日本の企業税制 【第146回】 「令和8年度税制改正大綱の決定」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 12月19日、自由民主党および日本維新の会の与党は、令和8年度税制改正大綱をとりまとめた。自由民主党税制調査会総会が11月20日に開催されてから、与野党での協議を含めて約50回にもわたる討議を経て、150ページにも及ぶ大綱を決定した。 今回は、高市政権の発足、公明党による与党の離脱のほか、新たに与党となり税制調査会を設置した日本維新の会による議論への参画や、自由民主党税制調査会の幹部及びメンバーの大幅な入れ替えなど、昨年とは大きな変化があったと考えられる。小野寺五典自由民主党税制調査会長が、国民に近い感覚で税制のあるべき姿を政府ともしっかり意思疎通をしながら議論していく姿勢を打ち出し、令和6年12月11日に結ばれた自由民主党、公明党、国民民主党の3党幹事長間での合意に沿って、多岐にわたる論点について結論を得ることとなった。 具体的には、大胆な設備投資促進税制や研究開発税制、オープンイノベーション促進税制、賃上げ促進税制、基礎控除の引き上げ、防衛増税、食事補助などについて、それぞれ維持・拡充・見直し措置が盛り込まれており、次期通常国会で税制改正法案が審議される。 〇 大胆な設備投資促進税制 危機管理投資、成長投資による「強い経済」の実現に向け、高付加価値化のための国内での設備投資を促進する観点から、大胆な設備投資促進税制が創設されることとなった。 対象業種は、総合経済対策における17の戦略分野を中心としつつ、全ての業種が対象となる。このため、戦略分野以外の事業領域であっても、産業競争力強化法による経済産業大臣の確認手続きを経た生産性向上設備等として、機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物、ソフトウエアの生産等設備を構成する減価償却資産に該当する場合には対象資産になり得る。適用要件として、生産性向上設備等の取得価額の合計額が35億円以上(中小企業者等は5億円以上)であることのほか、年平均の投資利益率が15%以上となることが見込まれる必要がある。 措置内容としては、即時償却又は税額控除率7%(建物、建物附属設備、構築物は4%)の選択適用とし、控除上限は法人税額の20%であるほか、3年間の繰越控除が可能である。措置期間としては、令和10年度末までに設備投資計画につき産業競争力強化法の確認を受け、確認を受けた日から5年の間に取得し、事業の用に供した設備等が対象となる。 なお、本税制の適用を受ける場合に、投資計画期間中は、地域未来投資促進税制、カーボンニュートラル投資促進税制等の設備投資税制は適用されないことに留意が必要である。 〇 研究開発税制 今年度末で適用期限を迎える研究開発税制について、「一般型」と「オープンイノベーション型」に加えて、戦略分野の研究開発促進のため、新たに「戦略技術領域型」が創設される。具体的には、産業技術力強化法の重点産業技術(AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙)を対象とし、当該技術に係る試験研究費について、既存の措置と別枠として、控除率40%の税額控除が設定される。また、当該技術に係る大学等の認定を受けた研究開発機関と企業の共同・委託研究については控除率が50%となる。ただし、控除税額は法人税額の10%を上限とし、3年間の繰越税額控除が認められる。適用期間は、令和10年度末までに産業技術力強化法の認定を受けた計画が対象で、認定日から5年間である。 一方、科学技術創造立国の実現に向けて、国内の研究人材や研究開発拠点の維持・強化の観点から、海外への委託研究については、現行の100%から、令和8年度に70%、令和9年度に60%、令和 10 年度に50%と一定の制限が設けられる。ただし、国内での試験研究に馴染まない海外での治験については制限の対象外とされる。 加えて、控除率カーブ・控除上限にかかる時限措置については、令和10年度末まで延⻑されるものの、研究開発費増加へのインセンティブ強化のため、物価や賃金の上昇を考慮した3%分の控除率カーブの見直しが図られる。このため、増減試験研究費割合がマイナス10%以下の場合は控除率が0%とされる。 〇 オープンイノベーション促進税制 スタートアップの新規発行株式を一定額以上取得する場合や、スタートアップの成長に資するM&Aを行った場合、その株式の取得価額の25%を所得控除できるオープンイノベーション促進税制について、令和7年度末の適用期限が2年延長される。また、M&A型の対象を拡充し、50%(現行:25%)以下の発行済株式の取得・吸収合併も対象に追加される。 〇 パーシャルスピンオフ税制 令和5年度に創設され、令和9年度末に適用期限を迎えるパーシャルスピンオフ税制について、事業再編には検討から完了まで数年間を要することも鑑み、事業ポートフォリオの組替えを促進するために適用要件を見直した上で恒久化される。 〇 車体課税 自動車税等の環境性能割については、米国関税措置の自動車産業への影響の緩和や国内自動車市場の活性化の観点から、令和8年度末で廃止される。また、自動車重量税のエコカー減税については、燃費基準達成度の要件を引き上げた上で、適用期限が2年延長される。そのほか、電気自動車(EV)等については、異なる動力源(パワートレイン)間の税負担の公平性、道路への負荷等の観点から、自家用の乗用車のうちEV及びプラグインハイブリッドについて、特例加算分として、令和10年5月1日施行で車両重量に応じた一定の負担が求められることとなり、令和9年度税制改正において法制化される。 〇 賃上げ促進税制 令和6年度税制改正で措置された時から状況が大きく変化しているとの考え方を踏まえ、大企業向けについては、令和8年度末の適用期限を待たずに令和7年度末で廃止される。また、中堅企業向けについては、令和8年度において、より高い賃上げを促す方向で継続雇用者の給与等支給額の前年度比増加率要件を4%(現行:3%)と強化した上で継続し、令和8年度末の適用期限をもって廃止される。一方、中小企業向けについては、現行制度を維持することとし、適用期限の到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しが検討される。 なお、教育訓練費にかかる上乗せ措置については、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるという会計検査院の指摘を踏まえて廃止される。 〇 基礎控除 令和7年度税制改正の議論から継続課題となっていた所得税の基礎控除引上げについて、12月18日、自由民主党の高市早苗総裁と国民民主党の玉木雄一郎代表が党首会談を行い、いわゆる「103万円の壁」を178万円まで引き上げることで合意に至った。 これを踏まえ、物価高対策として、直近2年の消費者物価指数(総合)の上昇率を勘案して基礎控除等を引き上げる措置が創設される。