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《速報解説》 ASBJが「期中財務諸表に関する会計基準」等を公表~補足文書として「実務対応報告及び移管指針において定めている期中の取扱い」も示す~

《速報解説》 ASBJが「期中財務諸表に関する会計基準」等を公表 ~補足文書として「実務対応報告及び移管指針において定めている期中の取扱い」も示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年10月16日、企業会計基準委員会は、「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号。以下「期中会計基準」という)等を公表した。 これにより、2025年4月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 公開草案に寄せられた主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されている。 上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことから、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)と「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)などについて、統合した会計基準等とし、「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)及び「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第34号。以下「期中適用指針」という)などとして開発したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 同じ企業が作成する期中財務諸表であるにもかかわらず金融商品取引法と金融商品取引所の定める規則のいずれに基づくかにより会計処理に不整合が生じることは適切ではないと考えられることから、次の考え方を採用している(期中会計基準BC15項~BC18項)。   Ⅲ 範囲 期中会計基準は、期中財務諸表を作成する場合に適用する(期中会計基準3項)。 ただし、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、「中間連結財務諸表作成基準」、「中間連結財務諸表作成基準注解」、「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表作成基準注解」並びに「『中間連結財務諸表等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第38号)を適用する。 金融商品取引法に基づく半期報告書において開示される第二種中間財務諸表等については、従前より中間作成基準等が適用されており、引き続き中間作成基準等が適用される(期中会計基準3項)ため、期中会計基準の適用対象となる期中財務諸表には含まれない(期中会計基準BC22項)。 また、臨時計算書類については、期中会計基準の適用対象とする期中財務諸表には含まれないと考えられている(期中会計基準BC22項)。   Ⅳ 定義 例えば、次の定義が規定されている(期中会計基準4項)。   Ⅴ 期中連結財務諸表の範囲 期中連結財務諸表の範囲は、「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)に従って、1計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益及び包括利益計算書、並びに期中連結キャッシュ・フロー計算書とする(期中会計基準5項)。 また、2計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益計算書、期中連結包括利益計算書及び期中連結キャッシュ・フロー計算書とする。 期中個別財務諸表の範囲は期中会計基準6項に規定されている。   Ⅵ 会計処理 次のように規定されている(期中会計基準9項、10項、14項)。   Ⅶ 有価証券の減損処理などの個別の項目 前述の「Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針」で述べた原則に照らして、個別に検討を行った項目は次のとおりである(期中会計基準BC16項)。 有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法については、期中洗替え法が原則とされている(期中適用指針4項、7項)。 ただし、期中適用指針の適用前に「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第32号)又は「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)に基づき切放し法を適用していた場合には、継続して切放し法を適用することができる(期中切放し法を適用する場合には、その旨を注記する)。 期中会計基準は、上記の個別に検討を行ったものを除いて、基本的に「四半期財務諸表に関する会計基準」等と「中間財務諸表に関する会計基準」等の定め及び考え方を引き継いでいる(期中会計基準BC17項)。 このため、期中会計基準の開発にあたり再検討を実施せずに考え方を引き継いでいるものについては、「四半期財務諸表に関する会計基準」等及び「中間財務諸表に関する会計基準」等の結論の背景をそのまま引用している(期中会計基準BC17項)。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)145-2項では、期中会計基準において「有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法」について洗替え法を原則とすることとしたが、固定資産の減損会計について洗替え法の採用を求めるものではないと記載されている。 「金融商品会計に関するQ&A」(移管指針第12号)Q31には次の記載があったが、削除されている。   Ⅷ 期中財務諸表の科目の表示 次のように規定されている(期中会計基準21項、22項)。   Ⅸ 注記事項 重要な会計方針について変更を行った場合に関する事項、セグメント情報等に関する事項、収益の分解情報に関する事項などについて規定されている(期中会計基準24項)。   Ⅹ 6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い 第一種中間財務諸表等及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱い(6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い)を区分し、6ヶ月ごとより高い頻度で期中会計基準に従い期中財務諸表を作成する場合には、期中会計基準26項までの記載に加えて、28項から33項を適用する(期中会計基準27項、BC18項(1))。 例えば、期中キャッシュ・フロー計算書の開示の省略について規定されている(期中会計基準33項)。   Ⅺ 適用時期等 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用する(期中会計基準34項)。 期中会計基準の適用初年度において、期中会計基準の定めに従い会計方針を変更する場合には、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用する(期中会計基準35項)。   Ⅻ 補足文書 補足文書を公表し、「(別紙)実務対応報告及び移管指針において定めている期中の取扱い」を示している。 (了)

