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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第70回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第70回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   28 DeFi取引と課税③:トークンのラップは課税イベントか (1) ラップとブリッジ ブロックチェーンが異なり互換性がないため、BTC(ビットコイン)を、これとは異なる種類の暗号資産であるETH(イーサ)を独自のトークンとして擁するイーサリアムブロックチェーンで直接利用することはできない。 しかし、WBTC(Wrapped Bitcoin:ラップドビットコイン)のようなラップドトークンを利用すれば、あたかもBTCをイーサリアムブロックチェーン上で取引や運用できるようなポジションを得ることができる。後述するロック・アンド・ミントを行っているにすぎないため、ラップ後にイーサリアムブロックチェーン上で取引されるのは、BTCそのものではなく、BTCと同様の経済的ポジションを有するWBTCであることに注意が必要である。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 また、イーサリアムブロックチェーン上には、スマートコントラクトを用いたERC-20規格(※)のトークンを取引できるDEXが多数存在するが、ETH自体はERC-20規格に準拠していないため、このようなDEXで直接的に取引することはできない。 (※) イーサリアムブロックチェーンで使用されているトークンの共通規格のうちファンジブルトークンを実装する際に広く用いられているもの ただし、WETH(Wrapped Ether:ラップドイーサ)を利用することで、あたかもETHをERC-20準拠のトークンとしてDEXで利用できるようなポジションを得ることができる。後述するロック・アンド・ミントを行っているにすぎないため、ラップ後にERC-20準拠のトークンとしてDEXで取引されるのは、ETHそのものではなく、ETHと同様の経済的ポジションを有するWETHであることに注意が必要である。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 このような事情から、特定のトークンを別のブロックチェーンで利用するため、あるいは同じブロックチェーン上で利用される別のトークンに変換するためにトークンのラップ(ラッピング)が行われる(以下、ラップするトークンを「原トークン」という)。 変換されたトークン、ラップによって新たに入手したトークンは「ラップドトークン」と総称され、暗号資産の種類ごとに頭に「W(Wrapped)」を付けてWBTC(ラップドビットコイン)、WETH(ラップドイーサ)などと呼ばれる。WBTCとWETHは、それぞれ、BTC、ETHと1対1の割合で裏付けされている。 ラップドトークンの保有者は、基本的にいつでもこれを原トークンに戻すことができる。これをアンラップ(アンラッピング)という。 ユーザーがあるチェーンから別のチェーンへ、トークンないしその価値を移動することは(クロスチェーン)ブリッジといわれる。トークンのラップは、このようなブリッジに係る技術的手段の1つであり、異なるブロックチェーン間の橋渡しをするものである。 最も一般的なブリッジの実装は、ロック・アンド・ミントのデザインである。 原トークンは送信側のスマートコントラクトにロックされ、送信者はアンラップしない限り、原トークンを動かすことができない。また、受信側のチェーンはその原トークンのレプリカのようなトークンをミント(発行)する。 このロック・アンド・ミントにより、原トークンは受信側のチェーンにブリッジされたことになるが、新たにミントされた受信側のラップドトークンは原トークンをラップしたものにすぎず、原トークンそのものではない。この点でブリッジという語の使用は誤解を招く可能性がある(Hiroki Kotabe, Web3:2022 Overview, 2023 Outlook, in DIGITAL ASSET OUTLOOK REPORT 2023 124, 128-129(The Block Research, 2022))。 ラップドトークンの保有者は、原トークンの経済的状態を保持できるといわれる(NYSBA, Report on Cryptocurrency and Other Fungible Digital Assets, Report No.1461, at 37(2022))。 また、ラップすることにより、DeFiでの運用機会の獲得、トランザクション処理速度の向上、ガス代(トランザクション利用料)の節約など、ラップしなければ利用できなかった新たな機能や利点を得ることができる。 他方で、ラップすると、原トークンをそのまま利用する場合と比べて制約が生じる。 例えば、ETHをWETHにラップすると、ETH建てのNFTをWETHでは直接的には購入することができなくなるなど、ラップすることによって原トークンのブロックチェーンで利用できなくなるし、ネットワークの利用手数料の支払に充てることもできなくなる。 また、ラップすることで、原トークンが保管されているコントラクトが脆弱な単一障害点となり、ハッキングされ、ラップドトークンが無価値となるリスクなど、スマートコントラクトに原トークンを預け入れておくというリスクを負担することになる。 このように、ラップドトークンは暗号資産の流動性や相互運用性を向上させるが、その一方で、スマートコントラクトのリスクやブリッジに関連するセキュリティ上の懸念も伴う。 このほか、ラップドトークンによっては中央集権的な管理者(他人のためにトークンを管理するカストディアン)が介在する可能性や、市場の需給の関係等により1BTC≠1WBTCなど原トークンとラップドトークンの価値が完全には1対1にならないリスクなどもある。   (了)