令和8年度税制改正においては、令和8年及び9年分所得に適用される控除額として、令和5年10月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率6.0%を踏まえ、基礎控除の本則については現行58万円を62万円に、給与所得控除の最低保障額については現行65万円を69万円にそれぞれ4万円引き上げられる。 また、令和8年及び令和9年の2年間の時限措置として、令和7年度税制改正で措置された基礎控除の特例のうち、現行37 万円が5万円引き上げられるとともに、対象が現行の年収200万円から年収475万円に拡大されるほか、給与所得控除についても同様に5万円引き上げられる。加えて、年収475万円から665万円までを対象としている現行10万円の基礎控除の特例が32万円引き上げられる。 〇 防衛増税 昨年度の税制改正で令和8年4月から適用される防衛特別法人税とたばこ税に加えて、新たに防衛特別所得税(仮称)が創設される。これは、所得税額に対して税率1%の新たな付加税として、令和9年1月から課税されるもので、実態としては、足下で家計負担が増加しないよう復興特別所得税の税率を1%引き下げることで振り替えられる。このため、復興財源の総額を確実に確保する観点から、復興特別所得税の課税期間が令和29 年まで10 年延長される。 〇 食事補助 従業員が食事価額の50%以上を負担し、企業が負担した金額が月額3,500円以下の場合に、食事に係る所得税を非課税とする制度について、1984年以来、非課税限度額の見直しが行われていなかったことから、足元の物価上昇等を踏まえて限度額が月額7,500円に引き上げられる。 (了)
令和7年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「令和7年分の申告に適用される改正事項」 ~基礎控除の見直し及び特定親族特別控除の創設~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 令和7年分の確定申告の受付は、令和8年2月16日(月)から3月16日(月)まで行われる。還付申告は、令和8年2月13日(金)以前でも行うことができる。 なお、e-Taxを利用する場合は、令和8年1月5日(月)から3月16日(月)の間であれば、メンテナンス時間(3月16日を除く毎週月曜日午前0時~午前8時30分を予定)を除き、24時間(※)申告書を送信することが可能である。 (※) 1月5日(月)は8時30分から、3月16日(月)は24時まで 今回から3回シリーズで、令和7年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回(本稿)と第2回は、令和7年度の税制改正事項を取り上げる。 なお、確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。 (注) 記事掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 令和7年度税制改正では、物価上昇局面における税負担の調整の観点から、基礎控除及び給与所得控除の見直しが行われ、長く続いたいわゆる「年収103万円の壁」が引き上げられた。また、就業調整対策の観点から、大学生年代の子等を持つ所得者本人に係る新たな所得控除として特定親族特別控除が創設された。これらに加え、同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の引上げも行われている。 いずれの改正も、令和7年分以後の所得税に適用されるが、改正後の法律の施行日が令和7年12月1日であることから、令和7年分の所得税については、令和7年12月1日以後に行う年末調整又は確定申告で適用されることとなる。 【1】 令和7年度の税制改正事項 令和7年度の税制改正事項のうち、一般的な確定申告に影響を及ぼすものは、次の(1)~(4)である。 改正内容の詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 【2】 改正事項が確定申告実務へ及ぼす影響 (1) 基礎控除の見直し 基礎控除の見直しにより、合計所得金額が2,350万円以下の場合には、令和6年分と令和7年分において合計所得金額が同じであっても、令和7年分の基礎控除の額は引き上げられている(所法86①②、措法41の16の2①)。 (※) 58万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額である。この加算は、居住者についてのみ適用される(措法41の16の2①)。 (2) 特定親族特別控除の創設 特定親族特別控除の創設により、特定親族(年齢19歳以上23歳未満で、合計所得金額が58万円超123万円以下の親族(※))を有する所得者本人は、特定親族特別控除の適用を受けることができる(所法84の2)。 (※) 配偶者及び青色事業専従者等を除く。 (例) (※) 扶養親族の所得要件が48万円以下(令和6年分)から58万円以下(令和7年分)に改正されたことによる。 なお、特定親族特別控除の適用に関する注意点は、次のとおりである(所法84の2②、85⑥、所令217の3①)。 * * * 次回(第2回)は、給与所得控除の見直しと同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の見直しが、令和7年分の確定申告実務に及ぼす影響について解説する予定である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例153(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(賃上げ促進税制) (1) 原則(措法42の12の5①) 青色申告書を提出する法人が、令和4年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度(設立事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。以下同じ。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその法人の「継続雇用者給与等支給額」からその「継続雇用者比較給与等支給額」を控除した金額のその「継続雇用者比較給与等支給額」に対する割合(以下「継続雇用者給与等支給増加割合」という。)が3%以上であるときは、その法人のその事業年度の所得に対する法人税額から、その法人のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の10%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。 なお、その事業年度終了の時において、その法人の資本金の額若しくは出資金の額が10億円以上であり、かつ、その法人の常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合又はその事業年度終了の時においてその法人の常時使用する従業員の数が2,000人を超える場合には、給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限る。 (2) 特定法人の特例(措法42の12の5②) 青色申告書を提出する法人が、上記(1)の適用を受ける事業年度を除き、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合で、かつ、その事業年度終了の時において特定法人に該当する場合において、その事業年度において「継続雇用者給与等支給増加割合」が3%以上であるときは、その法人のその事業年度の所得に対する法人税額から、その法人のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の10%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。 なお、その事業年度終了の時において、その法人の資本金の額又は出資金の額が10億円以上であり、かつ、その法人の常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には、給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限る。 (3) 中小企業等の特例(措法42の12の5③) 中小企業者等(適用除外事業者に該当するものを除く)が上記(1)又は(2)の適用を受ける事業年度を除き、平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の「雇用者給与等支給額」からその「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額のその「比較雇用者給与等支給額」に対する割合(以下「雇用者給与等支給増加割合」という。)が1.5%以上であるときは、その中小企業者等のその事業年度の所得に対する法人税額から、その中小企業者等のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の15%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第24回】 (最終回) 「学会における支部の税務上の扱い」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 地方税の申告 事務所又は事業所(以下、「事務所等」という)を有している場合、事務所等において、法人事業税(特別法人事業税含む)及び法人住民税の申告が必要となる。なお、収益事業の有無によって法人事業税(特別法人事業税含む)の申告は必要ない場合があるが、法人住民税の申告は、一部の例外を除き原則として必要である。 〈収益事業の有無と地方税申告の要否〉 2 学会における支部 学会の場合、支部を別法人化して、本部と支部を別の組織(法人又は団体)として扱っているような例はあまりなく、本部と支部は1つの組織(法人又は団体)として扱っている例が多いと思われる。 全国各地に事務所等を有している場合、各事務所等で地方税の税務申告が必要となるため、たとえば、会社の場合は、本店だけでなく支店においても地方税の税務申告が必要となるが、学会における支部は、必ずしも会社における支店と同じとはいえない。 学会の支部に関しては、学会として固定の事務所等を有しているようなケースはあまりなく、各地域の担当者の連絡先(たとえば、支部役員の大学の研究室)を支部の連絡先として定めているようなケースが多い。そして、このようなケースにおいては、担当者が交代すると支部の連絡先も変わることになるため、従たる事務所として登記しているようなケースはあまりないと考えられる。 このような状況において、学会における支部の連絡先(たとえば、支部役員の大学の研究室)が、地方税が課税されることになる事務所等に該当するのか否かという点が論点となる。 3 地方税における事務所等 地方税が課税されることになる事務所等とは、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいう(総務大臣通知「地方税法の施行に関する取扱いについて」(県・市)1章第1節6)。 支部の活動としては、年数回程度、支部独自の講習会やセミナー等の事業を実施しているケースがよく見受けられるが、このような講習会やセミナー等の実施に際しては、外部会場を賃借し、事前の打合せ等も支部担当者が外部の会議室やオンライン等で行うケースが多いため、支部としての人的及び物的設備を必要とするようなケースはあまり想定されない。 そのため、単に支部の連絡先として支部役員の大学の研究室を定めていたとしても、そのことをもって、当該大学の研究室が学会としての人的及び物的設備(事業所等)に該当することにはならないと考える。 以上のことから、単に各地域の担当者の連絡先(たとえば、支部役員の大学の研究室)を支部の連絡先として定めているだけであれば、支部ごとの地方税の税務申告は必要ないと考える。 (連載了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第55回】 「医療機器は、基本的にはそれ自体で固有の機能を果たし独立して使用されるものであって、1つの設備を形成し、その設備の一部としての働きをなすものではないから機械及び装置に該当しないとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷器具及び備品と機械及び装置 「器具及び備品」と「機械及び装置」を区別するのが難しい場合がある。これらについて税法上は明確に定義されていないので国語辞典により定義を考えることになるが、次のように「器具及び備品」と「機械及び装置」をひとくくりにして定義していない。 (※1) 松村明編『大辞林第四版』(2019、三省堂)640頁 (※2) 松村編 前掲 2316頁 (※3) 松村編 前掲 634頁 (※4) 松村編 前掲 1577頁 国語辞典に基づいて税法上の意味を明確にするのは難しい。この場合、判決でどのように判断されたかによって考察していく方法がある。 東京地方裁判所平成23年9月14日判決(TAINSコード:Z261-11765)は、臨床データの販売等を目的とする株式会社が臨床検査を行う際に使用する各資産について、租税特別措置法42条の6の中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除を適用して申告したところ機械及び装置ではなく、器具及び備品であるとして更正処分等を受け、これに不服な納税者が訴えた事例である。 裁判所は、これらの各資産は、基本的には単体で個別に作動し、その結果生ずる直接の成果(検査データ等)も個々の資産ごとに異なるというべきであって、その全体が、最初の工程から最後の工程に至るまでに有機的に牽連結合されて用いられる性質を有するものであるとは認め難いというべきであるから機械及び装置ではなく、器具及び備品に該当すると判断している。 つまり、単体で機能するものか、いくつかの機器がつながって作業をするものかで判断したと考えられる。 機械及び装置に該当すると特別償却や特別控除という節税に係る恩恵を受けることができるから、機械及び装置として減価償却を行いたいというニーズがある。