日本の企業税制 【第87回】 「2度目の緊急事態宣言下での対応」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 新年早々、11都府県(対象都府県)に緊急事態宣言が発出された。まず、1月8日から2月7日の31日間が、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、続いて1月14日から2月7日の25日間が、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県である。これらの対象都府県では、本稿執筆時点(2021年1月19日)において新規感染報告が過去最多を記録し続け、医療体制がひっ迫している状況である。 1月18日に招集された第204回国会の菅総理の施政方針演説では、次のような方針が表明された。 一方、企業のうち、12月決算会社においては、すでに年度決算作業が開始しており、また3月決算会社においても第3四半期の作業が行われているところである。昨年の経験も踏まえ、現状、決算作業に著しい滞りは見られないが、政府においては制度的対応が着実に進められている。 〇有価証券報告書等の提出期限の延長 金融庁は、1月8日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出されたことを受け、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 金融商品取引法に基づく開示書類(有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書等)について、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められていること等が示されている。 〇みなし提供 法務省は、昨年12月4日、株主総会資料としての単体計算書類等のWEB開示によるみなし提供を可能とする「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表した。 昨年の定時株主総会においては、新型コロナウイルス感染症の影響で監査等の作業に遅れが生じる可能性を考慮し、時限的措置として株主総会資料としての単体計算書類貸借対照表及び損益計算書並びに事業報告の一部記載事項のWEB開示によるみなし提供を可能とする措置がなされたが、この措置はすでに昨年11月15日に失効となっており、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大の状況等を踏まえ、再度同措置を可能とするための会社法施行規則及び会社計算規則の改正を行うものである(本年9月30日までの時限的措置)。 〇ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施事例集の公表 経済産業省は、昨年12月23日、ハイブリッド型バーチャル株主総会の更なる実務への浸透を図るため、株主総会における実施事例や実際の運用における考え方等を示した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集(案)」を公表した。 この事例集では、映像通信なしの音声通信のみによる開催の事例、役員や議長のオンラインでの出席の事例、総会の録音・録画・転載の禁止の事例の他、通信障害が発生した場合でも、通信障害の防止のために合理的な対策を取っていた場合には、決議取消事由には当たらないと解することも可能であるとして具体的な対応策を例示し、第三者によるなりすましへの対応については、基本的にはID、パスワード等を用いたログイン方法が相当としその他の方法についても例示をする等、コロナ禍での今年の株主総会運営に参考となる考え方が示されている。 〇テレワーク補助金の所得税法上の取扱い 国税庁は、1月15日、在宅勤務に係る費用を会社が負担した場合に、従業員に対する給与として課税する必要があるか否か等の取扱いを示したFAQを公表した。 FAQによると、従業員が家事部分を含めて負担した通信費・電気料金のうち、「業務のために使用した部分」として合理的に計算した金額を精算する方法により従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はないこととされている。 その「業務のために使用した部分」の合理的な計算方法として、次の算式が、通信費、電気料金それぞれについて示されている。 【通信費】 【電気料金】 〇税務手続きのデジタル化 令和3年度税制改正では、国・地方公共団体を通じたデジタル・ガバメントの推進による行政手続コストの削減、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により顕在化した課題への対応等の観点から、納税環境のデジタル化が一挙に進められることとなった。 税務署長に提出する国税関係書類において、実印及び印鑑証明書を求めている手続(例えば、担保提供関係書類、遺産分割協議書)を除き押印義務が廃止される。 また、電子帳簿保存制度における手続きが抜本的に簡素化される。 税務署長の承認制度が廃止されるとともに、これまで必要とされた記録の真実性及び可視性の確保に係る次の要件のうち、訂正等履歴要件・相互関連性要件・検索要件は不要となる一方、ダウンロード要件(国税庁等の当該職員の質問検査権に基づくその国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードの求めがある場合には、これに応じることとすること)が加えられる。 地方税においても、地方税共通納税システムの対象税目に固定資産税・都市計画税・自動車税種別割・軽自動車税種別割が追加され(令和5年度分以後)、給与所得者に係る特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子的送付も可能となる(令和6年度以後の年度分の個人住民税について適用)。 (了)