#No. 624(掲載号)
#泉 絢也
2025/06/26

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第74回】「外国税額控除権の行使(地判平25.11.19、高判平26.3.26、最判平26.12.18)(その2)」~旧所得税法95条2項、同条6項(平成21年改正前)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第74回】 「外国税額控除権の行使 (地判平25.11.19、高判平26.3.26、最判平26.12.18)(その2)」 ~旧所得税法95条2項、同条6項(平成21年改正前)~   税理士 水野 正夫     3 検討 (1) 外国税額控除制度の趣旨及び仕組み 外国税額控除制度の意義とその趣旨について、被告は、「国家は、国家主権の派生としての課税権を有しており、国際的二重課税にいかに対処するかは本来的にはそれぞれの国家の立法政策、租税政策に属する事柄であって、国際的二重課税排除のために外国税額控除を認めなければならないものではなく、これを認めるとしても、政策目的の実現のために課税を減免するという、国家による一方的な恩恵的措置にすぎない」と主張し、一方、原告は、「外国税額控除制度は、課税の公平と中立性の原則に基づき、国際的二重課税を排除し、国際取引に対する経済的中立性(資本輸出中立性)の維持を目的とする制度であり、所得課税の基本的構造の性格を有するものと解すべきであり、政策的課税減免規定や一方的な恩恵的措置であるなどとする被告の主張は誤りである。」と主張した。 この点について、本判決は、「当該居住者の国外所得について国外において課税される場合には、我が国の課税との間でいわゆる国際的二重課税の問題が生じるところ、同法は、我が国の国際的競争力の維持発展を図るという政策的要請の下に、国際的二重課税を防止し、海外取引に対する課税の公平と税制の中立性を維持することを目的として、外国所得税の額を一定の限度で我が国の所得税の額から直接控除することを認める外国税額控除の制度(同法95条)を採用したものと解される」として、外国税額控除制度の意義とその趣旨を判断している。 判決は、「国家による一方的な恩恵的措置にすぎない」という判断(※3)はとらず、「我が国の国際的競争力の維持発展を図るという政策的要請の下に、国際的二重課税を防止し、海外取引に対する課税の公平と税制の中立性を維持することを目的」とした制度であると位置づけた(※4)。この判断は、現在では外国税額控除が所得課税の基本的構造の性格を有していることからすると、外国税額控除を中立性の観点から説明する通説(※5)に沿ったものとして評価できる。 (※3) そのような判断をしたものとして、東京地判平16.7.14税資254号順号9697、大阪地判平22.7.29税資260号順号11488、名古屋地判平24.11.29税資262号順号12100がある。 (※4) 同旨の判断をしている判例として、東京地判平25.11.19判例時報2219号33頁、東京地判平27.5.28(裁判所HP、東京地裁平成25年(行ウ)第36号)がある。 (※5) 例えば、村井正『国際金融革命と法(第3巻)』関西大学法学研究所(2005)119頁参照。一連の銀行事件判例において、国は外税控除規定を課税減免規定と構成し、限定解釈論を展開したが、これに対する消極的見解として、村井正の他、水野忠恒『大系租税法第4版』中央経済社(2023)821頁脚注(6)及び志賀櫻『注解国際租税法の理論と実務』民事法研究会(2011)14頁がある。 (2) 外国税額控除に係る手続要件の趣旨 被告は、外国税額控除の制度は、国家による恩恵的な措置であって、その要件をどのように定めるかも立法政策に属し、このような観点から、所得税法95条5項及び6項は、確定申告書に所定の金額等の記載があり、かつ、財務省令で定める書類を添付した場合に限って、外国税額控除を認めることとしたものである、とし、このような限定がされたのは、外国税額控除制度において控除限度額が設けられるとともに、税額の計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図るためである、と主張した。 これに対し、原告は、「同条6項については、繰越控除限度額が発生しない年の確定申告書に当該年の控除限度額及び外国所得税の額を記載させることは、税額の計算の安定や租税法律関係の明確化に何ら資するものではない」とし、「さらに、同条2項の適用に当たっては、同項の適用を受けようとする年分の確定申告書及び当該年分の所得税から控除しようとする控除余裕額が発生した年の確定申告書に所定の事項が記載されていれば、同項の適用を受けようとする納税者の意思内容は明確に示されているといえ、課税実務上の不都合も生じない」と反論している。 判決は、外国税額控除の制度が国家による恩恵的な措置かどうかについての明言は避けつつ、所得税法95条5項及び6項は、外国税額控除の規定の適用には確定申告の段階で外国税額控除を受けること及びその計算関係等を明示することを要するものとすることによって、税額の計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図る趣旨であるとし、被告の主張の文言をそのまま認めている。 