今回は、個人の医院が取得した医療機器について、機械及び装置に該当するか、器具及び備品に該当するのかで争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 眼科医院を営む納税者が、取得した下記の医療機器について、租税特別措置法10条の3(中小企業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除)に規定する特定機械装置等に該当するとして申告したところ、課税庁がこれらの医療機器は特定機械装置等に該当しないとして更正処分等を行ったことから審査請求をしたのが本事案である。 ▷争点 争点は、各医療機器は特定機械装置等に該当するかである。 ▷裁決 審判所は、主に次のように判示して納税者の請求は理由がないとして却下した。 医療機器が特定機械装置等に該当するか否かは、耐用年数表別表第二に掲げる機械及び装置に該当するか否かで判断すべきである。しかし、本件医療機器は、同表の番号1から54までに該当しないから、同表の番号55の「前掲の機械及び装置以外のもの並びに前掲の区分によらないもの」に該当するかで検討する。 医療機器1は、測定及び解析の機能を、医療機器2は、手術用の顕微鏡としての機能を、いずれもそれ自体で果たすものであり、これらは一体として使用されることもあるが、その機能は独立して使用されるものであると認められる。医療機器3は、白内障手術及び硝子体手術のために使用される可動式の手術用機器であり、医療機器6は、白内障手術において切開窓を形成する際に使用される可動式の手術用機器であるところ、これらは、いずれも手術用の機器としての機能をそれ自体で果たすものであり、患者の症状に合わせて手術時にそれぞれ独立して使用されるものであると認められる。さらに医療機器4及び5は、いずれも検査用の機器であり、患者の眼球を観察し、撮影したデータを電子カルテに連動させるものであるから、いずれも検査用の機器としての機能をそれ自体で果たし独立して使用されるものであると認められる。 以上によれば、本件医療機器は、基本的にはそれ自体で固有の機能を果たし独立して使用されるものであって、1つの設備を形成し、その設備の一部としての働きをなすものではないから、耐用年数省令別表第2の番号55「前掲の機械及び装置以外のもの並びに前掲の区分によらないもの」に該当しない。 したがって、本件医療機器は、機械及び装置に該当しないから、特定機械装置等に該当しない。 * * * このようにそれぞれの機器が独立して機能を果たしているから機械及び装置には該当されないとした。この判断は、前述の東京地方裁判所平成23年9月14日判決の判断の延長線上にあると考えられる。 なお、納税者である医師が、治療方針を決定した上で、各医療機器を連結して使用し、手術を行っていたが、医師である納税者を介してのみ相互に関連するものは、有機一体的に結合しているとはいえないと判断されている。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第83回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 カ 分散性がもたらす税務執行上の問題 税務当局にとって、暗号資産の分散性は、納税者情報が集積する「インフォメーションハブ」や源泉地国の課税権を確保するための「源泉徴収代理人」のような者に依拠できないという、構造的な困難をもたらす。 本稿では、DeFiを中心とする分散型の金融システムにおいては、税務当局が金融機関等の仲介者から利用者の情報を収集するような既存の枠組みが機能不全に陥る可能性に着目する。 従来の金融システムでは、銀行や証券会社などの金融機関が間に入り、取引の仲介を行っていた。例えば、ある人が株や債券などの金融商品で利益を得た場合、その取引を仲介した証券会社などが、税務当局に情報を提供したり、税金を差し引いて納めたりしていた。 こうした機関は、税務当局にとって次の2つの重要な役割を果たしてきた。 このような制度設計は、情報の対称性を確保しつつ、税務コンプライアンスの実効性を支える柱であった。 しかしながら、DeFiエコシステムでは、取引当事者をマッチングさせるような仲介者は存在せず、仲介業務の多くがアルゴリズムベースで行われる(See Bob Michel & Tatiana Falcão, OECD(2022)Public Consultation on the Crypto-Asset Reporting Framework and Amendments to the Common Reporting Standard: Comments by B. Michel and T. Falcão 9(2022))。 このような場合、上記のような役割を演じる者が不存在か、そのような者の特定が困難となり、法的管轄も不明確なものとなり(※)、円滑な税務執行が立ち行かなくなる可能性がある。 (※) デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会「事務局説明資料」6頁(2022.6.20)はDeFiの技術・性質がもたらす規制上の問題点等として、次の点を指摘する。 補足すると、暗号資産のシステム自体は匿名性を提供するものであるが、完全なピアツーピアモデルでは不特定多数の利用者間での取引は進まず、十分な流動性を確保しがたいという制約がある。 そのため、取引を仲介・促進する役割を果たすサービスの需要が高まり、それらのサービスが事実上の「仲介機能」を担っている。 とはいえ、これらのサービス提供者がKYC(本人確認)やAML/CFT規制(マネーロンダリング・テロ資金供与規制)に従うような中央集権的構造を取った場合には、匿名性は相対的に失われる。 他方で、DeFi の中心的な存在であるDEXは、スマートコントラクトにより取引を自動執行し、利用者の身元情報を収集しない形式を採用しており、匿名性を損なわずに取引の効率化を図り、事実上の「仲介機能」を提供する点で注目される。 もっとも、DEXの開発や運営等に関与する「者」が存在することは通常であるし、DEXが提供しているのは「仲介業務」であると評価する余地はある。 しかし、DeFiやDEXの目指すところは、利用者の暗号資産を管理したり、権利義務の帰属主体となりうる「者」を介在させることなく、上記のようなサービスを提供することにあるし、実際にも、こうした主体が法的責任を負うべき「者」として把握されるかは不透明である。 このように DEXは、暗号資産の匿名性を維持しつつ、その取引を活発化させるものであるが、DEXを利用したトランザクション履歴はブロックチェーン上に記録されるため、税務当局を含む外部の者がこれを確認することは可能である。この意味で暗号資産の追跡可能性と透明性が維持されている。 この点については、 CEXの内部で行われた取引はオフチェーンで管理され、直接的にはブロックチェーンに記録されていないため、暗号資産の追跡可能性や透明性が損なわれていることと対象的である。 振り返れば、金融システムの文脈に限らず、従来、税務当局は、情報提供者や源泉徴収義務者としての役割を果たすことを期待できる企業、金融機関、役所などの中央集権的機関を、税務コンプライアンスを確保するための「制度的インフラ」として利用してきた。 