〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第15回】 「自動車関連部材の事業が減損に至った経緯」 -戻らない需要- 公認会計士 石王丸 周夫 〈はじめに〉 今回取り上げる事例は、自動車のシート用クッション材等を欧州自動車メーカーに供給している製造拠点について、減損損失を計上した事例です。 発泡スチロールのメーカーとして知られるこの会社は、コロナ前の2019年2月に、欧州で自動車部材の製造拠点等を展開する製造メーカー、Proseat GmbH & Co. KG等(以下、Proseatグループ)を買収しました。同社は、その後、2022年3月期にProseatグループの固定資産について多額の減損損失を計上し、2025年3月期には、それに次ぐ規模の減損損失を計上しています。以下で取り上げるのは、2025年3月期の事例です。 2度目の減損の背景には、一度失われた需要は完全には戻らないという法則めいたものがあるようにも思えます。 早速、事例を見ていきましょう。 〈今回の注記事例〉 (出所:2025年3月期有価証券報告書) (※) 下線は筆者 上記事例のとおり、この会社は、2025年3月期にProseatグループの事業用資産について3,993百万円の減損損失を計上しています。この減損損失を認識するに至った経緯も記載されており、上記事例の下線部によると、欧州における市況回復時期などの見直しにより、Proseatグループの事業用資産に回収可能性が認められないと判断したとのことです。収益性が低下したというわけです。 〈減損損失の推移〉 前述のとおり、本事例の会社は、以前にもProseatグループの事業用資産に係る多額の減損損失を計上しています。〔図表1〕に、過去5年間の減損損失計上金額をグラフに表してみました。 〔図表1〕Proseatグループの事業用資産に係る減損損失の推移 (出所:有価証券報告書を参照して筆者作成) 2022年3月期の減損損失は6,407百万円です。今回取り上げた2025年3月期の減損損失3,993百万円をはるかに上回っています。つまり、3年前にしっかり減損処理を行っていたというわけです。それにもかかわらず、3年後に同じ資産について多額の減損処理を行うことになってしまいました。 〈3年後の減損の理由〉 その理由を考えてみます。 2022年3月期の有価証券報告書を読んでみると、このときの減損損失の注記でも、欧州における市況回復時期などの見直しを行ったと述べています。 つまり、2022年3月期時点で市況回復時期の見積りを行い、それに基づき減損を実施したものの、3年後の2025年3月期時点でその見積りが変化してしまい、減損損失を追加せざるを得なかったということだと解されます。市況回復のスピードの遅れや、水準の低下が起きているということだと考えられます。 〔図表2〕に、欧州自動車市場の統計数値をグラフに表してみました。 〔図表2〕欧州の新車登録台数および自動車生産台数の推移 (出所:ACEA「Economic and Market Report」を参照し筆者作成) 〔図表2〕からは、欧州の自動車市場の活性度合いについて、コロナ前から現在までの大まかな推移を把握することができます。 2019年はコロナ前です。冒頭で触れたように、事例の会社は2019年にProseatグループを買収しています。したがって、この年の市場水準がその後の判断基準になります。 2019年に買収したということは、市場規模は2019年以降、一定の成長率で成長していくと考えていたはずです。買収時点の想定では、2024年において2019年の年間18,000,000台を当然に超えていると考えていたのではないでしょうか。 ところが、買収の翌年にコロナによる経済活動の停止があり、市場規模が落ち込みました。2022年3月期においては、2021年までの市場規模の落ち込みを受けて、買収時に見込んだ成長シナリオを大幅に修正したのでしょう。それが、2022年3月期の減損処理だったとみられます。 その後は、2022年において新車登録台数のもう一段の落ち込みがあり、市場の回復の兆しは見られませんでした。しかし、2023年からようやく回復に向かいます。市場の回復スピードは遅れていたようにみえますが、追加の大規模減損には至っていません。2022年3月期の減損処理がしっかりなされていたため、追加で減損するほどには収益性が悪化していなかったものと考えられます。 そして迎えたのが2025年3月期、本事例の年度です。 この年度に実施された減損は、2024年の市場動向と今後の見込みを考慮して行われたはずです。市場は2023年に回復傾向を示しましたが、2024年に頭打ちとなってしまったようにみえます。しかも2019年の水準に届いていません。これが資産の収益性を見積もる上で、致命傷になってしまったように思えます。 2024年に至って市況がこうなってしまったことについては、ドイツにおける電気自動車の購入助成の打ち切り等、原因はいろいろと論じられています。しかし、真の理由は経済活動の担い手である人間の心のなかにあり、しかもその理由は人によって様々です。特定することはできません。 この状況で、市況が再び上昇に転ずると見積もるのは難しいと思われます。おそらく、当面はこのまま足踏みになると予想したのではないでしょうか。その結果、2025年3月期の減損処理に至ったと考えられます。 