモートワーク(テレワーク)中やリモートワーク(テレワーク)に伴って行われるハラスメントを指すと言われている。コロナ禍をきっかけにリモートワークやテレワークを実施することになったが、従前の働き方とは異なる配慮が必要になる場面が多く、対応に苦慮している企業も多いようであり、特に、オンライン会議システムの利用については、利用に不慣れであるといった事情やプライバシーの観点などからトラブルが生じやすい。 質問における従業員の意見については、使用者サイドとしては、「勤務時間中の業務のためのオンライン会議についてカメラをオンにするよう義務づけることの何が悪いのか。現実の会議に出席するのと同様であろう」という意見が多いようだが、話はそう簡単ではないように思われる。 ある言動がリモハラに該当するか否かについては、コロナハラスメントと同様、パワハラ、セクハラ、マタハラといった典型的なハラスメントの基準が参考になるのではないかと思われる(拙稿第3回参照)。例えば、在宅勤務中に私服で出席したウェブ会議において、服装について性的なコメントがなされ、その結果、就業環境が害されたような場合には、環境型のセクハラ(拙稿第1回参照)に該当する可能性がある。 2 「個の侵害」に該当するか否か ウェブ会議中に常にカメラをオンにするよう命じることの問題点を検討するに際しては、パワハラの6類型の6つ目の「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」のタイプのパワハラ(拙稿第1回参照)が参考になると思われる。勤務時間中の業務のための打ち合わせであっても、在宅勤務中のオンライン会議は個の領域にわたらざるを得ないものであり、個の侵害のおそれが常についてまわるものだからである。 いわゆる「パワハラ指針」(令和2年1月15日厚労省告示第5号)においても「労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること」が「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」に該当すると考えられる例としてあげられている。個の領域の側面からは、オンライン会議は「職場外」と言い得るし、打ち合わせの頻度等次第では「継続的に監視」しているに近い状態になり得る。 また、オンライン会議においては、現実の会議と異なり、自分の映像を自分で管理することができない。すなわち、相手方がオンライン会議の様子を本人に知られずに録画したりスクリーンショットを撮影したりすることができるものであり、オンライン会議でカメラをオンにするということは、これらの肖像権の侵害になり得る行為の対象となるリスクにさらされるということを意味する。 オンライン会議において顔を映さないのは失礼であるという考えはそれなりに一般的なものであるし、互いの顔を見ながら打ち合わせをすることは円滑なコミュニケーションを図るための合理的な手段であると言えることから、原則として、使用者は従業員に対してオンライン会議でカメラをオンにするよう命じることができるものと思われる。しかし、上記の観点からは、カメラをオンにすべき打ち合わせの対象を、外部の取引先や依頼者との間の会議と一部の内部の打ち合わせに限定するなどの運用が望ましいものと思われる。 3 今後を見据えたハラスメント対策を講じる リモハラの対策についても、コロナハラスメントと同様、基本的には典型的なハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)について法や指針により義務づけられている対策が有用であると思われる(拙稿第3回参照)。もっとも、従前のハラスメント対策においては「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」タイプのハラスメントの対策についてはあまり重点が置かれていなかったように思われる。 もともとリモートワーク・テレワークが働き方改革を推進する働き方の一環として推奨されていたことに照らすと、リモートワーク・テレワークはコロナ禍後もある程度実施されるものと思われる。よって、今後を見据えて「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」タイプのハラスメントの防止にも重点を置いて対策を講じるのがよいのではないかと思われる。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第15回】 「改正会社法の概要と留意点」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 鏡味 靖弘 〔質 問〕 令和3年3月1日施行の改正会社法(令和元年法律第70号)における主な改正内容はどういったものでしょうか。 〔回 答〕 会社法の改正により、株主総会に関する規律、取締役等に関する規律その他の事項について見直しがなされました。主な改正内容は以下のとおりです。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務執行の一層の適正化を図ることを目的として、令和元年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)が令和3年3月1日に施行された(ただし、一部については令和4年の施行予定)。主な改正事項は以下のとおりである(以下、改正後の会社法を「新法」という)。 1 株主総会資料の電子提供制度の創設 (1) 電子提供制度 株主総会資料の電子提供制度(法令上の用語は「電子提供措置」)が定められたことにより(新法325条の2以下)、株式会社は、定款で定めることによって株主総会資料等の電子提供措置を採用することができることとなった。 