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中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第2回】「創業経営者にとってのライフプランの考え方」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第2回】 「創業経営者にとってのライフプランの考え方」   税理士法人トゥモローズ   1 ライフプランとは 「ライフプラン」という用語が法律等で確定的に意義づけられているわけではないが、一言で言うと人生設計だ。「どのような人生を送りたいのか?」それを考えることがライフプランを考えることでもある。 どんな職業に就きたいのか、どんな人といつ結婚したいのか、子供は何人欲しいのか、住むところはどこがいいのか、退職後にどんな生活を送りたいのかなど、自分に問いかけ、理想と現実に向き合ってその解を出していく、それが「ライフプランを構築する」ということである。 次に、ライフプランを実現するために、現実的に考えなくてならないのが「お金」についてである。ライフプランを狭義に捉えると人生の資金設計、すなわち「人生設計の中のお金に関する設計をすること」と定義づけることができる。 ライフプランの中で重要な資金設計は、①住宅資金設計、②教育資金設計、③老後資金設計の3つであるといわれている。 ① 住宅資金設計 住宅資金設計を考える上で、一番初めの意思決定は、住宅を購入するのか、借りるのかである。 住宅を購入する場合には、住宅ローンを組んで購入する場合が多いと考えられるが、その住宅を購入する上で、現在の収入に鑑みどの程度のローンが組めるのか、そのローンの返済計画などが住宅資金設計を考える上で重要となる。 借りる場合には、毎月、固定費として家賃が発生してくるため家計支出に占める家賃の割合等を考慮した上で、住む場所や間取り等を選ぶ必要があるだろう。   ② 教育資金設計 子供の教育費は、ライフプランを考える上で必ず考慮しなければならないほど、近年、重要度が増している。 子供を大学まで進学させた場合には、小学校から大学まですべて国公立だとしても約700万円、小学校から大学まですべて私立の場合には、約2,000万円の資金を要する。また、海外留学や医科歯科系の大学の場合には、それ以上に資金が必要となる。 子供により高度な教育を受けさせたい場合には、事前の資金設計が非常に重要となってくる。   ③ 老後資金設計 老後資金設計は、退職後の資金計画を立てることである。 主な収入としては、公的年金、個人年金、資産運用の果実などが考えられるが、現役時代の収入と比べると減少する場合がほとんどであろう。老後資金設計で一番難しい点は、終わり(すなわち、死亡時)を自分で選択できない点である。 したがって、最終的にどのくらいの資金が必要なのかも設計時には把握が困難である。人生100年時代が到来している現在、保守的な見積もりが求められるだろう。 上記の各資金設計を基にそれを数字化する、すなわち、資金設計表の作成である。会社で言うなら、中長期経営計画のようなものを個人で作成するイメージだ。 また、上記の資金設計は予測可能なものが中心であるが、不慮の事故、自然災害など予測不能な事態の備えもライフプランを構築する上で忘れてはならない。保険等を活用し、予測不能な事態にも対応できるようにしておく必要があろう。 ライフプランを考えることは、自身と家族の将来を守ることでもあるのだから。   2 創業経営者のライフプラン (1) 概要 創業経営者のライフプランは、サラリーマンのライフプランとは似て非なるものである。 サラリーマンの場合には給与が毎月入金され、将来の給与額も想定しやすく、退職時期も明らかになっていることが多い。すなわち、生涯のキャッシュインフローが把握しやすいため、ライフプランを立てやすいのである。 それに比べ創業経営者の場合には、給与の額も会社の資金繰りの影響により未払いとなったり、将来の給与も会社の状況により左右されるため、想定することが難しい。