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連結会計を学ぶ(改) 【第23回】「持分法に関する投資と資本の差額」

連結会計を学ぶ(改) 【第23回】 「持分法に関する投資と資本の差額」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、持分法の会計処理に関して、投資と資本の差額及びその償却について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 持分法の会計処理 1 基本的な会計処理 「持分法」は、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法である(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)4項)。 投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額はのれん又は負ののれんとし、のれんは投資に含めて処理する(持分法会計基準11項)。 投資会社は、投資の日以降における被投資会社の利益又は損失のうち投資会社の持分又は負担に見合う額を算定して、投資の額を増額又は減額し、当該増減額を当期純利益の計算に含める(持分法会計基準12項)。 のれん(又は負ののれん)の会計処理は、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)32項(又は33項)に準じて行う(持分法会計基準12項)。 2 設例 【設例1】 投資会社と被投資会社(関連会社:20%)の個別貸借対照表は次のとおりとする。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 関連会社株式を取得した時、関連会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の取得 関連会社株式を取得した時(20%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の投資会社の個別貸借対照表に反映済み)。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社株式の取得時)  ⇒仕訳なし 持分法の適用に際して、関連会社株式の取得原価100と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100が一致している。 このため、投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がないので、のれん又は負ののれんは発生しない(持分法会計基準11項)。 〈関連会社株式の取得から1年後の個別貸借対照表〉 関連会社は、1年間の事業活動によって、当期純利益50を獲得した。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の会計処理 関連会社株式(20%の株式を保有)は、取得原価をもって貸借対照表価額としている(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)17項)。 このため、関連会社株式を取得した時の取得原価100が貸借対照表計上額となっている。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社における当期純利益の計上) 当期純利益50の20%持分額は10(=50×20%)である。 【設例2】 もし、関連会社株式の取得時の個別貸借対照表が次の場合には、関連会社株式の取得原価120と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100との間に、差額20(=120-100)が発生することになる。 当該差額20は、のれんとして会計処理することになる(持分法会計基準11、12項)。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 例えば、のれんを5年間で償却する場合の会計処理は次のようになる。 のれんの償却額4(=20÷5年)を計上する。 (了)

#No. 673(掲載号)
#阿部 光成
2026/06/18

給与計算の質問箱 【第77回】「育児休業後の時短勤務に関する注意点」

給与計算の質問箱 【第77回】 「育児休業後の時短勤務に関する注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 育児休業を取得していた社員が5月31日にて育児休業を終了し、6月1日から職場復帰しました。育児休業前はフルタイム勤務でしたが、職場復帰後は時短勤務になりました。給与計算や社会保険手続に関する注意点があればご教示ください。 A 提出すべき年金事務所への届出等や給付金の支給があるため、以下、解説する。 * * 解 説 * * 1 育児休業等終了時報酬月額変更届の提出 育児休業中は、社会保険料(健康保険・厚生年金)は免除される。職場復帰後は、給料から育児休業前の標準報酬月額に基づく社会保険料を控除する。 時短勤務になったことで給料はフルタイム勤務時より低下するが、社会保険料はフルタイム勤務時のままなので、手取りが減少する。育児休業等終了時報酬月額変更届を年金事務所へ提出することで、育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間に受けた報酬の平均額に基づき4ヶ月目の標準報酬月額から改定することができる。 今回のケースでは、6月、7月、8月の3ヶ月間の報酬の平均額に基づき9月から社会保険料が改定される。   2 「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出 上記1により社会保険料が改定されることで給料から天引きされる厚生年金保険料が減り手取りが増える一方、納付する厚生年金保険料が減ることで将来受け取れる厚生年金も減少する。「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を年金事務所へ提出することで、将来の年金額に影響しないように育児休業前の標準報酬月額に基づく年金を受け取れる。   3 育児時短就業給付金の支給 給料が時短勤務になったことでフルタイム勤務と比べて低下したなどの一定の要件を満たす場合、育児時短就業給付金がハローワークから支給される。育児時短就業給付金の支給額は、原則として育児時短就業中の各月に支払われた賃金額×10%である。   (了)