ただし、被告の主張の前段部分のように、外国税額控除制度における手続要件規定は、外国税額控除の制度が国家による「恩恵的」な措置であって、「厳格」な手続要件を要求するべきものとして理解すべきではない。 原告が主張するように、繰越控除限度額が発生しない年の確定申告書に当該年の控除限度額及び外国所得税の額を記載させても税額の計算の安定や租税法律関係の明確化に何ら資するものではなく、課税実務上の不都合は生じないとする原告の主張もあながち理由がないものではないと思われる。 このことは、判決が「所得税法95条1項が適用されずに外国税額控除が行われない年については確定申告書への控除限度額及び外国所得税の額の記載を要求せず、後に同条2項に基づく控除余裕額の繰越使用により控除を受けようとする年に、それ以前の各年に係る控除限度額及び外国所得税の額をまとめて確定申告書に記載することを要求するという手続上の仕組みも、立法政策としては考え得るところである」とわざわざ言及していることからも明らかである。 過度あるいは不合理な手続要件を付すことは、外国税額控除制度の複雑性にも鑑み、課税の公平性の観点からも控えるべきであり、納税者の納得感や税務行政への信頼にも影響が出る可能性もある。上記の(※3)及び(※4)に掲げた判例も含め、外国税額控除の手続要件を満たさず救済を求める判例は数多くある。この争訟の多さ自体が手続要件を充足しないことによる外国税額控除の不適用に対する納税者の「納得感のなさ」を示している。二重課税を排除し、中立性を確保するという外国税額控除制度の目的を中心に据え、税額の計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図るという本判決が示した外国税額控除の趣旨に照らして、納税者に対して過度な負担とならぬよう、立法は柔軟に行うべきである。 なお、この点については、平成23年12月税制改正において、所得税法95条5項に、確定申告書のみならず、「修正申告書又は更正請求書」が追加され(申告書等)、また、同条6項については、「各年について」とされていたものが「各年分の申告書等に」という文言に変更され、外国税額控除の手続要件が緩和された(※6)。また、平成29年度税制改正においては、適用金額の計算の基礎となる控除対象外国法人税の額等が 納税者の立証すべき事項として明確化されるとともに、一定の要件の下、税務署長が本税の増額更正をする場合、連動的に税額控除額を増加できる改正が行われている。 (※6) この改正については、「当初申告時に選択した場合に限り適用が可能な『当初申告要件が設けられている措置』については、事後的な適用を認めても問題がないものも含まれていることを踏まえ、更正の請求を認める範囲を拡大します」(平成23年度税制改正大綱7頁)とされている。 本件も、平成23年12月改正後の所得税法の適用関係であれば、更正の請求が認められ、争訟に発展していなかったものと思われる。この改正後、筆者の確認する限り外国税額控除の手続要件を争った事例は、確実に減っており、この改正は、外国税額控除制度を海外取引に対する課税の公平と中立性を維持することを目的とした制度と理解する立場に沿った改正として評価に値するものと思われる。 (3) 所得税法95条6項の「各年」の意義 判決は、「所得税法95条6項にいう「各年」とは、「繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年」、すなわち、同条2項に基づく控除を受けようとする年の前年以前3年以内であって同法施行令224条1項に基づきその年の控除限度超過額に充てられることとなる国税の控除余裕額の存在する年のうち最も古い年を始まりとして、それ以後同法95条2項に基づく控除を受けようとする年までの各年を意味するものと解すべきである。また、このような解釈は、「各年」につき開始時点以外には明確な限定を付していない同項の文理に照らしても自然なものということができる」とした。 また、判決は、所得税法95条6項に規定する「繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年以後の各年について」との文言について、「繰越控除限度額に係る年のうち」が直後の「最も古い年」のみならずそれを超えて「各年」まで直接修飾するという解釈をする原告の主張は、「特に文言上の手掛かりがないにもかかわらずこのような解釈を採ることは、文理上困難といわざるを得ない」として原告の主張を退けている。 判決は、「繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年以後の各年」について、租税法律主義の要請である文理解釈を重視し、判断を下している。この点については、「繰越控除限度額に係る年」を「繰越控除限度額が発生した年」のみに限定する原告の解釈は、文理上、いささか無理があるように思われる。判決が同法95条6項を文理解釈し、「控除限度超過額に充てられることとなる国税の控除余裕額の存在する年のうち最も古い年を始まりとして、それ以後同法95条2項に基づく控除を受けようとする年までの各年を意味するものと解すべき」であるとする本判決の解釈には異論はない。 