収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第48回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 ウ 損金不算入費用等に該当しないものに限定する趣旨と変動対価の要因となるその他の事実の範囲 法人税基本通達2-1-1の11は、資産の販売等に係る契約の対価について、変動対価がある場合の取扱いを定めている。本通達が適用されるのは、値引き等の事実が損金不算入費用等に該当しないものである場合に限るとされている。損金不算入費用等とは、寄附金又は交際費等その他のその法人の所得の金額の計算上損金の額に算入されないもの、剰余金の配当等及びその法人の資産の増加又は負債の減少を伴い生ずるものをいう(法基通2-1-1の10(注)2)。 この取扱いは、次の点を考慮したものである。寄附金や交際費等に該当するものについては、会計上も通常は変動対価の要因にならないと考えられること、及び、仮に変動対価の要因になるとしても、寄附金や交際費等目的の支出の見込みを収益の額の算定上考慮することは、譲渡した資産の時価そのものを正確に反映するための手続であるとはいえないと解しているのである(国税庁「平成30年5月30日付け課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」30~31頁参照)。 これらのことに加えて、法人税では従来より別段の定めがある場合を除き、引当金や見越費用等の計上を認めないといういわゆる債務確定基準が採られていること(この点については本連載【第40回】参照)を踏まえれば、税務における変動対価の要因となるその他の事実の範囲は限定的に考えるべきであり、具体的には、次の1に掲げるものがこれに該当する一方、契約上の条件とされているものであっても次の2に掲げるものはこれに該当しないと考えられている(上記趣旨説明31頁)。 (※) 収益認識基準の導入を契機として、別の履行義務として識別されることとなる重要な権利を顧客に提供するオプション(いわゆるポイント等の付与)については、上記の引当金として計上すべきこととされているものからは除かれる。 収益認識会計基準における変動対価とは、「顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分」をいい、例えば、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等がこれに該当するとされている(基準50、指針23)。少なくとも国税庁においては、変動対価の要因となるその他の事実の範囲を上記図表のとおり整理しており、収益認識会計基準とその範囲を異にするから注意を要する。 国税庁の見解については、次のような、通達の立案担当者の説明も参考となる(髙橋正朗「平成30年度法人税基本通達等の一部改正について」租税研究832号17頁)。 ところで、租税特別措置法通達(法人税編)61の4(1)-3では、法人がその得意先である事業者に対し、売上高若しくは売掛金の回収高に比例して、又は売上高の一定額ごとに金銭で支出する売上割戻しの費用及びこれらの基準のほかに得意先の営業地域の特殊事情、協力度合い等を勘案して金銭で支出する費用は、交際費等に該当しないものとし、事業用資産又は少額物品を交付するための費用も同様であることを明らかにしている。 同通達61の4(1)-4では、法人がその得意先に対して物品を交付した場合には、その物品の交付の基準が売上割戻し等の算定基準と同一であっても、その交付のために要する費用は交際費等に該当するが、その物品が少額物品であり、かつ、その交付の基準が売上割戻し等の算定基準と同一であるときは、交際費等に該当しないものとすることができることとしている。 上記各措置法通達と収益認識会計基準との関係について、次のように説明されている(上記趣旨説明105~107頁参照)。 以上のような説明に対しては、次のような疑問を提起しうる。 値引きや割戻しなどが押しなべて譲渡する資産や提供する役務の時価そのものを正確に反映するための手続といえるか、そのような整理が平成30年度改正でなされたという明文上の根拠をどこに求めるのか、費用(損金)の問題として捉える可能性が排除されるのか、そうであればその法的根拠は何か。画一的処理をするならば、せめて通達ではなく政令で規律すべきではないか。 従来のように費用(損金)の問題として捉える場合には法人税法22条3項2号括弧書きの債務確定基準が問題となるが(旧通達2-5-1参照)、値引きや割戻しなどを譲渡する資産や提供する役務の時価そのものを正確に反映するための手続といえるかという収益の問題として捉えるならば、債務確定基準への配慮は不要か(ただし、上記趣旨説明では債務確定基準への配慮を見せていることをどのように整合的に理解すればよいか)。 税務における変動対価の要因となるその他の事実の範囲に該当しないものとして、引当金として計上すべきこととされているものや、引当金として計上されないものであっても、発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失を挙げている。収益の問題として捉えておきながら、費用又は損失の問題としても捉えているかのような説明を行っており、どのように整合的に理解すればよいか。 値引きや割戻しなどを収益あるいは時価の問題として捉えることを前提にしているにもかかわらず、本通達の適用に当たり、寄附金や交際費等など損金不算入規定を持ち出す根拠をもう少し具体的に説明すべきではないか。 本通達の取扱いは、その明文上の法的根拠として、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」収益の額を計算することを要請する法人税法22条4項を想定しているのか。そうであるとすれば、資産の販売等に係る収益の計上額を規律する法人税法22条の2第4項は、同項に優先して適用されることになる同項の「別段の定め」から同法22条4項を除いているという状況下で、その22条4項を持ち出すことが可能であるか。 