#No. 673(掲載号)
#上前 剛
2026/06/18

《税理士のための》登記情報分析術 【第37回】「役員の任期のチェック」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第37回】 「役員の任期のチェック」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   株式会社の役員には任期があり、役員の構成に変更がなくても任期が到来した場合には株主総会において選任(再任)の決議を行い、登記申請をする必要がある。役員改選の登記を漏らしていると、代表取締役が裁判所から過料の制裁を受けることがある。 税理士としても一定程度任期に関する知識を身に着けておくことで、顧問先の登記記録を目にした際に登記申請の必要性に気が付き、不本意な形で過料の制裁を受ける顧問先を減らすことができるかもしれない。本稿では、基本的な任期についての知識とチェックポイントについて解説をする。   1 役員の任期とは 取締役や会計参与、監査役、会計監査人といった役員等には任期が定められている。具体的には次のとおりである。 【役員等の任期】 取締役 選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 会計参与 取締役と同じ 監査役 選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 会計監査人 選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 上記の任期は原則的な任期であり、発行するすべての株式に譲渡制限が付された非公開会社では、定款の定めにより取締役、会計参与、監査役の任期は10年まで伸長することができ、多くの非公開会社が任期を伸長している。会計監査人は、任期の伸長はできないが、「みなし再任」の規定の適用があり、定時株主総会で不再任とされなければ、自動的に再任されたものとみなされることになる(会社法338条)。   2 まずは登記記録をチェック 定款で任期の伸長が可能であることから、正確な会社の任期は定款を見なければわからないが、登記記録から会社の任期を推測することはできる。 登記記録のうち「役員に関する事項」の欄には役員が選任された日が記載されている。この登記記録例では2年おきに取締役の改選登記がなされており、次は令和8年の6月に登記が必要ではないかと推測することができる。司法書士としても、まず登記記録の記載された選任のスパンをチェックして、定款を取り寄せるなどして正確な任期を把握するようにしている。   3 任期は定時株主総会に関連する 役員等の任期は単に「選任後〇年」とされるのではなく、「選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」というように、定時株主総会の終結時点と関連付けられていることも大切なポイントである。 役員等の選任は定時株主総会で行われることが多いところ、定時株主総会は毎年同じ日に行われるとは限らない。もし、「選任後〇年」というように定時株主総会の終結時点と関連付けられていない場合、定時株主総会の開催日が年によってズレると役員の空白期間が生まれてしまう可能性がある。 【取締役の任期が単に「2年」とされた場合】 この点、役員等の任期が選任機関である定時株主総会の終結時点と関連付けられていれば、任期の途切れなく安定した運営が可能となる。 【取締役の任期が「定時株主総会の終結の時まで」ある場合】 定時株主総会は、決算期を迎えてから一定の時期に開催することとされており(会社法296条)、法人税の申告期限や議決権行使の基準日の兼ね合いなどで、決算期から2~3か月後に開催されることが多い。税理士としては決算対応のタイミングで顧問先の任期をチェックすれば、かなりのチェック漏れは防止することができるのではないだろうか。 (了)

