〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第79回】 「不動産賃料の減額覚書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は不動産管理会社ですが、新型コロナウイルス感染症の影響により、一定期間テナント等の賃料の減額を行う予定です。減額に伴い覚書を作成する予定ですが、収入印紙は貼付する必要はありますか。 【事例1】テナント賃料の減額覚書 【事例2】駐車場賃料の減額覚書 【事例3】土地賃料の減額覚書 【事例1】テナント賃料の減額覚書は、建物の賃貸借契約であり、不課税文書となる。 【事例2】駐車場賃料の減額覚書は、駐車場等の施設の賃貸借契約であり、不課税文書となる。 【事例3】土地賃料の減額覚書は、記載金額のない第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)に該当する。 [検討] 賃貸借契約が課税文書に該当する場合とは 印紙税法上において、賃貸借契約の成立を証する契約書のうち、課税文書に該当するものは第1号の2文書である地上権又は土地の賃借権の設定に関する契約書に該当するものである。 【事例1】は建物の賃貸借契約であり、地上権及び土地の賃貸借の設定に関する契約書に該当しない。したがって不課税文書となる。 【事例2】は駐車場として土地を賃貸借する場合を除き、駐車している車両の管理をしている場合や駐車場として地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等を行い駐車場として利用させる場合には、単なる土地の賃貸借契約には該当せず、施設の賃貸借契約であり、不課税文書となる。 【事例3】は土地(更地)の賃貸借契約における賃料(基通別表第2 重要な事項の一覧表 第1号の2文書(4)権利の使用料)を変更することとされており、重要な事項を変更する契約書であり、原契約と同一号である土地の賃借権の設定に関する契約書に該当する。 なお、賃料は第1号の2文書の記載金額とはならない(第1号の2文書の記載金額は、設定の対価たる金額とされており、地代や賃借料は含まれない)。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第30回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 5 法人税法22の2第3項 (1) 申告調整を通じた近接日基準による益金算入 法人税法22条の2第3項は次のとおり定めている。 要するに、法人税法22条の2第3項は、資産の販売等を行った場合において、その資産の販売等に係る資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の確定申告書に、その販売等に係る収益の額の益金算入に関する申告の記載があるときは、その額につき、その事業年度の確定した決算において収益として経理したものとみなして、法人税法22条の2第2項の規定を適用することを定めている。 法人税法22条の2第2項は、近接日基準に基づく収益計上に当たって確定決算による経理、すなわち株主総会の承認を受けた決算による収益経理を求めていた。3項は、かかる確定決算による経理ではなく、当初申告(法法2三十一)で資産の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度の益金の額に算入する申告調整を利用して近接日基準による収益計上を行う道を確保したのである。 上述のとおり、法人税法22条の2第2項は、近接日基準による収益計上を認める条件として、確定決算による収益経理を求めており、これは、いわば、形式面・手続面において会計処理と税務処理の一致を求めるものであるが、その影響はさほど大きくはなさそうである。法人税法22条の2第3項が申告調整による近接日基準の採用を認めているからである。 もっとも、申告調整による収益経理を認める法人税法22条の2第3項は、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って引渡日又は役務提供日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合は適用できない(同項括弧書)。 この意味で、3項によって認められうる資産の販売等に係る収益の会計処理と税務処理の不一致は、引渡・役務提供基準という法人税法の収益計上時期に係る原則的ルールの前で力を失うことに注意が必要である。ここでは、引渡・役務提供基準こそが原則的ルールであることを意識させられる。 また、1項に基づく申告調整と3項に基づく申告調整が競合する場合には、2項が1項に優先して適用されることから、3項に基づく申告調整がいきることになるかという問題がある。 (了)