〈この事例から見えてくること〉 〔図表2〕を眺めていると、需要というのは、いったん失われると元の水準にはなかなか戻らないということがわかります。2025年以降、再び成長軌道に戻る可能性も否定できませんが、仮に2024年の水準で頭打ちになってしまうとしたら、一度失われた需要は完全には元に戻らないという、法則めいたことがいえるかもしれません。 同じような現象は別の業界でも起きています。日本の鉄道業です。 JR東日本の鉄道輸送量のデータをみると、在来線の定期券利用客の鉄道輸送量が、2025年3月期時点で、いまだに2019年3月期の水準に戻っていないことがわかります。83%の水準までしか回復していないのです。 こうした例をみると、物事は何であれ、異常事態が発生すると、それが終息しても以前と全く同じには戻らないといえそうです。本連載の【第6回】では、ホテル業を例に、減損後にまた減損となる可能性を探りましたが、今回の事例はまさにそうなった事例ということになります。 (了)
【会計不正調査報告書を読む】 【第176回】 株式会社創建エース 「特別調査委員会調査報告書(開示版)(2025年6月30日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社創建エース特別調査委員会の概要】 【株式会社創建エースの概要】 株式会社創建エース(以下「創建エース」と略称する)は、1965(昭和40)年設立。設立時の社名は高杉建設株式会社。営業活動の休止期間を経て、1996年10月、キーイングホーム株式会社に商号変更。1997年11月、大阪証券取引所市場第2部に上場。 その後、東邦グローバルアソシエイツ株式会社、クレアホールディングス株式会社、中小企業ホールディングス株式会社への商号変更を経て、2023年6月、現社名へ商号変更するとともに、経営陣を刷新して、西山由之氏が代表取締役社長となる。創建エースが事業持ち株会社となり、国内連結子会社4社を有し、連結子会社によって、建設事業、コスメ衛生関連事業及びその他の事業を営んでいる。 連結売上高1,580百万円、連結経常損失△1,514百万円、資本金10,966百万円。従業員数39名(訂正前の2024年3月期連結実績)。本店所在地は東京都新宿区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は、公認会計士柴田洋及び公認会計士大瀧秀樹。 疑義の対象となったA社から受注したとされる工事取引は、創建エースの連結子会社であるクレア建設株式会社(以下「クレア建設」と略称する)及び巧栄ビルド株式会社(以下、「巧栄ビルド」と略称する)の2社が、2022年3月期第2四半期から2024年3月期第1四半期において売上高として計上した537件である。創建エースの訂正前2024年3月期の有価証券報告書によれば、クレア建設は、「債務超過の状況にあり、債務超過の額は935,780千円」であると記載されている。 一方、巧栄ビルドについては、完成工事高1,293,298千円、経常利益△1,044,293千円などの損益情報とともに、「債務超過の状況にあり、債務超過の額は357,804千円」であると記載されている。また、創建エースの「第61回定時株主総会招集ご通知」には、クレア建設は「休眠会社の状態」であるため、重要な子会社から除外しているとの記載がある。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 創建エースは、2024年10月1日に証券取引等監視委員会開示検査課による金融商品取引法に基づく開示検査を受け、創建エース連結子会社において2021年9月から2023年6月末日までのA社との取引の実在性及びA社に対する債権の資産性について疑義(本件疑義)がある旨の指摘を受けた。 2025年3月7日に証券取引等監視委員会より本件疑義について外部専門家による調査の要請を受け、創建エースは、連結子会社の本件疑義における会計処理に関する事実関係の調査、業績への影響の把握及び原因の究明が必要であると判断し、中立・公正且つ独立した調査を行うため、利害関係を有しない外部専門家によって構成される特別調査委員会を2025年3月19日に設置し、調査を実施することとした。 2 特別調査委員会による調査結果の概要 (1) A社との取引開始の経緯 創建エースの前身であるクレアホールディングス株式会社では、2021年4月21日開催の臨時株主総会において、取締役の選解任議案が可決されたことにより、同日をもってそれまでの取締役4名は解任され、岡本武之氏(以下「岡本氏」という)、前田修氏、齋藤雅彦氏、星野和也氏が取締役に就任し、経営陣が刷新されるとともに、中小企業ホールディングス株式会社(以下「中小企業ホールディングス」と略称する)へと商号が変更された。 岡本氏は、中小企業ホールディングスの経営権掌握に伴い、当社の管理全般を統括できる人材として、c氏を招聘し、中小企業ホールディングスの管理本部長(以下、「c管理本部長」という)に任命した。 c管理本部長と以前から面識のあったA社代表者であるa氏は、2021年9月1日、岡本氏及びc管理本部長と中小企業ホールディングス本社事務所で面談し、A社では、多くの工事案件の引き合いがあるものの、資金的な問題から、受注できない状況にあること、つまり、A社が工事を受注する場合、下請け業者に対する支払いが先行する場合が多いことから、A社の資金的に受注できる工事案件には限りがあり、案件獲得の機会を逸しているということを説明した。 