#No. 673(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/06/18

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第78回】「土地の借主が負担する建物のローン残額の支払いと引き換えに土地使用貸借の終了を認めた裁判例」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第78回】 「土地の借主が負担する建物のローン残額の支払いと引き換えに 土地使用貸借の終了を認めた裁判例」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 本連載【第19回】では、「税務で『ゼロ評価』される土地に鑑定ではなぜ価値がつくのか」というタイトルで、使用貸借を例にとり、相続税の財産評価では使用借権の価額は評価しないものとして扱われているものの、最高裁の判例では使用借権に経済的利益を認め、鑑定評価においてもある程度の価値を認めていることが多いことを述べました。 筆者が最近の裁判例を調査していたところ、これに類似する事案が目に留まりましたので、今回紹介するとともに、税務上の取扱いとは異なる面があることを改めて確認しておきたいと思います。   2 今回取り上げる裁判例 建物の使用を目的の一つとする土地の使用貸借において、建物の共有者の一人であるYが負担している土地上の建物に係るローン残額に相当する額の支払いと引き換えに、土地の使用及び収益をするのに足りる期間を経過したことによる使用貸借の終了を認めた事例(東京地裁令和3年6月24日判決(判例時報2527号、66頁))を取り上げます。   3 事案の概要と裁判所の判断 (1) 事案の概要 〈イメージ図〉 上記の〈イメージ図〉のとおり、従前から本件土地上には被相続人Aと長男Yの共有の建物(注1)が存在していましたが、土地はAの単独所有であったため、AとYとの間にはAを貸主とする土地使用貸借契約が締結されていました(その内容は、AがYに対し、本件土地を期間の定めなく無償で貸与するというものでした)。 (注1) 共有持分:A(100分の13)、Y(100分の87) その後、X(Aの二男)がAからの相続(遺言)により、本件土地の所有権及び使用貸借契約上の貸主の地位を承継しました。 このような形でXが本件土地の所有権を取得した背景には、本件建物を建築し、本件使用貸借契約を締結した当時はAとYとが本件建物で同居する予定でしたが、Yの意向によりこれが実現しなかったという事情がありました。 Xは、本件使用貸借の目的の一つが本件建物の使用であることを認めた上で、AとYの同居は実現していないことから、Yが本件建物を使用する前提が消失しているなどとして、Yに対し、本件使用貸借契約の終了を主張し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めましたが、Yがこれに応じなかったため、訴訟に発展したものです。 なお、Yは、本件建物の建築に当たり住宅ローンを借り入れており、これを分割して返済中でした(当時のローン残額は約〇〇〇万円)。 (2) 裁判所の判断 本件審理に当たった裁判所は以下の理由により、土地の貸主XからYへのローン残額を考慮した金額の支払いと引き換えに、本件土地の使用収益に足りる期間の経過により、使用貸借の終了を認めるのが相当であるとしました(下線は筆者によります)。 〇理由 (注2) 筆者注。本件事案には、使用貸借の終了原因については令和2年改正民法施行前の条文が適用されており、判決文の記載によれば上記のとおりとなっています。ちなみに、改正後(現行法)の条文は以下のとおり第598条第1項に変更されていますが、内容的な変更はありません(解説の都合上、第597条も併せて記載いたします)。 〇民法   4 まとめ 鑑定評価においては使用貸借の権利が付着している土地や建物の価値を扱う場面に遭遇する機会があり、その際には使用借権とその価値の有無に関する判断を避けてとおることはできません。 税務上、使用借権の価値を評価しない理由は、使用借権が相互の信頼と恩恵を基に成立し、他人には譲渡できず、契約期間が満了しても更新はなく、借主の死亡により効力を失うといった脆弱な権利であることによるものと推察されます。 しかし、税務上の扱いとは別に、鑑定評価上、本件事案のような場面に遭遇し、補償的な意味合いも含めて使用借権の消滅の対価が問題となった場合、借主に帰属する何がしかの経済的利益を織り込まざるを得ないケースが発生します。 本件事案において、裁判所がローン残額を考慮した金額と引き換えに使用貸借の終了を認めるのが相当であると判断した背景として、使用貸借といえども期限が到来するまでは借主は安定的な土地利用を図ることができるという側面が考慮されたものと筆者は推察いたします。 使用貸借がこのような側面も有することを踏まえると、不動産鑑定士にとっても、使用貸借に係わる鑑定評価は奥が深く、難しいといえます。 (了)