租税争訟レポート 【第49回】 「個人事業主の必要経費該当性 (第一審:大阪地方裁判所2018(平成30)年4月19日判決、控訴審:大阪高等裁判所2018(平成30)年11月2日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 〈第一審〉 〈控訴審〉 【事案の概要】 本件は、Aの屋号でLPガス、A重油、灯油等の燃料小売業を営む原告が、平成22年分から平成24年分までの所得税の確定申告において、原告が代表者を務める株式会社B(以下「B社」という)にAの業務を委託したとして、その外注費を事業所得の金額の計算上必要経費に算入したところ、兵庫税務署長が、外注費を必要経費に算入することはできないとして、原告に対し、各年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたため、被告を相手に、各更正処分のうち各申告額を超える部分及び各賦課決定処分の取消しを求める事案である。 【原告について】 1 原告の営むLPガス、A重油、灯油等の燃料小売業 原告の父であるCは、Aの屋号でLPガス、A重油、灯油等の燃料小売業を営んでいたが、平成18年1月1日、息子である原告にAの事業を承継し、それ以後、原告がAの事業主となった。原告は、本件の所得税の課税対象期間である平成22年1月1日から平成24年12月31日までの間、Aの屋号で上記の燃料小売業を営んでいた。 2 B社について B社は、上下水道、給排水、衛生設備及び浄化槽設計施工、冷暖房及びポンプ設計施工、空調機器設計施工、消防施設工事設計施工、土木工事業等を目的とする株式会社であり、法人税法2条10号に規定する同族会社に該当する。原告は、平成14年4月1日から平成26年3月31日までB社の代表取締役であり、平成21年9月1日から平成22年8月31日までの事業年度(平成22年8月期)から平成25年8月期まで、B社の主要な株主であった。 原告は、各年分の所得税の申告において、Aの業務であるLPガス等の配達、販売、保守等の業務をB社に委託し、外注費を支払ったとして、これを事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。ただし、配達販売を実際に行ったのは、Aの事業主たる地位とB社の代表取締役たる地位を併有していた原告である。 また、原告はB社から役員報酬を受け取り、給与所得として申告していた。 【第一審判決の概要】 1 争点 本件の争点は、次のとおりであるが、第一審である大阪地方裁判所が争点(1)について、被告の主張を認めて原告の訴えを棄却したため、本稿では、主に争点(1)について検討する。 2 被告の主張 被告は、まず、必要経費に該当するというためには、次の2要件を充足する必要があると示した。 そのうえで、本件で争点となっている、Aの事業主である原告が、B社に配達業務を発注し、B社の代表取締役である原告自身が、配達業務に従事している取引に対して、次のように認定した。 この認定に基づき、被告は、本件取引を実質的にみれば、原告の個人事業に係る業務の遂行を原告自身が行ったことに対して外注費名目の金銭が支払われたというにすぎないことから、本件取引に基づく外注費の支払は、社会通念上、Aの事業を遂行する上で、客観的な必要性が認められないとして、原告がB社に支出した外注費は、必要経費の2要件のうち必要性要件を充足しないから、原告の事業所得に係る必要経費に該当しないと主張した。 さらに、被告は、次のように述べて、本件外注費を必要経費として認めるとすると、個人事業主と同族会社の代表取締役を兼務する者に対し、自由に税負担額を操作することを許すことにつながり、適正かつ公平な税負担という租税法の基本的な趣旨に反する結果となると主張した。 3 原告の主張 これに対し、原告は、本件外注費について、Aの事業主である原告とB社との間に有効な法律行為が存在し、B社の代表者である原告が業務に従事しているという実態があり、さらに、本件取引に基づく業務の遂行に対して、原告からB社に対して対価が支払われ、B社においてはこれを売上として計上していることについては、被告は、これらの行為の存在や有効性を争っていないという事実を述べたうえで、Aの事業主である原告は、本件取引に基づきB社が従事した業務によって事業所得を得ており、その事業所得のためにB社に対して外注費を支払っているのであるから、外注費が業務の遂行上必要な支出であることは明らかであり、原告の事業所得に係る必要経費に該当すると主張した。 4 裁判所の判断 (1) 必要経費該当性の判断基準等 第一審である大阪地方裁判所は、まず、必要経費について、所得税法の規定による必要経費の控除の趣旨は、原資を維持しつつ拡大再生産を図るという資本主義経済の要請から、所得を稼得するための投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避ける点にあるものと解され、必要経費該当性の判断に当たっては、この控除の趣旨に加え、家事上の経費との区別や恣意的な必要経費の計上防止の要請等の観点も踏まえると、関係者の主観的判断を基準とするのではなく、客観的な見地から判断すべきであり、また、支出の外形や名目等から形式的類型的に判断するのではなく、業務の内容、支出及びその原因となった契約の内容、支出先と納税者との関係など個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って実質的に判断すべきである、と判示した。 (2) 裁判所による事実認定 次いで、裁判所は、原告は、本件期間において、Aの事業主の地位とB社の代表取締役の地位を併有しており、次の事実が認定できるとした。 (3) 認定した事実に基づく必要経費該当性の判断 さらに、裁判所は、原告とB社との間の取決め又は取引については、契約書等の書面が作成されておらず、契約の重要な要素についても明確に定められていないなど、一般的な事業者間の業務委託契約や労働者派遣契約とは明らかに異質のものであるとしたうえで、原告による委託業務の遂行の実質は、B社による役務の提供や労働力の提供といったものではなく、まさに、原告が自らAの事業主として主体的にその業務を遂行していたものというほかはない、という判断を示した。 そのうえで、結論として、Aの業務に関し、Aたる原告がB社に対し配達販売を委託し、B社がこれを遂行し、原告からB社に対し外注費が支払われたという形式及び外観が存在するものの、その実質は、原告が自らAの事業主としてその業務を遂行する一方で、取決めに基づく取扱いを継続することにより、本来支払う必要のない事業主自身の労働の対価(報酬)を、「外注配達費」や「人夫派遣費」という名目で本件外注費としてB社に支払っていたものといわざるを得ないことから、本件外注費は、社会通念上、Aの業務の遂行上必要であるとはいえず、必要経費該当性の判断基準における必要性要件を欠くものと認められるから、原告の事業所得に係る必要経費には該当しないというべきであると締めくくった。 (4) 原告の主張に対する裁判所の判断 原告は外注費の必要経費該当性について、次のように主張した。 この原告の主張に対して、裁判所は、CがAの事業主であった頃は、事業主と業務遂行者は形式的にも実質的にも異なるのであるから、Cが支払った外注費を必要経費と認めることに特段の問題はないというべきであり、原告がAの事業を承継する前と後では、判断の基礎となる事情が大きく異なるのであるから、必要経費該当性の判断が異なることには合理的な理由があるため、原告の主張は採用することができないとした。 また、原告は次のようにも主張している。 裁判所は、この原告の主張に対しては、必要経費該当性の判断に当たっては、支出の外形や名目等から形式的類型的に判断するのではなく、個別具体的な諸事情に即し、社会通念に従って実質的に判断すべきであり、本件外注費はAの業務の遂行上必要であるとはいえないのであって、このような判断は、租税法律主義に反するものでないことは明らかである。なお、外注費の業務遂行上の必要性(必要性要件)を否定することは、あくまでも必要性の評価の問題であって、原告とB社の間の取決めや取引を無効又は不存在とみなすものではないから、このような理解を前提とする原告の主張は、その前提を誤るものというほかはない、と判示している。 【控訴審判決の概要】 控訴審である大阪高等裁判所も、納税者の控訴審における主張に対する判断を付加するとともに、結論としては、第1審判決を維持して、外注費の全額について業務遂行上の必要性が認められないのは当然であるとの判断を示して、納税者の請求を棄却した。 本稿では、控訴審における納税者の主張の概略と、主張に対する裁判所の判断を検討したい。 1 控訴審における納税者の主張 (1) 本件外注費は必要経費に該当すること(争点1) (2) 各更正処分における理由付記は十分ではないこと(争点3) 控訴人は、処分行政庁による各更正通知書において、「所得税の負担を不当に減少させる結果」の判断基準に基づいた当てはめが具体的になされていないことから、納税者は、更正処分の付記理由の記載自体から、法令等の適用関係やその判断過程を検証することができないと主張した。 2 控訴審裁判所の判断 大阪高等裁判所は、こうした控訴人の主張について、以下のように判断を示している。 (1) 本件外注費の必要経費該当性に関する当審における控訴人の主張について(争点1) 裁判所は、Aたる控訴人とB社との間に私法上有効な契約関係があり、B社は、それに基づいて配達販売という役務を提供したという控訴人の主張を認めたうえで、次のように認定するとともに、こうした評価は、「当事者が選択し、有効に成立している私法上の取引関係の法形式を引き直して認定するものではなく、本件外注費の支払が業務の遂行上必要なかったことの根拠として述べるものに過ぎない」と判示した。 (2) 各更正処分における理由付記に関する当審における控訴人の主張について(争点3) 控訴人による、各更正通知書の理由付記が十分ではないという主張に対して、裁判所は、各更正通知書の記載内容が、更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という観点から見て、更正の根拠を具体的に明示するのに十分でないということはできないとして、控訴人の主張は採用できないとの判断を示した。 【解説】 個人事業主が、自ら代表者を務める法人との間で業務委託契約を締結して、契約に基づいて支払った業務委託費用について、「必要経費該当性の判断基準における必要性要件を欠く」ことから否認するとした裁判所の判断については、賛否が分かれるのではないかと思料する。 開業している税理士の中にも、税理士本人を代表とする法人を設立して、当該法人で社員を雇用して、会計帳簿の作成などの業務を委託する者も少なくない。あるいは、芸能人や作家などが個人のマネジメント会社を設立して、会社から給与の支給を受けているという話もよく聞かれるところである。 1 裁判所が「必要性要件を欠く」と認定した理由 裁判所が「必要性要件を欠く」とした根拠は、原告とB社との間に明確な契約がないこと、B社の事業目的にA事業に関するものはなく、登録や認定を受け、設備や車両等を有していたのは原告自身であって、かつ、原告から委託された業務を行っているのが原告のみであったことが挙げられている。 