「電子提供措置」とは、 電磁的方法により株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置のことをいい、ウェブサイトでの掲載等がこれに当たる。 (2) 招集手続の見直し 株式会社が電子提供措置を採る場合には、公開会社であるか非公開会社であるかを問わず一律に、総会の日の2週間前までに招集通知を発しなければならない(新法325条の4第1項)。また、株主総会の招集通知を書面で行う必要がある場合(会社法299条2項各号)には、①株主総会の日の3週間前又は②株主総会招集通知(書面)を発した日のいずれか早い日から株主総会の日後3ヶ月を経過するまでの間、総会の日時・場所・目的事項等や計算書類・事業報告記載事項等の一定の情報について電子提供措置を行わなければならない(新法325条の3)。 (3) 書面交付請求 電子提供措置制度を採用する株式会社であっても、インターネットを利用することが困難である株主の利益に配慮するため、書面交付請求制度が設けられている(新法325条の5)。これにより、株主は、株式会社に対し、株主総会資料に記載すべき事項を記載した書面の交付を請求することができる。 2 株主提案権の濫用的行使を制限するための措置の整備 株主提案権の濫用事例(特定の株主が大量の議案を提出する等)を防止するため、新法においては、株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数が制限(上限10個)された(新法305条4項)。株主が提出しようとする議案数が10を超える場合には、超過部分については議案要領の通知請求権(会社法305条1項)が認められないこととなる。 なお、議場において提案する議案数に制限が加えられたわけではないことに注意が必要である。 3 取締役の報酬に関する規律の見直し 取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させ、また、株式会社が業績等に連動した報酬等をより適切かつ円滑に取締役に付与することができるようにするため、主に以下のような見直しがなされた。 4 会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備 役員等にインセンティブを付与するとともに、役員等の職務の執行の適正さを確保するため、役員等がその職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を株式会社が補償することを約する補償契約や、役員等のために締結される保険契約に関する規定が設けられた。 (1) 補償契約 新法にいう「補償契約」とは、新法430条の2第1項各号に掲げる費用等の全部又は一部を、役員等に対して当該株式会社が補償することを約する契約をいう(新法430条の2第1項)。補償の対象となるものとしては、例えば責任追及の訴え等の対応に必要な弁護士費用、会社法429条の責任(役員等の第三者に対する損害賠償責任)によって生じる損失等が挙げられる。 なお、補償契約によっても、全ての費用が補償の対象とされるわけではなく、通常要する費用額を超える部分等、一定の費用・損害については補償を受けることはできない(新法430条の2第2項)。 株式会社が役員等と補償契約を締結するには、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決議を経なければならない(新法430条の2第1項)。なお、補償契約については、利益相反取引ないし自己代理には該当しない(新法430条の2第6項、第7項)。 (2) 役員などのために締結される保険契約(D&O保険) 役員等のために締結される保険契約(役員等賠償責任保険契約。D&O保険)は、会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務執行に関して責任を負うこと、又は責任の追及にかかる請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が補填することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいう(新法430条の3第1項)。職務執行の結果、役員が会社や第三者に対して責任を負うことになったような場合に保険者が役員に生じた責任を補填するものである。 旧法下でも解釈上有効であるとされていたが、新法では明文が設けられた。 会社は、役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議によらなければならない(新法430条の3第1項)。また、役員等賠償責任保険契約の締結については、利益相反の規定や自己代理の規定の適用は排除される(新法430条の3第2項、第3項)。 5 業務執行の社外取締役への委託に関する規律見直しや社外取締役設置の義務付け (1) 業務執行の社外取締役への委託に関する規律見直し 改正前は、業務を執行した社外取締役は社外性を失うこととされていたが、新法では、一定の要件下であれば業務を執行しても社外性を失わないこととされた(新法348条の2)。 一定の要件とは、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)の場合である。 