#阿部 光成
2025/10/21

《速報解説》 会計士協会、「倫理規則」の改正に関する公開草案を公表~サステナビリティ情報の開示と保証の制度化の議論による倫理規則の改正~

《速報解説》 会計士協会、「倫理規則」の改正に関する公開草案を公表 ~サステナビリティ情報の開示と保証の制度化の議論による倫理規則の改正~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年10月15日、日本公認会計士協会は、「倫理規則」の改正に関する公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、サステナビリティ情報の開示と保証の制度化の議論が進められていることを踏まえ、倫理規則を改正するものである。 意見募集期間は2025年12月15日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な構成 従来の4つのパートに加えて、サステナビリティ保証業務に関する規定を収めた「パート5」を新設する。 セクション5110基本原則、セクション5120概念的枠組み、セクション5390外部の専門家の作業の利用などが規定されている。 日本公認会計士協会の会員を適用対象とするものである。 会員以外の業務実施者が本会の倫理規則を遵守することを想定しているものではない。   Ⅲ 保証業務と非保証業務(NAS)の同時提供 会計事務所等又はネットワーク・ファームによるサステナビリティ保証業務の依頼人に対する非保証業務(NAS)の提供に関しては、監査業務の依頼人に対するNASの提供に関するパート4Aの規定と同様の内容である。   Ⅳ 報酬依存度と報酬関連情報の開示 R5410.21項で規定されている場合を除いて、会計事務所等は、5年連続してR5410.18項で規定されている状況が継続する場合、5年目の保証意見の表明後にサステナビリティ保証業務の実施者を辞任しなければならない(R5410.20項)。   Ⅴ 担当者の長期関与とローテーション サステナビリティ保証業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体(PIE)の場合、R5540.9項からR5540.10a項までの場合を除いて、担当者は、累積して7報告期間(監査業務に関与する場合は、会計期間を含む)を超えて、サステナビリティ保証業務執行責任者などの一定の役割(複数の役割で関与する場合を含む)で関与してはならない(R5540.7項)。   Ⅵ 違法行為への対応 セクション5360「違法行為への対応」は、PIEであるかどうかにかかわらず、すべてのサステナビリティ保証業務において、故意もしくは過失又は作為もしくは不作為を問わず、サステナビリティ保証業務の依頼人などの者によって行われる法令違反となる行為(違法行為)に適用される(5360.5 A1項、5360.7 A1項)。   Ⅶ バリュー・チェーン構成単位(VCC)に対する独立性 バリュー・チェーン構成単位に対してサステナビリティ保証業務を実施する会計事務所等又は個人に適用される規定を設けている。   Ⅷ 適用日等 改正規定は、2027年4月1日から施行する予定である。 各規定によって詳細な適用日が設けられている。 (了)

#阿部 光成
2025/10/20

《速報解説》 会計士協会、サステナビリティ情報に関する制度保証の開始に向け、実務指針案を公表~サステナビリティ情報に対する保証報告書の文例も収録~

《速報解説》 会計士協会、サステナビリティ情報に関する制度保証の開始に向け、 実務指針案を公表 ~サステナビリティ情報に対する保証報告書の文例も収録~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年10月15日、日本公認会計士協会は、「サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、サステナビリティ情報の保証業務に関する新たな実務指針である。 意見募集期間は2025年12月15日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な構成 2024年11月に、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、サステナビリティ情報の保証業務に対するグローバル・ベースラインを提供する包括的な基準として、国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」を公表している。 サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」(公開草案)は、ISSA 5000と整合する形で作成されている。 公開草案の主な内容は次のとおりであり、表紙を含めて210ページに及ぶものである。   Ⅲ 重要性 保証業務の計画及び実施並びにサステナビリティ情報に重要な虚偽表示がないかどうかの判断を目的として、業務実施者は、①定性的な開示情報の重要性を検討すること、②定量的な開示情報の重要性を決定することを行う(98項)。 適用される規準が、サステナビリティ情報の作成に当たり財務マテリアリティとインパクト・マテリアリティの双方の適用を企業に求めている場合、業務実施者は、実務指針98項に従って重要性を検討又は決定する際に、この両方の観点を勘案しなければならない(99項)。 財務マテリアリティとインパクト・マテリアリティの両方は、適用される規準では「ダブル・マテリアリティ」と呼ばれることがある(A337項(2))。   Ⅳ グループサステナビリティ情報 グループサステナビリティ保証業務の場合、業務の基本的な方針を策定し、その詳細な業務計画を作成するに当たり、業務実施者は以下の事項を判断しなければならない(96項)。 グループサステナビリティ情報とは、複数の企業又は事業単位のサステナビリティ情報を含む、規準に準拠して作成されたサステナビリティ情報をいう(18項)。   Ⅴ リスク評価及び限定的保証における内部統制の理解 企業の内部統制システムの構成要素の理解について、限定的保証の場合と合理的保証の場合にわけて規定している(113LR項~119R項)。   Ⅵ 見積り及び将来予測情報に関するアプローチ 適用される規準が、企業が意図する将来の戦略もしくは目標又は他の意図の開示情報を要求する場合、このような将来予測情報について、当該戦略、目標又は意図が達成されるか否かについての証拠を入手する必要はなく、そのような趣旨の結論を出す必要もない(A452項)。   Ⅶ 財務諸表監査人との連携 その他の記載内容に監査対象となる企業の財務諸表が含まれており、当該財務諸表とサステナビリティ情報との間に重要な相違があると思われる場合又は当該財務諸表に重要な虚偽表示が存在する可能性があることに気付いた場合、業務実施者は、法令又は職業的専門家としての要求事項によって禁止されていない限り、その問題を企業の財務諸表の監査人にも伝えなければならない(174項)。   Ⅷ 保証報告書 保証報告書は書面又は電磁的記録によらなければならず、サステナビリティ情報に関する業務実施者の合理的保証の意見又は限定的保証の結論について明確な表明を含まなければならない(188項)。   Ⅸ 適用時期等 実務指針は、以下の日付以降に発行するサステナビリティ情報に関する保証報告書に適用される(15項)。 ただし、実務指針の公表日以降に発行する保証報告書から適用することを妨げない。 (了)

