事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第26回】 「不動産法人化の視点と民事信託活用」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私A(55歳)は会社役員の傍ら、数棟の収益不動産を所有し賃貸経営をしています。不動産経営は順調ですが、会社からの給与所得と不動産所得を合計すると所得税率が最高税率となり、税負担が重いことが気になっています。 不動産法人化(法人を設立し、不動産を個人所有から法人所有へ移す)により税負担を抑えることができ、民事信託を活用することにより、さらにメリットもあるという話を聞きました。 なお、私には息子がいて不動産経営を承継してほしいという思いがあり、ノウハウ共有のため新築物件の管理を任せたいと考えています。 民事信託を活用した不動産の法人化はどのように進めれば良いでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 不動産法人化の視点 (1) オーナーの年齢 不動産オーナーの年齢の観点から、「所得税等・法人税等の税率差」と「相続税対策」のポイントを比較すると次のようになります。 (※) 法人設立費用、各年の住民税均等割、社会保険強制加入、譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税、税理士報酬等。 (2) 物件の築年数 不動産の築年数の観点から、「所得税等・法人税等への影響」と「相続税対策」のポイントを比較すると次のようになります。 [2] 民事信託のスキーム 本件では、自益信託(委託者と受益者が同じ信託)として信託組成し、組成後に信託受益権を新設法人へ譲渡するスキームが考えられます。 具体的には、受託者を息子、委託者兼受益者を父親であるA、そして信託目的を「信託財産の管理、運用・・・」とします。 受益権譲渡は、受益者課税の原則(所法13、法法12)よりAから新設法人へ建物を譲渡したものとみなされます。なお、建物が新築のため、未償却残高を時価と推定でき、未償却残高相当額で譲渡することでAに譲渡所得税が生じることはありません。 [3] 民事信託と「所得税等・法人税等の税率差」 信託では、受益者課税の原則が取られているため(所法13、法法12)、受益権譲渡後は、受益権を有する新設法人に信託財産から生じる所得に対し法人税等が課税され、Aに所得税等が課税されることはなく「所得税等・法人税等の税率差」のメリットを享受することができます。 [4] 民事信託と「登録免許税及び不動産取得税(流通税)」 新築物件の所有権移転登記を行う場合、固定資産税評価額が高いので登録免許税及び不動産取得税(以下「流通税」といいます)は多額となります。しかし、受益権を新設法人へ譲渡する場合は、所有権の移転に伴う流通税は課税されず信託登記の流通税(不動産1件当たり1,000円)のみが課され流通税を抑えることができます。 なお、信託対象財産が建物のみの場合は、信託終了事由を「信託財産(建物)の消滅」とすることで信託終了時の流通税も抑えることが可能です。 〈参考〉信託登記の流通税 [5] 民事信託と「地代(信託対象財産が建物のみの場合)」 信託対象財産を建物のみとする場合、「地代支払い」及び「土地の無償返還に関する届出書」等の検討が必要です。これについては本連載の第23回に記載がありますのでご参照ください。 なお、信託の場合、この届け出は受益者(新設法人)で行うこととなり、賃貸借契約はAと受託者である息子の間で締結することとなります。 [6] 結論 本件は、不動産オーナーが50代と若く、長期的視点で「所得税等と法人税等の税率差」を考慮することができ、短期的な相続対策を検討する必要もないため、早期に不動産法人化を行うことが有効です。また、民事信託を活用することで、不動産法人化に際して生じる流通税を抑えることができ、建物管理等を受託者である息子に託し不動産経営のノウハウを共有できる点はメリットです。 本件スキームにおいて、新設法人の株主は息子とすることが考えられ、これにより収益不動産から数十年間生じる金融資産をAの相続財産から除くことができます。なお、A所有の貸宅地については、使用貸借と認定されない程度の地代以上で地代設定する等一定の前提の下、80%評価(本連載の第23回参照)となります。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第47回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (7) 変動対価に関する法人税基本通達2-1-1の11 ア 概要 変動対価や売上割戻しの課税上の取扱いについては、法人税基本通達2-1-1の11及び2-1-1の12に基本的な内容が定められている。以下では、このうち法人税基本通達2-1-1の11について検討する。 本通達は、資産の販売等に係る契約の対価について、値引き等の事実(値引き、値増し、割戻しその他の事実をいい、貸倒れ又は買戻しの可能性に基づく事実を除く)により変動する可能性がある部分の金額(変動対価)がある場合について定めている。法人が変動対価に係る値引き等をした後の金額で収益を計上した場合の取扱いをどうするか、という問題である。 本通達は、資産の販売等に係る契約の対価について、変動対価がある場合において、所定の要件を満たすときは、一定の合理的に算定される変動対価につき、法人税法22条の2第1項の引渡日又は役務提供日あるいは第2項の近接日の属する事業年度(引渡し等事業年度)の確定した決算において収益の額を減額又は増額して経理した金額は、引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映することを定めている(なお、本通達注書の内容は記載を省略しているが、その検討は法人税法施行令18条の2の箇所で行う)。 (※1) 値引き等の事実(値引き、値増し、割戻しその他の事実をいい、貸倒れ又は買戻しの可能性に基づく事実を除く)により変動する可能性がある部分の金額。 (※2) 値引き等の事実が損金不算入費用等に該当しないものである場合に限る。