#No. 673(掲載号)
#黒沢 泰
2026/06/18

書く論 【第6回】「単著か共著か」

〈執筆:編集X〉 書く論 第6回 「単著か共著か」 実務書を書こうとするとき、はじめに選択を迫られるのが、1人で書く(単著)か、複数人で書く(共著)か、という点です。 単著で始めたものが途中から共著になる、共著で進めたものが途中から単著になるというケースは、通常であれば、ほとんどありません(あるとすれば、さまざまな理由で“やむを得ず”そうなったケースです)。 編集Xがこれらの判断に迷われている著者の方へお伝えする定番のコメントは、以下のようなものです。 「単著を経験された方は『次は共著がいい』とおっしゃいますし、共著を経験された方は『単著のほうが楽』とも言われます。要は、それぞれ一長一短ありますね!」 皆さんご想像のとおり、1人だけで原稿を書き上げ、発刊に至るのは、大変な労力がかかります。 そして、孤独です(いくら編集者のサポートがあったとしても、書くことまではお手伝いできません)。 ただし、誤解を恐れずにお伝えすると、単著は楽しいのです。 それは、ご自身がイメージする書籍(ゴール)へ向かって、ご自身の判断で進めることができるからです。 どのような構成とするか、どのように解説するか、どういう図表を載せればいいか、いつ頃原稿を書き上げいつ発刊するか? タイトルは? 等々。 (版元と調整しながらではありますが)著作権者としてのオリジナリティを遺憾なく発揮することができます。 書籍へ込めた想いを形にする楽しさ、これを独り占めできるのが単著です(カバーに載るのは自分の名前だけ!)。 もちろん単著ゆえの責任やプレッシャーはかかりますが、そもそも実務家の方々は普段からそういうお立場にある方が多いので、特別な状況とは言えないのかもしれません。 では共著はどうかというと、これもまた、一人では登れない大きな山の頂へ、仲間と共に到達するという、(逆に普段では味わえない)充実感があります。 また、ご自身が書くべき原稿の分量は単著に比べて大幅に減り、労力のわりに内容・ボリューム共に大きな成果を得ることができます。 ここで、共著のスタイルは大きく2つあるように思います。1つは、著作歴があり、かつ、その書籍の内容について精通した方を編者(中心)として、その方に指導を仰ぐ方や慕う方々が共著者として参集し、一冊の本を書き上げるもの。もう1つは横のつながり(まさにお仲間)で集まった数人が力を出し合い書き上げるもの。 出来上がった分厚い本を手に取ると、「これは私一人では出せなかったな」と感慨深く、発刊後の打上げ(≒お酒)はとても楽しい(≒美味しい)。 共著にはそういう良さがあります。 ただ、もちろん単著で味わう充実感とは異なりますし、共著者の一人としての意見が必ずしも採用されることは限りません(特に編者の方がおられるケース)。また最も問題となるのが「共著者ごとのモチベーションの差」であり、一方の方が熱い想いで締め切り通りに完全な原稿を書いたとしても、期限を守れず内容も想定したものとは異なる原稿が別の共著者から上がってくるときのストレスは、実はけっこう大きいのです(トラブルにもなりやすい)。 そうならないためには、月並みですが「最初に『しっかり』話し合う」ことだと思います。そういう意味では、飲み友だちがお酒の席で共著作を決めその企画が採用されたとしても、なかなか話が進まないことが多い。 では結局どうすればいいのか、正解は、と言いますと、やっぱり 「(前略)要は、それぞれ一長一短ありますね!」 というお話に尽きるのです。 アドバイスできるとすると、お一人での仕事を好み、かつ、執筆にかける時間がある(発刊も急がない)という場合は、単著から始めていただくのがよいと思います。 単著での著作を続けていると、そのうち「私も本を出したい」という若い方から憧れの眼差しとともにお声がかかり、彼らを率い編著者のお立場となって共著書を出すこともあります。そういう執筆経験の豊富な方が編者だと、編集者はすごく助かります。 また、書籍発刊という成果を早く獲得したい場合や、一人では書き上げられない原稿を複数の力で結集(分担)し仕上げることに面白さを感じるのであれば、共著をお薦めします。 書籍ごとに共著者を募り、大きな山を次々に踏破していくのも、執筆者としての醍醐味だと思います。 最後に、お気づきの方もいるかと思いますが、実はどちらのケースも結果として「(まだ単著を出す勇気を持てない)若手の著者を育てる場」になっております。 編集者は共著の編集作業をしながら、「こういう良い原稿を書く先生なら、単著での出版を提案してみたい」と、(虎視眈々と)狙っているので、結局は編集者にとって大変ありがたいというお話でした。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)