なお、社外取締役に業務執行を委託するときは、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)による必要がある(新法348条の2) (2) 社外取締役設置の義務付け 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社であるものに限る)である上場会社については、社外取締役の設置が義務付けられた(新法327条の2)。 6 株式交付制度の創設 企業買収に関する手続の合理化を図るため、株式会社が他の株式会社を子会社化するに当たって、買収会社が、被買収会社を子会社とするため、自社株式を被買収会社の株主に対して交付することができる制度(株式交付)が創設された(新法2条32号の2、新法774条の2から同774条の11、新法816条の2から同816条の10)。 自社株式を対価として他の会社を子会社化する手段には「株式交換」があるが、これは完全子会社化するためのものでありニーズが限られていた。株式交付は、完全子会社化を予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするために自社株式を交付することを認める制度といえる。 なお、株式交付においては、株式を交付する会社(対象会社を子会社化しようとする会社)を「株式交付親会社」といい、被買収会社を「株式交付子会社」という(新法774条の3第1項かっこ書)。 7 施行時期 前記2から6は令和3年3月1日に施行されたが、1(株主総会資料の電子提供制度の創設)については未施行(令和4年中の施行予定)であることに注意が必要である。 (了)
2021年株主総会における 実務対応のポイント 三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠 いよいよ株主総会準備のシーズンとなった。今年は長引くコロナ禍への対応に加え、3月1日より改正会社法が施行になったことから、株主総会についても改正会社法への対応が中心となる。本稿では3月決算・6月株主総会を前提とした対応を中心に解説する。 1 「取締役の個人別の報酬等の決定に関する方針」の決定 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)で有価証券報告書提出会社と監査等委員会設置会社については、取締役の個人別の報酬等の決定に関する方針として、法務省令に掲げる事項(会社法施行規則98条の5)を取締役会で決定しなければならないこととなった(会社法361条7項)。 この報酬等の決定方針は施行日(2021.3.1)までに決定しておくことになるが、そうでなければ、できるだけ早いタイミングで決定しておくことが望ましいであろう。 なお、法務省令に委任された事項の解釈については、会社法施行規則等の改正に際しての意見募集の結果(以下、パブコメ結果という)に示されているものが参考となる。 報酬等の決定方針は改正対応における注目ポイントの1つであり、事業報告による開示も必要となるので留意されたい。実務的には、それまでの有価証券報告書における報酬についての開示内容を参考にして対応することになろう。 2 招集通知関係 今回の改正会社法における招集通知の対応事項は多岐にわたっているので、漏れのないように注意が必要である。 3月決算会社については概ね適用となるが、法務省令には詳細な経過措置が設けられているため、以下ではそのポイントを解説する。 (1) 経過措置 ① 事業報告 原則として施行日(2021.3.1)前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告の記載は従前の例による(改正法務省令附則2条11項)とされているので、3月決算会社の事業報告から、改正後の会社法の対応が必要となる。 なお、補償契約及び役員等賠償責任保険契約の記載と、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載については、後述のとおり例外規定が設けられている。 ② 株主総会参考書類 原則として施行日(2021.3.1)までに招集の手続が開始された株主総会に係る株主総会参考書類の記載は、従前の例による(改正法務省令附則2条9項)とされている。 ここで「招集の手続が開始された」とは、株主総会参考書類の記載事項を含めて会社法第298条第1項各号に掲げる事項が取締役会の決議によって決定された時点を指すとされている(パブコメ結果60頁)。このため3月決算・6月株主総会の会社は改正法の適用を受けることになるが、補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する記載と、社外取締役を置くことが相当でない理由の記載については、例外規定が設けられている。 (2) 事業報告 今回の改正により事業報告の記載事項として追加されたのは、以下の項目である。 変更事項についての詳細な説明は割愛するが、改正事項を反映した全株懇モデルが公表されているので、作成にあたってはそれらも参考にされたい。 役員等賠償責任保険契約と補償契約に関する事項については、施行日(2021.3.1)以後に締結された役員等賠償責任保険契約と補償契約について、3月決算会社の事業報告から記載することとなっている(改正法務省令附則2条10項)。 締結には更新も含むとされているものの、3月1日以降3月末までの間に役員等賠償責任保険契約を締結するケースは少ないであろう。ただ、実際には事業報告に記載する事例が多いのではないかと思われる。 社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った事項については、すでに社外役員の主な活動状況として開示されている、取締役会への出席状況や取締役会における発言状況等(会社法施行規則124条4号イ~ニに掲げるもの)を除くものとされている。 