なお、本通達は、値引き等の事実について、実際に損金不算入になるか否かではなく、損金不算入費用等に該当するかを問うものであり、寄附金や交際費等のうち損金算入部分について本通達の適用を認めるわけではないことに注意が必要である。 エ 本通達の要件(1)~(3)について 法人税基本通達2-1-1の11は、資産の販売等に係る契約の対価について、変動対価がある場合において、要件(1)~(3)の全てを満たすときは、一定の合理的に算定される変動対価につき、法人税法22条の2第1項の引渡・役務提供日あるいは第2項の近接日の属する事業年度(引渡し等事業年度)の確定した決算において収益の額を減額又は増額して経理した金額は、引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映することを定めている。 各要件については次のように説明されている(上記趣旨説明31~32頁)。 収益認識会計基準との関係についてはどのように考えるべきか。この点について、本通達の要件(1)~(3)は、会計上でも変動対価の見積りを行う際に、実務上は、必要な事項であり、実質的な差はないという指摘がなされている(EY新日本有限責任監査法人編『企業への影響からみる収益認識基準実務対応Q&A』64頁(清文社2018)参照)。 要件(2)について、法人税基本通達では、収益認識会計基準における最頻値法又は期待値法など具体的な見積方法に触れていないものの、法人税法においても、同基準が示しているこれらの方法のうち合理的な方法でもって見積もることになるという見解もある(島田眞一「新収益会計基準と法人税法との関係について」租税研究833号338頁参照)。 ただし、要件(2)に関して、収益認識会計基準に明記されていない他の見積方法が採用された場合に、法人税法においてこれが認められるか否かという点は問題となり得る。本通達の法的根拠とも関わる問題である。 売上割戻しに関する旧通達2-5-1を適用して、引渡し等事業年度において売上割戻し相当額の収益の額を減額することが認められていたケースについては、売上割戻しされる可能性のある金額又はその金額の算定の基準が明らかにされており、そのことが疎明できていたわけであるから、本通達に包含され、本通達の要件を満たすものとして、引き続き収益の額を減額して差し支えないという説明もなされている(上記趣旨説明32頁)。 本通達の要件(1)について、国税庁は、この旧通達2-5-1と同様の要件であると説明しているが、この点については、次のような通達の立案担当者の説明が参考となる(前掲髙橋・16~17頁参照)。 なお、立案担当者は、書類保存要件を定める要件(3)について、「税として何か新たに事務負担をかけるというつもりはございません。通常の会計監査等を行うに当たり用意しなければいけないものを保存しておいてもらえればいいと思います」と説明している(前掲髙橋・17頁参照)。 (了)
〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第2回】 「旅行ガイドブック制作事業が減損に至った経緯」 -気になる“減損後”- 公認会計士 石王丸 周夫 〈はじめに〉 今回は、旅行ガイドブック制作事業に投資したある会社の減損注記を見ていきます。 減損を実施した会社の“減損後”がどうなるのかは大変気になります。たとえば、減損対象となった事業の経営資源を他の事業に振り向ける可能性等です。そうしたことを減損の注記から読み解くことができるのか、さっそく見ていきましょう。 〈今回の注記事例〉 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 〈旅行需要の消失〉 この事例の減損の原因は1つだけ書かれています。 ➤ 新型コロナウイルスの影響による連結子会社の事業計画の想定変更 まず、この連結子会社がどのような事業を行っているのかを確認しておきます。事例の会社の有価証券報告書を見るとわかりますが、この連結子会社の主要な事業は「旅行ガイドブック制作、プロモーション事業」です。ホームページによると、旅行会社向けに海外・国内のガイドブックを販売しているようです。そのガイドブックは、旅行会社のツアーに申し込んだ人に渡すもので、書店や一般への販売はしていないとも書かれています。 こうした事業であれば、新型コロナウイルスの影響を直接受けたことはいうまでもありません。旅行需要が突然消失したからです。 ただし、ここでは旅行需要の消失がいつまで続くかが大事なポイントとなってきます。減損処理というのは、過去の実績ではなく、将来の見通しで決まるからです。この事業に投資した資産を使って、今後、投資額を回収するに十分な売上高が上がるかどうかが問われます。そして、どう見てもこれは難しいだろうという場合に限って、今後の売上高に見合う水準まで資産の額を切り下げます。 今回の事例では、前掲の注記に記載されている連結子会社取得時に計上したのれんや顧客関係資産(いずれも無形固定資産)等を減損処理しています(前掲の注記の抜粋には含まれていませんが、他の箇所から読み取れます)。 〈将来見通しは?〉 減損損失の注記には、通常、将来の見通しに関する具体的な話までは書いてありません。しかしこの年度は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、その影響についてどのような仮定を置いて会計処理を行ったのか、重要性があれば開示するよう日本公認会計士協会からも注意喚起されていました。記載場所は「追加情報」という場所になりますが、この会社でも詳しい記載があります。 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 この注記によると、当該ガイドブック売上高は期末以降急減しており、向こう1年間は回復困難、2年目からは徐々に増加、3年目にようやく当初計画水準まで回復するというシナリオを採用しています。減損は、このシナリオに基づいて、回収困難な額を計算した結果です。減損の要否判定時のシナリオは、楽観的すぎても悲観的すぎてもいけないのですが、当該シナリオには特に不合理な点はなく、会計的には問題ない処理だと見受けられます。