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従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第8回】「経歴詐称は解雇事由となるか」-採用時の留意事項-

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第8回】 「経歴詐称は解雇事由となるか」 -採用時の留意事項-   弁護士 柳田 忍   【Question】 採用応募者が経歴を詐称するケースをよく耳にしますが、採用後に経歴詐称が明らかになったからといって、必ずその社員を解雇できるわけではないと聞きました。 当社においては、重要な事柄について嘘をつくような方には入社してほしくありませんし、万が一そのような方を採用してしまった場合は辞めていただきたいと考えています。 この点を踏まえて、採用時に注意すべき点を教えてください。 【Answer】 貴社において採用にあたって重視している事項を明示し、応募者に対して申告を求めるべきです。 その際には、抽象的・主観的な聞き方ではなく、具体的で客観的な事項について申告を求めるよう注意するのがよいでしょう。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 経歴詐称と解雇事由 (1) 経歴詐称 「経歴詐称」とは、労働者が、採用応募の際に会社に提出する履歴書や面接等において、学歴、職歴、犯罪歴などについて虚偽の申告をし、又は、意図的に真実を告げないことをいい、多くの企業の就業規則等において懲戒事由として定められている。 「雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う」(真実告知義務)と考えられており(東京高判平成3年2月20日(炭研精工事件))、経歴詐称はこれに違反するものとして、懲戒事由に該当するものと解されている。 (2) 解雇事由に該当する経歴詐称 もっとも、経歴詐称が常に懲戒解雇の対象になるわけではなく、「その前歴詐称が事前に発覚したとすれば、使用者は雇入契約を締結しなかったか、少なくとも同一条件では契約を締結しなかったであろうと認められ、かつ、客観的にみても、そのように認めるのを相当とする」もの(重要な経歴)について経歴詐称がなされることが必要であると解されている(東京高判昭和56年11月25日(日本鋼管鶴見造船所事件))。 ポイントは、「客観的にみても、そのように認めるのを相当とする」ものでなければならないという点である。 多くの会社において、採用時点で経歴詐称があるとわかっていたとしたら、例えどのような内容のものであっても採用しない(すなわち、「その前歴詐称が事前に発覚したとすれば、使用者は雇入契約を締結しな」い)のではないかと思われるが、裁判例においては、「その前歴詐称が事前に発覚したとすれば、使用者は雇入契約を締結しなかったか、少なくとも同一条件では契約を締結しなかったであろう」とは認められないと判断される場合は多い。 このような会社と裁判所の認識の差異は、裁判所が「客観的にみても、そのように認めるのを相当とする」といえるかどうかという観点から、判断を行っているためであると思われる。 また、経歴詐称が解雇事由として認められるか否かについては、「使用者が当該労働者のどのような経歴等を採用に当たり重視したのか、また、これと対応して、詐称された経歴等の内容、詐称の程度及びその詐称による企業秩序への危険の程度等を総合的に判断」する必要があると解されている(東京地判平成27年6月2日(KPIソリューションズ事件))。 以上を踏まえて、以下、採用の際に注意すべきポイントを挙げる。   2 採用時の注意点 (1) 採用に当たり重視している事項について明示して申告を求めること 上記のとおり、労働者に真実告知義務が認められているのは、あくまで使用者が「必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合」である。よって、まずは、採用に当たり重視している事項について明確に申告を求めるべきである。 学歴詐称等を理由とした懲戒解雇の有効性が問題となった西日本アルミニウム工業事件(下記【参考①】参照)においては、使用者が、募集広告に当たって学歴に関する採用条件を明示せず、採用面接において労働者に対して学歴に対して尋ねることがなかったことなどが重視されて、懲戒解雇が無効とされている。 また、学校法人尚美学園事件(下記【参考②】参照)においては、採用を望む応募者が、告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくても、自発的に告知する法的義務があるとはいえない、と判示されている。 さらに、経歴詐称が解雇事由に該当するかに際しては、上記のとおり、「使用者が当該労働者のどのような経歴等を採用に当たり重視したのか、また、これと対応して、詐称された経歴等の内容、詐称の程度及びその詐称による企業秩序への危険の程度等を総合的に判断」する必要があると解されている。 採用に際して重要視している事項がある場合、採用時に応募者に対してこれを伝えて記録化しておくと、後に争いになった場合にその事項を会社が重要視していたことを裏付けやすくなる。また、ある事項について、応募者が採用に当たって重要ではないだろうと思って申告しなかった場合と、使用者が重視していることを認識しながら敢えて申告を避けた場合とでは、「詐称の程度」が異なるであろう。 よって、重要な事項について申告を求める際には、その事項を重要視している理由とともに、その旨を説明しておくのがよい。 (2) 申告を求める事項は「的確・具体的かつ客観的な事項」とする 例えば、履歴書には「賞罰」や「健康状態」の欄が設けられていることが多いが、「賞罰」は一般に確定した有罪判決を指すと考えられており(前掲炭研精工事件)、公判係属中の事件や懲戒処分歴は含まれていないことに注意する必要がある。 また、履歴書の「健康状態」の欄には、総合的な健康状態の善し悪しや労働能力に影響し得る持病がある場合にはこれを記載するのが通常であると考えられているが、視力障害について、総合的な健康状態の善し悪しには直接には関係せず、持病とも直ちには言い難いなどとして、これを告げずに雇用されたことは解雇事由には当たらないと判断されている(札幌高判平成18年5月11日(サン石油(視力障害者解雇)事件))。よって、健康状態のうち特に重視する項目がある場合には、特定して申告を求めるべきである。 また、会社が中途採用応募者に対して退職や転職の理由を尋ねることも多いが、これらは主観的な事項であるから、申告が虚偽であることを立証することは難しい。 前掲学校法人尚美学園事件において、被告学校法人が運営する大学Yの教授として任用されたXが、採用時にYから転職の理由を尋ねられて、「役所の仕事がもう限界である。」と回答し、前職においてセクハラやパワハラを行ったとして問題にされたことを申告しなかったことについて、裁判所は、「転職の理由は、その本質からして主観的であり、仮に客観的には辞職しなければ更に責任を追及されるような状況にあったとしても、これを虚偽と言い切ることは困難である。」と判示している。 よって、退職や転職の理由を尋ねることにより応募者の前職における不祥事等の有無の確認を試みる場合、功を奏しない可能性があることに留意する必要がある。 (了)

