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[無料公開中]ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第11回】「退職勧奨の実施はパワハラに該当するのか」

筆者:柳田 忍

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ハラスメント発覚から紛争解決までの

企 業 対 応

【第11回】

「退職勧奨の実施はパワハラに該当するのか」

 

弁護士 柳田 忍

 

【Question】

コロナ禍による業績悪化に伴い、当社においても全社的な退職勧奨を実施することになりましたが、退職勧奨はパワハラに当たるのでしょうか。また、退職勧奨がパワハラに当たらないためのポイントについて教えてください。

【Answer】

退職勧奨もパワハラになることがあります。対象従業員への不当な心理的圧力とならないように、退職勧奨面談の設定や言動に気をつける必要があります。

解 説

退職勧奨とは、辞職や使用者からの合意退職の申込みへの承諾を勧める使用者の行為であり、基本的に使用者は自由に退職勧奨を行うことができる。しかし、退職勧奨に際して、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現を超えて、当該労働者に対して、不当な心理的圧力を加えたり、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりした場合には、違法なパワハラとなる(山口地裁周南支判平成30年5月28日)。

「退職勧奨」自体は、いわゆるパワハラの6つの類型(拙稿第1回参照)としては挙げられていないが、例えば、「あなたが退職すれば会社の人件費が浮く」といった発言は「精神的な攻撃」(類型)に、管理職候補として採用した者に対して執務場所を与えず自ら仕事を探すよう求めるといった言動は、「人間関係からの切り離し」(類型)や「過小な要求」(類型)に該当するなど、退職勧奨に伴う言動が6類型に当たる場合がある。

退職勧奨がパワハラに該当しないためのポイントは以下のとおりである。

 

1 退職勧奨面談の設定について

 会社側の面談者は2名以下とする

 1回当たり、30分から1時間、1週間に3回以内とする

その他の状況にもよるが、上記を満たさない面談は、対象従業員に不当な心理的圧力がかかるものとしてパワハラに該当するおそれが高まるものと思われる。

 

2 退職勧奨面談における言動について

(1) 対象従業員の人格や名誉感情を不当に傷つける発言をしない

退職勧奨に際して対象従業員の社内における立ち位置を理解させるために、対象従業員の業績が会社の期待値に達していないことや、対象従業員が会社の戦力外であると伝えること自体は、対象従業員の人格や名誉感情を不当に傷つける発言には当たらない。

これらを伝えるために必要のない言動や表現(例えば、上記の「あなたが退職すれば会社の人件費が浮く」といった発言)が、対象従業員の人格や名誉感情を傷つけるといった事例がよく見られるため、要注意である。

(2) 退職勧奨に応じない意思を明示した対象従業員に対して執拗に退職勧奨に応じるよう迫ることはしない

退職勧奨に応じない意思を明示した対象従業員に対して執拗に退職勧奨に応じるよう迫る場合、対象従業員に不当な心理的圧力が加えられたと評価される可能性が高い。

もっとも、退職勧奨に応じることは必ずしも従業員にとって不利益なものではなく、会社に在籍し続けた場合のデメリットや退職勧奨に応じた場合のメリット等は、従業員が決断を下すうえでの重要な情報であるから、対象従業員が退職勧奨に応じない意思を明示した場合であっても、会社が以下のような情報について具体的かつ丁寧に説明し、説得活動をすることは、不当な心理的圧力には当たらないと考えられている(日本IBM事件(東京地判平成23年12月28日労経速2133号3頁))。

会社に在籍し続けた場合のデメリットの例

会社の経営環境の悪化

対象従業員の業績不良により会社や上司・同僚の業務遂行に影響が及ぶ状況が継続すること

対象従業員には待遇に相応した意識改革、業績改善等のための一層の努力が求められること

退職勧奨に応じた場合のメリットの例

優遇された割増退職金の支給や充実した退職者支援を受けられること

このような優遇された割増退職金の支給は今回限りであること

業績改善等を要求される精神的重圧から開放されること

(了)

「ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応」は、毎月第2週に掲載されます。

連載目次

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応

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▷Q&A解説

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筆者紹介

  • 柳田 忍

    (やなぎた・しのぶ)

    弁護士
    牛島総合法律事務所 スペシャル・カウンセル
    https://www.ushijima-law.gr.jp/attorneys/shinobu-yanagita

    北海道大学法学部卒業、2005年牛島総合法律事務所入所。
    労働審判、労働訴訟等の紛争案件のほか、人員削減・退職勧奨、M&A・統合・組織再編に伴う人事労務、懲戒処分、ハラスメント、競争企業間の移籍問題、人事労務関連の情報管理やHRテクノロジー等を中心に、国内外の企業からの相談案件等を多く手掛けている。また、労働者派遣・職業紹介の領域についても明るい。特にハラスメント問題に関しては、女性ならではの視点をもった対応が好評を博しており、各種団体におけるハラスメントに関する講演経験も豊富である。

    The Legal 500 Asia Pacific 2019のLabour and Employment部門で高い評価を得ており、また、The Best Lawyers in Japan(2020 Edition及び2021 Edition)のLabor and Employment Law部門において選出されている。

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