従前の記載とは異なる内容での社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要の記載が求められているが、すでに開示している事項(会社法施行規則124条4号イ~ニ)と重複する場合であっても、社外取締役が果たすことが期待される役割との関連性を示した上で、当該社外役員が行った職務の概要をより具体的に記載することとされている(パブコメ結果47頁)。本件について、総会場にて株主から質問があった場合には、当該社外取締役が回答することが考えられるので、想定問答への対応も行っておきたい。 なお、社外取締役を置くことが相当でない理由(改正前会社法施行規則124条2項)については、施行日(2021.3.1)以後に到来する最初の事業年度の事業報告への記載が必要であるが(改正法務省令附則2条11項)、対象会社は極めて少ないので、影響はほとんどないであろう。 (3) 株主総会参考書類 株主総会参考書類における追加事項は、(2)で述べた事業報告における追加事項とほぼ同じものである。 会社役員の報酬議案については、確定額報酬(会社法361条1項1号)も含め、改定等の議案を提出するに際して、相当とする理由の説明が必要である(会社法361条4項)。当該議案の上程に際しては、改正会社法により定めることとなった取締役の報酬等の決定方針との平仄に留意したうえで、相当とする理由を説明することとなる。 役員等賠償責任保険契約及び補償契約に関する事項は、施行日(2021.3.1)以後に締結されるものについて適用されることとなっている(改正法務省令附則2条6項)。締結には更新も含まれており、任期中には更新のタイミングを迎えることになるので、新任役員で選任後に役員等賠償責任保険契約に加入することが予定されている場合なども含め、対象となる場合には選任議案に記載することになる。 社外取締役が果たすことが期待される役割に関する事項については、改正前においても、「当該候補者を社外取締役候補者とした理由」、「経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由」(会社法施行規則74条4項2号・5号)が記載事項とされている。従来の記載事項においても、果たすことが期待される役割に関連した内容での記載が想定されるところである。社外取締役への期待は年々高まっていることもあり、社外取締役の招聘に際しても期待事項を明確にし、社外取締役候補者と事前にすり合わせておくことが重要となってくるであろう。 なお、社外取締役への具体的な期待事項については、昨年7月に経済産業省から公表された「社外取締役ガイドライン」なども参考になる。 3 新型コロナに対応した株主総会の準備 昨年以来、株主総会の準備のメインが新型コロナ対応となって、早一年が経過した。株主総会での留意点としては、「感染防止対策の徹底」と「円滑な議事運営による総会時間の短縮化」などがある。また、昨年経済産業省・法務省より「株主総会運営に係るQ&A」が公表されており、今年の総会運営においても参考としたい。 なお、緊急事態宣言の発出・解除の動向等で状況は常に変化しており、緊急度合いに応じて対応も異なってくるので、常に情報収集には留意したい。 (1) 株主総会場での感染防止対策 下記の対応による感染防止対策は、ほぼ定着しており、今年もそれを踏襲することになる。 当社調査(当社の委託会社からのアンケート調査、以下同じ)によれば、昨年(2020年)6月総会における「1社あたりの平均出席株主数」は33名と、前年(2019年)の190名から82.6%という大幅減となった。本稿公開時点でもコロナの収束が未だ見えない状況ではあるが、おそらくはこれが来場者数の底となり、今年はほぼ昨年並みでの来場者数になるのではないかと推測される。 なお、難しい判断ではあるが、昨年の総会で来場者が大幅に減少した場合には、会場スペースの見直しも検討したい。 (2) 議事運営上の対応 昨年は総会時間を極力短縮するため、議事運営の簡素化・省略化が進められた。その中でも事業報告の簡略化等があり、当社調査でも昨年は65.7%の会社が実施した。そのほか「連結・単体計算書類の説明の簡略化等(60.1%)」、「監査報告の省略(40.1%)」などの取組みも行われている。 シナリオの見直しについては、新型コロナの影響や対応のほか、中長期戦略について説明することで、来場株主の満足度は確保できると思われる。 昨年は感染防止のために極力短時間で終わらせる運営が中心であり、当社調査では6月総会の平均時間も34分となって、前年の55分からは21分も短縮化されている。なお、今年についてはお土産を廃止した会社が相次ぐ中ではあるが、やはり1年に一度、株主総会に参加したいとの出席意欲のある株主も相当程度存在することから、その株主への満足度向上のためにも、質問を受けた場合については従来どおりの丁寧な説明が望まれる。このため総会時間については昨年を下限として、今年は若干伸びる傾向になるのではないかと思われる。 (3) 招集通知の対応 従来、いわゆる狭義の招集通知においては、株主へ総会の開催日時を通知し、出席を依頼する文言となっていた。コロナ禍においては、株主の来場に際して慎重な対応を依頼していることから、招集通知の文言も昨年4月に経団連より公表された「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデル」により、来場いただく株主の数を一定程度制限することを想定したパターンを採用する会社がほとんどであった。本年もこの傾向は続くであろう。併せて、事前の議決権行使方法を丁寧に説明することになろう。 (4) バーチャル株主総会への対応 昨年より注目が集まったバーチャル株主総会であるが、経済産業省からは本年2月に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」が公表され、バーチャルオンリー型の実施も可能とする改正産業競争力強化法が今国会に提出されるなど、環境整備が進められている。昨年6月総会でも100社を超える実施事例が出ており、今年も導入事例は増えると思われる。 いわゆるハイブリッド参加型が主流と思われるが、配信業者の手配や収集通知等への追加の記載もあるので、早めに方針を決めることが望ましい。 (了)