その席で、岡本氏は、a氏に対して中小企業ホールディングスグループとA社との間で業務提携契約を行う意向を告げた。 岡本氏は、当初、中小企業ホールディングスグループが元請けとして、A社が下請けとして商流に入ることを想定していたが、工事実績の無い中小企業ホールディングスグループが元請けとして工事案件を受注することはできないため、立場を逆転させて、A社が元請けとして、中小企業ホールディングスグループが下請けとして商流に入ることになった。 具体的には、A社が受注した工事案件について、クレア建設又は巧栄ビルドが下請けとして受注し、さらに、クレア建設又は巧栄ビルドはB社に発注するという商流が作られた。 (2) 調査結果の概要 特別調査委員会は、疑義の対象となった537件のすべての工事について、A社との取引が記載された受注案件一覧に基づく外部取引照会を行った結果、以下の事実を確認した。 特別調査委員会は、さらに、B社の代表者b氏が、A社の東京支店長として勤務していることなどから、A社とB社には経済的一体性が認められ、実際の商流はA社が受注した取引について下請け業者が工事を施工したもので、クレア建設及び巧栄ビルドは工事について実質的に関与しておらず、クレア建設及び巧栄ビルドにおいてはA社の支援を受けながら形式的に書類の作成が行われ、これに基づき資金のやりとりが行われていたことが強くうかがわれるのみならず、A社、巧栄ビルド、B社の間で資金が循環していることやB社が振込名義をA社に変更して債権回収をしたかのように見せていることもこれを補強するとして、結論として、クレア建設及び巧栄ビルドが実質的に工事に関与していなかったものと認めるという判断を示した。 【工事取引の概要】 なお、岡本氏は、特別調査委員会によるヒアリングの要請に応じておらず、また、追加で送付した質問状に対する回答も得られなかったとのことである。 (3) 調査の結果が会計処理に与える影響 特別調査委員会は、調査の結果明らかとなった会計的影響として、A社案件における売上高及び対応する売上原価を認識及び計上する根拠がなく、売上高及び売上原価の認識、計上の取消を行うべきである点と、売上高を認識及び計上したことに伴い計上されている売掛債権に係る貸倒引当金について、引当の対象となった売掛債権が取り消されるため、当該引当金計上の取消を行うべき点となると説明している。 A社案件を取り消した結果、創建エースの過年度の損益計算書は、次のように訂正されることとなる。 3 発生原因の分析 (調査報告書56頁以下) 特別調査委員会は、「発生原因の分析」の冒頭、調査結果を総括して、クレア建設及び巧栄ビルドがA社から受注したとされる工事請負契約については、人工の融通、資材の仕入などの工事に関与している事実を確認することができず、工事に実質的に関与していなかったことが相当程度の蓋然性をもってうかがわれ、工事請負契約としての経済的実質を具備していないと述べるとともに、さらに、A社案件の工事の中には、架空であると推察される取引も存在したことを挙げ、対象期間において工事に実質的に関与していないことから、収益認識基準を満たさないため取り消されるべき売上高は73億9,094万2,237円で、調査対象期間中に計上した連結売上高の約95%にも及ぶ巨額のものであり、当時の当社グループの業績ひいてはステークホルダーの意思決定に重大な影響を与えるものであったとまとめたうえで、主な原因として次の項目を挙げている。 4 再発防止策の提言 (調査報告書61頁以下) 特別調査委員会は、再発防止策の提言にあたって、本件疑義の原因は、旧経営陣のリテラシー不足にあるから、同人らの責任は厳しく問われなければならず、本来であれば、再発防止策において、役員の適格性や処遇に関する事項も検討されるべきであるが、創建エースにおいては、既に、旧経営陣は総退陣し、経営陣は刷新されていることから、旧経営陣に対する責任追及は別途検討されるべきものであるとしたうえで、以下の提言を行った。 【調査報告書の特徴】 東京証券取引所プレミア市場に上場している株式会社ナックの創業者である西山由之氏が、それまでの経営陣を一掃して、中小企業ホールディングスから社名を変更した創建エースの代表取締役社長に就任したのは、2023年6月である。当時、西山由之氏はすでに81歳であった。 EDINETで公表されている最も古い有価証券報告書である2016年3月期(当時の社名は「クレアホールディングス株式会社」)に記載された「連結経営指標等」まで遡って確認したところ、創建エースは、2012年3月期以降、2023年3月期に至るまで、経常損失を計上し続けており、当初は利益を計上していた2024年3月期決算も、特別調査委員会による調査の結果、赤字決算となってしまった。 西山由之氏は、こうした厳しい経営状態を立て直すために、創建エースの株式を引き受けるとともに、代表取締役社長として経営に当たることとなったものと考えられるが、同氏が経営を掌握する前に行われていた会計不正が、証券取引等監視委員会に指摘され、特別調査委員会による調査を経て、創建エースは、約28年に及ぶ上場会社としての歴史にピリオドを打つこととなった。 