すなわち、生涯のキャッシュインフローの把握が難しい創業経営者のライフプランを構築するためには、会社の中長期経営計画の策定が必須となる。 経営者個人のライフプランと会社のライフプランは、表裏一体といえるだろう。 また、サラリーマンと創業経営者とでは、リスクの部分でも大きく異なる。サラリーマンの自宅等の保有財産が勤務先の経営状況によって手放さなければならない状況になることは考え難いが、創業経営者の個人財産は会社の状況により差し押さえされる等の事態に陥ることもあり得る。 すなわち、経営者自身が会社の借入金の個人保証をしているため、会社が倒産等した場合には、その返済のために個人財産も提供しなければならないのだ。 その一方、サラリーマンは、交際費や車両費などを会社の経費とすることが難しいが、経営者の場合には、ゴルフや飲食代などのうち事業関連のものは会社経費にでき、また、車両なども会社所有とすることもできる。また、役員社宅等を活用することも可能だ。 すなわち、サラリーマンと異なり、経営者の場合、家計の支出と会社の支出が混在することになり、会社経費として支出できる金額は増えるであろう。ただし、その分、資金設計の作成も煩雑になってしまう。 以上のことから、創業経営者のライフプランを考える上では、サラリーマンのように個人や家族だけのことを考えるのでは本末転倒であり、会社の経営計画と創業経営者個人のライフプランの両輪で進めていく必要があるのだ。 以下に、創業経営者のライフプランについて、ステージごとにその概要を確認したい。 (2) 創業前 最近では社会人経験なく学生時代から創業する若者も増えているが、一般的には創業する前にサラリーマンを経験することが多いだろう。将来、創業を考えている場合には、そのサラリーマン時代に、将来の資本金を用意する必要がある。 将来ビジネスをはじめるにあたりどのくらいの資本が必要なのか、そのためには日々どのくらいの貯蓄をすべきなのか等を考えながら、資金設計を考える必要があるだろう。 (3) 創業期 創業期は会社の資金繰りが安定しないこともあり、家計のキャッシュインフローも不安定だ。キャッシュアウトについては住宅関係、教育関係、通常の生活費とそれぞれのステージに応じた支出が必要となる。 この時期の創業経営者は、会社の資金繰り表と個人の資金設計表の2つを確認しながら短期的なライフプランを考え、資金がショートしないよう綿密に資金繰りを考える必要がある。 (4) 事業承継時 会社が成長期、安定期を迎えた頃に考える必要があるのが、事業承継だ。後継者が決まっている場合、外部に売却する場合、廃業する場合など様々な選択肢が想定できるが、親族内承継に限って考えると、税負担をなるべく軽くして後継者に自社株を承継する方法を策定するのが肝要だ。 この事業承継時に多額の税負担が発生すると、下記(5)のリタイア後の資金設計にも影響を及ぼす。 (5) リタイア後 創業経営者のリタイア後の主な収入は、公的年金、個人年金、資産運用の果実、そして、会社関係の収入であろう。会社関係の収入とは、非常勤役員報酬、配当金、分割払の退職金、事業用資産に創業経営者保有の資産がある場合の賃料、会社に対する貸付金の返済などが考えられる。 資金設計上、重要となるのは、日々の生活費、相続資金であろう。日々の生活費については、定年退職後のサラリーマンに比べ、経営者の場合には付き合い等が多く、交際費等が高額になることが想定される。人生のさまざまなシーンに関わるデータが収録されている『ライフプランデータ集(2018年版)』(株式会社エフピー教育出版 著)によると、引退後の経営者夫婦の1ヶ月当たりの生活費として、半数以上が月に50万円以上かかると答えている(同書P194)。 また、相続資金の対策も重要だ。相続資金とは、主に、相続税の納税資金と遺留分対策資金である。老後でキャッシュを使い切ってしまい相続人が相続税納税で困窮することがないように対策をする必要がある。 遺留分対策資金については、後継者である相続人が後継者以外の相続人から遺留分を請求されたとしても支払うことができるよう後継者に対し余分にキャッシュを遺しておくか、生命保険等を活用して代償財産の原資となるような施策が必要であろう。 (了)