分散型のシステムは、このような税務当局が中央集権的機関に依存する構造を機能不全に陥らせる可能性を有している(Sergio Avalos, Challenges That Cryptoasset Anonymity Creates for Tax Administrations, 9 J. TAX ADMIN. 66, 67(2024))。 完全に分散化されたDeFi等のシステムは、そのような制度的インフラの制度的役割自体を無力化する可能性を孕んでおり、「仲介業務を担う」者が存在しないだけでなく、税務当局が依拠できる「者」、責任を持って役割を果たすことができる「者」が存在しない完全な分散型のシステムの前で、既存の税制は見直しを求められる。 この点について、筆者は別稿において、分散型デジタル社会、とりわけ中央集権的機関がおらず(取引に権利義務や納税義務の帰属主体が介在せず)、トラストレスで匿名性が確保されているような分散化が進んだ環境下でグローバルに価値の移転が繰り返される世界がもたらす課税上の問題を検討した。 また、税制との関係において注目されるかかる社会の基盤となるブロックチェーンや人間による介入なしに、コード化された通りの操作を実行することで取引を処理するスマートコントラクトがもたらす影響等を考察した(泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税-ブロックチェーン・スマートコントラクトを利用した分散型デジタル社会-」税法学589号159頁(2023))。 本稿では、そのような税制全体の再設計という大きな課題とは別に、税務調査を含む「執行上の問題」に焦点を当て、現行制度が直面する問題を明らかにし、それにいかに制度的・技術的に対応すべきかという点を考察する。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第87回】 「オウブンシャホールディング事件 (地判平13.11.9、高判平16.1.28、最判平18.1.24)(その3)」 ~法人税法22条2項の「取引」の解釈~ 税理士 中野 洋 10 評釈 本件でいう既存株主から移転した価値とは何か。それを「資産」と捉える場合、実現主義による制約を受ける。本件においても、事実上は、含み益に対して課税しているのであるから、それは「資産」であるという理解が一般的ではないか。このような立場からは「株主(旧株主)に帰属していた株式の含み益が株式引受人に移転することになるが、その含み益は、現実に株式を「譲渡」したものではないから未実現ということになる・・・現行の法人税法は、未実現利益に対して課税しないことを前提としていることから、増資時点での旧株主に対する課税は放棄している・・・現行法の下で未実現利益に課税するには、みなし規定か別段の定めが必要であり、そのためには、法改正が必要である。そのような法的手当がない中での課税は、租税法律主義に違背すると考えられる(※5)」という見方になろう。 (※5) 小池正明「旺文社事件/第三者割当による含み益の移動」『租税訴訟第5号』財経詳報社(平24)251~252 頁。 吉村は、本件控訴審判決について「株式の含み益自体が独立して評価し流通することができない以上、本判決のように株式含み益自体を資産と解し難い。それ故、本件株式の含み益のB社への移転が法22条2項の「資産の譲渡」に該当するとした本判決は問題であると言わざるを得ないであろう(※6)」と述べ、本件の株式含み益の移転が「無償による役務の提供」に該当しうるとする。これは「取引の一体的把握を前提として、X社は、その当時自身が発行済株式の100%を所有していたA社の株主総会において・・・決議を承認することによって・・・含み益の一部を自由に使用・収益・処分できる経済的利益を、B社に対して無償で供与したとみることが可能なのではないだろうか(※7)」(下線筆者)というものであるが、既存株主と新株引受人の特別な関係性の存在が、そのような一体的把握の前提となるように思われる。 (※6) 吉村典久「100%子会社にかかる第三者有利発行割当増資を通じた親会社保有株式の資産的価値喪失と法人税の課税」『平成16年 行政関係判例解説』ぎょうせい(平18)107~108頁。 (※7) 吉村・前掲(※6)108頁。 このような吉村の解釈は、次のような見解と軌を一にすると思われる。中里は「個別の契約を超えた「合意」というものが認定ないし擬制されており、それにもとづいて課税関係が構築されている・・・そこで、この東京高裁判決に示された考え方を、「合意の認定・擬制による否認」と呼ぶことが可能なのではなかろうかと思われる。確かに、この判決の述べるように、課税逃れスキーム等に関しては、取引の全体を観察しなければ、当事者が真に意図したことが何であるか不明確な場合が多いのだろうから、一定の範囲内において、取引の全体を一体として考察するという観察法が必要なことは否定できない。むしろ、問題は、そのような観察方法が裁判所によりどの範囲で許容されるかという点である(※8)」(下線筆者)と述べている。 (※8) 中里実「「租税法と私法」論再考」税研19巻5号、日本税務研究センター(平16)79頁。 一方、これに反する見解として、占部は「同項にいう「取引」を「関係者間の意思の合意の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念」としての理解を示しているがこのような解釈には誤りが存するとともに、本件スキームを事実認定の名のもとで当事者の意思の合意を擬制するものであり、これまでの実質主義(経済的な観察法)と実態は変わらないといえよう・・・司法の枠を超えた新たな法創造を行っているといえよう(※9)」と述べ、批判している。これは控訴審判決の評釈ではあるが、同様の判示をしている最高裁にもあてはまる。 (※9) 占部裕典「法人税法22条2項の適用範囲について」税法学第551号(平16)36頁。 また、本件については、私法上の法律概念にもとづいて「取引」を判定し、私法上の法律関係に即して「合意」を判定すべきとする見解がある。このような見方によれば、X社とB社間に事実上の合意を認定したところで、それは私法上の合意ではないため、取引ではないということになる。本判決について、金子は「この判決の最も重要な問題点は「取引」という用語をどう解釈するかである。・・・同法が取引という用語を簿記会計におけるように法的取引以外の行為や事実を広く含む意味で用いているとは思われない・・・X社とA社の間に本件新株発行について合意が存在し・・・しかし、この合意は、法令用語としての取引には該当しないと考える(法人間の取引であれば、文書が交わされ、記録が残るのが普通である)(※10)」と述べた上で、法22条2項の問題とするのではなく、法132条の問題とすべきであったとする。曰く「本件一連の行為は、きわめて異常かつ変則的である。また、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的は存在していなかったと認定される可能性が極めて大きい。