#阿部 光成
2025/10/20

プロフェッションジャーナル No.640が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年10月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.640を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/10/16

日本の企業税制 【第144回】「大胆な投資促進税制の必要性」

日本の企業税制 【第144回】 「大胆な投資促進税制の必要性」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博   自由民主党の総裁選挙を経て、今後、令和8年度税制改正の議論が本格化することが予想される。自由民主党と公明党との連立が解消したことを受け、野党との協力がどのように進むのか、スケジュールを含めて見通せない点が多いが、来年度に向けて解決すべき課題は山積している。 特に、日本経済の今後の成長にとって大きな影響を及ぼすと考えられるのが、経済産業省や経済団体をはじめとして、新たに創設を求める声が強く出ている大胆な投資促進税制である。競争が激化する国際的なビジネス環境において、諸外国に劣後することなく国際的なイコールフッティングを確保し、立地競争力を維持していくには、2040年頃に名目GDP1,000兆円、国内投資200兆円を達成するという目標を見据えながら、中長期的な視点から、官民を挙げて国内の投資環境を整備していく必要がある。さらに、国内での投資拡大や研究開発の推進を通じたイノベーション創出・生産性向上の成果を賃金引上げにつなげ、成長と分配の好循環を実現していくことが重要となる。 足元では、アメリカの通商政策の影響への懸念など、国際情勢を巡る不透明感が増している。直近では円安が進む為替水準がアメリカの関税による影響を吸収しているとも言われるが、今年度後半からは徐々に状況が悪化するとの見方が強い。日本経済を持続的な成長軌道に乗せるには、大胆な設備投資減税を通じた投資環境整備が不可欠である。   〇アメリカ 今年7月4日、トランプ税制法案である「The One Big Beautiful Bill(OBBB)」が大統領の署名を得て成立した。同法案の議論の過程では、OECDで議論されているグローバル・ミニマム課税の第2の柱への「報復措置」として内国歳入法899条の導入が問題となったが、最終的にはG7による合意に至ったことで当該項目が削除されたことは記憶に新しい。 OBBBでは、新規の投資誘致や立地の囲い込みを強く志向し、法人向けの措置として、アメリカ国内での設備投資に対する優遇措置を拡充し、100%即時償却制度を恒久化した。償却期間が20年以下の広い資産取得が対象となっており、機械装置や車両、ソフトウェア等も含まれる。減税規模としては10年間で3,600億ドル(1ドル=150円で換算すると約54兆円)と試算されている。 また、4年間の時限措置として、建屋を即時償却対象に追加した。2025年から2028年の間に着工し、2030年までに利用が開始される工場等が対象とされている。減税規模は10年間で1,400億ドル(同約21兆円)と試算されている。 これらに加えて、第一次トランプ政権下の2017年に成立した「The Tax Cuts and Jobs Act」に盛り込まれた「オポチュニティゾーン(Opportunity Zones)」も拡大される。同規定は、資産売却で得たキャピタルゲインを、低所得地域の中から指定された適格オポチュニティゾーン(Qualified Opportunity Zones)に再投資する投資家に税制上の優遇を与える制度であり、全米で約8,700カ所認定されている。これを拡大することで、1,000億ドル(同約15兆円)以上の投資と100万人以上の雇用が生まれると試算されている。   〇ドイツ 今年7月11日、ドイツにおいて今後5年間で約460億ユーロ(1ユーロ=175円で換算すると約8兆円)の減税を実現する法律が成立した。 注目すべき項目としては、投資促進策と法人税率の引き下げが含まれている。投資ブースターの役割を担う政策として、2025年から2027年における設備投資償却率を最大30%に引き上げることとされている。また、2028年から毎年1%ずつ5年間にわたって法人税率を引下げることとされている。ドイツの現在の法人税率は15%で法人実効税率が約30%であるが、最終的に2032年以降は25%弱の法人実効税率を達成し、他の欧州先進国と肩を並べる見込みである。 なお、主要先進国で法人実効税率を比較すると下のグラフの通りであり、来年度から防衛特別法人税が課税されることを踏まえると、日本だけが30%を超える突出した法人実効税率を持つ先進国になることが危惧される。 (※) 財務省「わが国の税制の概要」から試算   〇方向性 こうした諸外国の動向を踏まえると、わが国においても、国内投資を積極的に行う企業に対して、即時償却や税額控除などを盛り込んだ、他国に劣後しない大胆な設備投資減税措置を講じることについて検討を行うべきである。 その際には、書面による簡易な確認手続とするなど、使い勝手の良い簡素な仕組みとし、対象業種や設備等についても、幅広い業種におけるソフトウェアを含めた投資を促していくために、業種を絞らず広範な設備等を対象とする必要がある。 なお、法人実効税率だけでなく、その他の租税特別措置等も含めた課税ベースを考慮した実質的な税負担率を法人所得課税額と法人企業所得から算出し、2020年から2022年の平均を計算して国際比較を行うと、既に現状において、わが国が主要先進国の中で最も高い状況にある。 (※)  OECD「Revenue Statistics 2024」等から試算 (了)