#No. 273(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2018/06/21

AIで士業は変わるか? 【第19回】「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」

AIで 士業は変わるか? 【第19回】 「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」   公認会計士・税理士 伊原 健人   最近、AIが話題となるケースが多く、人間に代わって迅速かつ正確な判断をしてくれるものとして期待されています。 テレビなどで最も目にするのは、車の自動運転でしょうか。AIがセンサーをもとに周囲の情報を収集・把握しながら、人間に代わって運転をしてくれるというものです。また、銀行の融資判断をAIが行ったり、会計監査における不正をAIが見抜く、というような見出しも見かけます。   1 ITの進化と会計事務所業界 これまでの会計事務所業界の仕事の内容や方法は、ITの進化とともに変化してきました。その昔は手で伝票を起こして手で集計していた作業が、パソコンの導入やソフト(システム)の開発によって、データさえあれば様々なものが自動的に集計され出来上がってくるようになりました。 この場合はデータの作成がポイントとなります。データを手で入力するのか、他のシステムなどから取り込むのか、データをいかに早く簡単に取得できるのかを考えることが大切です。データがあれば、消費税申告書などは会計ソフトが自動的に集計して作成してくれます。人の手は要りません。 会計データの入力という業務も、会計ソフトやシステム開発によって減少したものと思われます。   2 ITの進化とAIの活用 ただ、これらはITの進化であって、AIではありません。ITの進化なのか、AIの活用なのか、あまり区別せずに考えをめぐらせてしまいます(もしかすると、区別の必要はないのかもしれません)。 ITは今後も間違いなく進化を続け、業務の効率化がどんどん進み、会計事務所業界にとっては、人手不足を補ってくれるものになると思います。別の見方をすれば、会計事務所が行っている現行の業務自体は減っていってしまうとも言えます。 では、会計事務所業界では、AIはどのように活用されるのでしょうか。 例えば、売上システムデータや銀行データから自動的に仕訳データを起こし、決算書の作成や申告書の作成まで自動的にできるようにしていく、これはITの進化によるものです。データ連携やデータ集計の設定を詳細に行うことで、今後も間違いなく進んでいくことでしょう。 一方で、AIは知能ですから、状況を把握して自ら判断を行います。 例えば、クライアントから税務に関する質問がメールや電話で来たとします。このとき、ロボットがその質問を聞いて内容を把握し、「法人税基本通達の〇〇に取扱いが載っている」、または「国税庁のHPの〇〇に見解が載っている」など回答してくれるようになるというのは、そう遠くない将来に可能になるかもしれません。質問の内容が把握できれは,インターネット上にある情報を探し出してくれるのです。 すばらしいことではありますが、会計事務所は要らなくなってしまいます。会計事務所に質問する必要がなく、相談者が自分でAIに聞けばいいわけです。   3 過去の失敗・経験とAI 過去の失敗や経験から様々な判断をするような場合に、AIではどのように対応するのでしょうか。 この業界で仕事をしていると、失敗も含めた過去の経験が非常に役に立ちます。過去の経験を生かして、リスクを減らしながら業務をスムーズに行っていることが多いと思います。 もし、AIが過去の経験(過去データということになるのでしょうか)を記憶していて、それをもとにして即座に税務判断ができるようになると、それはもう人間と同じように考え判断しているわけで、完全に人に代わって仕事をしてくれるようになっています。 会計事務所では、ロボットを雇って作業をさせるだけになるということでしょうか。   4 AIの思考過程 ある事象に対してAIが何らかの回答を出した場合に、その回答に至る思考過程が不明ではないかという疑問が言われることがあります。状況を判断し、どのようにその回答に至ったのかをきちんと説明できないと、クライアントとの信頼関係をもとに業務を行っている会計事務所にとっては、大きな問題となります。 最適な回答を導き出しているとしても、どうしてそのように判断したのかが分からないと、その回答を信頼することができませんし、クライアントにそれを勧めることもできません。また、AIの出した回答を実行した場合に、それが結果的に上手くいかなかった場合の責任をどう考えるのかも難しい問題です。 会計事務所にとっては、AIがクライアントと直接やり取りをするというよりは、税理士のサポート役として上手く働いてくれるのかもしれません。   5 今後の会計事務所業界 正直なところ、AIがどこまで会計事務所の業務を行うようになるのか、筆者には想像がつきません。 ただ、インターネットや携帯電話・スマートフォンの出現によって、この20~30年の間にほぼすべての人の生活や働き方が大きく変わりました。劇的に変わったと言っても過言ではないと思います。それによって様々なことが効率化されてきました。 ITのさらなる進化とAIの活用によって、今後10年の間に働き方が再び大きく変わってくるように思われます。AIがどの程度活用されるのか、AIが現在の会計事務所の業務をどこまで代わりにやってくれるのかによって、会計事務所は大きく変貌していく可能性があります。 ただし、これは会計事務所業界だけの話ではなく、全ての業界に共通することのように思えます。 時代の流れはどんどん早くなっています(これを実感するとき、今後、世の中はどうなってしまうのか、という不安を感じることがありますが・・・)。今の時代は、世の中の流れに乗り遅れないように、頑張って着いていくことが大切なのかもしれません。 (了)