損金不算入費用等とは、寄附金又は交際費等その他のその法人の所得の金額の計算上損金の額に算入されないもの、剰余金の配当等及びその法人の資産の増加又は負債の減少を伴い生ずるものをいう(法基通2-1-1の10(注)2)。 (※3) 法人税法22条の2第1項の引渡日又は役務提供日あるいは第2項の近接日の属する事業年度。 (※4) 引渡し等事業年度の確定申告書に当該収益の額に係る益金算入額を減額し、又は増額させる金額の申告の記載がある場合の当該金額を含み、変動対価に関する不確実性が解消されないものに限る。 本通達を適用した場合の効果を見ると、一定の合理的に算定される変動対価につき、引渡し等事業年度の確定した決算において収益の額を減額又は増額して経理した金額は「引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映するものとする」としている。 「引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映するものとする」という表現が意図しているところについては、次のように説明されている(髙橋正朗「平成30年度法人税基本通達等の一部改正について」租税研究832号17頁)。 本通達に基づいて、一定の合理的に算定される変動対価につき引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映するものとされるのは、「引渡し等事業年度の確定した決算において収益の額を減額し、又は増額して経理した金額」である。そもそも、確定した決算により経理を要求している理由や確定した決算で経理をしていない場合の取扱いについての説明はなされておらず、今後、この点が争点となる可能性もある。 後述するように『平成30年度 税制改正の解説』270頁は、「第三者間取引における値引きや割戻しは、取引対象資産の時価をより正確に反映するための手続と考えることができます」と述べている。仮に、この解説が述べる「手続」に上記の確定した決算による経理が包摂されるのだとしても、企業内部において確定決算による経理をしたか否かで時価が異なり得るという理解は成り立つのか、その明文上の根拠はどこにあるのか、という疑問も惹起される。 もっとも、本通達はこの場合の確定決算による経理した金額について、引渡し等事業年度の確定申告書に当該収益の額に係る益金算入額を減額し、又は増額させる金額の申告の記載がある場合の当該金額を含み、変動対価に関する不確実性が解消されないものに限る、としている。 イ 平成30年度改正と法人税基本通達2-1-1の11との関係 平成30年度改正と本通達との関係はどのように整理すべきであろうか。この点について、国税庁は、本通達について、法人税法22条の2第4項及び第5項の内容を前提として、これらと整合する形で定めたものと説明している(国税庁「平成30年5月30日付け課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」28~30頁参照)。 上記趣旨説明が述べる本通達の趣旨を整理する。 また、上記趣旨説明では、収益認識会計基準や従来の取扱いとの関係も含めて次のように説明されている。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第68回】 「砂利採取業者事件」 ~最決平成16年1月20日(刑集58巻1号26頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔強制適用前におさえておきたい〕 監査上の主要な検討事項(KAM)への対応と留意点 【第3回】 (最終回) 「企業及び監査人のKAMへの対応」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 KAMは、監査人が考えて監査報告書に記載するものであるが、企業が監査人に言われたとおりに監査人から提示されたKAMを受け入れるだけでは、KAM導入の効果(【第1回】参照)が発揮されない。 そこで、本解説では、KAMを監査報告書に記載するにあたって、これから企業側及び監査人側がどのようにKAMへ対応する必要があるかについて解説する。 1 企業側の対応 企業は、最終的に法定期限内までに有価証券報告書を作成及び提出しないといけない。そして、有価証券報告書の作成にあたっては、KAMに記載された項目に関連して注記及び経理の状況より前の記載(「事業等のリスク」や「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況分析」等)の検討、監査報告書の添付が必要になるため、KAMに関して事前に監査人から情報提供を受けて、どのような対応が必要か検討する必要がある。 (1) スケジュールの確認 監査人のKAMに記載する項目及び内容の決定が遅かったり、KAMの提示の時期が遅いと有価証券報告書の作成及び提出に影響するため、事前にスケジュールを確認及び協議する必要がある。 (注) 計算書類に係る監査報告書にも任意でKAMを記載する場合、スケジュールがタイトになるため、より慎重にスケジュールを確認する必要がある。 (2) 監査役等とのコミュニケーション KAMは監査役等とコミュニケーションした事項から選択される。そのため、KAMとなる項目は、監査役等とコミュニケーションする際に監査人から提示された文書及び当該コミュニケーションの議事録を見れば、候補が理解できる。そのため、監査役等とコミュニケーションする際に監査人から提示された文書及び議事録を確認する必要がある。 なお、期末決算中に追加で監査役等とコミュニケーションが行われる場合もあるため、適時に確認する必要がある。 (3) 最終的なKAMの提示 期末監査付近で新たに重要な事象が発生したり、監査の進捗状況によっては、当初のスケジュールどおりに進まず、KAMの最終的な文章の決定までに時間を要する可能性がある。そのため、期末監査の前又は最中に、有価証券報告書の提出に間に合うように、監査人からKAM記載の項目及びKAM(監査報告書)のドラフト及び最終版を提示してもらうよう依頼しておく必要がある。 (4) リスクへの適切な対応 KAMに記載される項目は、企業にとってリスクが高い項目である。