#No. 614(掲載号)
#柳田 忍
2025/04/10

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第17回】「成年被後見人の遺言の撤回はできるのか」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第17回】 「成年被後見人の遺言の撤回はできるのか」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 成年後見人を務めていますが、成年被後見人が遺言を作成していたことがわかりました。内容が遺産をすべて外部の団体に遺贈するという内容であったため、成年被後見人の家族から「撤回できないか」という相談が寄せられました。成年後見人は成年被後見人の遺言を撤回できるのでしょうか。 【A】 成年後見人は、成年被後見人の財産の管理・処分等について包括的な代理権を有していますが、成年後見人が成年被後見人の遺言を撤回することはできません。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 遺言の撤回について 成年被後見人であっても一定の要件のもと遺言を作成することができることは、前回解説したとおりです。民法では「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる(民法1022条)」と定められており、一度書いた遺言でも撤回することが認められています。 遺言の撤回方法は下図のとおり、遺言の作成方式によって異なります。 【遺言の作成方式と撤回方法】 (※1) 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 遺言の撤回は、作成した遺言を撤回する旨の遺言を別途作成して行うことになります。ただし、自宅で保管している自筆証書遺言については、物理的に破棄することで撤回することも可能です(民法1024条)。公正証書遺言や法務局における保管制度を利用している自筆証書遺言は、遺言の原本が公証人役場や法務局に保管されているため、自宅で保管している自筆証書遺言のように、物理的に破棄をすることができません。よって、遺言を作成して撤回をする必要があります(※2)。 (※2) 自筆証書遺言保管制度については自筆証書遺言の「保管の申請の撤回」という制度があり、法務局で保管されていた自筆証書遺言の原本を返還してもらうことができます。また手元に返ってきた遺言を破棄することで撤回することは可能です。なお、「保管の申請の撤回」はあくまで法務局で遺言の原本を保管してもらうことを取りやめるという意味であり、遺言自体の撤回ではないことに注意をする必要があります。 【遺言を撤回する旨の記載例】 実務では、遺言の撤回のみを行うことは少なく、一旦遺言を作成した後に家族関係に変化等があり、遺言の書き直しをするために撤回をするということがよく行われています。なお、公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回したり、自筆証書遺言を公正証書遺言の方式で撤回することは可能です。   2 成年後見人は遺言の撤回ができるか 成年被後見人の作成した遺言を成年後見人が撤回することは、認められていません。あくまで成年被後見人が自ら撤回を行う必要があります。一見して不合理な内容の遺言書であったとしても、成年後見人の職務は生前における成年被後見人のサポートであるため、成年被後見人の死後に効力が発生する遺言は、基本的に職務の範囲外であるともいえます。 なお、遺言で遺贈の対象とされていた財産でも、成年被後見人の生活費を捻出するためなどの正当な理由がある場合には、成年後見人において売却などを行うことは可能であるとされています。 (了)

#No. 614(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/04/10

《速報解説》 国税庁、生物多様性法の施行に伴い、「生物多様性維持協定が締結されている土地の評価」方法に係る質疑応答事例を公表~要件を満たす協定区域内の土地につき2割評価減~

《速報解説》 国税庁、生物多様性法の施行に伴い、 「生物多様性維持協定が締結されている土地の評価」方法 に係る質疑応答事例を公表 ~要件を満たす協定区域内の土地につき2割評価減~   Profession Journal 編集部   令和7年4月1日、国税庁は、同日施行の「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」(以下「生物多様性法」という)に伴い、「生物多様性維持協定が締結されている土地の評価」方法を示した質疑応答事例を公表した。 生物多様性維持協定制度とは、認定連携増進活動実施計画の実施のため必要があると認めるとき、①認定連携市町村は、②認定連携活動実施者及び③その認定連携増進活動実施計画に係る区域(海域を除き、生物の多様性が維持されている区域に限る)内の土地の所有者等と協定を締結して、当該土地の区域内の連携地域生物多様性増進活動を行うことができることとする制度である。 《生物多様性維持協定のイメージ》 ※環境省「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律について」8頁より一部抜粋 なお、生物多様性法及び生物多様性維持協定制度について詳しくは下記参照。 ただし、この協定を締結した場合、土地所有者は、協定締結期間内は協定区域の土地を生物多様性が豊かな状態で維持し続けなければならないこととなり、土地の利用方法が制限されることから、協定区域の土地を相続等する場合、利用制限がかかった土地を相続することとなる。そのため、相続人等が承継時に負担する相続税等について、協定区域内の土地に対する評価減を講じる必要性があるとされていた。 この必要性を受け、令和7年度税制改正大綱においてこの評価減の明確化が織り込まれており(大綱32頁)、今回、質疑応答事例においてその旨が確認された。 質疑応答事例によれば、次の要件の全てを満たす生物多様性維持協定が締結されている土地については、生物多様性維持協定区域内の土地でないものとして財産評価基本通達の定めにより評価した価額から、その価額に100分の20を乗じて計算した金額を控除して評価するとしている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2025/04/04

