国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第36回】 「プロベイト(probate)にかかった費用は債務控除できるか」 -遺言で外国財産を取得した場合の課税上の留意点- 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私の父は、外国に不動産を遺して死亡しました。この不動産は遺言により、私が取得することになっています。そこで相続の手続をしようとしたところ、「プロベイト(probate)」という手続(遺産に係る検認手続)をしなければならず、大変、お金と時間がかかることが分かりました。このプロベイトにかかる費用について、債務控除の対象にできますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷外国にある財産について相続があった場合の相続法の準拠法は 日本に居住している日本人の被相続人が、外国に財産を遺して死亡した場合、その財産も相続財産を含めて相続税の申告を行わなければならない。税理士としては相続税の申告や準確定申告に注意が向くが、税の申告は相続手続の一部に過ぎず、相続手続の根幹は、相続財産を相続人等に移していく手続である。日本にある財産の場合は、空気のような日本の民法のルールに従って処理をすればよいが、海外の財産の場合は、簡単にはいかない。 海外に財産を遺した場合の海外の財産について、どこの国の相続法に従うかは、まず法の適用に関する通則法36条により「相続は、被相続人の本国法による。」ことから、本事案の場合は日本人が被相続人であることから、相続は日本の民法によることになる。 しかし、不動産の所在する現地の法律を無視することはできない。相続の手続を実際に行うのは現地であるからである。この場合、不動の所在地国における相続法の適用関係を検討することになる。 適用関係については、日本のように被相続人の本国法となる国もあるが、不動産については所在地法、動産については被相続人の本国法や住所地法のように、財産に応じて別々の法を適用する国もある。 英米系の国については、このように分割して法関係を整理している国が多く、これらの国に不動産を遺した被相続人が日本人であった場合の準拠法がどうなるかが、実際には問題となる。いくら通則法を理由に日本の相続法による手続を求めても、現地で受け入れられなければ立ち行かなくなる。よって現実的には、現地における法手続により相続を行っていくことになるケースが多い。 ▷プロベイトの手続 英米系の国においては、無遺言の場合だけでなく、遺言があった場合も、相続の手続においてプロベイトが、原則的には必要である。英米系国では相続により財産が相続人に包括承継されるのではなく、一旦遺産財団に移転し、そこで遺産管理人(弁護士等がなることが多い)が財産、債務を整理し、相続税(遺産税)の申告等をして、最終的には相続人に分配される流れとなるが、この過程で裁判所が関わり、時間とコストがかかる。プロベイトのために何年もの期間を要することもある。 ▷プロベイトの費用が債務控除になるかで争った事案 さて、個人が自分の相続時のプロベイトの問題を検討せずに投資対象として海外不動産を購入した場合、実際に相続が生じた後、プロベイトの対応のために時間とコストが生ずることになる。 この件について、プロベイトのために生じた費用が債務控除の対象とならないのは納得できないとした裁決事例があるので紹介する(平成30年2月1日裁決:平成23年相続開始に係る相続税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分(TAINSコード:F0-3-623))。 通常、米国等で個人が生前信託を設定するのはプロベイトを避けることが要因とされているが、この事案では信託設定した相続財産について、プロベイトがなされている。 この事案は、米国に居住していた伯母の死亡により取得した信託受益権について、その4分の3相当を相続財産として期限後申告したところ、伯母が全部有していたとして更正処分等が行われた。審査請求人は、伯母が全部有していたことは争わなかったが、いくつかの争点があり、その中に被相続人の遺産の維持保全のための活動費として支出した費用(葬儀出席のための渡航経費、プロベイト、遺贈手続、信託証書の定めによる分配手続の費用)が債務控除できるかというものがあった。 ▷プロベイトの費用は債務控除の対象になるか 審査請求人の主張は、極めて簡明な日本の相続法を前提として立法されている日本の相続税法に、直接的な規定が存在しないからといって、外国の煩雑な相続制度が適用された場合に発生した費用等を考慮しなくてもよいとするのは誤りであるというものである。 しかし、審判所は、債務控除の対象となるものは、被相続人の債務で相続開始の際、現に存するものと被相続人に係る葬儀費用であるが、プロベイトの費用は被相続人の死亡後に発生した費用であり、被相続人の債務で相続開始の際、現に存するものに該当せず、葬式に出席するための交通費であることから葬儀費用に該当しないとして、裁決は棄却された。 ▷遺言で外国財産を取得した場合の課税上の留意点 税理士の視点からみると、認められる可能性がない請求であり、裁決も当然の判断である。 今回、この裁決を紹介したのは、「プロベイトには非常に時間がかかる場合がある」ということを言いたいためでもある。この事案は、相続は平成23年に発生しているが、プロベイトが開始され、遺言を執行する旨の裁判所の命令が出されたのが平成25年7月24日であり、平成26年12月5日から平成28年3月30日までの受益権からの分配金が支払われている。つまり、相続人が相続財産を取得するのに約5年の年月がかかっていることになる。 ただし、この事案でプロベイトが遅くなった理由は、単に相続人が非居住外国人であったからだけでなく、相続人のうちに相続辞退を申し出た者がいてその説得に当たったことや、数ヶ国にわたる著作権の処理に手間取ったことも原因となっている。 以上を踏まえ、現地の不動産の帰属先について現地で有効な遺言で指定があり、かつ、遺留分侵害額請求の問題もない場合、税理士が相続税の申告にあたり留意すべき点を検討する。 遺言が現地で有効な場合は、現地の弁護士に確認しなければならないが、おそらく、遺言に従った財産の取得が可能であろう。相続税の申告についても、遺言に従って国外財産も盛り込んだとしても、将来、その財産の帰属先が変動する可能性は低いと考えられる。 