#No. 673(掲載号)
#編集X
2026/06/18

令和5年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

令和5年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和5年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/06/15

《速報解説》 SSBJが温対法における温室効果ガス排出の測定・開示に係る実務対応基準を公表~「気候基準」の趣旨や企業間の比較可能性が損なわれる可能性に対応~

 《速報解説》 SSBJが温対法における温室効果ガス排出の測定・開示に係る実務対応基準を公表 ~「気候基準」の趣旨や企業間の比較可能性が損なわれる可能性に対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年6月11日、サステナビリティ基準委員会は、「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の開示」(サステナビリティ開示実務対応基準第1号。以下「実務対応基準第1号」という)を公表した。 これにより、2026年1月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して寄せられたコメントの概要とそれらに対する対応も公表されている。 「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下「温対法」という)における「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(以下「SHK制度」という)の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いてサステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(以下「『気候基準』」という)の定めに従った開示を行う場合に、「気候基準」の要求事項が必ずしも明確ではなく、実務上の解釈において見解が分かれていることにより、企業の実務における対応に多様性が生じ、「気候基準」の趣旨や企業間の比較可能性が損なわれる可能性があるとの懸念などが寄せられたとのことである。 実務対応基準第1号は当該問題に対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 見解が分かれている論点 温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」の定めに従った開示を行う場合に、次の3つの点について見解が分かれている(実務対応基準第1号BC3項)。   Ⅲ 実務対応基準第1号の適用範囲 実務対応基準第1号は、温対法におけるSHK制度の対象となっている企業が、「気候基準」49項ただし書きの取扱いを選択し、企業の全部又は一部について、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて、「気候基準」の定めに従った開示を行う場合に適用する(実務対応基準第1号2項)。 これには、温対法におけるSHK制度の算定期間とサステナビリティ関連財務開示の報告期間が異なるために、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出について、サステナビリティ関連財務開示の報告期間に合わせるように調整(以下「期間調整」という)をする場合を含む(実務対応基準第1号2項)。   Ⅳ 温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」の定めに従う場合の開示 スコープ1温室効果ガス排出及びスコープ2温室効果ガス排出のいずれか又は両方について、「気候基準」49項ただし書きの取扱いを選択し、企業の全部又は一部について、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて測定を行う場合、当該企業の全部又は一部に係る温室効果ガス排出について、「気候基準」47項、53項及び54項に従って、次のように開示する(実務対応基準第1号7項)。   Ⅴ 基礎排出量と調整後排出量のいずれを基礎として用いるのか 基礎排出量の方が、調整後排出量よりも「GHGプロトコル(2004年)」の測定方法との親和性がより高いと考えられており、比較可能性を確保する観点からは「GHGプロトコル(2004年)」により近いものが望ましいと考えられたことから、実務対応基準第1号は、温室効果ガス排出の開示にあたり、基礎排出量を基礎として用いることとしている(実務対応基準第1号BC21項)。 なお、実務対応基準第1号7項の定めをスコープ1温室効果ガス排出及びスコープ2温室効果ガス排出の両方に適用する場合、任意の参考情報として基礎排出量の開示とあわせて、調整後排出量及び調整項目を開示することができると考えられるとしている(実務対応基準第1号BC22項)。   Ⅵ ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出の開示 実務対応基準第1号は、ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出とマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出の両方を開示することとし、ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出については、温対法におけるSHK制度に基づく間接排出に係る活動量に、環境大臣及び経済産業大臣が公表する平均的な排出係数を乗じる方法により算定することとしている(実務対応基準第1号7項(2)②、BC29項~BC32項)。   Ⅶ 適用時期等 2027年3月31日以後終了する年次報告期間に係る気候関連開示から適用する。 ただし、2027年3月31日より前に終了する年次報告期間に係る気候関連開示について、適用することができる。この選択を行う場合、その旨を開示しなければならない。 経過措置に注意する。 (了)