《速報解説》 金融庁、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」を公表~「株主総会前の適切な情報提供」に関する調査実施を表明~

《速報解説》 金融庁、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」を公表 ~「株主総会前の適切な情報提供」に関する調査実施を表明~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年4月1日、金融庁は、「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」を公表した。 2025年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)について 「令和6年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」として、以下に述べる課題が指摘されている。 今後の提出会社による自主的な改善に資するよう、有価証券報告書レビューで識別された課題への対応にあたって参考となる開示例が「別紙2」として取りまとめられている。 1 サステナビリティに関する考え方及び取組 2 コーポレート・ガバナンスの状況等 3 訂正内部統制報告書における記載事項についての審査 経営者による財務報告にかかる内部統制の評価の範囲、基準日及び評価手続に関する記載がない又は不明瞭である。   Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度) 1 法令改正関係審査等 次の法令改正事項等について、有価証券報告書及び内部統制報告書の記載項目を対象に審査を実施する。 2025(令和7)年3月に金融担当大臣より発出された「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」に関する調査を併せて実施するとのことである。 有価証券報告書及び内部統制報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書及び内部統制報告書の作成に際して注意が必要である。 主な調査項目の概要は次のとおりである。 2 重点テーマ審査 次のテーマに着目し、2025(令和7)年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」及び「コーポレート・ガバナンスの状況等」に関する記載内容について提出会社による自主的な改善に資するように審査するとのことである。 また、2025(令和7)年3月に金融担当大臣より発出された「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」に関する法令改正等関係審査の調査票の回答を勘案し、重点テーマ審査において深度ある調査を実施するとのことである。 財務局等からの質問票には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)

#阿部 光成
2025/04/04

《速報解説》 国税庁、リファンド方式特設サイトを開設~Q&Aや関係通達・様式、免税販売管理システム等に係る最新情報を掲載~

《速報解説》 国税庁、リファンド方式特設サイトを開設 ~Q&Aや関係通達・様式、免税販売管理システム等に係る最新情報を掲載~   Profession Journal 編集部   国税庁は4月1日、輸出物品販売場制度のリファンド方式に関する特設ページを新設し、FAQやAPI仕様書を公表するなど、令和8年11月の制度開始に向けて周知を開始している。 輸出物品販売場制度は、外国人旅行者等の非居住者に対し免税対象物品を一定の方法で販売する場合、消費税が免除される制度。現行制度では購入時に消費税が免税となることから、免税購入品が国外に持ち出されず、国内で横流しされる問題があり、令和7年度税制改正においてリファンド方式(出国時に持出しが確認された場合に消費税相当額を返金する仕組み)に見直すこととなった。 ※国税庁「【令和7年度税制改正リーフレット】「輸出物品販売場制度は令和8年11月からリファンド方式に移行します」」より一部抜粋 なお、見直しの詳細については下記も参照いただきたい。 特設サイトでは、制度の概要に係るリーフレットや全37問からなるQ&A(リファンド方式・概要編)のほか、関係通達や申請書等の様式(本稿公開時点は準備中)、免税店を経営する事業者に向けた免税販売管理システムに係る情報(API仕様書等)などが用意されている。 また、リファンド方式の適用までまだ期間があることから、特設サイトにおいても「リファンド方式」に関する最新の情報を随時掲載していく予定としており、今後の動向には留意したい。 なお、リファンド方式への見直しに伴い「消費税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」も特設サイトの開設と同日に公表されており、その内容については弊誌にて別途速報解説の掲載を予定している(〔編集部追記:2025/4/11〕改正消費税法基本通達等に係る速報解説の掲載に伴い、下記【関連記事】を追記)。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#Profession Journal 編集部
2025/04/03

プロフェッションジャーナル No.613が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年4月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.613を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/04/03

monthly TAX views -No.146-「揮発油税(ガソリン税)暫定税率廃止を考える」

monthly TAX views -No.146- 「揮発油税(ガソリン税)暫定税率廃止を考える」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   財政ポピュリズムが吹き荒れる今日だが、次のターゲットは揮発油税暫定税率の廃止だ。自公と野党3党の動きが複雑だが、暫定税率の廃止についてはすでに合意されている。 最大の問題は1.5兆円(国1兆円、地方5,000億円)という「財源」の確保だ。今時このレベルの代替財源を見つけることは容易ではない。だからといって安易な国債発行によることも、与党としては容認できない。一方、財源にこだわると、「国民生活が苦しいのに」と一方的にSNSなどで論陣を張られ、参議院選挙を前に与党は守勢に回ってしまう。 解決策は見えない状況だが、政府はこれまで、自動車の取得・保有・利用の各段階にかかる「車体課税」と、揮発油税など燃料の種類に応じてかかる「燃料課税」を一体的に見直す必要性を訴えてきた(例えば令和5年6月の政府税制調査会「わが国税制の現状と課題」p181以降)。ただし、この方針の下でうまく解決策を見出すことができるかどうかは不透明だ。 *  *  * 忘れてはならない論点は、環境問題への波及だ。米国トランプ政権はパリ協定から離脱するものの、わが国やEUは、「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)」目標にコミットし、達成に向け様々な努力をしている。脱炭素の取り組みと経済成長の同時実現を目指すという方向性は変わらない。 一方環境省は、「暫定税率の廃止は、それだけで実施すれば、CO2排出に相当規模の負の価格効果がある。・・・2012年から暫定税率を廃止した場合、CO2排出量は2020年には約1,270万トンCO2増加(1990年エネルギー起源GHG排出量1%相当)」という試算を公表し、環境への負荷を問題にしている。 筆者が懸念するのは、EUの炭素国境調整措置(以下CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)の導入だ。2026年からの本格適用を前に2023年10月1日から対象事業者に報告義務を課す移行期間がはじまり、セメント、電力、肥料、鉄鋼、アルミニウムなどが対象になっている。 この制度は、排出量に応じて「炭素価格の差額」を徴収する輸入関税だ。実効炭素価格で比較するとわが国は欧州諸国に比べてきわめて低い水準にある。わが国では全化石燃料に対しCO2排出量に応じてトン当たり289円の税率が課税されているが、スウェーデンの15,000円、英国の2,600円、フランスの5,600円に比べて極端に低い。暫定税率の廃止によりさらに低くなり、差額は拡大する。CBAMが今後拡大していけば、わが国産業が大きな影響を受ける可能性が広がる。 これに対応するためわが国は、GX推進法を制定し、10年間に150兆円を超える官民GX投資の実現・実行を目的とすると同時に、炭素の排出量取引(2026年度~)、発電事業者向けの有償オークションの導入(2033年度~)などの措置を実行する予定だ。これらの措置は、企業などが排出するCO2に価格を付け、それによって排出者の行動を変化させるので、「カーボンプライシング」と呼ばれている。なお、「排出量取引制度」は2026年度からの本格導入を目指し準備が進みつつある。 一方で、カーボンプライシングの最有力手段であるCO2排出量に応じて課税する「炭素税」の導入は見送られた。 揮発油税の暫定税率分が引き下がるとCO2排出量が増加し、国際的な問題を惹起する可能性があるという問題へ対処するには、「暫定税率分を炭素税・環境税として衣替えする」という方法が考えられる。別途低所得者へのガソリン費補助は必要としても、頭の体操として考えておく必要があるのではないか。 (了)