仮にこのシナリオが外れたとしても、そのことが問題視されることもありません。 しかし、気になる点が1つだけあります。 それは、ガイドブック事業を他の事業に転換するとか、ガイドブック売上高以外の売上高を強化するとか、そういった発想がこの注記からは読み取れない点です。開示ルール上、それを記載する義務はありませんが、注記の読者としては気になります。 〈成功体験から抜け出せるか〉 ガイドブック売上高が減損後3年目に回復するかどうかは、誰にもわかりません。それは仕方のないことですが、経営環境の激変により深刻な影響を受けた事業を向こう3年間も続けていくという前提で、ごく当たり前のように将来キャッシュ・フローを見積もっています。回復まで3年かかると考えているのであれば、この事業の経営資源を他に振り向ける可能性や、この事例の会社の主たる事業でどう活かすのか等に触れてもよかったのではないかと思います。 近年、日本人の海外旅行者数は、増減を伴いながらも横ばいで推移しています。すでに人口減少社会が始まっていることを考えると、日本が経済大国と呼ばれた1980年代後半から1990年代中盤までに見られたような海外旅行者数の爆発的な増加は、もはや期待できないと考えられます。そのような中で、これまでと同じ事業をただ続けながら3年待つとも思えないのですが、将来キャッシュ・フローの見積もりにそのあたりをどう織り込んだのかは、注記からは読み取れません。 ところで、当該連結子会社は、旅行会社向け観光ガイドブック事業においてシェア1位だとされています。つまり、すでに一定の成功を収めた会社というわけです。個人でも会社でも、一度成功を体験すると、そこからあえて抜け出そうとはしないものです。ガイドブック制作のノウハウや旅行会社との長年のつきあい等、そう簡単には手放せないものがいろいろあるからです。回復までに3年かかると考えているにもかかわらず事業転換の発想が出てこなかった(少なくとも注記には記載なし)のは、それが原因かもしれません。 注記事例の会社が当該連結子会社を取得したのは2019年11月のことでした。その後、年明けから新型コロナウイルスの感染が始まり、年度末には減損に至りました。急速な展開ゆえ、事業転換の検討の時間もなかったかもしれませんが、減損注記の読み手としては、常に“減損後”を意識することが大事です。 (了)
〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第3回】 「二人一組の実地棚卸で会社の資産を守る」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 はじめに 2020年4月の緊急事態宣言以来、テレワークが増えた読者の方は多いのではないでしょうか。しかし、そのテレワークをするにも会社の資産である個人用のパソコンがなければ、仕事をすることはできません。パソコンはもちろん、企業が事業を推進するうえで、会社の資産は欠くことができない経営上の要素です。 土地、建物、機械など有形固定資産、商品や製品、事業資金や現金等価物など、会社の主要な資産を数え上げるだけでも限りがありません。そのなかでも利益の直接の源泉になる商品や製品を取り上げ、それらを保全する実地棚卸について今回は考えます。 《1》 実地棚卸を考える 会社の商品や製品について、帳簿上で把握する数量が実際に保管する数量と一致するかどうか定期的に検証することを「実地棚卸」といいます。もし差異があれば、もう一度数え直し、それでも一致しない場合は差異の原因を分析して、日頃から資産の保全を心がけます。 実地棚卸の対象となる商品や製品は、いつも倉庫に保管されているとは限りません。時には深夜、人気のないデパートの商品が陳列される売り場で、営業を終えた銀座の貴金属高級店の売り場で、実地棚卸は定期的に行われているはずです。次の事例はある電気機器を製造する会社の倉庫で、半期ごとに行われる実地棚卸の様子です。 ◎ 【事例】を分析する 資産の保全のために実施する実地棚卸の進め方を間違えると、皮肉なことに実地棚卸が製品の保全を脅かすことになるという、思わぬリスクが潜在することを忘れてはなりません。みなさんの会社の実地棚卸の風景をあわせて想像してください。 《2》 実地棚卸の実務を分析する (1) ブラインドカウントの実施 棚卸結果を記録するカウントシートには、製品の種類と実際にカウントした結果を記載する空欄のみを記載し、帳簿上の製品数量は記載しません。書いてしまえば、それは質問に対する答えを与えることと同じです。実地棚卸を担当する者が、帳簿上の製品数量を知る必要はありません。正確な棚卸をするなら、帳簿上の数量はブラインド(目隠し)にしておいてください。 (2) 倉庫部門だけで実地棚卸を行わない 確かに倉庫部門に実地棚卸を任せれば、効率的かつ短時間で棚卸が終わるため、製品の入出庫への支障を最小限度に抑えることができます。しかし、もし倉庫部門の責任者や担当者が共謀し、棚卸にかまけて製品を運び出したらどうなることでしょう。他部門の眼をはばかることなく、共謀不正がまかり通ります。 (3) 相互牽制によるカウント 実地棚卸は二人一組が原則です。1人はカウントのみ、もう1人は記録のみを行います。細かい事をいえば、お互いにあまり面識のない他部門の担当者で一組を構成するとよいです。面識があまりない方が、共謀にいたることが少ないとも考えられるからです。 (4) 経理部門の担当者は実地棚卸をしない 経理部門の担当者は、実地棚卸のカウントは行いません。なぜなら、製品の在庫を調整する仕訳の投入ができるからです。猫の手も借りたい実地棚卸ですが、立場や権限によって、協力にふさわしくない場合もあることを忘れないようにしましょう。 * * * 〔より深く理解するためのQ&A〕 ◆今回の重要ポイント◆ ブラインドカウントの実施。 二人一組によるカウントの実施。 棚卸は複数部門の協力で実施する。 経理部門は実地棚卸のカウントは行わない。 (了)