《速報解説》 会社法施行規則等及び会社計算規則の改正等に対応した 『経団連ひな型』の改訂版が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年3月9日、日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)を公表した。 これは、2019年12月の会社法改正に伴い、会社法施行規則等が改正されたこと、「時価の算定に関する会計基準」「収益認識に関する会計基準」「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の策定に伴い、会社計算規則が改正されたことなどに対応するものである。 今回の改訂に際して、計算書類関係(連結計算書類及び注記表を含む)では多数の「記載上の注意」が記載されている。このため、経団連ひな型の「記載例」を利用する場合には、「記載上の注意」をよく読み、自社の状況を反映するように適宜工夫して記載する必要があると考えられる。 また、【本ひな型の適用時期】にも注意する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 事業報告関係の主なポイント 1 重要な親会社及び子会社の状況 事業報告作成会社とその親会社との間に事業報告作成会社の重要な財務及び事業の方針に関する契約等が存在する場合には、その内容の概要を記載する。 2 事業年度中に会社役員(会社役員であった者を含む)に対して職務執行の対価として交付された株式に関する事項 事業年度中に事業報告作成会社の会社役員(会社役員であった者を含む)に対して「職務執行の対価として当該会社が交付した」当該会社の株式がある場合、次の会社役員(会社役員であった者を含む)の区分ごとに株式の種類、種類ごとの数及び交付を受けた者の人数をそれぞれ記載する。 3 会社役員に関する事項 会社役員に関する記載事項について、次の事項などを記載する。 4 補償契約に基づく補償に関する事項 事業報告作成会社が取締役、監査役又は執行役との間で補償契約(会社法430条の2第1項の契約)を締結している場合には、①契約の相手方の氏名と共に、②当該契約の内容の概要を記載する。 5 役員等賠償責任保険契約に関する事項 事業報告作成会社が保険者との間で役員等賠償責任保険契約を締結している場合、所要の事項を記載する。 6 取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額(業績連動報酬等、非金銭報酬等、それら以外の報酬等の総額) 会社役員に支払った報酬その他の職務執行の対価である財産上の利益(以下「報酬等」という)の額を、①業績連動報酬等、②非金銭報酬等、③それら以外の報酬等の種類別に、かつ、取締役、会計参与及び監査役(監査等委員会設置会社の場合は監査等委員である取締役以外の取締役及び監査等委員である取締役並びに会計参与、指名委員会等設置会社の場合は取締役及び執行役並びに会計参与)ごとに区分して、それぞれの総額と員数を記載する。 7 業績連動報酬等に関する事項 報酬等に業績連動報酬等が含まれている場合には、当該業績連動報酬等について次の事項を記載する。 8 非金銭報酬等に関する事項 報酬等に非金銭報酬等が含まれている場合には、当該非金銭報酬等の内容を記載する。 9 報酬等に関する定款の定め又は株主総会決議に関する事項 会社役員の報酬等についての定款の定め又は株主総会の決議による定めがある場合、それぞれにつき、以下の事項を記載する。 10 各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針に関する事項 株式会社において、各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針(会社法361条7項の方針又は会社法409条1項の方針)を定めているときは、以下の事項を記載する。 11 各会社役員の報酬等の額の決定の委任に関する事項 株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨及び以下の事項を記載する。 12 各社外役員の主な活動状況 社外役員のうち社外取締役については、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要も記載する。 Ⅲ 計算書類関係の主なポイント 以下では、基本的に、連結計算書類に関して解説する。 1 連結貸借対照表 次の改訂が行われている。 2 連結損益計算書 「記載上の注意」に、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」を適用する会社については、顧客との契約から生じる収益は、適切な科目をもって連結損益計算書に表示する。なお、顧客との契約から生じる収益については、原則として、それ以外の収益と区分して連結損益計算書に表示するか、区分して表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記する(会社計算規則3条、116条)と記載している。 