#No. 613(掲載号)
#森信 茂樹
2025/04/03

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例73】「建設工事受注に関するコンサルタント料の損金性と重加算税賦課の適否」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例73】 「建設工事受注に関するコンサルタント料の損金性と 重加算税賦課の適否」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、近畿地方のある県庁所在地に本社を置き、主としてマンション建設工事を行っている株式会社X(資本金30億円・3月決算法人)において、総務部長を務めております。 バブル崩壊後の失われた30年の間に、わが国の地価は右肩下がりで低迷をし続け、日銀のゼロ金利政策により異例の低金利となった個人向け住宅ローンにもかかわらず、わが社の主戦場である近畿地方の都市部に建設されたマンションの販売は長らく低調でした。しかし、アベノミクスの成果が出始めた平成の末期から不動産市場の状況が好転し、ようやく近畿地方においてもマンションが売れるようになりました。 コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻後はインフレにより資材価格が高騰して、マンション価格が急激に上昇し始め、タワーマンションはもちろんのこと、ファミリー向けの中低層のマンションも新築であれば1億円に届きそうな値が付くようになり、果たしてこのような高値のマンションが庶民に売れるのかと大いに懸念しておりました。しかし、幸いにして共働きのパワーカップルや外国人投資家(主として中国人)にマンションをご購入いただいており、わが社の業績もここ数年は堅調となっております。 さて、そのような中、先日来、国税局の調査を受けており、ある項目につき調査官との厳しいやり取りが続いております。それは、わが社が受注したマンション建設工事に関連し、それに多大な功績のあった個人のコンサルタントに報酬を支払ったところ、それが実体のない業務に対する支払いだとして、調査官は当該コンサルタント報酬のマンション工事原価への算入を否認するのみならず、重加算税の賦課対象になると主張しています。 実在するコンサルタントへの実態のある業務への支払いであるにもかかわらず、その損金性を否認するのみならず、重加算税をも賦課するというのは、課税庁の横暴以外の何物でもないと考えますが、調査官にどのように反論すればよいでしょうか、教えてください。 【A】 仮に、実在するコンサルタントへの報酬の支払いであっても、そのコンサルタントの業務がマンションの受注に貢献するものであるといった実態のある活動に基づくものであることを客観的に証明するような証拠書類等が存在しない場合には、当該支払いをマンション工事原価への算入はできないものと考えられます。 また、当該支払いが実態のない活動への報酬であると認定される場合には、架空の経費として重加算税の賦課がされる可能性は十分あるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) コンサルタント報酬のマンション工事原価への算入 法人税法第22条第3項によれば、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額の1つに、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる「原価の額」が挙げられている。 ここでいう「損金」とは、原則としてすべての費用と損失を含む広い観念として理解すべきものと解されている(※1)。また、費用として損金への計上が認められるためには、所得税法の場合と同様に、必要性の要件を満たせば十分であって、通常性の要件を満たす必要はないものと解されている(※2)。そのため、通常必要とはされない、不法ないし違法な支出であっても、それが利益を得るために直接必要なものである限り、費用として損金算入が認められるものと解されている(※3)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)350頁。 (※2) 金子前掲(※1)350頁参照。 (※3) 金子前掲(※1)350頁参照。 それでは、コンサルタントに支払った報酬が損金に算入されるかであるが、それは当該報酬が支払先であるコンサルタントが行ったどのような業務に対するものかに基づき判断されることとなる。 そのコンサルタントの業務が支払元である建設会社のマンションの受注に貢献するものであるといったような、実態のある活動であるといえる場合には、当該支払いはマンション工事原価に含めることにより損金に算入されるものと考えられる。   (2) 重加算税の賦課要件 加算税は、一般に、納税者の申告水準を高めて、申告納税制度及び徴収納付制度の定着と発展を図るため、申告義務及び徴収納付義務(いわゆる源泉徴収義務)が適正に履行されない場合に課される付帯税である、と解されている(※4)。 (※4) 金子前掲(※1)904頁参照。 そのような加算税のうち、重加算税は、納付すべき税額の計算の基礎となる事実の全部又は一部について隠蔽又は仮装があり、過少申告・無申告又は不納付がその隠蔽又は仮装に基づいている場合において、過少申告加算税・無申告加算税又は不納付加算税の代わりに、それらよりも一定割合の重い負担が課され、また徴収される付帯税である。 重加算税は、納税者が隠蔽・仮装という不正な手段を用いた場合に、これに特別に重い負担を課すことによって、申告納税制度及び源泉徴収制度の基盤が失われるのを防止することを目的とするものである(※5)。重加算税の賦課要件となる「隠蔽・仮装」とは、一般に故意を含む観念と解され、そのうち事実の隠蔽とは、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい、また、事実の仮装とは、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいう(※6)。