そのため、企業として適切にそのリスクに対応しているかどうかを検討する必要がある。そのリスクに適切に対応できてきない場合、現在又は将来の企業の財政状態及び経営成績等に大きく影響する可能性があるため、注意が必要である。 (5) 未公表情報の確認 KAMに記載される内容は、企業にとって重要な項目であるため、通常、企業側から情報を提供しなければならないケースが多いと考えられる。制度上、提供する必要がなくても、KAMに記載される内容は重要な情報であるため、積極的に情報を提供することが望まれる。 そのため、KAMに記載される内容が、企業の公表していない情報(未公表情報)に該当しないか確認する必要がある。なお、有価証券報告書への記載のみならず、適時開示等でも公表していれば、未公表情報に該当しない(監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(以下、「監基報701」という)A35)。 (6) 注記及び経理の状況より前の記載の検討 ① 有価証券報告書の注記 KAMに記載される項目について、有価証券報告書の注記(会計上の見積りの注記(※)、追加情報等)が必要な場合がある。また、KAMの記載にあたって注記への参照を記載する必要があるため、KAMの内容に合致した注記を行う必要がある。そのため、注記が適切に行われているか検討する必要がある。 (※) 企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度から適用される。 ② 有価証券報告書の経理の状況より前の記載 経理の状況より前の記載においても、必要な記載が行われているか検討する必要がある。 なお、上記①及び②の記載にあたっては、事前に監査人と十分に協議することで、効率的に作業することができると考えられる。 (7) 経営者への報告 KAMは2021年3月期から強制適用されるため、経営者の関心が高い企業も多いと考えられ、経理等から経営者へ報告が求められる会社も多いと考えられる。そのため、監査人が実際にどのような理由でKAMを決定し、企業としてKAMの項目に対して、リスク及び開示への対応をどのように行ったか説明できるようにしておく必要がある。 【企業側:KAM対応チェックリスト】 2 監査人側の対応 KAMは監査人が考え、作成するものである。しかし、KAMの記載内容の決定にあたっては、KAMの記載内容に未公表情報が記載されることを避けたり、有価証券報告書の注記等への記載を検討する必要がある。そのため、監査人として、期末監査前及び最中に、適時に対応しておく事項がある。 (1) スケジュールの確認 企業の有価証券報告書の作成及び提出に間に合うように、企業とスケジュールを確認及び協議しておく必要がある。 (2) 監査役等とのコミュニケーション KAMは、監査役等とコミュニケーションを行った中から決定しないといけないため、コミュニケーション漏れがないかどうか確認する必要がある。特に、期末監査中にリスクの高い新たな事象が発生した場合や、既存の事象で今まではリスクが低い項目であったが、リスクが増加した場合には、期末監査中に監査役等とコミュニケーションを行う必要がある。 (3) 監査調書 KAMの決定過程について、監査調書に記載する必要がある。監基報701で必ず記載することが求められている事項は、以下のとおりである(監基報701.17)。 なお、監査役等とコミュニケーションを行った事項のうち、監査人が「特に注意を払った事項」としなかったものについて、その理由を監査人が文書化することは要求されていない(監基報701.A64)。一方、「特に注意を払った事項」のうち、KAMとした理由及びKAMとしなかった理由については、文書化する必要がある。 (4) 未公表情報の確認 KAMは、未公表の情報の提供を意図するものではない。また、KAMの記載にあたって、監査人には、企業に関する未公表の情報を不適切に提供することを避け、簡潔かつ理解可能な様式で有用な情報を提供することが求められている(監基報701.A34、A36)。 そのため、KAMの記載にあたって、未公表の情報が含まれる可能性がある場合、事前に、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である(監基報701.A36)。 (5) 注記及び経理の状況より前の記載の検討 KAMに関連する有価証券報告書に注記がある場合、注記への参照を記載する必要がある(監基報701.12(1))ため、注記が適切に行われているか検討する必要がある。 また、有価証券報告書の経理の状況より前の記載においても、必要な記載が行われているか検討する必要がある。 (6) KAMの記載内容の監査法人内のレビュー KAMの記載が誤っている場合、監査報告書が誤っていることになる。また、KAMは、情報伝達としての役割もあるため、財務諸表利用者にとって、理解しやすいものでなければならない。従前の監査報告書は決められた文章のため、誤りが生じることは稀であったと考えられるが、KAMの記載内容は、企業特有の内容であり、かつ、理解しやすいものでなければならないため、今までの監査報告書の作成よりも慎重に確認及びレビューを行う必要がある。 また、監査報告書の提出の際には、監査法人内の審査担当者による審査を受ける必要があるが、KAMの記載内容について、審査担当者のみによるレビューだけでは、誤りがないかどうかの確認やKAMの内容の理解しやすさの確認が漏れる可能性があるため、複数人によるチェック体制を構築することが望まれる。 【KAMレビューのポイント】 【監査人側:KAM対応チェックリスト】 (連載了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第110回】 ダイワボウホールディングス株式会社 「特別調査委員会調査報告書(2020年11月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【ダイワボウホールディングス株式会社特別調査委員会の概要】 【ダイワボウホールディングス株式会社の概要】 ダイワボウホールディングス株式会社(以下「ダイワボウHD」と略称する)の前身である大和紡績株式会社は、1941(昭和16)年4月設立。