なぜ、Yが、途中から主位的主張として、法22条2項該当性をもち出したのかはわからないが、本件の解決としては、法132条の適用の有無の問題として争う方がオーソドックスであったと思われる(※11)」と述べる。 (※10) 金子宏「租税法解釈論序説-若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈のあり方-」『租税法と市場』有斐閣(平26)23~24頁。 (※11) 金子・前掲(※10)24頁。 岡村は、本件課税について「損益取引として構成されていることに問題はあるが、持分の移転という株主法人間取引に特有の事象をとらえている点は評価すべきである。ただし、こうした持分の移転を直接対象とする課税は、所得課税・・・として行われる場合、実現主義による制約を受ける。そのことは株主法人間取引として構成した場合にも当てはまる。何ら取引を行っていない株主の保有株式が値上がりや値下がりしただけでは、別段の規定がない限り、課税することはできない。そうすると・・・課税は、株主間での持分の移転があり、かつ、経済的利益の実現とみられる事象が生じた場合に行われうることになる(※12)」と述べる。 (※12) 岡村・前掲(※1)327頁。 11 検討 非按分的有利発行増資が行われた場合の課税については、法施行令119条1項4号において、新株引受人に対する課税規定(有利な部分の受贈益課税)が規定されているが、これは法22条2項に規定する「無償による資産の譲受け」の委任を受けた規定と解される。このほかには、法人税法に関する法令上に、同増資が行われた場合の具体的な委任規定は存在しない。また、発行法人側では、資本等取引であるため、時価と発行価額の差額に対する課税もないとする見解(※13)と、平成18年度の会社法制定前においては、当該差額に対して、発行法人において寄附金課税が行われていたとする見解がある。 (※13) 小池・前掲(※5)251 頁。 前者の見解の根拠は、資本等取引からは損益が生じないこと(法22条2項及び3項)、株式の発行に関する法令8条1項1号のみを根拠に、発行法人に当該差額の課税ができないと解されるからであろう。後者の見解は、自己株式の資産性が否定される上記会社法改正前までは、自己株式の譲渡に関して時価との差額が認識されていたことから、新株発行においてもこれと同様と解するものである(※14)。 (※14) 岡村・前掲(※1)323~324頁。 ところで、法37条は損金の別段の定めであるが、適用の効果として益金を生じさせることから、損金のみならず、益金に対する別段の定めでもあると解せば、本件「持分の移転」について明確な整理ができる(※15)。すなわち、法22条2項が「別段の定めがあるものを除き、・・・資本等取引以外のものに係る・・・収益の額」としていることから、用語の前後関係から22条2項に列挙する「取引」とは関係なく、別段の定めである法37条が適用されるからである。 (※15) 岡村、高橋、田中・前掲(※4)274~275頁。「益金を発生させなければならない点で、寄附金規定は益金に関する法22条2項に対する別段の定めでもある。・・・この益金は、別段の定めによるものであるから、同条同項に規定する「収益」である必要はない。したがって、有利発行による持分の減少が、同条同項に規定する「取引」に基づく必要はない」として、本稿と同様の検討を行っている。本件のように、関連者間の「持分の移転」に課税する場合、「経済的利益の無償の供与」に課税する、と説明する方が理解しやすい。さらに、本件で問題となっている実現原則の制約も緩和されよう。 ここで重要なのは、法37条が「経済的利益の無償の供与」をした場合と規定しており、「持分の移転」は、この「経済的利益の無償の供与」という広い概念に含まれると解されることである。一方、法22条2項の無償による「資産の譲渡」や「役務の提供」では、持分の移転を「資産」と解すれば、実現原則の制約を受け、「役務提供」と解する場合にも、具体的な課税額の算定においては、時価と払込金額の差額とすることから、それが役務提供の対価といえるのか疑問である。さらに、資産でも役務でもなく「その他の取引」と解釈してみても、一般的な法令用語の意味内容に沿って考えれば、やはり違和感がある。というのも、法22条2項にいう「その他の取引」とは、先に例示した項目(資産の販売、資産の譲渡、役務の提供、資産の譲受け)を包含する、より広い概念と解されてはいるが、異質なものまで含めてよいとは解されない。この「取引」が、法的取引に限定されると考えるのであれば、私法上の取引の当事者ではない既存株主との合意は取引とはいえず(※16)、一方、より広く簿記上の取引と解した場合においても、「既存株主が有利発行により収益の発生を記帳することは通常あり得ないので、取引には該当しない」と解される(※17)。 (※16) 「仮にX社・B社間の取引を想定するとしたら・・・そのような構成は、法22条2項が列挙している取引類型とは異質のものである。・・・その意味で、本件判決の「取引」という用語の解釈は一種の拡大解釈であると考える」(金子・前掲(※10)24頁) (※17) 岡村、高橋、田中・前掲(※4)277頁。なお、法22条2項の「取引」について立法時の資料を確認すると、「なお、取引は簿記上の取引を指すものと解されます」と簡単にではあるが説明がなされている。-『昭和40年 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)102頁。さらに、同103頁では、「実現」という用語が主として企業会計の用語であることから、同項においては、あえて「実現」という用語の使用を避けた点を説明している。この点を踏まえると、益金の計上に際しては、必ずしも実現原則による縛りを受けるわけではない、と解すべき余地も残されているのではないか。 このように考えれば、本件のような「資産」でも「役務」でも「取引」でもない、「持分」の移転については、法22条2項が適用されると解するのではなく、法37条(あるいは、経済的利益の無償の供与)によって課税する、とすることで明快な整理ができる。但し、法37条を益金の別段の定めと解すること、法22条2項の無償取引の範囲を広げる解釈となる点には批判があろう。 そもそも、一般的な用語の意味内容に従えば「収益」という用語は、経済的利益の流入を伴うものである。にもかかわらず、本法上に定義規定を設けることなく、法22条2項に規定する「収益の額」には、本件のような持分の移転(換言すれば、経済的利益の流出)も含まれると解する。このような、まったく異質なもの(経済的利益の「流入」と「流出」)を同様に規定することは、好ましくないのではないか。「流出した利益」に対する課税は、関連当事者間の取引を射程とする。第三者間の取引には適用されない。その意味では、損益法による課税所得算定の基本規定の中に、関連者間に特有の規定を含めることが原因であり、同項における「収益の額」は利益の流入のみとし、一方で関連当事者間においては、恣意的な利益移転を防止する必要があることから、別途「流出した利益」を益金とする「別段の定め」を設けるべきではなかったか。 