架空の経費の計上は、事実の仮装に該当し、重加算税の賦課要件を満たすものと考えられる。 (※5) 金子前掲(※1)913頁参照。 (※6) 金子前掲(※1)914頁参照。   (3) 建設工事受注に関するコンサルタント料の損金性及び重加算税の賦課の適否が争われた事例 それでは本件と同様に、建設工事受注に関するコンサルタント料の損金性と重加算税賦課の適否が争われた事例(広島地裁令和2年3月18日判決・税資270号-40(順号13400)、TAINSコード:Z270-13400)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 土木建築工事の設計施工監理及び請負業務等を目的とする株式会社である原告は、B株式会社との間でマンション建築工事の請負契約を締結するために、第三者との間でコンサルタント契約を締結し、同契約に基づいて情報の提供を受け、対価として金員を支払ったとして、当該金員を本件各工事の完成工事原価として損金に算入した。 ところが、原処分庁である下関税務署長は、原告に対する税務調査を実施した上、平成27年5月27日に、原告が計上した本件各工事原価は、いずれも架空の契約に基づく架空の工事原価であり、本件各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することはできないとしてこれを否認し、法人税等に係る更正処分及び重加算税賦課決定処分を行った。本件は、原告が、上記各処分は違法であると主張して、その取消しを求める事案である。 原告は、Bとの間で複数のマンション建築工事の請負契約を締結したが、そのうち、平成25年3月期及び平成26年3月期において完成した各工事請負契約の概要は、以下の表のとおりである。 また、原告は、本件C工事につき平成23年4月11日付け、本件D工事につき同年6月30日付け、本件E工事につき平成24年3月30日付けで、いずれも、株式会社Fがコンサルタント業務を提供し、原告がコンサルタント業務費を支払う旨のコンサルタント業務契約書を作成した。 〇マンション建設工事の概要 ② 事案の争点 本件の争点は、各更正処分の取消請求に係るものとして、コンサルタント業務費として支払った本件各金員が、本件各事業年度における原告の所得の金額の計算上、損金の額に算入されるか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが(広島高裁令和2年12月16日判決・税資270号-139(順号13499)、TAINS コード:Z270-13499)棄却され、さらに上告されたが不受理となり(最高裁令和3年5月14日決定・税資271号-60(順号13562)、TAINSコード: Z271-13562)確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、原告と株式会社Fの間で締結したコンサルタント業務に関し、丙が代理人を務める株式会社Fが実際に原告に対し当該コンサルタント業務を提供したか否かがポイントとなる。 両社が締結した契約の内容であるが、コンサルタント業務として契約書上に記載された事項は、①土木建築工事の紹介・あっせん、②土木建築工事に関する情報の提供、③請負契約締結に至るまでの監理及び助言・報告とされる。しかし、実際に株式会社Fが行った業務は、裁判所が認定したところによれば、「B発注のマンション建築工事の案件がある旨を一報し、次いで当該案件の工事概要を知らせた程度」である。 しかも、その「工事概要」というものは、「現地に設置された看板に掲示され、建築関係の新聞等にも掲載されるなど広く一般に周知される性質の情報であって、受注実績のある建築業者に対しては、現場説明会への参加を促す際に事前に提供され、現場説明会に参加していない建築業者からの問い合わせに応じることもあったというのであるから、そうした情報それ自体は価値に乏しいというべき」というものに過ぎず、「合理的な経済原則の見地からは、企業が1案件当たり1,000万円を大きく超えるような対価を払って取得すべき情報とは到底いえない」と解するのが自然であろう。 そうなると、当該金銭の支払いは、「コンサルタント業務の対価として交付されたものではないと認めるのが相当であり、本件各金員の支出は、その使途を確認することができず、原告の業務との関連性の有無が明らかでない」ことから、原告においてその法人所得の計算上、損金性はないということになる。 しかも、そうした原告の行為は、国税通則法第68条第1項、法人税法第127条第1項第3号における隠蔽、仮装等のうち、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることに該当することから、特に「仮装」に当たると認められる。したがって、当該コンサルタント報酬の支払いは重加算税が賦課されるべきものと考えられる。 本裁判例における、原告によるコンサルタント報酬の支払いの真意は不明(※7)であるが、実務上、利益調整の手段として架空の、ないし支払根拠が薄弱なコンサルタント報酬の支払いは散見されることから、本裁判例は、そのような安易な利益調整は厳に慎まなければならないことを再認識させられる事案であると考えられる。 (※7) 重加算税の賦課要件である「隠蔽・仮装」とは、一般に、「故意」を含む観念であると解されている。金子前掲(※1)914頁参照。   (4) 本件へのあてはめ 仮に実在するコンサルタントへの報酬の支払いであっても、そのコンサルタントの業務がマンションの受注に貢献するものであるといった実態のある活動に基づくものであることを客観的に証明するような証拠書類等が存在しない場合には、当該支払いをマンション工事原価への算入はできないものと考えられる。 また、当該支払いが実態のない「活動」への報酬であると認定される場合には、架空の経費として重加算税の賦課がされる可能性は十分あるものと考えられる。   (了)