#No. 640(掲載号)
#魚住 康博
2025/10/16

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第39回】「国税通則法115条」-税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性とその限界(その2)-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第39回】 「国税通則法115条」 -税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性とその限界(その2)-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法115条(不服申立ての前置等)   1 はじめに 前回は、松沢智教授の租税争訟法論(同『新版 租税争訟法-異議申立てから訴訟までの理論と実務-』(中央経済社・2001年)参照)における「意義及び審査から訴訟にいたるまでを租税争訟手続として一貫し体系化したい」(同「初版 はしがき」7頁)との考えから示唆を受け、「租税争訟法の特質」(同12頁)に関連する問題として更正と再更正との関係の問題を取り上げ検討し、もって「税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性とその限界」を明らかにすることを試みた。 今回は、「税務訴訟における国税通則法と行政事件訴訟法との連続性と限界」の問題に関連して不服申立前置主義をいわば「連続性の強制」の問題として取り上げ、憲法上の適正手続保障(13条・31条参照)の税法における現れとして租税法律主義の内容を構成する手続的保障原則とりわけ司法的救済保障原則(拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【27】参照)の見地から、納税者の「裁判を受ける権利」(憲32条)との関係で不服申立前置主義の問題性を検討することにする。その前に、まず、不服申立前置主義の趣旨・目的をみておこう。   2 不服申立前置主義の趣旨・目的 国税通則法第8章第2節は、国税に関する法律に基づく処分の取消訴訟について、行政事件訴訟法上の自由選択主義(8条1項本文)の例外(同項但書)として、審査請求という不服申立ての前置を定め(税通115条1項柱書本文。審査請求前置主義)、その例外として、審査請求の前置を要せず直ちに出訴することができる場合を定めている(同柱書但書)。なお、国税通則法115条1項柱書本文が審査請求前置主義の対象を、国税に関する法律に基づく処分で「不服申立てをすることができるもの」に限定していることについては、「そのようなものでなければ不服申立前置をもともと要求しえないのであるから、『不服申立てをすることができるもの』という限定は不要であつたというべきである。」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])LA76~78頁[清永執筆])との指摘がされているが、正当な指摘である。 不服申立前置主義は、平成26年の行政不服審査法改正(同年法律第68号)を受けて、「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同年法律第69号)による異議申立前置主義(改正前税通75条3項)の廃止及び異議申立て(同条1項)に代えて設けられた再調査の請求(改正後税通75条1項1号イ)と審査請求との自由選択主義の採用(同号)によって、審査請求前置主義として存続するに至っているが(第34回参照)、そもそもは昭和25年のシャウプ税制改正によって、再調査の請求(昭和37年の行政不服審査法[同年法律第160号]の制定後は異議申立て)と審査請求という2段階の不服申立ての前置(いわゆる「二重前置」ないし「二審制」)を採用するものとして導入された(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大蔵財務協会・2025年)1124-1126頁参照)。 不服申立前置主義の採用理由ないし趣旨・目的について、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)』(昭和36年7月)26頁は、「税務に関する処分は、大量的に行なわれるものであること、不服申立ての裁決により行政の統一を図る必要が強いこと及び専門技術的な性質を備えていること等にかえりみ」当時の制度を維持する旨を述べたが、これを同『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)135頁は次のとおり敷衍した(この説明に対する批判的検討については中川=清永編・前掲書LA100~102-107~200頁[清永執筆]参照)。 ここでは「課税処分等の特質」(野一色直人『国税通則法の基本 その趣旨と実務上の留意点』(税務研究会出版局・2020年)232頁)が不服申立前置主義の採用理由とされているが、最判昭和49年7月19日民集28巻5号759頁(以下「昭和49年最判」という)ではその趣旨・目的は次のとおり判示されている(下線筆者)。 ここで注目されるのは、不服申立前置主義の趣旨・目的が「二重前置」に重点を置いて述べられており、前記の税制調査会答申に関する説明とは異なり「裁判所が訴訟のはん濫に悩まされることを回避しうること」には少なくとも明示的には言及されていないことである。