問題は、その文理解釈の結果が納税者にとって不合理な結果となっていないかどうかである。というのも、従来の税法判例においては、裁判所が、正当かつ合理的な理由に基づくのであれば、租税法規の文理を離れて個別的救済を図ってきたという経験があるからである(※7)。 (※7) 谷口勢津夫「租税法律主義と司法的救済保障原則-裁判官による文理解釈の「適正化」のための法創造根拠理由の研究-」税法学586号377頁~402頁(2021年)参照。 本件においては、平成20年分の所得税について、国税庁は確定申告書の書式と併せて「外国税額控除に関する明細書」の書式を作成して提供されていること、原告が平成20年分の確定申告において、外国税額控除の書式を提出しなかったこと、原告自身も平成19年分の所得税については外国税額控除に関する明細書を提出し、外国税額控除を受けていることからすれば、平成20年分確定申告書に所得税法95条6項所定の事項を記載しなかったことは、所得税法95条7項(※8)に規定する「やむを得ない事情」に該当しない、と判断されている。実際には、平成23年12月改正前には、納税者が事後的に書類を添付して外国税額控除を認めてもらうことは、かなり困難なケースが多かったものと思われる。 (※8) この宥恕規定は平成24年度の税制改正により廃止されている。   4 おわりに 所得税法95条6項の要件充足の有無が争われた本件は、外国税額控除の手続要件という「課税要件法に組み込まれた手続法」(※9)の適用が争われた事例である。 (※9) 谷口・前掲(※7)、391頁参照。 課税要件法に組み込まれた手続法の適用については、タックス・ヘイブン対策税制の適用除外要件規定の適用に関して確定申告書へのいわゆる適用除外記載書面の添付をしなかった場合について、その書面添付を「適用除外規定の適用要件を定めたもの」として、適用除外要件の充足の有無に関する実態判断に立ち入ることなく、適用除外規定の適用を否定する裁判例(サンリオ事件)(※10)がある。 (※10) 東京高判令3.11.24税資271号順号13633。 この判決に対しては、「当時の措置法66条の6第7項を文理解釈すると、『確定申告書への適用除外記載書面の添付が本件各適用除外規定の適用要件とされていることは明らかといえる。』という裁判所の判断は正しいと考える」(※11)としながらも、「適用除外記載書面の添付漏れという理由のみにより適用除外要件の対象外となってしまうということは、本来外国子会社合算税制の適用を受ける必要がない納税者に対してまで課税を拡大することとなり、国際的二重課税を助長し、納税者に不当な負担を生じさせるという一面もある。外国子会社合算税制の趣旨を鑑みれば、法の建付けそのものが納税者に対して厳しすぎるものであるように感じられる」(※12)という指摘の通り、納税者の法的安定性及び予測可能性をその機能とする租税法律主義の要請である文理解釈が、一方では書面の添付がないという一事をもってその適用を否定されてしまうという「違和感」を生み出してしまうこともまた事実として認識すべきであろう。 (※11) 吉村優「一角塾【第53回】サンリオ事件-外国子会社合算税制における適用除外規定の適用-(地判令3.2.26、高判令3.11.24)(その2)」プロフェッションジャーナル583号。 (※12) 吉村・前掲(※11)。 解決の途は2つある。1つは租税回避が行われた際に立法によってその抜け穴を防ぐのと同じように、このような事例が出た場合には、手続要件を緩和する方向で見直すことである。本件はそのようなケースに該当する。もう1つは、訴訟になった場合に裁判所が納税者を救済するという方法である。裁判所が租税回避に対して文理解釈を離れてそれを否認する場合がある(※13)のと同様、文理解釈の結果が不合理な結果となる場合には、納税者を救済する方向で文理解釈から離れた判断をすべき場合もあるということである(※14)。 (※13) 西川浩史「一角塾【第18回】りそな外税控除否認事件(地判平13.12.14、高判平15.5.14、最判平17.12.19)(その1)」プロフェッションジャーナル531号、畠山和夫「一角塾【第22回】「住友銀行外税控除否認事件-受益者条項からみたケース別否認類型の検討-(地判平13.5.18、高判平14.6.14、最判平17.12.19)(その1)」プロフェッションジャーナル531号参照。 (※14) この点に関する先行研究として、谷口・前掲(※7)参照。 私見では、本件は必ずしも文理解釈から離れた判断をすべき事案というわけではないが、「課税要件法に組み込まれた手続法」の適用関係を争う事例は今後も増加してくるものと思われ、判例及び研究の蓄積が待たれるところである(※15)。 (※15) 本件は、課税要件法に組み込まれた手続法の適用の問題であり、納税者が外国税額控除を適用するかどうかの選択を手続要件の下で認めている規定であると理解できる。納税者による選択の錯誤無効の判断基準について検討したものとして、例えば、谷口勢津夫「課税要件法上の選択手続と法的救済」『税法創造論』清文社(2022)821頁[初出、2000年]参照。 (了)