したがって、税理士の相続税の申告について、財産の相続時の時価を評価し、現地での相続税(遺産税)が課されるか、課されるならば手続はどうなるのかを確認し、納税はあるがプロベイトで税額確定が遅れるならば、一旦、期限内に相続税の申告をし、現地での相続税等が税額確定後、速やかに更正の請求をすることになる。 加えて、忘れてはいけないことは、国外財産を相続人が取得した場合で、その年5,000万円超の国外財産を有するときは、国外財産調書の提出が必要となってくることである。本稿公開時点(2019/12/26)の制度では、国外財産調書の不提出、記載不備が原因で、税務調査等による相続税の増差税額に係る過少申告加算税の加重(5%加算)は不適用であるが、令和2年度税制改正により適用され、かつ関連資料の不提示・不提出の場合は加重割合が10%となる予定である。被相続人が不提出、記載不備の場合でも、相続人が記載した調書を提出しているならば、おそらく加重にはならないと考えられるので、相続人の関与税理士は注意すべきである。 このように、投資目的等で海外の資産を個人が取得した場合、取得者に相続が発生した後、相続の煩雑な手続が生じ相続人に多大な負担を負わせることもあるから、税理士としては顧問先から海外投資の相談を受けた場合は、相続時の問題をアドバイスの1つとして伝えた方がよいと考える。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第19回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 4 法人税法22の2第2項 (1) 規定の文言等からの検討 ア 収益の計上時期(時間的帰属)の規範としての顔 法人税法22条の2第2項は次のとおり定めている。 文頭の「内国法人が、」から「同項の規定にかかわらず、」までと、文中の「別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、当該事業年度の所得の金額の計算上、」を圧縮すると次のようになる。 すると、法人税法22条の2第2項は、内国法人の資産の販売等に係る収益の額は益金の額に算入することを定めていることになるが、これでは意味がない。法人税法22条2項を逆から述べていることとあまり変わりがないからである。 この意味では、収益の計上時期(帰属時期)を定める規範としての顔を見せる圧縮した部分の②にこそ、法人税法22条の2第2項の存在意義があるという推測が成り立つ。 圧縮した部分の②の「当該事業年度の所得の金額の計算上」にいう「当該事業年度」とは、圧縮した部分①の「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度」、すなわち法人税法22条の2第1項の引渡日又は役務提供日に近接する日の属する事業年度を指す。 要するに、法人税法22条の2第2項はいわば「近接日基準」に基づく収益計上を認める規定である。よって、同項は、収益の額はどの事業年度で計上すべきであるかという収益の計上時期(時間的帰属)の規範であることが鮮明化する。このことは、法人税法22条の2第1項の場合と同様である。 そこで、法人税法22条の2第1項との関係や相違点はどこにあるのかという点に関心が移り、今度は圧縮した部分の①に着目することになる。法人税法22条の2第2項は、収益の計上時期について1項が定める原則的基準である引渡・役務提供基準とは異なる基準を定める。 すなわち、一定の要件を満たした場合には、内国法人が資産の販売等に係る収益の額について、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 圧縮した部分の①には「同項の規定にかかわらず」とある。このため、法人税法22条の2第2項の要件を満たす場合には、1項の規定によらずに、すなわち1項が定める引渡・役務提供基準によらずに、資産の販売等に係る収益の額は、その目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入される。法人税法22条の2第2項の要件を満たす場合には「1項に優先して」2項が「強制的に」適用されると言い換えてもよい。 敷衍すれば、法人税法22条の2第2項は、同項の適用に当たっては、1項よりも2項を優先させ、かつ、2項の「別段の定め」(22条4項を除く。文脈上、既に適用を排除されている1項も含まれない)に劣後させる、という規定間の交通整理のルールを置いている。 また、法人税法22条の2第2項は、近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理するなど一定の要件を満たした場合には、会計と税務で異なる処理をすることは認められないという意味で同項を強制的に適用することを定めている。 言い換えれば、会計上、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、近接日基準を採用して収益経理しているなど法人税法22条の2第2項の適用要件を満たしている場合に、納税者が税務上、近接日基準を適用しないことを選択できるような建付けにはなっていない。法人税法22条の2第3項に基づく申告調整を行うことも認められないことは後述する。 納税者が同項の適用要件を満たさないようにすることの選択は可能であるが、同項は確定決算主義を採用しているため、会計上ないし会社法上の処理に左右されることに留意を要する(本連載第15回参照)。 イ 近接日基準の適用要件の整理 上述のとおり、法人税法22条の2第2項は、一定の要件を満たした場合には、1項の規定によらずに(引渡・役務提供基準によらずに)、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 法人税法22条の2第2項の要件と効果を整理すると次のようになる。 上記に示した法人税法22条の2第2項の要件のうち、①と④の要件は1項と共通する。よって、法人税法22条の2第1項との比較において特筆すべき2項の要件は②と③になる。このうち、③の要件は、❶近接日要件と❷確定決算収益経理要件に細分化して、説明することも可能である。 法人税法22条の2第2項の法律効果との結び付きの観点からすると、同項は、❶近接日要件に係る近接日の属する事業年度における収益計上という法律効果を享受するための諸要件を定める規定であると位置付けられることになる。 