2009年7月に現商号に変更し、純粋持株会社となる。ITインフラ流通事業、繊維事業及び産業機械事業を主たる事業分野とする。連結売上高944,053百万円、経常利益33,195百万円、資本金21,696百万円、従業員数5,654名(いずれも2020年3月期連結実績)。本店所在地は大阪市中央区。東京証券取引所1部上場。会計監査人はEY新日本有限責任監査法人。 不正が発覚したのは繊維事業の中核会社である大和紡績株式会社(2009年7月、旧大和紡績株式会社がダイワボウHDに商号変更後、設立。以下「大和紡績」と略称する)の子会社で、ダイワボウノイ株式会社(以下「ノイ社」と略称する)C部D課であった。ノイ社は、旧大和紡績の製品・テキスタイル事業部門を承継し、衣料品、寝具寝装品用の原糸、テキスタイルから最終製品までの製造・加工・販売を事業内容としてきたが、2020年4月に大和紡績に吸収合併され、現在は同社の製品・テキスタイル事業本部となっている。 ◎ダイワボウHDにおける事業再編の経緯 【調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 大和紡績の子会社であるB社元役員のA氏(以下「A氏」と略称する)は、2020年9月4日、B社社長に対し、2012年4月から2018年9月末日までノイ社C部副部長であった当時から、ノイ社には秘して、商品が実在しないにもかかわらず、製品を伝票のみでP社等に販売し、その後、R社等を経てノイ社が購入し、更に循環に回すという、架空の循環取引(以下「本件循環取引」という)を行っていたことを告白した。 B社は、直ちに、大和紡績にA氏の自白と本件循環取引の概要を報告し、社内調査を経て、ダイワボウHDは、9月30日開催の取締役会において、本件循環取引の事実解明、原因究明などを目的として、外部の弁護士及び公認会計士を含む特別調査委員会の設置を決議し、同日、これを適時開示した。 2 本件循環取引の概要 A氏が作出した架空循環取引には複数の商流が混在しているが、最も売上高の大きいP社向け販売取引の手口は、次のとおりである(報告書15ページ)。 A氏が繰り返した架空循環取引による売上計上額と、ノイ社C部D課の売上高に占める割合をまとめたものが、次の表である。 〈循環取引による売上計上実績〉 3 B社転籍後の手口の概要(報告書20ページ) 2018年10月付で、A氏は、ノイ社から、大和紡績の別の子会社であるB社へ転籍となったが、A氏は、本件循環取引の発覚をおそれ、その担当業務を後任者へ引き継がなかったばかりか、関与会社に対する連絡はそのまま自身にて継続して行うとともに、ノイ社内での手続については、「なりすましメール」を使用して、ノイ社の後任者に取引の実在性を誤信させ、社内手続が滞ることのないよう仕向けていた。 こうした結果、特別調査委員会が認定した本件循環取引に係る損失が見込まれる債権債務残高は、次のとおりである。 〈循環取引に係る債権債務残高〉 売掛債権は回収不能が見込まれるためその全額が損失となり、棚卸資産も架空在庫であるから、これも全額を損失とする必要があろう。問題は、買掛債務を支払う必要があるか否か、2020年9月以降に買い付ける予定となっているS社在庫がどのように取り扱われるかであるが、仮にすべての損失を大和紡績が負担することとなった場合には、総額で2,763百万円の損失となり、前項に掲げた本件循環取引による売上計上額の45%以上を損失として認識することになる。 4 本件循環取引にいたる背景事情及び動機(報告書20ページ以下) 特別調査委員会による調査では、A氏が取り扱う商流について、D課の中で、他に把握する者がいなかったところ、A氏は、社内では長期在庫の解消や売上の数字は求められる一方で、取引先からのクレームやトラブル等が発生しても、自己解決を求められ、上司に相談できるような環境にはなく、各々が、さながら「個人商店」として業務を行わざるを得なかったことが判明している。 そうした中、2014年、A氏は、長期間P社に在庫保管を依頼していた製品を買い戻す必要に迫られ、複数回に分けて、R社を経由させたうえでこれらを買い戻したことをきっかけに、当該在庫を用いて売上の数字を上げることに思い至り、本件循環取引が開始された。また2016年には、従前の実取引の中で、納期遅れによりQ社に生じさせていた損害を補填する必要が生じ、既に開始されていた本件循環取引の環にQ社を入れることで、損害を回復させることにした。 A氏は、当初はどのみち早期に発覚してしまうだろうと考えていたということだが、諸要因が重なった結果、実に6年もの間発覚することはなく、その間に取引価格は膨らむこととなった。 5 特別調査委員会による原因の究明(報告書30ページ以下) 特別調査委員会は、本件循環取引の根源的な原因として、社内においてコンプライアンス及び内部統制に関する意識が十分に浸透していないこと、また、営業部門が管理部門に対して優位な地位にあるため、管理部門の統制を無視又は軽視しがちな社風であろうと結論を述べたうえで、具体的には以下のようにまとめている。 ここでは、「営業優位の社風」「受渡担当による統制」及び「内部監査」について、特別調査委員会の分析を見ておきたい。 2006年1月、旧大和紡績の分社化に伴って、事業会社の管理業務をアソシエ社が受託することになったことは、結果的に管理部門を弱体化させ、「営業優位の社風」をより強くしてしまった。また、ノイ社を含む大和紡績では、事業部署に受渡担当者を配置し、営業課員が行う販売及び購入については、受渡担当者が出荷、着荷などの管理を行うことで内部統制として有効な仕組みとしていたが、営業部門からの、とりわけ職位の上位者からの圧力には統制が十分に効かないこともあり、本件循環取引は、その典型例であったとしている。 一方、内部監査については、2019年9月に内部監査規程が制定され、内部監査計画書が作成されるなどの整備が行われたものの、それまでの監査室の活動は、内部監査の機能を十分に果たせておらず、在庫確認についても、商品の約半分を保管する外部倉庫については実地棚卸が全く行われていなかった。