逆に言えば、明文化した契約を締結して委託する業務の範囲を明確にしたうえで、外形的に、B社がA事業(LPガスの販売等)を行うために、定款を変更して、関係官公庁に届出を行って必要な認可や登録をしたうえで、設備や車両の名義をB社に移管するなどの費用負担を行い、さらに、法人で雇用者従業員を業務にあたらせることにより、課税庁から、必要性要件を否定される論拠はなくなるのではないかと思料する。 2 否認するための根拠条文が所得税法157条1項ではなかったこと 第一審、第二審ともに、個人事業主の必要経費該当性について、必要性要件と関連性要件から判断している。しかし、控訴審で納税者が主張したとおり、こうした同族会社をめぐる取引については、所得税法157条1項(同族会社の行為又は計算等否認等)の規定により、必要経費を否認すべきであるとも考えられるであろう。 この点、第一審における国・処分行政庁の主張には、所得税法157条1項の規定を適用して否認すべきという、次のような文言が存在する。 第一審は、必要経費該当性を否認したため、所得税法157条1項についての判断は示していないものの、判決の中には、次のような表現がある。 ここでは、「租税回避」という文言ではなく、「税額の自由な操作を許す」という文言が用いられているものの、実質的には、国・処分行政庁の主張を追認した格好になっているように思える。 つまり、裁判所が、本件において、「同族会社の行為計算の否認」規定を適用せず、その前段階とも言える必要経費該当性の判断において、「社会通念」まで持ち出して否認した理由は不明であるが、必要経費該当性の2つの要件を満たしている場合でも、「同族会社の行為計算の否認」規定によって、必要経費算入を否認できることを示していると言えるのではないだろうか。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第3回】 「買い手が好意を抱く「売り手の外見」」 ~その2:経営者~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒買い手の売り手経営者に対する見方や考え方を知る。 売り手企業 ⇒売り手経営者が買い手からどう見られるかを知る。 支援機関(第三者) ⇒買い手の売り手経営者に対する見方を知り支援に活かす。 その他の対象者 ⇒買い手側の立場からM&A対象企業の見方を知る。 1 中小企業の経営者は企業そのもの 【第2回】で解説した「企業ウェブサイト・SNS」は、対象企業の情報を効率的に収集する手段としては有効です。とはいえM&Aは、これから長い間パートナーとして互いに認めあえる、納得のいく相手を探すものです。おのずとプロフィールや肩書以上に企業そのものが重要になります。その最たるものが「経営者」です。 なぜなら中小企業では、「経営者が企業そのもの」といえるほど重要な存在になっていることがほとんどだからです。M&Aの買い手が、売り手の経営者から得る手がかりは多く、M&A初期の段階からM&A後に至るまで、経営者の見方を知ることは企業に対する理解を深め、M&Aの成否に直結します。 2 中小企業の経営者が備えている力を知る 中小企業のM&Aでは、買い手として「売り手の経営者が退いたとしたら?」という売り手経営者不在後の企業を想像する力が求められます。 この想像が働かないと、次のようなことになりかねません。 このように、M&Aが買い手企業の思い通りにならないどころか、最悪の場合、売り手の経営者が不在になるだけで経営が傾く恐れがあります。 M&Aでは、売り手のビジネスの魅力、買い手が妥当と考える株価などについ視線がいきます。売り手経営者の軽視とまではいいませんが、経営者の見方を心得ずにM&Aを実施した結果、十分な効果を得られないケースは意外にも多いものです。 もちろん、売り手の経営者が退いたとしても、買い手側が手腕を発揮して、売り手経営者不在の穴を埋められる、さらに上回る価値を提供できるのならば、さほど問題ではありません。それでも、売り手経営者の在任期間が長ければ、通常は多くの信用や信頼、権限が集まっていたはずですから、いかに買い手側の対応が優れていても、維持するのが容易でないことは確かです。 そこで買い手としては、売り手経営者の見方の一環として、売り手経営者に通常備わっている力、言い換えると、「売り手経営者がいなくなるとどのような影響が生じうるか」についての心得があると、M&Aの備えになります。中小企業の売り手経営者は、多くの場合、次のような力を備えています。 売り手経営者の売り手企業での存在が大きいほど、売り手経営者の喪失による企業への影響度が増します。買い手企業としては、M&Aによって、もし売り手経営者がいなくなるとしたら、どのような経営状況になるかの予測がつくだけでも、M&A後の戦略が立てやすくなります。そこまでの備えができていれば、あとは、買い手企業の腕の見せ所です。 3 売り手経営者自身の「ココ」も気にする 買い手企業にとって、売り手経営者の売り手企業における存在感を知ることはとても重要ですが、経営者自身についても気になる点はあるはずです。一例ですが、次のような経営者の姿勢などに注意を払います。 ◆お金回り・身なり 売り手経営者のお金の使い方、乗っている車、普段の身なりなどは、経営への姿勢にも表れやすいものです。M&A後の経営方針の引締めが必要か、コスト削減余地があるか、などを探ります。