#No. 624(掲載号)
#水野 正夫
2025/06/26

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第12回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第12回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】退職給付関係とストック・オプション関係までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 退職給付関係 退職給付制度がある場合、確定給付制度、確定拠出制度、複数事業主制度について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社についても注記が必要であることから、連結子会社の退職給付制度についても情報を収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 (1) 確定給付制度 確定給付制度については、以下の1から10を注記する。 【事例:旭有機材(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 (2) 確定拠出制度 確定拠出制度については、以下の1から3を注記する。 【事例:岩谷産業(株) 2025年3月期の有価証券報告書】  (省略)  (省略) (3) 複数事業主制度 複数事業主制度については、以下の1から2を注記する。 【事例:フジオーゼックス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】  (省略) 2 ストック・オプション関係 ストック・オプションの情報について注記を記載する。親会社が付与したストック・オプションのみならず、連結子会社が付与したストック・オプションも注記対象である。 実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」に従って会計処理する場合、従業員等に対して付与された権利確定条件付き有償新株予約権も注記対象である。 なお、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 (1) ストック・オプション、自社株式オプション又は自社の株式の付与又は交付に関する注記 (2) ストック・オプションに関する注記 【事例:(株)ノジマ 2025年3月期の有価証券報告書】 (了)

#No. 624(掲載号)
#西田 友洋
2025/06/26

税理士事務所の労務管理Q&A 【第26回】「職場における熱中症対策義務」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第26回】 「職場における熱中症対策義務」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   熱中症の重篤化を防止するため、労働安全衛生規則が改正され、令和7年6月1日から施行されています。特定の条件下で働く労働者を対象とした熱中症対策が事業者の法的義務となります。 今回は、義務化された熱中症対策について、解説します。 * * 解 説 * * 1 労働安全衛生規則改正 労働安全衛生法では、「事業者は高温などによる健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」と規定されています(労働安全衛生法22条2号)。 その必要な措置は労働安全衛生規則で定めるものとされ、今回の改正は、この規定を受けて、熱中症対策の具体的な内容が明記されました(労働安全衛生規則612条の2)。   2 義務化の対象となる作業条件 熱中症対策を義務とする作業について、作業環境と作業時間における条件が示されています。対象となるのは、以下の条件に該当する作業です。 〈作業条件〉 (※) 「WBGT値」とは、単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、気温だけでなく、湿度や輻射熱(地面や建物からの照り返しなど)も考慮して計算される数値のことです。より人体が感じる暑さに近い指標と言われており、WBGT値がWBGT基準値を超えると熱中症のリスクが高まり、身体作業強度の低い作業への変更、作業場所の変更などの対策が必要になります。WBGT値の実況と予測が環境省の熱中症予防サイトで確認でき、参考値を得ることができます。   3 事業者に義務付けられた措置 上記条件に当てはまる作業を行う事業者には、熱中症の重篤化を防止するため、「報告体制の整備」「実施手順の作成」「関係者(労働者)への周知」をすることが義務付けられました。 (1) 報告体制の整備 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、「熱中症の自覚症状がある作業者」及び「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定めなければなりません。 (2) 実施手順の作成 熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を、事業場ごとにあらかじめ定めておかなければなりません。 実施手順には、次の事項を盛り込む必要があります。 〈実施手順の内容(例)〉 (3) 作業従事者への周知 事業者は、上記(1)の報告体制と(2)の実施手順を、作業に従事する者に確実に周知しなければなりません。 周知の方法については、法令では直接定められていませんが、厚生労働省の資料では、下記の方法が例示されています。 〈作業者への周知(例)〉   4 違反した場合の罰則等 義務化される熱中症対策を怠った場合、事業者には6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます(労働安全衛生法119条)。 また、重篤化した場合等は、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性もあります。   5 結びに 前述のとおり、熱中症対策義務は、企業規模・業種や作業内容が屋内か屋外かなどは問われません。条件に該当する作業を行う事業者は全てその対象となります。 そのため、建設業などの屋外作業が多い業種だけでなく、製造業等の工場や倉庫での作業を中心とする業種や、外出が多い営業職なども、作業条件に該当すればその対象となります。したがって、事業所の業務内容を確認する必要があります。 また、熱中症は重篤化すると命にかかわります。今回の義務化の対象となっていない作業であっても、熱中症対策は必要ですので、その予防や労働環境の現状把握(作業環境及び作業時間)に留意することが大切です。 (了)