#No. 613(掲載号)
#安部 和彦
2025/04/03

金融・投資商品の税務Q&A 【Q92】「ストックオプションやRSUで取得した株式に係る損失」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q92】 「ストックオプションやRSUで取得した株式に係る損失」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 株式の含み損の取扱い 株式は発行法人の業績等により時価が変動し、特に上場株式については市場価格が明確であるため、含み損益が生じていることを容易に把握することができます。含み損が生じている場合には資産価値が棄損していることになりますが、所得税法上、原則として、このような損失を課税所得から控除する手当ては設けられていません。したがって、株式を譲渡するなどして含み損を実現させるまでは、課税関係が生じないことになります。   2 上場株式の含み損を譲渡により実現させた場合の取扱い 上場している株式(上場株式等)を譲渡して損失が実現した場合には、他の上場株式等の譲渡から生じた譲渡益や上場株式等に係る配当所得等との損益通算が認められています。給与所得や非上場株式等の譲渡から生じた譲渡益などとの損益通算は認められておらず、同一年において他の上場株式等に係る譲渡益等がなければ、譲渡損失をその年の課税所得から控除することはできません。 ただし、翌年以降3年間にわたって譲渡損失を繰り越すことはできますので、翌年以降に他の上場株式等の譲渡が見込まれる場合には、「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用の確定申告書付表」及び「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付した確定申告書を提出しておくという対応が考えられます。 なお、上場株式等の譲渡から生じた譲渡損の上場株式等に係る配当所得等との損益通算と譲渡損失の繰越控除の適用は、日本の金融商品取引業者への売委託による譲渡であることなど一定の要件に該当する場合に限られます(詳細は、Q41参照)。   3 本件へのあてはめ 所得税法上、株式の含み損について課税所得から控除するなどの手当ては設けられていませんので、ストックオプションの行使時やRSUの権利確定時に給与所得課税の基礎となった株価から時価が下落して含み損が生じているとしても、それ自体を調整する仕組みはありません。 しかしながら、上場株式を譲渡して含み損が実現した場合には、同一年の他の上場株式等の譲渡から生じた譲渡益との損益通算は認められます。また、上場株式等に係る配当所得等との損益通算や翌年以降3年間の譲渡損失の繰越控除が適用される可能性がありますが、米国親会社の株式をストックオプションの行使又はRSUの権利確定により取得した場合はその株式が外国に所在する証券会社等で保管されていることがあり、日本の金融商品取引業者への売委託による譲渡であることなどの適用要件が充足できないことも考えられますので、譲渡の前に確認しておく必要があります。   (了)

#No. 613(掲載号)
#西川 真由美
2025/04/03

租税争訟レポート 【第78回】「所得税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分の取消請求事件~給与所得を有する社会保険労務士の相談業務に係る損失(国税不服審判所令和5年6月16日裁決/所得区分と損益通算)」