#No. 273(掲載号)
#伊原 健人
2018/06/21

プロフェッションジャーナル No.272が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年6月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.272を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/06/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第65回】「新聞報道からみる租税法(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第65回】 「新聞報道からみる租税法(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   3 新聞報道と「知ること」―予測(予見)可能性―(承前) (2) 遡及立法と新聞報道 (ア) 事案の概要 次に、建物譲渡による損失について損益通算を廃止した租税法規の遡及適用は憲法84条のいう租税法律主義に反しないとした事例を確認しておこう。 この事件は、X(原告・被控訴人)が、所轄税務署長に対し、平成16年3月10日に住宅を譲渡したことにより長期譲渡所得の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除(損益通算)すべきであるとして、平成16年分所得税に係る更正の請求をしたところ、所轄税務署長から、同年4月1日施行の法律の改正により、同年1月1日以後に行われたXの住宅の譲渡についてはその損失の金額を損益通算できなくなったとして、更正すべき理由がない旨の通知処分を受けたため、Xが国Y(被告・控訴人)を相手取り、本件通知処分の取消しを求めた事案である。 なお、本件で争点となっている法改正は、平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布され、同年4月1日から施行されたものであるところ、その施行前である同年1月1日から同年3月31日までの建物等の譲渡についても適用されるものであった。 (イ) 福岡地裁の判断 福岡地裁平成20年1月29日判決(判時2003号43頁)は、まず、租税法規の遡及適用について次のように原則を述べる。 このように、原則論を述べた上で、租税法規の遡及適用については例外が働く場合がある旨を指摘する。 このように、「法改正についての国民への周知状況等」を含めて総合判断し、「法的安定性又は予見可能性を害しない場合」には例外的に遡及適用が認められる余地があるとする。 ここでは、国民への周知、すなわち、予測(予見)可能性の有無がその判断に当たり重要視されていることが分かる。 そして、福岡地裁は、「本件改正は、平成16年1月1日以降の建物等の譲渡について損益通算を認めないとするものであるから、その予見可能性を基礎付ける事情は、平成15年12月31日以前に生じたものに限られる。」として、「国民が、同日以前に、本件改正について、個別的、具体的にどの程度の予見可能性を有していたかについて検討」する。 なお、与党が平成16年度税制改正大綱を取りまとめたのは、平成15年12月17日であり、その後の周知を次のように認定している。 ▼平成15年12月18日の報道について ▼同月22日の報道について ▼同月26日の報道について ▼同月30日の報道について そして、これらの事実をもって国民への周知について次のような判断を行っている。 そして、次のように述べ、結論としてXの請求を容認した。 このように、福岡地裁は各種新聞や雑誌に掲載された記事の内容のみならず、その掲載箇所や分量等についても細かく認定していることが分かる。 また、特に注目すべきは、雑誌E、F、Gが専門誌であり「これによる国民への周知はさほど期待できない」とする反面、「A新聞・・・は、これと異なり、一般国民の間に相当程度の流通量がある」として、同紙の記事掲載に着目している点であろう。 そうした一定の流通量があると認められるA新聞においても「いずれの記事も半ばの紙面に掲載された小さなものであって、これによって図られる国民への周知の程度には限界がある。」として、国民への周知が十分になされていたとはいえない、すなわち「予見可能性を害しないものであるということはできない」と結論付けているのである。 B、C、D新聞については上記以上の言及はないものの、これら3紙については、朝刊の12面あるいは13面に掲載されたのみであるとのことであるから、福岡地裁は、これらの新聞掲載をもってしても予見(予測)可能性が保たれていたとはいえないと考えているのであろう。 (なお、上記A新聞とは日本経済新聞のことである。B新聞ないしD新聞とは、朝日新聞、読売新聞及び毎日新聞を指している。また、専門誌であるEとは、財団法人大蔵財務協会発行の「税のしるべ」、Fは税務研究会発行の「週刊税務通信」、Gは株式会社住宅新報社発行の「住宅新報」のことである。) (ウ) 福岡高裁の判断 もっとも、控訴審福岡高裁平成20年10月21日判決(判時2035号20頁)においては、次のように示され、地裁判断が覆され納税者敗訴で確定している。 このように、原審判断は否定されてこそいるものの、新聞報道の有無を無視して判断が覆されているわけではないことに、ここでは着目しておきたい。 福岡高裁も、「我が国の主要な新聞紙上にその内容が掲載され」、「一部の新聞には、上記損益通算の廃止が平成16年1月1日から適用されることが報道されていた」とするように、新聞報道により予測(予見)可能性が担保されていたと判断しているのである。 地裁も高裁も新聞報道を参考にしていることに相違はないものの、「どの程度の新聞報道をもって国民への周知があったと解すべきか」、その捉え方が両裁判所の判断を分けたものと解される。 (続く)

#No. 272(掲載号)
#酒井 克彦
2018/06/14

中小企業の生産性向上のための設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第1回】「制度の仕組みと適用要件の確認」