このことは、上記判示が「特別の考慮を払う」ものとする「納税者の権利救済」も、行政による「納税者の権利救済」を念頭に置いたものであることを意味するものと解される。上記判示において不服申立前置主義が「租税行政の特殊性を考慮し、その合理的対策としてとられた制度」として位置づけられていることからしても、そのような理解が成り立つものと考えられる。 そうすると、昭和49年最判は、国税通則法の昭和45年改正による国税不服審判所の創設前の事件に関する判断ではあるが、審査請求について見直し機能説の立場に立ちつつ「他面において」行政による「納税者の権利救済」を説示したものと解される。見直し機能説は、特に国税不服審判所の機能に関して、「国税不服審判所も国税庁に属している以上は、単に納税者の権利保護を目的とするのみならず、むしろ上級行政庁の監督権の行使としての原処分の見直しの性格をもつものであると説く」(松沢・前掲書34頁)見解であるが、昭和49年最判は昭和45年改正後における国税不服審判所長に対する審査請求をも想定しながら、「再審理の機会」としての異議申立てについてだけでなく、審査請求についても基本的には見直し機能説の立場に立った判断を示したものと解されるのである。   3 不服申立前置主義と裁判を受ける権利 ところで、不服申立前置主義は、従来から、納税者の「裁判を受ける権利」との関係で批判を受けてきた(差し当たり新井隆一「税務行政訴訟・序説」日税研論集43号(2000年)3頁、13頁参照)。そのような批判を意識して国税不服審判所の創設や平成26年行政不服審査法改正に伴う審査請求前置主義への移行に関して次のとおり説かれてきたところである(①=金子宏=石倉文雄=平石雄一郎「座談会 国税不服審査制度の今後のあり方」日税研論集19号(1992年)165頁、177頁[金子発言]、②=南博方ほか編『条解 行政事件訴訟法〔第5版〕』(弘文堂・2023年)308頁[磯部哲執筆]。下線筆者。①に関連して金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1096-1097頁参照)。 上記の見解はいずれも不服申立前置主義を裁判を受ける権利の侵害として違憲とするとまでは説いておらず、次のような判例の立場(ⓐ=東京高判昭和49年9月26日税資76号848頁、ⓑ=最大判昭和26年8月1日民集5巻9号489頁)を前提とするものと解される。 このような判例の立場からすると、前記②の見解が述べるように、不服申立前置主義は「立法政策」の問題ということになるが、その「正当化事由」については、従来から、前記2でみた趣旨・目的が考慮されてきたところ、平成26年行政不服審査法改正に伴う不服申立前置の見直しに当たっては、「不服申立件数の大量性」が次のとおり考慮され、国税通則法115条1項に基づく不服申立前置主義は審査請求前置主義として存置されることになった(宇賀克也『解説 行政不服審査法関連三法』(弘文堂・2015年)222頁。下線筆者。南ほか編・前掲書309-310頁も参照)。 「不服申立件数の大量性」は、確かに、「処分の大量性」に比べて「強固な正当化事由」(前記②の見解)といえよう。ただ、「強固な正当化事由」をより強固なものにするには、不服申立前置の「質的な面」での効果についても検討が必要であったように思われる。その「質的な面」について指摘しておくべき問題は、昭和49年最判が不服申立前置主義の趣旨として考慮した「当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてされえない場合があること」をどのように考えるかである。 この問題については、これを取り巻く制度的状況が、とりわけ平成23年の国税通則法改正における調査手続の改善(税通74条の2以下、前掲拙著【139】、第27回~第30回参照)、不利益処分に対する理由附記の一般化(税通74条の14第1項、前掲拙著【148】参照)等により、大きく変化してきたことから、前記のような考慮は少なくとも制度の建前上は不服申立前置主義の「正当化事由」としての意味を失ったとみてよかろうが、実際上もそのように考えてよいかどうかについては実態に即した検証がなお必要であるように思われる。 この点について若干附言しておくと、その検証は、裁判所が調査手続、理由附記等についてどのような態度で判断しているのかという観点からも、行うべきであろう。というのも、裁判所による「当初の処分」に対する手続法的統制が緩やかなものであれば、昭和49年最判にいう「当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてされえない場合」に対する司法的統制が緩やかになり、そのいわば反射的効果として不服申立前置主義の正当化に「手を貸す」結果につながりかねないからである。 裁判を受ける権利の保障(司法的救済保障原則)の見地からすれば、裁判所は「当初の処分」に対する司法的統制を厳格化することによって、不服申立前置主義の正当化事由を「強固化」(厳格化)すべきであろう。裁判所のそのような態度は、具体的には、不服申立前置主義の例外としての審査請求前置不要の要件(税通115条1項柱書但書)の解釈にも顕現することになろう(不服申立前置主義の例外要件の解釈については志場ほか共編・前掲書1368-1371頁、金子・前掲書1125-1128頁等参照)。 (了)