なお、創建エースは、9月18日の「上場廃止後の当社株式の取扱いに関するお知らせ」において、「今後も事業は継続し、これまで以上に全役職員一丸となり尽力して参ります」としている。 1 上場廃止及び整理銘柄指定 東京証券取引所は、8月18日、創建エースの株式について、上場廃止日を9月19日とし、同日までを整理銘柄指定期間とするというリリースを公表した。 その理由として、「上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載を行い、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認める場合に該当するため」としたうえで、詳細について次のように説明している。 2 上場廃止決定後の西山由之氏のコメント 西山由之氏の心境を理解するために、創建エースのサイトにある「代表あいさつ」の全文を引用しておきたい。 西山氏が経営を掌握する前年である2024年3月期は久しぶりの黒字決算であったが、実際には売上高の97.4%が架空計上されたものであり、特別調査委員会による再発防止策の提言の冒頭にもあったように、旧経営陣の責任を厳しく問うことは当然であり、西山氏の最後の言葉に決意がうかがわれるところである。 3 定足数が不足した定時株主総会 創建エースは、9月12日、「第61回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果に関するお知らせ」をリリースして、前日に行われた第61回定時株主総会継続会において、「第1号議案 取締役6名選任の件」が、定足数(議決権の3分の1以上)に満たなかったため、審議できなかったことを公表した。 そのうえで、今後の対応について、審議に至らなかった議案については、今後開催する株主総会において改めて審議を行う予定であることを表明している。 4 課徴金納付命令勧告 証券取引等監視委員会は、9月17日、「株式会社創建エースにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」をリリースして、創建エースは、その連結子会社が売上の過大計上の不適正な会計処理を行い、「重要な事項につき虚偽の記載」がある有価証券報告書等を提出したことなどを理由に、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、7,844万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行ったことを公表した。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2025年10月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年10月1日から10月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ① 企業会計基準第37号「期中財務諸表に関する会計基準」等 (内容:中間会計基準及び四半期会計基準等を統合するもの。補足文書も公表) ② 「金融商品に関する会計基準(案)」等 (内容:IFRS第9号「金融商品」の予想信用損失モデルを基礎として、金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入するもの。意見募集期間は2026年2月6日まで) Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」(公開草案) (内容:サステナビリティ情報の保証業務に関する新たな実務指針。意見募集期間は2025年12月15日まで) ② 「倫理規則」の改正に関する公開草案 (内容:サステナビリティ情報の開示と保証の制度化の議論が進められていることを踏まえ、倫理規則を改正するもの。意見募集期間は2025年12月15日まで) (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第15回】 「定年後再雇用における業務内容の変更と再雇用の拒絶の可否」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社においては定年を60歳とし、雇用期間を1年とする定年後再雇用制度を採用して65歳までの雇用確保措置を講じています。今年定年を迎える従業員Aが定年後再雇用制度の利用を希望していますが、当社において、現在従業員Aが従事している業務は縮小傾向にあることから、当社は、従業員Aに対して、従業員Aが定年前に従事していた業務とは異なる業務での再雇用を提案しました(なお、賃金額は変更後の業務内容等に見合ったものになります。)。 すると、従業員Aは「会社は、定年前と同じ業務内容で再雇用する義務があるのだから、定年前と同じ業務内容で再雇用しなければ、違法な再雇用拒否に当たる。」などと主張し、当社の提案を拒絶しました。 当社は従業員Aに対して定年前と同じ業務内容での再雇用を提案しなければならないのでしょうか。 【Answer】 定年後の業務内容が、従業員Aが定年前のキャリアを活かすことが極めて難しいような、定年前の業務内容を抜本的に変更するものであったり、従業員Aに屈辱感を与えるおそれのあるようなものに当たらなければ、定年前の業務内容を変更することは可能です。