#No. 624(掲載号)
#佐竹 康男
2025/06/26

〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第5回】「外国人労働者を雇用する際の留意点」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第5回】 〈製造業〉 〔Q5〕 「外国人労働者を雇用する際の留意点」   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 中野 博和   【Q】 当社では、新たに外国人労働者を雇用しようと考えています。外国人労働者を雇用する場合の留意点を教えてください。 【A】 外国人を雇用する場合、不法就労助長罪が成立しないように在留資格を確認する必要があるなど、以下の解説にて紹介するとおり、様々な法規制がありますので、注意が必要です。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 ハローワークへの届出等 外国人、すなわち日本国籍を有しない者の雇入れ及び離職の際には、その氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域、資格外活動許可又は報酬活動許可の有無及び在留カード番号をハローワークに届け出ることが必要である(労働施策総合推進法28条、同法施行規則10条~12条)。ただし、外国人であっても、特別永住者、又は在留資格が外交、若しくは公用である場合には、届出の必要はない。 ハローワークへ届け出る事項については、在留カードやパスポートなどにより確認することになる。   2 在留カードの確認 実際には当該外国人が必要な在留資格を有していないにもかかわらず、在留資格があること等を十分に確認しないまま雇い入れてしまったような場合、不法就労助長罪(入管法73条の2第1項)が成立し得る。 不法就労助長罪は、故意がある場合だけでなく、過失がある場合にも処罰の対象となる上(入管法73条の2第2項)、確認に当たって尽くすべき手段を全て尽くさなかった場合には、同罪における過失が認められるため、非常に過失が認められやすくなっている。 外国人の在留資格には、①就労が認められ、かつ活動範囲に制限がないもの、②就労が認められるが、活動範囲に制限があるもの、及び③就労が認められないものがある。ただし、就労が認められない在留資格についても、資格外活動許可(入管法19条1項、2項)を得れば、1週について原則として28時間以内(在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときは、1日について8時間以内)といった活動時間の制限等、一定の範囲内で就労が認められる(入管法施行規則19条5項)。なお、この資格外活動許可(包括許可)については、副業等も含めて1週について28時間以内である必要があるため、副業の有無やその就労時間についても確認する必要がある。 そのため、在留期間の徒過により不法滞在となっているような場合だけでなく、適法な在留資格自体はあるものの、就労が在留資格に基づく活動範囲外である場合にも、その確認を怠れば、不法就労助長罪が成立し得る。 不法就労助長罪が成立する場合、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金又はその両方が科される可能性がある。なお、令和6年の入管法改正により、法定刑の上限が引き上げられ、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又はその両方が科されることになる。この入管法改正は、令和6年6月21日から3年以内に施行される予定である。 在留カードを見慣れていないため、どのように確認をすればよいのかが分からない場合もあるかもしれない。そのような際には、法務省の「「在留カード」及び「特別永住者証明書」の見方」において、在留カード番号や在留資格などの項目や偽造・変造の有無の確認方法が紹介されており、参考になる。また、在留カード等読取アプリケーションを活用することでも、偽造・変造の有無等を確認することができる。 なお、使用者が、外国人労働者の在留カードやパスポートを預かって保管することは、損害賠償請求の対象になる可能性がある(損害賠償請求事件・熊本地判令和3年1月29日判時2510号33頁など)ほか、当該外国人労働者が技能実習生の場合、本人の意思に反して在留カード、パスポートを保管したときは、技能実習法48条1項、111条5号、(育成就労制度に移行後は、育成就労法48条1項、111条5号)により6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処される可能性があるため、注意が必要である。   3 分かりやすい労働条件の明示 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない(労働基準法15条1項)。 厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年8月3日厚労告276号)では、労働条件の明示にあたり、モデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用する、母国語等を用いて説明する等、当該外国人労働者が理解できる方法により明示するよう努めることと記載されている。この点については、あくまで努力義務にすぎないため、必ずこれに従わなければならないというわけではないが、日本語が不慣れな外国人を雇い入れる場合には、後のトラブルを未然に防止する観点から、厚生労働省のモデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用するなど、労働条件等に関し労使双方に認識の違いが生じないようにしておくことが肝要である。 なお、モデル労働条件通知書及びモデル就業規則については、それぞれ厚生労働省のHPに掲載されている。   4 技能実習計画認定等の取消し 技能実習生を受け入れるためには、技能実習計画が認定される必要がある(技能実習法8条1項)ところ、技能実習計画が認定された後、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき。」(技能実習法16条1項7号)に該当する事実が認められた場合、技能実習計画の認定が取り消されてしまうので注意が必要である。 なお、令和6年の法改正により、技能実習法は育成就労法へ改正されたが、育成就労法は、令和6年6月21日から起算して3年以内に施行されることとなっており、育成就労法においても、育成就労計画認定の欠格事由として、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした日から起算して5年を経過しない者」(育成就労法10条9号)と規定されていることから、「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為」が認められる場合には、同様に、育成就労計画の認定が取り消されることとなるものと考えられる。 実務上は、労働安全衛生法違反や労働基準法違反により罰金等の刑罰が科された場合に、技能実習法16条1項7号の取消事由に該当するとして、技能実習計画の認定を取り消す事例が多いが、ここで注意が必要なのは、この法令に関する不正行為等は、技能実習生を含む外国人労働者との関係に限らず、日本人労働者との関係において労働関係法令に関して不正行為等を行った場合にも、技能実習法16条1項7号の取消事由に該当するとして、技能実習計画の認定を取り消されてしまうという点である。 例えば、外国人労働者に対しては賃金の未払いはないものの、日本人労働者に対しては賃金の未払いが発生しており、この点について労働基準法違反として処罰された場合にも、技能実習法16条1項7号の取消事由に該当するとして、技能実習計画の認定を取り消されてしまうこととなる。 また、技能実習計画の認定が取り消されてしまった場合、5年間は、再度、技能実習計画の認定を受けることができない(技能実習法10条9号)。 技能実習法は、人材確保の手段ではなく、人材育成を通じた国際貢献を目的とするものではある(一方で育成就労法は、我が国の人手不足分野における人材の育成・確保を目的としている)が、多数の技能実習生を受け入れている場合には、技能実習計画認定が取り消されれば、同等の労働力の確保が課題となり得るため、技能実習計画認定が取り消されないように気を付ける必要がある。 (了)