#No. 640(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/10/16

相続税の実務問答 【第112回】「平成15年に相続時精算課税を選択し住宅取得資金贈与の特例を受けていた場合の相続税の課税価格への加算」

相続税の実務問答 【第112回】 「平成15年に相続時精算課税を選択し住宅取得資金贈与の特例を受けていた場合の相続税の課税価格への加算」   税理士 梶野 研二   [答] お父様から贈与を受けた住宅取得等資金の額25,000,000円の全額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。   ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税を適用した生前贈与財産の相続税の課税価格への加算等 被相続人からの生前贈与を受けた財産が相続時精算課税の適用を受けるもの(贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限ります。)である場合には、相続税法第21条の15及び同法第21条の16の規定により、その財産の価額を相続税の課税価格に加算又は算入することとなります。 贈与税の申告に当たり、贈与税の課税価格から相続時精算課税に係る特別控除額を控除しているときには、この特別控除額を控除する前の課税価格が相続税の課税価格に加算又は算入される金額となります(【第111回】「非課税特例の適用を受けた住宅取得等資金の相続税の課税価格への加算-令和6年以降に相続時精算課税を適用した場合」の説明の3を参照)。 なお、令和6年以降の相続時精算課税の適用に当たっては、受贈者ごとに110万円の基礎控除が認められており、この基礎控除額に相当する金額は、相続税の課税価格への加算又は算入の必要はありませんが、令和5年以前に相続時精算課税を適用した贈与財産については基礎控除額の控除の規定はありませんので、贈与税の課税価格の計算の基礎に算入された金額がそのまま相続税の課税対象になります(平成5年所得税法等の一部を改正する法律附則19④、相法21の11の2①②、措法70の3の2①)。   2 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例 特定受贈者(注)が平成15年1月1日から平成21年12月31日までの間に住宅取得等資金を贈与により取得した場合で、①相続時精算課税適用者である場合、又は②住宅取得等資金について相続時精算課税選択届出書を提出しようとする者であるときは、その住宅取得等資金の贈与があった年分の贈与税については、住宅資金特別控除額(1,000万円又はその年分のその贈与者から贈与により取得した住宅取得等資金のうちいずれか低い金額)を贈与税の課税価格から控除することができることとされていました(平成22年法律第6号による改正前の租税特別措置法70条の3の2)が、この特別控除の特例は、平成22年の税制改正により廃止されました。 (注) 特定受贈者とは、次の要件を満たす者をいいます(平成22年法律第6号による改正前の租税特別措置法70条の3③一)。 ① 相続税法第1条の4第1号又は第2号の規定に該当する個人であること、すなわち贈与税の無制限納税義務者に該当する者であること。 ② 住宅取得等資金の贈与をした者の直系卑属である推定相続人であること。 ③ 住宅取得等資金の贈与を受けた日の属する年の1月1日において20歳以上の者であること。 現在の住宅取得資金等に係る贈与税の特例制度(措法70条の2)は、条文見出しが「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」となっていることからも分かるように、直系尊属からの贈与により住宅取得等資金を取得した受贈者が一定の要件を満たす場合には、住宅資金非課税限度額までの金額については、贈与税の課税価格に算入しないとするものです。 一方、平成22年税制改正で廃止された特別控除の特例は、特定贈与者から贈与により取得した住宅取得等資金は贈与税の課税価格に算入された後に、最大1,000万円をその課税価格から控除する仕組みでした。 このように現行の住宅取得資金贈与の特例と平成22年に廃止された特別控除の特例とでは、住宅取得等資金のうち一定額(住宅資金非課税限度額又は特別控除額)が贈与税の課税価格に算入されるか、されないかの違いがあることに注意する必要があります。   3 ご質問の場合 あなたは、平成15年にお父様から贈与を受けた住宅取得等資金について、当時施行されていた特別控除の特例を適用することを選択して、贈与税の課税価格2,500万円から住宅取得等資金に係る特別控除額1,000万円を控除し、さらにその残額から、相続時精算課税に係る特別控除額を控除して、贈与税額0円の申告をしています。 そうしますと、贈与税の申告において納付すべき贈与税額が算出されなかったとしても、贈与税の課税価格計算の基礎に算入された金額は、住宅取得等資金である2,500万円全額となりますので、2,500万円を相続税の課税価格に加算する必要があります。 ⦅参考1⦆ 平成22年改正で廃止された特別控除の特例の規定 ⦅参考2⦆ 現在の住宅取得等資金の非課税の特例の規定 (了)