経営者が身ぎれいにしていることは悪くありませんが、汗をかいて頑張るタイプではないと判断されるケースもあります。 ◆経営者の資質・財務感覚 自社のことやモノ・サービスについて語らせたら話が止まらないくらいでないと、中小企業の経営者は務まりません。借入金、売上高、営業利益などの主要な経営数値は即答できて当然です。これらが言えないのであれば、経営者自身が自分の商売に興味・関心がないのと同じことであり、売り手に値しないと判断してもよいほどです。 売上高には強い関心を持っているが、売掛金の回収にはまるで興味を示さないなど、現金回収までの流れを軽視する売り手経営者にも注意が必要です。 ◆自慢話 中小企業の経営者たるもの、経営に自信を持つべきです。しかし、あまりに以前のことや、自分の功績ばかりを口にする売り手経営者の場合、足元の経営、将来の展望、従業員への配慮などが欠けている場合があります。売り手経営者との会話からは、特に、発する言葉の内容や真意に注意します。 ◆趣味・特技 例えば、絵画や骨とう品が好きで社内に飾っている、ゴルフや酒の付き合いが好きで頻繁に外を出歩いているなどの話題から、交友関係や、営業・販売のやり方を知る手がかりになります。M&A後にも影響するかもしれませんので、これらがビジネス上必要なことか、あまり良い影響を及ぼさないものか、単なる趣味や特技なのかを見極める必要があります。 「M&A後も、売り手企業が現状のまま変化しなくてよい」と考える買い手企業は、ほとんどいません。多くは、現状からの成長、改善に期待を持ち、意欲を燃やしています。 売り手経営者が買い手企業成長の阻害要因になるようであれば、経営者の続投にも難色を示すはずです。経営者との協議を通じて、M&A後に残すこと、捨てることを選別できる目利き力を養うのも買い手企業として大切なことです。 (了)
〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第3回】 「「資本」を見たら要注意」 公認会計士 阿部 光成 ◆はじめに 会計基準では「資本」の用語がよく見られる。 資本の用語は、その使用する場面が詳細に規定されているので、注意が必要と思われる。 そこで今回は、「資本」という用語について取り上げることとした。 ◆純資産の部と資本 「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)では、個別財務諸表の純資産の部の表示を次のように示している。 ここでは、株主資本、資本金、資本剰余金という「資本」が含まれる用語が使用されている。 ◆企業結合会計に注意せよ 「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号)の「取得企業の増加資本の会計処理」において、新株を発行した場合の会計処理として次のことが規定されている(79項)。 ここで使用されている「資本」に関する用語は次のとおりである。 冒頭で「資本」に関する用語の使い方に注意が必要と述べたのは、特に企業結合会計の際に、これらの用語が使い分けられているからであり、会計処理などを誤る可能性が高いと思われるからである。 ◆貸借対照表の区分 企業会計基準委員会は、純資産の部と資本の用語について、次のように説明している。 2005年の「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(企業会計基準第5号。以下「純資産会計基準」という)の公表前においては、貸借対照表上で区分されてきた資産、負債及び「資本」の定義は必ずしも明示されていないとしつつ、次のように理解されていたとする(18項)。 また、純資産会計基準の公表前において、貸借対照表は、「資産の部」「負債の部」及び「資本の部」に区分するものとされ、さらに資本の部は、会計上、「株主の払込資本」と「利益の留保額(留保利益)」に区分する考え方が反映されてきた(13項)。 純資産会計基準では、資本と利益の連繋を重視し(純資産会計基準29項、30項)、「資本」については、「株主に帰属するもの」であることを明確にした。 さらに、資産や負債を明確にすれば、これらの差額がそのまま「資本」になるとは限らず、貸借対照表の区分において、「資本」とは必ずしも同じとはならない資産と負債との「単なる差額」を適切に示すように、これまでの「資本の部」という表記を「純資産の部」に代えたのである(純資産会計基準21項)。 ◆連結会計基準 2013年9月13日、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)が改正された。 連結会計基準の公開草案では、「平成XX年改正会計基準では、非支配株主との取引を損益取引とせず資本取引として扱うこととした(第28項から第30項参照)」(公開草案51-2項)と記載し、「資本取引」の用語で説明されていた。 この公開草案に対して、次のコメントが寄せられたのである(論点の項目、各論(2))。 上記のコメントを受け、企業会計基準委員会は、「資本取引」の用語は使用せずに会計処理を記載することとし、現行の連結会計基準では、支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動による差額は、資本剰余金とするという表現を用いている(連結会計基準28項~30項、51-2項)。また、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)でも、資本取引の用語は使用されていない。 一方、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)36項、57項や、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」82項、114項、253項のように、「資本取引」の用語も見られるところである。 以上の会計基準等の規定を見てもわかるように、「資本」や「資本取引」の用語の使用には注意が必要と思われる。 (了)