令和2年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「令和2年分からの適用で判断に迷う事項Q&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 最終回は、令和2年分の確定申告から適用される事項のうち、判断に迷う事項を中心として5項目を取り上げ、Q&A形式でまとめることとする。なお、本稿では特に指定のない限り、令和2年分の確定申告を前提として解説を行う。 〈ひとり親控除、寡婦控除の適用〉 【Q1】 次の居住者は、ひとり親控除又は寡婦控除の適用を受けることができるか。なお、表中の「合計所得金額」は令和2年分の金額であり、「子」及び「扶養親族」は居住者と生計を一にしているものとする。 【A1】 ①のケースは寡婦控除、③のケースはひとり親控除の適用を受けることができる。 -解説- 第1回【5】で解説したとおり、令和2年度税制改正により、ひとり親控除が創設され、寡婦控除の見直しが行われた。 居住者がひとり親又は寡婦である場合には、ひとり親控除(35万円)又は寡婦控除(27万円)の適用を受けることができる(所法80、81)。 ひとり親、寡婦とは、次の要件を満たす人をいう(所法2①三十、三十一、所令11、11の2)。 〈ひとり親の要件〉 (※) 総所得金額等が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者又は扶養親族となっていない子に限られる。 〈寡婦の要件〉 以上より、①から⑤のケースについて、ひとり親又は寡婦に該当するか検討する。 〈所得金額調整控除の適用〉 【Q2】 夫(個人事業主)の合計所得金額は1,100万円、妻(給与所得者)の合計所得金額は900万円である。夫婦の子(17歳、所得なし)は、夫の控除対象扶養親族とされている。妻は年末調整で所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けていない。妻は、確定申告により所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けることができるか。 【A2】 妻は、年齢23歳未満の扶養親族を有しているので、確定申告において所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けることができる。 -解説- 第1回【4】で解説したとおり、令和2年分の所得税から所得金額調整控除が適用される。 2つの所得金額調整控除のうち、「子ども等を有する場合の調整」は、給与等の収入金額が850万円を超える居住者のうち、次の(ア)から(ウ)のいずれかに該当するものに適用される(措法41の3の3①)。 2人以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、いずれか1人の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなされる(所法85⑤)。よって、本ケースでは、年齢17歳の子は、夫の控除対象扶養控除とされているので、妻の控除対象扶養親族には該当しない(妻は扶養控除の適用を受けることはできない)。 一方、所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用では、上記と異なり、いずれか1人の居住者の扶養親族にのみ該当するとはみなされず、2人以上の居住者がいずれも扶養親族を有することとなる(措通41の3の3-1)。 したがって、年齢17歳の子は、夫と妻いずれの扶養親族にも該当するので、妻は所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けることができる。 〈助成金等に対する課税〉 【Q3】 飲食業を営む個人事業主である。新型コロナウイルス感染症の影響を受け経営状況が大幅に悪化し、持続化給付金と雇用調整助成金の支給を受けた。これらは、所得税の課税対象となるのか。 【A3】 個人事業主が支給を受けた持続化給付金と雇用調整助成金は、いずれも所得税の課税対象となる。 -解説- 新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、国や地方公共団体から個人に対して助成金や給付金(以下、「助成金等」という)が支給されることがある。 給付された助成金等の課税関係は、次のとおりである。 (1) 所得税が非課税となる助成金等 (2) 所得税が課税される助成金等 なお、国税庁ホームページに、助成金等の課税関係が例示されているので参考にされたい。 〈白色申告者の災害による損失の取扱い〉 【Q4】 飲食店を営む白色申告者である。緊急事態宣言の発令に伴い臨時休業を実施したこと等により、食材の廃棄損が多額に計上された。また、感染を防止するため消毒液や空気清浄機等を多数購入しており、事業所得は大幅な損失となった。この損失は、所得税の計算においてどのように扱われるのか。 【A4】 純損失の金額(損益通算をしても、なお控除しきれない部分の金額)のうち、「被災事業用資産の損失の金額」に該当するもの(食材の廃棄損、感染を防止するための物品の購入費等)については、翌年以後3年間にわたって繰越控除することができる。 -解説- 青色申告書を提出している場合、純損失の金額は翌年以後3年間にわたって繰越控除することができる(所法70①)。一方、白色申告の場合、純損失の金額のうち繰越控除できるのは、「変動所得の金額の計算上生じた損失の金額」と「被災事業用資産の損失の金額」のみである(所法70②)。 「被災事業用資産の損失の金額」とは、棚卸資産又は事業用の固定資産等に生じた災害による損失の金額をいい、その災害に関連するやむを得ない一定の支出も含まれる(所法70③、所令203)。 