中小企業の生産性向上のための 設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第1回】 「制度の仕組みと適用要件の確認」   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   本連載では、平成30年度税制改正により創設された中小企業に対する固定資産税の軽減措置について制度の内容や留意点を説明するとともに、既に措置されている軽減措置との違いについても言及する。今回は、制度の内容について解説する。   1 概要 中小事業者等が適用期間内に認定先端設備等導入計画に従って取得をした先端設備等に該当する機械装置等で一定のものに対して課する固定資産税の課税標準は、新たに固定資産税が課されることとなった年度から3年度分の固定資産税に限り、下記の算式により計算した額とされる。   2 趣旨 中小企業庁からの公表資料によれば、中小企業の業況は回復傾向にあるが、労働生産性は伸び悩んでおり、大企業との差も拡大傾向にある。また、中小企業が所有している設備は特に老朽化が進んでおり、生産性向上に向けた足枷となっている。 今回の改正は、このような前提のもと、少子高齢化や人手不足、働き方改革への対応等の厳しい事業環境を乗り越えるため、老朽化が進む設備を生産性の高い設備へと一新させ、事業者自身の労働生産性の飛躍的な向上を図ることが目的とされる。   3 対象者 対象者は、個人の場合は中小事業者、法人の場合は中小企業者とされ、両者を合わせて中小事業者等という。中小事業者とは、常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人をいう。また、中小企業者とは、資本金(出資金)の額が1億円以下の法人のうち、次に掲げる法人以外の法人をいう(注)。 (注) 資本(出資)を有しない法人の場合、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人であれば中小企業者に該当する。   4 適用期間 本特例は、別に創設された生産性向上特別措置法(以下、生産性向上法という)においてその基礎となる事項が規定され、その適用期間は、同法施行日(平成30年6月6日)から平成33年3月31日までの期間とされ、この期間内に取得した一定の資産について適用が認められる。   5 対象設備 軽減措置の対象となる資産は、生産性向上法に規定する認定先端設備等導入計画(詳細は次回参照)に従って取得された先端設備等に該当する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備(注)で下記に掲げる要件を満たすものとされる。なお、中古設備は本特例の適用を受けることはできない。 (注) 家屋と一体となって効用を果たすものを除く。   6 生産性向上法における認定 本特例の適用を受けるためには、生産性向上法における認定を受ける必要がある。生産性向上法は、我が国の産業の生産性を短期的に向上させるために必要な措置を講ずることを目的に創設された法律であり、平成30年5月23日に公布、6月6日より施行されている。 生産性向上法により、中小企業者が、市町村の認定を受けた導入計画に基づいて先端設備等を導入する際に支援措置を講ずることで、地域の自主性のもと、生産性向上のための設備投資が加速されることが期待されている。 そのため、まず、国が中小企業者の先端設備等(注)の導入の促進に関する指針(導入促進指針)を定め、次に、市町村が、導入促進指針に基づき、先端設備等の導入の促進に関する基本的な計画(導入促進基本計画)を作成し、国と協議して、その同意を求める。 その上で、同意を受けた導入促進基本計画に基づく先端設備等の導入をしようとする中小企業者は、その実施しようとする先端設備等導入に関する計画(先端設備等導入計画)を作成し、その導入する先端設備等の所在地を管轄する特定市町村(同意導入促進基本計画を作成した市町村)に提出し、認定を受けることになる。 (注) 従来の処理量に比して大量の情報の処理を可能とする技術その他の先端的な技術を活用した施設、設備、機器、装置又はプログラムであって、それを早急に導入することが中小企業者の生産性の向上に不可欠なものとして一定のものをいう。 *  *  * 次回は生産性向上法における先端設備等導入計画の記載から認定、税務申告までの手続の流れについて解説する。 (了)