租税争訟レポート 【第78回】 「所得税等の各更正処分及び 過少申告加算税の各賦課決定処分の取消請求事件 ~給与所得を有する社会保険労務士の相談業務に係る損失 (国税不服審判所令和5年6月16日裁決/所得区分と損益通算)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【裁決の概要】 〈国税不服審判所令和5年6月16日裁決の概要〉   【事案の概要】 本件は、勤務先3社から給与収入を得る一方、社会保険労務士として開業している審査請求人(以下「請求人」という)が、社会保険労務士として行った相談業務に係る事業所得の金額の計算上生じた損失の金額があるとして、他の所得金額と損益通算する内容の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該業務に係る所得は雑所得に該当することから、当該損失の金額は損益通算できないなどとして所得税等の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 請求人は、平成18年以後の所得税について青色申告の承認を受けており、今回の原処分は、平成28年分から令和2年分(本件各年分)の所得税等に係るものである。   【争点と当事者の主張】 1 本件調査に原処分を取り消すべき違法があるか〔争点1〕 (1) 請求人の主張 請求人は、次のとおり、本件調査には、原処分を取り消すべき違法又は不適正があると主張した。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、請求人の主張に反論を加えたうえで、本件調査に原処分を取り消すべき違法はないと主張した。 2 本件各更正処分の理由の附記に原処分を取り消すべき不備があるか否か 〔争点2〕 (1) 請求人の主張 請求人は、原処分庁は、本件各通知書において、本件業務から生じた所得が事業所得に該当するか否かについて3つの項目の各事実を総合して勘案すると、本件業務が客観的に事業として営まれていると認められないとしているが、いかなる理由に基づき、どのような処分基準を適用し、その結果、当該処分を行ったかが不明であること、また、本件各通知書には、調査の対象となる期間が3年間から5年間に延長された理由及び本件業務から生じた所得を雑所得とした際に必要経費の全額を雑所得の必要経費として認定した理由が記載されていないこと、さらに、本件各通知書には、うそや不適切表現が含まれており、認めることはできないと主張した。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、本件各通知書には、本件業務から生じた所得が事業所得に該当しない旨判断した理由について、所得税法第27条の法令解釈を示したうえで、本件業務について原処分庁が認定した事実及びその認定した事実を法令解釈に当てはめた原処分庁の判断が記載されており、同時に、この記載は、原処分庁の恣意を抑制するとともに不服申立ての便宜を与えるという所得税法第155条第2項の理由附記の制度の趣旨目的を充足する程度に記載されているとしたうえで、請求人の主張する本件調査の対象となる期間が3年間から5年間に延長された理由及び必要経費の全額を雑所得の必要経費に認定した理由の記載までを必要とするものではないと主張した。 3 本件業務から生じた所得は事業所得又は雑所得のいずれに該当するか 〔争点3〕 (1) 請求人の主張 請求人は、本件業務は自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であることは明らかであるので、本件業務から生じた所得は事業所得に該当すると主張し、その理由として、開業登録して以来、年会費を支払いながら、10年ほど反復継続して本件業務を営んでおり、その間、事務所を備え、売上げとして相談料を受領しているうえ、通信費や水道光熱費等の経費が発生していること、1日の半分近くを営業や講習会に費やしているほか、損害賠償請求をされる危険性も抱えながら活動していること、さらに、本件業務は、社会保険労務士という国家資格に基づき請求人の勤務先とは関係なく独立して行われ、労務管理という幅広い要望に対するものであることを挙げている。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、「営利性、有償性及び反復継続性の有無」、「自己の危険と計算による企画遂行性の有無及び相当程度の期間安定した収益を得られる可能性」、「精神的及び肉体的労力の程度」、「人的設備及び物的設備の有無」及び「職業・経験、社会的地位及び生活状況」を総合的に考慮し、社会通念に照らして判断すれば、本件業務から生じた所得は事業所得には該当せず、雑所得に該当すると主張した。   【国税不服審判所の判断】 国税不服審判所は、結論としては、請求人による審査請求はいずれも理由がないから棄却するという裁決をした。争点ごとの国税不服審判所の判断は、次のとおりである。 1 本件調査に原処分を取り消すべき違法があるか否か 〔争点1〕 国税不服審判所は、法令解釈として、調査手続に瑕疵があるというだけで納税者が本来支払うべき国税の支払義務を免れることは、租税公平主義の観点からも問題があると考えられるから、調査手続に単なる違法があるだけでは課税処分の取消事由とはならないものと解されるが、課税処分が何らの調査なしに行われたような場合、つまり、調査を全く欠く場合、課税処分の基礎となる証拠資料の収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合については、課税処分の取消事由となるものと解すべきであるとしたうえで、重大な違法とは、証拠収集手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどを挙げている。 そして、国税不服審判所は、認定した事実に基づき、調査担当職員は、本件業務から生じた所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額に関し、各費用の算入割合を請求人と協議した際、本件業務から生じた所得が雑所得になる可能性を指摘していることからすれば、かかる所得が事業所得になることを調査担当職員が認定したうえで、請求人に対して修正申告を勧奨していた事実は認められないこと、調査担当職員による延滞税に係る説明が法令に則ったものではなかったとはいえ、説明をもって修正申告に誘導したということはできないこと、調査担当職員による勤務先調査は、本件業務から生じた所得が事業所得又は雑所得のいずれに該当するかの判断に必要な調査であったということができることから、客観的な必要性があったものと認められ、また、勤務先調査において、請求人の個人情報が記載された雇用契約書の提出を受けるなどしたことは、たとえ雇用契約書の提出を受けるに当たってその必要性が明示的に示されなかったとしても、それをもって、勤務先調査が直ちに社会通念上相当な限度を超えるものであったということはできないこと、調査担当職員が、本件業務の事業性を認めることを前提に各費用の家事関連費該当性を検討していたという請求人主張の事実を基礎づける客観的な証拠はないこと、原処分庁が各費用の全額を雑所得の金額の計算上必要経費として認定した本件各更正処分が、本件調査を経ずにされたものと評価することはできないことなどの判断を示したうえで、調査に違法な点はなく、本件調査の違法を理由として、原処分には、これを取り消すべき違法があるとは認められないと結論づけた。 2 本件各更正処分の理由の附記に原処分を取り消すべき不備があるか否か 〔争点2〕 国税不服審判所は、法令解釈として、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、その更正は納税者による帳簿書類の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正の理由の附記として欠けるところはないと解すべきであるとした。 そのうえで、認定した事実に基づき、国税不服審判所は、原処分庁は、本件各通知書において、根拠法令及び法令解釈等を示したうえで、本件業務の態様、本件業務に係る人的・物的設備、請求人の職歴・社会的地位に関する具体的な事実を摘示して、本件業務から生じた所得に係る所得区分が事業所得ではなく雑所得に該当すると判断した理由を記載しており、こうした記載は、本件各更正処分における原処分庁の判断過程を省略することなしに記載したものということができ、判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはないうえ、請求人としても、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して当該処分がなされたのかを了知し得るものであり、不服申立てに当たって必要な材料の提供を受けていたといえることから、本件各通知書の理由附記については、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものと認められるから、法の要求する更正の理由の附記として欠けるところはなく、本件各更正処分の理由の附記に原処分を取り消すベき不備はないという判断を示した。 