新型コロナウイルス感染症に関連した「被災事業用資産の損失の金額」については、次のとおり取り扱って差し支えないものとされている。 (参考1)事業用資産に生じた災害による損失等の取扱い 今般の新型コロナウイルス感染症に関連した「事業用資産に生じた災害による損失等」については、次のとおり、取り扱って差し支えありません。 〔災害により生じた損失等(翌年以後に繰り越される損失等)に該当する・・例〕 ・飲食業者等の食材(棚卸資産)の廃棄損 ・感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損 ・施設や備品などを消毒するために支出した費用 ・感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気洗浄機等の購入費用 ・イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損 ※ 「災害により生じた損失等」とは、棚卸資産や固定資産に生じた被害(損失)に加え、その被害の拡大・発生を防止するために緊急に必要な措置を講ずるための費用が該当します。 〔災害により生じた損失等(翌年以後に繰り越される損失等)に該当しない・・・例〕 ・客足が減少したことによる売上げ減少額 ・休業期間中に支払う人件費 ・イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場借上料、備品レンタル料 ※ 上記のように、棚卸資産や固定資産に生じた被害の拡大・発生を防止するために直接要した費用とは言えないものについては、「災害により生じた損失等」に該当しません。 (※) 国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」38ページより抜粋。 したがって、本ケースの場合、食材の廃棄損や感染を防止するための物品の購入費は、「被災事業用資産の損失の金額」に該当するものとして、繰越控除の対象となる。 なお、白色申告の場合、純損失の繰戻しによる還付の請求をすることはできない(所法140①)。 〈確定申告書の記入方法〉 【Q5】 2社から支給されている給与等の収入金額を合計すると900万円である。夫の控除対象扶養親族となっている年齢17歳の子がいることから、確定申告において所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受ける。確定申告書第二表の「配偶者や親族に関する事項」はどのように記入するのか。 【A5】 子(扶養親族)の氏名、続柄、生年月日を記入し、「その他」欄の「調整」に〇をつける。なお、子のマイナンバーを記入する必要はない。 -解説- 第2回【2】(2)で解説したとおり、令和2年分の第二表には、「配偶者や親族に関する事項」欄が設けられている 。 「その他」欄の「調整」に〇をつけるのは、所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用がある場合で、「配偶者(特別)控除の対象とならない同一生計配偶者で特別障害者に該当する人がいる場合」と「控除対象扶養親族、16歳未満の扶養親族の対象とならない特別障害者又は23歳未満の扶養親族がいる場合」である。 具体的には、次のようなケースが想定される。 (連載了)
給与計算の質問箱 【第13回】 「テレワークの費用負担の取扱い」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社ではテレワークをする従業員の携帯代や自宅の水道光熱費等の一部を負担することを検討しています。 在宅勤務手当として一定額を支給する方法と経費精算する方法が考えられますが、所得税が課税となるか非課税となるかご教示ください。 A それぞれの方法に係る課税関係について計算例を交えて、以下解説する。 * * 解 説 * * 1 在宅勤務手当として一定額を支給する方法 この場合、所得税は課税(給与所得課税)となる。 〈例:25歳、扶養親族0人、在宅勤務手当20,000円(2021年1月から支給)のケース〉 2 経費精算する方法 (1) 消耗品 会社が従業員に仮払いし、従業員が消耗品を購入し、領収書を会社へ提出して仮払いとの差額を精算する場合や、従業員が消耗品を購入し、領収書を会社へ提出して精算する場合、所得税は非課税である。 (2) 通信費 下記の算式により計算した通信費を支給する場合や、算式によらずにより精緻な方法で業務に使用した通信費を算出して支給する場合、所得税は非課税である。 (出典:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」) 〈例:25歳、扶養親族0人、2021年1月の在宅勤務日数15日、従業員の携帯代8,000円のケース〉 (3) 水道光熱費 下記の算式により計算した水道光熱費を支給する場合や算式によらずにより精緻な方法で業務に使用した水道光熱費を算出して支給する場合、所得税は非課税である。 (出典:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」) 〈例:25歳、扶養親族0人、2021年1月の在宅勤務日数15日、従業員の自宅の電気代8,000円、業務に使用した部屋の床面積10㎡、自宅の床面積30㎡のケース〉 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第13回】 「家屋とその敷地の譲渡先が異なる場合」 -居住用家屋の敷地の一部の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、11年前に取得した家屋とその敷地を居住の用に供していました。 本年1月、その家屋と敷地を売却しましたが、多額の譲渡損失が発生しました。 なお、その売却にあたっては、買主側の都合により、家屋はAに譲渡し、その敷地はBに同時に譲渡しました。