金子は、本件判示について、法22条2項の「取引」の解釈に「異質な」取引類型を含めることを批判しているが、同項において根本的に異なるもの(「第三者間取引」と「関連者間取引」)を規定している点については、これを適正所得算出のためと解し(※18)、通説化している。 (※18) 金子宏「無償取引と法人税-法人税法22条2項を中心として-」『所得課税の法と政策』有斐閣(平8)345頁。 12 終わりに わが国の法人税法においては「持分の移転」を補足する規定が整備されていない。本件についても、法人と株主という関係性に沿って取引を整理できれば、法22条2項の解釈問題とすることもなかったであろう。岡村は「この取引は、持分を移転させる取引であるため、株主法人間取引としての課税が行われるべきである」と述べる。金子も、本件は「損益取引には当たらないのではなかろうか(※19)」と述べている。 (※19) 金子・前掲(※10)24頁。 法人・株主間取引とするのであれば、親会社から子会社への持分の移転は「出資」、子会社から親会社への持分の移転は「分配」として、整理すべきことになる(※20)。 (※20) 岡村は「有利発行が、出資であると同時に、分配としての要素を持つこと」を指摘する(岡村・前掲(※1)322頁)。本件において、これを当てはめれば、時価と払込価額の差額については、A社からB社への分配となる。 しかしながら、わが国では、昭和40年改正以降、法人・株主間の取引が、法37条と法22条2項の組合せにより、損益取引として課税されてきた(※21)。 (※21) この点につき、岡村は「日本の法人税法では、配当の概念が旧商法に依存しており、出資だけでなく配当についても、資本等取引の範囲が狭いこと、また、贈与としての課税(寄附金課税)が非正常取引全般を支配してきたことを指摘できる」と述べている(岡村・前掲(※1)323頁)。このような指摘は、「移転した利益」を、出資・分配として「資本等取引」と構成するか、あるいは、法37条と法22条2項の組合せにより「損益取引」として課税するかは、表裏の関係にあることを示唆している。 現行法人税の法体系が整備されて、実に60年を経過しているが、関連当事者間の租税回避的な利益移転について、資本等取引とする整理は、ほぼ行われてこなかったと思われる。このような状況を踏まえると、今後も法22条2項の解釈で解決をはかるのではなく、法人株主間取引に対する別段の定めを設けるなど、立法措置が必要であろう(※22)。 (※22) 平成22年度改正で導入されたグループ法人税制における完全支配関係グループ間の寄附金処理(法37条2項)に伴う受贈益の益金不算入(法25条の2)とその後の寄附修正(法令9条1項7 号)の取扱いは、法37条と法22条2項の組合せで対応してきたわが国なりの法人株主間取引に対する規定の整備の第一歩といえよう。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第18回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、特例財務諸表提出会社の附属明細表等の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 附属明細表 附属明細表として、上場会社の連結財務諸表作成会社(別記事業を営む会社は除く)の場合、「有形固定資産等明細表」、「引当金明細表」を記載する。 (1) 有形固定資産等明細表 (2) 引当金明細表 【事例:(株)And Doホールディングス 2025年6月期の有価証券報告書】 2 主な資産及び負債の内容 連結財務諸表を作成している場合、主な資産及び負債の内容は記載を省略することができる。この場合、項目ごと省略することはできないため、記載を省略している旨を記載する。 3 その他 その他の事項として、以下を記載する。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第29回】 「休職者の退職理由」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 うつ病などメンタル不調により休職が長期にわたる場合があります。休職期間満了後も復帰できずに退職に至ったときに、退職理由が休職期間満了による自然退職になるのか、会社都合による退職になるのか、しばしば問題になることがあります。 今回は休職者の退職理由について解説します。 * * 解 説 * * 休職者の退職理由がどのようになるのかは、 就業規則の規定によります。 1 就業規則の規定内容の確認 (1) 休職期間満了による退職になる場合 私傷病により就労できなくなった場合、就業規則で、一定期間の休職制度が設けられていることが多いと思いますが、就業規則に「休職期間満了までに復職できない場合は、自然退職とする」と規定されていれば、退職理由は休職期間満了による自然退職になります。 〈就業規則(例)〉 (2) 会社都合による退職になる場合 就業規則の解雇に関する規定に、「休職期間満了後も復帰できないとき」と記載されている場合は「解雇」扱いになる可能性が高いため、会社都合退職となります。 〈就業規則(例)〉 2 雇用保険の手続き 退職理由は、雇用保険の失業給付の内容に影響を与えます。 会社都合の場合は、助成金の受給について制限を受ける可能性もあるため、就業規則に自然退職の規定を設けておくことが大切です。 (1) 自然退職の場合 離職票上の離職理由は「休職期間満了」になります。 この場合、給付制限(1ヶ月から3ヶ月)無しで、失業給付を受けることができます。 手続きは、就業規則の自然退職の規定が記載されている箇所の写しと休職期間満了通知書(後述3の②を参照)の写しを被保険者資格喪失手続き時に添付します。 (2) 会社都合(解雇)の場合 離職票上の離職理由は、会社都合(休職期間満了)になります。 この場合、離職者は特定受給資格者に該当する可能性が高く、給付制限(1ヶ月から3ヶ月)無しで失業給付を受けることができ、かつ給付日数について優遇されます。 手続きは、就業規則の普通解雇の規定が記載されている箇所の写しと解雇通知書の写しを被保険者資格喪失手続き時に添付します。 3 休職者への通知 退職理由によるトラブルを防止するために、休職に関する通知を発しておくことが大切です。下記通知例を参考にしてください。 ① 休職通知書 ② 休職期間満了通知書 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第11回】 「経営悪化に伴うアルバイトの雇止め」 〈流通・小売業・卸売業〔Q6〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 織田 康嗣 【Q】 当店では、多くのアルバイトを雇用しています。近隣に競合店舗ができたため、売り上げが急速に悪化しました。アルバイトの一部の契約を更新しないか、直ちに打ち切りたいと考えていますが、留意すべき点はありますか。 【A】 契約を更新しない場合には、労働契約法19条1号及び2号の適用を検討したうえで、整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、手続きの相当性)を充足する必要があります。