そして、法人が資産の販売等を行ったことを所与のものとすれば、実質的には、②ないし④の要件が重要となる。そこで、②ないし④の要件を抜き出して簡略化し、それぞれに適当な名称を付してみる。 かような整理に基づいて、次回以降では、法人税法22条の2第2項の規範内容を考察する。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第17回】 「寄附した不動産を低廉な価額で賃借する場合」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 私は、所有する不動産を公益法人に寄附した後、その不動産を低廉な価額で賃借し、再度使用することを考えています。 この場合、私が寄附した不動産について租税特別措置法40条が適用され、所得税は非課税となりますか。 - 回 答 - 寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果となる場合には、たとえそれが公益法人への寄附だったとしても、現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となる措置の適用を受けることはできません。 したがって、寄附した不動産を低廉な価額で賃借する場合には、その不動産を時価で公益法人に譲渡したものとみなされ、譲渡所得税が課税されます。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となる措置を受けるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」が課されています。 この「不当減少」に該当するか否かの判断基準の1つとして、寄附者や役員等並びにその親族関係者に対し、特別の利益を与えないこと、の要件を満たす必要があるとされています(詳しくは前回参照)。この「特別の利益」とは、例えば以下に該当する場合とされています(措置法40条通達19)。 したがって、寄附した財産を法人から低廉の金額で賃借することは、上記のうちハに例示されている特別の利益に該当するため、不当減少とみなされ、寄附した不動産について所得税は非課税とはされません。時価で公益法人に譲渡したものとみなされ、譲渡所得税が課税されます。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第45回】 「賞与引当金」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、賞与引当金について解説する。従業員への賞与も、給与と同様に発生主義に基づいて計上する。その際に使用する勘定科目が賞与引当金である。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 従業員への賞与も、給与と同様、発生主義に基づいて、労働役務が提供された期間に応じて費用計上する必要がある。 そのため、給与規程等で賞与支給の規定が設けられている場合、決算時に賞与の計算期間に応じて、いくら支払うかを会社として決定する必要がある(下記【例示】参照)。 実際に支払う金額は、決算時に確定していない場合が多いため、通常、見積りで金額を決定することが多いと考えられる。 また、財務諸表監査を受けている場合、監査人に見積りの根拠資料を提示する必要があるため、意思決定の資料(例えば、取締役会議事録及びその添付資料、稟議書等)を保存する必要がある。 決算時に従業員への賞与の支給金額が確定していない場合の会計処理は、以下のとおりである(リサーチ・センター審理情報【No.15】 未払従業員賞与の財務諸表における表示科目について(以下、「審理情報」という)2)。 また、賞与に係る社会保険料等の会社負担分も賞与が支給されれば発生する。そして、賞与引当金を見積ることができれば、社会保険料等の金額も合理的に見積ることができるため、賞与引当金の計上と同時に計上する必要がある。 (※) 賞与引当金繰入額及び法定福利費は、「売上原価」又は「販売費及び一般管理費」に計上する。 【支給金額が確定している場合(審理情報1)】 (1) 賞与支給額が支給対象期間に対応して算定されている場合 従業員への賞与支給額が確定(※)していて、支給額が支給対象期間に対応して算定されている場合には、「賞与引当金」ではなく「未払費用」で計上する。 (2) 賞与支給額が支給対象期間以外の基準に基づいて算定されている場合 従業員への賞与支給額が確定(※)しているが、支給額が支給対象期間以外の臨時的な要因(例えば、決算賞与)に基づいて算定されている場合には、「賞与引当金」ではなく「未払金」で計上する。 (※) 確定している場合とは、個々の従業員への賞与支給額が確定している場合のほか、例えば、賞与の支給率、支給月数、支給総額が確定している場合等が含まれる。 賞与を実際に支給した際には、以下のとおり、賞与引当金の取り崩しが必要である(なお、社会保険料等の未払費用の取り崩しについては、ここでは省略している)。 また、賞与引当金の金額と支給金額を比較し、次の決算時の見積りにあたって、より合理的に見積りが行えるように分析を行うことが望まれる。 (1) 「実際の支給額 = 賞与引当金の計上額」の場合 (2) 「実際の支給額 > 賞与引当金の計上額」の場合 (※1) 実際の支給額と賞与引当金計上額との差額。賞与は、賞与引当金繰入額と同じ区分(売上原価又は販売費及び一般管理費)に計上する。 (3) 「実際の支給額 < 賞与引当金の計上額」の場合 (※2) 実際の支給額と賞与引当金計上額との差額。賞与引当金戻入益は、賞与引当金繰入額と相殺して表示する。 * * * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第11回】 「遺言書保管法に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下、「遺言書保管法」という)に関する留意点について解説する。 1 遺言書保管法の概要 遺言書保管法が公布され、遺言書を法務局で保管する制度が新設されることはご存じの方も多いことと思われる。つい先日、令和元年12月11日には、同法に関する政令(以下、単に「政令」という)が公布されたところである。 