#No. 272(掲載号)
#安積 健
2018/06/14

小規模宅地等の特例に関する平成30年度税制改正のポイント 【第3回】「経過措置の確認」

小規模宅地等の特例に関する 平成30年度税制改正のポイント 【第3回】 (最終回) 「経過措置の確認」   税理士 風岡 範哉   ここまで解説してきた平成30年度税制改正における特定居住用宅地と貸付事業用宅地の見直しは、平成30年4月1日以後の相続等に適用される。ただし、下記のように経過措置があるため、適用の判定に当たっては留意が必要である。   1 特定居住用宅地の見直し (1) 適用時期 【第1回】で紹介した家なき子特例の見直しは、平成30年4月1日以後の相続等から適用される。したがって、例えば、被相続人が平成30年4月1日以後に死亡した場合、【第1回】で紹介したようなケースで、息子名義の家に住んでいる相続人は、原則として家なき子に該当しない。 一方、被相続人が平成30年3月31日以前に死亡している場合、息子名義の家に住んでいる相続人は家なき子に該当する(H30所法等附118①)。 (2) 平成32年3月31日以前の相続の経過措置 ただし、経過措置として、平成30年3月31日時点で改正前の要件を満たしている者は、平成32年3月31日までに相続が発生した分については家なき子に該当するものとみなされることに留意が必要である(H30所法等附118②)。 例えば、平成30年3月31日時点で息子名義の家に住んでいる相続人は、平成32年3月31日までの相続においては家なき子に該当する。 なお、この平成30年3月31日時点で改正前の特定居住用宅地等の要件を満たしている宅地等を「経過措置対象宅地等」という。 (3) 平成32年4月1日以後の相続の経過措置 平成32年3月31日において、経過措置対象宅地等の上にある建物の新築又は増築その他の工事が行われており、かつ、その工事の完了前に相続があった場合である。 この場合、相続税の申告期限までにその建物を自己の居住の用に供したときに限り、被相続人の居住の用に供されていたものとし、その相続人は同居親族とみなして、特例の適用を受けることができる(H30所法等附118③)。 例えば、父が所有する経過措置対象宅地等において、平成32年3月31日時点で自宅を新築していて、完成前に父が亡くなり、その宅地を取得した子が申告期限までに居住したケースが該当する。 *  *  * 以上を踏まえ、適用判定をフローチャートでまとめると、次のようになる。   2 貸付事業用宅地の見直し (1) 適用時期 【第2回】で解説した貸付事業用宅地等の特例の見直しも平成30年4月1日以後の相続等から適用される。したがって、例えば、被相続人が平成30年4月1日以後に死亡した場合、相続開始前3年以内に貸し付けられたアパート、マンション、駐車場等の敷地は、原則として特例対象宅地に該当しない。 一方、被相続人が平成30年3月31日以前に死亡している場合、相続開始前3年以内に貸し付けられたアパート、マンション、駐車場等の敷地であっても、特例対象宅地に該当する(H30所法等附118①)。 (2) 平成30年4月1日以後の相続の経過措置 ただし、経過措置として、平成33年3月31日までの相続等については、平成30年3月31日時点で貸付事業の用に供されている宅地等であれば特例対象宅地に該当する(H30所法等附118④)。 *  *  * 以上を踏まえ、適用判定をフローチャートでまとめると、次のようになる。 (連載了)

#No. 272(掲載号)
#風岡 範哉
2018/06/14

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第41回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第41回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第7章》 平成20年度から平成21年度までの税制改正 1 平成20年度税制改正 (1) 1株に満たない端数 平成20年度税制改正では、平成19年度税制改正で不明確であった三角組織再編成を行った場合における1株に満たない端数の処理について整備された。 これは、合併親法人株式に1株に満たない端数が生じる場合には、合併法人株式に1株に満たない端数が生じる場合と異なり、会社法上、1株未満の株式を交付したものとみなせないことから、法人税法上、1株未満の株式を交付したものとみなす規定が必要だったからである。 (2) 全部取得条項付種類株式 非適格株式交換を避けるために、全部取得条項付種類株式を利用した少数株主の締出しを用いることが一般化されたことに伴い、平成20年度税制改正では、取得価格決定の申立てにより交付される金銭を除いて、発行法人の株式のみが交付される場合に該当するかどうかを判定することが明確化された。これにより、取得価格決定の申立てを行った株主以外の株主に対しては、譲渡損益が繰り延べられることになる。 さらに、取得価格決定の申立てによる全部取得条項付種類株式が取得された場合であっても、申立てをしないとしたならば、1株に満たない端数となる者からの取得については、みなし配当の対象から除外することが明確化された。これにより、TOBに応じたとしても、価格決定の申立てを行ったとしても、譲渡所得に該当するのか、配当所得に該当するのかに差が設けられないことになった。ただし、これらの株主であっても、株式譲渡損益は認識する必要があるため、留意が必要である。 (3) 株式交換又は株式移転により増加する資本金等の額 株式交換又は株式移転を行った場合には、完全親法人において、完全子法人株式の帳簿価額が増加し、同額の資本金等の額が増加することが一般的である。 この場合において、完全子法人株式の取得価額に付随費用が加算されることから、本来であれば、以下のように、完全子法人株式の帳簿価額の方が資本金等の額よりも大きくなるはずである。 そのため、平成20年度税制改正では、資本金等の額の計算上、付随費用を控除して計算することが明らかにされた。 (4) 自己株式の取得により減少する資本金等の額 平成20年度税制改正では、みなし配当が生じない自己株式の取得を行った場合における減少資本金等の額について、以下のように規定された(平成20年改正法令8①二十一)。 本改正は、 と解説されている(※)。 (※) 『平成20年版改正税法のすべて』349頁。 なお、本稿校了段階における法人税法施行令は、平成20年度税制改正により規定された上記の条文に対して修正を行っているため、上記の条文の考え方は理解しておく必要があると思われる。   2 平成21年度税制改正 平成21年度税制改正では、特記すべき改正事項はなかった。 *   *   * ここまでで、会社法施行後からグループ法人税制導入前までの税制改正の流れを解説した。次回以降では、第8章として、その間に公表された国税局及び税務専門家の見解について解説を行う予定である。 (了)