〔これなら作れる ・使える〕 中小企業の事業計画 【第3回】 「予想貸借対照表の作成手順」 税理士・中小企業診断士・ITストラテジスト 高畑 光伸 前回までは損益計画・資金計画の作成を中心に解説した。 第3回では、予想貸借対照表の作成について確認する。予想貸借対照表の作成について、個人事業主の事業計画で求められる場合は少ないが、法人の事業計画で求められる場合がある。 1 作成手順の確認 現時点の貸借対照表は次のとおりとする。 〈貸借対照表(要約)〉(単位:万円) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 まずは、予想損益計算書の作成を通じて、最終利益(純資産の部の残高)を確定する(【第2回】参照)。予想貸借対照表の各勘定科目の残高は、予想損益計算書(経営活動)の結果である。 次に、負債の部の残高を確定させ、貸借対照表の貸方の金額を決める。最後に、資産の部の残高を確定させ、貸借対照表の借方の金額を決めて、差額で現金預金を計算する。 〈予想損益計算書〉(単位:万円) 消費税の経理処理について、税抜経理方式で全額控除を仮定すれば、 より、未払消費税等は、 となる。 運転資本(売上債権・棚卸資産・仕入債務)に変化がないと仮定すれば、予想貸借対照表(要約)は次のようになる。 〈予想貸借対照表(要約) 〉(単位:万円) ※①剰余金=8,000+当期純利益322=8,322 ※②借入金=10,000-返済額700=9,300 ※③固定資産=15,000-減価償却費1,000=14,000 ※④現金預金=貸借差額 現金預金の増減額622(=2,422-1,800)は、資金計画表の正味CFの金額と一致することになる。そして、正味CFから未払消費税等482を控除すると、現金預金増減額140と一致する。 〈資金計画表〉 (単位:万円) ※⑤現金預金増減額=2,422-482-1,800=140 なお、売上債権・仕入債務に、仮受消費税等・仮払消費税等を考慮すると、予想貸借対照表(要約)は次のようになる。 〈予想貸借対照表(要約)〉 (単位:万円) 2 運転資本を考慮するケース 上記の設定では、運転資本の増減を考慮しないケースで確認してきたが、ここでは運転資本を考慮するケースで確認する。 運転資本は、売上債権、棚卸資産、仕入債務の3つの項目の総称である。特段の事情がない限り、売買条件、在庫の消化スピードなどは大きく変化がないものとしてシミュレーションすることになる。 まず、過去のデータから、売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、仕入債務回転期間の数値を計算する。たとえば、棚卸資産回転期間は棚卸資産が1回転するのに何ヶ月かかるのかを測る指標で、棚卸資産が何ヶ月(何日)分の在庫量に相当するかを示している。 次に、回転期間の数値(実績値)をもとにして、売上債権、棚卸資産、仕入債務を求める計算式に展開する。 仮に過去のデータから、 が計算されたとする。 これを上記に当てはめると、次のように計算される。 よって、予想貸借対照表(要約)は次のようになる。 〈予想貸借対照表(要約)〉 (単位:万円) なお、事業計画の作成の際に、過去のデータの回転期間をそのまま適用する必要はない。たとえば、販売戦略によって棚卸資産の消化スピードが速くなることが見込まれるのであれば、回転期間を短く設定することも可能である。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第33話】 「新型コロナウイルスと給付金」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「10万円か・・・」 浅田調査官はそうつぶやくと、振り返って中尾統括官を見る。 中尾統括官は毎月の事務計画の策定で、電卓を叩いている。 「統括官。」 浅田調査官が、声をかける。 「・・・」 しばらくして、中尾統括官は、顔を上げる。 「なんだ?」 少し機嫌の悪そうな返事である。 「10万円の給付金ですよ・・・これってすべての国民が対象となっていますから、税務職員ももらえるのですよね?」 浅田調査官は、ニコニコしながら尋ねる。 「それは・・・新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全国民に1人当たり10万円を配るという給付金だな。」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「ええ。」 浅田調査官は大きく頷く。 「全国民なのだから、税務職員ももちろんもらえる・・・おまけに所得制限がないから、富裕層と言われる人にも支給される。」 中尾統括官は、「・・・年齢、職業も関係なく支給される」とさらに付け加える。 