なお、遺言書保管法及び政令は、令和2年7月10日から施行される。保管される自筆証書遺言の作成時期に制限はないため、同日より前に作成した遺言であっても、保管対象となるが、法務省令で定める様式に従わねばならない(後述)。 遺言書保管法の概要については、下記拙稿で説明したが、本稿では主に公正証書遺言との比較を行う。 2 公正証書遺言との比較からみた遺言書保管制度 〔質問①〕 自筆証書遺言を作成して遺言書保管制度を利用すべきか、公正証書遺言を作成するか迷っている。双方のメリット・デメリットを教えてほしい。 【有効な遺言の作成】 公正証書遺言は、遺言者の意思を聞き取って公証人が文案を作成し、遺言作成時には公証人及び証人が立ち会って遺言者の判断能力の確認も一定程度行われているため、形式面・内容面ともに無効な遺言となる可能性は低い。 自筆証書遺言は、遺言者自身が作成するため、公正証書遺言に比べれば、形式面・内容面ともに無効な遺言となる可能性が高いといえるだろう。もっとも、遺言書保管法4条2項には遺言書保管所に遺言書保管を申請する場合、遺言書は法務省令で定める様式に従う必要があるとされており、政令2条2号では、遺言書保管官はこの様式に従って作成されたものでなければ保管申請を却下しなければならないとされているため、形式面の不備は相当減るとは思われる。 しかし、遺言書保管官が遺言書の内容を詳細に確認するような運用となることは考えにくい(遺言書保管官の負担や責任の問題が生じる)し、遺言書保管官が遺言者の判断能力を確認することもないだろうから、遺言内容の問題はこれまで同様に生じ得る。 このように、有効な遺言の作成という点では、公正証書遺言が優れているといえる。 【利用のしやすさ】 公正証書遺言では、基本的には公証人が文案を作成し、遺言者は印刷された遺言書の内容を確認の上、署名押印するだけである。作成場所は公証役場が原則であるが、病気などのため出頭困難な場合、日当を支払えば遺言者の居所まで公証人が来てくれる。 遺言書保管制度を利用する場合、遺言者には下記のような負担がある。 遺言書保管所への出頭については、遺言書保管官が遺言者の居所を訪れるという運用も行う可能性はあるが、全文自筆で書くのは予想以上に負担が伴う作業である。なお、遺言書保管所に保管された遺言は、遺言者の死後の検認は不要となっており、この点は通常の自筆証書遺言と比べると負担が軽くなっている。 このように、利用のしやすさという点でも、公正証書遺言の方が優れているといえる。 【費用】 公正証書遺言を作成する場合の費用については、日本公証人連合会のホームページをご覧いただきたいが、例えば相続人3名にそれぞれ1,000万円程度を相続させる場合、8万円程度が必要となる。遺言という人生の重大事に関わる書面を作成すると考えれば必ずしも高額ではないとも考えられるが、決して安い金額ともいえない。 公正証書遺言を変更したい(作成済の公正証書遺言を一部変更する旨の公正証書遺言書を作成するか、全く新しい公正証書遺言を作成する)にも相応の費用が必要となるため、一般的には、気軽に作成・変更するものではない。 遺言書保管制度を利用する場合の手数料(遺言書保管法12条1項)は、令和元年12月時点では発表されていないようだが、公正証書遺言と比べれば相当低額(おそらく、遺産の額にかかわらず数千円程度と思われる)となることであろう。 したがって、費用面では遺言書保管制度の方が優れていることになると思われる。 〔質問②〕 遺言書保管制度を利用する場合、遺言書の内容や、遺言を作成したことを推定相続人に知られてしまう恐れはないか心配である。 遺言書保管法9条は、相続人等が遺言書保管官に対し、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面(遺言書情報証明書)の交付や、遺言書の閲覧を請求できることを定めているが、これらの請求に関わる遺言書は「遺言者が死亡している場合に限る」としている。 また、政令10条3項は、相続人等が遺言書保管官に対し、遺言者による遺言書保管申請等に係る申請書等の閲覧の請求をすることができると定めているが、これも遺言者が死亡している場合に限定している。 したがって、遺言書の内容や遺言者が遺言書を作成したことを、推定相続人などに知られることはない。 なお、公正証書遺言の場合、遺言書検索システムにより公正証書遺言の存在の有無を確認することができるが、遺言者以外の者が検索できるのは遺言者の死後に限られる。 〔質問③〕 遺言書保管制度を利用して作成した遺言に、相続人が気づいてくれないか心配である。遺言があることを、遺言書保管所から相続人に連絡してくれないのか。 遺言書保管所が相続人に対して、自発的に遺言の存在を連絡することはない。相続人が遺言書保管所に対し問い合わせを行うことにより、遺言書保管事実証明書が交付される(遺言書保管法10条)。問い合わせが必要という点では、公正証書遺言も同様である。 遺言者の生前に、相続人に対して遺言の内容が明らかにされることはないため、可能ならば、遺言書保管所に遺言が保管されている旨を相続人に伝えておくとよいだろう。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例42】 コクヨ株式会社 「持分法適用関連会社の異動(連結子会社化)に関するお知らせ」 (2019.11.15) 事業創造大学院大学准教授/公認会計士 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、コクヨ株式会社(以下、「コクヨ」という)が2019年11月15日に開示した「持分法適用関連会社の異動(連結子会社化)に関するお知らせ」である。関連会社であるぺんてる株式会社(以下、「ぺんてる」という)の株式を買い増して子会社化することを決定したという内容である。 なお、「コクヨがぺんてるにTOB」といった報道が見受けられるのだが、コクヨがぺんてるの株式を買い付ける行為はTOB(株式公開買付け)とは言わない。TOBとは、上場会社の株式を株式市場外で買い付ける行為だが(金融商品取引法で定められた手続で行わなければならない)、ぺんてるは非上場会社である。 2 なぜ子会社化? コクヨは、ぺんてるとの業務提携を意図して、ぺんてるの37.45%の株式を、2019年5月10日付でファンドを通じて間接的に(2019年5月10日開示「投資事業有限責任組合への出資に関するお知らせ」)、2019年9月24日付で直接的に保有するに至った(2019年9月24日開示「ぺんてる株式会社普通株式のPI投資事業有限責任組合から当社への譲渡に関するお知らせ」)。 