社外取締役と〇〇マルマル 【第11回】 「社外取締役と役員指名」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 森田 多恵子 1 はじめに 社外取締役には、業務執行者から独立した立場から、会社経営の監督を行うことが期待されるが、役員指名はその重要部分を占める。2020年7月31日に経済産業省から公表された、「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(以下「社外取締役ガイドライン」という)でも、社外取締役の「心得1」として、「社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEOの交代を主導することも含まれる。」と示されている。 本稿では、①経営陣の指名及び②社外取締役の指名と社外取締役の関わりについて述べる。 2 経営陣の指名への関与 (1) 社長・CEOの後継者計画 社外取締役による経営の監督は、平時は経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価が中心となるが、平時からの評価を通じて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向け、適時・適切に社長・CEOの交代が行われることが重要である(※1)。適時・適切なトップの交代の前提となるのが社長・CEOの後継者計画である。 (※1) 「社外取締役ガイドライン」35-36頁参照。 社長・CEOは、企業経営の舵取りを行い、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を果たす上で中心的な役割を担うことから、経営トップの交代とその後継者の指名は、企業経営における最も重要な意思決定の1つと言える。そのため、各企業は十分な時間と資源をかけて後継者計画に取り組むことや、社長・CEOが自らリーダーシップを発揮して後継者計画に取り組むことが期待されるが、指名プロセスの客観性・透明性を確保するための方策として、指名委員会が後継者計画の策定・運用に主体的に関与し、これを適切に監督することや、後継者計画のプロセス全般にわたって関与し、社内論理が優先されていないか、主観的・恣意的判断に陥っていないかなどをチェックすることで、後継者指名プロセスの客観性と透明性を確保することが考えられる(※2)。 (※2) 経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」(2018年9月28日改訂)33頁以下参照。 (2) 指名委員会 指名委員会等設置会社では、過半数が社外取締役で構成される指名委員会が、株主総会に提出する取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定する(会社法400条3項、404条1項)。指名委員会の設置が法定されていない監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社であっても、「コーポレートガバナンス・コード」補充原則4-10①で、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、任意の指名委員会などの独立した諮問委員会を設置することが求められている。 法定又は任意の指名委員会や報酬委員会を設置する企業は増加しており、東証一部上場企業全体で6割程度、JPX日経400構成銘柄では8割を超える(※3)。任意の指名委員会の構成員として社外取締役が占める割合も増えてきている。 (※3) 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」第21回資料4の9頁参照。 昨年10月から、金融庁・東証が共同事務局となっている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」で「コーポレートガバナンス・コード」の改訂が議論されているが、「指名委員会・報酬委員会の設置・活用(独立性等)、サクセッションプランの充実」もアジェンダの1つとなっている。「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)(令和2年12月18日)では、「コロナ後の企業の変革を主導するとの観点から、独立性の高い指名委員会(法定・任意)の設置と機能向上(候補者プールの充実等のCEOや取締役の選解任機能の強化、活動状況の開示の充実)」等の論点について、今後、「コーポレートガバナンス・コード」の改訂に向け、検討を更に深めていくと明記された。 3 社外取締役の指名への関与 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、指名委員会・報酬委員会の実態に関する開示を充実させることが重要であるといった指摘や、CEOのみならず、経営陣全体のサクセッション、その評価といったことを、指名委員会あるいは報酬委員会で見る必要があり、社外取締役の重要性が従来以上に高まるといった指摘も出されているように、社外取締役がコーポレート・ガバナンスにおいて果たすべき役割が大きくなるにつれ、社外取締役自身の後継者の指名についても益々重要になってくる。 この点、「社外取締役ガイドライン」では、取締役会の実効性評価の結果(社外取締役自身の評価を含む)や会社が置かれた状況(経営戦略上の重点課題等)を踏まえ、取締役会・社外取締役を集合体(チーム)として捉え、様々な資質や背景を有する人材を組み合わせて全体として必要な資質・背景を備えさせる観点から、指名委員会が中心となり、社外取締役の人材ポートフォリオの在り方を検討し、一定の任期で新陳代謝を図っていく必要があることも踏まえつつ、中長期的な時間軸で適切な構成を維持・確保するためのサクセッションプラン(後継者計画)について、社外取締役自身が主体的に考えていくことが重要であると指摘されている。 その際、スキルマトリックスを作成して確認する等により、性別や国籍の多様性にとどまらず、専門分野やバックグラウンド(出身)の多様性も考慮し、会社が目指している取締役会の在り方を踏まえて社外取締役全体として必要なスキルセットが確保されるよう、配慮することが重要となる(※4)。