買主であるAとBは親子とのことです。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡ついて、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 居住用家屋とその敷地の譲渡が同時に行われたものであれば足り、その譲渡先が異なっても差し支えありません。 また、居住用家屋とその敷地の譲渡が同時である場合において、居住用家屋の庭として利用していた部分の土地の譲渡先と、居住用家屋及びその敷地の用に供されている部分の土地の譲渡先が異なるときも、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます(措通41の5-9(居住用家屋の敷地の一部の譲渡)(1))。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
相続税の実務問答 【第55回】 「生前贈与の加算と贈与税の期限後申告」 税理士 梶野 研二 [答] お兄様は、令和元年分の贈与税の期限後申告書を提出したうえで、お父様から贈与を受けた200万円を相続税の課税価格に加算した相続税の申告書を提出します。期限後申告により納付することとなった贈与税(本税)の額は、相続税額から控除することになりますが、無申告加算税や延滞税は相続税額から控除することはできません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続開始前3年以内の贈与財産の加算と贈与税額の控除 相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その者は、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして相続税額を計算することとなります(相法19)。この場合、その贈与について課せられた贈与税があるときは、相続税法の規定に従って算出したその者の相続税額からその贈与税額を控除した金額が、納付すべき相続税額となります(注1)。 (注1) 配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除又は外国税額控除を適用することができる場合には、それらの金額を控除した後の相続税額が、その者の納付すべき相続税額となります。 2 贈与税の申告がされていない場合 贈与により財産を取得した者は、相続税法の規定に従って計算すると贈与税額が算出されるときは、その年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の課税価格、贈与税額その他一定の事項を記載した贈与税の申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされています(相法28①)。 贈与税の申告書の提出期限内に申告書を提出しなかった場合には、税務署長による決定処分がされますが、決定処分がされるまでは、贈与税の期限後申告書を提出することができます(通法18①)。期限後申告書を提出した場合又は決定処分を受けた場合には、原則として無申告加算税が課されることとなります(通法66①)(注2)。 (注2) 期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税は課されません。なお、贈与税を納付すべき日までに納付しなかったことにより、延滞税が発生します(通法60①)。 3 贈与財産の価額の相続税の課税価格への加算と贈与税額控除 相続税法の規定によれば、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産の価額は、相続税の課税価格に加算するとともに、その財産に対する贈与税額を相続税額から控除することとされていますが、相続税の申告の際に贈与税の申告がされていないことに気がついた場合には、あらためて贈与税の申告をすることなく、この贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算し、贈与税額控除は適用しないとの簡便的な処理も、相続税と贈与税を併せた税負担が変わらないのであれば、許容されるのではないかと考える向きもあるかもしれません(注3)。しかしながら、相続税法は、そのような選択を認めていません。 (注3) いわゆる暦年贈与(相続時精算課税適用者以外の者が受けた贈与)に係る贈与税額については、相続税額の計算上控除しきれない金額があったとしても、この控除しきれない贈与税額の還付を受けることはできません。したがって、仮に、このような簡便的な処理をした場合、相続税と贈与税とを併せた税負担は、正しい処理を行った場合の税負担額とは異なることとなってしまいます。 したがって、相続税の申告に当たり、その価額が相続税の課税価格に加算される贈与があり、その贈与について贈与税の申告及び納税が必要であるにもかかわらず、その申告及び納税がされていない事実が確認された場合には、速やかに贈与税の期限後申告及び納付をする必要があります(相基通19-6)。この期限後申告により確定した贈与税額は、相続税法第18条までの規定により算出された相続税額から控除します。 なお、贈与税の期限後申告に伴い、原則として無申告加算税が賦課され、また法定納期限までに贈与税が納付されなかったことにより延滞税が発生しますが、これらの附帯税については、相続税額から控除することはできません(相法19①かっこ書き)。 4 ご質問の場合 お兄様は、令和元年中にお父様から200万円の贈与を受けており、贈与税の申告及び納付の義務がありますので、お兄様がお父様の相続が開始したことにより相続又は遺贈により財産を取得するかどうかにかかわらず、速やかに贈与税の期限後申告及び納付を行う必要があります。 