#No. 624(掲載号)
#中野 博和
2025/06/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例106】ニデック株式会社「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの撤回に関するお知らせ」(2025.5.8)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例106】 ニデック株式会社 「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する 公開買付けの撤回に関するお知らせ」 (2025.5.8)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ニデック株式会社(以下「ニデック」という)が2025年5月8日に開示した「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの撤回に関するお知らせ」である。タイトルどおり、同社は株式会社牧野フライス製作所(以下「牧野フライス」という)に対してTOB(株式公開買付け)を行っていたのだが、それを撤回することにしたという内容である。   2 事前接触も同意もない買収 牧野フライスは2025年4月10日に「第三者提案の具体化・検討のために必要な時間を確保すべきことに鑑みたニデック株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」を開示し、ニデックによるTOBに対して反対意見を表明しており、ニデックによるTOBは「同意なき買収」であった。なお、「同意なき買収」とは、以前「敵対的買収」といわれていたものであり、経済産業省が2023年に公表した「企業買収における行動指針」において、そのように言い換えられることになった(筆者個人としては、そうした言い換えに意味があるとは思わないが)。 また、ニデックによるTOBは牧野フライスの同意を得ていないだけでなく、牧野フライスに対して事前接触も行っていなかった。ニデックは2024年12月27日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示し、2025年4月4日から牧野フライスに対するTOBを開始する予定であるとしていたのだが、そこには次のような記載があった(下線は筆者による)。 事前接触を行わなかった理由は、牧野フライスの株主が正しい選択を行うことができるようにするためであるとされている。   3 買収への対応方針 牧野フライスは2025年3月19日に「買収への対応方針」の導入を決定し、「ニデック株式会社による当社株式に係る公開買付け(予告)につき、第三者提案の具体化・検討のために必要な時間を確保することのみを目的とする、当社の会社の支配に関する基本方針及び当社株式の大規模買付行為等への対応方針(買収への対応方針)の導入に関するお知らせ」を開示しており(「買収への対応方針」とは、以前「買収防衛策」といわれていたものであり、これも「企業買収における行動指針」において言い換えられることになった)、そこには次のような記載がある。 この「買収への対応方針」は、あくまで牧野フライスの株主が判断する時間を確保することが目的であり、ニデックがTOBの開始を2025年5月9日以降に遅らせるか、ニデックよりも良い条件を示す買収者が現われれば、廃止するとしている。 しかし、ニデックが2025年4月3日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、予定どおり2025年4月4日にTOBを開始したため、牧野フライスは2025年4月10日に「買収への対応方針」に基づき新株予約権無償割当てを決定し、「買収への対応方針(時間確保措置)に基づく新株予約権の無償割当て、新株予約権の無償割当てに係る基準日設定、及び、株主意思確認を第86回定時株主総会において行うことのお知らせ」を開示した。 それに対して、ニデックは2025年4月16日に新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立てを行い、「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立てに関するお知らせ」を開示した(あえてなのか、あるいは気付かなかったのかは不明だが、ニデックは「買収への対応方針」ではなく「買収防衛策」という用語を使っている)。なお、その開示の最後には次のような記載がなされ、詳細は適時開示されていない。   4 株主のため? しかし、ニデックによる差止仮処分の申立ては却下され、同社は2025年5月7日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立て却下決定に関するお知らせ」を開示した。今回の開示には、TOBを撤回することにした理由について次のように記載されている。 ニデックは、牧野フライスに対して事前接触を行わなかった理由について、牧野フライスの株主が正しい選択を行うことができるようにするためであるとしていた。そうであるならば、TOBの開始時期を延ばして、判断する時間をより多く与えた方がいいだろうし、より良い条件を示す買収者の出現を待ってあげた方がいいのではないだろうか。 ニデックは、牧野フライスの株主のためではなく、自社のために事前接触を行わなかったのだと思われる。牧野フライスにホワイトナイトを探す隙を与えず、TOBを自社に有利な条件で済ませたいために、そのようにしたのだろう。それが本当の理由だとしたら、ニデックは開示に虚偽の理由を書いたことになる。 牧野フライスは結局他社に買収されることになりそうである。同社が2025年6月3日に開示した「MM ホールディングス合同会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」によると、MM ホールディングス合同会社によるTOBの買付価格は11,751円であり、ニデックによるTOBの買付価格11,000円よりも高い。牧野フライスの株主のためには、こちらの方が良い。 (了)

#No. 624(掲載号)
#鈴木 広樹
2025/06/26

《速報解説》 「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正府令が公布される~新リース会計基準等の公表を受け、新たな注記事項等を規定~

《速報解説》 「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正府令が公布される ~新リース会計基準等の公表を受け、新たな注記事項等を規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年6月25日、「特定目的信託財産の計算に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第62号)が公布された。これにより、2025年4月28日から意見募集されていた改正(案)が確定することになる。改正(案)に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 以下では、「特定目的信託財産の計算に関する規則」について解説する。 「投資信託財産の計算に関する規則」などの主な改正内容も基本的に同様である。 1 定義 賃貸等不動産の定義について、「所有する不動産」を「所有し、又はリースにより使用する権利を有する不動産」と改正する(2条2項11号)。 また、使用権資産を定義し、リースの対象となる資産を使用する権利をいうとする(2条2項12号)。 ファイナンス・リース、所有権移転ファイナンス・リース、所有権移転外ファイナンス・リースも定義する(2条2項13号~15号)。 2 資産及び負債 資産の内容において、使用権資産を規定し、また、負債の内容において、リース負債を規定する(17条、26条)。 3 注記 「リースに関する注記」において、次の事項の注記を規定する(重要性の乏しいものを除く。22条)。 ただし、金融商品取引法24条5項において準用する同条1項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない受託信託会社等以外の受託信託会社等は、当該事項の注記を要しない(22条1項)。 「特定目的信託財産の計算に関する規則」22条1項の規定にかかわらず、ファイナンス・リースの借手である受託信託会社等が当該ファイナンス・リースについて資産及び負債を計上する会計処理を行っていない場合におけるリースに関する注記は、リースの対象となる資産(固定資産に限る)に関する事項とする(22条2項)。 この場合において、当該資産の全部又は一部に係る次に掲げる事項(各資産について一括して注記する場合にあっては、一括して注記すべき資産に関する事項)を含めることを妨げない(22条2項)。 「金融商品に関する注記」において、金融商品(リース負債を除く)の時価に関する事項と改正する(8条の2)。また、「賃貸等不動産に関する注記」も改正する(8条の3)。   Ⅲ 施行期日等 公布の日(2025年6月25日)から施行する。 経過措置に注意する。 (了)

#阿部 光成
2025/06/26

《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の業種目を改定~3業種目の新設、1業種目の統合により類似業種の業種目数は113から115へ~