#No. 640(掲載号)
#梶野 研二
2025/10/16

給与計算の質問箱 【第70回】「年末調整書類の書式の変更点」~基礎控除等の見直し及び特定親族特別控除の創設等への対応~

給与計算の質問箱 【第70回】 「年末調整書類の書式の変更点」 ~基礎控除等の見直し及び特定親族特別控除の創設等への対応~   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 年末調整書類の書式について前年から変更がありましたら教えてください。 A 年末調整書類の書式の変更点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 給与所得者の扶養控除等申告書 令和6年分と令和7年分の書式は同じである。 令和7年分と令和8年分の書式は赤枠の箇所が変更になった。 【図表1】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」より抜粋のうえ筆者作成 【図表2】令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」より抜粋のうえ筆者作成   2 給与所得者の保険料控除申告書 令和6年分と令和7年分の書式は同じである。   3 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 令和6年分と令和7年分の書式は赤枠の箇所が変更になった。 【図表3】令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」より抜粋のうえ筆者作成 【図表4】令和7年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」より抜粋のうえ筆者作成 (了)

#No. 640(掲載号)
#上前 剛
2025/10/16

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第78回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第78回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   (2) 匿名性・分散性と税務執行上の問題 ア スーパータックスヘイブンとしての暗号資産の特徴 カリフォルニア大学アーバイン法科大学院の租税法の研究者であるMarianは、暗号資産については、従来のタックスヘイブンにおいて最も重要な①源泉地国課税の対象と②匿名性という2つの特徴を備えていることを指摘する(Omri Y. Marian, Are Cryptocurrencies‘Super’ Tax Havens?, 112 MICH. L. REV. FIRST IMPRESSIONS 38, 42(2013))。 さらに、Marianは、次のとおり、③仲介役の金融機関の不存在に注目する。 このことから、ビットコインは、国際的な脱税防止体制の発展の影響を受けないという。 具体的には、FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)の整備などにより(※)、情報申告や源泉徴収などの点において、税務当局の代理人としての役割を担い、徴税の新たな担い手となっている金融機関が蚊帳の外に置かれるため、暗号資産はスーパータックスヘイブンとなる可能性を秘めていると指摘する(Marian, Are Cryptocurrencies ‘Super’ Tax Havens?, at 42)。 (※) Marian は、FATCAとこれを範としたCRS(共通報告基準)の導入により、オフショアを拠点とした脱税が減少した、あるいは少なくとも著しく複雑化したという重要な実証的証拠があるという見解を示している(Omri Y. Marian, Not“Super Tax Havens”After All, UC Irvine Sch. of L. Rsch. Paper No. 2025-01, forthcoming in International Issues in the Taxation of Cryptoassets(Editora Revista dos Tribunais, 2025)(last visited Mar. 25, 2025))。 もっとも、注目すべきことに、Marianは、現在では、暗号資産は伝統的なタックスヘイブンよりも効果的に機能するものではなく、おそらくは機能できないことが徐々に明らかになったという結論を示している(Marian, Not‘Super Tax Havens’After All, at 8)。 このような結論は、上記②と③に関して、ブロックチェーン技術は、理論上、金融資産の取引において仲介者に頼ることなしに広範囲に分散された疑似的な匿名性を有するシステムを提供できる可能性を持っている一方で、次のような現実があることを論拠としているようである。 なるほど、現時点において暗号資産の取引の多くは、中央集権的な取引所であるCEXや決済事業者などの仲介者を経由して行われており、これらを通じた本人確認(KYC)やブロックチェーン分析技術の進展により、暗号資産の分散性や匿名性は相対的に限定されているとの指摘には一定の根拠がある。 特に、主流となっているビットコインやイーサリアムのエコシステムでは、オンチェーン取引(ブロックチェーンに記録されている取引)の追跡が技術的には可能であり、法執行機関や税務当局の分析能力も高まりつつある。 しかしながら、こうした現状だけをもって、暗号資産の本質的特性である分散性や匿名性があらゆる場面において実質的に失われたと断定することまではできないであろう。 以上のように、現状の暗号資産市場が中央集権的要素を含みつつも、分散性・匿名性の確保は依然として一定の範囲・程度で実現されており、将来的にもその可能性が閉ざされたわけではない。 規制強化や国際協調によって一時的に透明性が向上したとしても、それを抜け道とする新たな技術や取組みが出現する可能性は常に存在しており、むしろ、規制の強化がさらなる分散化・匿名化を招きうるというパラドックスを内包している。 現状を静的に捉えるのみならず、動的かつ継続的な技術革新と人々の行動変容を前提とした規制や税制の設計が求められているといえよう。 もっとも、本稿の問題関心は、上記見解の妥当性や暗号資産のスーパータックスヘイブン該当性ではなく、暗号資産の匿名性と分散性が引き起こす税務執行上の問題である。次回以降、このような観点から考察を進める。   (了)