3 連結株主資本等変動計算書 「株式引受権」を新設している。 4 注記表の一覧表 作成すべき注記表の一覧について、改正会社計算規則を反映するとともに、留意点を詳細に記載している。 5 収益及び費用の計上基準 「収益認識に関する会計基準」を反映して、次の「記載例」が示されている。 これに、例えば、支払条件、変動対価、独立販売価格の比率に基づいて取引価格の履行義務に対する配分が重要な会計方針に含まれるものと判断される場合の記載例(「記載上の注意」(4))も並べると次のようになる。 6 収益認識に関する注記 「収益認識に関する会計基準」を反映して、次の「記載例」が示されている。 これに、例えば、「当連結会計年度及び翌連結会計年度以降の収益の金額を理解するための情報」の記載例(「記載上の注意」(4))も並べると次のようになる。 7 会計上の見積りに関する注記 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」を反映して、次の「記載例」が示されている。 これに、例えば、「会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報」の記載例(「記載上の注意」(3))も並べると次のようになる。 8 金融商品に関する注記 「時価の算定に関する会計基準」等を反映して、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を記載しない記載例」と「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項も記載する記載例」の2つが記載されている。 「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項も記載する記載例」は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 国税庁HPにてOECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」の仮訳が公表される ~感染の世界的拡大で顕在化した移転価格に関する問題のうち4つの優先課題について実務的視点を提供~ 弁護士 下尾 裕 OECDは、2020年12月18日に、「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(原題:Guidance on the transfer pricing implications of the COVID-19 pandemic。以下「本ガイダンス」という)を公表していたところ、このたび、国税庁において、本ガイダンスの仮訳が公表された。 本稿においては、当該仮訳の内容を前提に、本ガイダンスの要点について取り上げる。 [1] 本ガイダンスの位置付け 本ガイダンスは、既に公表されているOECD移転価格ガイドライン2017年版(以下「OECD移転価格ガイドライン」という)を前提に、新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大(以下「コロナ拡大」という)により生じ又は顕在化した移転価格上の問題に対し、独立企業間原則及びOECD移転価格ガイドラインをどのように適用するかという観点から、特に という4つの優先課題について、実務的視点を提供するものである。 [2] 本ガイダンスにおける各優先課題に対する実務的視点 1 比較可能性分析 この優先課題は、コロナ拡大が、独立企業間取引での価格設定に大きな影響を及ぼす可能性があり、また、比較可能性分析を行う際に用いる過去のデータに対する信頼性を低下させる可能性があるとの問題意識を出発点とするものである。 ここでは、 などに言及されている。 2 損失及び新型コロナウイルス感染症特有の費用の配分 この優先課題は、コロナ拡大により、多くの多国籍グループにおいて発生した例外的かつ非経常的な営業費用等の損失を関連企業でどのように配分するかという問題である。 ここでは、 といった点について言及されている。 3 政府支援プログラム この優先課題は、政府支援プログラム、すなわち、政府又は公的機関が資格ある納税者に対し、交付金、補助金、返済免除要件付融資といった直接的又は間接的な経済的利益を提供するプログラムが、その利用可能性、内容、期間及び利益率如何により、移転価格に影響を及ぼすのではないかという議論である。 特に、多くの新型コロナウイルス感染症関連の支援プログラムが一時的支援として設計されていることとの関係で、その利用条件を踏まえ、影響力の程度を考慮すべきことが冒頭で指摘されている。 具体的には、 といった点について、詳細に検討されている。 4 事前確認(APA) この優先課題は、コロナ拡大が将来に向けた一定期間を対象とする既存のAPAの合意時には予想していなかった経済状態の重大な変化をもたらしていることを背景とするものであり、既存のAPAに対する影響及び交渉中のAPAに対する影響についてそれぞれ検討している。 特に、既存のAPAに対する影響の内容については、コロナ拡大の下でも既存のAPAがなお拘束力を有することを前提に、 といった点について検討されている。 (了)