そのままでも業務提携の話は進みそうだが、コクヨがぺんてるの株式を買い増して子会社化しようと考えた理由が、今回の開示の「連結子会社化の理由」に次のように記載されている。 ぺんてるが「大規模な資本業務提携を画策して」いる、コクヨ以外の第三者とは、コクヨの競合であるプラス株式会社(以下、「プラス」という)である。ぺんてるが、こともあろうにプラスと資本業務提携を結んでしまったら、コクヨとしてはたまったものではないだろう。37.45%の株式を取得した意味がなくなってしまうはずである。 3 ぺんてるは非公開会社だが 上述のとおり、ぺんてるは非上場会社であり、非公開会社(定款に株式譲渡制限規定が定められている)である。コクヨがぺんてるの株式を取得しようとしても、ぺんてるの取締役会の承認が必要となる。プラスとの資本業務提携を画策しているぺんてるの取締役会は承認しないのではないだろうか。 それへの対応策については、今回の開示と併せて2019年11月15日に開示された「ぺんてる株式会社の株式の買付け方針に関するお知らせ」の中の「買付け後の方針等及び今後の見通し」に次のように記載されている。 4 コクヨに届いた書簡 コクヨは、ぺんてるがプラスと資本業務提携を画策していることに相当怒っているようだが、それをどのように知ったのだろうか。「ぺんてる株式会社の株式の買付け方針に関するお知らせ」の中の「本株式取得後のぺんてるの非協力的な姿勢及び第三者との資本業務提携の可能性の浮上」に、次のような記載がある。 コクヨがこの内容について問いただしたところ、ぺんてるは否定しなかった。この書簡を送ったのは、ぺんてる内部の者だろう。ぺんてる側は一枚岩ではなく、現経営陣に批判的な者がいるようである。 5 ホワイトナイトは必要だったのか? ぺんてるが資本業務提携を画策している相手はプラスであると述べたが、プラスの名前は、コクヨが2019年11月20日に開示した「(変更)ぺんてる株式会社の株式の買付け条件変更のお知らせ」で登場する。変更後の「算定の経緯」に次のように記載されている。 コクヨは、この開示で買付価格を3,500円から 3,750円に変更したのだが、その後、2019年11月29日に「(再変更)ぺんてる株式会社の株式の買付け条件変更のお知らせ」を開示し、更に4,200円に変更した。 ぺんてるは、プラスに対して、ホワイトナイト(白馬の騎士)としての役割を期待したのだが、プラスがその役割を果たせたようには思われない。プラスにホワイトナイトとして求められるのは、コクヨよりも高い買付価格の提示であることを、ぺんてるもプラスもわからなかったのだろうか。株式を売却しようとする株主にとって重要なのは、買付価格のみである。株式を売却して、ぺんてるの株主ではなくなるのだから、今後のぺんてるのことなどは関係ないのだ。 6 株主の利益を守るとは? ぺんてるの経営者は、株主に対して、同社の株式をコクヨに売却せず、保有し続けた方が利益になると言えればよかった。しかし、今回の開示によると、ぺんてるの最終利益はこの3年減少しており(上場会社ではなく、監査を受けていない数値だが)、2018年3月期は1株当たり7円だった配当が、2019年3月期は6円へ減配となっている。4,200円で売却するよりも保有し続けた方が利益になると言うのは、とても困難ではある。 ぺんてるは非上場会社なので、適時開示を行っていないが、自社ホームページ上に、2019年11月15日に「コクヨ株式会社による、『ぺんてる株式会社の株式の買付け方針に関するお知らせ』等に関する当社見解」や、2019年12月1日に「株主の皆様へ(12月1日)Q&A皆様の利益を守るために」を掲載している。しかし、それらに、コクヨに株式を売却しないことが株主の利益になると判断できる記載はなかった。ぺんてるの経営者は、株主の利益を本当に考えているのだろうか。 7 結果 コクヨは、2019年12月12日に「ぺんてる株式会社の株式買付けの状況に関するお知らせ」を開示した。それによると、過半数には届かず、45.66%の取得にとどまったとのことである。売却の意向を示しているが、未だ売買契約を締結していないものが約0.6%あるとのことだが、それを加えても、46.26%ほどにとどまる。 それに対して、ぺんてるは、2019年12月13日、自社ホームページ上に、「ぺんてる株式会社の株式の買受けの結果に関するお知らせ」と題して、次のような文章をプラスと連名で掲載している。こちらは、随分と威勢のいい勝利宣言である。 しかし、現時点では、コクヨが負けたとは言い切れないだろう。ぺんてる株式の追加取得の可能性があるとしているし、現時点の議決権比率のままでも、ぺんてるの株主総会で同社の現経営陣を解任できる可能性がないわけではないように思われる。 コクヨとプラスのどちらにもぺんてる株式を売却しなかった株主のすべてが、ぺんてるの現経営陣を支持しているとは思われない(上の文章によると、ぺんてるの現経営陣は自分達が支持されたと理解しているようだが)。今回のぺんてるの経営者の言動を見ていると、現在のところは迷っていても、今後コクヨ側に付く株主が出てくる可能性は低くないように思われる。 なお、本稿では、コクヨの適時開示を取り上げながら、ぺんてるの企業実態を論じるような形になってしまった。 (了)
《速報解説》 「経営者保証に関するガイドライン」の特則が新たに策定される ~前経営者と後継者の二重保証を求めないなど、事業承継時の取扱いを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年12月24日、経営者保証に関するガイドライン研究会(事務局:日本商工会議所・一般社団法人全国銀行協会)は、「事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則の策定について」を公表した。 これは、円滑な事業承継への対応が喫緊の課題となる中、その阻害要因となり得る事業承継時の経営者保証の取扱いを明確化するためのものである。 2019年10月15日に、「事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則に係るワーキンググループの設置について」が公表され、年内を目途に「経営者保証に関するガイドライン」の特則の策定が予定されていた。 