#No. 640(掲載号)
#泉 絢也
2025/10/16

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第13回】「「サステナビリティ関連財務情報」と財務情報、どんな関係にあるの?」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第13回】 「「サステナビリティ関連財務情報」と財務情報、どんな関係にあるの?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔ジャーナル食品社の登場人物〕 *  *  * IFRS S1及びS2や、それと整合する我が国のSSBJ基準は、財務報告書(日本では有価証券報告書)の主要な利用者である投資家等が経済的な意思決定を行うにあたり有用なサステナビリティ関連財務情報を開示することに焦点を当てています(【第12回】参照)。 *  *  * *  *  * ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※1)  Reporting on enterprise value:Illustrated with a prototype climate-related financial disclosure standard.Figure1を参考に作成 財務諸表を中核とする財務情報は、企業の財政状態や経営成績、キャッシュ・フローの状況に関する情報を提供します。これは、投資家等が企業に関する経済的意思決定を行う際の基礎となっています。 一方、サステナビリティ関連財務情報は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込み得る、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を提供するものです。 *  *  * *  *  * また、たとえば、固定資産について減損損失を計上した要因が、低炭素社会への移行に伴い自社製品の需要減少が予想され、固定資産の収益性が低下したことにあるとします。そのような場合、サステナビリティ関連財務情報が開示されることで、減損損失を計上した背景に関し、より詳しい情報が提供されます。 *  *  * *  *  * これまで、サステナビリティ情報は、財務情報以外の情報、すなわち『非』財務情報と捉えられることが多かったと考えられますが、基準の開発により、サステナビリティ関連財務情報は財務報告の枠内に統合されたとみることができます。サステナビリティ関連財務開示は、財務報告の一部と位置付けられるのです。 *  *  * *  *  * 従前、任意に開示されてきたサステナビリティ情報は、そのデータの範囲が報告企業(財務諸表を作成する企業)の範囲と一致しないケースもありました。対して、サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告企業に関するものでなければならないとされています。 *  *  * *  *  * したがって、報告企業が連結財務諸表を作成しているなら、サステナビリティ関連財務開示も、親会社と子会社のサステナビリティ関連のリスク及び機会が理解できるものである必要があります。 *  *  * *  *  * ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※2) SSBJ基準の適用開始年度及びその翌年度は、実務負担に配慮し、サステナビリティ関連財務開示を後日とすること(二段階開示)が法令上の経過措置として認められる見通しである(金融庁「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ「中間論点整理」」)。 *  *  * *  *  * 財務情報は、複式簿記のしくみに基づき作成されます。開示される財務諸表や注記事項、その数値を用いた開示事項といった情報どうしは、財務数値に裏付けられた明確かつ強固なつながりを持っていると言えます。 一方、サステナビリティ関連財務情報は、そのような有機的なしくみに基づいて作成されるものではなく、現象を言葉や数字で表現するものです。そのため、利用者が「情報のつながり」を理解できるように開示することが重要となります。 *  *  * *  *  * サステナビリティ関連財務情報は、次のようなつながりを理解できるように開示することが求められます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 *  *  * *  *  * なお、サステナビリティ関連財務開示の作成に用いるデータ及び仮定は、可能な限り、関連する財務諸表の作成に用いるデータ及び仮定と整合させることが求められます。 *  *  * *  *  * サステナビリティ関連財務情報は、個々の情報を「点」の状態で開示するのではなく、点と点をさまざまにつなげ「線」や「面」として開示することが求められます。これによって、利用者は企業の現在と将来をより立体的に把握することが可能となります。 つながりのある形でサステナビリティ関連財務開示を行うことで、財務情報を補足・補完し、一体性のある財務報告を行うことが期待されているのです。 *  *  * Q サステナビリティ関連財務情報と財務情報はどんな関係にあるの? A サステナビリティ関連財務情報は、財務情報を補足・補完するものとして位置付けられます。その開示にあたっては、利用者が情報間のつながりを理解できるように配慮することが求められます。 (了)

#No. 640(掲載号)
#石王丸 香菜子
2025/10/16
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