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 事業者は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年の引上げ、継続雇用制度(定年後再雇用等)の導入、定年の定めの廃止のいずれかを講じなければならない(高年齢者雇用安定法9条1項)。 近年、これらの措置のうち、定年の引上げを採用する事業者が増加傾向にあり、継続雇用制度(定年後再雇用等)を採用する事業者は減少傾向にあるものの、いまだ後者を採用する事業者の割合が最も多い(前者を採用する事業者の割合につき約28.7%、後者につき67.4%)。(※1) (※1) 厚生労働省『令和6年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果』 近時の人手不足を受けて、高年齢者の雇用に積極的な事業者は多いが、AI技術の発展によるホワイトカラー業務の減少などに伴い、定年後再雇用に際して、当該従業員が従前に従事していた業務と異なる業務を提案したいというニーズも多いと思われる。 そこで、本稿においては、定年後再雇用に際して、当該従業員が定年前に担当していた業務と異なる業務を提示することの可否及び範囲について論じるものとする。 2 定年後再雇用と法規制 定年後再雇用については、主に以下の法規制が存在する。 (1) 高年齢者雇用安定法(高年法)9条1項 事業者は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年の引上げ、継続雇用制度(定年後再雇用等)の導入、定年の定めの廃止のいずれかを講じなければならない。 (2) 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート有期法)8条 有期雇用労働者の待遇について、無期雇用労働者との間の待遇の相違があることを前提に、①職務の内容(業務内容、業務に伴う責任の程度)、②職務の内容及び配置の変更の範囲(配置転換や昇進等の人材活用の仕組み)、③その他の事情に照らして不合理であることを禁止する。 (3) パート有期法9条 有期雇用労働者の待遇について、無期雇用労働者と、上記①及び②が同一である場合は、差別的取扱い(労働条件に相違を設けること)を禁止する。 パート有期法8条は、業務内容等に相違があることを前提に、相違が不合理であることを禁止するものであり、また、パート有期法9条は業務内容等に相違がないことを前提とするものであって、いずれも基本的に業務内容等に相違を設けること自体を問題とするものではない。 よって、以下においては、高年法9条1項に違反せずに業務内容等を変更できる範囲について論じるものとする(なお、賃金額は、変更後の業務内容等に見合ったものであるとのことなので、賃金について、パート有期法8条及び9条には抵触しないことを前提とする。)。 3 高年法9条1項 上記のとおり、高年法9条1項は、事業者に、65歳までの安定した雇用の確保の措置の導入を求めているが、定年前の労働条件を維持することまで求めているわけではない。 一方、高年法の趣旨に照らして、事業者は合理的な裁量の範囲の労働条件を提示する必要があると解されているが、事業者が合理的な裁量の範囲の労働条件を提示していれば、労使間で合意が成立せず、その結果、継続雇用が実現しなくても、雇用確保措置義務違反とはならないと解されている。 そして、労働条件の提示が「合理的な裁量の範囲」内であると認められるためには、定年前後で労働条件の継続性・連続性を一定程度確保する必要があり、これに欠ける(あるいは乏しい)場合にはこれを正当化する合理的な理由が必要であると解されている(※2)。 (※2) 九州総菜事件(福岡高判平成29年9月7日)は、「継続雇用制度(高年法9条1項2号)は、高年齢者の65歳までの「安定した」雇用を確保するための措置の一つであり、「当該定年の引上げ」(同1号)及び「当該定年の定めの廃止」(同3号)と単純に並置されており、導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ、後二者は、65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり、当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと(すなわち、当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており、仮に、当該定年の前後で、労働者の承諾なく労働条件を変更するためには、別の観点からの合理的な理由が必要となること)からすれば、継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり、このように解することが上記趣旨(高年齢者の65歳までの安定雇用の確保)に合致する。」と判示した。 いかなる場合に「労働条件の継続性・連続性」が一定程度確保されていると認められるかについては、定年後再雇用契約が新たな契約のまき直しではあるものの定年前後で「継続性・連続性」が確保されることが求められていることに照らすと、雇用期間中の業務内容等の変更(配置転換等)の有効性の判断基準(※3)を参考にすることも可能であると思われる。 (※3) 事業者による配置転換権の行使につき、①業務上の必要性がない場合、②不当な動機・目的をもってなされた場合、③労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものである場合などには、権利濫用に当たり、無効となる(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日)。 このような観点から、以下の参考裁判例に照らすと、定年前後での業務内容等の相違が以下①や②のような場合には、「継続性・連続性」が確保されていないものとして、高年法9条1項に違反するおそれがあるのではないかと思われる。 (※4) 安藤運輸事件(名古屋高判令和3年1月20日)等、従前と全く異なる職種への配転命令につき、キャリア形成への期待を害するものであり従業員に与える不利益が大きいなどとして無効としたものがある。 (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第24回】 「成年後見制度と報酬」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 顧客の依頼で成年後見人になることが予定されています。実際のところ報酬はいくらくらいになるのでしょうか。顧客も気にしていますし、私も事務所の経営を考えると事前に知っておきたいところです。 【A】 法定後見制度を利用している場合、 報酬は成年後見人等が「報酬付与の申立て」を家庭裁判所に行い、家庭裁判所が本人の財産や成年後見人の活動内容を考慮して決定します。具体的金額は家庭裁判所の裁量になりますが、めやすが公表されており参考になります。 任意後見制度を利用している場合は、任意後見契約に報酬を定めることになります。契約で自由に報酬を決めることができますが、社会通念上妥当と思われる金額にすべきです。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 法定後見制度を利用している場合の報酬 法定後見制度を利用している場合、報酬を求める成年後見人等は家庭裁判所に対して「報酬付与の申立て」を行います。家庭裁判所は「後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる」(民法862条)とされており、報酬付与の申立てを受けた家庭裁判所は本人の財産や成年後見人等が行った業務内容を考慮して報酬を決定することになります。 つまり家庭裁判所の裁量で決まることになりますが、報酬の予測ができなければ法定後見制度を利用したい人も、成年後見人等として活動をしたい人も見通しが立たず、利用を躊躇してしまうため、参考情報として報酬の「めやす」が開示されています。 成年後見人等の報酬は「基本報酬」と「付加報酬」に分けられます。基本報酬とは、財産管理をしていることについて認められる報酬で、付加報酬とは特別困難な事情がある事案の場合や、成年後見人等が本人のために不動産売却や遺産分割、訴訟等の特別な行為を行った場合に認められる報酬です。 【成年後見人等の報酬のめやす】 (出典:東京家庭裁判所資料) 税理士の顧客の場合、これよりも管理財産が高額になることも多いと思います。「想定していたよりも報酬が高かった」などと、トラブルになることもあり得るため、説明をしっかりと行うことが求められます。 2 報酬付与のタイミング 成年後見人等が報酬付与の申立てを行うタイミングについて決まりはありませんが、年1回の後見等事務報告書の提出のタイミングで行うことが一般的です。 家庭裁判所から報酬付与の審判がされたら、本人の口座等から報酬の引き出しを行うことになります。 3 任意後見制度を利用している場合の報酬 任意後見制度を利用している場合の報酬額と支払時期は、任意後見契約において定めることになります。報酬額等について自由に決めることができますが、事後的に本人や親族、任意後見監督人から疑問を持たれるような金額は避けるべきであると思われます。多額の財産を持つ顧客も存在しうると思いますが、先に紹介した【成年後見人等の報酬のめやす】を参考に検討を行うとよいでしょう。 なお、任意後見監督人については、報酬を求める場合には報酬付与の申立てを行う必要がありますが、開示されているめやすは以下のとおりとなっています。 【任意後見監督人の報酬のめやす】 (※) 付加報酬も認められる。 (出典:東京家庭裁判所資料) 4 成年後見制度改正における報酬の議論 報酬については成年後見制度の改正のなかでも議論されており、家庭裁判所が報酬を決定する場合に考慮する要素を明確にすることや、報酬額の具体的な算定基準を設けること、報酬の前払いを認めることなど、様々な観点で検討がなされています。改正後においては現在の規律も変更があり得るため、注目が必要です。 (了)