特に、他社での経営経験を有する社外取締役の必要性が近時指摘されている。 (※4) 「社外取締役ガイドライン」40頁参照。 なお、スキルマトリックスの確認は社外取締役だけに限らず、取締役の選任一般において、取締役会がチームとして必要なスキルを備えているのか確認することが必要である。事業戦略や各社の抱える経営課題を克服するために取締役会が備えるべきスキル等は何か。それを特定した上で、社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを公表することが求められてこよう(※5)。 (※5) 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)参照。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例56】 東宝株式会社 「業績予想の修正に関するお知らせ」 (2021.1.12) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、東宝株式会社(以下「東宝」という)が2021年1月12日に開示した「業績予想の修正に関するお知らせ」である。2021年2月期の業績予想を修正したのだが、売上と利益の予想値をともに増額させるという、増収増益の上方修正である。 同社は、2020年4月14日に「2020年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」を開示した際、2021年2月期の業績予想については、「新型コロナウイルス感染症による影響を現時点で合理的に算定することが困難である」ため、開示せず、「開示が可能となった段階で、速やかに公表」するとしていた。 その後、2020年7月14日に業績予想を開示した後(「業績予想に関するお知らせ」を開示)、2020年10月13日にも業績予想の修正を行っていた(「業績予想の修正に関するお知らせ」を開示)。 その2020年10月13日の業績予想の修正も、増収増益の上方修正だったのだが、売上の修正は1.9%にとどまっていた。しかし、今回の2021年1月12日の業績予想の修正では、売上を12.7%も修正している。 2 修正の理由 今回の開示の「修正の理由」には、次のような記載がある。 多くの方がご存じであろう「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(以下「無限列車編」という)の記録的なヒットが、業績予想修正の理由だったのである。かく言う筆者も、同映画を見に行った(筆者の2人の小学生の息子は「鬼滅の刃」に全く関心を示さないので、おじさん1人で)。 筆者が「鬼滅の刃」に関心を持ったのは、話題になっていたこともあるのだが、筆者の大学のゼミに所属している中国人留学生の影響がある。彼女は、「鬼滅の刃」の大ファンで、コミックスは全て読み、アニメも全て見た上で、映画は2回見に行ったという。「何がそんなに」と思い、筆者も手を出してみたところ、現在、すっかりはまってしまっている(映画だけでなく、アニメも全て見て、コミックスも全巻購入。こういうはまり方は、小学生のときにガンダムにはまって以来)。 3 ヒットの理由 「修正の理由」の記載の中に「予想を大幅に上回る見込み」とあるように、東宝としても、「無限列車編」がここまでヒットするとは想定していなかったようである。「鬼滅の刃」は、昨年の最大のヒット商品だが、映画も含めて、なぜここまでヒットしたのだろうか。当然、理由は1つではないはずであり、様々な見方があるだろう。 筆者が「鬼滅の刃」を見始めて気になったのは、登場する「鬼」の存在である(「鬼滅の刃」は、随分と平たい表現だが、「鬼退治のお話」と言われることがある)。日本では、鬼は、病気や悪意など、悪いものの象徴とされてきたようだが、「鬼滅の刃」では、鬼はもともと人間だったとされている。 そして、見ていて思ったのは、鬼がとても利己的な存在として、対する人間(鬼を倒す「鬼殺隊」)がとても利他的な存在として描かれているということである。見た方でないと分からないが、鬼の起源とされる「鬼舞辻無惨」は完全に利己的であるのに対して、主人公の「竈門炭治郎」は完全に利他的である。 しかし、鬼も元は人間であったとされている。私達の社会では、利己的な価値観と利他的な価値観が共有されている。利他的であることは、優しさとして評価されるが、利己的であることも、「自由」であることとして、常に否定されるとは限らない。もしかすると「鬼滅の刃」に登場する鬼は、私達の利己的な価値観を象徴しているのではないだろうか。 利己的な価値観と利他的な価値観が共有されているとしても、現在の世界・社会は、どちらかと言えば、利己的な方へ偏っているように見える(自国中心主義の政治や新自由主義的な経済など)。また、このコロナ禍においても、至る所で利己的な価値観が増幅され、表出されているように見える(時折利他的な価値観に触れて癒やされることもあるが)。 そうした息苦しさの中で「鬼滅の刃」が多くの人々の心に響いたのかどうかは分からないが、筆者の心には確かに響いた(利他的な価値観を強調し過ぎると、「滅私奉公」といったことに繋がりかねず、危うさがあること、また、利他的な価値観に偏った社会も、それはそれで息苦しい社会に違いないことも踏まえた上で)。 4 ヒットは予想できるのか? 話が本稿の趣旨からかなり逸れてしまったので、元に戻そう。東宝の今回の業績予想に関する一連の開示を見ていると、同社における業績予想開示のあり方について考えさせられる。同社は、今回、まず決算短信で業績予想を開示せず、その3ヶ月後に業績予想を開示した上で、これまで2回、業績予想を修正している。 実は同社は業績予想の修正を滅多に行わない会社である。あくまで今回は例外的で、過去5年間の開示を見ると、1回しか業績予想の修正を行っていない。決算短信では、いつも当期の実績値よりも少し低めに設定した来期の業績予想を開示するのだが、それを修正することなく済んでいる(ということは、ずっと横這いの業績なのだが)。 過去5年間で1回、珍しく2016年10月17日に開示した「業績予想の修正に関するお知らせ」の「修正の理由」は次のように記載されている。