その一方で、契約期間途中に直ちに契約を打ち切るには、「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)の充足が必要であり、極めてハードルが高いです。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 雇止め法理 契約期間を1年として労働契約を締結しているなど、有期雇用契約を締結している場合、同契約を更新せず終了させることを雇止めという。 雇止めに関しては、雇止め法理(労働契約法19条)の適用があり、①有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合であるか(同条1号)、または、労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められるか否か(同条2号)、②使用者が当該申込みを拒絶すること(雇止め)が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められるか否か、という2段階の審査が行われる。なお、雇止め法理の適用を主張するには、労働者が契約期間の満了までに更新の申込みをしたか、または契約期間の満了後遅滞なく締結の申込みをすることが必要である。 2 整理解雇的雇止め 上記の雇止め法理の第1段階の審査(上記①)において、労働契約法19条1号または2号に該当するとしてクリアした場合、適法に雇止めをするためには、客観的合理的理由と社会通念上の相当性の要件という第二段階の審査に移ることになる。 この点、使用者の経営上の理由に基づく解雇においては、整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、手続きの相当性)の充足が求められるが、使用者の経営上の理由により、雇止めがなされる場合であっても、上記4要素に準じた検討が求められる。 ただし、柔軟な雇用調整を期待して有期雇用労働者を採用し、一方、有期雇用労働者の側においても、こうした雇用形態を選択した以上、柔軟な雇用調整の対象となりうることを認識して労働契約を締結したといえる。したがって正社員に対する整理解雇と同程度の理由までは求められず、長期雇用が期待される正社員との間に雇用保障に関して合理的差異が生ずることはやむを得ないとされる。 日立メディコ事件(最判昭和61・12・4労判486号6頁)においても、常用的臨時工の雇止めについて、臨時工は比較的簡易な採用手続で雇用されるため、雇止めの判断基準は、期間の定めのない労働契約を締結している本工の解雇とは「自ずから合理的な差異がある」と述べた上、臨時工の雇止めに先立つ本工の希望退職募集を不要と解し、また本工の希望退職者募集に先立ち臨時工の雇止めが行われてもやむを得ないと判断している。 このように、正社員と同一のハードルが求められるわけではないが、整理解雇の4要素に即した整理は当然必要である。雇止めを行う場合においては、経営悪化や組織上の理由など、人員削減の必要性が認められなければならず、雇止め回避のために措置を講じたのか否か、雇止め対象となっている従業員の人選の合理性、従業員に対する説明、協議を尽くしたのかが問題とされる。 特に、雇用契約を多数更新し、更新手続も形骸化するなどして、実質的に期間の定めのない雇用契約と同視できる場合には注意が必要である(労働契約法19条1号)。裁判例においても、期間1年または3か月の雇用契約を約17回更新し、被告Y社の恒常的・基幹的業務である電話番号案内業務(104業務)に従事してきたパートタイム社員に対する雇止めは、期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当としたうえで、実質的な整理解雇があったと認め、人員削減の必要性の点において客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足性の程度が弱く、これを補完するに足りる程度の手厚い雇止め回避努力がされたとはいえず、人選の合理性、手続きの相当性も不十分であった等として、雇止めを不適法とした事例がある(エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件・横浜地判平成27・10・15労判1126号5頁)。 3 期間途中の解雇 上記のような契約更新時の更新拒絶ではなく、有期雇用労働者を契約期間途中に解雇するためには、「やむを得ない事由」の充足が必要となる(労働契約法17条1項)。これは、契約期間満了を待つことなく直ちに解雇しなければならないほどの事由が求められ、正社員の解雇よりも厳格な判断が求められる。 近時、新型コロナウイルス感染症の拡大により、大幅に売上が減少した飲食店等も少なくない。もっとも、当時は、雇用調整助成金の受給要件が緩和されるなどして、こうした助成金の支給を受けることで、一定の雇用維持も可能な状況にあった。こうした場合には、「やむを得ない事由」があったと認定するハードルが高く、期間途中の解雇に踏み切ることは大きなリスクが残ることになる。 4 小売業における整理解雇的雇止め 小売業の事業者における売上が減少するなどして、資金繰りの観点から、人員整理に踏み切らざるを得ない場面が想定される。 (1) 雇止め以外の措置の検討 正社員とは一定の区別がなされるにしても、雇止めを行うには、上記整理解雇の要素を充足する必要があり、個別具体的な判断が求められる。上記のように、感染症拡大の場面において、国から助成金が拡充されている状況においては、助成金の受給によって、雇用継続できないか、雇止め回避努力の観点から検討が必要となる。 経営悪化の状況が深刻であり、雇止めに踏み切らざるを得ない場合であっても、まずは退職勧奨を行い、合意退職の余地がないか検討するべきである。また、従前の契約期間での更新が難しいとしても、短期間での更新を行い、当該契約が最終である旨の合意(不更新特約付きの合意)をすることも考えられる。もっとも、この場合には、本来従前と同様の契約期間で更新し得たところを短期間の契約期間での合意を求められるという状況から、その同意が労働者の自由意思に基づいた合意であることが求められる(本田技研工業事件・東京高判平成24・9・20労経速2162号3頁)。 (2) 雇止めの検討を行う場合 やむなく雇止めの検討を行う場合であっても、まずは雇止め法理の第1段階の要件を充足するか否かを確認するべきである。 整理解雇的な場面ではないが、小売業(飲食店)における雇止め事案において、第1段階の審査を経たうえで、雇止めが適法と判断された事例を紹介する。 〇東京地判令和6・12・5判例秘書L07932247 カフェチェーン店で13回にわたって契約が更新された結果、契約期間が4年7か月に及んだ労働者の雇止めが争われた事件である。なお、契約更新の合理的期待の程度はさほど高くないと認定されているが、仮に期待が認められるとしても、当該労働者の勤務成績や勤務態度は不良であったこと等から、雇止めは適法と判断している。 雇止めを行う場合には、労働契約法19条1号及び2号の適用についても入念に検討をするべきである。 (了)