内部監査は不正の発見統制手段として極めて重要であるが、それが機能していなかったことが、本件循環取引が長期にわたって発見されなかった大きな原因となったとまとめている。 6 特別調査委員会による再発防止策の提言(報告書34ページ以下) 特別調査委員会は、循環取引の発覚以降に大和紡績が策定してきた再発防止策を概ね妥当であると評価したうえで、「中立公正の観点」から、以下の再発防止策を提言している。 特別調査委員会が、「再発防止のための最も重要な施策」として冒頭に掲げたのは、「コンプライアンス意識を内部統制システムに具体化させ、適切に運用すること」と「コンプライアンスの意識を織り込んだ営業への意識改革、営業優位の社風の是正」であり、全社的な意識改革が不可欠であることから、「経営トップの強いリーダーシップによる社風の改革」の必要性を強調している。 また、本件循環取引の特徴の1つとして、多数の偽造・変造書類が作成・行使された点を挙げ、偽造文書等への対策として、「就業規則等に偽造・変造書類の作成や行使を禁止する規定をもうけ、違反者には厳しいペナルティを課す」ことと、「継続的な研修や広報を続け、偽造・変造書類の作成や行使を許さない社風を確立する必要がある」としている。そのうえで、「将来的には、基幹システムの改修によって、決済過程に偽造・変造書類が介在する余地のない仕組みを構築することが重要である」とまとめている。 さらに、管理部門の機能強化については、人員の補強が必要であると述べたうえで、大和紡績が2020年7月に設置した「財務内部統制委員会」は、本件循環取引の発生によって、その役割が一層強化され、監査室の役割も増大することが予想されているが、管理部門の責任者へのヒアリングでは、全ての部署が人員、人材の不足を指摘していることから、管理部門における人員の補充、人員の育成は避けることができない課題であり、何らかの善処が求められると説明している。 【調査報告書の特徴】 2020年9月30日夜から翌日にかけて、ダイワボウHDの子会社で不適切な取引が発覚したというニュースがネットで配信された。筆者は、ダイワボウ情報システム株式会社(以下「DIS」と略称する)が絡んでいたネットワンシステムズ社事件(本連載【第97回】参照)で新たな事実が判明したのではないかと勘繰ったのであるが、その後、子会社は大和紡績であると公表され、DISは無関係であった。 本件は、ノイ社で副部長職にあったA氏が、人事異動によって別会社に転籍した後も2年間にわたり、架空のメールや書類の偽造によって架空循環取引を継続していたという特異な事例であるが、一番の疑問点は、「なぜ、A氏の不正に気づかなかったのか」である。 1 DISを調査対象に含めた理由と調査結果の概要 特別調査委員会は、大和紡績の兄弟会社であるDISと株式会社オーエム製作所について、両社は、大和紡績とは事業内容も全く異なるし、取引先、取引内容、取引慣習も全く異なるうえに、資本関係もないし、取締役の兼任もないことから、両社については、本調査の対象とする必要がないと判断したと説明している。 ただ、DISについては、2014年12月から翌年にかけ、取引先が企てた循環取引(ネットワンシステムズ社事件(本連載【第97回】参照))において、それを知らないまま、循環の連鎖に組み込まれたことがあり、2020年2月、DISは当該循環取引の関与企業として新聞報道(※)されたことから、DISについても、循環取引などの懸念がないかを調査している。 (※) 「本日の一部報道に関して」(2020年2月14日付) 調査結果について、特別調査委員会は、2016年以降、DISは、ディストリビューターの本来の業務は、実際に商品の調達、納品などを行うことにあるとのポリシーから、伝票のみの売買取引については自ら受注を断っていたうえ、ネットワンシステムズ社事件が明らかになった後、全社アンケートの実施、担当者の全メール調査、取引先を含む関係先のヒアリング、財務データの分析及び検討などによって、社内に隠れた循環取引が存在しないかを調査し、それがないことを確認した経過があったことから、DISには循環取引を許容する風土がないと認定できると評価した。さらに、DISは、営業部門(販売)と調達部門(仕入)が組織上分離されており、業務フロー上の各所においてシステム上の統制機能が働いており、不正な循環取引が生じにくい仕組みになっていること、コンプライアンス教育などを通じて、社内の規範意識の向上が認められることから、不正な循環取引及びその兆候は認めることができないと判断したと説明している。 2 管理部門を別会社に集中することの弊害(報告書8ページ以下) 複数の事業会社の管理部門を1つに統合して、合理化・効率化を図るという手法が、大和紡績では、結果的に、内部統制を脆弱なものとしていた。特別調査委員会の分析を引用しながら、そのメカニズムに注目したい。 旧大和紡績は、2006年1月、会社分割によって、全事業を4つの子会社へ承継させるとともに、管理部門の人員をアソシエ社に転籍させ、以後、アソシエ社は事業会社の管理部門の業務を受託することになった。特別調査委員会が管理部門職員にヒアリングを行ったところ、「管理部門の外出しによって、管理部門が事業会社の下請になってしまった。管理部門が事業会社と別会社になってしまい事業会社の業務への関心が低下した」との意見が多く聞かれたという。「原因の究明」の項でも、本件循環取引は、管理部門の統制が十分に機能していなかったことを原因としているが、その遠因がこの「管理部門の外出し」にあったと結論づけている。 なお、大和紡績は2020年4月にアソシエ社を含む子会社5社を吸収合併し、管理部門の外出しは解消されたが、特別調査委員会によれば、調査の時点においても、外出し時に形成された管理部門の営業部門に対する劣位、関心の乏しさは解消されずに残っていたということである。 3 なぜ、本件循環取引は長く発覚しなかったのか 2020年12月24日に公表された「不適切取引に関する再発防止策等に関するお知らせ」を読むと、A氏は、大和紡績の子会社に役員として転籍していたことがわかる(すでに解任)。つまり、A氏による本件循環取引は長く発覚しなかったばかりか、同氏の業績に対する評価は高かったということであろう。 なぜ、2014年から続けられた本件循環取引は、A氏が別の子会社の役員となった後も続けられ、発覚しなかったのか。