ご質問の場合には、遺産分割協議の結果、お兄様はお父様の財産を取得することとなったとのことですから、お父様の相続開始前3年以内にお父様から贈与を受けた200万円は、相続税の課税価格に加算するとともに、相続税額の計算上、この200万円に係る贈与税の額を控除します。なお、無申告加算税及び延滞税は、控除することができる贈与税の額には含まれません。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第22回】 「選択型DCを導入した場合の留意点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 企業型DCとは 企業型DCとは、企業や企業に在籍する役職員が拠出した掛金とその運用収益との合計額により、将来の給付額が決定される年金制度の1つである。企業型DCは、全社員に拠出を義務付け、企業側が掛金を負担することが原則ではあるが、給与等を減額した上で、当該減額分を企業が掛金として負担するか給与等に上乗せするかを役職員が選択することもできる(以下、「選択型DC」という)。これら企業型DCは、導入する企業が年々右肩上がりに増加しており、2020年3月末時点において36,018社(723.1万人)に及んでいるとのことである(※1)。 (※1) 厚生労働省「規約数等の推移(規約数、事業主数、企業型年金加入者数、個人型年金加入者数)」 企業が給与等を減額した上で掛金を拠出する選択型DCの最大のメリットは、給与等を減額することで、企業が追加負担なく確定拠出年金制度に加入できることにある。そして、減額した給与等が損金算入可能な掛金負担額となることで個人所得税の節税につながるとともに、賃金総額や標準報酬月額が減少し、企業と役職員双方において社会保険料負担が軽減されることもメリットであるといえる。さらに、税制上は運用益が非課税となることも魅力だろう。 企業が選択型DCを導入することで、従業員にとっては給与額や厚生年金の額に影響があるため、その導入には従業員の理解こそ何より必要となる。現に、確定拠出年金法では、その導入に際して労使合意を求めており、この点が導入時の最大のネックであるように思われる(確定拠出年金法3①)。この点、厚生労働省社会保障審議会企業年金・個人年金部会は、従業員に対して、正確な説明を行うべきであるとして、法令解釈通知に明記すべきと要求しているところだ(※2)。 (※2) 厚生労働省「社会保障審議会企業年金・個人年金部会における議論の整理」17頁。 企業型DCは、運用先を本人が自由に選択でき、預貯金としての運用を選択することも可能であることから(※3)、説明においてはこのような運用方法のリスク等に重きが置かれていると推察される。 (※3) その他、DC制度については厚生労働省HP「確定拠出年金制度の概要」を参照のこと。 (2) 税務上の留意点 ① 定期同額給与への該当性 税務上、選択型DC導入時にまず問題となり得るのは、導入する場合における役員給与の減額である。この場合においては、定時改定時期に合わせて導入するケースや、企業形DCとして法人が追加負担するケースであれば、税務上のリスクはない(※4)。 (※4) 法令135三において、確定拠出年金法の定めに基づいて法人が負担した掛金は損金算入する旨が示されている。 問題は、定期同額給与における臨時改定事由に当たるか否かである。ここで、臨時改定事由の具体例としては、分掌変更や組織再編であれば臨時改定が認められるとしか示されていないが(法基通9-2-12の3)(※5)、定期同額給与を臨時に改定するやむを得ない事情があれば改定が可能である。しかし、選択型DCの導入がやむを得ない事情として認められるとは考えにくい。したがって、選択型DCを導入する場合は、定期同額給与の定時改定時期に合わせて行わなければ、一定額が損金不算入となる。 (※5) 【第11回】参照。 選択型DCを導入する場合において、意外と忘れがちな点であるように思われるため、留意が必要だろう。 ② 役員退職給与の過大性判断 もう1点留意したいのが、役員退職時における役員退職給与の過大性判断である。 企業型DCの対象となっていた役員が退職し、一時金として年金を受け取ることを選択した場合は退職所得となる。退職所得は一般に税額が優遇されているため、一時金として受け取る者が多いと思われるところ、通常、法人に役員の退職というイベントが発生した際には、法人から役員退職給与が支給されることがあり、当該役員退職給与が過大であれば、当該過大部分は損金算入されないのは周知のとおりである(法法34②、法令70二)(※6)。 (※6) 【第12回】参照。 この場合において、役員退職給与としての支給の他、役員であった期間における企業型DCの給付額をも勘案して、その役員退職給与の額が不相当に高額であるかどうかの判定を行うものとすると示されているため(法基通9-2-31)、こちらも留意が必要である。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第19回】 (最終回) 「おわりに」 公認会計士 佐藤 信祐 《終章:おわりに》 本連載では、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度に対する筆者の問題意識をまとめた。現時点で筆者が考えている「あるべき組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度」をまとめると下記のようになる。なお、本来であれば、グループ通算制度についても、発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係にまで広げるべきであると考えているが、第2回で解説したように、この点について分析するためには、諸外国の租税法を分析する必要があるため、ここではその対象から除外している。 (1) 組織再編税制、グループ法人税制の基本的な考え方 (2) 組織再編税制の計算項目 (3) その他諸税 (4) グループ通算制度との整合性 (※1) 株式交換等・株式移転に係る時価評価課税を残す場合には、親子逆転型の株式交換、完全支配関係内のスクイーズアウトの明確化を図るとともに(第8回)、単独株式移転をグループ法人税制の対象に含める(第5回)。 (※2) 第13回で解説したように、個人又は外国法人による支配関係が生じた場合の規制も必要になるため、欠損等法人の制度を廃止することは難しいと思われる。 本連載では、実務家の立場から、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の問題点を挙げるとともに、その解決策としての税制改正について検討を行った。もちろん、本連載で提案した税制改正は、実務家の問題意識から提案したものに過ぎないことから、実際には、全く異なる税制改正が行われると思われる。 なお、本連載では、諸外国の税制を分析していない。本来であれば、諸外国の税制を分析することにより、さらに深い分析を行う必要があると思われる。この点については、いずれ時間のある時に行いたい。 そして、今後も、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度が改正される可能性があることから、改正に応じて情報提供ができるように努める予定である。 (連載了)
基礎から身につく組織再編税制 【第24回】 「適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて解説します。 1 適格分割型分割を行った場合の資産・負債の受入れ(原則) 分割法人が適格分割型分割により、分割承継法人にその有する資産・負債の移転をしたときは、分割直前の帳簿価額で引継ぎをしたものとされるため、分割承継法人が受け入れる資産・負債の取得価額は、分割法人の分割直前の「帳簿価額」となります(法法62の2、法令123の3)。 「帳簿価額」とは、税務上の帳簿価額をいうため、税務上否認した金額も含めて受け入れることとなります(法基通12の2-1-1)。 2 適格分割型分割により受け入れた「棚卸資産」の取扱い 棚卸資産の取得価額は、次の金額の合計額となります(法令28③)。 3 適格分割型分割により受け入れた「減価償却資産」の取扱い (1) 受入価額 税務上の帳簿価額で引き継ぐこととなるため、税務上否認した金額(償却超過額)を含めた帳簿価額で引き継ぎます。 (2) 償却限度額の計算の基礎となる取得価額 受け入れた価額とは別に、償却限度額の計算の基礎となる取得価額は、次の金額の合計額となります(法令54①五ロ)。 (3) みなし損金経理 分割法人から引き継ぐ償却超過額は、分割承継法人において、過年度に償却費として損金経理した金額として取り扱われます。 分割法人の帳簿価額を減額して受け入れたときも、その減額部分を分割承継法人の過年度の損金経理額とみなすこととされています(法法31④⑤)。 (4) 耐用年数 耐用年数は、中古資産の耐用年数の規定を適用することができますが(耐令3①)、分割法人が中古資産の見積耐用年数によって計算していたときは、その耐用年数によることもできます(耐令3②)。 4 適格分割型分割により受け入れた「繰延資産・一括償却資産」の取扱い (1) 取得価額 減価償却資産と同様に、税務上の帳簿価額で引き継ぐこととなるため、税務上否認した金額(償却超過額)を含めた帳簿価額で引き継ぎます。 (2) みなし損金経理 分割法人から引き継ぐ償却超過額は、分割承継法人において、過年度に償却費として損金経理した金額として取り扱われます(法法32④⑥、法令133の2⑨)。 分割法人の帳簿価額を減額して受け入れたときも、その減額部分は分割承継法人の過年度の損金経理額とみなすこととされています(法法32⑦、法令133の2⑩)。 5 適格分割型分割により受け入れた「貸倒引当金」の取扱い 分割承継法人が貸倒引当金を分割法人から受け入れた場合は、分割承継法人の分割事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入することとなります(法法52⑪)。 6 所有期間の通算 受取配当等の益金不算入の関連法人株式等の判定、外国子会社配当益金不算入の外国子会社の判定、所得税額控除の配当元本の所有期間の計算において、分割法人が保有していた期間は分割承継法人で保有していたものとみなされます。 7 適格分割型分割により増加する「資本金等の額」 分割承継法人において分割により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①六)。 ① 加算項目 (※) 分割法人における分割型分割により減少する資本金等の額 ② 減算項目 8 適格分割型分割により増加する「利益積立金額」 分割承継法人において分割により増加する利益積立金額は、次のとおりです(法令9①三)。 ① 加算項目 ② 減算項目 適格分割型分割により増加する資本金等の額、利益積立金額の算式を図にすると、下記のようになります。 9 具体例 下記では具体例を用いて、適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについてみていきます。 〈分割法人の貸借対照表〉 〔前提〕 〔分割承継法人の受入税務仕訳〕 〇資産・負債 適格分割型分割の場合は、簿価で受け入れることとなります。 〇増加する資本金等の額 分割法人の分割型分割直前の資本金等の額に移転割合を乗じて計算します。 〇増加する利益積立金額 移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額と増加する資本金等の額を減算して計算します。 ◆適格分割型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いのポイント◆ 原則として資産は税務上の帳簿価額で受け入れることとなります。 