なお、同日、金融庁は、「経営者保証に関するガイドライン」の特則の積極的な活用について、金融機関関係団体等に対する要請を公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 本特則は、「経営者保証に関するガイドライン」を補完するものであり、事業承継時の経営者保証の取扱いについての具体的な着眼点や対応手法などについて定めている(2ページ)。 1 前経営者、後継者の双方との保証契約 原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めない。 例外的に二重に保証を求めることが真に必要な場合には、その理由や保証が提供されない場合の融資条件等について、前経営者、後継者の双方に十分説明し、理解を得ることとし、例外的に二重徴求が許容される事例を示している(3、4ページ)。 2 後継者との保証契約 後継者に対し経営者保証を求めることは事業承継の阻害要因になり得ることから、後継者に当然に保証を引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、ガイドライン4項(2)に即して、保証契約の必要性を改めて検討するとともに、事業承継に与える影響も十分考慮し、慎重に判断する(4ページ)。 経営者保証を求めることにより事業承継が頓挫する可能性や、これによる地域経済の持続的な発展、金融機関自身の経営基盤への影響などを考慮し、ガイドライン4項(2)の要件の多くを満たしていない場合でも、総合的な判断として経営者保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討することが求められるとし、検討する際のポイントを示している(4~6ページ) 3 前経営者との保証契約 前経営者は、実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に該当する可能性がある。 令和2年4月1日からの改正民法の施行により、第三者保証の利用が制限されることや、金融機関においては、経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることを踏まえて、保証契約の適切な見直しを検討することが求められる(6ページ)。 4 債務者への説明内容 主たる債務者への説明に当たっては、対象債権者が制定する基準等を踏まえ、ガイドライン4項(2)の各要件に掲げられている要素(外部専門家や経営者保証コーディネーターの検証・確認結果を得ている場合はその内容を含む)のどの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるかなど、事業承継を契機とする保証解除に向けた必要な取組みについて、主たる債務者の状況に応じて個別・具体的に説明することが求められる(6、7ページ)。 5 内部規程等による手続の整備 本特則2項(1)から(4)に沿った対応ができるように、社内規程やマニュアル等を整備し、職員に対して周知することが求められる(7ページ)。 6 主たる債務者及び保証人における対応 主たる債務者及び保証人が経営者保証を提供することなしに事業承継を希望する場合には、まずは、ガイドライン4項(1)に掲げる経営状態であることが求められる(7ページ)。 特に、この要件が未充足である場合には、後継者の負担を軽減させるために、事業承継に先立ち要件を充足するよう主体的に経営改善に取り組むことが必要である。 「事業承継ガイドライン」に記載の事業承継に向けた5つのステップも参照しつつ、事業承継後の取組みも含めて、以下のような対応が求められる(7、8ページ)。 Ⅲ 適用時期等 本特則は、令和2(2020)年4月1日から適用する。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成30年9月及び 平成31年4月~令和元年6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2019(令和元)年12月18日、「平成30年9月21日及び平成31年4月から令和元年6月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、17件と最近では最も多くなっており、国税通則法が6件、相続税法が5件、所得税法が4件、法人税法及び国税徴収法が各1件となっている。 国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が13件、棄却された裁決が4件となっている。 【表:公表裁決事例平成30年9月21日及び平成31年4月~令和元年6月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された11件の裁決事例のうち、「隠ぺい、仮装」の認定が争点となった国税通則法の事案2件と損害賠償金の収益の帰属年度が争われた法人税法の事案1件について、その判断のポイントを中心に紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 なお、前掲表のうち③とした平成30年9月21日裁決については、本誌「租税争訟レポート」連載第44回ですでに取り上げているので、合わせてお読みいただければ幸いである。 1 請求人の取締役の行為が事実の仮装に当たるとした事例・・・ ① 本件は、建築、土木資材販売等を目的とする株式会社である審査請求人が、原処分庁の調査を受けて法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の専務取締役G(以下「G専務」という)が取引先に内容虚偽の請求書を発行させた行為は、請求人の行為と同視することができ、請求人に仮装の事実があるとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、G専務の行為は請求人の行為とは認められないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は、G専務が各取引先に対し各請求書を発行させた行為をもって、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装したと認められるか否か、である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、通則法第68条第1項に規定する「納税者」について、「基本的に納税者本人(法人の場合は、その代表者)を指すものと解される」としたうえで、「法人における事業活動、経済活動は」、「組織に所属する複数の者がそれぞれの部署において一定の権限を与えられ、その権限と裁量に基づき、法人としての有機的な事業活動を担っているのが常態である」ことから、結論を次のように判示した。 