《速報解説》 ASBJよりバーチャルPPAに関する会計上の取扱いを規定する 「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理 に関する当面の取扱い」が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年11月11日、企業会計基準委員会は、「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第47号)を公表した。 これにより、2025年3月11日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、いわゆるバーチャル電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement)(バーチャルPPA)に関する会計上の取扱いを規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 範囲 非化石価値取引において需要家による非化石価値の転売(子会社又は関連会社への融通を除く)が想定されておらず、発電事業者から需要家に電力の取引を伴わずに非化石価値を移転する契約のうちおおむね次の特徴を有するものに適用する(2項)。 上記(2項)に加えて、実務対応報告は、非化石価値取引において需要家による非化石価値の転売が想定されておらず、特定卸供給事業者等から需要家に電力の取引を伴わずに非化石価値を移転する契約のうち次の特徴を有するものに適用する(3項)。 「需要家」とは、2項又は3項に掲げる特徴を有する契約を締結する者のうち、非化石価値を自己使用目的で購入する者をいう(5項(2))。 ただし、2項又は3項に掲げる特徴を有する契約を締結する者が、その子会社又は関連会社に融通する目的で非化石価値を購入する場合において、当該子会社又は関連会社が非化石価値を自己使用目的で取得するときは、2項又は3項に掲げる特徴を有する契約を締結する者を「需要家」として取り扱う。 2 非化石価値を受け取る権利及び対価の支払義務に関する会計処理等 次のように会計処理する(6項~8項)。 「対価の支払義務に係る負債」の計上時の表示科目を明確にすべきとのコメントに対しては、次のように対応が記載されている(コメントNo.2)。 また、非化石価値を受け取る権利に係る費用が製造原価となることの確認のコメントに対しては、次のように対応が記載されている(コメントNo.3)。 そのほか、決算日後に国による電力量の認定が行われた場合の取扱いの明確化のコメント(コメントNo.6)を受けて、BC29項が記載されている。 3 子会社又は関連会社に融通する目的で非化石価値を購入する場合の子会社又は関連会社との間の取引についての取扱い 需要家がその子会社又は関連会社に融通する目的で非化石価値を購入する場合(5項(2)ただし書き)、当該需要家とその子会社又は関連会社との間の取引については、両者の合意内容に基づき会計処理を行う。 Ⅲ 適用時期等 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、公表日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)
《速報解説》 監査役協会、「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」を公表 ~アンケート調査をもとに今後のグループ監査活動の取り組みに関する提言を取りまとめ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年11月11日、日本監査役協会ケース・スタディ委員会は、「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」を公表した。 2020年に「企業集団における不祥事防止を切り口とした監査体制強化のあり方」という報告書の公表後における社会情勢や経営環境の変化を受けて、改めてグループ会社のガバナンスと監査について考察し、今後のグループ監査活動の取り組みに関する提言を取りまとめたものである。会員企業を対象としたアンケート調査を行っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ グループ・ガバナンスを検討するための視点 グループ・ガバナンスを検討するための視点として、次の視点から検討している。 Ⅲ グループ・ガバナンスの監査に向けた提言 複雑化する事業環境において、グループ・ガバナンスは企業価値向上のための戦略的な取り組みとして不可欠な要素となっているとし、アンケート結果をもとに、グループ・ガバナンスへの関与と監査のために重要となる事項として、次の事項をあげている。 (了)
【重要】 プロフェッションジャーナル掲載の 連載第1回の無料公開開始について 平素より株式会社プロフェッションネットワークのサービスをご愛用いただき、厚くお礼申し上げます。 当社が運営しております税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)は、当社プレミアム会員様への有料サービスとなっておりますが、このたび、会員2万人の突破を記念して、本誌の『試し読み』という位置づけで、2025年10月1日(水)午前11時より、本誌掲載の連載第1回をすべて無料公開とさせていただきました。 なお、連載第1回の無料公開に関する詳細については下記のQ&Aをご覧ください。 ◆ ◇ ◆ Q どの記事が無料で読めますか? A 本誌で掲載されている連載の第1回が会員登録不要ですべて無料でお読みいただけるようになります(※1回読み切りの記事は除きます。)。 