特別調査委員会による原因の究明(報告書30ページ以下)は、原因分析と改善策(あるべき姿)が混然としており読みづらいので、12月24日付リリースから、ダイワボウHDによる発生原因の分析を見ておきたい(下線は筆者による)。 問題は、ダイワボウHDにおいて、こうした「不正が発生しやすい社風・環境」が長く放置されていた理由は何かということであろう。そのヒントとして、ダイワボウHDのセグメント情報に注目したい。 〈ダイワボウHDセグメント情報(2020年3月期実績)〉 ダイワボウHDの売上高の90%以上は、ITインフラ流通事業で占められており、その中核会社であるDISにおいては、特別調査委員会も認めているように、的確な内部統制システムが構築・運用されており、また規範意識の向上も認められるのであるが、従業員数が多い割に売上高の退潮傾向に歯止めがかからない繊維事業部門は、もともとは本業でありながら、もはや傍流扱いとなり、経営資源が十分に分配されず、内部監査もおざなりなものとなっていたと言えるのではないかと思料するのは、いささかうがった見方であろうか。 4 ダイワボウHDによる再発防止策 こちらも、2020年12月24日に公表された「不適切取引に関する再発防止策等に関するお知らせ」から、再発防止策の概要を引用したい。 純粋持株会社であるダイワボウHDとして取り組む必要がある具体的な施策としては、3ライン・ディフェンスを意識したグループ会社における内部統制の強化と、グループガバナンス体制の再構築における管理部門・内部監査部門の在り方であろう。 内部統制の強化のために、ダイワボウHDは、「営業部門」「管理部門」「内部監査部門」におけるそれぞれのディフェンスラインを有効に機能させるとして、次の具体策を示している。 さらに、ダイワボウHDは、グループガバナンス体制の再構築のための具体的な施策として、次の4項目を挙げている。 再発防止策として目新しい項目は見当たらないが、要は、DISにおいて構築・運用されている内部統制システムを模範として、ダイワボウHDが主導して、再発防止に努めなければならないということであろう。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第11回】 「退職勧奨の実施はパワハラに該当するのか」 弁護士 柳田 忍 【Question】 コロナ禍による業績悪化に伴い、当社においても全社的な退職勧奨を実施することになりましたが、退職勧奨はパワハラに当たるのでしょうか。また、退職勧奨がパワハラに当たらないためのポイントについて教えてください。 【Answer】 退職勧奨もパワハラになることがあります。対象従業員への不当な心理的圧力とならないように、退職勧奨面談の設定や言動に気をつける必要があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 退職勧奨とは、辞職や使用者からの合意退職の申込みへの承諾を勧める使用者の行為であり、基本的に使用者は自由に退職勧奨を行うことができる。しかし、退職勧奨に際して、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現を超えて、当該労働者に対して、不当な心理的圧力を加えたり、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりした場合には、違法なパワハラとなる(山口地裁周南支判平成30年5月28日)。 「退職勧奨」自体は、いわゆるパワハラの6つの類型(拙稿第1回参照)としては挙げられていないが、例えば、「あなたが退職すれば会社の人件費が浮く」といった発言は「精神的な攻撃」(類型②)に、管理職候補として採用した者に対して執務場所を与えず自ら仕事を探すよう求めるといった言動は、「人間関係からの切り離し」(類型③)や「過小な要求」(類型⑤)に該当するなど、退職勧奨に伴う言動が6類型に当たる場合がある。 退職勧奨がパワハラに該当しないためのポイントは以下のとおりである。 1 退職勧奨面談の設定について その他の状況にもよるが、上記を満たさない面談は、対象従業員に不当な心理的圧力がかかるものとしてパワハラに該当するおそれが高まるものと思われる。 2 退職勧奨面談における言動について (1) 対象従業員の人格や名誉感情を不当に傷つける発言をしない 退職勧奨に際して対象従業員の社内における立ち位置を理解させるために、対象従業員の業績が会社の期待値に達していないことや、対象従業員が会社の戦力外であると伝えること自体は、対象従業員の人格や名誉感情を不当に傷つける発言には当たらない。 これらを伝えるために必要のない言動や表現(例えば、上記の「あなたが退職すれば会社の人件費が浮く」といった発言)が、対象従業員の人格や名誉感情を傷つけるといった事例がよく見られるため、要注意である。 (2) 退職勧奨に応じない意思を明示した対象従業員に対して執拗に退職勧奨に応じるよう迫ることはしない 退職勧奨に応じない意思を明示した対象従業員に対して執拗に退職勧奨に応じるよう迫る場合、対象従業員に不当な心理的圧力が加えられたと評価される可能性が高い。 もっとも、退職勧奨に応じることは必ずしも従業員にとって不利益なものではなく、会社に在籍し続けた場合のデメリットや退職勧奨に応じた場合のメリット等は、従業員が決断を下すうえでの重要な情報であるから、対象従業員が退職勧奨に応じない意思を明示した場合であっても、会社が以下のような情報について具体的かつ丁寧に説明し、説得活動をすることは、不当な心理的圧力には当たらないと考えられている(日本IBM事件(東京地判平成23年12月28日労経速2133号3頁))。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第14回】 「請負契約と委任契約の違いと印紙税の注意点」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 石橋 輝之 〔質 問〕 ①当事務所の顧客から、よく「この契約は、請負ですか、それとも委任でしょうか」という質問を受けます。収入印紙代に違いが生じるからという理由です。請負と委任はどう違うのでしょうか。 ②顧客の契約で、「業務委託契約」というものがよくありますが、これは「請負」なのでしょうか、それとも「委任」なのでしょうか。 ③ちなみに、税理士の顧問業務は、「請負」、「委任」のどちらでしょうか。 〔回 答〕 ①「請負」は、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に対してその当事者に報酬を与えることを約束する契約です。 「委任」は、当事者の一方が法律行為を相手方に委託する契約をいいます。法律行為ではない事務を委託する場合は、「準委任」といいます。 請負と委任の違いは、仕事の完成を目的とするかどうかです。請負は仕事の完成を目的としていますが、委任は仕事の完成を目的とするわけではありません。 したがって、請負か委任かを判断する際には、その契約が仕事の完成を目的としているのかによって判断することになります。 ②業務委託契約は、ある業務を外部の第三者に委託する場合に用いる契約です。 事務の処理を目的とする場合は委任(準委任)契約としての性質を有し、何らかの物品の製造を委託するような場合は請負契約としての性質を有することになります。 つまり、業務委託契約といっても委任の場合もあれば、請負の場合もあるということになります。 また、業務委託契約によっては、委任と請負の両者の性質をもっている(混合契約)という場合もあります。この場合、印紙税との関係では、請負と考えることになります。 ③税理士の顧問業務は、税務申告や日々の経営上の相談の受付等の事務処理を目的とするものですから、委任契約に該当します。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 請負と委任の違い 請負と委任の違いは、仕事の完成を目的としているかどうかという点にある。 請負の典型例は、建築工事請負契約や運送契約等である。前者は、建物の完成が目的になっており、後者は物品をある場所に運ぶという結果(完成)が目的となっている。 委任の典型例は、弁護士への訴訟委任や医師との診療契約である。前者は、訴訟の遂行自体を委託しているのであり、勝訴判決を得るというような結果(完成)を目的としているものではない。また、後者も、治癒というような結果(完成)を目的としているものではなく、治療を施すこと自体が目的となっている。 なお、税理士の方からすれば常識であろうが、委任の場合、例外的に7号文書と呼ばれる「継続的取引の基本となる契約書」について4,000円の収入印紙を貼付する必要があるケースはあるものの、原則として、契約書に収入印紙を貼付する必要はない。 2 業務委託契約は請負なのか委任なのか 業務委託契約といっても様々なものがある。受託者に仕事の完成を請け負わせるタイプのもの(請負)もあれば、受託者に事務の処理を委託するもの(委任・準委任)もある。 例えば、製造業の分野における製造委託(OEM)などは、仕事の完成が目的であるから、請負となる。 一方で、コールセンター業務を外注するに際し締結する業務委託契約の場合、仕事の完成を委託しているということではなく、事務処理を委託しているため、準委任契約となる。 最近増加している契約類型としてSES(システムエンジニアリングサービス)契約というものがある。これは、システム開発等を行うためにエンジニアの技術を提供するサービスのことをいう。具体的にいうと、発注元(クライアント)が受託者(ベンダー)に対して、あるシステムの開発や保守の発注をし、受託者(ベンダー)がそれに必要な技術(実際にはエンジニアによる作業)を提供する契約のことである。 実際に受託者(ベンダー)が技術を提供するにあたっては、案件ごとに受託者(ベンダー)と契約をした個人のエンジニアが当該技術を提供することが多い。その際、エンジニアは、発注元(クライアント)の営業所内で作業をする場合も多く、雇用や派遣労働との違いが分かりにくくなっている。 SES契約の場合は、システムの完成を目的として業務を行うのではなく、技術の提供自体が目的であるため、準委任契約となる。システムの完成が目的ではないため、受託者(ベンダー)やエンジニアが受領する対価は、時間あたりの金額で算定されることも多い。仮にシステムの完成を目的とするような契約の場合、当然請負になる。 以上のように、業務委託契約書の場合は、その目的の内容を確認し、仕事の完成を目的とするような委託業務になっているのかどうか検討して、請負であるのか委任・準委任であるのかの結論を出すことになる。 3 請負となる業務と委任となる業務が1つの業務委託契約に含まれている場合、印紙税はどう考えればいいか 業務委託契約で委託している業務が複数あり、請負と解釈できる業務もあれば委任と解釈できる業務もあるというような場合が多くある。例えば、システムの保守の委託は、準委任契約であるが、システムの開発の発注は請負であるところ、この両者を同一の契約書で定めているような場合である。 この場合は、当然、その業務委託契約について、請負か委任かのどちらか一方と決めることはできない。素直に、両者の性質をもつ契約(混合契約)と解することになる。 印紙税法との関係でいえば、印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則2で「一の文書で1若しくは2以上の号に掲げる事項とその他の事項が併記又は混合記載されているものは、それぞれの号に該当する文書とする」と規定されているため、上記のような混合契約の場合は、請負契約であるとして印紙税を算定することになる。 4 税理士業務は請負なのか委任なのか 税理士の顧問契約については、基本的に委任契約と解釈されている(最高裁昭和58年9月20日判決(TAINSコード:Z999-0204))。 確かに、顧問契約の主要な目的である税務申告については、税務申告書の完成が目的となっているから請負であるという解釈もできるように思われるが、顧問契約では税務申告書の作成だけではなく、税務代理も委託しているのが通常であり、また、税務代理以外の日々の経営上の相談を受けることも顧問契約の範囲内に含まれていることが多い。税理士との顧問契約は、全体としてみれば、何らかの仕事の完成を目的とするというよりは、税務の処理を委託していると捉えるのが妥当であるから、委任・準委任と解釈するのが正しい。 もっとも、税務代理までの依頼はせず、単発で税務申告書の作成のみを委託したという場合は、請負であると解されることになろう。 仮に税務申告書の内容に過誤があった場合であるが、委任契約であれば、善管注意義務違反(民法644条)による損害賠償が問題となる。例外的に税務申告書の作成のみを受託し、請負となる場合は、契約不適合責任(民法636条)による損害賠償が発生しうる。 (了)