#阿部 光成
2026/06/12

プロフェッションジャーナル No.672が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年6月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.672を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/06/11

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第94回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第94回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   ウ ブロックチェーン分析を用いた暗号資産脱税事件(米国の事例) 米国において、初期のビットコイン投資家が、取得価額の水増し、複数ウォレットの利用、対面取引、ミキサーの活用などを駆使して暗号資産取引による利益を過少申告・無申告とし、結果として100万ドルを超える税損失(脱税額)を生じさせたことで、虚偽申告の罪により2年の実刑判決を受けた事例がある。 本件は、米国において、暗号資産取引を中心とする所得隠ぺいについて、刑事責任を問われ、実刑判決に至った初の事例とされる点で象徴的意義を有する。 (ア) 事案の概要 公表資料によれば、納税者は2015年にCoinbase口座を通じて約1,366BTCを購入し、2017年10月にはそのうち約640BTC(当時約5,807ドル/1BTC)を売却して約370万ドルを得た。 しかし、2017年分の申告においては、実際よりも著しく高額な取得価額を申告し、キャピタルゲインを過少に計上した。 さらに、2018年及び2019年にもビットコインを売却して65万ドル超を得ていたが、これを申告しなかった。 また、公表資料によれば、納税者は次のような方法を用いていた。 これらの行為は、資金移動の連続性を分断し、取引の流れを把握しにくくするものである。 (イ) ブロックチェーン分析の関与 IRSは Chainalysis のリアクターを活用し、取引開始から処分までの流れを追跡し、日付、評価額、取引相手などの詳細を特定した。 Chainalysisの専門的分析により、多数のウォレットに関わる資金の流れが順を追って示され、タイムスタンプと評価額の検証に役立ったとされている。 また、IRS は、納税者から提供された記録を相互参照するために、複数の取引所からトランザクション記録とブロックチェーンデータを取得した。 これらを通じて、IRSは、取得価額が水増しされていることを突き止めたようだ。 この点は、ブロックチェーンの履歴、取引所のデータ、価格データを客観的に突き合わせることにより、取得価額の不自然さを論理的に示すことが可能であることを示唆している。 さらに、ウォレット間の資金移転経路の追跡により、取得から売却、売却代金の処分に至るまでの資金移動の連続性が確認された可能性が高い。 (ウ) 捜査・立証活動 本件の意義は、単に資金の流れを追跡できたという点にとどまらない。 本件では、「損益計算に用いる数値そのものを操作する方法(取得価額水増し)」と、「資金移動の履歴を追いにくくする方法(複数ウォレット・ミキサー利用)」の両方が用いられていた。 