3 本件業務から生じた所得は事業所得又は雑所得のいずれに該当するか 〔争点3〕 国税不服審判所は、法令解釈として、ある所得が事業所得に該当するか否かは、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験、社会的地位及び生活状況、相当程度の期間安定した収益を得られる可能性の有無及び程度等を総合的に考慮し、社会通念によって判断するのが相当であるとの前提を示した。 そのうえで、認定した事実に基づき、国税不服審判所は、事業所得に該当するかどうかの判断について、本件業務は、有償性、反復継続性及び物的設備を有していたほか、請求人は社会保険労務士として本件業務に従事していたことが認められるものの、営利性は乏しく、企画遂行性は希薄であり、請求人が本件業務に費やした精神的及び肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものではないことに加え、請求人が生活の資としているのは本件業務による収入ではなく、本件業務には相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するともいい難いという点を総合的に考慮し、社会通念により判断すると、本件業務が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務ということはできないから、本件業務から生じた所得は、事業所得には当たらないという判断を示した。   【裁決の特徴】 裁決では更正処分の対象となった年分以前のことは触れられていないが、請求人は、社会保険労務士として登録をして10年以上、収入の多くは勤務先からの給与所得でありながら、青色申告事業者として確定申告を行い、事業所得の損失と給与所得を損益通算することによって、いわゆる節税を行ってきたようである。具体的な収入金額や事業所得による損失額が「不開示」となっているため、その金額や年分ごとの変動は判然としないが、収入を大きく上回る必要経費を計上し続ける申告内容に不審を抱いた税務署が、調査の対象として請求人を抽出したものであると推測できる。 国税不服審判所は、後述する5つのポイントについて、「事業所得に該当するか否か」を判断しており、必ずしも、「毎年損失を計上しているから事業所得には該当しない」と判断しているわけではないが、「副業解禁」を打ち出す企業が広まってきている中、「副業を事業として認めさせるべきにはどうすべきか」といった観点も含めて、裁決の特徴を見ておきたい。 1 原処分庁による瑕疵 国税不服審判所は、原処分庁の調査担当者が、延滞税の計算方法について適正な説明であったとはいえないこと、さらに、原処分庁が作成した本件各通知書に附記された理由のうち、請求人の平成28年分の給与収入の金額の記載に誤記が認められることを認定している。 請求人による違法の主張に対して、国税不服審判所は、調査担当者は、適正ではない説明によって修正申告に誘導したとは認められないこと、給与収入の誤記は、本件業務から生じた所得の所得区分の判断を左右するものということはできないなどの理由を挙げて、原処分を取り消すべき不備があるということはできないと結論づけているが、納税者に不利益な処分を下すという点に着目すれば、誤った説明は是正されるべきであるし、通知書についても、訂正したものが発行されるべきであると思料するが、そうした行為が原処分庁によってなされたかどうかについては、裁決書に言及はない。 2 請求人の申告内容 上述のとおり、請求人の事業所得に関する決算内容は不開示となっているのであるが、裁決では、本件各年分のいずれにおいても利益が生じておらず、損失の金額は、売上金額に比して、平成28年分が約13倍、平成29年分が約13倍、平成30年分が約9倍、令和元年分が約7倍、令和2年分が約13倍に相当し、国税不服審判所は、多額の損失が5年連続して生じていることからすると、本件業務は、経済合理性に欠け、営利性は乏しいというべきであると結論づけている。 3 事業所得に該当するという判断を導くための要件はあるのか 国税不服審判所の認定した事実から、請求人が、本件業務を事業所得であると主張するためにはどういった要件が必要であったかを検討してみたい。 (1) 営利性及び有償性の有無並びに反復継続性の有無について 国税不服審判所は、有償性と反復継続性については認定しており、上記2で見たとおり営利性が問題であった。私見ではあるが、平成30年分以後、売上金額に対する損失の額が減少していたことを考えると、その後も損失額が減少する傾向が続けば異なった判断が出る可能性もあったと考えるが、結果的には令和2年分になって損失の割合が拡大していた。 (2) 自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無について 国税不服審判所は、請求人は、多額の損失が5年間継続していたにもかかわらず、本件業務に係る売上先が分かる書類や営業活動の内容を詳細に示す資料を作成していないことをもって、本件業務に係る損失を改善する手段を講じていたということはできず、企画遂行性は希薄であるという判断をしたものであり、売上先の管理、売上拡大のために行ってきた、又は行う予定の施策を示すことができれば、本項目もクリアできる可能性があった。 (3) 精神的及び肉体的労力の有無及び程度について 国税不服審判所は、請求人の本件業務に係る必要経費の内訳には、通信費、広告宣伝費及び接待交際費の支出があることからすると、請求人は本件業務に精神的及び肉体的労力をある程度費やしていたともいえると認定しながら、請求人が営業の電話をかけることはまれであり、本件業務に係る相談を受ける頻度が平均すると月に2回から3回程度、多くともその頻度は月に5回程度で、1回も相談を受けることがない月もあって、相談の時間は1回当たり1時間程度であるから、請求人が本件業務のうち実際に相談を受けるために使う時間は多くとも月5時間程度であり、本件業務に費やした精神的及び肉体的労力の程度は、必ずしも大きいものということはできないという判断を示しているが、たとえば、業務日誌のようなものを作成して、営業の電話をかける以外にも、研修を受講する、業務関連書籍を読む、会合に参加して商機を得るための活動を行うといったことを立証できれば、判断に影響を与えることはできたかもしれない。 (4) 人的設備及び物的設備の有無について 本項に関しては、国税不服審判所は、従業員を雇うことなく請求人1人で本件業務に従事していることから人的設備は有していない一方、自宅1階部分を事務所として使用していることから物的設備は有していることを認定し、請求人が人的設備(従業員を雇うこと)を有することなく1人で本件業務に従事していることが不自然ということはできないという判断を示している。 (5) 職業、経験、社会的地位、生活状況及び相当程度の期間安定した収益を得られる可能性について 国税不服審判所は、請求人は、本件業務により多額の損失が連続して生じていたにもかかわらず、当該損失を改善する手段を講じていたとは認められないこと、及び、請求人の顧客が請求人の事務所を訪問することはなく、請求人の事務所は自己学習等のために利用されているにすぎず、請求人の業務の規模が安定した収益をもたらす程度のものであったとまではいえないことをも併せ考慮すれば、請求人が、本件業務から相当程度の期間安定した収益を得られる可能性を有していたとはいい難いと判断しており、この判断を覆すのは困難であるが、上記(1)及び(2)にも関連することではあるが、連続して損失を計上するという事態に甘んじることなく、事業を拡大して、利益を計上するために何をしてきたかを、資料を基に説明する準備が必要であったとまとめておきたい。 4 裁決要旨検索システム 国税不服審判所の裁決要旨検索システムで、本件裁決の要旨を確認したところ、該当する要旨として2件が公開されていたため、以下に引用しておきたい。   (了)

#No. 613(掲載号)
#米澤 勝
2025/04/03
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