このときも、「シン・ゴジラ」のヒットは「当初予想を上回る」ものだったようである。 5 意味のある業績予想とは 多くの会社は、通常、決算短信において来期の業績予想を開示している。しかし、業績を予想しやすい会社とそうでない会社がある(証券会社などは、昔から、業績を予想することが困難であるとして、業績予想を開示していない)。昨年はコロナ禍のために決算短信での業績予想の開示を見合わせる会社が多かったが、平時においても決算短信では業績予想を開示せず、合理的な業績予想を開示できるようになった時点で開示している会社はある。 東宝も、業績を予想するのが困難な会社と言えるだろう。業績予想を修正した場合のその理由を見て分かるように、どんな映画がヒットするのか、予想できていない(筆者のようなおじさんまで「鬼滅の刃」にはまるなんて、予想できないだろう。筆者にとっても想定外)。これまで決算短信において、当期の実績値よりも少し低めに設定した来期の業績予想を開示し、それを修正せずに済んでいたというのは、ヒット作がなかったということである。合理的な業績予想を開示できていたわけではない。 そうした業績予想の開示に意味があるのだろうか。同社の場合、合理的な業績予想を開示できるようになった時点で確度の高い情報を開示した方が、ずっと有意義だと思われる(例えば、四半期ごとに予想を開示したり、あるいは、第1四半期決算短信開示時に第2四半期の業績予想を開示し、第3四半期決算短信開示時に通期の業績予想を開示する等)。とかく投資家は早めに来期の業績予想を知りたがるようだが、意味のない業績予想を知っても、投資判断にプラスになることはない。 なお、「鬼滅の刃」の続きのアニメが2021年に放映されることが決まったとのことである(「無限列車編」で、コミックス全23巻中8巻の途中までしか終わっていない)。おそらく映画もあるだろうし、そうなれば、「無限列車編」と同様のヒット作となるに違いない。また東宝が公開できることになれば、今度は最初からその影響については業績予想に反映させられるはずだが。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「建設業及び受注制作のソフトウェア業における 収益の認識に関する監査上の留意事項」を取りまとめる ~監査を受ける企業にも参考となるリスク評価手続及び対応手続を整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月22日、日本公認会計士協会は、「建設業及び受注制作のソフトウェア業における収益の認識に関する監査上の留意事項」(監査・保証実務委員会研究報告第34号)を公表した。これにより、2020年12月11日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対してコメントは寄せられなかったとのことである。 これは、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)等の公表に伴って、「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)等が廃止されることから、「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第91号)を見直し、工事契約会計基準等の適用が多い建設業及び受注制作のソフトウェア業に関する監査上の留意事項を取りまとめたものである。 研究報告は、大きく、「リスク評価手続とこれに関する活動」と「リスク対応手続」に分けて、監査上の留意事項について記載している。 記載されている内容は、監査を受ける一般事業会社においても、収益認識会計基準の適切な適用のために参考になるものと考えられる。 以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ リスク評価手続とこれに関する活動 1 虚偽表示リスクを高める要因 収益認識会計基準38項に関して、虚偽表示リスクを高める要因として次のものを記載している(12項)。 2 業務プロセスに係る内部統制 収益認識会計基準及び収益認識適用指針の適用に際しては、見積りや判断を要する事項が多いため、担当者以外の専門知識を有するしかるべき責任者又は部署が、客観的な観点で担当者が実施した見積りや判断を検討するプロセスが重要となる。 一般的にこのようなプロセスは承認という行為で内部統制上構築されることが多いため、それぞれのプロセスにおける承認という行為は重要な内部統制となる場合がある(28項)。 契約の識別に関して、業界の取引慣行や個別の契約ごとの事情等により、口頭による契約であるために合意内容を客観的に確かめることが困難な場合や個々の取引に係る契約書等の書面で合意内容が明記されていない場合など、監査上、注意が必要である(30項、31項)。 3 履行義務の識別 以下のような場合、約束した財又はサービスが、別個の財又はサービスであるか一連の別個の財又はサービスであるかは、ビジネスの実態を考慮した判断によるところがあり、また、履行義務の性質が一見しただけでは分かりにくいこともあるため、履行義務の識別が恣意的に行われる場合がある(42項)。 4 履行義務の充足に係る進捗度 履行義務の充足に係る進捗度に関して、アウトプット法とインプット法のいずれの見積方法が、財又はサービスの性質を考慮して完全な履行義務の充足に向けて、財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写する進捗度の見積方法として適切か判断することが難しい場合がある(58項)。 アウトプット法とインプット法の適用に際しての監査上の留意点が記載されている(60項、61項、67項、69項等)。 5 実行予算 工事原価総額の見積りは、一般的には実行予算に基づいて行われる。 工事原価総額を合理的に見積もるためには、見積りが識別された履行義務の各段階におけるコストの見積りの詳細な積上げとして構成されている等、実際の発生したコストと対比して適切に見積りの見直しができる状態となっている必要がある(64項)。 次のことに注意する(64項)。 6 発生したコスト 収益認識会計基準38項に定める収益の認識方法の適用には個別原価計算の採用が前提となる(68項)。 次のことに注意する(68項)。 Ⅲ リスク対応手続 1 アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスク アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクが識別された場合、次のようなリスク対応手続が例示されている(86項(2))。 2 契約の識別に関する実証手続 契約の識別に関する実証手続として、次の監査手続が例示されている(91項)。 3 履行義務の識別に関する実証手続 履行義務の識別に関する実証手続として、次の監査手続が例示されている(95項)。 (了)