#No. 272(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/06/14

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第37回】「大竹貿易事件」~最判平成5年11月25日(民集47巻9号5278頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第37回】 「大竹貿易事件」 ~最判平成5年11月25日(民集47巻9号5278頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 272(掲載号)
#菊田 雅裕
2018/06/14

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第60回】「金融機関等の本支店、出張所等が移転等した場合の預貯金通帳等に係る印紙税一括納付承認申請の取扱い」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第60回】 「金融機関等の本支店、出張所等が移転等した場合の 預貯金通帳等に係る印紙税一括納付承認申請の取扱い」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   平成30年度税制改正により、預貯金通帳等に係る印紙税の納付の特例を受けるための申請について、その申請の内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を提出することを要しないこととなりましたが、承認を受けていた金融機関等の本支店、出張所等が移転した場合はどうなりますか。 【第58回】で解説したとおり、平成30年4月1日以後に作成する預貯金通帳等に係る承認について、毎年、税務署長への提出が必要とされていた承認申請は、その申請の内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を要しないとされている。 上記の改正後、承認を受けていた金融機関等の本支店、出張所等が移転した場合は、その移転の日の属する課税期間の翌課税期間以後に移転後の場所の所在地において作成しようとする預貯金通帳等について、改めて承認を受けなければならない(基通97(注))。 また、承認を受けていた金融機関等の支店、出張所等が新設、統合された場合や、金融機関等が合併、事業譲渡、会社分割した場合にも新たに承認を受けなければならない(基通98~100の3)。 詳しくは、4月2日付けで改正された印紙税法基本通達を参照されたい。   ▷まとめ 預貯金通帳等は、長期間使用されるのが通例であり、印紙税法では預貯金通帳等については、1年以上にわたって使用すると1年区切りで1冊の通帳を作成したこととされている。預貯金通帳等は数量も多いため、個々に1年経過分の把握をすることは煩雑であることから、納付による特例として、簡便な納付方法が定められている。 平成30年度の税制改正において、預貯金通帳等に係る申告及び納付等の特例を受けるための承認申請について毎年受けていたものが、申請内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を提出することを要しないこととされたが、金融機関等の本支店、出張所等が移転した場合等の取扱いは上記のとおり、態様により承認を受けなければ特例が受けられないので注意が必要である。 (了)