 《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の業種目を改定 ~3業種目の新設、1業種目の統合により類似業種の業種目数は113から115へ~   税理士 柴田 健次   国税庁は令和7年6月9日(国税庁ホームページでの掲載は令和7年6月16日)に「類似業種比準価額計算上の業種目分類について(情報)」を公表した。 上記情報において類似業種比準方式で評価する場合における業種目分類を、下記の別添のとおりとすることとしている。   1 改定の内容 「日本標準産業分類」は前回改定(平成25年)から10年が経過し、その間の経済・社会の状況に変化が生じたことを踏まえ、第14回改定が行われた(令和6年4月施行)。 これに伴い、令和7年分の類似業種株価等通達について、業種目の見直しを行った。 また、標本会社の業種目の判定を行った結果、標本会社が少数となる業種目については、特定の標本会社の個性が業種目の株価等に強く反映されることとなることから、このような影響を排除するため、業種目の統合を行うとともに、標本会社が多数となる業種目については、業種目の新設を行った。 (注) 「日本標準産業分類」は、統計を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は提供に係る全ての経済活動を分類するものであり、行政機関が作成する公的統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として、総務大臣が公示している。 なお、日本標準産業分類は、以下の総務省統計局のホームページで閲覧することができる。   2 具体的な改定内容 評価会社の業種目は、直前期末以前1年間における取引金額に基づき、総務省の日本標準産業分類に基づいて区分することとされている。標本会社の業種目の判定についても、同様に日本標準産業分類に基づいて区分されている。 そして、日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目の対応関係を一覧にしたものが「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」(以下『対比表』という)として公表されており、今回、その『対比表』が改定となった。これまでは平成29年分として公表されていたものを使用していたが、令和7年以降は、今回公表された『対比表』を使用することになる。 改定により業種目が統合されたものが1つ、新設されたものが3つあるため、類似業種の業種目の数は113(平成29年以降の『対比表』)から115(令和7年以降の『対比表』)となった。 今回、統合されたものと新設されたものは、下記の通りとなる。 ① 統合されたもの ② 新設されたもの ■改定前の『対比表』(平成29年分)一部抜粋 ■改定後の『対比表』(令和7年分)一部抜粋   3 業種目の判定手順 評価会社の業種目は、下記の通り行うことになるが、正確に業種目を判定するためには、日本標準産業分類で分類項目を確認した後で、『対比表』に基づき業種目を特定する必要がある。 上記の判定の際に類似するか類似しないかの判断が必要となるが、その判断は、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」(下記参照)の分類の一番下に「その他の〇〇業」があるか否かで判断することになる。例えば、各種商品小売業(79番)と飲食料品小売業(81番)の売上の構成比がそれぞれ40%ずつある場合には、1つの大分類(小売業)の中に2以上の類似する中分類の業種目別の割合の合計が50%超に該当し、その大分類の中にある類似する中分類のその他の小売業(83番)が業種目となる。 これに対して、各種商品小売業(79番)と無店舗小売業(86番)の売上の構成比がそれぞれ40%ずつある場合には、1つの大分類の業種目中の2以上の類似しない中分類の業種目別の割合の合計が50%超に該当し、その大分類の業種目として小売業(78番)が業種目となる。 なお、特定した業種が小分類に区分されているものにあっては小分類による業種目、中分類のものにあっては中分類の業種目、大分類による場合には大分類の業種目を使用することになる。ただし、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を使用することができるため、小分類又は中分類に分類された業種目がある場合には、それぞれ中分類又は大分類の業種目でも計算し、いずれか有利な方を選択することになる(評価通達181)。   4 実務上の影響 多くの業種目については影響がないものの番号が変更になっているため、令和7年以降の相続、遺贈又は贈与により取得した非上場株式の評価明細書を作成する際に注意が必要となると共に最新の「日本標準産業分類」と令和7年分の『対比表』を基に評価会社の業種目を判定する必要がある。 なお、上記の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和7年分)」の下の注意書きにも記載のとおり、令和7年2月が課税時期である場合には、類似業種株価は、令和7年2月、1月、令和6年12月、令和6年平均株価及び令和7年2月以前2年間の平均株価のうち最も低いものを使用することになるが、今回の改定で令和6年と令和7年で業種目が異なることになった場合には、令和6年12月の金額は、令和6年が課税時期であった場合に適用される類似業種株価と異なることになる。実務的には、令和7年以降のものについては、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和7年分)」を確認すれば問題はない。 (了)

#柴田 健次
2025/06/25

《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表~監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正等行う~

《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の 適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表 ~監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正等行う~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2025年6月20日)、日本公認会計士協会は、「「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正」を公表した。 これにより、2025年5月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 ガイドラインの判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも1つの目安であり、【重要な不備事項】とされる状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断することもあるとのことである。   Ⅲ 適用時期等 2025年6月19日改正のガイドラインは、2025年7月1日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 上記にかかわらず、Ⅰ-2-5-2の判断基準⑤及び⑥については、2026年7月1日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 (了)

#阿部 光成
2025/06/24

《速報解説》 会計士協会、倫理規則の改正に伴い「監査ツール(実務ガイダンス)」を改正

《速報解説》 会計士協会、倫理規則の改正に伴い「監査ツール(実務ガイダンス)」を改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2025年6月20日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2025年4月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、倫理規則改正に伴う記載の変更などである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 次のとおりである(主な様式)。 (了)

#阿部 光成
2025/06/24
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