《速報解説》 改正会社法及び会社法整備法の施行等に 伴う金融庁関係政府令等が公布 ~「財務諸表等規則」等の改正に伴う経過措置もあるため適用時には附則に注意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年2月3日、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号。以下「改正会社法」という)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年法律第71号)の施行(1年3月以内施行及び1年6月以内施行)等に伴う金融庁関係政府令等が公布された。これにより、2020年11月6日から意見募集されていた改正案が確定することになる。改正案に対するコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されており、改正案から変更されている部分がある。 非常に多数の金融庁関係政府令等を改正するものであるので、本稿では、企業会計に関連する改正について解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 財務諸表等規則関係 1 定義 2 純資産の分類 「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(実務対応報告第41号)では、純資産の部の株主資本以外の項目に「株式引受権」を新設している。 また、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(2020年11月27日、法務省令第52号)では、「株式引受権」が新たに定義されており、取締役又は執行役がその職務の執行として株式会社に対して提供した役務の対価として当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利(新株予約権を除く)をいうとされている(会社計算規則2条3項34号)。 そこで、財務諸表等規則でも次の改正を行う(連結財務諸表規則、四半期財務諸表等規則、四半期連結財務諸表規則も同様)。 Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令関係 1 株式交付 改正会社法では、株式交付について規定されている。 株式交付とは、株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。会社法774条の3第2項において同じ)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう(改正会社法2条32号の2)。 そこで、「企業内容等の開示に関する内閣府令」でも次の改正を行う 2 補償契約 有価証券届出書などの「コーポレート・ガバナンスの概要」において、補償契約(会社法430条の2第1項に規定する補償契約)もしくは役員等賠償責任保険契約(会社法430 条の3第1項に規定する役員等賠償責任保険契約)を締結した場合について規定する。 3 役員の報酬等 Ⅳ 施行期日等 「無尽業法施行細則等の一部を改正する内閣府令」(2021(令和3)年2月3日、内閣府令第5号)に、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部改正」などが規定されており、会社法の一部を改正する法律の施行の日(令和3年3月1日)から施行される。 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部改正に伴う経過措置などが規定されているので、実際の適用に際しては附則に注意する。 (了)
《速報解説》 令和3年度税制改正(法人税関係)に関連大きい「産業競争力強化法等の改正法案」が閣議決定される ~DX・カーボンニュートラル投資促進税制や中小企業経営資源集約化税制の認定制度を整備~ Profession Journal編集部 令和3年度税制改正関連法は国税に係る改正法が本年1月26日に、地方税に係る改正法が1月29日にそれぞれ通常国会へ提出されたところだが、今回の改正で創設される税制のうちデジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制やカーボンニュートラルに向けた投資促進税制、これら取組み企業への繰越欠損金の控除上限の特例措置は、それぞれ産業競争力強化法で定めた計画認定が必要とされている。 このたび、これら新たな認定制度に対応した「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が2月5日に閣議決定され、今国会へ提出されることになった。 この改正法案には①産業競争力強化法だけでなく、②中小企業等経営強化法、③地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律、④中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律、⑤下請中小企業振興法、⑥独立行政法人中小企業基盤整備機構法などの改正案も織り込まれており、今年度改正における「中小企業の経営資源の集約化に資する税制(中小企業事業再編投資損失準備金制度、中小企業経営強化税制における新類型)」の適用に必要な認定制度は、中小企業等経営強化法の改正案に定められている。 さらに税制とは異なるが、中小企業等経営強化法の改正案には、中小企業から中堅企業への成長途上にある企業群へ金融支援等を行う施策として、資本金によらない新たな支援対象類型(特定事業者)についての規定が織り込まれている。 (※) 経済産業省ホームページより (了)