《速報解説》 金融庁、「記述情報の開示の好事例集2020」の内容を拡充 ~経営方針、経営環境及び対処すべき課題等や事業等のリスク、MD&Aの好事例を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月16日、金融庁は「記述情報の開示の好事例集2020」の追加を公表した。 これは、新たに、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」の開示の好事例を追加したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等に関する開示例 好事例のポイントとして次のことが記載されている。 Ⅲ 事業等のリスクに関する開示例 好事例のポイントとして次のことが記載されている。 Ⅳ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)に関する開示例 MD&Aに共通する好事例のポイントとして次のことが記載されている。 キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容等の好事例のポイントとして次のことが記載されている。 (了)
2021年2月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.407を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第88回】 「改正法案からみる3つの新たな税制措置の相違」 -DX投資促進税制、CN投資促進税制、繰越欠損金の控除上限の特例- 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 1月26日、「所得税法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。今回の改正法案では、 ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)及びカーボンニュートラル(CN)に向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資等を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例を設けることとされている。 〇事業適応のための税制措置の構造 今回創設される3つの税制上の措置の書き出しは、それぞれ次のようになっている。 (1) デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制 まずデジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制(改正措法案42の12の7①④)については、 とされている。 (2) カーボンニュートラル(CN)投資促進税制 次にカーボンニュートラル(CN)投資促進税制(改正措法案42の12の7③⑥)では、 とされ、しかも上記の「認定事業適応事業者」は、「認定エネルギー利用環境負荷低減事業適応事業者」に限られており、この「認定エネルギー利用環境負荷低減事業適応事業者」とは、 とされている。 (3) 繰越欠損金の控除上限の特例 最後に繰越欠損金の控除上限の特例(改正措法案66の11の4)では、 とされている。 〇産業競争力強化法の構造 これら3つの措置を比較すると、いずれも「認定事業適応事業者」であることが求められているが、それを規定する産業競争力強化法の条項が異なっている。2月5日に「産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」(以下、改正産強法案)が閣議決定され国会に提出されており、この法案に沿って、産業競争力強化法の内容を吟味する必要がある。 これら3つの措置は、いずれも産業競争力強化法に基づき、「事業適応計画」について主務大臣による認定を受けることが前提とされている。 「事業適応計画」とは「事業適応」に関する計画であり(改正産強法案21の15①)、計画の内容である「事業適応」とは、事業者が、産業構造又は国際的な競争条件の変化その他の経済社会情勢の変化に対応して、その事業の生産性を相当程度向上させること又はその生産し、若しくは販売する商品若しくは提供する役務に係る新たな需要を相当程度開拓することを目指して行うその事業の全部又は一部の変更であり、取締役会その他これに準ずる機関による経営の方針に係る決議又は決定を伴うものに限られる(改正産強法案2⑫)。 具体的には、次の3類型とされている(改正産強法案2⑫各号)。 なお、これら3つの「事業適応」は、それぞれ、①成長発展事業適応、②情報技術事業適応、③エネルギー利用環境負荷低減事業適応と呼ばれる(改正産強法案21の13②各号)。 経済産業大臣及び財務大臣は、これらの類型に応じて、事業適応の実施に関する指針(以下「実施指針」という)を定め(改正産強法案21の13)、さらに主務大臣は、実施指針に基づき、所管に係る事業分野のうち、当該事業分野の特性に応じた事業適応を図ることが適当と認められるものを指定し、当該事業分野に係る事業適応の実施に関する指針(以下「事業分野別実施指針」という)を定め(改正産強法案21の14)、主務大臣は実施指針及び事業分野別実施指針に基づき事業適応計画の「認定」を行う(改正産強法案21の15④)。 