分割法人の移転する資産・負債に対応する資本金等の額、利益積立金額を分割承継法人は引き継ぎます。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第10回】 「価格弾力性を理解する」 ~「マニア」にロック・オン!~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 《デジタル・ポット2.0/販売計画》 * * * カケイくんのような新製品好きのマニア、あなたの周りにもいませんか? 新製品の発売を待ち望み、即座にゲットする新しい物好きの人は、一定数いるものです。 新製品が世の中に普及していくプロセスを説明する考え方として、『イノベーター理論』が知られています。新製品をまず購入するのは、「イノベーター」と呼ばれるマニア層です。新しい物や最先端の物が大好きで、高価格でも新製品を購入する傾向があります。その後に新製品を購入するのは、「アーリー・アダプター」と呼ばれる層です。マニアではありませんが、流行や世の中の動向に敏感で、自らが良いと判断した新製品を抵抗なく取り込む層です。 新製品の市場投入に際し、こうした層をターゲットとして、あえて高価格設定することを「スキミング・プライシング(上澄み吸収価格設定)」と言います。マニア層や富裕層に狙いを定めてすくい取る(=skim)ということですね。iPhoneの価格戦略などが典型です。 * * * 《デジタル・ポット2.0/低価格シミュレーション》 * * * 【第2回】でも取り上げましたが、価格が1%下がったとき需要量が何%増えるかを「需要の価格弾力性」と呼びます。『デジタル・ポット2.0』は、販売価格を((@11,000円- @5,000円)÷ @11,000円 ≒)55%下げても、需要量は((6,000個 -4,000個)÷ 4,000個 =)50%しか増加しないので、需要の価格弾力性は(50% ÷ 55% ≒)0.9です。需要の価格弾力性が1より小さい場合、販売価格を下げても大幅に需要量が増えるわけではないので、売上高は減少します。また、販売価格を下げた分、1個当たりの限界利益も減るので、総利益は大きく減少してしまいます。 見方を変えると、需要の価格弾力性が小さい製品は、多少強気に高価格としても販売量が激減しないので、スキミング・プライシングが成功する見込みがあるといえます。 * * * 《セルフ・プランター/販売計画》 * * * 新製品の市場投入に際し、一気に市場へ普及するような低価格に設定することを「ペネトレーション・プライシング(市場浸透価格設定)」と言います。『イノベーター理論』の「イノベーター」や「アーリー・アダプター」だけでなく、それ以降に新製品を追随して採用する多数派層も含めた、広い層をターゲットにした戦略です。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 * * * 《セルフ・プランター/高価格シミュレーション》 * * * 『セルフ・プランター』は、販売価格を((@1,000円 - @800円)÷ @800円 =)25%上げただけで、需要量は((30,000個 -20,000個)÷ 30,000個 ≒)33%も減少してしまうので、需要の価格弾力性は(33% ÷ 25% ≒)1.3です。需要の価格弾力性が1より大きい場合、販売価格を上げると大幅に需要量が減るので、売上高は減少します。 裏返すと、需要の価格弾力性が大きい製品は、販売価格を下げることで一気に需要量が増えるので、ペネトレーション・プライシングが成功する可能性があります。 * * * * * * 累積生産量が増加するにしたがって、製品の単位当たりコストが減少していく現象は、「経験曲線効果」と呼ばれます。累積生産量が増えることで、能率が上がったり、作業方法が改善されたりすることが主な要因です。経験曲線効果が強く働くような製品は、大量生産することで単位当たりコストが下がるので、ペネトレーション・プライシングによって利益を得られる見込みがあるでしょう。 * * * (了)
税効果会計を学ぶ 【第21回】 「遡及適用及び修正再表示に関する税効果会計の取扱い」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、遡及適用及び修正再表示により繰延税金資産又は繰延税金負債を変更する場合の取扱いについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 遡及適用に関する取扱い 1 遡及適用 会計方針は、正当な理由により変更を行う場合を除いて、毎期継続して適用する(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)5項)。 正当な理由により会計方針を変更した場合、新たな会計方針は過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理する。これを「遡及適用」という(過年度遡及会計基準4項(9))。 新たな会計方針を遡及適用する場合には次の処理を行う(過年度遡及会計基準7項)。 2 遡及適用に関する繰延税金資産又は繰延税金負債 会計方針の変更により遡及適用した連結会計年度及び事業年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下「遡及適用した年度の比較情報」という)において、資産又は負債の額が変更される場合がある。 この場合、当該変更に伴い一時差異が生じるときは、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は、遡及適用した年度の比較情報に反映させることになる(税効果適用指針57項)。 3 子会社等の留保利益 子会社等が会計方針を変更し当該会社の留保利益が変更されることにより、遡及適用した年度の比較情報において子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の額が変更される場合がある。 