ここで重要なのは、損益計算に用いる数値の虚偽も、取引所のデータやブロックチェーンの履歴という客観データとの照合によって検証対象となりうるという点である。 暗号資産課税においては、次の事実を正確に把握することが重要である。 ブロックチェーンは、少なくとも売却数量や移転履歴については改ざん困難な客観情報を提供する。 したがって、申告計算上の数値とブロックチェーンの履歴との不整合は、過少申告等の有無を判断するための客観的な検証材料となる。もちろん、取引所で取引をしている場合には、取引所のデータを参照することも有効である。 また、複数のウォレットやミキシングサービスの利用があったにもかかわらず追跡が成功していることからは、例えば次の点が分析に用いられ、それらが一定程度有効に機能した可能性がある。 (エ) 公開情報と情報分析・変換能力 本件は、暗号資産の匿名性に対する一般的理解に対して重要な示唆を与える。 納税者はミキシングサービスの利用等により追跡困難化を図ったようであるが、それでも資金の流れが再構成され、追跡された。 この点について、次の点を確認しておく必要がある。 結局のところ、本件は、暗号資産取引が「原理的に追跡不能」であるわけではないことを示している。 もっとも、本件は米国内の事例であり、刑事捜査権、召喚権限、事業者協力体制、証拠開示制度といった制度的背景が影響している可能性がある。 少なくとも、本件は「ブロックチェーン分析が万能である」ことを示すものではない。 むしろ、高度な分析能力と、取引所等から情報を取得できる法的権限とが相まって、税額の確定や刑事責任の追及に結び付くことを示した事例と理解するのが妥当であろう。 (オ) 総括 本件は、暗号資産の仮名性と公開性という技術的特性が、相応の分析能力と制度的枠組みによって担保されることで、虚偽申告を裏付ける証拠として活用されうることを示した事例である。 同時に、その効果は分析能力と法制度の実効性に依存する。 「ブロックチェーンは公開台帳である」という事実が、直ちに税額の確定や刑事責任の追及を可能にするわけではない。両者の間には、単なる情報の閲覧能力を超えた、高度な情報分析能力と制度的裏付けが不可欠である。 この点は、暗号資産課税の実務を考える上で、技術と法制度の相互作用を理解することの重要性を示している。 (出典) U.S.DEP’T OF JUSTICE,Early Bitcoin Investor Sentenced for Filing Tax Returns that Falsely Reported His Cryptocurrency Gains(Dec.12,2024),.Chainalysis「Chainalysis in Action―米国における画期的な事例が暗号資産関連の脱税捜査の先例に―」(2025.1.27)参照。 (出典) United States v.Roger Keith Ver,No.2:24-cr-00103-MWF(C.D.Cal.indictment filed Feb.15,2024),;U.S. ATTORNEY’S OFFICE,C.D.CAL.,Early Bitcoin Investor Known as‘Bitcoin Jesus’ Indicted for Allegedly Committing Tax Fraud and Causing $48 Million Loss to IRS(Apr.30,2024),   (了)