主務大臣の認定を受けた事業適応計画は「認定事業適応計画」と呼ばれ(改正産強法案21の16②)、計画の認定を受けた事業者は「認定事業適応事業者」と呼ばれる(改正産強法案21の16①)。 税制上の措置の適用を受けるには、まずはこの「認定事業適応事業者」となる必要があるが、それだけでは、事業者に係る適用要件のすべてを満たしているわけではない。 CN投資促進税制においては、認定事業適応計画なら何でもよいわけではなく「エネルギー利用環境負荷低減事業適応」に関するものに限られており、また適用対象となる設備について、産業競争力強化法上で定義される「生産工程効率化等設備」と「需要開拓商品生産設備」の2類型に限定されている。 「生産工程効率化等設備」とは、生産工程の効率化によりエネルギーの利用による環境への負荷の低減に特に資する設備その他のエネルギー利用環境負荷低減事業適応に資する設備とされ(改正産強法案2⑬)、「需要開拓商品生産設備」とは、エネルギーの利用による環境への負荷の低減に特に資する商品その他のエネルギー利用環境負荷低減事業適応を行う事業者による新たな需要の開拓が見込まれる商品として一定の商品の生産に専ら使用される設備とされている(改正産強法案2⑭)。 一方、DX投資促進税制や繰越欠損金の控除上限の特例の適用に当たっては、主務大臣による計画の認定に加えて、一定の事項に関する確認を得ることが必須である。 DX税制においては、情報技術事業適応が、生産性の向上又は需要の開拓に特に資するものとして主務大臣が定める基準に適合することについての主務大臣の「確認」が必要とされ(改正産強法案21の28②)、欠損金の特例においては、経済社会情勢の著しい変化に対応して行うものとして主務大臣が定める基準に適合することについての主務大臣の「確認」が必要とされている(改正産強法案21の28①)。 (了)
令和2年度税制改正における 国外財産調書制度の見直し 【第4回】 税理士 谷口 勝司 3 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書の見直し (1) 国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書の見直し 国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の判定の基礎となる国外財産調書は、次に掲げる措置の区分に応じそれぞれ次に定める国外財産調書とされた(調書法6②二・④二)。 過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用の有無は、国外財産調書の提出の有無や修正申告等の基因となった国外財産の記載の有無等によって異なる。このため、どの時期(年)に提出すべき国外財産調書により判断するかということが重要になる。 上記改正は、過少申告加算税等の加重措置の対象に相続税が追加されたこと等に伴い、相続税について軽減措置又は加重措置の適用判定の基礎となる国外財産調書が見直された、ということである。 簡単な事例で説明しよう(被相続人は甲、相続人は乙1人のみのケース)。 被相続人甲の死亡日(相続開始年月日)がX2年8月11日である場合、上記イの(イ)は、被相続人甲のX1年分国外財産調書、同(ロ)は相続人乙のX2年分国外財産調書、同(ハ)は相続人乙のX3年分国外財産調書、ということになる。 (注) 仮に、被相続人甲がX2年2月4日に死亡し、X1年分国外財産調書をその提出期限であるX2年3月15日までに提出しなかった場合、X1年分国外財産調書の提出義務はないため(調書法5①ただし書)、上記イの(イ)は、被相続人甲のX0年分国外財産調書、ということになる。 そして、相続税の修正申告等の基因となった国外財産が、この3つの国外財産調書のいずれかが、提出かつ記載されていれば、軽減措置の適用対象となる。逆に、この3つの国外財産調書の全てが、不提出又は未記載であれば、加重措置の適用対象となる。 相続税は、納税義務者が相続人、国外財産調書の提出義務者が被相続人といったように異なるケースがあるため、被相続人と相続人のどちらかが国外財産調書を適正に提出(かつ記載)していれば軽減措置の対象になる。他方、被相続人と相続人のいずれもが国外財産調書を提出していない(又は未記載)場合にのみ(換言すれば悪質な場合のみ)加重措置の適用対象となるということである。 (2) 相続開始年に取得した相続国外財産に係る所得税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の加重措置の不適用 相続開始年の年分の国外財産調書について、上記Ⅱ1(【第2回】参照)の柔軟化措置により除外して提出することができる相続国外財産(相続開始年に取得したものに限る)に係る所得税に関し修正申告等があった場合の過少申告加算税等の加重措置は、相続開始年の年分については、適用しないこととされた(調書法6④一)。 国外財産に係る所得税に関する修正申告等があった場合、過少申告加算税等の軽減措置又は加重措置の適用判定は、その所得税の修正申告等に係る年分の国外財産調書(その年分のその年の中途においてその修正申告等の基因となる国外財産を有しないこととなった場合におけるその国外財産にあっては、その年分の前年分の国外財産調書)により行うこととされている(調書法6④、旧調書法6③)。 上記Ⅱ1の柔軟化措置により、相続開始年の年分の国外財産調書の提出・記載については相続国外財産を除外できることとなったことから、(いわば必然的に)その除外した相続国外財産に関する所得税の修正申告等については、加重措置の適用対象外とされたものである。 他方、上記Ⅱ1の柔軟化措置を適用しない場合、つまり相続国外財産を除外せずに(いわば任意で)相続開始年分の国外財産調書の提出・記載を行った場合、相続国外財産に係る所得税に関する修正申告等については、軽減措置についてはその適用があることになろう(調書法6②二)。 (了)