そのうえで、事実認定の結果、G専務が各取引先に対し内容虚偽の各請求書を発行させた行為は、G専務が請求人の内部において有していた地位及び権限に基づき、請求人の業務として行われた行為であると認められ、請求人において仮装を防止するための措置を講じたとも認められないことから、全体として、納税者たる請求人の行為と評価できるという判断を示した。 審判所は、こうした評価に基づき、G専務による仮装は、請求人の行為と同視でき、請求人が課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したと認められることから、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装」したことに当たるとして、請求人の審査請求には理由がないから、棄却するという裁決を行った。 2 当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した事例・・・ ④ 本件は、電気計装工事業を営む個人事業主である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて、所得税等及び消費税等の各期限後申告を行ったところ、原処分庁が、当該各期限後申告について、それぞれ課税要件事実を隠蔽又は仮装したところに基づくものであるとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は、以下の2つであるが、本稿では、争点②について、審判所の判断を検討する。 (2) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人が内容虚偽の住民税申告書を提出した行為及び個人事業主であることを偽って「会社員である」と偽りの回答をした電話答弁等は、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことに該当する旨主張した。 これに対し、国税不服審判所は、原処分庁の調査担当職員が作成した質問応答記録書は重要な部分に関する解明が不足しており、その申述内容も不自然かつ不合理であると評価せざるを得ないことから、請求人が、住民税申告書を提出したことが、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできないと判断を示した。 さらに、請求人が、電話答弁をした当時、G社から給与として収入を得ていたことが認められることを併せ考えれば、請求人が「会社員です。」と答えたことだけを捉えて、虚偽の答弁であると評価することはできず、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することもできないとの判断を行った。 以上のことから、審判所は、所得税の重加算税の賦課決定処分を取り消す裁決をしたものである。 3 収益の帰属年度(損害賠償金)について請求人の主張を認めなかった事例・・・ ⑩ 本件は、農業機械機具の販売等を目的とする株式会社である審査請求人の元従業員が、請求人の仕入れた商品をインターネットオークションで販売して得た収益について、原処分庁が、当該収益は請求人に帰属するものであり、請求人は当該収益を帳簿書類に記載せず隠蔽していたなどとして、法人税の青色申告の承認の取消処分、法人税等及び消費税等の更正処分並びに重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該収益は請求人には帰属しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は次の7点と多岐にわたっているが、本稿では、主に①の収益の帰属、②の損害賠償請求権の収益計上時期及び⑤の事実の隠蔽について、国税不服審判所の判断を検討したい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、ネットオークション取引による落札代金は請求人に帰属するという原処分庁の主張に対し、本件取引は、元従業員が主体となって、請求人から窃取した商品を販売したものであり、その収益は実質的にも本件元従業員が享受したものと認められることから、その落札代金は、請求人に帰属しないものと判示した。 次いで、損害賠償請求権の収益認識時期については、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在及び内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断するべきであると一般論を述べたうえで、本件に係る商品の窃取は、反復継続して多数回にわたり行われ、その被害額は、毎年1,000万円前後であり、その態様は大胆なものであるから、仕入れに係る資料と売上げ及び棚卸しに係る資料とを照合すれば容易に発覚したものであるという事実認定を行った。 そのうえで、結論としては、通常人を基準とすると、各事業年度において、損害賠償請求権につき、その存在及び内容等を把握し得ず、権利行使を期待できないような客観的状況があったとはいえないことから、請求人の元従業員に対する損害賠償請求権は、落札代金等が元従業員の預金口座に入金された時点において順次発生したと解するのが相当であるとの判断を示した。 さらに、「事実の隠蔽」について、法人税については、損害賠償請求権が請求人の帳簿に計上されていなかったことは、請求人において、損害賠償請求権の存在を知らなかったことによるものであって、請求人がこれを隠蔽したことによるものではないと認め、消費税についても、事実を隠蔽したとは認められず、他に請求人に「偽りその他不正の行為」があったとは認められないという判断を示し、青色申告の承認の取消事由があるとも認められないとの結論を示した。 以上をまとめると、裁決の中で、国税不服審判所が全部取消しと判断した原処分は、青色申告の承認の取消処分、消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分であり、一部取消しと判断した原処分は、法人税等の更正処分のうち過少申告加算税の賦課決定処分を超える部分(重加算税の賦課決定処分)であった。 (了)