#No. 672(掲載号)
#泉 絢也
2026/06/11

〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第1回】「国際税務において最初におさえるべき考え方」

〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第1回】 「国際税務において最初におさえるべき考え方」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 吉本 壮介 ◆ ◇ ◆ 連載開始にあたって ◆ ◇ ◆ 「海外取引や国際税務は難解で、全体像が見えにくい」―そう感じてはいませんか? 近年、中小企業においても海外進出やクロスボーダー取引は珍しいものではなくなりました。それに伴い、顧問税理士や企業の経理・財務担当者にも国際税務への対応が求められる場面が増えています。しかし、日々の業務に追われる中で、分厚い専門書を読み解く時間を確保するのは容易ではないのが実情でしょう。 本連載は、そのような悩みを持つ方々が「最短ルートで実務の全体像をつかむ」ことを目的とした実務ガイドです。具体的には、以下の3点を意識して解説を進めていきます。 各回、具体的なQ&Aを通じて実務のポイントを押さえつつ、制度の骨格についても解説していきます。実務において特に重要なのは、「何が論点になり得るか」に気づけるかどうかではないかと筆者は感じております。 本連載が、読者の皆様にとって視点を整理する一助となれば幸いです。 *   *   * Q 最近、顧問先でも海外進出やクロスボーダー取引が増えてきました。これから国際税務を検討するにあたり、そもそも国際税務とはどのような仕組みで、顧問税理士としてまず何を理解しておくべきでしょうか。 A 国際税務とは、国境を越えた取引や投資活動を前提に、課税の重複と抜け穴の双方を防ぐための各国の税制を調整するルールであると言えるでしょう。 顧問税理士の役割としては、国際税務に特有の課税もれリスクを点検しつつ、二重課税などの税負担を極力排除できるよう配意することが重要ではないかと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ 国際税務と聞くと、世界共通で適用される特別な国際租税法のようなものが存在するように感じるかもしれませんが、実際にはそのような単一の法律は存在しません。 国際税務は、複数国の国内税法が同一の所得に対して同時に課税権を主張することにより生ずる二重課税や課税権の競合について、租税条約や外国税額控除などの制度を通じて、その調整を図る役割を担います。 国際取引が発生すると、同じ所得に対して複数の国が課税しようとする場面が生じます。 この「課税の重なり」をどう調整するか、そして「過度な課税逃れ」をどう防ぐか―これが国際税務の出発点です。 実務担当者がまず意識すべき国際税務の大きなポイントは、次の三点と言えるでしょう。   1 なぜ国際課税が問題になるのか― 課税権の競合という出発点 ― 国際取引において最も基本的な問題は、1つの所得に対して複数の国が課税権を主張することです。これを調整しないまま放置すると、企業は同じ利益に対して二重(それ以上)に税金を支払うことになり、国際ビジネスは課税によって大きく阻害されてしまいます。これは「税の中立性」の要請にも反することとなり、非常に憂慮すべき事態です。 この問題の背景には、次の2つの課税原則の考え方があります。 例えば、日本の会社が米国で事業を行い利益を上げた場合、日本は「日本法人の所得だから」と課税し(居住地国課税)、米国は「米国内で生じた利益だから」と課税しよう(源泉地国課税)とします。このような居住地国と源泉地国との課税権の競合を調整するために用いられるのが、租税条約や各国の調整制度です。   2 二重課税をどのように解消するか― 実務で押さえるべき2つの仕組み ― こうした二重課税を防ぐため、実務担当者が必ず押さえておくべき代表的な手段が、租税条約と外国税額控除です。 (1) 租税条約 ― 課税権そのものを制限する仕組み ― 租税条約は、日本と相手国との間で締結される「税金に関する取り決め」です。 日本では、原則として租税条約に従って国内法の適用が調整されます。 実務で特に頻出するのは、「配当・利子・使用料(ロイヤルティ)」に対する源泉税の軽減や免除です。例えば、海外子会社から配当を受け取る場合、相手国の国内法では20%の源泉税が課されるケースでも、租税条約を適用すれば10%、あるいは0%などに軽減されることがあります。租税条約は、新たに課税関係を生み出すものではなく、現状の課税関係の中で、主に源泉地国の課税権の縮小を図り、二重課税を極力排除するための仕組みなのです。 実務上のチェックポイント 取引や送金の前に、次の点を必ず確認する必要があります。これらを事前に確認することで、不要な税金のキャッシュアウトを防ぐことができます。 相手国と日本の間で租税条約が締結されているか 条約適用のための届出書(租税条約に関する届出書、特典条項に関する付表、居住者証明など)が必要か (2) 外国税額控除 ― 国内で二重課税を調整する仕組み ― 租税条約を適用しても、源泉地国で税金が0にならない限り、そのままでは二重課税は完全に排除できません。 その際に用いられるのが外国税額控除です。 これは、海外で実際に支払った税金を、日本の法人税額から一定の限度内で差し引くことで二重課税を排除する制度です。 実務上のチェックポイント 外国税額控除は自動的に適用されるものではなく、法人税申告書において、国外所得の金額や控除限度額を精緻に計算することで、二重課税の排除の恩恵を享受することが可能になります。 ただし、支払った外国税額の全額が必ず控除できるわけではなく、控除限度額を超えた部分については、二重課税が残ることになります。そのため、事前に外国税額控除の適用を前提とした税負担のシミュレーションを行うことは、税のリスク管理の観点からも望ましいものと言えます。 (了)

#No. 672(掲載号)
#吉本 壮介
2026/06/11
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