この場合、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しているときは、当該一時差異の額の変更に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を遡及適用した年度の比較情報に反映させる(税効果適用指針58項)。 4 繰延税金資産の回収可能性 遡及適用に伴い、将来の利益の額が変更されることに対応して、繰延税金資産の回収可能性の判断における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額が変更される場合がある。 この場合、過年度遡及会計基準17 項(会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い)に従って会計方針の変更を行った年度以降において、変更後の将来の一時差異等加減算前課税所得を前提として、繰延税金資産の回収可能性を判断することになる(税効果適用指針59項)。 また、遡及適用により過年度において回収可能性適用指針15項から32項に従って判断した企業の分類を見直す場合、当該見直しに伴う影響は、会計方針の変更を行った年度の財務諸表に反映させる(税効果適用指針59項)。 5 遡及適用と税効果会計の適用の基本的な考え方 以上に述べた遡及適用に関する税効果会計の基本的な考え方は次のとおりである(税効果適用指針の「[設例12-1]会計方針の変更に伴う遡及適用による繰延税金資産の取扱い」を参照)。 ここで、繰延税金資産の回収可能性の判断は、会計上の見積り(過年度遡及会計基準4項(3))に該当する事項と考えられ、次のように処理する。 また、企業の分類及び繰延税金資産の取扱いについては、次のように処理する。 ※下記の記載は、会計方針の変更に伴い、新たな会計方針を遡及適用した結果、表示期間のうち最も古い期間の期首(X2年3月期の期首)における棚卸資産に係る将来減算一時差異が遡及適用前よりも大きくなったことにより、X2年3月期の期首において、将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じているとはいえない状況となったことを前提としている。 Ⅲ 修正再表示に関する取扱い 1 修正再表示 過去の財務諸表に誤謬が発見された場合、当該誤謬の訂正は過去の財務諸表に反映する。これを「修正再表示」という(過年度遡及会計基準4項(11))。 過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、次の方法により修正再表示する(過年度遡及会計基準21項)。 2 修正再表示に関する繰延税金資産又は繰延税金負債 過去の誤謬により修正再表示した連結会計年度及び事業年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下「修正再表示した年度の比較情報」という)において、資産又は負債の額が変更される場合がある。 この場合、当該変更に伴い一時差異が生じるときは、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を修正再表示した年度の比較情報に反映させる(税効果適用指針60項)。 3 子会社等の留保利益 子会社等において過去の誤謬により当該会社の留保利益が変更され修正再表示が行われた場合で、かつ、当該修正再表示した年度の比較情報において子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の額が変更される場合がある。 この場合、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しているときは、当該一時差異の額の変更に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を修正再表示した年度の比較情報に反映させる(税効果適用指針61項)。 4 繰延税金資産の回収可能性 修正再表示した年度の比較情報における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額や過年度において回収可能性適用指針15項から32項に従って判断した企業の分類を見直す場合、当該見直しに伴う影響は、当該修正再表示した年度の比較情報に反映させる(税効果適用指針62項)。 5 修正再表示と税効果会計の適用の基本的な考え方 以上に述べた修正再表示に関する税効果会計の基本的な考え方は次のとおりである(税効果適用指針の「[設例12-2]修正再表示による繰延税金資産の取扱い」を参照)。 ※下記の記載は、次のことを前提としている。 (a) B社では、X3年3月期において、過去の期間(X2年3月期以前)の売上の過大計上が発見されたため、修正再表示を行った。 (b) X1年3月期及びX2年3月期の回収可能性適用指針におけるB社の分類は、(分類3)に該当する。 (c) 修正再表示により、表示期間のうち最も古い期間の期首(X2年3月期の期首)の回収可能性適用指針におけるB社の分類は、(分類5)に該当する。 ここで、修正再表示した年度の比較情報における将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額や企業の分類の判断を変更する場合、当該変更に伴う影響は、当該修正再表示した年度の比較情報(X2年3月期)に反映させることになる。 前述の前提により、X2年3月期の期首において、修正再表示によりB社の分類は(分類5)に変更されることから、B社がX2年3月期の期首において修正再表示前に計上していた繰延税金資産の回収可能性はないものとなる。この処理は、新たな会計方針の遡及適用の場合(「Ⅱ 遡及適用に関する取扱い」)とは異なるものである。 (了)