《速報解説》 利子税・還付加算金等の割合の引下げ ~令和2年度税制改正大綱~ 弁護士 下尾 裕 1 現行制度 現行の利子税、延滞税(延滞金)及び還付加算金の割合については、長期間にわたる低金利の状況を踏まえ、平成11年度税制改正及び平成25年度税制改正において、それぞれ割合の引下げ等の対応がなされていたが、それ以降もなお市中金利の実勢に比して高比率であるという問題は解消していなかった。 そこで、12月12日に公表された令和2年度税制改正大綱(与党大綱)では以下のとおり、利子税・還付加算金等の割合のさらなる引下げが行われることが明記された。 2 令和2年度税制改正大綱(与党大綱)における具体的な変更点 令和2年度税制改正大綱(与党大綱)から読み取ることのできる主な改正点は、以下の3点である。 以上を前提に、令和2年度税制改正大綱(与党大綱)の記載内容から想定される種類毎の本則による割合、改正前の割合及び改正後の割合をそれぞれ整理すると、以下のとおりである。 国 税 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 地 方 税 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※1) 貸出約定平均金利とは、日本銀行が公表する前々年10月~前年9月における「国内銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)」の月平均値を意味する。 (※2) 平均貸付割合とは、日本銀行が公表する前々年の9月~前年の8月までにおける「国内銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)」の月平均値と意味する。 (※3) 令和2年度税制改正大綱においては明示されていないが、本改正前の割合である「貸出約定平均金利」が「平均貸付割合」に変更されるほかは変更がないものと想定される。 (了)
《速報解説》 5G投資促進税制(特定高度情報通信用認定等設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度)の創設 ~令和2年度税制改正大綱~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 与党による令和2年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)が、12月12日に公表された。 本稿では、令和2年度税制改正で新設される、特定高度情報通信用認定等設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度、いわゆるの「5G投資促進税制」について、概要をまとめたい。 2 「5G投資促進税制」とは (1) 大綱による説明(大綱62ページ) 大綱では、新たに制定される「特定高度情報通信等システムの普及の促進に関する法律(仮称)」を前提に、青色申告書を提出する法人で同法に規定する「認定特定高度情報通信等システム導入事業者(仮称)」に該当するものが、同法施行日から令和4年3月31日までの間に、特定高度情報通信用認定等設備の取得等をして、国内にある事業の用に供した場合には、その法人は、取得価額について、30%の特別償却と15%の税額控除(控除税額は法人税額の20%を上限とする)との選択適用ができる、とされている。 このように15%の税額控除が可能となる大胆な施策であるが、本制度は研究開発税制等と同様、賃上げや投資に消極的な大企業に設けられた適用制限の対象に加えられることから、以下のすべての要件を満たす大企業については適用が停止されるため留意されたい。 (※) 令和2年度改正により現行10%から30%へ引き上げられる。詳しくは「こちら」。 (2) 制度導入の趣旨(大綱4ページ) 「5G投資促進税制」を創設する趣旨として、大綱では、次のように説明されている。 (3) 5Gとは 「5G」とは「5th Generation」の略称であり、「第5世代移動通信システム」と呼ばれる携帯電話やスマートフォンなどの通信に用いられる次世代通信規格のことを言う。 総務省のサイトによると、5Gの特徴としては、通信速度の向上だけではなく、「多数同時接続」、「超低遅延」といった特徴を有しており、4Gまでが基本的に人と人とのコミュニケーションを行うためのツールとして発展してきたのに対し、5Gはあらゆるモノ・人などが繋がるIoT時代の新たなコミュニケーションツールとしての役割を果たすことが期待されているということである。 【5Gの特徴】 (※) 総務省「平成30年版 情報通信白書」より (4) Society 5.0の定義 内閣府のサイトでは、Society 5.0について、次のように説明されている。 (※) 内閣府ホームページより 3 「5G投資促進税制」を推進する経済産業省の狙い 経済産業省が公表している「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」によれば、「5G投資促進税制」創設の趣旨は次のとおりである(同資料12ページ。強調・下線は、経済産業省による。以下同じ)。 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」P12より もっとも、同資料15ページに掲載された「3G,4G移動通信機器(基地局)の世界市場(2018年)」とタイトルがつけられた円グラフによると、世界市場は、HUAWEI、 ERIKSSON、 NOKIAの3社で約80%のシェアを占めており、国内メーカーでは、NEC、富士通ともに1%未満のシェアしかないことから、経済産業省としては、同ページに「(参考)国際環境を踏まえた、ベンダーの競争力強化」のための施策、世するに世界でシェアを獲得できていない国内メーカーを支援するという側面が強いものと考えられる。 経済産業省の見解を引用する。 (※) 経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」P15より (了)