「・・・しかし、我々のような公務員は・・・今回の新型コロナウイルスで、それほど減収にならないのでは・・・」 浅田調査官は、真面目な顔になる。 「ところで統括官、日本の公務員の数をご存じですか?」 浅田調査官がおもむろに尋ねる。 「公務員の数?・・・国家公務員と地方公務員がいるよな・・・」 中尾統括官は思案顔になる。 「先ほどグーグルで調べたのですが・・・国家公務員が641千人、地方公務員が2,752千人で、およそ3,393千人いるらしいのです・・・」 浅田調査官は、スマートフォンを取り出して、あらためて確認する。 「この公務員3,393千人の平均世帯人数を3人と仮定すると約1,000万人になり、それに10万円を単純に乗じると、金額は1兆円ぐらいになります・・・」 浅田調査官は、机の上の罫紙に、ゼロを並べる。 「統括官・・・“1兆”って、ゼロが何個あるかご存じですか?」 罫紙にゼロを書きながら尋ねる。 「・・・兆は10の12乗だから・・・ゼロは12個だ。」 中尾統括官は、中学生レベルの質問に、憮然と答える。 「私は・・・実のところ、公務員の世帯には、給付金は渡さなくても良いと思っているんですが・・・統括官はどう思われますか?」 浅田調査官は中尾統括官を見る。 「まぁ・・・我々公務員の給与は・・・つまるところ、税金から出ているのだから・・・」 中尾統括官は、自虐的に言う。 「ところで新聞によれば、この10万円の給付金は、非課税にすると報道されていたが・・・君は・・・どう思う?」 今度は中尾統括官が質問する。 「そうですね・・・給付金は本来・・・一時所得に該当すると思います。・・・そして、一時所得であれば50万円の特別控除額があるから、実質的に課税されないのに・・・なぜ非課税にするのですか?」 浅田調査官は、頸を傾げながら、尋ねる。 「もし生命保険の一時金など他の一時所得があった場合に、50万円の特別控除額を超えて課税されることから、非課税としたらしい・・・と新聞に書いてあるが・・・」 中尾統括官は答える。 「そんな一時金を受け取るような人は、課税すればいいじゃないですか。」 浅田調査官は、反論する。 「私は・・・給付金を全国民に支給するならば、一時所得ではなく、雑所得として課税すると、別途、法律で規定すればいいと思います・・・もともと一時所得と雑所得は、利子所得から譲渡所得の8つの所得に該当しないもので・・・その中で、①非継続要件と、②非対価要件の2つを満たせば、一時所得であるされています。」 そう言いながら、浅田調査官は、罫紙に図を描く。 「この図から見てもわかるように、本来、給付金は一時所得に該当しますが・・・とりあえず法律で、給付金はすべて雑所得として、課税の対象とする、としたうえで・・・生活に困窮している人は、給付金の10万円を受けても、課税されない・・・また、そうでない人、すなわち新型コロナウイルスの影響を受けない納税者は、雑所得として税金を支払ってもらう・・・そうすることによって、財源として総額12兆6,000億円が必要といわれる給付金は、減少するのではないかと思うのです。」 浅田調査官の言葉は、力がこもる。 「なるほど・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の爽やかな弁舌に、すこぶる感心する。 「・・・多くの国会議員や富裕層の人は、もちろん、給付金を受け取らないかもしれませんが、これも法律で、給付金を受け取らなくても、すべての納税者は、10万円の給付金を受け取ったものとして、所得税を課税(みなし所得課税)することも考えたらよいのではないかと思います・・・もっとも、給与所得のみの場合、所得税法121条で、他の所得が20万円以下であれば、申告する必要はないとされていますが・・・」 浅田調査官の説明に、中尾統括官は大きく頷く。 (つづく)
《速報解説》 金融庁、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」を公表 ~投資家が期待する好開示のポイントを10の視点から紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年5月29日に、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A-投資家が期待する好開示のポイント-」を公表した。 また、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度)」(令和2年3月27日公表、5月21日更新)を、5月29日に再度更新し、有価証券報告書提出会社が提出する「調査票」の記載内容を見直している。 企業に対して、当該Q&Aを参考に、新型コロナウイルス感染症の影響について充実した開示を行うことが強く期待されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A 有価証券報告書の記述情報における新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示について、10個のQ&Aにまとめている。 以下では主なものについて解説する。 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等の記載内容(Q1) 2 事業等のリスクの記載内容(Q2) 3 事業等のリスクの対応策の記載内容(Q3) 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)の記載内容(Q4) 5 キャッシュ・フロー分析の記載内容(Q5) 6 会計上の見積りの記載内容(Q6) 7 監査役等の活動状況の記載内容(Q7) 8 役員報酬の記載内容(Q8) 9 政策保有株式の記載内容(Q9) 10 将来情報における事後的な事象の変化に係る開示の考え方(Q10) Ⅲ 有価証券報告書レビューによる対応 有価証券報告書提出会社が提出する「調査票」において、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示」に関する調査項目が記載されている。 (了)