#No. 272(掲載号)
#山端 美德
2018/06/14

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第3回】「運転資本の分析(その1)」-運転資本の概要-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   第2節 運転資本の分析 【第3回】 「運転資本の分析(その1)」 -運転資本の概要-   〔分析の対象となる主な勘定科目〕 ▷「運転資本」とは 「運転資本(Working Capital)」とは、「営業活動に恒常的に使用されている投下資金」を指し、一般的には「正常な営業循環において拘束される資金」を意味する。 運転資本の対象となる勘定科目の範囲は、対象企業のビジネスモデルや会計処理に応じてさまざまであることから、「運転資本」の範囲にはいくつかの考え方がある。 一般的には「売上債権と棚卸資産から仕入債務を控除したもの」、いわゆる「運転資本項目」と呼ばれる項目を指す場合のほか、対象企業の実情に応じて、未収入金や前払費用等の流動資産項目や、未払金、未払費用等の流動負債項目が分析の対象とされることも多い。 ◆(営業)運転資本のイメージ (筆者作成) 上記の整理は「正常営業循環」に着目した概念であり、当該企業が営んでいる事業における本来的な営業活動のサイクル、すなわち「現預金→仕入債務/棚卸資産→売掛金→受取手形→現預金」というサイクルを持続するために通常(=正常営業循環の枠内で)必要とされる資金の負担の程度を表す概念であり、「営業運転資本」と表現されることもある。 上記に加えて「流動資産」、「流動負債」なども含めたものを「運転資本」と定義する概念も一般的である。これは「正味運転資本」という用語で表現されることもある。 ◆正味運転資本のイメージ (筆者作成) 「正味運転資本」の概念は、ある意味、上述の「営業運転資本」よりもさらに現実的な運転資本を把握するための概念であると言えるだろう。 例えば、取引先との間で一時的な立替払が不可避的に発生したり、継続的な広告宣伝のための費用の前払が不可欠であるような場合、さらには人海戦術の販売員に対する一時的な仮払金の総額が無視し得ない程度に重要な場合もあろう。 このように、「正味運転資本」は対象企業固有の営業実態までも含んだ概念であると言え、「正味」と付いているのは、「純額(NET)」という意味ではなく、むしろ「現実的な」、「実際の」といった意味合いであろう。   ▷ CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル) 「運転資本」の概念を用いた指標として、「CCC」が挙げられる。「CCC」は運転資本の再資金化までに要する日数を表し、以下の計算式で表される。 米アップル社のCCCがマイナス、すなわち仕入代金の支払よりも前に売上代金の回収が済んでいた、という話は有名な話であるが、金額としてではなく、売上の何日分が(営業)運転資本として必要か、を表すものである。 ◆CCCのイメージ (筆者作成) 上記の例では、売上代金の回収、仕入代金の支払がいずれも平均45日(月末締め翌月末振込)、在庫に関しては生産とデリバリーのリードタイムを勘案して60日分の在庫保管が必要なため、結果的に運転資本の再資金化までに要する日数はプラス60日ということになる。 売上債権の回収期日が早くなればCCCも短縮(改善)され、反対に仕入債務の支払期日が早くなればCCCも悪化する。言うなれば「資金繰り」の発想により近い概念である、とも言えよう。   ▷ M&A実行時における運転資本項目の分析ポイント M&Aにおける企業価値評価の手法としては、ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)が多く用いられている。 DCF法は、対象企業が生み出す将来キャッシュフローを、加重平均資本コスト(WACC)を用いて現在価値に置き直す手法であり、算定に用いられる将来キャッシュフロー、一般的にはフリー・キャッシュ・フロー(FCF)は、以下のように算出される。 このため、運転資本の水準がM&Aの実行後、どのように変動するかによって、M&Aの買収対価は変動することになる。 (注) (±その他の項目)は、引当金の増減や流動資産・負債等の増減等を指す。 また、M&Aによる支配権の移転に際しては、買収対象企業の時価純資産と買収対価との差額が「のれん」として計上されることになるが、この「のれん」の額は、買収対象となる運転資本項目の適正な時価評価額の大小によって変動することとなる。 さらに、運転資本の水準は、まさにM&A直後の買収対象企業の事業継続に必要な「運転資金」の水準を意味するものであるから、当該金額は買収後、直ちに買収した側の資金繰り上の問題として顕在化するものとも言える。 ◆平成28年における主要業種別運転資本の水準(単位:百万円) ※画像をクリックすると拡大して表示されます。 (出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査(平成28年確報)」(調査対象母集団全1,485,107社)から筆者作成) 日本の中小企業の運転資本の水準は上表のとおりであり、全体の平均値は正味運転資本で57.0百万円(月商比2.2ヶ月)、営業運転資本で33.2百万円(月商比1.3ヶ月)となっている。既に述べたとおり、運転資本の水準は当該企業が属する業種によって開きがあり、特徴としては例えば以下のような点が挙げられよう。 運転資本項目の分析は、対象企業の属する業種に固有の商慣習のみならず、当該企業に固有のビジネスモデルや取引先との取引条件などにも依存するが、対象企業の運転資本項目の水準が業界平均値とかけ離れたものである場合、当該乖離はどういった要因で生じているものであるのか、また、そうした乖離はM&Aによってどのような影響を受けるのか等、財務的な数字の検証に留まらず、広範な見地からの分析が必要な領域でもあると言えよう。 (了)

#No. 272(掲載号)
#石田 晃一
2018/06/14
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