《速報解説》 株式報酬の見直しに係る改正法人税法等政省令が公布される ~改正会社法の施行に伴い関連規定を整備~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 令和元年の会社法改正に伴い、令和2年度税制改正において株式報酬に関する税制上の取扱いについて見直しが行われている。 このたび令和3年2月25日付け官報第439号において、この株式報酬の見直しに関する改正政省令(「法人税法施行令等の一部を改正する政令(政令第39号)」及び「法人税法施行規則及び租税特別措置法施行規則の一部を改正する省令(財務省令第4号)」)が公布された。 本稿ではこの改正政省令の概要について解説を行う。 1 会社法の改正 まず、今回の改正政省令に関係する改正会社法(令和元年法律第70号)の改正事項をまとめると、以下の通りである。 (1) 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め 取締役の報酬等を決定する手続等の透明性を向上させるため、取締役の報酬等として自社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこととされた(会社法361①三・四)。 (2) 出資の履行を要しない報酬等としての株式の付与 業績に連動した報酬等を円滑に取締役に付与できるように、上場会社は、取締役の報酬等として株式の発行又は自己株式の処分をするときは、募集株式と引換えにする金銭の払込み又は現物出資財産の給付を要しないこととされた(会社法202の2)。 (3) 増加する資本金の額等 取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行した場合に増加する資本金の額等についての規定が整備された(会社計算規則42の2、42の3、54の2)。 事前交付型の規定(取締役等が株式会社に対し割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合)、事後交付型の規定(取締役等が株式会社に対し割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合)、株式引受権に関する規定が定められている。 (4) 株式引受権 株式引受権とは、取締役等がその職務の執行として株式会社に対して提供した役務の対価としてその株式会社の株式の交付を受けることができる権利(新株予約権を除く)をいう(会社計算規則2③三十四)。 2 株式報酬の見直しに関する政令 改正政令(法人税法施行令等の一部を改正する政令(政令第39号))における改正事項は以下の通りである。 (1) 法人税法施行令第8条第1項第1号イ《株式の発行又は自己の株式の譲渡の場合の増加資本金等の額》 株式の発行又は自己の株式の譲渡により増加する資本金等の額の規定(法人税法施行令第8条第1項第1号)から除外するものとして、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行した場合(※1)が追加される。 (※1) 事後交付型の場合及び株式と引換えに給付された債権(役務の提供の対価として生じた債権に限る)がある場合を除く。 (2) 法人税法施行令第8条第1項第1号の2《事前交付型の場合の増加資本金等の額》 取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行した場合(※2)には、役務の提供に係る費用の額のうち既に終了した事業年度において受けた役務の提供に係る部分の金額に相当する金額(※3)だけ資本金等の額が増加することとなる。 (※2) 事後交付型の場合及び株式と引換えに給付された債権(役務の提供の対価として生じた債権に限る)がある場合を除く。 (※3) 株式が法人税法第54条第1項《譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例》に規定する特定譲渡制限付株式である場合には、同項の規定の適用がないものとした場合の金額をいう。 (3) 法人税法施行令第8条第1項第15号《分割型分割により分割法人において減少する資本金等の額》 分割型分割により分割法人において減少する資本金等の額の計算で使用する「分割法人の前事業年度終了時の負債」に「株式引受権」を含めて計算することとなる。 (4) 法人税法施行令第23条第1項第2号《所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等》 非適格分割型分割が行われた場合のみなし配当の計算基礎である「所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額」の計算で使用する「分割法人の前事業年度終了時の負債」に「株式引受権」を含めて計算することとなる。 (5) 法人税法施行令第69条第10項第3号《利益の状況を示す指標》 業績連動給与における「利益の状況を示す指標」の計算で使用する「貸借対照表に計上されている総負債」に「株式引受権」を含めて計算することとなる。 (6) 法人税法施行令第70条第1項第1号《過大な役員給与の額》 取締役の報酬等として自社の株式又は新株予約権を付与しようとする場合には、定款又は株主総会の決議により、株式又は新株予約権の数の上限等を定めなければならないこととなったため、定款又は株主総会等の決議による限度額を超える過大給与の判定規定にも反映することとなる。 (7) 法人税法施行令第71条の3《確定した数の株式を交付する旨の定めに基づいて支給する給与に係る費用の額等》 事前確定届出給与として確定した数の株式又は新株予約権を交付する場合の損金算入額は、「正常な取引条件で行われた場合」には、交付決議時価額に相当する金額となる(赤字部分が追加)。 取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行した場合(※4)の増加する資本金等の額となる「役務の提供に係る費用の額」は、交付決議時価額に相当する金額となる。 (※4) 事後交付型の場合及び株式と引換えに給付された債権(役務の提供の対価として生じた債権に限る)がある場合を除く。 (8) 法人税法施行令第111条の2第4項《譲渡制限付株式の範囲等》 特定譲渡制限付株式の交付が正常な取引条件で行われた場合における役務の提供に係る費用の額は、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行したとき(消滅債権(※5)がないとき)は、特定譲渡制限付株式の交付された時の価額となる。 (※5) 消滅債権とは、特定譲渡制限付株式と引換えに給付された債権その他その役務の提供をする者にその特定譲渡制限付株式が交付されたことに伴って消滅した債権で役務の提供の対価として個人に生ずる債権をいう。 (9) 法人税法施行令第113条《引継対象外未処理欠損金額の計算に係る特例》 法人税法施行令第123条《合併等により移転をする資産及び負債》 法人税法施行令第123条の9《特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例》 上記各規定において、「負債」に「株式引受権」を含めて計算することとなる。 (10) 法人税法施行令第123条の10第15項《非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等》 非適格合併等があった場合に、被合併法人等の株主等が特定報酬株式(※6)を有していたときは、資産調整勘定又は負債調整勘定の計算で使用する非適格合併等対価額には、次の①から②を控除した金額相当額を含めないこととなる。 (※6) 特定報酬株式は、役務の提供の対価として被合併法人等により交付された被合併法人等の株式等(事後交付型を除く)のうち、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式が発行されたとき(消滅債権がないとき)におけるその株式をいう。 (※7) 特定報酬株式が法人税法第54条第1項《譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例》に規定する特定譲渡制限付株式である場合には、同項の規定の適用がないものとした場合の金額をいう。 (11) 租税特別措置法施行令第39条の10の3《特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る所得の計算の特例》 「負債」に「株式引受権」を含めて計算することとなる(※8)。 (※8) 租税特別措置法施行令第39条の110、所得税法施行令第61条、改正後法人税法施行令第119条の3についても同様。 3 株式報酬の見直しに関する省令 改正省令(法人税法施行規則及び租税特別措置法施行規則の一部を改正する省令(財務省令第4号))における改正事項は以下の通りである。 (1) 法人税法施行規則第25条の9《譲渡制限付株式を対価とする費用》 分割型分割(承継譲渡制限付株式が交付されるものに限る)に伴い、分割型分割に係る分割法人の特定譲渡制限付株式につき給与等課税額が生ずることが確定した場合には、特定譲渡制限付株式に係る役務の提供に係る費用の額は、特定譲渡制限付株式に係る消滅債権の額に相当する金額に次の①に掲げる割合を乗じて計算した金額とその相当する金額からその計算した金額を控除した金額に次の②に掲げる割合を乗じて計算した金額との合計額その他の合理的な方法により計算した金額とし、承継譲渡制限付株式に係る費用の額は、消滅債権の額に相当する金額からその合理的な方法により計算した金額を控除した金額とされている(赤字部分が変更)。 上記2(7)の改正政令に伴い、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行したとき(消滅債権がないとき)の消滅債権の額は、特定譲渡制限付株式の交付された時の価額として計算することとなる。 (2) 法人税法施行規則第27条の16第2項《非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等》 法人税法施行令第123条の10第15項《非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等》の非適格合併等が分割型分割に該当する場合には、役務の提供に係る費用の額のうち分割法人の分割型分割の日前に終了した各事業年度において受けた役務の提供に係る部分の金額は、特定報酬株式の交付された時の価額に次の①に掲げる割合を乗じて計算した金額と特定報酬株式の交付された時の価額からその計算した金額を控除した金額に次の②に掲げる割合を乗じて計算した金額との合計額その他合理的な方法により計算した金額となる。 (※9) 特定報酬株式が法人税法第54条第1項《譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例》に規定する特定譲渡制限付株式である場合には、法人税法施行令第111条の2第1項第1号《譲渡制限付株式の範囲等》に規定する譲渡制限期間終了の日をいう。 4 施行期日 改正政省令については、「会社法の一部を改正する法律」の施行日(令和3年3月1日)から施行される(経過措置あり)。 (了)
2021年3月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.409を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。