2020年5月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.371を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第71回】 「コロナ対策後を考える」 税理士 山本 守之 1 経営理念が変わった 新型コロナウイルスで業績が落ち込んだ企業に対して、世界45ヶ国以上の年金基金や運用会社からなる国際コーポレートガバナンス・ネットワークは、「従業員の解雇は避けるべきだ」という方針を公開しました。 つまり、まず従業員や取引先に配慮すべきであり、株主への配当や役員給与を減らすことを容認すべきだということです。 金融危機の時には、従業員の削減で利益や資本金を確保し、株主への配当や自社株買いを優先してきた米国企業ですが、その考え方がもたらした格差拡大により社会を分断してきたことを反省したのでしょう。 つまり、「長期的成長を優先し雇用を守る」という考え方が出てきたのです。 「会社は株主のもの」、「会社の業績が落ちたら従業員を切ればよい」という米国社会が変わってきたのです。 これは、コロナウイルス対策が生んだ新しい経営理念かもしれません。 2 コロナ対策に望むもの 「経済を殺さずに抜本的な対策をとるべきで、全国民を検査し、現実を把握すべきであり、出入国の検査を徹底し、困窮者は全員救済すべきだ」とし、1人一律10万円の給付を行うことはいいのですが、「産業振興とセットでコロナ後を見据えた経済対策を考えるべきだ」という声も上がってきています。また、「国からお金をもらう習慣ができてはいけない」という考え方もあります。 「稼ぐ力を弱めるコロナウイルス対策で、経済を犠牲にしてはいけない」という声もあります。これはスウェーデンを見習えということです。スウェーデンでは、厳しい行動制限を設けない独自のコロナ対策のスタイルを貫いています。 コロナウイルス収束に向けての休業要請は理解できますが、国民の一部がパチンコ、ドライブ、サーフィンなどに夢中になっているのは、どうなのでしょうか。 コロナウイルスと共に生きるためにも、企業はもっと知恵を絞らなければなりませんし、赤字国債を支えるために、日銀は買い入れ額の無制限引き受けも考えるべきでしょう。 3 コロナ後も含めた財政 現在、わが国はコロナウイルス対策として、給付金等を赤字国債からまかなっています。1人一律10万円の給付だけでなく、人件費の負担に対する雇用調整助成金、家賃・地代等の固定費に対する給付等により、赤字国債はとめどなく膨らんでいます。 しかし、少子高齢化のなかで社会保障費は年々増え続けることは覚悟していたはずですが、令和2年に社会保障の増額に対して赤字国債を出したことはどうなのでしょうか。 大法人の留保金が多額となっており、それを使った場合には税額控除ができるようになっています。 コロナウイルス対策費に対して赤字国債を充てることは当然のものとされますが、社会保障の財源になぜ赤字国債を使ったのかわかりません。 コロナウイルス後の予算では赤字国債を使うことは許されません。税収でまかなうべきであり、その財源確保の際は、不公平とされる税制を見直すチャンスだと思います。 税収が不足するならば、「高額所得者に税を負担してもらう」という国民世論が恐らく出てくるはずです。 コロナウイルスを機に、不公平であった税制の是正が必要です。「コロナウイルスが税制を正した」と言える日が来ることを願います。 4 コロナ対策が教えてくれること コロナウイルス対策のなかで、私たちはさまざまなことを学びました。「法人は株主のものだ」、「利益が落ち込んだら雇用人員を削減して利益を維持する」などの資本主義の考え方でM&Aを説いてきた金融社会学者が、従業員の雇用を奪うことなく、従業員と一体となった会社経営のあり方を考えるようになりました。 こうなると、税務の世界でも当然と考えていた事柄を反省し、考え直さなければならないでしょう。 戦時立法による寄附金の損金不算入はそれでよかったのか。店が減り、倒産寸前の飲食店を助ける金は損金不算入でよいのか。交際費等の損金不算入も単純な議論で受け止めてきましたが、それでよいのか。役員給与の原則損金不算入の規定は立法作法に反していなかったか。わが国の税法のあり方を民間の力で考え、直していく必要はないのかなど、筆者もテレワークのなかで落ち着いて日本の税法のあり方を問いただしています。 企業に対して上から目線で考える税法や通達に対して、改めてただしていく必要があるのではないでしょうか。 税務の道へ入って87歳(原稿執筆時点)になった今でも、税理士としての生き様を追求していきたいと考えている今日です。 「税理士になってよかった」という人生のために。 (了)