Q 無料公開されている記事はどこで確認できますか? A 「無料公開記事」のページにまとめられていますので、そちらからご興味のある記事をご選択の上、閲覧ください。 Q どれくらいの記事を無料で読むことができますか? A 本誌に収録されている約9,400記事のうち、約490記事を無料でお読みいただけます。なお、現在連載中の連載(60本)及び終了した連載(427本)については「連載記事一覧」からご確認いただけます(10月1日時点)。 Q 無料公開記事が多くてどれを読めばいいのか迷ってしまいます。 何かオススメの連載があれば教えてください。 A プロフェッションジャーナルの人気連載の一部を下記にご紹介いたします。ご興味のある連載バナーをクリックの上、閲覧ください(バナーをクリックすると連載の第1回が別ページで開きます。)。 【税務】 【会計】 【労務】 【法務】 Q 連載の第2回以降を読むためにはどうしたらいいのでしょうか? A 本誌掲載記事の大半を占める連載の第2回以降の閲覧につきましては、プレミアム会員の方のみがご覧いただけますので、過去掲載分も含め、プロフェッションジャーナルのすべての記事が閲覧可能なプレミアム会員へのご登録を、ぜひご検討ください。 会員特典・会員制度のご案内はコチラ ◆ ◇ ◆ 今後ともプロフェッションジャーナルをご愛読賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2025年11月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.643を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.153- 「高市政権、新メンバーの下で税制議論はどうなる」 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 高市早苗総理は、自民党税制調査会(以下、党税調)について、「スタイルそのものをガラッと変えて欲しい」と、財務省出身者が税調幹部に重用されてきたことを暗に批判し、メンバーを一新した。 会長は宮沢洋一参議院議員から小野寺五典前政調会長に変わり、「インナー」と呼ばれる幹部に、山際大志郎元経済再生担当大臣、西村康稔元経済産業大臣、松島みどり総理補佐官などが就任、森山裕前幹事長は退任した。 かつて党税調は、山中貞則会長の下で総理をもしのぐ力があった。しかし第2次安倍政権下では、2度の消費税増税延期が党税調の議論を経ずに決定されるなど、官邸主導で行われ、党税調の力は大きく低下した。その後の菅政権、岸田政権下では往年の力が復活し、「103万円の壁」の議論では、財源問題と税の論理が重視され、安易な減税は排除された。 * * * 今回これを官邸主導に戻すというのは、論理として間違った話ではない。 わが国の予算の決定方式は、歳出予算と歳入予算とで大きな差異がある。歳出予算は財務省主計局と各省と党政務調査会との協議で決まるが、財務省が大きな力を持つ。一方歳入予算(税制)は、租税法律主義の下で税法が国会議決になることもあり、党税調が独占的な決定権を持ってきた。 党税調のメンバーは、長年の税制改正にかかわり、数年で交代する役人よりはるかに豊富な専門的知識を持つ政治家に限定されてきた。重要な資質は、業界の個別利害から離れ、専門的知識に基づく大局的判断ができるという点だ。税制要望に〇×をつけ、党税調の権威を保ちつつ公平な税制を構築してきた歴史の積み重ねがある。 財政面への目配りもきちんと行われてきた。減税を考える際には、その経済効果や将来財源などもきちんと議論されてきた。一例を挙げれば、安倍総理(当時)が推進した法人税減税である。税率の引下げは課税ベースの拡大とセットの「税収中立」で行われ、これが今日法人税の大きな増収効果が出る要因となっている。 昨年の「103万円の壁」の議論を振り返ってみると、自民党税調が問題にしたのは「財源」だけではない。「税制の在り方」として、所得制限を付けないままの基礎控除の引上げは高所得者ほど恩恵が大きく、税制の所得再分配機能を損ない格差の拡大を招くという点であった。そこで、ほぼ国民全員に2~4万円程度の減税となるような改正が行われたのであるが、この点について国民への説明が十分でなかったのは残念だ。 * * * さて、来年度改正の焦点の1つは、租税特別措置をいかに合理化できるかという点だ。 維新との連立合意書(2025年10月20日)には、「租税特別措置及び高額補助金について総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する。そのための事務を行う主体として政府効率化局(仮称)を設置する。」とされている。 EBPM(証拠重視の政策)の知見を活用しながらメリハリをつけた大胆な取捨選択が必要となる。重点分野へ絞った集中的な減税は必要だが、一方で、例えば7,000億円の減収となっている賃上げ促進税制については、企業が人材確保の観点から賃上げをせざるを得ない状況にある中、減税してまで支援をする必要があるのか、立ち止まって考える必要がある。十分な賃上げをしない企業には、かつて安倍政権下で導入したペナルティー(租特の適用停止)を考えてもいいのではないか。 新たな税調メンバーが、個別業界の利害を超えて租特の整理統合を行うことができるかどうか、試金石として注目される。 (了)